【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記 作:B.I.G
──結果から言えば、ソロモンは陥落した。
ソーラ・システム照射によるジオン側の被害は甚大で、連邦軍のMSに要塞内部まで侵入された事によって指揮系統が寸断。
組織的抵抗が不可能なまでに追い詰められた宇宙攻撃軍総司令官であるドズル・ザビ中将は、ソロモンの破棄を決断。残存艦隊及びMS隊にア・バオア・クーへの総退却を命じるに至る。
しかし、ア・バオア・クーへ撤退するソロモン残存艦隊を確認したティアンム提督の決断により、二度目のソーラ・システムの照射が決定。撤退中の艦隊の大半を蒸発させる結果となったのだ。
ここまではティアンム提督の作戦通りとも言える結果だったが、猛将ドズル・ザビ中将自らが駆る規格外の大型試作機、MA-08 ビグ・ザムが殿として出撃。
圧倒的な火力を誇るビグ・ザムはメガ粒子砲を乱射しながら連邦軍艦艇を次々に撃沈し、あわやティアンム提督の乗る旗艦タイタンもその餌食になろうかという瞬間、救援に現れたホワイトベース隊のガンダムNT-1 アレックスが先んじて攻撃を開始。
同部隊のガンキャノン二機とコア・ブースターと連携する事で、孤軍奮闘するビグ・ザムを撃破する事に成功したのである。
しかしながら、ドズル・ザビ中将が自ら囮となって連邦軍艦隊とMS隊を引きつけた結果、ソーラ・システムの照射からかろうじて逃れた残存艦隊は戦闘宙域を離脱する事に成功。ジオン軍にとって貴重な戦力がア・バオア・クーへ合流する事となった。
陥落寸前まで追い詰めながら、ビグ・ザム決死の反撃で戦艦の三分の一を喪失する被害を出した連邦軍。
占領したソロモンを《コンペイトウ》と名を改め、艦隊の戦力再編成を行うと同時に、予定されていた星一号作戦の足掛かりとして活用する事となる。
──そして、激戦を終えたトロイホース隊の面々もまた、僅かばかりの休息の時を迎えていた。
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「アニッシュ!ラリー!もう……心配かけて……!」
第三艦隊のジムに救助され、トロイホースに帰還したノエルを出迎えたのは撃墜されたと思われていたアニッシュとラリーの姿だ。
アニッシュのジム・コマンドが撃墜されたのは事実だが、アニッシュ本人は機体が爆発する前に脱出に成功。
ビグロを撃墜したラリーのジム・スナイパーllに救助され、無事帰還していたのだ。
「アニッシュ・ロフマン曹長、無事帰還致しました!隊長、命令違反をしてしまった事を謝罪致します!申し訳ありませんでした!」
「隊長。命令違反を犯したのは俺も同じです。申し訳ありませんでした」
感極まって思わずアニッシュに駆け寄ったノエルだったが、姿勢を正して謝罪する二人を前にして踏み止まる。
二人がMAを撃破していなければノエルは死んでいたかもしれない。それでも命令違反をした事は紛れも無い事実で、軍隊では上官の命令は絶対だ。
それが正しいか正しく無いかは関係なく、規律は守られなければならない。
──ノエル・アンダーソン中尉は、アニッシュ・ロフマン曹長とラリー・ラドリー少尉に営倉入りを告げた。
二人ともそれを当然のように受け入れ、彼らは重営倉で一日を過ごした。それと同時に、ノエルも二人に命令違反をさせた自分の判断を恥じ、自主的にトロイホース艦内の清掃業務に従事する事となる。
立て続けの戦闘から一変、静か過ぎる重営倉から出た二人の前には、両手いっぱいにビールとつまみを抱えたノエルが立っていたのであった。
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─ 《コンペイトウ》作戦会議室 ─
「ジオン艦隊の護衛任務、でありますか?」
「そうだ、ヘンケン・ベッケナー艦長。現在ダルシア首相を乗せたチベ級と護衛艦二隻がコンペイトウに向けて移動中だ。貴官のトロイホースは、これを月のグラナダまで護衛してもらいたい」
コンペイトウで各部の大規模な修理や補給を受ける事となったトロイホースだが、その艦長であるヘンケン少佐は司令室で次なる任務の司令を受けていた。
ア・バオア・クーを攻める星一号作戦への参加が命じられると思っていたヘンケン少佐だったが、言い渡されたのは予想外の任務だ。
先のコロンブス級輸送艦といい、今度はダルシア首相を乗せたチベといい……どうにも自分は護衛任務に縁があるらしい、と思いながら帽子を被り直すヘンケン少佐。
しかし、事もあろうに護衛するのは敵であるジオン公国の首相であるダルシア・バハロであり、行き先はジオン公国軍突撃機動軍の司令たるキシリア・ザビの本拠地であるグラナダである。怪訝な顔を見せたヘンケンだが、答えはすぐに与えられた。
「君の懸念ももっともだ。──グラナダで終戦協定調印式が行われる事になっているのだ。ダルシア首相はデギン公王の意を受けてグラナダへ向かう」
「終戦協定調印式──ついに、この戦争にも終わりが」
「その通りだ。この戦争の行く末を左右する重大な任務だという事を、肝に命じてもらいたい。後でブリーフィングする時間も設けてある。──頼むぞ、ヘンケン艦長」
ジオン公国は、宇宙要塞ア・バオア・クーに戦力を結集し、決戦の準備を調えつつある。
ギレン・ザビ総帥を筆頭とする主戦派は、ア・バオア・クーで連邦軍主力艦隊を壊滅させる事が出来れば、返す刀で戦争に勝利出来ると考えている、と推測されていた。
その一方で、もはやジオンに戦争継続する力が残っていないと判断し、極秘裏に終戦協定を結ぶ工作を続けていたのが、他ならぬデギン・ザビ公王とダルシア・バハロ首相であったのだ。
デギン・ザビ公王が和平を望んでいても、実際に実権を握っているのはギレン・ザビ総帥であり、キシリア・ザビ少将配下であるグラナダの戦力も侮れない。
地球連邦軍司令部としては、グラナダの戦力も決戦の地であるア・バオア・クーに回される公算が高いと見ているが、それでももぬけの殻になる訳では無いだろう。
──厳しい任務になる。ヘンケン少佐は確信していた。
「言い忘れていたな、ヘンケン艦長。中破した機体の補充要請だが、地球から輸送した機体が届いている頃だろう。有効に活用してくれ」
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連邦軍主力艦隊はすでにコンペイトウを発ち、次の攻略目標であるア・バオア・クーに向けて進撃を開始。
ホワイトベースを含む第13独立戦隊もそれに続いてコンペイトウを発ち、トロイホースからはクリスチーナ・マッケンジー中尉がアレックスと共に転属していた。
新たな拠点となったコンペイトウにおいて、トロイホースも豊富な資材と設備によって十分な補給と修理を受ける事が出来たのだが、唯一元通りにならなかったのがノエルの愛機である高機動型ガンダムFSDである。
ソロモン攻略戦での戦闘において頭部と左腕を失い、ソーラ・システムの照射範囲から逃れる際に限界まで酷使したせいで、増加装備である大型バックパックも丸ごと大規模なオーバーホールが必要な有り様。
メカニックのアニー曰く「作り直した方がマシ」との事で、早々に修理を諦めて機体の補充申請をヘンケン艦長に依頼していた。
既にラリーのジム・スナイパーllとアニッシュのジム・スナイパーカスタムの修理と整備は完了しているのだが、トロイホースのMSデッキに整備班がごった返しているのは件のMSが届いたからだ。
われ先にとシートを剥がすメカニックマン達だが、機体の全貌が明らかになった瞬間に思わず声が上がる。
「これ、キャルフォルニア・ベース奪還作戦の時に暴れてたガンダムじゃないですか?確か……」
「ガンダム6号機。チーム内での愛称は"マドロック"。上からの命令で、コイツを貴女達に届けに来ました」
デッキの上で到着した機体を見たアニッシュが記憶を手繰り寄せながらノエルとラリーに話しかけるが、それに答える声が背後から聞こえる。
思わず振り向いたデルタ・チームの前に現れたのは、ボサボサの頭が特徴的な一人の男性士官だ。
「貴方は?」
「失礼。自分はエイガー少尉です。マドロックの元パイロットであり、開発責任者でもあります……自分では、この機体の性能を引き出す事が出来なかった。中尉なら、必ずやれる筈です」
エイガー少尉は砲撃戦のエキスパートで、MS配備以前に61式戦車でジオン軍のザクⅡを撃破する戦法を編み出した事で一躍名を上げた男だ。
戦車隊隊長を務め、その経験を元にマドロックの開発責任者兼パイロットになった変わった経歴の持ち主である。
本来はペガサス級5番艦であるブランリヴァルの艦載機だったマドロックだが、ジャブロー防衛戦の折に"闇夜のフェンリル隊"の攻撃で中破。
修理と改修を終え、満を持してキャルフォルニア・ベース奪還作戦に投入されるも、再び"闇夜のフェンリル隊"に撃破された機体だ。
本来であればそのまま地上に残される機体だったのだが、幸いにもパワーユニットの破損のみで、機体本体は修理可能だった事に目をつけたのがコーウェン准将。
トロイホースの後を追うようにエイガーと共に宇宙へ上げられた本機は、ルナツーの工廠で再度の修理と空間戦闘用の改修を終え、コンペイトウへ輸送されてきたのだ。
「失礼します、エイガー少尉!アニー・ブレビッグ上等兵です。ガンダム6号機の設定にお付き合い頂きたいので、是非機体まで!現在、アンダーソン中尉の戦闘データを6号機の教育型コンピューターに移植中です」
「了解しました、ブレビッグ上等兵。中尉、後でシミュレーターを利用してマドロックの乗り心地を仮体験して頂きます。それでは!」
デッキから上がってきたアニーがエイガーに声をかけると、彼も嬉しそうな顔をしながらガンダム6号機の元へ降りていく。開発者として、自らが手掛けた機体が理想に近付くのが嬉しいのだろう、とノエルは思った。
「アニー、6号機の仕様は?」
「隊長達がキャルフォルニア・ベースで一緒に戦った時と大きく変わってるのは、仕様書を見る限りでは武装かな。元々汎用機だったみたいだから、機体そのものは各部のスラスター出力向上、後は同じセカンドロットのガンダム4号機、5号機用の予備装備が転用されてるね」
ガンダム6号機の一番の特徴は、両肩に2門装備されている300mmキャノン砲だ。
開発当初はビーム・キャノンを想定して開発されていた武装だが、ジェネレーター出力の不安定さを解消出来ず、実弾兵器を採用した経緯を持つ。
ルナツーの工廠では、開発が中断していたFA-78-2 ヘビーガンダムのパワーユニットを組み込み、メイン・ジェネレーター直結式ビーム・キャノンの安定化に成功。
ガンダムFSDと同様にデュアル・アイを保護する為のバイザーが追加された他、ガンダム4号機、5号機用の装備である大型プロペラントタンクが増設された。
武装面ではヘビーガンダム用に開発された4連装ミサイルランチャーと大型ガトリング砲が一体になった複合火器システム「フレーム・ランチャー」を装備する他、完成が遅れていたブラッシュ社のカートリッジ式新型ビーム・ライフルも装備可能だ。
「何と言うか……この機体は……」
「一言で言えば、火力お化けってところだね。データを見た感じだと、主武装のビーム・キャノンのエネルギー配分は安定してるし、カートリッジ式の新型ビーム・ライフルのおかげで継戦力も高い。フレーム・ランチャーも火力は高いけど、重量がかさむのが難点かな」
「つまり、基本的には遠中距離戦で真価を発揮する機体って事ね。これはアニッシュに頼る場面が増えるかしら?」
「任せてください!俺のスナイパーカスタムも新品同様になったし、隊長とラリー少尉が後ろから守ってくれるとなれば百人力って奴ですよ」
「おいおい!俺のスナイパーllが狙撃しか出来ないなんて思ってないだろうな?デルタ・チームの次席指揮官としちゃあ、デルタ・スリーに手柄を持っていかれるのは承伏しかねるぜ」
知らず知らずのうちに、四人の顔に笑みが溢れる。
次の任務はジオン
終戦協定調印式が無事に終われば、長かった戦争がようやく終わるのだ。死ぬつもりは勿論無い。
だが、今この瞬間も戦い続けている両軍の兵士達の為にも、いざとなればこの身を犠牲にしてでも、ダルシア首相はグラナダへ送り届ける。──その覚悟はある。
決して一人の力でここまで来たわけではない。皆に支えられて、ようやくここまで辿り着く事ができた。
支えてくれた皆、死んでいった仲間達の為に。揺るぎない決意と覚悟をノエルは誓った。
今回は最終戦に向けての箸休め回です。
ルナツーを発ってから戦闘ばかりだったので、デルタ・チームもようやくの小休止。
高機動型ガンダムが壊れたので、新しく配備されたのはアレックスよりも酷い負け方をしたガンダム6号機、マドロック。
自分が戦記のゲームで一番好きだった機体、満を持して登場となります。
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最終回まであと少し、最後までお付き合い頂ければ幸いです!