【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記   作:B.I.G

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MISSION 20 「紫の毒蜘蛛」

 まるで幻を見ているかのようだ。

 

 コンペイトウを発ったトロイホースと二隻のサラミス級宇宙巡洋艦にゆっくりと接近してきたのは、ジオン共和国のチベ級巡洋戦艦だ。

 赤い艦体色が特徴的な戦艦で、こちらと同様に二隻のムサイ級軽巡洋艦を伴っている。

 

 チベとムサイのブリッジには、連邦軍の艦とMSに向けて敬礼を送るジオン兵達の姿が見える。

 チベの艦体上には武装を解除しているサンドブラウンの機体──MS-14B 高機動型ゲルググの機影もあり、ゲルググもまたジオン兵と同じように敬礼を送っていた。

 

 つい数日前に殺し合っていた筈の敵同士であった両軍が銃口や砲口を向け合う事なく、敬意を持ってお互いを出迎える光景は、信じ難い程に美しい。

 あれほど望んだ戦争の終結が目前に迫っている事を実感して、ノエルは熱くなった胸を思わず押さえた。

 

『一同、ダルシア艦隊に向けて──敬礼!』

 

 オープンチャンネルで発せられたヘンケン艦長の声に応じて、連邦軍の兵士達も敬礼を返す。

 ガンダム6号機に搭乗してトロイホースの艦体上に待機していたノエルもまた、ゆっくりとジオン共和国の面々に向けて敬礼を返した。

 

 儀礼的、形式的なものだとしても、戦ってきた相手が同じ人間である事をノエルは実感していた。

 ソロモン攻略戦で戦った相手は、言葉を交えても理解し合う事は出来なかった。それでも、今こうして共に和平を望む者同士が肩を並べる事が出来る。

 

『敬礼止め!各員持ち場に戻れ!』

 

『艦長。チベからの通信、入ります。メイン・スクリーンに映します』

 

 ヘンケンの言葉に従い、立ち上がって敬礼を送っていたクルー達が持ち場へ戻っていく。

 それと同時にチベから通信が送られてきた事をオペレーターが告げ、メイン・スクリーンにスーツ姿の男性の姿が映し出された。

 

(彼がダルシア・バハロ首相……)

 

 ガンダム6号機のコクピットで、ノエルは初めてダルシア・バハロの姿を見た。

 

 デギン・ザビ公王の後ろ盾を得たダルシアは、疲弊しきったジオン公国には既に戦争継続をする力が無い事を議会に訴えた。その説得を議会は受け入れ、ダルシアはジオン共和国の首相の地位に就くこととなった。

 

 ザビ家の独裁国家たるジオン公国の首相としては、首相の地位も名ばかりのもので何の権限も存在しない。まさしくお飾りの首相だ。

 しかし、地球連邦とジオン共和国が終戦協定を結ぶ──即ち国家間での協定を結ぶ為には、その首相という立場が何よりも重要だったのだ。

 

 コンペイトウを出撃した連邦軍主力艦隊だが、先日ジオン軍の秘密兵器であるソーラ・レイによる攻撃を受けた。

 

 密閉型コロニーを丸ごと巨大なレーザー砲として改造したソーラ・レイの破壊力は絶大で、僅か数秒間の照射だったにも関わらず、連邦軍の三分の一の艦船──更には総大将であるレビル将軍の乗る旗艦フェーベを蒸発させた。

 

 ダルシアの後ろ盾となり、ジオンの共和国化と和平に尽力していたデギン・ザビ公王もまた、ギレン・ザビ総帥の企みによって、旗艦グレート・デギンと共にソーラ・レイの禍々しい光の中でその命を散らしていた。

 

 残された連邦軍主力艦隊は、チェンバロ作戦に引き続いて九死に一生を得たマクファティ・ティアンム提督の指揮の元で部隊を再編し、進軍を継続。

 トロイホースを初めとする護衛艦隊が出撃するのと時を同じくして、宇宙要塞ア・バオア・クーへの総攻撃を開始していたのだった。

 

「両陣営の人間を救う事が出来ると信じて、私はグラナダを目指します。どうか無事に辿り着かせてください」

 

「──今も戦い続ける同胞達を助ける為にも、必ず!」

 

 トロイホースへ降り立ったダルシア首相と艦隊の指揮権を譲渡されたヘンケンは、お互いに固く握手を交わした。

 宇宙要塞ア・バオア・クーでの戦いは激戦を極める事は確実で、ここで終戦協定を結ぶ事が出来なければ、間違いなく戦争は泥沼と化すだろう。

 

 この終戦協定が救うのは連邦、ジオンの両軍だけで無く、この世界に生きる全ての命を救う事と同義である。

 

 この和平を望む一幕が後世の歴史でどう記されるのか、それを知るものはいない。世界を救った勇気ある行動と捉えられるのか、無謀な行動の結果、逆賊として処刑された無惨な失敗として記憶されるのか──。

 

 

 

 

『なぁ、そこの青いジムのパイロット。少しばかり聞きたい事があるんだが』

 

 グラナダへ向かう道中では、両陣営のMSがそれぞれ交代で艦隊の護衛に当たっていた。

 主要な戦力はア・バオア・クーに回されている筈だが、月からの情報ではグラナダに残った艦隊も少なくないとの事だ。用心するに越した事は無い。

 

 ダルシアの乗るチベの護衛として合流していたレッド・チームのパイロットであるガースキー・ジノビエフ曹長は、キャルフォルニア・ベース防衛戦で戦ったカスタムタイプのジムを見かけて、思わず通信を入れた。

 

『なんだ?ドムのパイロット。ウチの隊長に確認をしなきゃならん事以外なら答えるが、俺よりもあっちの緑色のジムの方が情報通だぜ』

 

『いや、あんたで構わないんだが……キャルフォルニア・ベースの戦いでも出会った事を覚えてるか?あの時、なんでザンジバルを撃たなかった?』

 

『──お前、あの時のドムのパイロットか!』

 

 横を飛んでいるリック・ドムIIから通信を入れられて、ラリーはおや、と思った。どこかで聴いたような声だったが、どうにも思い出せなかったからだ。

 

 茶化した返事を返したラリーだったが、キャルフォルニア・ベース奪還作戦時のザンジバルの事を問われて、思わず声を上げた。只者じゃないとは思っていたが、まさか味方として再び出会う事になるとは思ってみなかった。

 

 キャルフォルニア・ベース奪還作戦時の目標だったザンジバルだが、後の調査で乗っていたのは負傷兵ばかり。

 司令部が危惧していた重要物資などカケラも無かった事が明らかになっており、デルタ・チームの面々もその事は聞き及んでいた。

 

『期待してる答えと違うだろうが、俺達はあのザンジバルが実質病院船だったから撃たなかった訳じゃない。そもそも戦闘中は知らなかった事だしな。──あんたらの気迫に負けたってだけのことさ』

 

『──そうかい。俺はガースキー・ジノビエフ曹長だ。あんたは?』

 

『そうさ。ラリー・ラドリー少尉だ。一緒にこの馬鹿げた戦争を終わらせよう』

 

 

 

 

 トロイホースを先頭にした和平艦隊は、いよいよ月の間近まで迫っていた。かつて遥かな昔、宇宙へ進出した人類が初めて降り立った惑星である月。

 地表には大小様々な大きさのクレーターや谷、山脈が点在し、人類の母なる星である地球とは対照的な淡い灰色が無機質さを感じさせる。

 

 月面都市グラナダは地球から見て、ちょうど月の裏側に位置している。グラナダはかつてサイド3建造の際に、必要な物資を供給する為に建造された月面第二の都市だ。

 

 グラナダは直径二キロメートルのクレーターを利用して建設されており、ウラン鉱山やジオン公国最大の軍事会社、ジオニック社のMS開発試験場も存在していた。

 

 現在ではキシリア・ザビ少将率いる宇宙突撃機動軍の本部として、ジオン本土防衛ラインの一角を担う重要拠点となった。また軍事拠点だけでなく、兵器工場やテスト場などが建設されており、アナハイム・エレクトロニクスの支社も基地内に入っている。

 

『艦長!超々度望遠カメラで敵艦隊を確認!メイン・モニターに映像を回します』

 

 ここまでは順調な航行を続けてきた和平艦隊だったが、トロイホースブリッジが俄に騒がしくなる。

 グラナダよりジオン艦隊が出撃してきたのだが、それ自体は想定していた事だ。素直にグラナダに降り立てるとは思ってはいなかった。──問題は、敵艦隊の中央だ。

 

『バカな……!』

 

 艦隊中央には、船体をパープルに染め上げられたチベ級重巡洋艦の姿が見える。それは此処にいる筈の無い存在。それを見て、ヘンケン艦長は思わず呻いた。

 

 ア・バオア・クーに向かったはずの突撃機動軍司令官、キシリア・ザビ少将の座乗艦──パープル・ウィドウ。

 

 パープル・ウィドウを取り巻くムサイ級やチベ級、ザンジバル級の数は二十隻。対して和平艦隊の数は僅か六隻と、ジオン艦隊の三分の一にも満たない。

 まだ接触するまでには幾ばくかの時間があったが、どのような進路を取ったとしても、敵艦との戦闘を避ける事は出来そうに無かった。

 

 キシリア・ザビが何故決戦の地である宇宙要塞ア・バオア・クーに出向かず、グラナダに留まっていたのか。

 簡単に言ってしまえば、彼女がグラナダを出るのを恐れたからに他ならない。

 

 ア・バオア・クーへの大規模な支援艦隊を送ったキシリアだったが、サラブレッド隊のガンダム4号機が放ったメガ・ビーム・ランチャーの閃光で艦隊は全滅。

 一切の痕跡を残さずに支援艦隊を殲滅した見えない敵。嫌っていたとは言え、キシリアも認めざるを得ない戦力を有していたドズルの戦死とソロモンの陥落。

 

 ア・バオア・クーでギレン・ザビ総帥自らが指揮を執るとはいえ、キシリアはもはやジオンの勝利を信じる事が出来なくなっていた。

 結果として、キシリアはシャア・アズナブル大佐の艦隊のみをア・バオア・クーに派遣し、自らはグラナダに留まる選択を取ったのである。

 

 ジオン公国が負けても、ジオンのシンパが多い月に身を隠して再起を待つ事は容易だ。

 しかし、地球連邦軍とジオン共和国の和平が成立すれば、身を隠し通せる保証はどこにも無い。仮に捕らえられれば、戦犯として裁かれる事は間違い無いのだ。

 

「艦長!敵艦隊から通信の模様!発信源は艦隊中央のチベ級のようです!」

 

 ヘンケンがダルシアに通信を入れようとした瞬間、オペレーターからグラナダ艦隊からの通信が入った事が報告され、メイン・スクリーンに妙齢の女性が映し出された。──キシリア・ザビ少将だ。

 

『私はジオン軍宇宙突撃機動軍司令官、キシリア・ザビ少将である。艦隊長は貴君か?』

 

「地球連邦軍独立遊撃部隊隊長、ヘンケン・ベッケナー少佐です。単刀直入に言わせていただきます。我々和平艦隊は、地球連邦とジオン共和国の終戦協定調印式の為、貴国のダルシア首相を護衛しております。道を開けてはいただけませんか」

 

 眼光鋭いキシリアから目を逸らさず、ヘンケンが言い切った。キシリアもまた一歩も引く気配が無く、硬い声でヘンケンに向けて言い返す。

 

『ジオン共和国などという国は聞いた事が無い。我々ジオン公国が地球連邦と和平を結ぶなど、到底あり得ぬ話だ。──我々は地球連邦軍独立遊撃部隊と、逆賊ダルシア・バハロの艦隊に対し、攻撃を仕掛ける事を宣言する』




最終決戦に向けての準備、説明回。
いよいよ次回からキシリア率いるグラナダ艦隊との戦闘が始まります。
本当は今回から戦闘に入る予定だったのですが、キリが悪くなるのでキシリアの宣戦布告で一旦締めとなります。

皆様の感想、評価、閲覧全て感謝しています。
ノエル達の物語の完結まであと少し。最後までお付き合いください。
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