【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記 作:B.I.G
「気に食わねぇな……」
ジオン公国軍突撃機動軍特別編成大隊──通称《キマイラ隊》の第一中隊長、ジョニー・ライデン少佐は、今回の任務にきな臭さを覚えていた。
本来であれば、宇宙要塞ア・バオア・クーに入って直接指揮を執っているギレン・ザビ総帥の命令によって、進軍を続ける連邦軍主力艦隊を背後から奇襲する「クラリオン作戦」が決行され、キマイラ隊が主力として参加する予定だった。
これによって連邦軍の進行速度を低下させる事により、ア・バオア・クーの防衛態勢を整える。そう説明されていたにも関わらず、彼らに下された命令は待機。
先のソロモン防衛戦にも出撃を許されず、機を逸した上に僅かな増援を送るのみだったキシリア・ザビ少将に対して、ライデンは不信感を募らせていた。
ア・バオア・クーでの決戦に備えて士気を高めていた彼らがグラナダで燻っていた最中、新たに下されたのが月・グラナダ上空に進行してきた艦隊を殲滅せよとの命令だったのだ。──しかも、連邦とジオンの連合艦隊だ。
彼等には連邦と行動を共にするジオンの船には裏切った逆賊が乗っており、攻撃を躊躇する必要は無い、とだけ伝えられていたが、それにしてはあまりに様子がおかしい。
レーダーに映る艦隊の数は合わせて僅か6隻で、グラナダを攻めるにしては明らかに数が少なすぎる。
まだ連邦から亡命してきた艦を伴って、グラナダに逃げ込んできたと言われた方が説得力があると言うものだ。
真紅に染め上げられた真新しいMS-14B 高機動型ゲルググのコクピットの中で思案に耽るライデンだったが、ふと鳴り響いた電子音で現実に引き戻される。
初めは旗艦キマイラからの通信かと思ったが、どうも違うようだと首を傾げるが──
(暗号電文だと?一体誰が……)
■
【BRIEFING】
艦長のヘンケンだ。これより我が艦隊は、前方のグラナダ上空に展開するキシリア艦隊の防衛線を突破する!
これは決して失敗の許されない任務である。今も各地で戦い続けている仲間達を救う為にも、必ずやダルシア首相をグラナダに送り届けなければならない。
彼がグラナダに降り立った時こそ、哀しみと苦痛に満ちたこの戦争が終わる時だ!
志を同じくする和平艦隊の諸君、これが我々の最後の戦いとなるだろう。各員の奮闘を期待する!
MS1 ノエル・アンダーソン中尉《デルタ・リーダー》
RX-78-6 ガンダム6号機 フレーム・ランチャー
MS2 ラリー・ラドリー少尉《デルタ・ツー》
RGM-79SP ジム・スナイパーll L-3ビーム・ライフル(先行生産型)
MS3 アニッシュ・ロフマン曹長《デルタ・スリー》
RGM-79SC ジム・スナイパーカスタム 二連装ビーム・ライフル
作戦成功条件:ダルシア首相の乗るチベのグラナダ入港
作戦失敗条件:部隊の全滅、チベ級重巡洋艦の撃沈
─ MISSION START ─
『こちらブリッジ。デルタ・チーム各機の出撃準備完了を確認。これより艦長から作戦の伝達を行います』
『デルタ・リーダー了解。ツー、スリーも準備完了。いつでもどうぞ、ヘンケン艦長』
コクピットの中でヘンケンの話を聞いていたノエルだが、自分が知らず知らずのうちに高揚している事に気がついた。心臓の鼓動が聞こえるようで、これではいけないと被りを振る。──戦場に出るのに、興奮してはいけない。
一瞬ごとに生と死が入れ替わる場所が戦場だ。興奮しすぎても怯えすぎてもいけない。あくまで意識は平静に保ちながら、オペレーターの声を聞いて返答を返す。
『デルタ・リーダー。キシリア艦隊は我が艦隊に対して部隊を三つに展開し、包囲殲滅する構えのようだ。戦力差が大きい為、我々は正面からの一点突破を強行する。トロイホースを先頭にして、正面に展開するキシリア艦隊への突撃戦を仕掛ける』
『となると、私達は艦隊の護衛に当たれば?』
『セオリーとしてはそうだが、デルタ・チームのMSは艦隊の進路方向へ突出し、敵艦隊から出撃するMS隊の対処に当たってほしい。特にガンダム6号機の火力ならば、多対一の状況であっても弾幕を形成して優位に戦闘を進められる筈だ』
『私達で艦隊に近づく敵機の露払いをする、という事ですね。ダルシア艦隊のMSは?』
『そういう事だ。ダルシア艦隊のMS隊は、諸君らと同様に先陣を切って敵MS隊との戦闘に当たってもらう。艦隊の直衛は、マゼラン級の艦載機であるジム・キャノンとエイガー少尉のガンキャノンIIが務める』
船にとっての一番の天敵は、言うまでもなく高機動かつ高火力を誇るMSだ。高火力を誇る戦艦とはいえ、多数のMSに群がられれば撃沈は免れない。
それは開戦当初、ジオン軍のMSに連邦軍の艦隊が痛い目を見せられた事からも証明されている。
それ故に、艦隊戦ではいかに敵のMS隊を船に取り付かせないかが勝利の鍵となる。
(ダルシア艦隊のMSと共同戦線か。わかっていた事だけど、ザクやドムと一緒に戦うのは少し変な気分ね)
和平艦隊のMSのコンピューターには、連邦軍、ジオン軍それぞれの兵器情報をデータとして組み込んである。
敵味方の識別は目視ではなくコンピューター識別で行う事になる為、いつも以上に冷静に判断する事が必要だ。
ザクやドムを見た際に反射的に攻撃を仕掛けて、誤射する事は許されない。
『パブリク部隊によるミノフスキー粒子の散布、及びビーム錯乱幕弾の発射完了。ガンダム6号機からカタパルトへ順次移動せよ』
『──了解。ガンダム6号機、カタパルトへ移動します』
オペレーターからの指令に従って、ノエルはガンダム6号機を起動させた。コクピットのコンソールは乗り慣れたガンダムFSDと同様のもので、違和感は無い。
優しく操縦桿を撫でると、ゆっくりと6号機をカタパルトへ移動させた。
ゆっくりと格納庫のハッチが開かれると、無限に広がる宇宙の片隅に青く輝く惑星──地球を見る事が出来た。
ヘンケンの言う通り、トロイホースから出撃するのもこれが最後になるだろう。どのような結末を迎えるかはわからないが、ノエルは一人で戦うのではない。
──共に戦った仲間とこれから分かり合える相手、そしてこの世界に生きる全ての命の為に。
『ガンダム6号機、ノエル・アンダーソン、出ます!』
■
ノエルは操縦桿を握りしめ、アクセルペダルを踏み込んだ。ガンダム6号機は整備班の総力を上げて万全に整備され、ノエルの細かい操作にも正確に追従する。
今回の戦闘では長時間の戦闘を想定しており、6号機には持たせられる限りの武装を装備していた。
右マニュピレーターにはフレーム・ランチャー、左マニュピレーターにはハイパー・バズーカを装備した上で、シールドを前腕のハード・ポイントに固定。
腰部マウントラッチにはカートリッジ式の新型ビーム・ライフルを保持させてあり、まさにフル装備と言うに相応しい様相だ。
母艦に補給に戻る余裕も無い可能性が高く、トロイホースの格納庫には弾薬を装填済みの武装が用意されている。いざとなれば、武装をカタパルトから直接射出して受け取る手筈も整えていた。
6号機の左右には護衛艦から出撃してきたジオン軍のMS──高機動型ゲルググとザクIIF2型の機影があった。それに続いて複数のリック・ドムやザクII、そしてジムが出撃してくるのが見える。
ザクとジムが6号機に向けて敬礼を送ってきたのに対し、ノエルもハイパー・バズーカを掲げてそれに応える。
顔も名前も知らない相手だが、連邦とジオンの間にあった高く深い溝が確かに無くなっているのをノエルは感じていた。──それが、瞬き程の一瞬で消えるとしても。
『敵艦隊の有効射程範囲に突入するぞ。艦砲射撃で落とされるなよ』
オペレーターからの通信が入った瞬間、グラナダ上空で待機しているキシリア艦隊から膨大な量の閃光が迸る。
無数のメガ粒子砲が暗黒の宇宙を白く染め上げ、こちらのMSを破壊せんと殺到するが、その程度の攻撃で落とされるノエルでは無い。
『6号機、先行して敵MSに攻撃を仕掛けるわ!ついて来れる機体は私に続いて!』
絶え間無く放たれるメガ粒子砲を掻い潜り、ノエルは6号機を飛翔させる。重装備な機体だが、マグネット・コーティングを施された機体は、滑らかな動きで敵艦隊に接近していく。
『お供しますぜ、ノエル・アンダーソン中尉!』
『噂の凶鳥さんに、ジオンのベテランパイロットの実力を見せてやるよ!』
味方機であるザクIIとリック・ドムが機敏な動きで砲撃を避けつつ、6号機に遅れる事なく後に続いてくる。
機体性能が劣るにも関わらず、一切の無駄のない動きで追従してくる二機の機体は、歴戦の強者を思わせる。
この乱戦ではフォーメーションを組んでいる余裕は無い。その場その場で臨機応変に対応せざるを得ないが、頼もしい援軍の存在に思わずノエルの口元が綻んだ。
キシリア艦隊からの砲撃を凌いだMS隊だったが、艦隊から次々と青白いバーニアの光を煌めかせ、無数のMSが出撃してくるのが見えた。
一隻の船に三機のMSが配備されていると考えれば、最低でも六十機。まともに戦える戦力差では無いが──
『こちら6号機、敵MS隊の出撃を確認。──数秒後に射程圏内、私が先制して攻撃を仕掛けます!各機追撃を!』
敵機の機影を捉えた6号機のコンピューターが、瞬時に機種を割り出す。和平艦隊に属するジオン軍の機体はその殆どがザクIIとリック・ドムだが、キシリア艦隊は最新鋭機であるゲルググタイプを多数配備していた。
ゲルググはジオン軍の量産機で初めて携帯式ビーム・ライフルを標準装備した機体で、ダルシア艦隊から提供されたデータを参照すれば、アムロ・レイの搭乗していたガンダム2号機に匹敵する性能を誇る。
──だが、性能だけで全てが決まるわけでは無い。
『6号機の火力、甘く見ないで!──そこっ!』
小刻みに加速と減速を繰り返して、敵MSから放たれたビームを全て避け切ったノエルは、6号機が右マニュピレーターに装備している重装備、フレーム・ランチャーを起動させる。だが、狙いをつける必要はない。
フレーム・ランチャーのガトリング・ガンの銃身が回転し、毎秒五十発もの弾丸を発射する。
地上とは違い、真空の宇宙空間で放たれた弾丸の速度は永久に落ちる事は無い。広範囲に無数の弾丸をばら撒く事が可能なガトリング・ガンは、敵の動きを止めるのに最適な武装だ。
ノエルの意図通り、数機の敵MSが高速で飛来する弾丸にたじろいだようにその動きを止めるが、それは絶対にやってはいけない行為だ。
ミノフスキー粒子が散布されレーダーや誘導兵器が無効化された戦場において、最大の防御手段は動き続ける事に他ならない。
ガンダム6号機のバイザーの下に隠れるデュアル・アイが輝き、改良されて本来の性能を引き出されたビーム・キャノンが二機のゲルググを消し飛ばす。
(僚機は──)
一旦スラスターを吹かせて距離を取るが、6号機に付いてきていた僚機は一切の躊躇いも見せずに、ガトリング・ガンの弾幕にたじろいだ敵機へ一直線に突撃していく。
敵機の接近に慌ててビーム・ナギナタを振るうゲルググだったが、味方機のザクIIは左マニュピレーターに装備したヒート・ホークでそれを難なく受け止め、右マニュピレーターに装備したヒート・サーベルでゲルググを両断。
リック・ドムもAMBACシステムを巧みに使い、まるで踊るような動きでマシンガンを躱しきると、ジャイアント・バズの一撃をお返しとばかりに直撃させる。
しかし、優勢な味方ばかりでは無い。元より数でも機体の性能でもこちらは負けているのだ。
出撃した際に敬礼を送ってくれたジム。ザク二機を相手取りながら互角に戦っていたが、強襲してきたリック・ドムIIの放ったジャイアント・バズがランドセルに直撃し、機体が爆散してその命を散らしている。
両手をゲルググに両断されたジム・キャノンを庇いながら戦っていたザクII改もまた、ゲルググ・キャノンの狙い澄ましたビーム・キャノンに撃ち貫かれて、ジム・キャノンと共に宇宙の藻屑と化していた。
一機あたりの撃墜数は勝っていても、このままでは戦力差をひっくり返せずに押し潰されるだけだ。
艦隊同士が射程圏内に入る前に、何としてでも敵MS部隊の数を減らさなくてはならない。
どうするの、ノエル。──そう彼女は自問する。
きっかけが必要だ、敵の前線を崩すきっかけが。捨て身になって勝てるような甘い戦いでは無いのだから。