【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記   作:B.I.G

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MISSION 22 「60セカンドの攻防」

 シーマ・ガラハウ中佐はジオン公国軍突撃機動軍、海兵隊の代理司令官である。

 

 シーマ艦隊は主に公に出来ない汚れ任務の実行部隊として使われており、グラナダに残されていたのも捨て駒として、アサクラ大佐及びトワニング大佐がキシリア・ザビ少将に上申した結果だ。

 

 突撃機動軍司令官であるキシリアとしては、スペースコロニーへの毒ガス注入や破壊活動に従事していたシーマ艦隊に生き残られては都合が悪い。

 しかしながら、過酷な環境で戦い続けてきた海兵隊の技量は高く、高性能なMS-14F ゲルググM(マリーネ)を有する戦力を無駄にするのも惜しかった。

 

 グラナダに進行してくる和平艦隊を始末してしまえば、仮に戦争が泥沼化しても、自分が月に身を隠す時間は十分過ぎる程あった。それ故、キシリアは捨て駒としてシーマ艦隊を和平艦隊との戦闘に前衛として出撃させた。

 

 和平艦隊との戦闘で敵と相打ちになってくれればそれで良し。運良く生き残ったとしても、その場で全員始末してしまえば良い。

 キシリアは自身の私兵部隊である屍食鬼(グール)隊に、密かに命令を下していた。

 

 しかし、蛇の道は蛇。裏工作を得意とするシーマはキシリアの意図を把握していた上に、月面都市アンマンで行われていた和平工作を嗅ぎつけていた──

 

 

 

 

『こちらデルタ・リーダー!ヘンケン艦長、艦隊に大至急要請があります!』

 

『こちらトロイホース、ヘンケンだ!どうした、デルタ・リーダー!』

 

『現在敵MS隊と交戦中ですが、予想以上に敵機の数が多い!こちらのMS隊の被害も増えてる……このままじゃ、物量差で押し切られます』

 

 フレーム・ランチャーに内蔵されたミサイルを乱射しながら、ノエルはトロイホースに通信を入れた。

 ノエルの言う通り、冷静さを取り戻した敵MS隊は物量を生かした戦術を取り始めていた。即ち、陣形を整えて突撃の構えを見せている。

 

 圧倒的な物量で敵を圧倒するのは戦術の基礎基本であり、皮肉にも連邦軍が最も得意とする戦術だ。

 単純故に強力で隙も少ない戦術だが、弱点が無いわけでは無い。長所が有れば短所もあり、それは表裏一体。

 

『これから私はデルタ・ツー、スリーを伴って、敵MS部隊を押し留めます。要請したいのは、敵MS隊への一斉掃射です。あれだけの大部隊が密集していれば、上手くすれば一気に数を減らせます!』

 

『敵MS隊への一斉掃射だな!?だが、君達はどうなる!艦隊の砲撃に巻き込まれる事になるぞ!』

 

『大丈夫です、ヘンケン艦長。こちらは最小単位、一個小隊で敵部隊に攻撃を仕掛け、カウントゼロと同時に離脱します。こちらは少ない機数だからすぐに射線を外せますが、相手はそうはいかないでしょうから』

 

『うぅむ……わかった。デルタ・リーダーの要請を受け入れよう!艦隊はデルタ・チームが接敵してから60セカンド後に、敵MS部隊へ向けて一斉掃射を行う!』

 

 ノエルがヘンケン艦長に要請したのは、和平艦隊から敵MS隊への一斉掃射。接近戦に持ち込まれればMSに対しては無力に近いとは言え、遠距離からの一斉掃射で有れば少なからず敵の数を減らす事は可能だ。

 

 和平艦隊のMSとは違い、数でこちらを押し潰そうとしている敵MS隊は、おあつらえ向きに密集陣形でこちらに向かってくる。とは言え、無作為に撃っても避けられるだけで意味は無い。

 

 だからこそデルタ・チームの三機が突撃し、敵をギリギリまで引きつける事で、艦隊からの一斉掃射に可能な限り敵MSを巻き込む算段だった。

 

 彼女達の乗る機体の性能であれば、カウントゼロからでも射線から離脱する事は可能だ。それでも、未だ50機を超える敵MSに対して60セカンド──つまり一分、デルタ・チームは持ち堪えなければならない。

 

 冷静に考えば、デルタ・チームの三機が無事に離脱出来る可能性は極めて低い。だが、今のうちに敵MSの数を減らしておかなくては、遅かれ早かれ和平艦隊が全滅する事は目に見えている。ヘンケンは軍人として決断を下す。

 

『こちらはカウントゼロと同時に、デルタ・リーダーの機体信号が確認できる座標に向けて、艦隊の総力を上げた一斉掃射を行う。──頼むぞ、デルタ・チーム』

 

『了解。──必ず帰ります』

 

『こちらは艦隊長のヘンケン・ベッケナーだ!和平艦隊の全MSパイロットへ告ぐ。これより我が艦隊は、60セカンド後に敵MS隊へ向けて一斉射撃を行う!直ちに射線から離脱せよ!──ん!?あの三機の機体はどこの部隊だ!』

 

 和平艦隊に向けて号令をかけるヘンケンだったが、デルタ・チームのMSを追いかけるように飛ぶ三機のMSを見て、オペレーターへ照会するように指示を出す。

 

『照会完了!ジオン共和国軍MS特務遊撃隊です!』

 

 

 

 

『……付き合わせてごめんなさい。でも──』

 

『おっと、それ以上は言いっこなしですよ、デルタ・リーダー。俺達は何があってもあんたの後ろを守るって決めてるんです。もし一人で行くなんて言ってたら、無理矢理にでも付いて行きますよ』

 

『デルタ・ツーの言う通りですよ!もうすぐこの戦争も終わるってのに、こんなところで隊長を死なせてたまるかってんだ。嫌と言われても聞けませんね!』

 

 黙ってヘンケンとの通信を聞き、何も言う事なくピッタリと付いてくるデルタ・ツーとデルタ・スリーに向けて通信を入れる。もしノエルがアムロほどに戦えたなら、二人を伴わなくても良かったかもしれない。

 

 軍人として、過度に部下の命を惜しむべきでは無い。

 しかし、新米の小隊長である自分をいつも支えてくれた二人を死地に連れ込む事はしたくは無かった。

 

 ぽつりと消えいるような声で謝罪しようとするノエルの声を、ラリーが努めて明るい声で遮った。

 アニッシュもラリーに続き、ジム・スナイパーカスタムにサムズアップをさせながらノエルを叱咤激励する。

 

『──そうね!デルタ・チーム、行くわよ!』

 

『デルタ・ツー、了解!連邦軍MSパイロットの腕前を見せつけてやるさ』

 

『デルタ・スリー、了解!デルタ・ツー、危なくなったら俺が助けますよ!』

 

 デルタ・チーム以外の友軍機がヘンケンの号令に従って射線を外す中、ノエルはアクセルペダルを踏み込んで一気に敵の射程圏内へ突入する。

 コクピットのサブ・モニターにはタイマーカウントが表示され、刻一刻とその数字を減らしていく。

 

『これだけ敵が多ければ、適当に撃っても当たるってもんだ!──デルタ・ツー、一機撃墜!』

 

『さすがデルタ・ツー!俺も、と言いたいところですが、デルタ・スリーはちょっと敵に囲まれて……ひゅー!流石隊長!』

 

 R-4ビーム・ライフルの性能を引き上げた先行量産型L-3ビーム・ライフルを連射して、ジム・スナイパーIIが一機のリック・ドムを仕留めた。

 

 敵の攻撃は苛烈を極め、ラリーの言う通り正確な射撃を行える状況では無い。三機のMSは決して動きを止めずに射撃を続けるが、三機のザクに包囲されたアニッシュが冷や汗を流しながらバズーカの波状攻撃をなんとか躱す。

 

 反撃に移ろうとしたアニッシュだったが、ガンダム6号機から放たれたビーム・キャノンとグレネード・ランチャーの弾丸が一瞬で三機のザクを爆炎に変える。

 

 6号機は既にフレーム・ランチャーとハイパー・バズーカの弾丸を使い切り、右手マニピュレーターには腰部ラッチに取り付けていたビーム・ライフルを装備していた。

 

『これで5つ!──そこっ!盾で防御したって無駄よ!』

 

 これまでに無い程に危機的な状況に追い込まれて、ノエルのニュータイプ能力は冴え渡っていた。

 ビーム・ライフルの火線を小刻みなアクセル操作で加減速を操作して躱すと、シールドを構えて突撃してくるゲルググをレティクルに捉える。

 

 ゲルググの大型シールドは耐ビーム・コーティングを施されており、ジムのビーム・スプレーガン程度なら容易に防ぎ切る事が可能だ。しかし、6号機のビーム・キャノンの威力は、戦艦の主砲並みと言われるガンダムのビーム・ライフルの威力を優に超える。

 

 構えたシールドを簡単に融解させ、二発目のビームがゲルググの胴体を貫いて火球へと変える。これで6機目。

 

 息つく暇無く、背後から飛来する光弾を6号機の機体を捻って躱すノエルだが、その瞬間を狙って放たれたのはゲルググ・キャノンのビーム。

 咄嗟に構えたシールドで防御するが、予想以上の威力にシールドごと左腕マニュピレーターの前腕部を失う。

 

『くぅっ……!機体のバランスが……!』

 

 前腕部に装備されていたグレネードの誘爆に巻き込まれないように咄嗟にスラスターを吹かすノエルだが、重装備のガンダム6号機は機体バランスを取るのが難しい。

 その隙を狙って、ヒート・ホークを振りかぶったザクが迫るが──

 

『私がそう簡単に殺られるわけにはいかないのよっ!……あうっ!』

 

 脚部の可変式スラスターの出力を最大にして、その勢いで思い切りザクの横っ腹を蹴りつけるガンダム6号機。

 吹き飛んだザクにビーム・ライフルを撃ち込むが、上から強襲してきたザクのバズーカが右側のビーム・キャノンの砲身に着弾し、小爆発を起こす。

 

『くそっ!デルタ・リーダーがヤバいぞ!デルタ・ツー!狙撃出来ないか!』

 

『無茶を言うな!ちくしょうめ、お前ら!そんなに和平が結ばれるのが嫌なのか!』

 

 リック・ドムと鍔迫り合いをしているアニッシュがラリーに狙撃を要請するが、ラリーもまた敵機と交戦中でノエルを援護する事が出来ない。

 二人の声に焦りが見えるが、ラリーが吠えた瞬間に目の前のリック・ドムの動きが僅かに鈍る。──何かに動揺したかのようだったが、その隙を見逃すラリーでは無い。

 

(チャンスだ!)

 

 リック・ドムに体当たりをして距離を取ると、ノエルに襲いかかるザクにL-3ビーム・ライフルを向けた。敵機に無防備な姿を見せた自分が数秒後にどうなっているか、それは言うまでも無い。

 

 だが、ラリーは背筋が凍る程の恐怖感を抑え込み、スコープの先にいるザクに全神経を集中した。息を止めているからか、頭の中がチカチカと明滅しているようだ。

 

 この狙撃を外せばノエルは撃墜され、勿論自分も死ぬだろう。大きな戦力を失った和平艦隊はグラナダ艦隊に包囲され、和平を結ぶ事なく全滅する。

 

 ──かつてない程に追い詰められた状況で、ラリーの集中力は極限まで研ぎ澄まされていた。ほんのコンマ数秒の時が永遠に感じられ、敵機の動きがスローに見える。

 

 まるで自分と機体が一体となっているような──奇妙な感覚を感じながら、ラリーは笑う。

 こちらにマシンガンの銃口を向けるザクを意に介さず、彼はトリガースイッチを押し込んだ。

 

『──当たれぇ!』

 

 放たれた閃光はラリーの狙いと寸分違わず、ガンダム6号機に迫っていたザクを貫く。

 サブ・モニターに目をやれば、ザク・マシンガンのトリガーを引かんとするザクの姿が見えた。致命的な隙を見せたのだから、当然の事だ。

 

 アニッシュのジム・スナイパーカスタムがボックスタイプ・ビーム・サーベルを展開して突貫しているのが見えるが、到底間に合わないだろう、とラリーはまるで人ごとのように捉えていた。

 

(悔いは無いか?)

 

 目前に迫った自分の死を感じて、ラリーは自問した。

 悔いは無いかと言えば、勿論無いとは言えない。

 このクソッタレな戦争の終わりを目前にしながら、最後まであの隊長を助ける事が出来ないのは、悔い以外の何物でもない。アニッシュだけではあまりに心配だった。

 

 ──それでも、ラリーは笑った。笑うことができた。

 

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