【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記 作:B.I.G
『こちらは地球連邦軍第十八独立部隊所属、ノエル・アンダーソン中尉です!我々はジオン共和国と地球連邦の終戦協定調印の為、貴国のダルシア・バハロ首相を護衛しています!道を開けて下さい!』
『聞け!俺はジオン共和国軍MS特務遊撃隊、ケン・ビーダーシュタット少尉だ!逆賊、キシリア・ザビはア・バオア・クーで奮戦する同胞を見捨てたばかりか、君達にこの戦いの真の目的を隠蔽していた!自らの保身の為に両国の和平を邪魔する者こそ、我々が討つべき者だと知れ!』
和平艦隊に届けられるア・バオア・クーの戦況情報では、ティアンム提督の指揮の元でホワイトベース隊のガンダムNT-1が獅子奮迅の活躍を見せ、ドロス級大型空母を二隻撃沈した他、続けて未確認の新型MSを撃破。
サラブレッド隊のガンダム4号機、5号機に率いられたMS隊がア・バオア・クーに取り付いた事で、一気に戦況は連邦軍優位に傾いていた。
キシリア率いるグラナダ艦隊から離反したシーマ艦隊とキマイラ隊第一小隊と合流したノエル達だったが、知らされたのはグラナダ艦隊の殆どがジオン共和国と地球連邦の和平協定の事を知らされていないと言う事実だった。
グラナダ防衛戦と信じて戦う彼等はア・バオア・クーの戦況も知らされず、キシリアの保身の為の捨て駒として扱われていると言う事実を、ノエルとケンはオープン回線で必死に訴える。
『和平協定だって……!?そんな話、聞いてないぞ!』
『ア・バオア・クーが攻められているのに、なんで俺たちは救援に向かう事を許可されなかったんだ!奴らの言っている事は、本当なんじゃないのか!』
海兵隊のみならず、ジオン公国軍の中でも指折りのエースである真紅の稲妻までもが離反し、和平へ協力するように訴える様を見て、グラナダ艦隊に動揺がさざ波のように広がっていく。
苛烈を極めていた攻撃が弱くなっていき、戸惑いながらも手にした銃を降ろすグラナダ艦隊のMS達だが──
■
『キケロガの出撃準備を急がせい!ダルシアの乗るチベを墜とせば後はどうとでもなる!』
格納庫で出撃準備を進めるスタッフの元に、マスクの下に隠れる顔を怒りで歪ませたキシリアからの指令が届く。格納庫にはフラナガン機関とグラナダ工廠のスタッフが揃っており、急ピッチで機体の出撃準備が進められていた。
MSN-01 キケロガ。
ジオン公国軍が開発したニュータイプ専用MSで、MSN-02 ジオングのプロトタイプにあたる機体である。両腕と両肩にサイコミュシステムで有線で遠隔操作可能なメガ粒子砲を装備した機体だ。
ジオングとは異なり、通常サイズのMSに多くの機能や装備を搭載した事が問題となり、試作段階で開発が凍結されていた機体だったが──
「被検体253番、MSN-01のコクピット・ブロックに収納完了。脳神経とBDIシステムの接続──問題無し。MT-01は当初予定の1.25倍を投与。サイコミュ・システムとの同調率の向上を確認」
一旦は開発を凍結されたキケロガだったが、パイロットの四肢を義肢化してコクピットに接続する技術である「リユース・サイコ・デバイス」が実用化された事で、凍結を解除。キシリアの指令で開発が再開された経緯を持つ。
しかしながら、リユース・サイコ・デバイスの性能に満足しなかったグラナダとフラナガン機関がリユース・サイコ・デバイスを発展させたのがBDIシステム(Brain Direct Image System)で、パイロットの脳と機体を接続する事で、思考のみで機体を操作する事が出来るシステムだ。
加えて■■■に投与されている飴色の液体"MT-01"は、グラナダで研究開発されていたMSパイロット用の強化薬だ。強力な精神高揚効果に加えて、服用した被験者は脳が覚醒状態を保つ事で、五感と全神経が研ぎ澄まされる。
BDIシステムは-01を使用し、パイロットの脳を強制的に常時覚醒状態に保つ事でようやくその運用が可能になる。それはパイロットを半ば使い捨て──MSの生体パーツとして活用する、悪魔のシステム。
『敵MS部隊はガンダムタイプを先頭にして、本艦に接近中。各員MSN-01の最終チェックを急げ!』
『────ガ■■■』
「核融合炉の出力安定。MSN-01の出撃準備完了──なんだ?被検体253番の心拍数が異常値を示しているぞ!」
『ガン■ム、■■ダム──マ■■ト様の仇、ガンダム!』
管制室から格納庫に響いた「ガンダム接近」の声に反応したのか、出撃準備を終えたキケロガがまるで人間が悶えているような不気味な挙動で、その巨体を捩らせる。
パイロットの状況をモニターしている研究員が慌てて、ノーマル・スーツに備え付けられた鎮静剤を注入するようにコンソールを操作するが、グラフに表示されている心拍数は極度の興奮状態を示すように、激しく上下していた。
レッド・アラートが鳴り響く格納庫でスタッフと研究員が逃げ惑うが、モノアイを不気味な紫色に輝かせたキケロガはその両腕を閉じたままの格納庫のハッチへ向けた。
「止めろ、被検体253番!こちらの指示を聞け!253番!──リリア・フローベール中尉!うわぁあっ!」
必死に被検体253番──リリア・フローベールを制御しようとするフラナガン機関のスタッフだったが、濁りきった瞳で
両腕の指に内蔵されている5連装メガ粒子砲を何の躊躇も無く発射すると、半分融解した格納庫ハッチは簡単に吹き飛び、大きな穴を開けると共に避難し損ねたスタッフ達を漆黒の宇宙へ吸い出していく。
『必ず殺す──ガンダム!』
未成熟な強化処置とMT-01の過剰投与で自我が崩壊しかけているリリアの脳裏に映るのは、ガンダムの放った極大の閃光に飲み込まれた敬愛する隊長──マレット・サンギーヌ大尉の幻影だ。
彼の幻影が囁くのに従って、リリアは数秒毎に命の輝きが消える暗黒の世界へその身を躍らせた。
■
ノエルは戦場を見渡した。
ケンと共にオープンチャンネルで停戦を呼びかけた効果があったのか、こちらに対する攻撃は先程に比べれば弱くなっているが、それでも戦力差は歴然。
停戦の呼びかけを徹底的に無視している部隊も多く見られるが、ライデン少佐のキマイラ隊第一小隊とシーマ艦隊の協力で、なんとか艦隊の防衛には成功している状況だ。
トロイホースを先頭にする艦隊もいよいよ月に近付き、艦隊同士の近距離戦に入ろうかという距離となった。
7隻の船はいずれも健在だが、無傷でいるのはダルシア首相の乗るチベ級巡洋戦艦だけだ。これほどの戦力差を前にして、未だ脱落した船がいないのは奇跡に近い。
(何か──このザラついた不快な感覚は──)
『おい、アンダーソン中尉!こちらは武器の補給の為に一旦船に戻るが……どうした?』
左腕マニュピレーターを損傷したガンダム6号機の代わりに、ビーム・ライフルのエネルギー・パックを交換するケンの高機動型ゲルググ。
艦隊同士の接近戦になる前に、これまでの戦闘で消耗した武器弾薬の補給をするべきだと話していたノエルが、急に黙り込んだ事を怪訝に思うケン。
一方でノエルが感じていたのは、酷くザラついた不気味な気配が近付いてくる、今まで感じた事のない感覚。
──ノエルがその攻撃を回避する事が出来たのは、単に覚醒したニュータイプ能力だけが理由では無く、これまで戦場で生き残ってきた経験の賜物だった。
『敵は何機いるの!いつの間にか囲まれてる!?──いえ、違う!敵意が繋がってる!』
『アンダーソン中尉!ちぃっ!』
不意に感じた敵意に反応して、思い切り操縦桿を押し込んだノエル。一瞬前にガンダム6号機がいた空間を、5本の強烈なビームの閃光が貫いた。
ケンの高機動型ゲルググもすんでのところでビームをシールドで防いだが、耐ビーム・コーティングしてある筈のシールドがたった一撃で使い物にならなくなっている。
『ガンダムゥゥゥッ!』
とても正気とは思えない絶叫と共に放たれたのは、5連装メガ粒子砲を内臓した両腕だ。サイコミュで有線制御を利用した遠隔操作が可能で、強制的に覚醒状態を保っているリリアのニュータイプ能力をフルに活用する事で、オールレンジ攻撃を可能とする。
並のパイロットであれば、何が起こったのか理解出来ないうちに撃墜されている事は間違いない。ノエルはガンダム6号機を限界まで酷使して、キケロガの両腕から放たれるメガ粒子の雨を躱し続ける。
6号機の装甲表面には、メガ粒子砲の熱線で灼かれた後が無数に残っているが、機体の動作に深刻な影響を及ぼす損傷は受けていない。
『避けるくらいならっ!』
ガンダム6号機のコクピットにはレッド・アラートが鳴り響いているが、ノエルはそれを意に返さない。
絶え間なく位置を変え、正確無比な射撃精度でこちらを狙ってくるキケロガの攻撃を躱すには、モニターで位置を確認していては遅いのだ。
操縦桿を思い切り引き、6号機を後ろへ倒れ込ませた。その瞬間、ビームの閃光が目の前を通り過ぎていく。
ノエルはアクセルペダルと操縦桿を微妙な力加減で操作して、各部のバーニアを連動させる。6号機は見事にその場で宙返りをして、キケロガの連続攻撃を躱しきる。
機体が綺麗に一回転を終えた時、6号機のメイン・モニターに映るのは、展開していた有線制御式5連装メガ粒子砲を戻したキケロガの姿だ。
『そこっ!──ちぃっ!』
小さな両腕に動力炉を内臓しているのでなければ、長時間展開している事は出来ないとノエルは判断していたし、それは間違っていなかった。
両腕を戻した瞬間にビーム・ライフルを放ったノエルだったが、その光はキケロガの両肩に装備されている大型メガ粒子砲の光芒に飲み込まれ、かき消された。
艦隊同士の接近戦が迫る今、一機のMSに時間を割いている余裕はノエルにはない。ノエルの任務はあくまでダルシアの乗るチベをグラナダへ送り届ける事であり、敵機を殲滅する事では無いからだ。
だが、目の前の敵機から感じるプレッシャーは今まで対峙した相手の比では無い。暗礁中域で戦った赤い彗星──シャア・アズナブル以上の威圧感を感じるのは、狂気に堕ちた存在を相手にしているからか。
(艦隊の援護に行けないのなら……!)
ガンダム6号機の火力さえ凌ぐこの敵機を艦隊に近付ける事は、絶対に避けなくてはならない。
幸いにも敵機はこちらに執着しているようで、ダルシア首相の乗るチベには見向きもしていない。
ノエルはアクセルペダルを踏み込んで、ガンダム6号機をグラナダ艦隊の旗艦、パープル・ウィドウへ向けて飛燕の如き速度で飛翔させる。
ジオン軍から離反者が出てもなお埋まらぬ戦力差を覆すには、指揮を取っている大将を討ち取る他に手段は無い。
そしてこの敵機を振り切れないならば、
■
『アンダーソン中尉!くそっ!レッド・ツー、スリー!俺はガンダムの援護に向かう!艦隊の護衛は任せたぞ!』
『了解!デルタ・チームの連中が煩くってたまらないから、無事に連中の隊長を連れ帰って下さいよ!』
キケロガを連れてグラナダ艦隊の中心部、旗艦が鎮座する宙域へ飛翔したガンダム6号機を追って、スラスターを全開にするケンの高機動型ゲルググ。
シーマ艦隊とキマイラ隊第一小隊と共に艦隊の護衛に回っている僚機に通信を入れるが、返事をする余裕はケンには無かった。
──恐ろしい加速性能で、突如として強襲してきた新型MSのビーム・ランスを、ゲルググのビーム・ナギナタで切り払った瞬間だったからだ。
『外人部隊か。キシリア様の崇高なお考えを理解せぬ輩なぞ、ジオンには必要無い。ア・バオア・クーが陥落し、サイド3が失われようとも意味は無い。キシリア様さえご存命ならば、新たなジオンはそこで生まれるのだからね』
『貴様……!』
ガンダム6号機とキケロガを追う高機動型ゲルググを強襲したのは、MS-15KG ギャン・クリーガー。
西洋の騎士を模した外観が特徴的な機体だが、纏う雰囲気には一切の高潔さも感じられない。
そこにあるのは、ギャン・クリーガーの肩部に印された屍食鬼のエンブレム同様の醜悪さのみ。
屍食鬼隊の隊長を務める少年、クロード中尉。
キシリアの元で徹底的な教育を受けた後、フラナガン機関でニュータイプ研究の人体実験の被験者となった者。
──リリア・フローベールとはまた別の、悪意の具現。
今回が最終話予定だったのですが、収まりが悪いので次回最終回となります。すみません!
BDIシステムはマクロスプラスから設定を拝借しています。
リユース・サイコ・デバイスはどうも納得いかないので……