【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記 作:B.I.G
─ ヨーロッパ 黒海沿岸部森林地帯 ─
オデッサ作戦を目前に控え、ノエル達第三小隊に下された任務は極秘の護衛任務、それもレビル将軍から要請された任務だ。
連邦軍のMSの開発・量産・運用が決定し発動されたV作戦において開発、完成されたRXナンバーのMSを運用し、
前回の戦闘で大破、航行不能になったホワイトベースの修復と補給物資を送り届ける為に出撃したミデア輸送隊の護衛が、今回の任務内容だった。
補給物資を満載したミデア輸送隊に同行する為、第三小隊は幾度かの任務を終えた後、地球連邦軍の総司令部であるジャブローへ帰投。
そこで二機の新型MSを受領し今回の護衛任務へ参加していたが、レビル将軍がいかにホワイトベース隊を気にかけているか、ノエル達は直属の上官であるコーウェン准将から聞かされていた。
聞けば赤い彗星や青い巨星といったジオンの名だたるエース達を退け、ジオンの鉱山基地を破壊、なおもオデッサ作戦に向けてヨーロッパへ移動する最中、遂に傷付き航行不能に陥ったと言うホワイトベース隊。
まさに孤軍奮闘という言葉が相応しい状況で戦ってきたホワイトベース隊に補給物資を届けたい、と正規の軍人であるノエル達が思うのも当然だったし、ノエル個人としても父であるポール・アンダーソンの乗るサラミスを墜とした赤い彗星を何度も退けたガンダムのパイロット、アムロ・レイなる少年にも興味があった。
ジャブローを発着した後、可能な限り洋上を避けつつオデッサの森林地帯を抜けていたミデア輸送隊だったが、待ち伏せしていたドダイYSに搭乗したグフの三機小隊とドップの混成部隊に遭遇。
緊急発進した第三小隊が応戦、撃墜こそ逃れたものの、数機のミデアが被弾した事で不時着を余儀なくされ、応急処置が終了するまで地上での警戒に当たっていたのだった。
■
『しかしホワイトベース隊の連中、聞けば女子供ばかりって言うじゃないか。ここは俺達がしっかり物資を届けてやらなきゃな』
周囲を警戒しながらそう呟くラリーは、新しくジャブローで受領したMS、RGC-80 ジム・キャノンに搭乗していた。
ジム・キャノンはRX-77 ガンキャノンの簡易量産型と言える機体で、ジムをベースにガンキャノンの能力を付与された機体だ。
陸戦型ジムに比べれば機動性に劣る機体だが、一流の射撃精度を誇るラリーにとっても、高い中距離支援性能を持つジム・キャノンの乗り心地は悪い物では無かった。
『なぁに、ホワイトベースとの合流ポイントは目と鼻の先なんだ、心配ありませんって。しかしレビル将軍も太っ腹ですよ。ガンダムタイプのMSなんて、そう数があるものでもないでしょうに』
ラリーの発言に同意するアニッシュは、以前からの乗機である陸戦型ジムに引き続き搭乗していた。
自分だけ新型機に乗れない事にボヤいていたが、ジャブローのシミュレーターでジム・キャノンに搭乗した結果、陸戦型ジムの方がしっくりくると納得していた。
それはそうと、アニッシュは自機の斜め前方に見える黒い機体を見て羨ましそうな声を上げる。
ジャブローで受領したもう一機の新型MSが、隊長であるノエルの搭乗する機体であるガンダムFSD。
ホワイトベースで活躍するガンダムのテストタイプとも言える機体の再設計機で、量産化を前提としているが現時点での生産数は片手の指で数える程。
本格的な量産に向けてのデータ収集を目的とした先行量産機であり、第三小隊が世界各地で実戦データを収集する実験部隊である事を鑑みて配備された機体だった。
『ラリー、アニッシュ。ミデアの修理まであと30分程かかるみたい。引き続き警戒を……』
『ハウンドから各機。悪い知らせだ……ソナーに感有り。連中の増援のようだぞ。敵機の数と機種はノイズが強く不明。警戒態勢』
ノエルがミデア輸送隊の隊長であるマチルダ中尉とのやりとりで得た情報を僚機へ共有しようとした瞬間、《ハウンド》から通信が入る。
視界の悪い森林地帯では目視で敵機を確認する事は難しく、ホバートラックのアンダーグラウンド・ソナーが必要不可欠だ。
《ハウンド》からの嬉しくない報告に、しつこいジオン、と歯がみしながら即座にガンダムFSDにビーム・ライフルを構えさせ、戦闘態勢を取ると同時に僚機へ通信を入れる。
『デルタ・チーム各機、戦闘態勢!ミデアを死守するわ!』
【BRIEFING】
ミデア輸送隊の護衛が今回のミッション内容となる。
現在我々はホワイトベースとの合流ポイントから約20Kmの地点に到達しているが、ミノフスキー粒子の影響で未だ連絡は取れていない。
現在ミデアはエンジン部に損傷を負っており、応急処置が終了するまで離陸する事は不可能だ。
ミデアのコンテナにはホワイトベース隊用の補給物資が満載されており、これは絶対に死守しなければならない。
ミデアは動けない為、対象への攻撃を防ぎながら敵機を殲滅する事が、今作戦の目標となる。
ミデアは連装機関砲塔での援護射撃を行うが、あくまで自衛の域を出ない程度の戦闘能力しか持たず、敵MSに対してはほぼ無力となる事を忘れるな。
以上、各員の健闘を祈る。
MS1 ノエル・アンダーソン中尉《デルタ・リーダー》
RX-78-01[FSD]ガンダムFSD ビーム・ライフル
MS2 ラリー・ラドリー少尉《デルタ・ツー》
RGC-80 ジム・キャノン ビームスプレーガン
MS3 アニッシュ・ロフマン曹長《デルタ・スリー》
RGM-79 [G] 陸戦型ジム ロケット・ランチャー
作戦成功条件:敵部隊の全滅
作戦失敗条件:護衛対象の破壊、部隊の全滅
─ MISSION START ─
『ミデアはしばらく動けないわ。デルタ・ツーはミデアの直衛よ。私とデルタ・スリーはミデアとデルタ・ツーを中心に散開。各機敵を撃破!』
大型シールドを展開したガンダムFSDは、ランドセルのスラスターを全開にして空中へ躍り出る。
敵機の正確な位置と数が掴めない状況でこちらから仕掛ける事はしたくなかったが、後手に回ればミデアを守り切る事は出来ないとノエルは判断した。
デルタ・ツーにミデアの直衛、デルタ・スリーに散開の指示を出し、自らのガンダムFSDを突出させて囮とする腹づもりだった。
■
『デルタ・ツー了解。ミデアの直衛に入る。隊長、空の敵は任せて下さい』
デルタ・リーダーの号令と同時にデルタ・ツーは後退し、そのままミデア輸送隊の直衛に入る。
ミデアの背後は切り立った高い崖になっており、いかにMSと言えども専用の降下装備が無ければ降りる事は難しい。
森林地帯というロケーションである以上、足の遅いMSよりも空中を自在に移動出来る戦闘機が驚異となる事を、元戦闘機乗りであるラリーは熟知していた。
ラリーの読み通り、先陣を切ってきたのはドップの編隊だ。
航続距離こそ短いものの最高時速マッハ5を誇り、6連装ミサイルランチャーと30mmバルカン砲を主兵装とするジオン軍の大気圏内用戦闘機だ。
まともに戦えばMSが負ける相手では無いが、うかうかしていればあっという間に接近され、ミデアを攻撃されてしまう。
『迂闊だな!射程圏内だ……当たれっ!』
射撃用スコープを引き出したラリーが一呼吸の後にトリガーを引くと、肩部240mmロケット砲が立て続けに火を吹き、数機のドップに直撃し爆散させる。
肩部240mmロケット砲はガンキャノンに装備されている240mm低反動キャノン砲を改良した武装で、発砲時の初速を強化した事で破壊力、命中精度共に向上した強力な固定武装だ。
直撃すればMSでも容易に撃破せしめる威力のロケット砲と、射程距離こそ短いものの速い弾速と高い攻撃力を併せ持つビームスプレーガンの組み合わせは強力だ。
地対空の不利な状況でありながら、ミデアの連装機関砲塔の対空防御射撃とラリー機の攻撃は、迫り来るドップの数を着実に減らしていた。
■
『これくらいなら……見つけた!当たって!』
空中へ飛び出したガンダムFSDへ向かって、森林地帯の中からザク・マシンガンの火線が集中。
ルナチタニウム合金製の大型シールドはザク・マシンガンの攻撃を難なくふせぎきり、逆にガンダムFSDのバイザーの奥に光るデュアルアイがザクの姿を捉える。
空中で各部スラスターを使って姿勢制御を行いながら、装備したビーム・ライフルのトリガーを引き絞ると、数発発射された亜光速のビームの一本がザクを貫き、爆散させる。
亜光速で一撃必殺の威力を誇るビーム・ライフルだが、その装弾数は15発と多くは無く、単発での射撃の為にマシンガンのように面制圧が出来る武装では無い。
ガンダムFSDの装備するビーム・ライフルはドラムマガジン式のエネルギーCAPを搭載しており、マガジンを交換する事で即座に再使用が可能になるように改良されていた。
『次は……あぅっ!』
一機のザクを撃破して地面に着地するガンダムFSD。
再び空中から敵MSを狙撃しようと思っていたノエルだったが、着地の隙を狙って体当たりしてきたグフを辛うじてシールドで受け止める。
損傷こそ無いものの、着地直後の不安定な状況を狙われた為、大きくバランスを崩すガンダムFSDに向けてヒートサーベルを展開し、斬りかかるグフ。
『やられない……っ!』
眼前に迫ったグフがヒートサーベルを振りかぶり、ガンダムFSDのコクピットに切っ先を向ける。
距離が近過ぎてビーム・ライフルは使えず、ランドセルに装備されたビーム・サーベルを抜く時間も無い。
瞬時に右腕をグフに向け、前腕部に装備されたガトリング・ガンから放たれた無数の弾丸が敵機のコクピットを撃ち貫いた。
■
─ 黒海沿岸部森林地帯 第三小隊戦闘地点から約20Km ─
時を遡る事30分前、補給と修理を待つホワイトベースでは、一向に合流ポイントに現れないミデア輸送隊にやきもきしていた。
ただでさえジオンの支配下にあるオデッサである。
前回の補給の時のようにジオンに襲撃され、もしかしたら撃墜されてしまったのではないかと心配するクルー達。
ホワイトベースが動けない以上、下手に艦の護衛機を動かす訳にはいかないが、補給物資が無ければジリ貧である事には違いない。
敵の勢力圏内でいつまでも待ち続けている訳にもいかない状況であった。
『ガンダム、カタパルトスタンバイ!アムロ、行きまーす!』
艦長であるブライト・ノアは高熱で寝込んでおり、艦長代理の任を任されていたミライ・ヤシマが下した命令は、ガンダム単機による偵察であった。
カイのガンキャノン、ハヤトのガンタンクにホワイトベースの守りを任せ、早る気持ちを抑えつつ、アムロはガンダムを発進させた。
─ 第三小隊戦闘地点から約5Km ─
『やはり戦闘の光だったみたいだ……ミデアは無事のようだけど、味方機が応戦しているのか!』
微かに見えた爆発の光を見て、ガンダムを最大戦速で飛ばすアムロ。
戦場まであと5Kmと迫ったガンダムのメインカメラが捉えた映像は、ミデアを守って敵MS部隊と戦闘を行う友軍のMS隊の姿だ。
アムロにとってはホワイトベースの艦載機以外では初めて見る連邦軍のMSだが、多勢に無勢な状況ながらミデアを守りきっているようだ、と一瞬安堵するが瞬時に気持ちを切り替える。
『味方をやらせはしないぞ!そこっ!迂闊なヤツ!』
ビーム・ライフルの射程ギリギリの所から、迷いなくトリガーを引くアムロのガンダム。
狙い澄ました一撃は完全に不意打ちで、放たれたビームがザクの腹部を撃ち貫き、爆散させる。
対峙していたザクが突如撃破され、驚いた表情を浮かべながらビームが飛んできた方向を確認するノエル。
ジオン軍から《連邦の白いヤツ》と呼ばれ恐れられるアムロと、後に《凶鳥》と呼ばれるノエルの初邂逅の時が近付いていた。