【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記   作:B.I.G

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LAST MISSION 「閃光の果て」

「足の止まっている敵艦は無視だ!こちらに向かってくるやつだけを狙って撃ちまくれ!」

 

 トロイホースのブリッジで怒号まじりにヘンケンが命令を飛ばす。MS隊の呼びかけに応じた船もあるが、殆どの敵艦がこちらに向けて攻撃してくる状況は変わらない。

 

「各艦、トロイホースに進路を合わさせろ。キシリア艦隊の包囲網をすり抜ける!──ぐぅっ!被害報告知らせ!」

 

 トロイホースを先頭にして、和平艦隊はキシリア艦隊が敷く包囲網を右斜めに横切る形で進行していく。

 戦闘をMS隊に任せていた先程までとは違い、既に敵艦隊との距離は目と鼻の先と言って良いほどに近づいており、攻撃の応酬の激しさは比べ物にならない。

 

 一際大きな衝撃がトロイホースのブリッジを襲い、キャプテン・シートの手摺りを握りしめたヘンケンが大声で報告を求めた。

 

『報告!報告!第一デッキに敵の攻撃が直撃!現在緊急消化作業中ですが、死傷者多数!』

 

「第二デッキから人員を回す!なんとか火を消しとめて、使えるように応急処置をしてくれ!」

 

『やってみます!』

 

 敵の放った攻撃がトロイホースの第一デッキに直撃し、大きな被害が出ていた。ヘンケンが横を見ると、一隻のムサイに敵のMS隊が集中攻撃を仕掛けており、火柱を上げながらも懸命に主砲を撃って抵抗している。

 

 エイガー少尉のガンキャノンII率いるキャノン隊が援護射撃を行うが、損傷は甚大。隊列から遅れながらも、決して諦めた様子は見せていない。

 

「デルタ・リーダーはどうした!ガンダム6号機の機体信号は健在か!?」

 

 デルタ・ツーのジム・スナイパーIIと、デルタ・スリーのジム・スナイパーカスタムがトロイホースの直衛に回っており、彼らがジオン共和国のMS隊と連携する事で、どうにかトロイホースは致命的な損傷を免れている。

 

 一方でその周囲にガンダム6号機の姿は確認出来ず、矢継ぎ早に命令を下しながらもヘンケンはオペレーターにノエルの所在を確認する。

 6号機が単身で敵のど真ん中に飛び込み、敵を引きつけていたところまでは確認出来ていた。

 

 軍人として、それも艦隊を預かる者として、私情を挟む訳にはいかない。それでも、ヘンケンはノエルの無事を願わずにはいられなかった。

 

「艦長!ガンダム6号機の信号健在!無茶だ……!未確認の敵機と交戦しながら、敵艦隊の旗艦に接近中の模様!」

 

「──!トロイホースのみ進路変更だ!12時の方向!他の船はダルシア首相のチベを護衛させながら、同一進路を取らせろ!本艦はMS隊と共に、敵の旗艦を取る!」

 

 希望は消えていない。戦意も失われてはいない。

 自分達は負けを認めていない。

 

「ジオン軍を恐れさせたペガサス級の力を見せてやれ!ホワイトベースに出来て、我々のトロイホースに出来ない事があるか!勝機はここしか無い!」

 

 触れるもの全てを破壊する光の奔流が満ちる宇宙(ソラ)を、傷だらけのトロイホースが突き進む。

 

 

 

 

『全く……凡人の分際で良くも抵抗してくれるものだ。スペースノイドが下等なアースノイドと手を組むなど、僕には理解出来ないな』

 

『貴様がどれほどの人物かは知らないが、スペースノイドもアースノイドも同じ人間だろう!キシリアの操り人形が傲慢な事を良くも言う!』

 

 ケンのゲルググが振るうビーム・ナギナタとクロードのギャン・クリーガーのビーム・ランスの光刃が交錯する。

 お互いに駆るのは最新鋭機、スペックの差は殆ど無い。スラスターを全開にしながら、縦横無尽に戦場を駆けながら幾度も機体をぶつけ合う二人。

 

 待ち望んでいた戦争の終わりを目前にして、感情を剥き出しにして戦うケンとは対照的に、苛烈な攻撃を受け流すクロードの声は冷静そのもの。

 彼は孤児であり、クロードという名前も本名では無い。単純に"名無し"では不便だったから、そう名付けられただけの事だ。

 

 サイド3には、フラナガン機関というニュータイプ研究所が存在する。"人類の革新"と呼ばれたニュータイプだが、その定義は難しい。

 だが、ニュータイプの傾向の一つとして、ニュータイプ同士では非常に強い共感が起こる事が解明されていた。

 

 だが、共感──即ち、お互いの事を理解し合う事──が一体何かというのが問題だった。それは科学の分野では無く、心理学や哲学の範疇だったからだ。

 

 ニュータイプを解明し、あわよくば人工的にニュータイプを"生産"する事を目論んでいたキシリアとフラナガン機関が行ったのは、「人間から他者に対する共感能力を取り払う」実験だった。ニュータイプを理解する手掛かりになると考えたのだ。

 

 結果としては全く無意味な人体実験だったのだが、その被験者として選ばれたのが、クロードをはじめとする孤児達だった。──そして、この非人道的な人体実験は、思いもよらぬ成果をもたらした。

 

 他者に共感する能力を失った少年少女達は、恐ろしい程に冷徹冷酷な兵士となるということがわかったのだ。

 他者の痛みや苦しみ、悩みを理解出来ない彼ら彼女らは、他人には幾らでも残酷になる事が出来た。

 

 そうしてキシリアは、かき集めた孤児達の中で自分の好む容姿を持つ者を選別し、共感能力を取り払うと同時に自らを崇拝するように"処置"を行い、自らの手駒として使える『屍食鬼隊』を結成するに至ったのである。

 

『操り人形とはまた失礼な事を言う。僕はフラナガン機関のおかげで超人になったのだよ。下等なアースノイドとも、凡庸なスペースノイドとも違う超人だ。キシリア様と僕らがいれば、それが新しいジオンだ』

 

『そんな世迷言を!』

 

 操縦桿を引き上げて機体を上昇させ、ギャン・クリーガーのランチャー・シールドから放たれたビームの光芒を交わすケン。目の前の相手がどのような実験で"超人"になったのか、それをケンが知る由もない。

 

『いちかばちか……!やらせてもらう!』

 

 ケンは大型ビーム・ライフルをオーバーヒート寸前まで連射しながら、シールドを構えて待ち受けるクロードのギャン・クリーガーに向けて加速する。

 小刻みに動いてビームの閃光を避けながら、ランチャー・シールドでゲルググを迎撃するクロードだが、ケンはそれを意に返さない。

 

 急所のみを半ば融解しているシールドで守りながら、迎撃のビームが止んだ瞬間に右マニュピレーターの前腕部に装備したミサイル・ランチャーを発射した。

 

 思いもよらぬタイミングで放たれたミサイル・ランチャーの弾丸を迎撃しようとビーム・ランスを横凪に振るうクロードだったが、撃ち漏らした弾丸から自らを守る為に、彼は反射的に腕でそれを防ごうとした。

 

 そして、固定武装を持たないギャン・クリーガーでは、両腕を防御に使ってしまえば、ゲルググを迎え撃つ手段は無い。一瞬の隙を突いて、レッドゾーンに踏み込む程に加速した高機動型ゲルググが、ビーム・ナギナタを一閃しながら駆け抜ける。

 

 『──トロイホース、聞こえるか?こちらレッド・リーダー。敵部隊の隊長機と思われる機体を撃破した。これより艦隊の援護に向かう!』

 

 ビーム・ナギナタの光刃は、ギャン・クリーガーの胴体を真っ二つに切り裂いていた。力無く虚空に浮かぶ機体が再び動く気配は無く、クロードは末期の言葉も言わぬまま──漆黒の宇宙に散った。

 

 

 

 

 リリアの世界は、マレットが死んだ時から粉々に砕け散っていた。ガンダムの放った閃光に飲み込まれ、遺体も残す事無く消えてしまったマレット。

 

 彼に依存していたが故に、戦う理由も生きる意味も同時に失った彼女は、自ら進んでキシリアが推し進めていた強化人間計画の被験者となった。

 自分がすべき事は、マレットを殺したガンダムを倒す事しか無い──そう思ったからだ。

 

 ──薬物と外科的処置、そして強力なマインドコントロールを施されたリリアは、彼女をパーツとして使用する事を前提として開発を再開されたキケロガに組み込まれた。

 何故自ら実験動物に身をやつしたのか、その思いを強制的に封じられたままで。

 

(ザラついているんじゃない……擦り減ってるんだ。無理矢理抑え込まれて──リリア?それが、貴女の名前)

 

 キシリアの乗る旗艦、パープル・ウィドウに向けてガンダム6号機を疾走させるノエル。敵の攻撃は無視して、最小限の攻撃で陣形を崩しながら、敵の陣形を突破する。

 

 自機を後ろから追ってくる機体から感じるのは、激しい怒りと深い悲しみの感情だ。意図して感じようとしなくても、痛い程に共感してしまう。

 それでも、ノエルは被りを振って同情的な感情を振り払う。軍人として、やるべき事を成さなくてはならない。

 

 少しでも長く敵陣中央で()()()()()()暴れる事で、ダルシア首相の乗るチベをグラナダへ向かわせる時間稼ぎを。

 

『ガンダム……ガンダム!逃げるな!私からマレット様を奪ったガンダム!』

 

『──そうよ、撃ってきなさい!私は貴女もマレットも知らない。だけど、最期に受け止めてあげる事は出来る!』

 

 両腕の5連装メガ粒子砲だけで無く、両肩の大型メガ粒子砲をもサイコミュで制御して、圧倒的な火力で暗黒の宇宙を白く染め上げるリリアとキケロガ。

 

 同士討ちを恐れてこちらへ攻撃しきれない敵部隊だが、半ば暴走しかけているリリアは、それを意に返さずにメガ粒子砲を乱射し、結果として友軍のMSや船を撃墜する。

 

 擦り減り、崩壊しつつある自我を必死に保つリリアが思うのは、マレットの仇であるガンダムを倒す事のみ。それを邪魔する者は、全てが敵。

 

 

 

 

「──アレは制御出来ないのか?全く……多額の金を使って作った()()()だというのに、碌に命令も聞けぬとはな」

 

「はっ……デッキに居たフラナガン機関のスタッフも、全員が殉職しております。ガンダムを仕留めた後に、機体ごと処分もやむなしかと」

 

 パープル・ウィドウのブリッジでガンダム6号機とキケロガの戦いを観戦していたキシリアが、横に控えるトワニングに向けて不満そうに声をかける。

 

 ガンダムと互角以上に戦える戦闘能力は魅力的だが、こうまで自軍に被害が出るようでは使い物にならない。

 精々、特攻兵器のように敵軍に対して単騎で突撃させるくらいしか役に立たないが、そうするにはあまりに金がかかりすぎる。──キシリアは、そう冷めた考えをしながら戦況を見つめる。

 

 パーツ(リリア)の整備を受け持っていたフラナガン機関のスタッフは全員が殉職し、暴走が止まる気配も見えない。

 トワニングの提案に意を唱える事無く、キシリアは黙って頷く。──パープル・ウィドウの主砲砲塔が、螺旋を描きながら何度もぶつかる二機のMSに向けられる。

 

 

 

 

(速い!──彼女を墜とさなくては、旗艦はやれない!)

 

 照準が定まる前に、ノエルは反射的にビーム・ライフルのトリガーを引く。勘とも閃きとも言えるものに従って、幾度もメガ粒子の塊を敵機に向けて発射する。

 リリアの操るキケロガは、おおよそ人間が乗っているとは思えない加速で強引に回避行動を取った。

 

 旗艦を含め、敵部隊はこちらの攻撃に巻き込まれるのを恐れてか遠巻きに見守る程度で、攻撃を仕掛けてくる様子が無い。キケロガの攻撃は徐々に苛烈さを増し、ターゲットがノエルに絞られた事で鋭さも増してきている。

 

『ガンダムは私が絶対に倒す!マレット様の為に!』

 

6号機の上に回り込んだキケロガが両腕部の5連装メガ粒子砲を有線式サイコミュで展開し、肩部の大型メガ粒子砲と合わせてオールレンジ攻撃を仕掛ける。

 人間の死角から放たれる、必殺の一撃だ。

 

『くぅっ!』

 

 咄嗟に操縦桿を操作して、ガンダム6号機をその場で捻らせるノエル。何本ものメガ粒子の閃光を回避するが、鈍い衝撃と共に彼女の身体がシートに押し付けられる。

 有線制御されている右マニュピレーターを使って、メガ粒子砲を躱した直後の6号機を殴り付けたのだ、とノエルは気付いた。

 

『良いようにやられてばかりじゃ!』

 

 体勢を立て直した6号機がグレネード・ランチャーを放って敵機を牽制しながら、ビーム・サーベルを抜いて接近戦を仕掛ける。

 キケロガは遠距離から、サイコミュを用いた武装の大火力で敵を殲滅する事をコンセプトとした機体であり、ノエルの読み通り近接格闘用の武装は無い。だが──

 

『遅いのよ、ガンダム!この程度じゃないでしょう!マレット様を倒したガンダムは、もっと強くなくちゃ駄目なのよ!』

 

 BDIシステムで機体と繋がっているリリアの反応は、異常なまでに速い。

 多大な犠牲を払って実現しているBDIシステムで操縦しているキケロガは、操縦桿やペダルを使う事が無い。

 

 文字通り、思考するだけで機体を制御出来るリリアと、ニュータイプ能力があっても従来通りの操縦システムを利用しているノエルでは、僅かながらも機体の挙動速度に埋められない差が存在する。

 

『マレット様がそんな弱い存在に負ける筈が無いの!──私を、失望させるなぁっ!』

 

『くあっ……!振り解けないの……ぐうっ!』

 

 ビーム・サーベルを握った右マニュピレーターを恐ろしい反応速度で掴むと同時に、スラスターを全開にして蹴りを見舞うキケロガ。

 これまで以上に激しい衝撃に、ノエルはシートに身体を強く打ち付けられる。金属と金属が激しくぶつかり合い、6号機の機体内部のコンピューターが悲鳴を上げる。

 

『止めよ、ガンダム──!』

 

 両腕の有線式5連装メガ粒子砲を射出したキケロガ。

 先程の蹴りで機体、そしてパイロットである自身もダメージを負っていたが、ノエルが待っていたのはこの瞬間。

 

『──そこっ!』

 

 これまでの戦闘で、ノエルは敵の有線制御された腕や肩部メガ粒子砲がどのように配置されるのか、パイロットの癖とも言えるものを掴んでいた。

 有線制御である以上、極端に遠くまで伸ばす事は出来ず、なおかつ()()()()()()()()()()()()()()

 

 脳裏に閃いた感覚そのままに、何もない空間にビーム・ライフルの銃口を向けて、ノエルはトリガーを引いた。

 

『そんな──!?ぐぁうぅっ……頭が、割れるぅっ!』

 

 6号機が放った光弾は、寸分違わず射出されたキケロガの腕を捉えていた。ちょうど光弾が撃たれたところに、キケロガの腕が飛び込んできたかのように周囲からは見えたに違いない。

 

 驚愕するリリアだが、直後に思い切り頭を殴られたような痛みが彼女を襲う。MT-01で強制的に覚醒させている脳と、それに直接接続しているBDIシステム。

 更にはサイコミュ・システムからの逆流が起こり、リリアの脳は過負荷に耐えかねて断末魔の悲鳴を上げていた。

 

 自分の頭部を抑えて、まるで人間のような動きで苦しむキケロガ。射出された肩部メガ粒子砲は完全にその動きを止めており、攻撃を仕掛けてくる気配は無い。

 

(リリア──貴女は何故戦うの?)

 

 ノエルはその隙を見逃さず、6号機をキケロガに組み付かせると、その勢いのままでパープル・ウィドウに向けて突進していく。6号機の青白いスラスターの光が尾を引いて、美しい軌跡を描く。

 

(そんなのは愚問よ。私はマレット様の理想の為に戦っている。私は一人でも戦い抜いて、マレット様の考えが正しかった事を証明しなくちゃいけないの)

 

(理想?他人や死者を見下して、自らを選ばれた存在だと驕る事は正しくなんてない。それは貴女もわかっているでしょう?エゴよ、それは)

 

 感応し合い、一才の雑音が消えた空間でノエルとリリアは邂逅する。ニュータイプと強化人間であっても、お互いが共感した今なら、互いが考えている事は全てわかる。

 

 驕り高ぶり、自らを選ばれた人間として周りの人間を見下し、選ばれた人間が支配する世界を作るなど、絶対に間違っている。

 そして、それをリリアは分かっていた。それでも、彼女はこの道を選んでしまった。──理屈では無かったから。

 

 いつしか6号機は組み付いていたキケロガから離れ、二機は揃ってパープル・ウィドウへ向けて飛んでいた。

 

 迫るキケロガと6号機を迎撃せんと、パープル・ウィドウの砲塔からメガ粒子砲が絶え間なく撃ち続けられる。

 二機のMSはまるで何かに導かれるように、光線の雨を縫うように飛び続けた。

 

『リリア!?貴女、もう──!』

 

 キケロガが被弾し、ノエルは現実に引き戻される。グラナダ艦隊の旗艦、パープル・シャドウは目の前だ。

 旗艦さえ墜とせれば。だが、彼女もMSもとっくに限界を超えている──そこまで考えた時、通信が入る。

 

 ジオン共和国のMSとの通信の為に改良した為か、規格の違うシステムでもしっかりと通信を繋ぐ事が出来たが、モニターに映るリリアを見て、ノエルは息を呑む。

 

 ──もう、助からない。

 

 医学の知識の無いノエルが見ても、リリアがもう余命幾ばくも無い状態である事は、一目瞭然だった。

 キケロガ自体も先程の被弾で各部から火花が飛び散り、モノアイが不規則に点滅を繰り返しているのが分かる。

 

『あの……死んだら、人はどうなると思いますか?マレット様は死ぬとは負ける事。負けるとは劣っている事だと仰いました。貴女は、どう思いますか?』

 

 ノエルに通信で問いかけながら、リリアはキケロガを駆って単機でパープル・シャドウに突貫する。霞む目を必死で開き、襲いくるメガ粒子の光と無数のミサイルをガタの来た機体で躱しながら、ノエルの返答を待つ。

 

『──私には仲間がいる。名前を知る仲間も、名前も知らない仲間も。彼等がいたから、私はここまで戦ってくる事が出来たわ』

 

『────』

 

『救えた仲間もいる。志半ばで倒れた仲間もいる。だけど、死してなお、仲間は私達を支えてくれているの!たとえ……たとえ肉体が滅びても、魂が導いてくれている!』

 

 両足が吹き飛び、頭部にもミサイルが直撃してモニターの光が消える。機体が損傷する度に悲鳴を上げそうな程の痛みを脳は訴えるが、もはやリリアの痛覚は機能していなかった。

 

 たとえモニターが映らなくても、倒すべき相手がそこにいる事は分かっていた。ノエルが言う通り、死者の魂が生者を導いてくれているとしても。

 きっとマレット様は、キシリアを殺した私を許してくれないだろうな、とリリアは思った。

 

『願わくば、今度は救いのある世界に──』

 

 まるで我が子を抱く母親のように、傷付いたキケロガがパープル・ウィドウの艦橋を抱きしめるように抱え込む。

 ノエルとリリアの呟きが重なりあった瞬間、ノエルはビーム・キャノンのトリガーを引いていた。

 

 放たれた閃光は吸い込まれるように、キケロガとパープル・ウィドウを貫き、紅い輝きが虚空へ突き抜けた。

 機体と艦体に一斉に火花が弾け、次々に火柱が上がっていく。パープル・ウィドウの巨大な艦体全体に、炎が亀裂のように何本も走っていく。

 

 光が膨張し、キケロガとパープル・ウィドウは巨大な爆炎の中に飲み込まれ──閃光の中に消えていった。

 

 

 

 

 6号機のコクピットハッチを開き、ノエルはゆっくりと外へ向けて足を踏み出した。

 

 先程まで行われていた戦闘は、キシリア・ザビの死によって終焉を迎えていた。偶然にも、キシリアの乗るパープル・ウィドウが轟沈したその時、ア・バオア・クーもまた陥落していたのだ。

 

 ザビ家が滅び、母国であるサイド3を守る力も最早ジオンには残っていないと判断した、グラナダ艦隊司令官ノルド・ランゲル少将の勇気ある決断だった。

 

 コクピットを出たノエルの目に映るのは、負傷した兵士達を救助する為に、両軍のMSが協力して作業にあたる光景だ。先程まで殺し合っていた相手を助ける為に、人はこれほどまでに懸命になれる。

 

 ふと視線を下に向けると、呆れる程にボロボロになったデルタ・ツーとデルタ・スリー、そして帰るべき家であるトロイホースの姿が見えた。

 

 不意にどうしようもない衝動に襲われて、ノエルの瞳から涙が溢れた。仲間達にみっともない顔を見せる事は出来ないと思っていても、溢れ出した感情を抑える事は出来そうに無かった。

 

 コクピットに戻ると、やかましくこちらの安否を問う通信がひっきりなしに入ってくる。

 

『こちらガンダム6号機、デルタ・リーダー』

 

『うるさいぞ!静かにしていろ!……こちらトロイホース、ヘンケンだ。どうぞ?』

 

 ヘンケンをはじめ、ブリッジクルーやデルタ・チームの僚機、そしてジオン共和国軍のパイロット達からも、一斉に返答が返ってくる。

 ノエルは言いようの無い暖かさを胸の内に感じながら、何を言うべきか暫し逡巡するが──結局はいつも通りが一番だ、と平凡な事を口にした。

 

 

 

 

『任務完了!ノエル・アンダーソン中尉、これより帰還します!』

 

 

 

 

 ──この日、宇宙世紀0080.01.01。

 地球連邦政府とジオン共和国の間に、終戦協定が無事に締結された。

 

 

 

 




『機動戦士ガンダム戦記 ノエル中尉奮戦記』これにて完結となります。

昨年10月から連載を始めて約三ヶ月、私の拙い小説を読んでいただいた方々、本当にありがとうございました!
割と行き当たりばったりで思い付いた展開を書いてしまっていたりして、連載開始当初に思い描いていたものとはだいぶ違う物語となりましたが、それでも書きたいと思ったものは書けたかなぁ……と思っています。

皆様のお気に入り登録や感想、評価にはとても勇気づけられ、感想と評価を始めていただいた時の嬉しさは今でも覚えています。

他の素晴らしい小説が多数ある中で、時間を割いてノエル達の物語を読んでいただいた事に、再度の感謝を。
もしよろしければ、最後まで読んでいただいた感想と評価をいただければ幸いです。

それでは読者の皆様方、本当にありがとうございました!
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