【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記 作:B.I.G
前話のUAが他の話よりもめちゃくちゃ多くてびっくりしました。
「あの……ノエル中尉は何故軍に入ったんですか?」
MSデッキで修理されるガンダムを見ながら、アムロはふとノエルに軍に入った理由を聞いた。
マチルダ中尉が補給部隊に入った理由……『戦争という破壊の中で、ものをつくることができるから』そんな理由を聞いたアムロだったが、彼自身まだ自分が戦う理由を見つけきれていなかった。
「なんで軍に入ったか、かぁ……アンダーソンの家は代々軍人の家系でね。祖父も父も軍人で……だからかな。いつの間にか、立派な軍人になりたいと思ったの」
「お祖父さんやお父さんが立派な方だったから、ですか?」
「それも勿論あるけれど、戦争を早く終わらせたいって思ったから。もっとも一兵士に出来る事なんて限られてるし、アムロ君達民間人に戦ってもらってる有様だけどね」
そう言って恥ずかしそうに微笑むノエルを見て、アムロも彼女に笑みを返す。
大義や理想といった大袈裟な理由では無いかもしれないが、戦争という非日常、異常な状況の中であっても、マチルダもノエルも自分なりの戦う理由を持っている。
そして今もまた、自分達の戦場で懸命に戦い続けている……その事にアムロは大きな感銘を受けた。
「ねぇ、アムロ君。戦争に勝つために必要な死者の人数って、何人なんだろうね」
ジオンのブリティッシュ作戦で引き起こされたコロニー落としの直接的な人的被害は23億人。
その後の疫病や飢餓で、総被害は40億人にのぼったとされている。
彼らは本当にジオンが戦争に勝つために必要な死者の人数なのだろうか。
地球人口の半数を死亡させ、それでもなお戦争は続いている。
ノエルの呟いた言葉に、アムロは何も答える事が出来なった。
■
(下に避けて、ノエルさん!)
アムロが言葉で発した訳では無い。
コクピットにドムの構えたジャイアント・バズの銃口が向けられ、撃たれると思った瞬間にノエルの脳内に言葉が走った。
(アムロ君……!?)
生存本能が彼女の身体を無意識のうちに動かしたのか、それともアムロの言葉に反応したのか。
ガイア機に腕を溶断された際の衝撃で機体が倒れ込むのを利用し、左手に装備した大型シールドをボードの様に使いながらスラスターを最大噴射。
スライディングをするように、土埃を巻き上げながらマッシュ機とオルテガ機の横を勢い良く滑り抜けるノエルのガンダムFSD。
『よ、避けた!?ジェットストリームアタックを凌ぎやがったのか!信じられん!』
マッシュ機の横をガンダムFSDが滑り抜けた瞬間、間一髪のタイミングで発射されたジャイアント・バズの弾丸が地面を穿ち、爆炎と共に大穴を開ける。
最後尾で追撃を仕掛ける算段だったオルテガからしても、一瞬の内に黒いガンダムが視界から消えたようにしか見えず、思わず驚愕の声を上げた。
『むぅっ!黒いヤツもあなどれん……!マッシュ、オルテガ、一度体勢を立て直せ!』
ガイアからしても必殺のタイミングで放たれたマッシュの一撃を避けられ、絶対の自信を持っていたジェットストリームアタックを凌がれた衝撃は大きい。
すぐさま追撃を仕掛けたいところだが、ここでドムの熱核ジェットエンジンによるホバー移動の弱点が露呈する。
従来の機体とは違う高速移動を可能にしたドムだったが、ホバー移動はいかんせん急制動が難しく、小回りが効かない。
『そこだっ……ちぃっ!バ、バルカンが効かないのかっ!』
ノエルがドムの攻撃を避け切った事に安堵するアムロだが、目の前の敵機が一瞬動揺した隙を見逃す手はない。
コクピットに向けて頭部バルカン砲を連射するが、マッシュ、オルテガに指示を出しながらも、ドムの左手でそれを防ぐガイア。
至近距離での60mmバルカン砲の威力は強力だが、ドムの重装甲を貫くには至らずにアムロは思わず舌打ちをして悔しがる。
(ビームライフルがさっきの突進で損傷している!ここで一機でも仕留めたかったけど……!)
先程ガイア機の突進を受け止めた際に、右手に持っていたビームライフルは損傷し、遠距離から攻撃する事が出来なくなっていた。
高速移動するドムが止まっている状況で一機でも撃墜したかったアムロだったが、結果として失敗した事に歯噛みする。
『抜け目の無い……!だがいけるぞ!マッシュ、オルテガ!もう一度ジェットストリームアタックだ!』
『おう!今度こそ仕留めてやるぜ……!』
『あと一息ってところを!やってやるぞ!』
こちらが動揺している事を見抜き、僅かな隙を突いて攻撃してきたガンダムを突き飛ばし、一度ガンダムと距離を取るガイア。
すぐさまマッシュ機、オルテガ機も合流して隊列を整える黒い三連星の動きに乱れは見えない。
至近距離から攻撃を加えられたガイア機も戦闘に支障は無いようで、ヒートサーベルを右手に装備。
再びジェットストリームアタックの態勢になると、加速度的に勢いを付けながら再び二機のガンダムに襲いかかる。
(やれるの、私に……アムロ君の声が聞こえなかったら今頃……)
漆黒の暗闇の中で不気味に光るモノアイが三つ、縦横無尽に動き回りながらこちらを狙う様を見て、まるで死神が列をなしてやってくるようだ、と彼女は思った。
あとコンマ数秒遅ければ、今頃自分はあの死神の手で死んでいた。
ノエルのノーマルスーツの下は冷や汗でぐっしょりと濡れており、今でも生きた心地がしなかった。
『来るのか!?ノエル中尉、お怪我はありませんか!』
『あ、ありがとうアムロ君……大丈夫、やれる!』
それでも、アムロの気遣うような声に気持ちを切り替える。
ガンダムFSDの左腕にビームサーベルを握らせ、ノエルは深く息を吸った。
先程まで止まらなかった手の震えは、いつの間にか止まっていた。
■
「カイ達はまだ合流できないか!?ええい、ホワイトベースは弾幕を張ってガンダムを援護だ!敵MSを近づけさせるな!」
ホワイトベースのブリッジでブライトが矢継ぎ早に指示を飛ばす。
別働隊に対処しているラリーやアニッシュ、カイはまだこちらに合流する事が出来無い為、連装機関砲の支援砲撃でガンダム二機が体勢を立て直す時間を稼がなければならない。
弾幕の雨を難なくすり抜けるドムの動きに舌を巻きながら、ブライトはMSデッキのコア・ブースターに通信を送る。
「セイラ!コア・ブースターは発進出来ないのか!アムロとアンダーソン中尉が危ない、援護が欲しい!」
『ブースターユニットの出力が安定しないのよ!コア・ファイターとしてなら出れるけど、それでもよくって!?』
コア・ブースターであれば強力なメガ粒子砲を装備している事もあって、対MS戦の戦力としても数えられるだろうが、コア・ファイター単体では戦闘機の域を出ない。
セイラの腕が悪い訳では無いが、アムロをして苦戦を強いられる程の相手を前にして、不調の機体を使ってまで彼女を出撃させる判断をブライトは下さない。
そんな事をすれば、何かあったらリュウが許してくれんだろうとブライトは心の中で思いながらゲキを飛ばす。
「弾幕薄いよ!何やってんの!?」
■
『ジェットストリームアタックを凌ぐとは、あのパイロット連中は間違いなくニュータイプだ。ここで確実に落とさせてもらう!』
土埃を上げながら、ヒートサーベルを構えたドムがガンダムに迫る。
MSと戦艦が勝手が違うにせよ、初見のジェットストリームアタックを凌いだパイロットをこのまま野放しにすれば、必ずジオンの障害となるとガイアは直感していた。
『来る……ノエル中尉、僕の後ろに!』
射撃武器を失ったりガンダムはシールドとビームサーベルを構え、ノエルのガンダムFSDを守るように立ちはだかった。
ノエル機は大型シールドを折り畳み、左手でビームサーベルを構えながらアムロ機の後ろで待機する。
(タイミングを逃すなよ、アムロ……)
先程と同じで有れば、先頭のドムがサーベルで斬りかかり、次いで二番機三番機のドムがジャイアント・バズでとどめを刺しにくる筈だとアムロは考える。
間合いを図るようなガンダムの挙動を見て、コクピットの中でガイアがしてやったりと不適な笑みを浮かべ、トリガーを引いた瞬間──
『し、しまったっ!』
『貰ったぞ、白いMS!』
ドムの胸部に装備された拡散ビーム砲が輝き、ガンダムのアムロの視界を眩い光が遮った。
完全な不意打ち、今までの戦闘で一切使用していない武装だ。
先程のガンダムFSDと同じように、今度は確実にコクピットを貫くとばかりにヒートサーベルを突き出したドムだったが、ガンダムの姿はそこには無い。
アムロの行動は、歴戦のエースパイロットであるガイアの想定を遥かに超えていた。
『俺を踏み台にしたぁ!?』
空中に飛び出したガンダムに狙いをつけたマッシュのドムが、先程の攻撃の巻き戻しのように狙い澄ました一撃を放つ。
必殺のタイミングで発射されたジャイアント・バズを躱す為、アムロはガイア機を踏み台としてガンダムの挙動を変えると、バズーカの弾頭を潜り抜けた勢いのままにビームサーベルをマッシュ機の胴体に突き刺した。
『貴様ぁ!よくもマッシュを!……うぉぉっ、ば、馬鹿なぁっ!?』
目の前でマッシュのドムが串刺しにされ、激昂するオルテガ。
動きを止めたマッシュ機を飛び越えるように機体をジャンプさせてガンダムを狙うが、そのガンダムの後ろから飛び出してきたのは黒い機体、ガンダムFSDだ。
『うわぁぁぁっ!!』
黒い三連星のお株を奪う波状攻撃で、奇襲に驚くオルテガ機の胴体を横なぎにガンダムFSDのビームサーベルが切り裂いた。
オルテガ機が切り裂かれるのと同時に、アムロも突き刺したビームサーベルを振り抜いてマッシュ機を機体の中心から真っ二つに両断し、二機のドムが同時に爆発を起こす。
『マッシュ、オルテガっ!!こ、この黒い三連星が、たった二機のMSに……うおわぁっ!?』
マッシュ、オルテガのドムが立て続けに撃破され、驚愕したガイアは思わずドムの動きを止めてしまった。
開戦以前の教導機動大隊からトリオを組んでいた戦友が……ルウム戦役を共に戦い、ジオン十字勲章を頂いた戦友が死んだ。
動揺で動きをとめてしまった代償は大きく、背後から浴びせられたガンタンク、ガンキャノン、ジム・キャノンの砲撃が直撃し、僚機と同じようにガイアのドムも爆散。
開戦直後から連邦軍の兵達をその恐るべきコンビネーションで苦しめ、恐れられた黒い三連星は、黒海の地で散った。
戦いを終え、傷付いた船体の修理を終えたホワイトベースは一路オデッサへ向かう。
地球連邦軍の初の大規模な反抗作戦であるオデッサ作戦が目前に迫っていた──