【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記 作:B.I.G
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─ 南米 地球連邦軍本部ジャブロー ─
「FSWS計画?なんです、それ」
「一言で言えば、ガンダムの強化プラン。アムロ君や私のガンダムから得られた運用データをフィードバックして、増加装備を開発ってところね」
ミデア輸送隊の護衛任務を無事に終えた
オデッサ作戦は無事に連邦軍の勝利で終わり、地球上のミリタリーバランスは一気に連邦軍の優勢に傾いた事になる。
地上戦力の約三割を注ぎ込んだ大規模反抗作戦が無事成功した事で、地球連邦軍本部であるジャブローにも安堵したような空気が流れていたが、戦争が終わったわけではない。
ジャブローのドッグは
もっとも、一つの大きな作戦が終わってもノエル達
「フルアーマーガンダム……MS単体に戦艦クラスの攻撃力を持たせる事が目的、ね。単機で戦況を変えようとでも言うの?」
開発部から渡されたディスクの中に入っていたのは、ガンダムの強化プランである「フルアーマー・オペレーション」のファイル。
まだ実機は完成していないと聞いているが、トータルバランスに優れたプランA、単機で対艦戦闘に耐えうるプランB、重力下運用に特化したプランCの三つの増加装備を追加したガンダムFSDのシミュレーション・データが入っていた。
先の黒い三連星との戦いで損傷を受けたガンダムFSDは現在修復作業中で、出撃は叶わない状態にある。
元々がデータ収集の為に製造された先行量産機であるガンダムFSDの予備パーツの数は少なく、高品質なパーツを使用している事もあってか、ジムのパーツとの互換性にも乏しい。(とは言え、RX-78-2よりマシではある)
高性能な機体である事に疑いの余地は無いし、ガンダムFSDの性能のおかげで命拾いした事は確かだが、メンテナンス面の融通の効かなさはノエルも頭を悩ませる一因だ。
「オデッサじゃ、アムロの奴相変わらずの活躍っぷりだったらしいですからね。噂じゃ発射されたミサイルの信管だけを空中で切り落としたとか」
「それが本当なら、ガンダム単機で戦況を変えようなんて思う人間がいるのも──いや、しかしなぁ……」
オデッサ帰りの戦車乗りに聞いた話ですけどね、とアニッシュが眉唾物のアムロの武勇伝を語ると、ノエルもラリーもあまりの荒唐無稽っぷりに目を白黒させる。
飛翔するミサイルを撃ち落とすならともかく、信管だけを狙って、しかも空中で切り落とすなど到底人間業とは思えない。
思えないのだが、アムロならやりかねないと思ってしまうノエル達三人。
ちょうどホワイトベースも長い旅路の末に、ようやくジャブローに辿り着いたと聞いている。
検査や任官式等でホワイトベースのクルーと会える機会がまるで無い為に、まだアムロやブライト達との再会は出来ていないが、今度会った時には事の真偽を聞いてみようと決心するノエルであった。
■
─ ジャブロー施設内 シミュレーションルーム ─
『凄い火力と機動力……タイプAとタイプCはともかく、タイプBは小隊運用する設計思想じゃないのは明らかね。二人とも、新型ジムの乗り心地はどう?』
『この機体、陸ジムと比べても挙動が安定してて良い感じですよ!ラリー少尉はどうです?』
『ご機嫌だなアニッシュ。だがこのジム・スナイパーllの性能は凄いぞ。狙撃性能は勿論だが、機動性がジム・キャノンとは段違いだ』
地球連邦軍初の正式な量産型MS RGM-79 ジム。
RX-78の廉価版として設計されたジムだったが、初期生産型は数優先の粗製乱造とも言われ、カタログスペックに遥かに劣る性能しか出せなかった。
その為に基本設計により忠実な機種の数々が開発され、主に後期生産型と呼ばれる機体や、熟練パイロットの要望を聞き入れて前期生産型をベースとしたカスタム機が生まれる事となる。
ラリーが搭乗しているのがRGM-79SP ジム・スナイパーll 。
地球連邦軍MSの中でもガンダムを超えるカタログスペックを誇り、実際に配備されれば大きな戦力になる事は間違いないだろう傑作機。
(良くその機体名称から狙撃専用機と思われがちな機体ではあるが、正確には"狙撃機能を有した熟練パイロット向けの汎用機"が正しい)
アニッシュが搭乗しているのはRGM-79SC ジム・スナイパーカスタム。
熟練パイロット向けに少数生産された総合的な性能強化型で、その性能はRX-78 ガンダムに匹敵する高性能機に仕上がっている。
(これまた誤解を招いている機体だが、スナイパーカスタムは狙撃を意図した機体では無く、頭部バイザーもスナイパーllの物とは違う格闘戦用の物だ。そもそも"スナイパー"はラグビー用語らしく、勘違いする連中が多いと開発班が愚痴を言っているのをノエルは聞いていた)
「フルアーマープランを装備したガンダムならともかく、通常装備のガンダムとならスペックは同等……大きなアドバンテージはルナ・チタニウムの装甲くらいかな」
データを収集しながら、機体スペックや武装を鑑みて部隊のフォーメーションや戦術を頭の中で模索するノエル。
既に先行量産されたジム・スナイパーll、ジム・スナイパーカスタムの二機は第三小隊に配備されており、目下調整作業中だ。
(高性能な新型機の配備はありがたいけど、次はどこの激戦区に回されるのかしら)
ラリー機、アニッシュ機のシミュレーションデータを記録しながらコンソールを叩いていると、不意にシミュレーションルームの扉が開くと同時に男性の声が聞こえて、ノエルは首を傾げながらシミュレーターの外に出る。
(シミュレーションルームは予約制のハズだけど……?)
「まったく!いつになったら待機命令が解かれるんだ!身体が鈍っちまってしょうがないぜ!」
「おいフォルド!使用中のランプが付いてるのがわからないのか!ちょっと待てって……」
シミュレータールームの扉を開けて入ってきたのは、二人の成人男性だ。
黒髪の若い男は威勢よく声を上げているが、どうやら使用中のランプが付いている事にも気が付かなかったようで、年上の男に窘められている。
普段から男所帯の部隊にいるノエルだが、黒髪の男を見てあまり好きなタイプでは無いなと頭の片隅で思う。
容姿云々の話では無く、こういうタイプの兵士は往々にして自己中心的で部隊の和を乱しやすいというのが彼女の持論だ。
「あれ、先客がいたのか?」
「だからさっきから何度も言ってるだろ!本当にお前は人の話を聞かない……いや、お邪魔してしまって申し訳ない。サラブレッド隊のルース・カッセル中尉だ。こいつはフォルド・ロムフェロー中尉」
「MS特殊部隊第三小隊隊長、ノエル・アンダーソン中尉です。こちらは部下のラリー・ラドリー少尉とアニッシュ・ロフマン曹長。サラブレッド隊と言うと、ガンダム4号機と5号機の」
「MS特殊第三小隊……黒いガンダムの噂は聞いてたよ。オレ達のガンダムは宇宙専用機として設計されてるからな、宇宙への出港待ちなんだが……」
外の騒動を聞きつけて、何事かとシミュレーターから出てくるラリーとアニッシュをサラブレッド隊のパイロット二人に紹介するノエル。
(ルースはともかく、喧しかったフォルドはフルアーマー・ガンダムFSDのシミュレーション・データに釘付けになっており、ノエルの事を無視したような態度にラリーとアニッシュは冷や汗をかいていた)
サラブレッドは"改ペガサス級"に分類される隠密機動戦を主眼にした戦艦だ。
艦載機のガンダム4号機、5号機はセカンドロットシリーズに属する機体で、特に宇宙での高機動戦闘に特化した機体だとノエルはコーウェン准将から聞いていた。
実機は見た事が無いが、噂ではガンダム4号機から6号機が完成間近だと言うのがもっぱらの噂だったから、ノエル自身も興味がある話だった。
「なあ!これガンダムの強化プランのシミュレーション・データだろ!?実機はどこにあるんだ?いや、ちょっとシミュレーターで動かしても良いか!?」
「お、おいフォルド!無理に決まってるだろ!無茶を言うな!」
「なああんた!この部隊のオペレーター?ちょっとだけだからさ、良いだろ?」
「オホホ……カッセル中尉。ロムフェロー中尉は後でしっかり
ルースと和やかに話をするノエルを見てほっと胸を撫で下ろすラリーとアニッシュだったが、会話に入ってきたフォルドの言葉を聞いて頭を抱える。
フルアーマー・ガンダムFSDのシミュレーション・データに夢中だった彼は自己紹介なぞどこ吹く風とばかりに聞いていなかったようで、よりにもよって隊長であるノエルの事をオペレーター扱い。
(彼女自身ジャブローでの厳しい訓練課程を経てパイロットになり、今まで最前線で戦って生き残ってきた自負がある。まだ実戦経験の無いひよっこパイロットにオペレーター扱いされる筋合いは無い──その日はそんな愚痴が止まらなかったのは余談だ)
ルースも青い顔をしているが、怒りをグッと飲み込みながらシミュレーターの使用許可を出すノエル。
実戦経験が無いとは言っても、連邦の虎の子、新型機であるガンダム5号機を任せられる程のパイロットで有れば、彼の操縦データはあって損するものでは無い。
そう自分に言い聞かせて、大人の対応を取るノエルのこめかみには青筋が立っていた。
──まるで敵機に撃墜される寸前のようなプレッシャーを感じた、とルース以下三人のパイロットは後に語る。
■
「しかし隊長、随分と喧しい連中でしたね……っと、こりゃ俺の勝ちかな?」
「全くだ。おかげで俺達の訓練する時間が減っちまったぜ。……ラリー少尉、イカサマしてるんじゃないでしょうね?」
「程々にしておきなさいよ、アニッシュも熱くならない事ね」
シミュレータールームでの出来事があった翌日、データをまとめたノエル達は休息を取っていた。
ラリーとアニッシュは昨日の出来事を話しながらトランプに興じているが、今のところはアニッシュの五連敗と旗色が悪い。
ノエルからはラリーのズボンの後ろポケットに入っているトランプが丸見えで、
(操作能力と反応速度がずば抜けている……流石ガンダムを任せられるだけの事はある、か。私も負けてはいられない)
ノエルが分析しているのはフォルドとルースがフルアーマー・ガンダムFSDを操縦したデータで、二人とも操作能力と反応速度は非常に高い。
あまり同じ部隊で戦いたいとは思わないタイプのパイロットである事には変わりないが、その高いポテンシャルにはノエルも舌を巻く。
アムロは勿論、あの二人にも自分の能力が劣る事を自覚して訓練プログラムの作成を行うノエルだったが、地響きのような音と同時に地下基地全体が僅かに揺れる。
「定期便ですか。しかし今日のは嫌に正確な狙いだな」
パラパラと埃が落ちてくる天井を見上げて、ラリーが呟く。
南極条約で再度のコロニー落としを封じられたジオン軍は、占領地からガウによる空爆を度々実施。
しかしながら厚い地盤と対空砲火に阻まれてジャブローが受けた被害は少なく、連邦軍兵士からは"定期便"と揶揄されていた。
ノエル達がジャブローに帰投してからも何度もあった定期便だが、今日のソレはラリーの言う通りに正確な狙いだ。
──嫌な予感がする、とノエルは思った。