【完結】機動戦士ガンダム外伝 ノエル中尉奮戦記   作:B.I.G

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水中型ガンダムは前話ではプロトタイプでしたが、正式量産機へ変更しました。



MISSION 7 「ジャブローに散る」

『……なに?鳥、だと?』

 

 ゴッグのパイロットであるゼイガン大尉は仕留めたジムのコクピットからアイアンネイルを引き抜きながら、友軍との交信を図る。

 ジャブローに何とか降下する事が出来たMSはその半数以上が既に撃破されてしまったのか、呼び掛けても殆ど反応が無かった。

 

 ジャブロー内部に潜入したシャア・アズナブル大佐率いる特殊工作部隊も任務に失敗し、既に敗走したとの連絡が入っている。

 もはやジャブロー降下作戦の目的を果たす事は不可能と言わざるを得ない。この追い詰められた状況では、一人でも多くの兵を逃さなくてはならなかった。

 

 友軍の援護に向かう為に水中を進むゼイガンだったが、先ほど微かに聞こえた通信が気にかかっていた。

──赤い眼の鳥が襲ってくる。確かにそう聞こえた。

 鳥とはなんだ?連邦軍には羽の生えたMSが居るとでも言うのか?

 

 

 

 

『これで四機!徐々に他の部隊も地上に出て応戦してくれてる……これなら!』

 

 南米アマゾン川流域の地下にあるジャブロー基地だが、当然ながら地上はジャングルと広大な河川で囲まれた熱帯地域だ。

 鬱蒼と生茂る木々がMSの行く手を遮り、それを嫌ったとしても場所によってはMSの巨体が完全に沈む水深の河川では、陸上兵器の機動性は目に見えて落ちる。

 深いジャングルの中で友軍同士の連携もままならないジオンのMSを、ノエルは"奇襲"で確実に一機ずつ仕留めていく。

 

 (ザクが二機にドムが一機……装甲が厚くて厄介なドムを潰したいところね)

 

 水中型ガンダムの後頭部カメラには有線式潜望鏡が装備されており、水中に居ながらも水上の様子を伺う事が可能だ。

 先程一個小隊を始末した所を見られていたのか、三機の敵MSは背中を見せないように周囲を警戒している様子が見て取れる。

 幸いにもガウ攻撃空母の爆撃によって崩れた大量の土砂が河川に流れ込み、茶色く濁った水の中に潜む水中型ガンダムを目視で発見するのは至難の技だ。

 

 敵MS小隊が陣取っている陸地周りの水中でタイミングを図るノエル。

 これまでの戦闘で偏光ビーム・ライフルとハープーン・ガン、魚雷は全て撃ち尽くしている。使えるのは近接用武装のみだが、補給に戻れる状況では無い。

 ザク相手ならばこの武装でも問題にならないが、重装甲のドムはやはり厄介な相手だとノエルは考える。

 この環境であれば黒海で戦った時のような圧倒的な機動性は発揮出来ず、ドムの強みは殺しているも同然だが、油断は出来ない。

 

──じっとりと汗で濡れたグリップを握り直して、ノエルはトリガーを引く。

 

『行って!アンカー!!』

 

『な、なんだぁっ!?うぉっ!ひ、引きずり込まれるっ!?』

 

 ノエルは右腕に装備されたハンド・アンカーを発射すると、ドムの脚部をガッチリと捕らえた。

 標的を捕らえた事を確認すると、そのまま不意打ちに対応出来ていないドムを水中に引き摺り込む。

 

 ノエルが勢い良くアクセルペダルを踏み抜くと、各部のハイドロジェットが最大出力で起動。

 汲み上げた水を高圧ポンプで後方のノズルから勢い良く吐出する事で圧倒的な推進力を得るハイドロジェットシステムは、水中ならば陸戦機の追従を許さない機動性を得る事が出来る。

 

 隊長機が突如水中に引き摺り込まれて狼狽するザク二機の射程から逃れるように、ドムを捕らえたままで水中を高速で移動する水中型ガンダム。

 

(っ!レッドアラート……!耐えて!)

 

 水中内で浮力が働くとは言え、62.6tもの重量を誇る重MSを引っ張る右腕とハイドロジェットを全開で使用しているランドセルが悲鳴を上げる。

 コクピット内にレッドアラートが鳴り響くが、ノエルはそれを無視した。今止まれば体勢を立て直したドムに背後から撃たれる。

 

『くあっ!……はぁっ、はぁっ……五機目……!』

 

 ザクから十分に距離を取ると、アンカーで捕らえたドムを土手に激突させ、強いGの中で舌を噛まないように歯を食いしばっていたノエルがようやく機体の動きを止める。

 彼女以上に強い加速Gと激突した際の衝撃を受けたドムのパイロットは完全に失神しているようで、機体はぴくりとも動く気配が無い。

 

 ビーム・ピックをドムの四肢に突き立てて切断し、完全に敵機の戦闘能力を奪うと、大きく息を吐き、深く息を吸う。

 ノエルは汗に濡れて頬に張り付く髪を鬱陶しく感じながら、軍服の袖で額を拭った。

 シートベルトが身体に食い込み、鈍い痛みを感じる。軍服の前を開けて呼吸を楽にしながら、やはりノーマルスーツを着てくるべきだった、と彼女は思った。

 

 ふと空を見上げてみれば、黒煙を上げるガウを追い立てるように戦闘機がミサイルを放ち、着弾した両翼が爆炎を上げている。

 大量の爆弾を投下し、MSを降下していたガウ攻撃空母は執拗な対空砲火や迎撃戦闘機の攻撃、ラリー機の狙撃でその半数以上が撃墜されていた。

 

 

 

 

─ ジャブロー上空 ─

 

『ホラホラ、もっと良く狙いなよ!』

 

『は、早いっ!なぜ当たらないんだ!」

 

 地球連邦軍の防衛用高高度戦闘機、FF-6 TINコッド。

 ガンダムを始めとするRXシリーズの中核を成すコア・ファイターの開発母体となった機体だ。

 TINコッドは高い機動性を駆使して、追いすがるジオン軍の小型戦闘機、ドップを翻弄する。

 焦ったジオン兵がバルカンを乱射するが、その弾丸はまるで生きているかのように軽やかに空を舞うTINコッドの翼を捉える事が出来ない。

 

『あまり格好のつかない愛称だが、レディキラーの名は伊達じゃねぇ!ってか?』

 

『うわぁーっ!やられた!だ、脱出っ!』

 

 戦闘機同士のドッグファイトを制したのは、地球連邦空軍所属のパイロットであるテキサン・ディミトリー中尉だ。

 先の戦いであるオデッサ作戦ではドップ以下敵機34機を撃墜し、第一等戦功殊勲章を受ける程のエースパイロットである。

 (持ち前の甘いルックスから、空軍の仲間達から"レディキラー"の愛称でテキサンは親しまれていた。決してだらしのない女誑しという意味では無いという事を、彼の名誉にかけて記しておく)

 

 火を吹くドップからベイルアウトするジオン兵を見送りながら、テキサンは口笛を吹いた。

 オデッサでの戦闘を終え、ジャブローに召喚されたのはまだ良かった。

 しかしながら、まさかここまで大規模な戦闘に二度も続けて駆り出されるとは思っても見なかった事だ。

 

『敵の航空戦力はこれでほぼ壊滅させたな……あれもガンダムか?──やるねぇ、まるで翡翠(カワセミ)だ』

 

 眼下を見下ろしてみれば、テキサンの視界に入ったのは青いガンダムタイプのMSが水上を飛び跳ねるようにバーニアを吹かして接近し、ビーム・ピックの一突きでザクを撃破する姿だ。

 (水中型ガンダムはジムでありながら()()()()()()()()()()()()という非常に紛らわしい機体である為、テキサンが誤認したのも当然だ)

 

 オデッサでもガンダムが水爆の信管を空中で切り落とす神業を間近で見ていた彼は、自軍に頼もしい戦力がいる事に安堵しながらも、戦場の主役がもはや戦闘機では無い事に一抹の寂しさを覚えていた。

 しかし彼にも戦闘機乗り(TINコッド・ドライバー)としてのプライドがある。

 部隊の仲間が次々にMSパイロットへ転向していく中、あくまでテキサンは空を飛ぶ事に拘った。

 

 敵の航空戦力は壊滅したが、まだ地上ではMS隊が掃討作戦を継続している。

 TINコッドの武装ではMSに決定打を与える事は難しいが、援護をするだけならお手の物だ。戦闘機には戦闘機なりの戦い方がある。

 テキサンは機体を翻し、地上部隊への援護をする為にスロットルを全開にして、機体と共に風となる。

 

 いつしか日が沈み始め、ジャブローの木々や広大な河川は夕焼け色に染まっていた。

 

 

 

 

 あれほど激しく鳴り響いていた銃声は少なくなり、夕暮れのジャブローは僅かに残った敵MSの掃討へと移っている。

 オープンチャンネルでジオンのMSに投降を呼びかける声が響く中、ノエルと水中型ガンダムはゴッグと対峙していた。

 

(ドムを倒すのに無茶をし過ぎた……右腕は殆ど動かない)

 

 水中型ガンダムの右腕はダラリと垂れており、時折火花が散っているのが見て取れる。

 重MSであるドムをハンド・アンカーで無理矢理捕獲した上に引き摺り回した代償で、駆動系に深刻なダメージを負っているようだ。

 けたたましくコクピットの中で鳴り響くアラートを切りながら、ノエルは唇を舐める。この状況下で、無理に一対一の戦闘を仕掛ける意味は無い。

 

──仕掛けるか、それとも引くか。

 

 

 

『おのれガンダム……!貴様はここで足止めさせてもらうぞ……撤退の邪魔はさせん……!』

 

 一方のゼイガンが操るゴッグもまた問題を抱えていた。ゴッグの主武装である腹部に搭載されたキアM-23型メガ粒子砲はジェネレーター直結式の為、ビーム・ライフルとは違って弾切れは無い。

 しかし本体のジェネレーターを使用する為に機体への負荷は大きく、事実これまでの戦闘で酷使したゴッグは既に悲鳴を上げていた。

 

 ジリジリと間合いを図るように距離を詰めるゴッグ。ゴッグの両腕は近接格闘用装備とマニピュレーターを兼ねる巨大な爪(アイアン・ネイル)だ。

 ジムの装甲として使われているチタン・セラミック複合材程度ならば容易に貫く程の威力を誇る。

 

 ゼイガンの目的はあくまで友軍が撤退するまでの時間稼ぎだ。もはや自分が生きて帰れるなどとは微塵も思っていない。

 その意味で言えば、この膠着状態はゼイガンの狙い通りだったと言えるだろう。撤退する機体はユーコン級の潜水艦やマッドアングラーが回収する手筈となっている。

 水中戦に特化した数少ない機体である水中型ガンダムさえ足止め出来れば、それだけ多くの仲間を救う事が出来る、とゼイガンは集中していた。

 ──()()()ゼイガンは上空から襲ってきた戦闘機への反応が一手遅れた。

 

 

 

『痺れる攻防してる所に悪いが、援護させてもらう!食らいなっ!──今だぜ、ガンダム!』

 

 上空から強襲してきたテキサンのTINコッドがありったけのバルカンをゴッグに向けて放つ。

 対戦闘機相手としては十分な性能を誇るTINコッドだが、MSの装甲を貫ける武装は持っていないし、それが重装甲を誇るゴッグ相手なら尚の事だ。

 バルカンの雨を浴びたゴッグに深刻な損傷は見て取れない。しかしながら、思いもよらぬタイミングでの奇襲にほんの数秒の()が生まれる。

 

 テキサンはTINコッドのバルカン程度で敵を撃破出来るとは最初から考えてはいない。必要だったのは敵の気を逸らす事。

 バルカンの弾丸がゴッグの周囲の水面に着弾し、水飛沫が視界を遮った瞬間にテキサンは水中型ガンダムへ向けて声を上げる。

 

 その瞬間、ノエルは水中型ガンダムのスラスターとハイドロジェットを全開にして空を翔た。

 ランドセルから大量の水を()()()()()()()()()()吐出させ、水飛沫をその身に浴びながらゴッグへ向けて加速する。

 

 

 

『小癪な真似をっ!墜ちろ、ガンダムっ!』

 

 一瞬遅れて水中型ガンダムが突貫してくる事に反応したゼイガンが、まるで抜き手のようにアイアン・ネイルを突き出す。

 間違いなくコクピットを貫いた。そう確信したゼイガンだったが、ゴッグの右マニュピレーターは半ばから両断されていた。

 茫然とするゼイガンの目の前に、バイザーの下に()()()を光らせた水中型ガンダムが迫る。

 

──そうか、こいつが鳥か。俺達に死を運ぶ凶鳥か。

 

 

 

『遅いわ!──これでっ!』

 

 突き出されたアイアン・ネイルは、間違い無くコクピットを貫く軌道だった。それを躱す事が出来たのは、黒海で黒い三連星と戦った事があるからだ。

 あの時のヒート・サーベルの鋭い一撃は、こんなスピードでは無かった。ゴッグの巨大な爪を機体を捻りながら回避し、伸びきった蛇腹状の多重関節の隙間を狙って両断。

 着水と同時に、逆手に持ったビーム・ピックを胸部コクピットに突き入れる。

 

 敵を倒す事に躊躇はしない。そうで無くては、次に倒されるのは自分だから。

 

 

 

──ジャブロー攻撃を行ったジオン軍MS部隊は同日中にはほぼ壊滅、撤退を図ったMSもその殆どが撃破され、生還したMSはほんの数機に過ぎなかった。そして、作戦目的である宇宙港の破壊も果たされる事は無かった。

 

 ジオン地上軍最後の攻撃作戦は完全な失敗に終わったのである。

 

 そして、ほんの数機の生還したMSパイロットは確かに見ていた。

 赤い眼を輝かせ、まるで捕らえた獲物を引き裂くように輝く爪(ビーム・ピック)を振り下ろす“ジャブローの凶鳥”の姿を──

 

 

 

 




今回登場したテキサン・ディミトリー中尉は機動戦士ガンダム 戦略戦術大図鑑の登場人物ですね。
今後も外伝系のパイロットが出てきますが、容姿とCVが公式で決まっている人物のみ登場する予定です。
テキサンのCVは堀内賢雄氏で、ガンダムシリーズではマシュマー・セロを演じられています。

今後の展開について、皆さまからお答え頂いたアンケートを反映していく予定です。
活動報告に簡単に書いてありますので、興味が有れば是非ご覧ください。
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