MasqueradeRe:Lights ~この世界では本の力を持つ仮面の騎士がいる~   作:ダグライダー

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 おやすみなさい、そしてやはりおやすみなさい。

 私史上最長の長さになってしまいました。
 いやぁ後半色々考えたんですがどうしても分割する訳にいかなくて………。
 今回の話でセイバーの章を終えますが…まぁ次回にちょっと行間の話入れますけど、次章からはバリバリワンダーコンボ出してく予定です。



13頁 唐紅に舞うは此花、風一迅。

 ──ナデシコさんとカエデさんの仲を取り持つ為、ツバキさんの一計にティアラさんは巻き込まれてしまうのでした。そして先生までもが何故だかご一緒する事になって──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院エントランス━

 

 ティアラは現在エントランスにてナデシコ、カエデと再び対面している。

 昨夜、寮にてツバキの企みに一枚噛む次第となったからだ。

 

 「部活動見学……」 「ですか?」

 

 ティアラをだしにツバキは2人の妹を呼び出し、今2人が口にした通りの事を提案する。

 

 「そう!この子に付き合って欲しいの」

 

 「わたくしたちと?」

 

 「一緒に回りたいのよね?」

 

 ナデシコがキョトンとした顔で姉に訊ねれば、ティアラの肩を抱き寄せたツバキは笑顔の瞳を開き意味深げにティアラへ言葉を投げる。

 

 「えっと……私、占いやロックに興味ガアッテ…」

 

 ツバキの視線から顔を背けながら引き吊った笑みで予め用意していた台詞を上ずった声で垂れる。

 誰がどう見ても言わされている感マシマシである。

 

 「本当ですか!?」

 

 が、しかし、この妹、一分の隙も疑わない。

 

 「他にも…色々ト見テミタクテ……」

 

 大根役者も真っ青な白々しさだがクラスメートの為に慣れない事を頑張るティアラ、すぐ隣のツバキの笑顔の圧が凄い。

 

 「わかりました!」

 「すぐにでも参りましょう!!」

 片や妹達、同好の志を見付けたとばかりにはしゃぐ。

 

 「そう言う訳だからよろしくね」

 「ツバキお姉ちゃんは同行しないんですか?」

 妹達が思惑通りティアラを部活動見学に連れ出す言質を聞き、後は彼女達次第とばかりにツバキは笑う。

 しかしカエデがおかしいとばかりに不審に思い訊ねてみれば、困った顔で右手を顔に添えて語る。

 「残念だけど色々忙がしくて。出来れば二人の側に居たいんだけどね」

 「妹思いなんだね」

 白々しい芝居から解かれ改めて本心でツバキの妹を思ん図った言葉に対し素直に返す。

 しかし、ナデシコはなんとも残念そうに、カエデはジト眼でツバキを胡乱じながらティアラに言うのだ。

 

 「いえ…少々、違いまして……」

 「重度のシスコンなだけの変態さんです」

 

 「ひどいわぁ!私は…妹達が心配なだけで。あぅうぅぅ……」

 ヨヨヨとワザとらしく制服の何処からか上等な布のハンカチを取り出し顔に押し当て伏せる。

 「はっ…!」

 何か嫌な予感を覚えたカエデが素早くツバキの手からハンカチを取り上げる。

 「あぁん!」

 艶やかな悲鳴を挙げるツバキを余所に取り上げたハンカチを広げるカエデ、彼女はその正体に思わず絶句する。

 「これはカエデの…!」

 そうそれはシルクで編まれた薄桃色のショーツ。もっと分かり易く言葉にするならパンツである。

 

 

パンツである

 

 そんな末妹が固まるのもお構い無しにツバキは新たな布を取り出す。今度はライムグリーン、これもパンツである。

 

 「はっぅ!」

 カエデはその顔を名前の通りに真っ赤に紅葉もとい紅潮させる。

 「コッチにはナデシコの~~♪」

 更にツバキは自身の制服の胸元から白い丸みのある布を取り出す。

 無論ランジェリー、つまる所ブラジャーである。

 

 「ツバキ姉さまっ!!?」

 

 ナデシコまでも真っ赤に顔を紅潮させ、両手を頬に当て絶叫する。

 ツバキと言う魔女…いや姉は度し難き変態さんであったのだ。

 妹達はツバキに詰め寄り自身の下着を取り戻そうとするが察した姉はくるりと身を華麗に翻し逃げる。

 

 「返してくださいっ!」

 

 「何をしてるんですかぁーーー!!」

 

 ラウンジの観葉植物が生えたプランター部に立ち、両手を高く上げて下着を保持するツバキ、それを必死に取り戻そうとピョンピョン跳ねるナデシコとカエデ、場所が絶妙に高低差がある上ツバキの背がナデシコ、カエデよりも高いので全く届かない。

 ティアラや他にもラウンジで談笑していた生徒達が頭のオカシなモノを見た様な顔をする。

 

 (ナンダアレ) (騒乱喧騒、またあの姉妹か)

 

 偶々通り掛かったエレンとラウンジで何事かのパーツを日干ししていたセドリックがヤマト人は変態しかいないのかと言わんばかりの顔になる。

 

 「必死に迫って来る妹たち……私的にはアリだわ~~~♪」

 そんな視線も露知らず、変態の姉は恍惚とした蕩け顔で自分の世界にトリップしている。

 そんな三姉妹のやり取りをティアラは引き吊った笑みで苦笑するのであった。

 「ぁはは…あはは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・占い研究会━

 

 早速向かった見学、トップバッターは占い研究会。

 此処はカエデが所属する部である。

 部屋は赤いカーテンで陽射しを遮り、香炉を炊いて、更には部員は黒っぽいローブを身に付け、水晶占いや神楽鈴と盛り塩を使用した用途不明占いなど、オリエンタルな雰囲気が充満している。

 

 「色んな占いがあるんだねー」

 「良ければ占いましょうか?」

 感心するティアラにカエデが占術を買って出る。善意もあるがポイント稼ぎと言う目論見も無くは無い。

 カエデの隣で聴いていたナデシコがからかい混じりに太鼓判を押す。

 「よく当たりますよ!カエデは筋金入りの占いマニアですから」

 次姉の言葉にムッとするカエデ"占いマニア"の例えが気に障った様でお返しとばかりに反論する。

 「それを言うならナデシコお姉ちゃんなんて」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 ──フローラ女学院、ヤマト三姉妹次女ナデシコ。とある日の寮での一幕

 

 「はぁ…は、はは…あははははは…」

 

 ベッドの上で寝間着のまま愛用のエレキギターを見つめ涎を口端に滴らしながら顔を興奮で紅く染め荒い息を吐く。

 

 「今日()ろっくです~♪」

 

 仕舞いには愛器に抱き着き頬を刷り寄せている。綺麗に畳まれた掛布団の上には黒の革ジャンとアクセサリーのネックレスが割りと無造作に投げ出されている。

 

 控え目に言葉を濁しても変態であろう……いや!変態である!

 

 とある日の寮での一幕、終演──

 

◆◇◆◇◆

 

 「筋金入りの変態じゃないですか」

 在りし日の姉の痴態を思い起こし軽蔑を込めた視線で毒を吐くカエデ。

 末妹にとって姉2人はどうしようも無い変態さん、と言う認識なのである。

 

 「何かおかしいでしょうか」

 が、ナデシコ自身それを疑問に思っていないのか人差し指をその白磁の如き柔肌の顎に当て、愛妹が何故そんな事を口走るのかと可愛らしく考えている。

 

 さて置き次の部活見学へ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん?あれ?ティアラちゃん?と君達は……」

 姉妹とティアラが次なる部へと向かう道すがら、出会ったのは我らが特別クラス担任教師にして炎の聖剣に選ばれし来訪者、剱守斗真その人であった。

 

 「あ…、トーマ先生!」

 近頃はすっかり公私で往々に関わる機会が増えた数少ない年上の異性の名を呼ぶティアラ。

 対し昨日ヤマト帰省より戻った姉妹は、乙女の園では物珍しい男性に、はて誰であろうかと首を傾げる。

 

 「あのぅ、ティアラさん…その方は?」

 若干人見知りを発揮している妹に代わりナデシコがティアラへ斗真の氏素性を訊ねる。

 「この人はツルモリトーマさん。私達特別クラスの担任になった先生だよ!」

 

 「宜しく。クロエさん…理事長から君達の事は聞いているよ」

 何処と無く嬉しげに語るティアラとナデシコ、カエデ両名に人好そうに微笑む斗真を見て、そう言えばとカエデが思い当たる節を記憶より探る。

 

 

 ──昨日学院へと到着した際、隣の姉が理事長室にてクラスに新しい担任が出来たと聞かされたとか、就寝間際のぎこちない姉妹間の会話に哉慥が天井裏から突如として現れ興奮して何某かの人物の事を話していた事を思い出した。

 

 閑話休題──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・MIP(マジックアイテム研究会)

 

 道中にて遭遇した斗真と偶然にも目的地が一致した3人は一路目的地たる部室を目指し到着、そして歓待を受けていた。

 

 『MIPへようこそ!( *>ω<)ノ』

 出迎えたのは特別クラスのクラスメートにしてこの部屋の主、メアリーベリーその人である。

 

 「「MIP?」」

 聞き慣れぬ単語にティアラと斗真が揃ってオウム返しに首を傾げる。

 

 『マジックアイテム研究会だよ!(・_<)q☆ゆっくりしていってね~♪(o^・^o)』

 メアリーベリーのボードが口元を隠した本人とは真逆に揚々と喋る。

 「それもマジックアイテムなの?」

 割りと対面した以前から気になっていた事を訊ねるティアラ。その答えをくれたのは同行していたナデシコとカエデだ。

 「なんでも持ち主の感情を読み取って、声で表現してくれるとか」

 「メアさんが発明したんですよ」

 

 「ほぉ~!」

 存外高性能であったボードの機能に感嘆を洩らすティアラ。斗真はと言えばボードがマジックアイテムであった事それ自体は存じていたが、仕組みについては知らぬばかりであった為、素直に感心していた。

 

 『商品化もしてるぜぃヾ(*>ω<)ノその名もベリーボード!何故かあんまり売れないけど……(´;~;`)』

 ボードが自信満々に自らの名を宣い、しかし次の瞬間には声が一層落ち込む。

 ボードを持つ開発者自身、気まずそうに目を游がしている。その視線を追えば大量の在庫の山。

 「それは…まぁ…」

 「必要無いですからね」

 至極当然の理由である。

 

 因みに斗真の用事は用途不明アプリの機能確認であった。それに関してはメアリーベリー自身まだ内緒との事。

 

 そうして一行は斗真を加え次なる目的地へ──

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・美術部━

 

 「よーし!」

 

 多数の生徒がより集まって円を作り、目の前のカンバスと中央のモデルを見比べながら筆を思い思い取るなか、腕のみならず鼻の頭まで黒炭に煤汚れたノワールの制服を纏う少女が満足そうに笑いサムズアップする。

 「じゃあ、脱いでみよっか!」

 

 「「えっ?!」」

 

 ティアラ驚く、勿論斗真も驚く。

 そもそもモデルの生徒は既にかなり高い露出の服を着て腕をおっ広げている。

 まぁ、芸術家にとってヌードデッサンなど茶飯事と言う事なのだろう。決して口にした当人、フィオナがヌードが好きだからとか言う個人的な都合等では無い!……筈である。

 

 閑話休題──

 

 

 

 

 

 

 

 ━ゲーム同好会━

 

 ゲーム同好会との名の割りに思いの外片付いた部屋で青年と少女達は目の前のやり取りを見守る。

 

 「そりゃあ!…………おっしっ!」

 割りと小ぢんまりとした部屋の中央でテーブルに置かれたそれなりに大きなイカの筐体を挟み対面して座る2人。

 Sadistic★Candy のアンジェリカが玩具の短剣をイカの触手に刺し込んでガッツポーズをする。

 既に何本か刺さっている所を見るに黒ひげ危機一髪的なゲームなのだろと斗真は当たりを付ける。

 

 「ワタシの番だな」

 手番が回ってきたルキフェルが短剣を逆手にいざ勝負と勢い良く振り下ろす。

 「死ねぇいぃ!!」

 トンでもなく物騒な事を口走ってくれるルキフェル、結果はカチッという作動音と共にイカの頭が回転、ルキフェルに向くと噴出孔から真っ黒な液体が彼女の顔を目掛け勢い良く飛び出し、その顔面を染め上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━キャバレー部・学院部室━

 

 「バレ~部へようこそ、お姉様、お兄様」

 

 禁則地に迷いこんだ。斗真が最初に部屋に入って思った言葉である。

 一行を出迎えてくれたのはやはり特別クラスの生徒、シュガーポケッツのシャンペ。

 全体的にピンクな部屋の中、肩出しのメイド服なのかウェイトレス服なのか判らない衣服を纏った少女達が、恐らくは客であろう生徒達をもてなしている。

 ぶっちゃけて言おう、完全にアレな店だ。

 絵面が同性同士だからまだマシであるが……いや、やはりアレである。

 

 「はい、あーん」

 等と食べさせて貰っている者。

 

 「ぁぁ~…」

 肩揉みされている者。

 

 他にも膝枕、耳掻き、お喋り等々。ギリギリの健全さを攻め過ぎである。

 

 「バレ~部?」

 「キャバレ~部です…」

 斗真が改めて頭を抱えたくなる思いに苛まれる中、隣ではティアラが何がバレ~部なのかと部屋を見渡し、ナデシコが恥ずかしがりながら教えてくれる。

 カエデもどこか恥ずかしそうに顔を背けている。だが、そもそもこの部の創設者はヤマトの魔女である。

 それもカエデとは特に縁がある人物だ。

 

 青年と少女達はそそくさと撤収する事に決めた。

 出て行く途中、視界の端に見覚えのある巨漢が客の中に見えたような気がしたが考えたら負けな気がして斗真は考える事を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━購買部━

 

 おおよその学院内の部活を回った一行。次なる目的地の途中、生徒であれば誰もがお世話になる部活に立ち寄る。

 「此処は知ってるよ、購買部だよね」

 当然それなりに学院生活を過ごす様になったティアラにもどの様な場所かは解る。

 「相変わらず、何をどう使うのか分からないモノから必要なのかどうなのかと思うモノまで何でもあるね、此処は……」

 斗真も呆れ半分に言葉を洩らす。先日ギターの弦やペットサークル等を見付け戦慄したものだ。

 

 「ニン!ようこそおいで下さいましたでござる!」

 

 そんな彼、彼女の反応に呼応してか少年が元気良く声を挙げて現れる。

 

 「えっ?!誰…!」「哉慥少年!?」

 突如として目の前に現れた小柄な少年(尚、ティアラとの背丈は全く同じ、しかし雰囲気が小柄感マシマシ)に対し初対面故に驚くティアラと昨日見知った斗真は仰け反る。

 「サイゾウさん、お店番ですか?」

 「サイゾウお兄ちゃん…また色々安請け合いしてませんか?」

 片や深い仲の姉妹2人はナデシコは弟の様に接し、カエデは頼りになるようで頼り無い兄貴分に些か呆れた声で進捗を訊ねる。

 「おぉ!ナデシコ殿!カエデ殿!更には斗真殿もご一緒でごさるか!…それと、そちらの御方は……」

 対して少年は犬の様に嬉しそうに訪ねてきた訪問者達に応え、そして見馴れぬ少女にコテンと首を傾ける。

 

 「あ……少し前に入学しました、ティアラです。よろしくね」

 

 「おぉ!新しい魔女殿でござりましたか!拙者、ヤマトにて此方のナデシコ殿、カエデ殿、そしてツバキ殿の護衛とこのふろ~ら女学院の魔女の方々をお守りする任を承けております祭風(はれまき)哉慥と申しまする。てぃあら殿今後とも宜しく頼みまする」

 小柄な少年が身体いっぱいに応じる様を見てティアラは元気な仔犬が尻尾を振っているイメージを懐く。

 

 「サイゾウさんは此処で何をしているのかな?」

 

 「さん等と…畏れ多い。呼捨てで結構でござります。拙者、日々修行も兼ねましてこの購買部なる雑貨屋で働く次第に候。宜しければてぃあら殿も何かご用命の際はお気軽に御立ち寄り下さいませ!「スミマセーン!」ニン!只今ぁー!」

 ティアラが少年へと行動目的如何を質せば、懇切丁寧に敬称呼びや己が何故購買部に居るのかを説明してくれる。最後にちゃっかり宣伝も忘れない。

 そうして別の利用客に呼ばれ直ぐ様其方へと消えていく。

 

 「なんだか…可愛い子だね。2人とトーマ先生は知り合いなの?」

 「はい。サイゾウお兄ちゃんはヤマトの英雄です」

 「とってもとっても頼りになる殿方なんですよ~」

 ティアラが哉慥の愛らしさに顔を綻ばせて、彼が名を呼んでいた3人に関係性を訊ねてみると、カエデはヤマトの国が一般的に認識している彼の姿を、ナデシコが普段彼に感じている個人としての印象を語ってみせる。

 

 「あれ、これは少年の正体普通に知ってる感じなのかな?」

 

 姉妹の口振りから哉慥がどういう存在なのかを認知していると感じた斗真が思わず溢す。

 

 「先生?その正体って……?」

 ティアラがまさかと思いつつも確信を得る為、敢えて問う。

 「あー、実は……ゴニョゴニョ」

 購買部の利用者の手前、あまり大きな声で言えないので耳打ちにて説明する。

 「え…えぇっ?!でも使い手は基本的にお伽噺扱いでごく一部しか知らないんじゃ!?」

 そう、普通は聖剣の剣士の存在は一般的に秘匿され、飽くまでお伽噺の体で伝えられているので魔女であってもその正体は知らされていない。

 リュウトの姫であるユエ等の例外は在れど、国に携わる王侯貴族であっても元首以外が存在を知るのまず無い。

 そんな反応を察してかナデシコが微笑み、周囲の視線に気を配りつつ斗真とティアラにヤマトの事情を教える。

 

 「実はヤマトではサイゾウさんのような存在は国中のみんなに知られているんですよ♪」

 少し悪戯染みた微笑みが可愛いらしい。ナデシコの言葉を受け取るなら極東の島国の臣民全てが風の剣士の姿を認識しているのだろう。

 ヤマトの島国特有なのだろう理由に、そう言うモノなのかと自身の故郷を思い出しながら購買部の方に視線を戻すと、小柄な少年は増えていた。

 

 「「!!?」」

 

 「サイゾーくーん、コレ持ってってー」

 

 「ニン!お任せくだされ!」

 

 「サイゾウくん、この商品って在庫あったっけ?」

 

 「ニン!ニン!少々お待ち下さい!」

 

 「サイちゃーん。これ違う色ある~?」

 

 「ニン!ニン!ニン!確めてまいりまする!」

 

 「サイゾウ、お会計手伝って~!」

 

 「ニン!承知でござる!」

 

 増えた哉慥の姿を良く眼を凝らして観ると、僅かに姿がブレているのが判る。

 購買部員や利用客からの声に応える少年はその余りにも素早い動きに残像が残る程に動いているのだ。

 

 そんな少年の働き様を見届けた一行は次なる目的地へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・温室━

 

 部活動見学の旅も夕方に差し掛かり、少女達と新米教師が辿り着いたのは園芸部。

 硝子張りの夕陽射し込む温室で大量の植物に囲まれた屋内にティアラは感嘆の声を挙げる。

 

 「わぁ~…!素敵…!」

 

 そんな少女の後ろで微笑ましく笑うのは何時もは双子と共に行動している特別クラスのクラスメート、メリッサ。

 彼女はエプロン姿に如雨露を持ちながら温室の植物達に水やりをしている。

 

 ナデシコ達も思い思い、温室の植物を見て回る。

 

 「これは輝砂ですか?」

 

 「ええ、そうよ」

 「輝砂を含む土だと良く育つの」

 ナデシコが陽を反射して輝く砂を手に取りながらメリッサへ訊ねてみるとメリッサの肯定に補足する様にティアラが輝砂の解説を述べる。

 「詳しいね。流石ティアラ」

 魔法も植物に干渉するモノが多いだけあり、園芸には一家言あるティアラ。メリッサが称賛を贈る。

 そんな彼女達へカエデが何かを大事そうに抱えて持ってくる。

 「あの…!コレってもしかして」

 差し出された手に載っていたのは黄金の輝く石。

 大きさはカエデの片手の握り拳程だろうか。

 「ええ、輝石の原石よ。これを砕いて土に混ぜるの」

 「占いでも使えそうです」

 「北東の森で採ったの。奥にはもっと大きいのがあるらしいけど」

 輝石、輝砂──フローラ女学院のあるマームケステルの街の動力源や魔女が使用する魔法や呪文の媒介となる特別な鉱物である。

 であれば、占いに使用する事もまた当然と言えよう。

 

 (北東の森……って言うとこの間陳さんに拉致されて行った所か)

 

 「採りに行きたいです!」

 

 「いけません!あの辺りには魔獣も出ると言われているでしょう!?」

 「でもっ」

 「ダメと言ったらダメです」

 「むぅ…ナデシコお姉ちゃんには関係無い話です」

 「あっ…カエデ」

 斗真が森での出来事を回顧していると、姉妹が何やら揉め始める。

 最終的にカエデが拗ねて話を切上げ、ナデシコが二の句を告げられなくなってしまった様だ。

 

 「それで、他にはどんな花があるの?」

 

 再び姉妹仲が険悪となりティアラは話題を変えて、これ以上拗れぬようにする。

 

 「珍しいのだとジェラニュー草とか」

 「えっ!?」

 メリッサの出した草花の名前に心底驚くティアラ。

 「わぁ~すごい!実物見たの初めて!」

 植物に詳しい彼女が初めて見るそれは碧い花を咲かせる茎が其々対面し重なる様になっている。

 茎の部分から生える薄紫の葉がまるで羽の様で、見ようによっては羽の生えたハートにも見えなくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・中庭━

 

 「さぁ、次は何処行こうか」

 

 園芸部の見学を終えた一行は中庭の一角で休憩の一服としてお茶に耽っている。

 因みに斗真とは途中で別れた。

 ティアラが次は何処へ見学に行こうかと訊ねるがナデシコが打ち止めを口にし、カエデは飲んでいたカップから口を離し告げる。

 「いえ。もう必要無いのではないでしょうか」

 「えっ?」

 「ティアラさん、園芸部でとても楽しそうでしたから」

 「やっぱり…そうかな。私、花が大好きだから!」

 既に心の内が決まっていた事をカエデに指摘され自身も改めてそれに納得の幕を卸す。

 

 「部活動に勤しむ皆様を見てわたくしも改めて思いました。"ろっく"が大好きなんだと!そして完成したろっくを早く歌ってみたいと!」

 ティアラの言葉に触発されたか、ナデシコも唐突に語り始める。

 「曲はもう出来てるんだ」

 「振付けまで出来ております!」

 ティアラが彼女達のオルケストラを曲を聴けるかと高揚すると、ナデシコは"ろっく"な指を立て自慢気に語る。が──

 

 「だったら好きにすれば良いじゃないですか…」

 

 「あっ…」

 

 徐に席を立つカエデ、俯いたその表情は伺えない。

 

 「ツバキお姉ちゃんと二人で、やりたい音楽やって下さい!」

 

 「カエデ!」

 

 「私が!」

 噴飯し立ち去るカエデに延ばした手をだがどうする事も出来ぬナデシコ。代わりにティアラが追い掛ける。

 姉妹の仲は未だ拗れてしまったまま──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━学生寮━

 

 「すみません。お邪魔して」

 髪を卸し、枕を抱いたカエデが申し訳無さそうに上目遣いでティアラ達の部屋に上がる。

 「気にしないで、今夜は一緒に寝ようか」

 「はい」

 「何か悩みがあるなら、相談してね」

 「ティアラさん、カエデのお姉ちゃんになってくれませんか?」

 「え?」

 ソファに腰掛け、カエデを労る言葉を掛けるとまさかの打診が飛んでくる。

 

 「駄目よ!それはっ…

 

 「なんでロゼが?」

 

 そんなあざといカエデの懇願を真っ先に否定したのはベッドの上で話を聞いていたロゼッタ、間髪入れず反論を叫ぶ幼馴染みの言葉にティアラは漫画のリアクションの様な白眼を剥く。

 

 「あ…いえ、何でも無いわ」

 「んー?」

 しかし我に返ったロゼッタはすかさず先程の発言を否定する。と言うか彼女はティアラより年上であるし、実妹も居るのだが……妹に憧れでもあるのだろうか?

 

 「すみません、頼りになりそうだったので…つい」

 カエデもまた冷静になり、謝罪を述べる。まぁ、上の2人があれでは頼り甲斐を求めるのも致し方無し、兄貴分もあまり年上感は無いのだから余計に。

 

 「ツバキもナデシコも頼りになるお姉さんだと思うよ?」

 そんなカエデにティアラは彼女なりにツバキ達が頼りになると嗜めるが、

 「ただの変態さんです。それに…カエデは、何故新しい音楽を始めなくちゃいけないのか分からないんです」

 姉2人を変態さんと切って捨て、今まで自分達がやってきたオルケストラの音楽をがらりと換えねばならない事に不満を垂れる。

 「せっかく今まで頑張ってきたのに…」

 ナデシコが言い出すまでの彼女達オルケストラスタイルはそれはもうバリバリのロックスタイルであった。

 

 「盛り上りが足りないから、路線を変えるなんて何を考えているんでしょう」

 

 カエデは姉の…ナデシコの考えが解らず抱いている枕に顔を埋める。ティアラはそんなカエデを己と重ね自身の過去を朴訥に語り始める。

 

 「私にもね…魔女のお姉ちゃんがいるんだ」

 「そうなんですか?」

 「うん。でも、お姉ちゃんは私がこの学院に通う事に反対で……」

 

 「そうだったの」

 

 「実は……ここに来る前も、お姉ちゃんとケンカしちゃったんだ。きっと…病み上がりの私が魔女をやることに、反対なんだと思う」

 

 「そんな…」

 

 幼馴染みのロゼッタまでもが初めて知ったティアラとその姉の間にあった確執、だが喧嘩別れをして飛び出して来たとしても彼女の中で姉に、魔女に対する憧れは変わらない。

 

 「でも、私はお姉ちゃんみたいな立派な魔女になりたい。そう自分で決めたの。そうすればお姉ちゃんに正面から向き合える勇気を持てる気がするんだ」

 そこまで言葉にしてカエデへと笑いかける。

 「勇気…」

 ティアラの言葉はカエデに何を思わせるのか──

 

 

 

 

 

 一方で眠れぬ夜を過ごすナデシコ。

 ツバキは信じているのか、はたまた然して気にしていないのかぐっすりと眠っている。

 カーテンの隙間から射し込む月光に照されながら、ベッドで横になる彼女の顔は浮かないものから何かを決意した顔へと変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・学生寮━

 

 明朝。昇る陽射しで夜の帳が尾を退き始めた頃、カエデは制服姿で寮の通路際に腰掛け、未だ晴れぬ頭の靄に思考を纏められずにいる。

 そんな彼女が人の気配を感じ振り向くと、昨夜世話になった赤毛の少女が側まで立つ。

 

 「あ…ティアラさん」

 「考えが纏まるまで泊まっていいから」

 「ありがとうございます。でも、カエデは…」

 

  「カエデ!」

 

 そんな時にツバキが大声を挙げて大急ぎで駆けてくる。

 

 「ツバキお姉ちゃん。どうかしたの?」

 姉の珍しく慌てた姿に意外な声を溢しながら目的を質せば、ツバキは一息入れて手にしていた置き手紙を愛妹に渡す。

 

 「森へ行って参ります。これって」

 

 「ナデシコが居ないの」

 

 「どうして?行っちゃダメって言ってたのに!」

 

 読み上げられた内容にティアラが温室でのやり取りを思い出し声を挙げる。

 

 「もしかしたらですが…輝石を探しに行ったのかもしれません」

 

 「輝石を?」

 

 「カエデが欲しがっていたから…」

 森へ向かった次姉の動機に思い到り、声が震えるカエデ。

 ツバキもまた、納得したのか優しい声音で末妹を見る。

 「そう。あの子らしいわね」

 

 「探しに行こう!」

 

 「落ち着いて。森には魔獣も居るわ」

 

 「でも…」

 

 魔獣と言う脅威が潜む森に消えたナデシコを心配してかティアラが居ても立ってもいられず叫ぶ、が、ツバキは待ったを掛けるので気が気でない。何せ前回森に入った時はメギドにまで襲われている。

 

 「それに…森と言っても広すぎて」

 探そうにも手掛かりが無ければどうしようも無いとツバキが述べる。

 「はっ…でしたら!」

 そこで妙案を思い付いたカエデが2人へ何事かを説明し始めるのであった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院裏手の樹海━

 

 未だ陽が低く暗い、鬱蒼とした森の中を固まって歩く集団がある。

 先頭に立つのはカエデと同じくらいの背丈のノワールの制服を纏った亜人の少女サルサ。

 スンスンと鼻頭を動かしながら匂いを頼りに進む。

 

 「すみません。こんな朝早くに」

 

 「気にしないで、ぼくとカエデの仲でしょ!」

 

 カエデの陳謝に勇んで応えるサルサ。この2人、実はルームメイトだけあり仲が良い。

 

 「ったく、何でオレまで……」

 「俺の部屋に入り浸ってたからだろ。人探しくらい黙って手伝いなさい」

 「ぅぅう、ナデシコ殿ぉ」

 そして哉慥経由で参加した斗真と彼の部屋のソファで何故か寛いで居たエレンも共に捜索に加わる。

 

 「ありがとうございます。先生、エレンさんも」

 ティアラが感謝を口にする。因みに緊急であった為、髪飾りはしていない。

 

 「いや気にしなくて良いよ、哉慥少年が大慌てで部屋の天井から降って来たのは驚いたけど」

 

 「おう、感謝しろ。オレっちがワザワザ手伝うなんて、早々ないんだから゛っ゛?!」

 最後まで言い切る前に斗真から肘打ちを喰らうエレン。イイトコロに入り悶絶している。

 

 「ナ゛テ゛シ゛コ゛と゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛」

 「ハイハイ、泣かない泣かない。よしよし」

 哉慥は哉慥で涙でぐちゃぐちゃな顔で叫んではツバキにあやされている。

 「ナデシコ…大丈夫かしら」

 哉慥の頭を撫でながらツバキも少し不安そうに呟く。それを聞いて哉慥が更に咽び泣く。

 「きっと大丈夫です。ナデシコお姉ちゃんは強いから」

 対してカエデもまた不安であろうに、しかし姉の事を信じる言葉を口にする。それを耳にしてまたしても哉慥が、今度は嬉し泣く。

 

 「止まって!この匂いは…」

 

 そんな珍道中の最中、先頭を行くサルサが何かを感じ取り制止する様に声を挙げ辺りを見回す。

 

 突如として真横の草むらより飛び出てくる巨体。キノコの様な魔獣が現れ、慌てて離れるツバキとカエデ、2人を庇うように泣き貼らしつつ腰に後ろ手を回しながら距離を取る哉慥。

 ティアラの前に立ち、ソードライバーとワンダーライドブックを取り出そうとする斗真と、何時の間にか取り出していた雷鳴剣黄雷を居合いの如く構えようとするエレン。

 しかし、魔獣と剣士が動くより速く人狼の少女の拳が魔獣を捉える。

 

 「わ~っふっ~!」

 

 アッパー気味に打ち出された拳がクリーンヒットしキノコ型の魔獣は天高く何処かへと飛んでいった。

 

 「すご…」

 

 (これオレいらねぇな)

 (成る程、一匹程度ならサルサちゃんでも余裕か)

 

 「素晴らしいです!さるさ殿!」

 

 サルサの強さに絶句するティアラとやる気が削がれたエレン、感心する斗真。

 哉慥は眼を赤くしながらも人狼の少女に称賛を贈る。

 

 しかし、安心も束の間、ティアラ達の前に新たな魔獣数匹が現れる。

 

 「まだ居んのか……。おい小説家!変身するよか普通に抜いた方が速ぇ」

 斗真に忠告するや否や新たに現れた魔獣の一匹に肉薄し両断するエレン。黄雷で魔獣の腹を斬り裂きかっ捌く。

 

 「っ!慣れないけど、その通りか!」

 ソードライバーから烈火を抜刀し手近な魔獣の頭上に飛び乗り烈火を突き降ろす。

 

 「忍!悪!即!斬!でござる!」

 哉慥もまた、ツバキやカエデに害が及ばぬ様に迫って来ていた魔獣を逆手に持った双風剣翠風で滅多斬りにする。

 

 「先生達もすごい……ん?」

 剣士達の活躍に目を奪われていたティアラは何時の間にか近付いていたクジラ?の様な魔獣を見上げ思わず固まる。

 

 「え?」

 

 魔獣は既に眼と鼻の先、剣士達は新たに現れた魔獣を討伐し終えたばかりの為、ティアラからは距離がある。

 魔獣は眼前のエサを飲み込まんと大きく口を開きティアラに襲い掛かる。

 

 「きゃぁーっ!」

 思わずしゃがみ込み叫ぶティアラ。しかし、間一髪、寸前の所で魔獣の額の結晶に光の矢が突き刺さり、其所から体内を滅魔の魔力に蹂躙され膨張しはぜて消滅する。

 「あっ?」

 矢の出処を追い振り向けば、弓を持ち残心するツバキの姿。

 「お姉さんに射抜けぬ的はあんまり無いの」

 そう言って弓を符に戻し収納する。

 「ありがとう…」

 まだ少し茫然としながらも謝礼を述べるティアラ。

 

 「ほーん、あれが変態姉の魔法か初めて見た」

 「変態姉って……。しかし、ヤマトはやっぱりと言うか魔法も陰陽師っぽさがあるなぁ」

 「ニンニン!お見事ですツバキ殿!」

 ツバキの魔法に感心する2人と、ツバキが魔法を使用した事に気付き、己が駆けるよりも彼女が魔獣を討伐すると信じ委ねた哉慥が其々口にする。

 

 「もし…ナデシコお姉ちゃんが襲われていたら」

 しかし、今の一件でカエデは一気に不安に駈られたのか涙目となり最悪の事態を思い浮かべてしまう。

 

 「ナデシコお姉ちゃぁぁぁぁぁん!!」

 

 口許に両手を添えて叫ぶカエデ、他の面々も追従して叫ぶ。

 

 「ナデシコーーー!」

 

 「ナデシコぉぉおお!

 

 「ナデシコさぁぁぁぁんんん!

 

 「ナ゛テ゛シ゛コ゛と゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」

 

 (忍者ウルセェェェ)

 

 同じ様に最悪を想像した哉慥がまたも大泣きしながら叫ぶ。

 そんな中、聞き耳を立てていたサルサが声を挙げる。

 

 「あっちから何か聴こえた!」

 

 「ナデシコお姉ちゃん!」

 

 「待ちなさい!」

 サルサのその指摘にいの一番駆け出すカエデ。ツバキの制止も聞かず1人先へと走り出す。

 「わぁっ!」

 枝で肌を切ろうが、泥にまみれようが駆ける。

 本当は誰よりも大好きな姉の為にその身を省みずに駆ける。

 

 「うわっ!?」

 

 そうして森を抜けた光の先は切り立った崖の先。ナデシコの姿は見当たらない。

 最早先へ進む道など無く、後はカエデ自らが通って来た獣道のみ。それは…もしかしたら、いやもしかしなくても、()()()()()()になってしまったんじゃ無いかと過ってしまい、カエデはその不安を必死に振り払う様に叫ぶ。

 

 

 「お姉ちゃーーーん!ナデシコお姉ちゃぁぁぁぁぁあああんんん!!!」

 

 

 「ここっですぅ…」

 

 聴こえた声にハッとして崖の下を覗く。居た。

 切り立った岩肌から生えた樹の幹に今にも落ちそうになるのを精一杯踏ん張って両手で掴まるナデシコの姿があった。

 

 「はっ!?ナデシコお姉ちゃん!!」

 

  「カエデ…」

 

 辛そうな面持ちで尚も必死に幹に掴まるナデシコ。だがそう何時までも持つまい。

 

 「今、助けます」

 懐より取り出したる人形(ヒトガタ)符に口付けをし魔法を発動する。

 「待っててくださいっ!」

 光を伴い巨大化する人形へ飛び乗りナデシコの救出を敢行しようとする。

 

 「カエデ殿っ!」

 「カエデ!」

 泣き腫らした顔のまま冷静さを欠いている哉慥、三姉妹絡みの窮地でメギドや魔獣が絡まない事になると転で忍者スキルを活かせなくなるのが若さ故の欠点である。

 ツバキ共々カエデが式を使用しナデシコ救出に向かう瞬間を目撃、追い縋ってきた他の面々の前でハラハラオロオロしている。

 

 「ナデシコ!?」

 ツバキがナデシコの置かれている状況を知り悲鳴を挙げる。

 その間もカエデは人形の式神を操り、ナデシコの側へと近付く。

 「ナデシコお姉ちゃん!手を」

 ナデシコの真正面に滞空し自身の小さな手を伸ばすカエデ。

 「くっ…」

 ナデシコもそれに応えようと力を振り絞り右手を伸ばすが上手く掴めない。

 

 「もう一度です!」

 

 「お願い!」

 妹の窮地と奮闘にフローラへ思わず祈るツバキ、ティアラやサルサも神妙な面持ちで見守る。

 

 「カエデちゃんの乗ってるアレをナデシコさんの下に回せば良いんじゃないか?」

 「おい、そこんとこどうなんだよ?」

 同じく見守っている斗真とエレンが哉慥に訊ねる。

 「それは不可能でござる。カエデ殿の魔法による式は当人以外を乗せる事は出来ませぬ」

 哉慥が首を横に振り無理だと断ず。

 「オレの空飛ぶ絨毯と同じか、おい小説家、ピーターファンタジスタは?」

 「あれを生身の女の子に使うのは無理だろ!?」

 元々敵を拘束する為のモノであるキャプチャーフックによる救出も絶たれる。

 「後は忍者の道具くらいしかねぇが…」

 「ああもカエデちゃんが近いと逆効果だろう」

 「ニン……投げ縄では危のうございます…」

 

 そんな会話の最中、遂にナデシコがカエデの手を掴むも、そのタイミングでナデシコが今まで掴まっていた幹が軋む音を立て折れる。

 それによりカエデの片腕に一気にナデシコの体重がのし掛かり少女は苦悶に顔を歪める。

 

 「カエデ!しっかり!」

 見守るティアラからの声。しかしナデシコはカエデに手を離すよう言う。

 

 「もういいです…このままでは…あなたまで」

 そして更に事態は悪い方へと急転する。カエデの式の魔力が切れ始めたのだ。

 足の部位が膨らみ破裂し始める。

 

 「シキガミが!?」

 

 しかしそれでもカエデは諦めず手を離さない。

 

 「ダメです!絶対に離しません!」

 だが現実は非情にも残酷である。遂に式は限界を迎え、乗せていたカエデ共々急落下する。

 

 「いやぁぁぁあああっ!?!

 

 その先に待つ最悪の結末を幻視し思わず絶叫し眼を覆うツバキ、サルサや斗真達も焦りと驚愕に眼を見開く。

 

 

 落下するナデシコとカエデ。ナデシコはせめて妹だけでも守ろうとカエデを抱き締め、カエデもまたそんな姉を抱き締める。

 

 だが、何かが落下し潰れた音はいくら経っても聴こえる事はなかった。

 

 「見てツバキ!」

 「え…」

 サルサの声にツバキが覆っていた指の隙間から恐る恐る覗く。

 

 「あっ」

 思わず溢す安堵と喜びの声、ツバキの瞳が写したのは岩壁から伸びた木々の幹が蔓の様に三方からナデシコとカエデを確りと掴み止めた姿であった。

 

 「これは魔法?」

 逆さまのナデシコが己等の状況にカエデ共々眼を白黒させている。

 

 「なーる、冠ちゃんの魔法は植物系だったな」

 「しっかり太い幹が三つ絡まってナデシコちゃん達を捕まえてる。あの咄嗟の出来事にここまで対応出来るなんて…凄い娘だ」

 

 「間に合った~」

 感嘆し評価を述べる男2人の傍ら口から指笛を離したティアラは安堵し息を浸く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「このたびは、ありがとうございました」

 無事引き上げられたナデシコが皆に深々と頭を下げる。

 「無事で良かった」

 

 「あまり心配を掛けちゃダメよ?」

 

 「はい…」

 ティアラの身を案じる言葉、ツバキの姉としての諌言に弱々しい返事を返すナデシコ。

 「まったくです!カエデが居ないとホント駄目なんですから」

 「カエデ…ごめんなさい。どうしても、あなたと仲直りがしたくて」

 助かったからか何時もの調子を取り戻し始めたカエデにナデシコは申し訳無さげにポケットから大きな石を取り出す。

 その石──輝石を受け取り、同時に姉の想いも受け取ったカエデは目端に涙を溜めながら鬱屈した心の内を遂に姉に明かす。

 

 「カエデもです」

 

 「え?」

 

 「カエデも仲直りがしたかったです。でも…カエデは怖くて。これまでのロックに、ヤマトの音楽を取り入れるなんて。できるかどうか不安でっ、でも…それを言ったら臆病だって思われると思って…」

 そうして遂に堪えていたモノが決壊しポロポロと泪を溢す。

 

 「気持ちは分かりますよ。わたくしも…とても恐いです」

 「え…?ナデシコお姉ちゃんも?」

 「それでも…誰も歩いたことがない、未踏の道をゆきたいのです」

 ナデシコもまたカエデと同様恐れがあったのだ、しかしそれでも尚切り開く事を選んだ。

 「カエデやツバキ姉様と一緒に…」

 大好きな姉妹が共に居るのならば己がパイオニアとなるのも恐くは無い。

 「ナデシコ」

 

 「それが…わたくしにとっての"ろっくんろーる"ですから」

 

 その決意を聞き、カエデもまた己の願いを口にする。

 「カエデも…ナデシコお姉ちゃんと一緒に歌いたいです」

 最早、2人の間にあった蟠りは消えた。姉妹仲が修復された事をティアラや斗真達も嬉しそうに見詰める(若干1名洪水の様に涙を流していたが)。

 

 「流石愛しの妹達~♪好き好きーだーい好き~」

 

 「ツバキ姉様!?」

 

 「ちょっと…こんな所で危ないです」

 

 「大丈夫よ。いざとなったらティアラがまた助けてくれるわ」

 

 「ぅぇ私?!」

 妹達の仲が元通りとなりツバキもまた何時もの調子に戻る。そして何時も通りに妹達から注意を受けるとティアラをアテにするような事をからかい混じりに言うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━フローラ女学院・ステージ━

 

 夜、学院のステージ前には大勢の生徒の姿。その中にはティアラ達何時もの5人組や斗真は勿論、独特なサイリウムライトを二刀流に持ち今か今かとオルケストラを心待ちにするラトゥーラや友の晴れ姿を見ようと駆け付けたサルサ。

 オルケストラとあって疲れを我慢しラトゥーラ同様サイリウムライトを複数持つエレン、今し方ステージのセッティングを終えた哉慥の姿もある。

 全体的に和の装いとなったステージに照明が点り、ヤマト三姉妹が肩から胸元がバッサリ露出したミニスカートの改造着物のステージ衣装で現れる。

 

 「今宵は…この花は乙女の新曲お披露目にお集まり頂き、ありがとうございます」

 センターを勤めるナデシコが挨拶を始める。

 

 「リハーサルとも言いますが」

 そこにボソッとカエデが呆れ顔で呟く。

 

 「わたくしたちは新しく和風ろっくをやる為に、生まれ変わります」

 装いも新たとなった三姉妹、カエデは少し不服そうに溢す。

 

 「…ホントにやるんですか?」

 「良いじゃない。折角ナデシコが考えた口上だもの。それに哉慥くんもステージを飾るの頑張ってくれたんだから」

 長姉からこうも言われてしまえばカエデとて偶の音も出ない。

 姉妹は手にした扇子を広げ各々に見栄を切り口上を述べる。

 

 「喩え散り逝く宿命(さだめ)でも

 

 「咲かせてみせます銀銭花

 

 「捧げてみせます恋の唄

 

 

 

 「「「我らヤマトから来たりし三姉妹。この花は乙女」」」

 

 三姉妹の扇が円を描き花弁が生まれる。

 

 「参ります!

 

 

 

 

【─からくれ*ナイトフィーバー─】

 

 

 軽快なロックサウンドに和楽器独自の音が混じり調和を生み出すこれが彼女達の新たなるろっくんろーる。

 桜の花弁が歌詞に合わせて姉妹其々の花葉へと転じ、舞踊を織り混ぜたダンスに合わせて散る。

 

 

 

 「よー!はい!!よー!はい!!」

 

 「よー!ニン!!よー!ニン!!」

 

 「へっ、ラトゥーラのヤツ…はしゃぎやがって」

 

 「お前も端から見たら大分はしゃいでるよ?哉慥少年もだけど…何あれ、残像にしては少年カラフル過ぎない?」

 

 コール&レスポンスをするラトゥーラと哉慥を後ろ手で眺めつつ、自身も6刀流してアクションを取りながらクール振るエレンに、ツッコミつつも目の前で増えては光る忍者の謎スキルに戦慄する斗真。

 

 「ありゃ猿飛忍者伝を応用した影分身からの遁術だな」

 「おかしい…俺の知る遁術は逃走術だったはず……」

 

 と言うか、そんな事にワンダーライドブックの力を使って良いのか?と、うごごと頭を抱える斗真。そうこうしている内にステージは終幕を向かえる。

 

 「この花ーーー!マジサイコーじゃん!」

 魔女のオルケストラ限界オタクと化したラトゥーラが称賛を叫ぶ。

 観客の反応に一礼を返す三姉妹。

 「いけそうね」

 「これなら次のオルケストラもばっちりです!」

 「カエデ…なんだか自信が付きました」

 オーディエンスの声に確かな手応えを感じる三姉妹、やりきった彼女達の顔は輝いて見える。

 

 

 「すごく元気をもらった気がするよ。心の中に、花が咲いたみたい!」

 

 「そうね。私も胸が熱くなってきたわ」

 ティアラが傍らのロゼッタに興奮抑えられぬとばかりに伝えれば、親友もまた同じ様に身の内より湧き出す想いを肯定する。

 

 

 

 

 

「これが…歌の力なんだね!」

 

 

 

 とぅ びぃ こんてにゅ~ど♪

 

 

─ジャッ君と土豆の木─

 




 次章からは最低でも八千字前後で納めたいなぁ…。

 因みにこの作品では、哉慥くんがこの花は乙女のステージセットを頑張って運んで組みました。ええ両脇の桜の木もです。
 
 次章以降は斗真をIV KLOREとも絡めて行きたいと思っております。
 ではまた次回。
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