MasqueradeRe:Lights ~この世界では本の力を持つ仮面の騎士がいる~ 作:ダグライダー
いやぁ暑いとやる気が削がれて筆が進まなくなるのが難点ですね、秋と初冬は割りとサクサク書ける時は書けるんですが、夏はてんでダメです。
今年はまだ春の内だと言うのに暑い日が多くて……。
現在はシンデレラの総選挙期間なのでボイスの方共々声が付いてないアイドルに声が付くよう頑張っております。
それはそれとして天華百剣の新巫剣の一振りのボイスに安齊女史の御名前が!
これでLiGHTsは3人が巫剣に居る事に!
━フローラ女学院・ラウンジ━
昨日の温室での騒動により授業のカリキュラム大幅な変更が起きた今日日のラウンジにて、ティアラは手元の本を弄びながら悩ましい顔を浮かべる。
「浮かない顔だな、どうしたんだティアラ?」
ティアラが座すソファの一角にアシュレイが近付き、友人の顔色に言及する。
「あ…アシュレイ。うーん…その、先生を探してたんだけど……見つからなくて」
声を掛けられアシュレイへと視線を上げるティアラ、一瞬口ごもりはにかみながら
「教官を?部屋にも居なかったのか?」
「うん。コレを返そうと思ってたんだけど……」
そう言って彼女に手にした浅葱色の小さな本を見せる。
「これは…!ワンダーライドブックじゃないか!?何故それを…?」
以前ガラクタ市での一件以降、5人でアルマを問い詰めた際に憶えた知識から即座に本の正体を理解するアシュレイ。
驚き声を荒げたのも束の間、周囲の反応に声を落としティアラに顔を寄せ、経緯を訊ねる。
「うん…と、アシュレイは昨日の温室で起きた事件は知ってるかな?」
対して、昨日の件を困った様に語りだすティアラ、アシュレイに対面のソファに座る様に促しながら訥々と話を進める。
「──成る程。そんな事が私が学院に戻って来た時は既に解決した後だったからな。マドワルド卿が他の講師の方々と修復作業をしている所を目撃しただけだったが…そんな事が起きていたのか」
「うん。それで結局昨日はそのまま返せずじまいで、なるべくなら早く渡そうと思って先生を探してたんだ」
頷くアシュレイにそうして先程の悩まし気な顔色の意図を語り終えるティアラ。
純紫の少女はティアラが持つジャッ君と土豆の木ワンダーライドブックを眺めながら"しかし"と前置きする。
「以前のリネットもそうだったが…何故教官達の元にではなく私達の所に来たのか……」
「?リネットの時は偶然じゃないの?」
意味深な事を口走ったアシュレイにティアラが不思議そうに首を傾げる。
「いや、それがそうでも無いらしくてな……っと、ちょうど噂をすればだな。おーい!リネット!!」
緋色の少女の疑問に何と答えようかと首を動かした所、エントランスからラウンジを通り掛かる件の少女を見付け呼び寄せる。
「アシュレイさん?ティアラさんも、何かご用ですか?」
己を呼び寄せる友人に親しみを込めた愛想で応じながら、彼女等が座る一角へとリネットは歩み寄って行く。
「実はな、ちょっとコレを見て欲しいんだ」
「ふぇ!?そ、それはまさか!!?ワ、ワ、ワ、ワンダーライドブックッ!!?いいいい一体何処でそれを!?よ、良ければ読んでみても良いですか!!」
本、それもワンダーライドブックと聞いて目の色を変えるリネット、ライドブックを持つティアラの手を両手で包み込む様に握りながら興奮を顕にする。
「ちょ…リネット?!」
「落ち着け!」
「はうっ?!」
戸惑うティアラを助けようとアシュレイがリネットを手刀で軽く小突く、その衝撃に小さく悲鳴を挙げ、本好きの少女は平静を取り戻すのであった。
「───すみませんでした。思わず…」
「ううん、気にして無いから大丈夫だよ」
「まぁ私も、リネットが本の事で見境が無くなるのは知っていたのに不用意にコレを見せたのは悪手だった…」
共に反省するリネットとアシュレイ。改めてリネットに経緯を語ると、少女はふと考える仕草を見せ前置きをしてから自身の体験を語る。
「もしかしたらですけど……そのワンダーライドブックはティアラさんに惹かれたのかもしれません」
「この本が?」
「はい。私もガラクタ市であの青い…ピーターファンタジスタを見付けた時、理屈じゃなくて感覚的に何か惹かれるモノがあったんです。だから本好きである事を抜きにしても私が本に惹かれたのなら、その逆もあるんじゃ無いかと……」
己の体験談から来る私見を述べながらティアラ達の反応を観て取るリネット。
今一つ実感は伴わないものの、何となく府に落ちた顔になるティアラ。アシュレイはそう言うモノかと微妙な顔をしている。
「そう言えば…先生には?」
リネットが本の力を扱うべき人物の名を出す。
「それが…探したんだけど見当たらなくて」
「校内に居ないなら、外…街の方でしょうか」
「よし、ならば探しに行くぞ」
リネットが街と口走った途端、即決断するアシュレイ。
言うが早いや、ティアラと…ついでにリネットの手を取り、ラウンジを飛び出し、街へと繰り出した。
━図書室最奥・旧ノーザンベース━
一方でフローラ女学院図書室内、書庫の隠し扉を潜り抜けた先にある剣士達の拠点にその日、5名の剣士が会していた。
「いやはや昨日は酷い目にあったでござる…」
哉慥が昨日の騒動で自身に降り掛かった災難を振り返りぼやく。因みに、椅子の上に座布団を敷き正座で鎮座している。
「いやぁ…本当にね…」
その隣、視線を下に落とすと斗真が床に直に正座
首からは《私は往来の街中を鉄騎で暴走しました》と書かれた看板をぶら下げている。
「懲罰。反省せよ」
セドリックが中央の装置を弄りながら2人を一瞥すると直ぐ様作業に戻る。
「ゲラゲラゲラゲラ!──おっ?!」
わざとらしくバカ笑いを挙げるエレン。笑い過ぎて階段から転げ落ちた。
「エレンは自業自得として、幾らなんでもやり過ぎでは?」
斗真への刑罰にアルマがセドリックに物申す。
「反論。これでも甘い方である。隠している訳では無いとは言え、烈火がもし変身したまま街中を走り回っていたらこの程度では済まなかった。手前は烈火と翠風に特に甘い。躾とは厳しくするものだ」
アルマの言葉をあっさりと一蹴し鼻を鳴らす。
「それは……そうなのですが……」
「烈火、反省が済んだのならばワンダーライドブックを回収してこい。手前があの緋色の髪の少女に預けたままなのは承知している。だが何時までも預けて良いものでも無い。看板は外すなよ」
「はい…仰る通りです。行ってきます」
看板をぶら下げたまま、本の間を後にする斗真。その背中は悲哀に充ちている様に見えなくも無い。
━街道━
マームケステルの街へと続く、馬車が通る為の整備された畦道。
其処を往来する商隊の馬車、その進行方向に闇が現れる。
「な、何だ?!」
先頭を行く御者が嘶く馬を嗜めながら目の前の異変に驚愕を顕にし慌てて後続の仲間へ危機を知らせようと後ろを確認すれば其所に仲間達の姿は無かった。
「全く……面倒を掛けさせてくれるなカリバー。こんな回りくどい手に何の意味がある?」
それは怪物と呼べる異形であった。表情の読めぬ白面の相貌、牙を思わせる鎧、人とも獣とも取れる…或いはどちらとも取れない魔人。
メギドレジエルが剣を片手に御者の前に立っていた。
「ひぃっ?!化物ぉ!!?」
「実験は次の段階に入った。禁断の力を我等の物とする為、目次録の成就の為には必要な手段だ。」
新たに背後から声がする。御者が再び前方へ振り返れば、今度は黒紫の鎧を纏った仮面の剣士が目の前に立ちはだかっていた。
魔人の疑問に答えながら手にした剣に黄金と赤銅の小さな本を翳す。
『ジャアクリード・ジャアク昆虫大百科』
黄金の刃持つ漆黒の剣から禍々しい声が轟き、剣に"得体の知れないナニか"が靄…もしくは煙の様に力となって出現する。
それはともすれば針の様にも見える。
「本来であればこの力を使うに相応しい者に任せるべき仕事ではあるが……"彼女"はどうもまだ現実を受け入れられないらしくてね、ワタシが代わりを務める。まぁ君には何の事か解らないだろうがね」
半ば独り言の様に語る黒き剣士の言葉に恐怖と混乱で思考が乱れる御者はその場から逃げる事も出来ず、其処で彼の意識は途切れた。
━マームケステル━
学院に不在の斗真を探す為に街に出たティアラ達。実際には彼女達が知らない学院の一角に斗真は居るのだが、そんな事を知る由も無い少女達は連れ立って歩いていた。
「見付かりませんね……」
「この街もそれなりに広いからな。 もしかしたら何処かの店に居るかもしれないが……一軒一軒、手当たり次第にとはいかないだろう」
「結果的に運に任せるしか無いって事だね」
辺りを見渡しながら目的の人物を探さしている3人、しかし斗真は見当たらない。
「せめて教官が立ち寄りそうな場所に心当たりがあれば楽に探せるんだが…」
「ロゼやラヴィにも手伝って貰った方が良かったかな?…あ!」
手掛かりを探す中、ティアラが何かに気付く。
「どうしました?」
「見付けたのか?」
「ううん、先生じゃなくて…ほら」
訊ねる2人にティアラは己が見付けた視線の先を指差す。少女の指先を追い、視線を動かせば見慣れた桃色の揺れる髪、表情変化に乏しい顔、手には買い物を終えた後だろう大きな紙袋が抱えられている。
そして3人の視線に気付いたか、立ち止まり首を動かす。
「おや、ティアラ様、アシュレイ様、リネット様。この様な場所で会うとは奇遇ですね」
「「「あるふぁ」」さん」
そう、ティアラが見付けた人物はエミリアのメイド魔律人形のあるふぁ。
少女人形は3人に近付き軽く会釈をする。
「お三方もお買い物ですか?」
「いや、我々は教官を探しているんだ」
あるふぁの問いに同郷のアシュレイが代表して答える。
「成る程。禁断の関係…それも四角関係とは、あの方も隅に置けませんね」
「!!禁断のっ!!?あ……そんな、ダメです…私達、生徒と教師なのに……で、でも先生が望むのなら……」
「リネット?リネットしっかりして!?」
ティアラがリネットの肩を揺するが、彼女は1人頭に描いた妄想の中でメロドラマにトリップしている。
「な、な、な、何を言っているんだ!!?私達はそんなフシダラな関係じゃない!」
アシュレイも動揺して言葉が震える。エミリア程では無いが真面目でウブな彼女は3人の中で一番顔を真っ赤にしている。
「中々の反応です。まぁ事情は理解しました、折角ですので私もお手伝いします」
真顔でとんでも無い事を口走るあるふぁが此方をからかっていると分かりアシュレイは1度深く呼吸を落ち着かせあるふぁを批難する。
「いきなり何て事をしてくれる!普通に協力してくれ!」
「申し訳ありません。同じドルトガルドの出身だからでしょうか、お嬢様と近しいモノを感じたのでつい口が滑ってしまいました。結果は上々でございました」
しれっと清まし顔でいけしゃあしゃあ宣う少女人形。
そんな4人が屯する大通りの中央にフラフラと虚ろな眼で意識があるかも解らない男が独り立ち止まり、うわ言を繰返し手にした黒く禍々しい小さな本を開く。
「世界を混沌に……目次録へと至る為に……世界を混沌に……目次録へと至る為に……」
開かれる
それは魔人であった、人でも動物でも無い者、存在しない生き物、幻の獣…神なる物語の邪悪。
ゴーレムメギドが現界する。
同時に魔人を中心に世界が震え閉ざされる。
「なっ!?」
「嘘…メギド!?」
「ああ//……って、えっ!?」
「魔人?メギド?……何やら面倒事に巻き込まれてしまった様ですね」
少女達とその大通りに散乱と点在していた住人達がワンダーワールドへと消えた。
──同時刻。
斗真もまた街の方へとティアラを探しに出ていた。
そして彼の隣には手伝いを申し出たアルマの姿もあった。そして丁度…そう偶然彼等2人は高台側に居た為にソレを目撃出来たのだ。
「あれは!?」
「ワンダーワールドが開いた?!またしてもメギドが街中に?!どうやって結界を越えたんだ!!」
アラクネメギド同様、結界内で発生したワンダーワールドの出現にアルマは大いに驚き、歯噛みする。
「と、兎に角急ごう!巻き込まれた人達を助けてメギドを倒すんだ」
「は、はい!」
急ぎ駆ける2人の剣士。大通りであった場所の付近に近付き、本と聖剣の力を用いて異界へと侵入する。
本の扉を潜り抜けた先には火の手を上げ、瓦礫となった建物と逃げ惑う囚われた人々、暴れる襤褸を纏った複数の骨の様な人型の異形達。
「何だ?!沢山居る。メギドは一体じゃないのか!?」
「あれはシミー、メギドの小間使いです。本命は恐らくもっと奥!変身しましょう!」
「ああ!」
力無き者を死へ誘う影達に突撃する赤と青。仮面の剣士セイバーとブレイズがシミー達を斬り倒しながら前へと進む。
倒して、倒して、倒して、倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して倒して進む。
そうして魔人が暴れているであろう場所まで辿り着けば其所では意外な光景が広がっていた。
「くっ…教官達が到着するまで持ち堪えなくては!」
アシュレイが瞳を金色に輝かせ空を自在に舞う手から逃れる。
「…ぅぅう、魔力がもう…持ちません……!」
魔道書を掲げながら苦悶の表情を浮かべるリネット。彼女の姿の先には土泥の魔人が光の檻に閉じ込められ、そこから脱出しようと暴れている。
「頑張ってリネット!」
周りに生えた観葉植物を利用しシミー達の脅威から共に巻き込まれた人達を守りながら安全な場所へと誘導するティアラ。
「そのまま魔法を維持して下さい。代わりにリネット様の事は必ずお守りしますので」
髪の毛の手と自身の身体機能を十全に発揮してリネットに近付こうとするシミーを蹴散らすあるふぁ。
4人の魔女が持てる力を以てして奮戦していた。
「ティアラちゃん!?」
「っ!先生ぇ!!」
駆け付けた剣士達に真っ先に気付いたのはティアラ。不安と恐怖を圧し殺しながら共に居た市民を励ましていた彼女の顔には希望が現れた事への回生の笑みが浮かぶ。
「アルマ、ティアラちゃんとアシュレイさんの方を。俺はリネットちゃんとあるふぁさんの方…メギドを倒す!」
告げるが早いや、リネット達に群がるシミーを切り捨てるセイバー、そのままベルト左腰のホルダーからピーターファンタジスタを取り出し、レフトシェルフに装填、ブレイブドラゴン共々ページを閉じ、ドライバーに烈火を納刀、再び抜刀する。
ドラゴンピーターへと転じた炎の剣士が幻想から編まれた左腕のフックを魔人目掛け放つ。
「リネットちゃん、もう大丈夫だ!檻を消して君も逃げなさい!」
「先生…!は、はい!」
「先生?そうですか、仮面の方は先生様でしたか」
安堵するリネットに対し特段驚いた様子も見せずティアラ達へ合流しようと駆けるあるふぁ。
同時に檻から魔人が解放される。しかし自由の身となった魔人にキャプチャーフックが纏わり付きその自由を再び奪う。
「オォォォォオオ!!剣士ィィ倒スゥゥゥウウ!」
デスマスクの下から轟く醜い声と共に、唯一まだ自由なままの腰から下──両脚でセイバー目掛け突進して来る。
(真正面から受けるんじゃなくて、力を受け流す!)
以前のバッファローメギドとの戦いで得た経験からか、同じパワー型と判じたゴーレムメギドの突進を、やや半身で待ち構え、互いに交差する程近付いた際のタイミングを見計らい、マタドールの様に華麗に躱しながら斬り付ける。
「グオォォ…!」
セイバーからの一撃に苦悶を溢すゴーレムメギド。斬られたダメージと腕の自由が利かない状態から思わずバランスを崩し無様に転ぶ。
しかし其所は人為らざる魔人故か、両の腕が塞がれているにも関わらず容易く立ち上がり、今度はアシュレイに飛ばし、今はブレイズが牽制している浮遊する頭部の両手を呼び戻しセイバーの背後へと強襲させる。
「っ"ぁあ!?」
ロケットパンチよろしく背後からの不意討ちに火花を散らすソードローブ。
しかし劉玄立会の元、日々の修練を受け剣士としての腕を磨いた斗真は何とか耐える。
一方で奇襲を成功させた空飛ぶ両手は再びセイバーの背後に回り、もう一度攻撃を試みる。
「っ…なんのぉ!!」
しかし攻撃が来ると分かる2度目ともなれば対応は容易い。キャプチャーフックを巻き取りその勢いに任せて身を預ける。
そうなれば敵目掛け慣性に従って走るよりも速く敵に肉薄出来る。ゴーレムメギドにフックを巻き付けたまま、まるで伸ばしたゴムが縮む様に突撃する。
「喰らえ!」
後は剣をただ置くように突き立てれば自然と敵を貫く形となる。
キャプチャーフックの回収する勢いによって速度を増した一撃は途轍も無い威力となりメギドに深い傷を残す。
フックが外れると同時にセイバーもメギドも互いに地面を転がる。また転がる際の拍子にピーターファンタジスタが外れ、石畳を滑る。
「っっ……ちょっと無茶し過ぎたか」
先に立ち上がったのはセイバー、自身も激突の衝撃に眩みながらも余力を持って立ち上がる。
「グォォォ…」
ゴーレムメギドもよろけながら今度は腕も使って立ち上がる。
「よし、トドメを決める」
「確実に行きましょう!」
アシュレイがフリーになった事でブレイズがセイバーへと合流、地面に落ちたピーターファンタジスタを回収がてら共に聖剣をドライバーに納刀し、必殺技を放とうとする。
だがその時、ゴーレムメギドの頭上に孔が…より正確には闇が現れ、其所から何かが魔人目掛け落ちてくる。
「!!何だ?」
━マームケステル大通り━
ワンダーワールドに取り込まれた大通りの建物の何れか、剣士達と魔人の戦いを一望出来る建物の屋根の上で、闇黒剣月闇を手に目の前の空間を斬り自身が保有していたワンダーライドブックを空間に開いた孔目掛け放り投げたカリバー。
彼はゴーレムメギドに起きるであろう変化をつぶさに観察する。
「結界によって削がれた力、それは即ち空白のページ。そこにワンダーライドブックを取り込ませ、穴を埋めると果たしてどうなるのであろうな?」
誰に言って聴かせる訳でも無く、純粋に実験の為の確認の意を込めた独り言、闇の剣士はその変化を見守る。
「ヴォォォォオオオ!!」
投げ込まれた本の力を受け魔人は本来の真価を発揮する。
肉体が辺りの瓦礫や土を取り込み膨張し周囲の建物の高さを優に越え、2mの体躯が今や20mと化していた。
「巨大化!?そんな事も出来るのか!!」
「そんな馬鹿な!ワンダーワールドに取り込まれたとは言え、此処マームケステルは結界の力が働いているからメギドは能力の全てを発揮出来ない筈です!」
突如巨人と化したメギド魔人に驚愕するセイバーと有り得ない出来事に狼狽えるブレイズ、だがそんな2人の反応など知ったことかとばかりに巨大ゴーレムメギドはその脚を振り上げ2人を踏み潰さんとする。
「うわっ!」 「くっ…!」
慌てて躱す2人。巨人の剛脚より逃れ改めて必殺の剣撃を見舞う。
「火炎十字斬!」
「ハイドロ・ストリーム!!」
猛火の斬撃と怒濤の激流が挟み込む様に岩石の巨人に直撃するも、ゴーレムメギドは取り込んだワンダーライドブックの力によって強化された耐久性と底上げされた特性の能力により破損箇所を再生・修復する。
「なんて奴だ!僕達の攻撃を耐え抜くなんて…!!」
「……(ゴーレム…って事はヘブライ語のemethに相当する核か何かがあるのか?どちらにせよ何とか動きを止めたいけど)ピーターはアルマが拾ってくれたとは言え、この状況じゃ此方に投げてもらうのは無理かっ!」
巨大な腕や脚、果ては浮遊する手を各々で躱しながら何とか戦っている現状、敵を挟んでのやり取りは致命的な隙になりかねない。
「せめてもう一冊あれば……あっ!」
打開策となる様な力を持つワンダーライドブックを欲し、無い物かと溢したその時、セイバーは緋色の少女に預けたままのソレに思い至る。
「ティアラちゃん!聴こえるか!?」
「先生…?はい!聴こえてます!」
突然自分の名を叫び、何事かを訊ねようとするセイバーにティアラも声を挙げて返す。
「君に預けたままのアレ、此方に投げてもらって良いかなっ!!」
メギドの攻撃を転がり躱すセイバーは一瞬だけティアラ達が身を隠す方に顔を向け要件を伝える。
「アレ……それって!」
当然思い当たる節は1つしかない、即座に意図を理解した彼女は懐に閉まっていたジャッ君と土豆の木を取り出し、意を決し遮蔽物から跳び出し、手にしたワンダーライドブックを思い切り振りかぶって投げる。
しかし魔人とて馬鹿では無い。攻撃に使用していた浮遊する頭部の手を片方投げられたライドブックへ向かわせる。
別段奪う必要は無い、ただホンの少しの風圧で軌道を変えるだけでも剣士達にとっては致命的だ。
後は再び拾われる前に踏み潰して終わりにしてしまえば良い。
それで終わりだ。
巨大な手がその質量から巻き起こした風圧で逸れた筈の浅葱色の本はしかし口笛の音と共に石畳を突き破って現れた蔦によって受け止められ、大地に消える。
「ゴォォッ?!」
目標を見失い動揺するメギド、剣士達に対する攻撃の手が緩む。
「今だ!」
それを機と見たティアラが気合いを叫ぶとセイバーの直ぐ近くの地面が盛上り、消えた蔦が炎の剣士にその先端に保持したワンダーライドブックを手渡す。
新たに手にした本を赤き仮面の剣士が開く。
開かれた者にのみ理解できる言葉でテキストオブワンダーのライドスペルの序文が綴られる。
ライドスペルが読み上げられた事を確認しガードバインディングを閉じ、空白となったレフトシェルフに装填する。
中央を除きシェルフが埋められたソードライバーから抜刀の呵成の声が響く。
セイバーのソードローブのライドレフトにジャッ君と土豆の木の力が現出する。
左肩は【ドマメノキボールド】に変質つし浅葱色の豆や蔦・蔓を思わせる意匠が入った鈍色の装甲に。
同様に左腕腕もそれらの色と意匠を取り入れた物へと変化、【インタングルガント】と呼ばれる蔓の様な鞭が生えた手甲となる。
左脚部は【ボタニカメイル】が覆い、頭部ソードクラウンにはマスク左側に追加された装甲【ドマメノキマスク】から伸びる蔓がぐるりと絡まっている。
これこそがセイバーの新たなる力と姿、セイバードラゴンジャッ君である。
「成る程、こんな感じか!」
シェルフを通じて入って来る本の力の使い方に頷き烈火をゴーレムメギドの足下へ向けると、剣先からなんと豆が撃ち出される。
撃ち出された豆達は即座に急成長巨大化しゴーレムメギドの手足を絡め取り、自由を奪う。その拘束力はキャプチャーフックの比では無い。
「私の見間違いでなければだが、今教官の剣から豆が飛ばなかったか?」
「見間違いじゃなくて本当に豆が飛び出たんだよ」
「で、でもお陰で敵は動けなくなりましたよ!」
「プラプラ揺れる鞭らしき蔦がシュールですね」
ドラゴンジャッ君の姿、能力を目撃したアシュレイが白目になりながら今し方起きた現象に葛藤し、ティアラとリネットが現実を肯定しフォローを述べるも、その全てをあるふぁの一言で無に帰される。
「アルマ!今度こそ決めるぞ!」
「はい!後、出来ればブレイズと呼んで下さい!」
そんな少女達を置いておいて、戦闘に注力する2人は今度こそはとトドメの態勢に入る。
セイバーが左腕の蔦の鞭を伸ばし、ゴーレムメギドに2度、3度と打ち付けてからメギドの首に蔦鞭を巻き付け跳躍しメギドの顔面目掛け跳び蹴りを放つ体勢となる。
片やブレイズはミッドシェルフから取り外したライオン戦記と回収したピーターファンタジスタを流水の切先に搭載されているシンガンリーダーに読み込ませ本の力を剣に一時的に宿らせる、これにより流水に幻想的な光を宿した水が逆巻く。
「これで!」「終わりだぁぁああ!!」
炎の脚撃と妖精の様に意思を持つ無数の水撃が巨大化したゴーレムメギドを襲う。
動けぬまま手足を砕かれ、腹を無数の水撃に蹂躙され、顔面を炎の蹴りによって粉砕され、遂に再生出来ずに巨人は岩の破片と泥となって爆発と共に砕け散った。
「やったーーー!」
ティアラが思わずと言った具合に喜び跳ねる。その顔には砕け散った泥が少しこびりついている。
同じ様にアシュレイやリネットの顔や服にも泥汚れが着いてしまっている。
そんな中、あるふぁだけが予期していたとでも言う具合に上手いこと建物の影に隠れ難を逃れた。
そして剣士達の元には泥や破片と一緒にとあるモノが降って来る。
「?これは……ワンダーライドブック」
「まさかメギドが所有していたとでも言うんでしょうか…!」
飛び出たワンダーライドブックは水色の装丁のガードバインディング。タイトルは【一寸武士】と記されている。
「これがメギドが巨大化した理由……とか?」
「可能性は否定出来ませんが…兎に角もうすぐワンダーワールドから元の世界に戻ります。変身を解除しておきましょう」
セイバーが拾ったライドブックをブレイズに見せながら推察を口にする。
ブレイズもその可能性が高いと見ながら聖剣を納刀し変身を解く。
セイバーもそれに倣って斗真の姿へと戻ってゆく。
そしてそんな斗真の姿を見てあるふぁは言うのだ。
「ところで先生様、その個性的な格好は貴方様のご趣味で?」
「はっ?え?あっ!」
あるふぁに指摘され己が首から何をぶら下げていたのか思い出す斗真。変身中は看板の存在は分解されている為忘れていたのだった。
外そうにも外したら、帰還した際にセドリックが無言でねめつけて来るので外せない。
何より生徒達に既に目撃されているのでどうしようも無い。
結局斗真は反省が書かれた看板を首から下げたまま皆と共に帰路に付くのであった。
「概ね実験は成功と言うべきか。それなりに得る物もあった、ワンダーライドブック二冊を犠牲にするだけの価値はあったな」
眼下で繰り広げられていた戦いを最期まで見届けた黒紫の剣士が背後に生み出した闇の中へ消えながら言葉を残す。
そう、彼が言った通り、ゴーレムメギドに取り込ませたワンダーライドブックは斗真達が回収した一寸武士の他にもう1冊存在したのだ。
そのもう1冊は爆発と共に何処かへと飛んで行ったが、カリバーは特に未練も無くアジトへと続く闇に消える。
果たして消えたもう1冊のワンダーライドブックは行方は……?
──ティアラさんが預かったワンダーライドブックの力により先生達は辛くも窮地を脱し強力な敵を倒しました。
けれどそんな戦いの様子を闇の剣士が見ていた事は、あの時の私達含め、誰一人気付いていませんでした──
TO BE Continued
ここでちょっとしたどうでも良い裏話設定Tipを1つ、斗真ちゃんはそれなりに裕福な実家の次男坊です。
小説家としてはパッとしませんが、フィールドワークの際のフットワークの軽さは実家暮らしで培われた形になります。
暑さに打ち勝つ為にも私の創作意欲を目茶苦茶刺激する作品に出会えぬもか……。
ともあれまた次回お会いしましょう。なんとかビーム!