ガラガラと車輪が回る音が響く。引いているのは長い銀髪の女性。
「うーん、これからどうするかなぁ」
なんでも屋の朝は別に早いという訳でもない。かといって暇という訳でもない。今はただ....依頼がないだけ。竹炭も届け終わったことだしただシャツはまだ焦げてボロボロだけど。
今は私の焼き鳥屋の屋台を引っ張って気の向くままにぶらついているわけで決して暇という訳ではない。
ん?ここってたしか。
なんか全体的にボロい教会みたいな場所。ここってこの地区の特殊消防隊の拠点じゃなかったっけ?ふーむ、ここまでボロいとそれなりに仕事がありそうじゃないか?
いっちょ売り込みに行ってみますか。
でもまずはこの屋台を....いいや、あの影に置いとこ。それで、寝る!今日は予期せぬ依頼もあったしこの姿でどうもー!なんて入って行ったら絶対疑われるだろうし売り込みは明日にしよう。
壁を背に座り込み片膝を立てる体勢で目を閉じる。いつもの姿勢で仮眠をとる。それじゃあ明日まで休もう。おやすみ。
1日経った。日が暮れてから一回出動があったけどそれ以外は特になにもなし。平和なもんだった、という訳でシャツを着替えて早速売り込みに行くとしよう。
ボロいけど立派な扉を開けて中に入る。
「すいませーん、誰かいますか?」
「ん?どうかされましたか?」
出てきたのは頭に重りを乗せ両手には4つダンベルを持った変な男だった。それって筋トレになっているんだろうか?特に頭の重り。
「えーと、これって突っ込んだ方がいいのかなぁ....」
「?」
いや、そんな何が?的な顔されてもなぁ。まあ、いいや本題に入ってしまおう。
「あー、この消防隊の大隊長って人います?ちょっとお話があって」
「いいですよ。我々消防隊は市民の味方ですので!」
.......ん?それで大隊長は?
「えっ....あの、大隊長は..」
「はい!どうぞ!」
スッゴいいい笑顔、ただの筋トレ好きの筋肉ダルマかと思ったけど多分この人めっちゃいい人だ。私の勘がそういってる。ただ....
「大隊長は?」
「はいっ!なんでしょうか!」
「えっ、もしかして..大隊長?」
目の前の人に指さして聞いてみると、再度めっちゃいい笑顔を向けられた。てっきり大隊長なんていうくらいだからもっと厳つい人とかお堅いひととかがやってるもんだと思ったけど違ったらしい。
「おっとこれは失礼しました。第八特殊消防隊・大隊長、『
そう言うとさっきとは違ってビシッと引き締まった表情になり敬礼をされた。確かにこうして見ると大隊長だなと思えるような気もする。
「いやー、まさかいきなり大隊長が出てくるとは思ってなかくてごめんごめん。自分はなんでも屋をやってる藤原妹紅、何か仕事あったりしないかなって」
「はあ、なんでも屋」
「そっ、なんでも屋。掃除、洗濯、料理、家屋の修理に買い物、書類整理とかいろいろ。あっ、でもあのピコピコする....ぱそこんってのは例外。他に要望によっては組み手とかちょっと荒っぽいことまでいろいろね」
そう言うと大隊長の顔が少しくもった。
「あー、安心してくださいよ大隊長さん。荒っぽいって言っても違法なこととかはやってないんで。用心棒とかそういうのですよ」
「なるほどそっち系のお仕事でしたか。私はてっきり違法な事もやるもんだと。もしそうなら捕まえなきゃいけませんからね」
ぐぃ~、と顔を近づけてくる大隊長さん。この人に組み付かれたらいくら私でもちょっと手間取るかも。あはは、と私が苦笑いしていると何か思い付いたという風に手を叩き元の笑顔になった。
「君は組み手も出来るのか。実力はどれくらいだ?」
「そうですねぇ。大隊長さんくらいなら楽勝ですかね」
「......ほぉ、この俺をな」
腕を組みどこか威圧的な雰囲気を醸し出す桜備大隊長。表情も確認できない。ヤバい、これは起こらせてしまったかも知れない。
「.....気に入った!!ちょうど最近入った新人二人がいるんだ。よければ相手してやってくれないか?近々新人大会もあるんだ」
怒るどころか気に入られてしまった。気に入ってくれる分には売り込み成功ってことで良しとしよう。
「俺達がやってやるのもいいんだが外部からの刺激ってのも大切だからな。それに歳も俺たちよりも近いだろうし、なにより
―――若い男同士だしな!
――男同士だしな!
男同士、男、男.....。
「........そっすね」
「おうっ!じゃあ屋上まで着いてきてくれ!」
あの満面の笑みを今すぐぶん殴ってやりたいこの気持ち、解き放つべきだろうか。周りの被害とか考えずに大炎上してやりたい。こんな気分になったのはいつ以来だろうか。
消防隊本部が大炎上とか笑えない冗談だ。ここはグッと我慢....耐えるんだ私!新人の隊員には悪いけどこの怒りは君たちにプレゼントするよ。恨むなら大隊長を恨め。
第八特殊消防教会・屋上――
「おーいお前らやってるかぁー!」
「あっ!桜備大隊長!」
「おっ、今日来るはずの新人もいるじゃないか。中隊長、今どんな状況だ?」
「はい、新人大会も近いのでマキにシンラとアーサーの相手をさせようとしていたところです」
大隊長はそれを聞いてウンウンと頷いている。なんかあっちの中隊長っていう人の方が大隊長ぽい気がする。
「それなんだけどちょっと待った。マキにやってもらうのもいいんだけどこっちの妹紅くんにやってもらおうと思うんだ」
そう言うと一気に私へと視線が集まる。ただ私の心は今穏やかではない。「
「彼はなんでも屋をやっているらしくてな」
....イラァ
「なんでも俺を楽勝で倒せるくらいの実力らしい。それで内部からの刺激もいいが外部の刺激も必要だと思ってな新人大会も全くの未知数の相手が揃ってる。だがらこの妹紅くんだ!!」
.......途中までしっかりしていると思ったが最後で期待はずれになったよ、大隊長。もう噴火しそうだからさっさと始めよう。
「まあ、そう言うわけで相手になるよ。手加減は必要ないから全力でいいよ。それで誰と誰が相手なんだ?」
「ああ、相手はそこの二人な」
ふーん、この二人か。玉ねぎみたいな奴と眼つきの悪い感じの奴。特殊消防隊だし能力は当然としてどんな能力かは気になるな。
「ま、待ってください!?桜備大隊長ッ!?いくらなんでも危険です!口ぶりからするについさっき会ったばかりとかじゃ...」
「おう!さっき会ったばっかりだ!でもここまで来るのに話してたんだが聞く限りでは安心だ。それは大隊長として保証する、だが能力は無しでいくか使っても怪我がないように加減を――」
「桜備大隊長だっけ?いらないよ加減は。能力も使ってくれて構わない。当たらないだろうし負けないから」
私の一言で一同は驚愕。内二名はちょっとイラッとしてくれたかな。
「おい、あんた...いくら自信があるからって怪我したら不味いだろ。俺はヒーローになるために消防官になったんだ。ヒーローが人を傷つけたら意味ねえし」
「ふっ、騎士は無意味な戦闘はやらん。それに姫達の前だ、白銀の君よ」
二人はやる気なし。まあそっちはそれでもいいけど私の気は収まらない訳で軽く挑発しても問題ないでしょ。本当に危険なら他が止めるだろうし。
「そっか、ヒーローになるためにねぇー....でも君の言うヒーローってのは闘う事もせずに逃げる奴の事を言うわけだ。そっちの騎士ってのも女の子の前で負けるのが怖くて逃げてるだけだろ」
「なにッ!?俺はそんなんじゃねぇ!」
「この騎士王を侮辱するか!」
挑発に無事のってくれたのはいいんだけど一斉にこっちに向かって来てお互いにぶつかって言い合いになってる。しかもこちらをそっちのけで。
「なぁ、この二人ってこれが平常運転なの?」
「さ、さぁ...」
よし、一旦仕切り直そう。ほらほら、めんどいから一対一で順番にやろう。
◆◆
「じゃあ始めよっか、ヒーロー」
もんぺに両手を突っ込み半身に構える。
「始めるって...あんた構えなくていいのかよ」
ふむ、人の構えは個人個人で別々。私にとってはこれが構え。それに――
「うーん、君は新人なんだから手加減が必要でしょ?こっちは手を使わないから全力で来な」
シンラはその一言にムッとした表情になる。妹紅は変わらず手を突っ込み半身で構えている。
「いいぜェ...後悔すんなよぉっ!!」
シンラは足から炎を噴き上げ宙へと舞い上がる。シンラは相手の妹紅を見下ろすが、そこに既に妹紅はいなかった。
「なっ!?どこにっ!」
「おーい、こっちだ、よッ!!」
「ぐぁ!?」
既に妹紅はシンラよりも高く飛び上がって背後から屋上目掛け蹴りおとされてしまう。屋上に激突するシンラと華麗に着地する妹紅。
「畜生っ!どうやって――!?」
「ほら、さっさと立って追撃を警戒する!」
急いで立ち上がったシンラだったが既に近づいていた妹紅に追撃を受けてしまう。バンッ!!という蹴りとは思えない音が響きシンラの体が一回転して落下する。
「うーんこれは期待はずれか――」
「ふっっざけんなぁっ!!」
「おっと危ない」
倒れた状態のまま足から炎をだし高速でヘッドスピンをして連続の蹴りを繰り出し上空へ飛び上がるシンラ。
この新人くんは空が飛べるのか。なかなか厄介だなぁ。それにあの足から出てる炎、あのお陰で蹴りの威力も早さもかなりある。腕...使うんだったなぁ、変に手加減とかいうもんじゃないなこりゃ。でもまぁ、お互いに体も暖まってきただろうからここからは空中戦と行こうか。
シンラへと軽く笑みを浮かべる妹紅。妹紅としては本当に純粋な笑みだったがシンラは別の物を感じていた。
(この人...冗談抜きに強いッ!最初の一撃も全然気づけなかった。今も位置的にも有利な筈なのに全くそんな風に感じられない。対峙して分かった何かとてつもなく大きなものに挑むような感覚、なんだこれ...!、笑ってる..のか?そうかよまだまだ余裕って事かよ。いいぜそれなら手加減抜きで行ってヤル!)
ん?え、なにあのシンラって新人。めっちゃ怖い笑い方するんだけど!?ひぇぇぇ、あれヒーローって柄じゃないだろ。むしろ敵だよ敵。でも本気になったってことでいいんだろうな。私もちょっと気合い入れなきゃな、今からするのはちょっと技術が必要だし。
「妹紅さんだったな、いいぜ本気でいくから怪我すんなよォ!!」
そう言いながら高速で接近し横一線に振り抜く蹴りを放つシンラ。
それを上空へジャンプで軽く避ける妹紅。
速い、確かにまともに食らえば一発アウト。でもちょっと大振り過ぎてムラがある。改善点はまだまだ多そう。
「あんたならそうやって避けると思ってたぜ!空中じゃ避けれねぇだろ!」
蹴りを放った場所から直角に曲がって上空の妹紅へとけ文字通り飛び蹴りを放つ。
確かに今の私じゃ空中での回避は難しい、仮にあれを避けられたとしても向こうは簡単に空中で連続して攻撃が出来てしまう。初撃は避けれても次で決められる。結構正確な判断してんじゃんこの新人。
「確かに避けれない。なら――避けなければいいだけだろ」
蹴りに合わせてこちらも蹴りを放つ。お互いの脚がぶつかり合い凄まじい音が響き渡る。
「くっ!でもそう何度も合わせることは無理だろ!」
「どうかな?」
シンラが蹴りを放ち妹紅がそれを相殺する蹴りを放つ。シンラの連撃に同じように連撃を合わせる妹紅。一歩も譲らぬ攻防が繰り広げられていた。――
そう、空中で繰り広げられている。シンラは何の問題もない、それが普通。だが妹紅は違う。妹紅は何一つ力を使っていない己の身体、素の力だけ。これに驚いたのは下で見ていたシンラと妹紅以外全員。
「マ、マキさん....と、飛んでますよ..あれ..」
「た、隊長...どこであんな人見つけてきたんですか....」
「まさか白銀の
「いやぁ...あそこまでとは誰も思わないだろ普通..火縄、どう見る」
妹紅とシンラの攻防から全く眼を離さずに見続けている中隊長の『
「そうですね、まあ感嘆するしかないというところでしょう。あれは並外れた脚力、バランス感覚、集中力、瞬時に対応出来るだけの反射能力がなければ出来ない」
「えっとつまり?」
「人の話は最後まで聞け。あれは飛んでいるんじゃない、飛び跳ねているだけだ。シンラを使ってな」
「えっ!?そんなことッ!」
「だから人の話は最後まで聞けと言っているだろ」
「す、すみません....」
火縄に強烈な威圧を向けられショボンとする『
「あれはシンラが蹴り放つと同時に同じイヤ、それ以上の威力の蹴りを正確な位置に繰り出してその反動で空中に居続けている。弱すぎれば体勢が崩れる、強すぎればシンラが離れ上を取られる、ただ同じ威力で相殺してしまえば自分だけが落下する。あれはそういったことを瞬時に判断し実行してこそできる離れ業だ。現にシンラは常にあのなんでも屋の下にいる、いや釘付けにされている」
「そ、そんなことを....」
「分かったか、アーサー」
「............ほぁ?......要は相手にとって不足なしと言うことだな!」
「....まぁ、そうだ」
「ほらっ!なんか疲れてきてない?」
「クッソ!あんたなんなんだよ!!」
結構空中で蹴り合いをしていたけど相手が先にバテちゃったか。まあここまで良くやったとは思うよ。どうやら私の異常さに気がついて何とか上に行こうとしたようだけどそう簡単には行かせない。
何度か試みてたみたいだけど全部肩や胸、背中を蹴って封じ込めた。あっ!でもあの蹴りの寸前で方向転換するのは驚いたよ。一瞬焦った。でもそこは私の脚をシンラくんに絡みつけて無理に下に追いやった。この子、強いよ。
「はぁ..はぁ..」
「そろそろ限界だね、終わらせよっか」
「はぁ..!まだいけ――!?」
最後はお姉さんちょっと本気でいくから。片足で軽くシンラを蹴って体勢を整える。狙うのは顎の先端、当たるか当たらないかくらいの場所。最後くらいは本来の蹴りの速さでやってあげよう。
それは一瞬、ヒュッっと何かが鳴ったような音がすると同時にシンラの体がぐったりとして脚の炎が消える。妹紅はシンラよりも先に地面へと降り立つ。本来なら大怪我をするような高さだが何事もなかったかのように軽くスタッと降りて上を見上げる。
そこにはぐったりとして動かずに自由落下してくるシンラ。
「んー、このへんかな?」
落下地点へと移動し軽く受け止める妹紅。それと同時に駆け寄ってくるマキと修道服の女性、シスターの『アイリス』
「シンラくんは無事ですか!?」
「ああ、勿論無事だよ。軽い脳震盪を起こしてるだけだからその辺に寝かせて置いてくれない?」
アイリスとマキはそれを聞き安心したようでシンラを抱えブルーシートへ運んでいく。
「さぁーて、次は君だね」
さっきまであれほどの戦闘を繰り広げていたにもかかわらず息一つ上がっていない妹紅。それ以前にすぐに次を始めようと催促してくる始末。
「ふっ、いいだろう。この騎士王アーサー・ボイルがあの悪魔の敵をとってやろう。さあいくぞ我がエクスカリバーの....エクスカリバーの....ゴミにしてやろう」
錆じゃない?もしくは塵。まあいいか。
「君は剣を使うのか。今回もこっちは脚だけ使うから――」
「いや、加減は必要ない。騎士とあろうもの加減などしてもらう必要はない。俺はそこのシンラよりも強いぞ。騎士だからな!!...騎士王だからなっ!!!」
そっか、それじゃあお言葉に甘えようか。騎士?騎士王様?もんぺから両手を出して指先をクイクイッと曲げ軽い挑発。
「ふん、そんな挑発には乗らんぞ騎士だからな。ハアアアア!!」
と言いつつ斬りかかってくる騎士。なんだこの子。
ブンブンとプラズマの刃が空を斬るたんびに音を響かせる。妹紅はあえてギリギリで避け続ける。身体を屈ませ避ける、身体を丸くして小さくして避ける、避けるたびに長い銀髪が宙を舞う。
「騎士王って言うわりには掠りもしてないけど、本調子じゃない感じかな」
「ふっ、そっちこそ反撃の一つでもしてきたらどう、だっ!?」
そう言うや否や手首の関節を決められ足払いを食らって一回転するアーサー。
「な、なかなかやるじゃないか。この騎士王に埃をつけたことを誇っていいぞ」
「........」
うん、そんな片膝をついて言われてもね。
再度斬りかかってくるアーサー。だが今回は妹紅も動いた。アーサーが一歩踏み込むと同時に妹紅の身体がぶれたかと思うと既にアーサーは背後を取られ首を締め上げられていた。
そのまま抵抗できずに意識を持っていかれるアーサー。気を失ったアーサーを優しくブルーシートに寝かせる妹紅。
「さてと、大隊長さんひとまずこれで組み手の件は完了だよな」
「あ、ああそうなんだが....あんた本当に何者なんだ..」
「最初に言ったろ。なんでも屋だって、はいこれ請求書。毎度あり支払いは次来たときでいいよ、じゃあまた」
そう言って足早に去っていく妹紅。後に桜備が請求書を見て悲鳴を上げることになるのだがそれは妹紅が去ってすぐのことだった。
ちなみに妹紅は既にいなかった。
次は新人大会だ!ラッキースケベするぞぉ!!