アクタージュのその後 (ナビゲート編)   作:坂村因

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「112話目に相当する話」の紹介

4月某日。

この日は杉北高校の入学式が行われる日。

 

自転車で登校中の吉岡新太は、「ギーナ ギーナ。チョコレートは青色ギーナ」と歌いながら道を歩く小学生たちとすれ違う。

吉岡は、

「…はは」

と複雑な笑みを浮かべた。

 

電車で登校中の朝陽ひなは、「あっ」という声を上げた。

手に持ったスマホに、

「ギーナ ギーナ 青色ギーナ」

と夜凪が歌って踊るギーナチョコレートのCMが流れていた。

朝陽は、

(また? テレビでも、ネットでも)

と思いながら「…ふふ」と小さく笑った。

 

「なぁ、あの子かわいいよな」

「ああ、いいよね。デスアイランド観たんだけどさ」

 

電車内の誰かのそんな会話が朝陽の耳に入る。

会話をしている人が見ている物は電車の窓の外の大看板。

朝陽の目に、窓の向こう側の光景が映る。

 

大看板には、シェアウォーターを手に持ちニカッと笑う夜凪の姿があった。

 

電車内の扉の上部の広告枠にもシェアウォーターを手に持つ夜凪の姿。

大通りに並ぶ店が歩道に置いた夜凪の等身大パネル。

家電量販店の店頭に複数設置された大画面テレビに、同時に映るギーナのCM。

 

街のあちこちに、宣伝用の夜凪の映像や写真があった…。

 

 

 

…路面を蹴り、勢いよくダッシュ。

杉北高校の校門へと続く道。

その道を、全速力で走る制服姿の少女(夜凪)がいた。

 

「ねぇ今の」

 

「マジ?」

 

「えっ、本物?」

 

「メッチャ速かった」

 

『入学式』と書かれた立て看板の横を、バッ、と通り過ぎる。

 

「わっ」

 

驚いた男子生徒が声を上げた。

 

そんな声を置き去りに、夜凪は高校の敷地内へと駆け込む。

 

…「ふぅ」と息を吐く夜凪。

 

「ちょっと夜凪。どうしたの、朝から全速力で」

「声かけたけど、聞こえなかった?」

 

声を掛けてきたのは映像研究部の仲間である朝陽と吉岡。

夜凪は、

「あ、おはよう、2人共。久しぶり」

と、笑顔で答えた。

 

走ってきたせいで、夜凪はまだ顔に汗をかいていた。

 

朝陽が、

「もうフツーに有名人なんだから、目立つことやめなよ」

と何気なく助言をする。

 

夜凪は、

「うん」

それは分かっている、という感じの笑顔。

 

「でもどうせ変装してもバレちゃうし、走るのが一番だなって思ったの」

 

「え」

 

夜凪の言葉を聞いた朝陽と吉岡は顔を見合わせる。

 

「そっか、ごめん。やっぱり大変なんだね、有名になるって」

 

「ううん」

 

芸能人と一般人では、やはり色々と違う…。

 

「でも最近は走る必要ないかもって思ってて」

 

「…え? どういうこと?」

 

ちょうど、高校の敷地内にいる生徒たちから、

 

「見て見て。CMの」

 

「夜凪景だ。本当に北高の生徒だったんだ」

 

「北高受けて良かったー」

 

といった声が上がっていた…。

 

夜凪は、

「ほら」

と質問への回答を示唆(しさ)した。

 

「遠巻きで見てくるだけで、意外に近づいてこないの」

 

朝陽と吉岡は、

「あー」

と納得し、

 

「そっか。有名になり過ぎると、逆にそうなるんだね」

 

「私も渋谷で芸能人見かけた時、そうなったかも…」

 

それぞれに納得した理由を述べた。

 

会話の後、朝陽は寂しそうに「……。」と視線を落とした。

 

そんな朝陽に向かって吉岡は、

「なんか夜凪さん。どんどん遠くなっていくね」

と、暢気(のんき)なことを言った。

 

朝陽は、

 

「は…はぁ!?」

 

「フツーに全然そんなこと思わないけど!!」

 

と焦り気味に反応する。

 

…朝陽には、「芸能人である夜凪」と一緒の学校で高校生活を過ごす上で思うところがあった。

 

「ねぇ夜凪。今日クラス分けでしょ?」

「? うん」

 

そして自分が思うところを夜凪に伝えようとする朝陽。

 

「もし私たちクラス別々になっても部室で映画観たりできるじゃん?」

 

「だから忙しくても部活辞めることないと思うんだよね、フツーに…」

 

朝陽の話は重要な部分に差し掛かろうとしていたが、

 

 

 

パシャ

 

 

 

という「音」の横やりが入った。

 

「え…」

 

朝陽は困惑した声を漏らす。

 

「写真…?」

 

「誰が…」

 

犯人探しの空気が生まれた。

周囲に集まっていた生徒たちは、各々(おのおの)に反応を見せる。

固まった笑顔を見せて、自分じゃないよ、とアピールする生徒。

何者かによるその不届きな行為に呆れた顔を見せる生徒。

 

吉岡が、

 

「…だ」

 

と口を開く。

 

「誰だよ、今の!!」

 

「芸能人にだって肖像権あるんだぞ!?」

 

大声を出してしまった吉岡…。

 

すかさず夜凪が、

 

「大丈夫よ。吉岡君!」

 

と場を(おさ)めようとする。

 

真面目な表情で、目を大きく開いて、

 

「よくあることだから」

 

と、吉岡に理解を求める夜凪。

 

「キリがないの。一々気にしていたら」

 

夜凪にとっては自分が「芸能人」であることを忘れて、気を休められる場所。

そういう場所であるはずの学校敷地内。

その学校内でのこの出来事に、

「で…でも」

と、朝陽は心配そうに言葉を漏らす。

 

「ほら、クラス分け見に行きましょ。ね? ありがとう」

 

吉岡は、盗撮を許せない物と考えたわけだが、大声を出してしまったことで夜凪に気を遣わせてしまった。

夜凪にとっての「学校」の存在意義を考えてみても、その意義を壊しかねない吉岡の「正論を大声で言う」という判断は正しかったとは言えない。

吉岡は「……。」と黙り込んだ。

 

朝陽は、自分たちに気を遣う夜凪の背中を見ながら、「夜凪…」と寂しそうに呟く。

 

一方、盗撮犯。

その新入生と思われる男子生徒は、

(…フッ。よく撮れてる。今日から夜凪景と同じ学校の生徒かぁ)

と、ニヤけながら画像の確認をしていた。

 

 

 

「お前。クラスと名前は?」

 

 

 

花井遼馬が、その男子生徒の真後ろに立ち、凄みのある声を出した。

 

「え」

 

冷や汗をかきながら後ろを振り返る男子生徒。

振り返った目線が上を向く。

身長の低いその男子生徒と高身長の花井だと、自然とそういうアングルになる。

 

「クラスと名前は?」

 

花井は男子生徒を見下ろし、威圧感のある声を出す。

 

「リョーマ! データ消させるだけでいいから!」

大ごとにしたくない朝陽の言葉。

 

「リョーマ。私は大丈夫! また停学になっちゃうわ!」

夜凪は朝陽につられて「リョーマ」呼び(←夜凪は本来なら「花井君」と呼びます)。

 

夜凪の「また停学」という言葉に反応し、(ま…、また!?)とビビる男子生徒。

 

花井は、

「クラスと名前は?」

と、まだ詰め寄る。

 

男子生徒は、

「1年2組の田島です…。すみません」

と、泣きそうになりながら答えた。

 

花井は、

「…おい、夜凪」

と、今度は夜凪に声を掛ける。

 

目をぱちくりと大きく開けた夜凪は、

「は…、はい」

と、素直に可愛くお返事。

 

花井は、(おお)(かぶ)せるように腕を田島の肩に回して、

 

「1年2組の田島が、お前と写真撮りたいってよ」

 

と、不思議なことを言った。

 

予想外の言葉に、

 

「……。」

 

「ん?」

 

となる夜凪。

 

…講堂(体育館)では教師たちが不思議がっていた。

「…ねぇ。なんで入学式なのに、生徒こんな少ないの?」

「……。」

がらんとした講堂に、そんな言葉が虚しく漂った。

 

…校庭のほうは大盛況。

 

夜凪は元気よく口を大きく開けて、

 

「だからアキラ君とは熱愛してないし!」

 

「王賀美さんは全然乱暴な人じゃないわ!」

 

と生徒たちに説明する。

 

「ウソー。でもネットに書いてましたよ」

 

「本当だってば! じゃあ今本人に電話して聞いてみる!?」

 

「えっ、嘘。ヤバッ、アキラに電話!?」

 

「ちょっと夜凪先輩。それはやめた方がいいって!」

 

「だって誰も信じてくれないんだもの!」

 

「あははは。夜凪さん、面白い」

 

夜凪のもとに多くの生徒が集まり、質問やそれに対する夜凪の回答等でわいわいと盛り上がっていた。

 

その様子を見守っている映像研究部の3人。

「…あれ?」

「さっきまで皆、遠巻きから見てるだけだったのに…」

目の前の光景を不思議に思う朝陽と吉岡。

花井は真面目な顔つきで盛り上がっている様子を見つめる。

 

“腕を組んで一緒に写真”をリクエストしてくる女子生徒まで現れている。

夜凪は腕を組まれた状態で、両手でピースサインを作っている。

 

この状況が生まれるきっかけを作った花井が、

 

「半端にキョリ置くから、()(もの)扱いしちまうんだよ」

 

「お互いな」

 

と、解説。

 

吉岡は「…!」と理解する。

 

「学校の中くらい、そういうのいいだろ」

「そっか…! 流石元腫れ物」

「お前、やんのか」

 

花井と吉岡は(こういう感じでいいんじゃないか?)と互いの意見を確認中。

 

朝陽は、ほっ、と安堵の息を吐いていた。

生徒たちに囲まれている夜凪が楽しそうな顔を見せていたからだ(←夜凪のすぐ近くまで来ているのは女子だけです。さすがに男子たちは遠慮してちょっと離れています)。

 

「おい、お前ら! 進級早々何やってんだ!!」

「うお、やべ」

「あれ、チャイム鳴った?」

 

と、ようやく教師による介入が入った。

 

「早く体育館行け!! 入学式!」

 

「はーい!」

 

「夜凪さん、またね!」

 

「うん!」

 

教師に急かされて、校庭にいた生徒たちは体育館へと向かう。

夜凪は駆け足で向かう。

その隣を駆ける朝陽は、走りながら夜凪に、

「ねぇ夜凪。私たち、もしクラス別々になってても、フツーにさ。今まで通り…」

と、盗撮犯騒動で中断された話を再開させた。

 

「うん」

と夜凪は即答。

 

「私、新しい友達いっぱい作って、映研に勧誘するね」

 

朝陽は、期待通りの言葉を力強く告げてくれた夜凪に対し、

「うん」

と、返事して微笑んだ。

 

映像研究部4人の走りながらの会話。

 

「おい。部室の人口密度、増やすなよ」

 

「えー、増やそうよ。今年も映画撮るんだから」

 

「え、ホント? 私メイクやりたい! 夜凪の!」

 

「吉岡君、もう脚本あるの? 私どんな役?」

 

こんな感じに杉北高校の新年度はスタートした。

…夜凪景、高校3年生に進級。

 

 

 

スタジオ大黒天。

柊雪はスマホで通話中。

「はい。問題ないですよ、けいちゃんは。初めは戸惑っていたみたいですけど、もう全然」

 

雪は、デスクの上のカップにコーヒーを注ぎながら通話を続ける。

「うん。引っ越しも勧めたんですけどね。お母さんとの想い出があるからって。アリサさんは流石に不満そうだったけど。それより墨字さんはいつこっち戻ってくるの? けいちゃん、スターズに預けてからまだ一度も戻ってきてな…」

 

話の途中だった雪は、突如険しい顔で、

「…あ」

と、いう声を上げた。

 

「また勝手に切って、あのヒゲ…」

 

黒山は基本、自分が知りたいことさえ聞ければ自分の都合でさっさと電話を切ってしまう、そんな男だ。

 

 

 

都内、オフィス街。

商業ビルの一室にいる2人の男(黒山と天知)。

 

「もぅ十分じゃねぇのかよ。最近毎日テレビで観るぜ。夜凪のやつ」

 

「十分なものか。CMで得た知名度は、次の仕事のための名刺だ。その先に君の映画が待っている。そもそもクランクインまで夜凪さんを休ませるつもりか?」

「……。」

 

「矛盾してるよ、黒山。夜凪さんが有名になることを避けたがってるように見えるぞ」

「…そうじゃねぇよ」

 

黒山と天知がビジネスの話をしていた。

2人並んで下座の席に座り、他の席は空席。

 

「ただ、余計なリスクを背負わせる必要はねぇだろ」

「…はは」

 

…そして天知の持論が展開される。

「元より芸能はギャンブルだ。リスクが怖いなら転職させるといい」

「夜凪景で映画を撮りたい」

「だがリスクは避けたい」

「黒山、君のそれは優しさじゃない。甘えだよ。自分に対するね」

 

それまでムスッと無言で天知の論を聞いていた黒山は、指をポキポキ鳴らしながら、

「誰が甘えって。このノッポ」

と、顔に青筋を立てた。

 

「お、やるかい? 勝てば愉快。負けても賠償金を絞り取るよ」

 

ここで待ち人登場。

部屋の中に9名の人たちが入ってきた。

 

「すみません。お待たせしまして」

 

「いえ、お時間頂き、ありがとうございます」

 

「企画書は拝見しています。お会いできて光栄です。黒山監督」

 

「どうも」

 

儀礼的な言葉を交わし、全員が着席した。

 

そして、天知1人が立ち上がった。

 

「さて、これは良い話です」

 

天知の語りが始まった。

 

「黒山墨字の初大作映画となるだけでなく、夜凪景の初主演作品にもなります」

 

次に天知は、「夜凪景」について説明する。

 

「まだ知名度に不安を覚えるかも知れませんが、ご存知の通り、彼女の活躍は飛ぶ鳥を落とす勢い。公開は2年後目標ですが、その頃には比類ない女優となっていることでしょう。そのためにも今、テレビの方に注力しています」

 

集まった人の中から「テレビですか」という声が出て、天知は「はい」と答えた。

 

 

「テレビドラマです」

 

 

スタジオ大黒天で、資料を管理する作業中の雪。

雪が手に持つ資料には「オーディションのお知らせ。MHK大河ドラマ」の文字があった。

そして雪のデスクの上には、オーディション申し込みに使用する夜凪の宣材資料が置かれていた。

 

               「scene112.有名人」/おわり




以上が、アクタージュ「scene112.有名人」の紹介となります。

絵面では、目をぱちくりと大きく開けて「は…、はい」と言う夜凪が可愛いです…。
広告用の「シェアウォーターを手に持ちニカッと笑う夜凪」の写真はなかなかに良いセンスです。

ちなみに、この「scene112.有名人」はアクタージュ世界の「時間の進み」が初めて明確に示された回となります。
夜凪が高校3年生になった、という部分ですね。

物語の上では、黒山の映画の公開予定が2年後目標であることが明かされた点が大きいです。
あと、夜凪の次の仕事が「大河ドラマ」であること。

アクタージュとしては珍しく、絵面として目立つ箇所は少なめです。
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