アクタージュのその後 (ナビゲート編)   作:坂村因

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「113話目に相当する話」の紹介

スターズ事務所の一室に、夜凪、アキラ、皐月の3人がいた。

テーブルに付き、椅子に座ってジュースを飲みながらのおしゃべり。

 

アキラは、

 

「自分で選ぼうと思ったんだよ、自分の出演する作品を」

 

「夜凪君みたいに」

 

と、仕事に対する自身の考えを述べる。

 

「少し前なら母さんに一蹴(いっしゅう)されただろうけどね」

 

「受け入れてくれたよ」

 

夜凪はストローでジュースを、ちゅ~、と吸い上げながら聞き役を務める。

 

アキラは、

 

「10代の僕は10代のうちしか演じられないから」

 

爽やかな笑顔でそう言った。

 

皐月が、ブン、と身を乗り出し、

 

「ちょっとアキラ! それじゃ私が子供みたいじゃない!!」

 

とアキラに噛みついた。

 

皐月は顔を赤くして夜凪の方を見る。

 

「私には私にふさわしいお仕事しか入ってこないの!」

 

「アリサさんはその辺、分かってくれてるから任せてるの、私は! 分かる!?」

 

夜凪に向けて熱弁。

この3人の中で自分だけが「自分で仕事を選んでいない」ことで、「自立していない人」扱いされるのが嫌らしい。

 

アキラは、別に「自分で選ぶことが立派」だと考えているわけではないので、

「そ、そうだね。それもいいと思うよ(なぜ夜凪君に…)」

と、皐月をなだめる。

 

このやりとりで「……。」と(うつむ)いて押し黙る夜凪に、アキラは「? どうかした?」と尋ねた。

 

「私みたいにって言ったけど。私、自分でお仕事選んだことないわ」

「…! ああ、そうだったんだ。僕はてっきり」

 

「うん。そういうのは全部、黒山さん任せだったから」

 

…3人の話題は「黒山」へと移った。

 

「ふーん。スタジオ大黒天なんて聞いたこともないけど」

「?」

 

「割と優秀みたいね。そのクロヤマサンって」

「…!」

 

その皐月の言葉を聞いた夜凪は「そうなの?」とアキラに訊いた。

アキラは「そうだね」と即答。

 

「君がスターズのオーディションにやってきた時、僕は君の力を見抜けなかった」

 

オーディションの時の出来事を思い出す。

 

自分は、

(課題は「悲しみ」のはずだ!)

(それをただつっ立って! 冷やかしなら帰ってくれ!)

と夜凪に告げた

 

黒山は、

(アキラ君 ママには内緒で夜凪を…)

画策(かくさく)した

 

アキラは言葉を続ける。

 

「でも黒山さんは違った。優秀に決まってるよ」

 

「君をこの世界に招いたのは彼なんだから」

 

夜凪は、アキラの言うことに無言で聞き入った。

 

 

 

スタジオ大黒天。

(そう。私を選んだのは黒山さんなのに、最近姿を見せない)

夜凪は、別にいいんだけど、と心中で呟きながら、書架にある資料群の中の「何か」を探している。

 

(思えば“羅刹女”から、まともに会話もしていない気がする)

探し物を続けながら、別にいいんだけど、とまた心中で呟く。

 

(アリサさんにお世話になって、CMが流れるようになってからは一度も顔を見ていない気がする)

書架を丹念に調べながら、別にいいんだけど、とさらに呟く。

 

(別にいいんだけど、なんかムカつくわ)

 

色々仕事で頑張っているのに「放ったらかし」という扱いを受けていることに不満がある夜凪。

 

夜凪は事務所の外の気配に気づく。

「…! 声…!?(まずい! 雪ちゃんが戻ってきた!?)」

 

慌てた夜凪は、床に散らかっていた書類を踏んづけてしまい、

「あ…」

と言う声とともに、つるん、と足を滑らせた。

 

事務所の外。

雪は階段を昇りながらスマホで通話中。

 

「だーかーら、常にきてるんですって! けいちゃんへのオファーが! 私の判断で対応する訳にはいかないでしょ!? これ以上スターズには甘えられませんって!」

 

階段を、タン、タン、タン、タン、と昇る雪。

 

「だから早く戻ってきてって! え? はい。MHKのオーディションは受けるようにしましたけど…。え? それだけでいい? せっかくこんなにオファー来てるのに。…あ」

 

雪は、

「また一方的に切って…」

とスマホ画面を見つめた。

 

そして事務所内から響く、ガタタン、という音。

ドアを開け中に入ると、盛大に床にぶちまけられた書架の資料群の中に、ぐちゃあ、と横たわっている夜凪の姿があった。

 

「…何してるの」

 

「…別に?」

 

「別にって…」

 

そして雪は気づいた。

床に散らかった物の中に黒山の過去作品のビデオがあることに。

 

「それ探していたの? 墨字さんの映画」

「え」

 

夜凪は、自分のすぐ横に探していたビデオがあるのを見て、

「あ。あった」

と声を出した。

 

「興味あるんだ? 墨字さんの映画」

「え」

 

雪が、

 

「千世子ちゃんの演出すごかったもんねぇ」

 

「そりゃ流石に気になってくるよねぇ、墨字さんのこと」

 

そんなふうに、いきなり「夜凪の気持ちは分かる」という感じでしゃべり始めたので、夜凪は目を見開いて思考停止状態。

 

「言ってくれたらよかったのに。いいよ、それ、持っていって」

「…。」

 

…床に転がっていた夜凪は上体を起こした。

 

「な、何のこと? ルイに頼まれてアニメを探しに来ただけですけど?」

 

「黒山さん? あーあのヒゲのこと? 最近見ないわね(そーいえば)」

 

目を逸らし、冷や汗を流しながらしゃべる夜凪。

 

雪は、

 

「………。」

 

と事務所の宝である夜凪を凝視する。

 

夜凪はそそくさと帰っていく。

 

「じゃ、じゃあお邪魔しました」

 

(この子…。…本当に役者か?)

 

 

 

TSUTAYAにやってきた夜凪。

キャップにサングラスに髪型ポニテと変装もばっちり。

役者仲間の湯島茜と源真咲についてきてもらった。

 

「それで、わざわざレンタルショップなんや」

「うん。2人なら映画に詳しいと思って」

 

店内を歩く3人。

 

「事務所からは、もう借りられないの。なぜかとっさに興味ないふりしてしまったから」

 

「まずそれが、なんでなんだよ」

 

「分かってへんな、真咲ちゃん。夜凪ちゃんも乙女ってことやろ」

 

「ん?」

 

茜が無邪気な笑顔で、

「年上で出来る演出家って魅力的に見えたりすんねんな」

と、「夜凪ちゃんも乙女」について解説。

 

 

闇のオーラをまとい、歯をギリリと噛んで怒りの視線を茜に向ける夜凪。

 

 

「ち…違うみたいだぞ。謝れよ、茜さん」

「ご…ごめん」

 

ここで真咲が、

「まぁでも、俺は羨ましいよ」

と、そんなことを口にした。

 

「自分に惚れてくれた監督に惚れ込めるなんて、役者冥利に尽きるだろ」

 

この真咲の言葉に、夜凪は少し驚いた表情を見せた。

 

「だから惚れたとかって意味ちゃうんやろ」

「そういう意味じゃねーよ」

 

真咲が言っているのは、「この役者を撮りたいと願っている監督に対して、この監督に撮ってもらいたいと思えることは、その役者にとって幸せなことだ」という意味だ。

 

「お、いた」

真咲が店員の姿を見つけた。

 

「すんません。黒山墨字って監督の作品置いてますか?」

「あーはいはい。黒山監督ね」

 

夜凪が、

「知られてる…」

と呟く。

 

店員は、

「そりゃ俺だって名前くらいは知ってるよ。黒山墨字」

すかさず反応。

 

夜凪は、

「ゆ…有名なのね? 黒山さん」

と言いつつ、口元が捻じれた変な表情を見せた。

 

真咲はその表情を見て(嬉しそうだな…)と解釈した。

 

「でも、うちには置いてないんですよね」

 

「え」

 

 

 

空に三日月が浮かんでいた。

公園を抜ける歩道を夜凪は1人、とぼとぼ、と歩いた。

 

「はあ」

 

(あのあと何軒か回ったけど、結局黒山さんの作品は見つからなかった)

 

黒山の名前を知っていると言った最初の店の店員とこんなやりとりをした。

 

「あの。店員さんは黒山さんの映画観たことありますか?」

「ああ、はい。昔、ミニシアターで」

 

「ど…どうでしたか…? 黒山さんの映画…」

「…うーん。正直、ちょっとよく分かんなかったスね、俺には」

 

そのやりとりを険しい顔つきで夜凪は思い出していた。

 

(どうして私、イライラしてるんだろう)

 

 

 

…1本の映画のために、70億人からたった一人を探し続けてる

 

…俺が撮りたいのはお前の愛情だ

 

…私って思ったより綺麗なのね……浮かれてんな、バァカ!! お前の才能はあんなもんじゃねぇんだよ!

 

…お前の芝居を世界に届けるのはこの俺だ……うん、よろしく

 

 

 

過去に交わした会話が思い起こされる。

黒山が演出家を務めた「羅刹女」での千世子の凄い演技も思い起こされる。

へらへら笑いながら「正直、ちょっとよく分かんなかったスね」と言った店員の姿も思い起こされる。

 

 

「…何よ。あの店員」

 

 

夜凪は自分の今の心理状態に驚き、

「…ん?」

と立ち止まった。

 

「あれ? 私、今怒ってた? ヒゲのことで? 作品も観たことないのに…?」

 

アキラが(自分で選ぼうと思ったんだ。自分の出演する作品を)と言っていたことが思い出された。

 

私が出演したい作品…。

 

黒山は(ずっと待っていた。お前のような奴がこっち側に来るのを)と言っていた…。

 

夜凪は、木立ちの向こうにある商業ビルの壁面に大きくライトアップされているシェアウォーターの看板を見上げた。

 

「私、もう“こっち側”に来たわよ。黒山さん」

 

大看板に真剣な眼差しを向けていた夜凪は、プルルルル、という音にビクッとなった。

 

黒山からの電話だった。

 

 

 

…日が変わって。

この日は、黒山と映画館に行く予定の夜凪。

渋谷駅で待ち合わせ。

 

いつも通り黒いシャツに黒いパンツ姿の黒山。

「おう」

 

ちゃんとした外出用の服装にハットにサングラスの夜凪。

「うん」

 

「行くか」

「あ、うん」

 

目的地まで歩く二人。

 

「私、次のオーディションまでしばらくお休みだって」

「ああ、聞いた」

 

「聞いたじゃないでしょ。雪ちゃん、怒ってたわよ、全然帰ってこないって」

「忙しいんだよ、今」

 

「私を映画に誘う時間はあるのに?」

「そういうのも仕事だろ、俺の。それより何だよ、よそ行きみたいな格好して」

 

「…? 当然でしょ。映画観に行くんだから」

「あ? 何だよ、映画くらいで」

 

ここで黒山は「……。」と少し考える。

 

「いや…そうだな」

 

と意見を改める。

 

「特別な場所だもんな。映画館って」

「? 当然でしょ? テレビより大きい画面で、ポップコーン食べて、皆で観るのよ?」

 

そして目的地に到着した2人。

上映のラインナップに、「たんぽぽ」という映画のポスターがあった。

ポスターには「黒山墨字 監督作品」の文字があった。

 

何の映画を見るかは知らされていなかった夜凪は、まじまじとその文字を見つめた。

 

「お前。俺の映画、まだ観てなかったよな」

「あ…あー、そうね! そういえば、そうね!」

 

しどろもどろになりながら、

「ちょ、丁度良かったわ! 私しばらくお休みだから、色んな映画を観たいと思ってたとこだったのよ!」

と口にする夜凪。

 

「…なんか変だぞ、お前」

「な、何が?」

 

(黒山さんの映画…)

 

映画館のあるビルのほうへ足を踏み出しながら夜凪は思う。

 

(ああ、私。ワクワクしている)

 

               「scene113.役者冥利」/おわり




以上が、アクタージュ「scene113.役者冥利」の紹介となります。

扉絵は、キャップにポニーテールの夜凪(サングラスはしていません)。
腰から上のアップで、アングルは少し斜め(目は正面を見ています)。
相変わらず可愛い夜凪です。

「自分に惚れてくれた監督に惚れ込めるなんて、役者冥利に尽きるだろ」という真咲の言葉から副題が採られています。

無論、夜凪と黒山のお出掛けはデートではありません。

なお、この「scene113.役者冥利」で黒山が「忙しいんだよ、今」と言っています。
これは前回に天知としていたようなことを進めているわけです。
ようするにスポンサー集めですね。
黒山は自力で企画を立ち上げるほどの蓄えを持っていません。

金策に頑張らなければならない立場です。
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