アクタージュのその後 (ナビゲート編)   作:坂村因

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「115話目に相当する話」の紹介

とある撮影スタジオにて。

 

「突然やってきて何かと思えば、必ずオーディションに受かる方法?」

 

「あるはずないでしょ、そんなもの」

 

撮影現場内を歩くアリサ。

その後ろをついてまわる夜凪。

 

「でも私、今度のオーディションは必ず絶対に受かりたいの!」

「スタジオでは静かになさい、景」

 

現場にいるスタッフたちは、

(夜凪景だ…)

(夜凪景がいる…)

(新宿ガールと星アリサ…)

と、二人が歩いてる方に目を向けた。

 

結局、アリサは立ち止まって夜凪と話を始めた。

 

「景。去年のスターズのオーディション、なぜ私があなたを落としたか分かる?」

「…!」

 

少し考えてから、夜凪はおそるおそる、

「…シュ、シュミ?」

と回答した。

 

「そうよ」

「そうなの!?」

 

アリサはオーディションがどういうものかを夜凪に語って聞かせる。

 

「監督やキャスティングの趣味や方針。役と印象が合うか。他のキャストとのバランスに、政治的な戦略」

 

「オーディションは加点式のテストじゃない。相性を見るためのお見合いよ」

 

「ましてや“大河”のオーディションとなると、千世子に引けをとらない有名どころも受けにくる」

 

「必勝法なんて、ありはしないわ」

 

会議用の長机がずらりと並べられた大部屋。

書類選考を通過した40名が席に付いて待機する中、夜凪は周囲の面々に目をやった。

 

確かにデスアイランドの時と違う

あの人も、あの人も、あの人も、どこかで見たことがある気がする…

 

「それではオーディションを始めます。4人ごとに番号でお呼びします」

 

スタッフの1人が大部屋のドアを開けて、そう告げた。

 

(よし…! まずは証明しよう。私が一番だって)

 

 

 

 

別室に移動した4人が横に並べられた椅子にそれぞれ座った。

新名夏は、

(さあ、落ち着け、新名夏。お前なら出来る。大丈夫だ)

と自分に言い聞かせた。

 

正面数メートル先の長机に付いている8名。

机の上に資料を置き、自分たち4人のほうを向いて座る審査員の人たち。

部屋の壁際にも関係者らしき人たちがいて、立ったままこちらを見ている。

 

夏は自分以外の3名を横目で観察する。

 

阿笠みみに日尾和葉か

やっぱ大河ともなるとこのレベルの子たちがオーディション受けるんだな…

一人知らない子がいるけど、無名でも上手い子はたくさんいる

 

…夏は、お団子ヘアーに黒縁メガネの「知らない子」の横顔を見た。

 

待合室で私よりキャリア浅い子 夜凪景しかいなかったし、きっとこの子もキャリアでは私より上

 

油断できない…

 

 

 

オーディションに関する説明が始まった。

 

「チーフ監督の犬井(いぬい)五郎(ごろう)です。さて始めますか」

 

犬井が詳細について語る。

 

「大河ドラマ『キネマのうた』は、戦後の日本の映画界を支えた女優・薬師寺真波(やくしじまなみ)の半生を描いた作品です」

 

「主演薬師寺真波役は(たまき)(れん)

 

「今回は、その環蓮の少女時代とその当時の共演者3人の女優を決めるオーディションです」

 

「奇しくも君たちと同じ立場の少女を描いた物語です。やり易いでしょう」

 

そして審査が開始された。

犬井から質問が提示される。

 

「まずは簡単な質問をさせて下さい。今回、このオーディションをお受けになった理由は何ですか?」

 

夏は「…。」と少し考えてから、

「えっと、誰からですか?」

と犬井に尋ねた。

 

「それは問いません」

「え?」

 

壁に(もた)れて立っていたキャップを被った女性から声が飛んできた。

 

「自主性とか、コミュ力とかも見てんだよ。性格悪いよね」

 

「君は見学だって言ったろ。黙ってろ」

 

唐突な「声」の介入に、夏は少し驚く。

そして、そのキャップ姿の女性に目をやり、

「嘘」

と声を漏らす。

 

 

…その女性は、環蓮。33歳。「キネマのうた」の主演を務める女優だ。

 

 

環はオーディションに挑む4人に向けて、フランクにしゃべり始めた。

 

「ねぇ知ってる? 10代の頃の私なんて私がそのまま演じるって言ったんだよ。まだまだいけるってね、あはは」

 

「でも、こうして見ると肌が全然違うね10代って。ちょっとショック」

 

「大河で女が主演って8年ぶりなんだって。今年は私たち、女の年だ」

 

「緊張してたら損だよ。がんばって」

 

 

 

夏は(環蓮…。すごい。初めて会った!)と、はしゃぎ気味に、

「は…はい! じゃ私から」

と、笑顔で声を張った。

 

しかし、夏の宣言を無視して、阿笠が先に答え始める。

 

「私はテレビの仕事が好きではありません」

「…!」

 

「特に民放ドラマは1シーンあたりの撮影時間が映画の半分とかで稽古なんか全然ないし。そんなんじゃ芝居に(こだわ)れない。芝居の喜びを味わえないと思うんです」

 

「だけど大河は別です。稽古も入念で、作品も面白いです。大河ほど俳優にとってキャリアになるドラマもありません」

 

「何より、今年の主演は環蓮さんです。必ず受かりたいと思っています」

 

(りん)とした表情で、阿笠は回答を言い終えた。

宣言を遮られる形で先を越された夏は、(阿笠みみ…。すごい自信)と警戒モード。

 

「あはは。私、あの子好き。正直で」

 

「黙ってろって」

 

環のおしゃべりを犬井が注意する。

 

そして、

 

「なんかムカつくの私だけですか?」

「…!」

 

日尾和葉の発言によって唐突に険悪な空気が生まれる。

夏は、日尾と阿笠の雰囲気に多少ビビる。

 

一旦、横目で鋭く隣の日尾を睨んでから、阿笠は口調を抑えて、

「…何が?」

と、落ち着いた表情を作って見せた。

 

言われた日尾は、

「は?」

という反応。

 

夏は、

(ひぃ…)

という反応。

 

「ここは喧嘩する場所じゃないよ」

 

犬井の言葉に、「?」となる阿笠。

阿笠は、自分は喧嘩を回避する対応だったでしょ、と思っている。

 

「私がムカついてんのは阿笠サンに対してじゃない。あなたの質問に対してです」

「…!」

 

「オーディションの案内、うちらの事務所に送ってきたのはあなた達でしょ。今日ここに来た理由なんて、事務所の意向に尽きるに決まってます」

 

髪をいじりながら日尾は言葉を続けた。

そして、

「私は偶々(たまたま)才能があって偶々(たまたま)お金がなかったから女優やってるんです。なのに大河のギャラって民放の半分もないんでしょ。できれば落として欲しいです」

と、真面目な顔で主張した。

 

「なるほど」

 

「あはは。正直者ばっかだなぁ」

 

夏は、

(日尾和葉…。噂にはきいてたけど、本当にこんな性格してるんだ。どうして売れてるんだろ)

怪訝(けげん)に思う。

 

「それでいうなら私も事務所の意向です。でも私はその意向に納得しているし、私も必ず今日役を(もら)うつもりです。よろしくお願いします」

 

次に回答したのは、 お団子ヘアーに黒縁メガネの女の子。

笑顔で淀みなく言葉を言い切った女の子に対し、

(見たことない子なのにすごい自信…。きっと上手い子なんだろうな)

と、夏はそんな印象を持つ。

 

(上手い子は皆、自分を持っているから)

 

黒縁メガネの女の子の大人しそうな横顔を見ながら、夏はそう考えた。

じゃ私から、と宣言したのに、状況判断に振り回されているうちに結局最後になってしまった夏。

 

犬井が、

「最後に、君は?」

と告げた。

 

「あっ、はい。私は以前アイドルをしてまして…!」

 

「それは知ってるよ。この中じゃ一番の有名人だからね。君は」

 

その言葉に夏は、「…!」、と表情を硬くさせてしまう。

 

ここで、

「新名夏 総選挙で3位 センター張ってたしね CMの起用数もファンの数も一番でしょ」

夏と犬井のやりとりを見ていた環から、「助け船」的な言葉が出された。

 

「きょ、恐縮です…! 私は元々女優志望だったんですが、なぜかアイドルとしてデビューしてしまって。実力はまだまだって自覚してますが、今遅れを取り戻すつもりで…!」

 

「まぁ、君はいいか。じゃあそろそろ始めます」

 

犬井はオーディションの次の工程である「本読み」に移る旨を告げた。

 

(えええ! あーダメだコレ。落ちるパターンの時のやつだ!)

 

夏は、涙目になりながら犬井の態度を分析する。

 

しかし、オーディションはまだ終わっていない。

夏は、気を取り直してオーディション用台本を開く。

 

(オーディション内容は、エチュードじゃなくてただの本読み。実力は認めてくれていて、後は役が合うかどうかのチェックってところか…)

 

左右の頬を両手でむにむにしながら、夏は(よし…、挽回(ばんかい)してやる)と意気込みを見せる。

 

…最初は夏の本読み。

 

「では、始め!」

犬井が手をぱん、と叩いた。

 

「たか子さん。私ね、あなたは自ら降板すべきだと思うの」

 

「大島監督がなぜあなたを起用するのか私分からないもの」

 

「だってそうでしょ? あなたヘタクソだもの」

 

…犬井は思う。

 

上手いな

去年までアイドルだったとは思えない

相変わらず安心して見てられる芝居だ

アイドル時代、歌もダンスも頭抜けていたのはあの子だ

努力の子だな

 

…次は、阿笠の本読み。

 

黒髪に黒い瞳のその顔は悲しそうに崩れ、目からはツーっと涙が伝う。

 

「すみません…私」

 

「マキコさんに迷惑ばかりかけて…」

 

…犬井は、

 

本読みで涙を流すか

役への没入の深さと速度が異常だ

感受性が鋭いというべきか

 

と、評価した。

 

見学中の環は、阿笠が涙を流したところで、(おっ!)、という感じの笑顔を見せた。

 

…次は、日尾の本読み。

 

「ん? …ああ。次、私か」

 

「すみません私。マキコさんに」

 

「そこじゃない。その次だ」

 

「ああ」

 

環は、(あはは。本当にやる気ない)、と思いつつ日尾の本読みを聞く。

 

涙を流していた阿笠は、「…!」と隣の日尾に反応する。

 

「気にすることねぇよ、たか子」

 

「こいつ、あんたが怖いんだ」

 

本来の本読み部分を読み始めた日尾が、凄みのある迫力を(ふる)ったからだ。

 

「あんたの才能が怖いんだよ。惨めなもんだろ。落ち目の女優ってのはよ」

 

…犬井は、

 

この性格で仕事が途絶えないはずだ

王賀美陸を連想させる存在感

有無を言わさぬ魅力がある

 

と、日尾を評する。

 

 

 

ぱたん。

 

 

 

「え」

夏は小さく声を上げた。

 

(あの人。本を閉じた)

 

日尾は人影が自分を覆っていることに気づく。

 

お団子黒縁メガネの役者が日尾のすぐ前に立っていた。

 

「私、マキコさんが正しいと思う」

 

「たか子さんは私たちの足を引っ張っている」

 

黒縁メガネの役者は、日尾を見下ろす。

 

「でもね。私からすると皆さん、五十歩百歩」

 

見下ろされた日尾は、(こいつ…!)と視線を上に上げた。

 

「あはっ」

笑い声を上げたのは環。

環は、(やる気のない日尾を煽ってる。監督に背中向けてまで)、と面白がっている。

 

「それってどういう意味よ。真波さん」

日尾も立ち上がった。

椅子の上に台本を置いて。

 

阿笠は、(日尾も本を閉じた…)と、涙を維持しながら、すっ、と立ち上がった。

 

合わせて夏も立ち上がる。

(まだ暗記できてないのに! 最悪エチュードに持ちこんででもアピールするしかない)

 

「いいんです、私! 私が下手なのが悪いんですから!」

 

「もうそういう話じゃないわ、たか子。黙ってなさい」

 

「真波。言いたいことがあるならハッキリおっしゃい」

 

「ずっと言ってます。私が一番上手いって」

 

「あはは! 笑わせないでよ!」

 

環はこの展開を興味深く見つめる。

 

「いいんですか。…とっくに台本の台詞尽きてエチュードになってますよ」

同じくじっと見つめる犬井に、スタッフが声を掛ける。

 

「…いや」

 

「エチュードというより、これじゃ喧嘩だ」

 

黒縁メガネの役者の仕掛けから始まった4人の芝居。

 

「よし、十分です。役入れ替えてもう一回で」

 

犬井が手を叩いて、カット、を告げた。

 

夏と日尾はそれぞれ、

 

(阿笠さんと日尾さんは分かる。…でも、いくらなんでも)

 

(…こいつ、ハッタリじゃない。…上手い。こんな奴がまだ無名なんてどうなってんの)

 

と、黒縁メガネの役者を意識する。

 

…黙って壁に凭れていた環が、口を開いた。

 

「ねぇ、ずっと気になってたんだけどさぁ」

 

「どうして君はオーディション前から芝居してるの?」

 

環から黒縁メガネの役者に放たれたそんな言葉。

 

「…え」

 

「…?」

 

「どういう意味…」

 

 

 

 

「オーディションは相性を見るお見合い。必勝法はないってきいたんです」

まずお団子を解く。

 

「……!!」

 

「…!」

 

 

 

 

「だったら、できるだけ色んな子を演じた方が有利だと思って」

次に黒縁メガネを外す。

 

 

 

「夜凪景…」

 

 

 

夏は、顔を晒した役者の名前を口にした。

 

変装を()いた夜凪は、力強い輝きを(たた)えた瞳を環に向けた。

 

「なるほど。想像以上に面白いな、君」

 

環は、目だけが笑っていない笑顔を夜凪に向けた。

 

               「scene115.必勝」/おわり




以上が、アクタージュ「scene115.必勝」の紹介となります。

絵面としは、環蓮の容姿がはっきり描かれたことが重要ですね。
そして変装を解いた夜凪の大ゴマが迫力があって可愛いです。

今回は新名夏視点で語られる内容が多めでした。
その夏の絵面の中では、本読みの時の表情が圧巻です。
かなり怖い目つきで、怪しい魅力も伴っています。
夏は、茶髪ロングストレートぱっつん混じりの髪型、正統派アイドル顔の容姿です。

阿笠みみは最初の犬井の質問への回答時の顔が恰好いいですね。
阿笠は黒髪ボブ、クールな美人系の容姿。

日尾和葉は本読みの顔でしょうか。
目力がありそうな顔です。
日尾は、毛先が散らされたウェイビーな長めの茶髪ボブ、ちょっと派手目な顔立ちという容姿。

環は、恰好いいお姉さん、という容姿ですね。
背も高い。
キャップにポニテにスポーティな軽装でも美人だと分かる感じの、大物感が漂う女優です。
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