アクタージュのその後 (ナビゲート編)   作:坂村因

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「116話目に相当する話」の紹介

夜凪は、

「オーディションは相性を見るお見合い。必勝法はないってきいたんです。だったら、できるだけ色んな子を演じた方が有利だと思って」

と告げ、変装を解いた。

 

夏は、

(1つでも多く役を見せるために!?)

とひたすら驚く。

 

阿笠は、

(嘘…! 芝居する前から別人を演じ分けていたってこと!? 思いついてもやらないでしょ、普通…。大河のオーディションだよ!?)

と夜凪のやり方に疑問を感じる。

 

日尾は、

(こいつ、シェアウォーターの子でしょ…。アイドルみたいなもんだと思っていた…!)

と認識を改める。

 

そして、

「面白い子だなぁ」

と、環は目だけが笑っていない笑顔を夜凪に向ける。

 

 

 

オーディション実施日の少し前の日の杉北高校、授業中。

 

夜凪は、隣の席の女子生徒をじぃーっと見た。

 

「私の顔、何かついてる?」

「あ、ううん。ごめんなさい。夜凪景です」

 

「知ってるよ、有名人だもん。今井です。よろしく」

 

…まずは、隣の席になった今井さんから始めた。

 

 

 

過日、夜凪は明神阿良也からレクチャーを受けていた。

阿良也は「夜凪カレー」を食べながら、夜凪の質問に答えてくれた。

 

「役のバラエティを増やしたい? ああ、そういうことか。じゃあ、テキトーに人の物真似しまくればいいよ。え? マジメだって」

 

「仕草、目視、話し方、笑い方、歩き方、すべて心の現れだ」

 

学校で、夜凪は「今井」を追う。

 

今井さんは話す時、相手の目を真っ直ぐ見る

ぴんと姿勢が綺麗で、笑う時は口元を隠す

考え事をする時は爪を噛む癖がある

 

形を真似れば、心が()えてくる

 

夜凪は、学校の中で今井を観察して形を真似て、学校の帰り道も今井が自宅に着くまでの行動を見届けた。

 

阿良也のレクチャーには、

「後はいつもの喰い方と同じだよ。生まれた時から住んでいる家、つるんでる友達。その中で生きていれば、いずれ自分の中にあるはずのない役の記憶が見えてくる」

という言葉があった。

 

今井が帰宅するまでを見て、さらに今井の自宅周辺を観察した夜凪。

 

今井家周辺の過去の光景が見えた気がした

あはは、という笑い声

ボールを抱えて走る幼少の今井

 

夜凪は、(よし)と何かをつかんだ笑顔になった。

 

日が暮れて、夜凪は外出する。

お団子ヘアーに黒縁メガネの今井を真似て、「偽今井」として外見や仕草をトレースして、夜の街に出陣。

途中、駅にて本物の「今井」を発見。

平凡で華美さのないスカートルック、お団子ヘアーに黒縁メガネ。

相変わらず全体的に地味な雰囲気の今井。

 

夜凪は(まずい)と身を隠す。

 

(どうして本物がこんなとこに…。どこ行くのかしら)

 

今井は駅のトイレへと入っていった。

夜凪は今井を観察。

 

服を着替え、メイクをして、髪型を変えて、今井はトイレから出てきた。

 

「まぁ、その程度で掴み切れる程、浅くないんだけどね。人間って。だってそうでしょ? どいつもこいつも皆、役者だからさ」

 

阿良也のレクチャーの続きの言葉を思い出しながら、夜凪は今井を眺めた。

 

攻めたメイクで大人っぽいワンピースにネックレスを添え、隣を歩くスーツ姿の男性の右腕に自分の腕を絡ませて微笑む今井の姿を。

 

(そっか…!! 人って相手によって態度や性格が変わるから、たった一人を真似るだけで何人もの人を演じられるんだわ!)

 

偽今井の恰好をした夜凪は、路上に立ったまま考えた。

 

楽しい…

やっぱりお芝居って楽しい…

 

 

 

…「隣の席になった今井さん」から始めた夜凪は、クラスメイトたちを真似る日々を過ごした。

 

「今井」の次は、普段から見た目を整えるタイプの子。いつも学校でメイクをするクラスメイト。

 

 

もっと…

 

 

授業中、よく席で寝てしまう子。

 

 

もっと…!

 

 

見た目が派手な感じで黒板を見ながら無意識に髪をいじる子。その毛先を気にする仕草。

 

 

もっともっともっと…!

 

 

休み時間に目を閉じて長い髪をブラッシングする子。

 

 

そんなふうに…。

夜凪は、次々とクラスの女の子たちの物真似を手の内に入れていった…。

 

 

 

場面は戻って、現在…。

オーディションの真っ最中。役を入れ替えての本読みが続いていた。

 

…突然、犬井がパン、と手を叩いた。

 

「分かった…。もういい」

 

犬井は、このオーディションはもう終わり、という感じで告げた。

 

「夜凪さん。一つ聞いていいかな…。あんた、さっきから一人芝居を演じるごとにまるで別人だ」

 

「一体、中に何人連れてきた…?」

 

…夜凪は一度薄く唇を開いてから、

 

 

 

「12人かな。でもそれぞれ色んな顔を持ってるから30人くらい?」

 

 

 

暗闇に浮かぶ光を従えるように立ち、怪しく(つや)めいた表情で微笑み、そう返答した。

 

「30人全部合わないようなら100人に増やすし」

 

審査員たちは驚きに言葉を失う。

 

「それでもダメなら1000人に増やす」

 

阿笠と夏は怯えた顔になる。

環は腕組みで立ち、口元には笑み。

 

皆それぞれ押し黙って、夜凪のこの独白(どくはく)に似た語りに耳を傾けていた。

 

 

「私、何だって演じられるから。だから私に役を下さい」

 

 

場を制する空気を発しながら、夜凪はきっぱりと言葉を述べた。

 

 

 

少し首を傾けて、キャップのバイザーから覗くように夜凪を見ながら、

「すごいの連れてきたね。墨字君」

と、環は感想の言葉を場に落とした…。

 

 

 

MHK放送センター内、オーディション参加者の関係者が待機している通路。

柊雪は、

(最近の私はすっかりマネージャーだな)

と考えていた。

 

そして、

(はー…。映画撮りてぇ)

などとぼやきながら夜凪が戻ってくるのを待っていた。

 

「みみ」

 

雪はオーディションが終わったことに、阿笠のマネージャーの声で気づく。

 

「おつかれ。どうだった? いつも通り?」

 

(阿笠みみ…。あの子も受けてたんだ)

 

阿笠は、

「…まだ、ドラマとかやってる場合じゃない」

(うつむ)き、

 

「基本から学び直す」

 

と、マネージャーに背を向けて足早に去っていく。

 

阿笠のマネージャーと雪は同時に、「え」、と声を上げた。

 

雪は、

(…な、何かあったのかな)

と、参加者が出てくる方に目を向けた。

 

「邪魔」

 

「わっ、すみません」

 

雪がぶつかりそうになった相手は日尾。

 

(日尾和葉!? 流石大河!! オーディション、レベル高っ!!)

 

「おつかれ」

「落ちたよ」

 

「え!? また何かやったの!?」

「違う。負けただけ」

 

日尾は険しい表情で歩いていく。

 

雪が「?」となっているところに夜凪が戻ってきた。

 

「は~、楽しかった」

目を細めて、ぱあああっ、と明るく御機嫌顔の夜凪。

 

「あっ、けいちゃん、おつかれ。幸せそうな顔してんな」

「うん。久しぶりにお芝居したから、気持ち良かった」

 

「夜凪さん」

声を掛けてきたのは夏。

 

「あの、…えっと、何を聞こうと思ったんだっけ、私…。ごめん…、ともかく呼び止めないとって思って」

「…?」

 

雪は、

(おお、なっちゃんじゃん。カメラ回ってなくてもオドオドしてんだ)

と、挙動が怪しい夏を見つめた。

 

中々言葉を見つけられない夏は、

「今が本物のあなたなの?」

ようやくそんな言葉を絞り出した。

 

夜凪はきょとんと、

「? 全部本物よ?」

簡潔に、そう答えた。

 

夏は「…。」となって、続く言葉を見つけられない。

 

「ありがとう。会えて良かった」

「?」

 

雪も、「?」と不思議に思う。

 

「ねぇ。中で、何かあったの?」

「? 何も」

 

そんなやりとりをする雪と夜凪に背を向けて、夏はその場を離れていった。

 

 

「ねぇ。墨字君、いないの?」

「…!」

 

 

唐突に現れた環に驚く夜凪。

環は、夜凪の肩に腕を回してきた。

 

雪は、

(…!! 環蓮!! 環蓮!? メッチャいい匂いする!! 気がする!!)

と、言葉を心中に忙しく並べた。

 

そして、(ん? 墨字君…?)と環の態度に違和感を覚えた。

 

「? 今日は来てないわ」

「そっかぁ。残念」

 

環は回していた腕をあっさりと(ほど)き、

「じゃ現場でね」

と、立ち去ろうとした。

 

夜凪の頭に、先日観たばかりの黒山作品「たんぽぽ」の映像がよぎる。

ポスターにあった「出演 たんぽぽ」の文字を思い出す。

 

夜凪は環の背中に向かって、

 

 

 

「たんぽぽさん?」

 

 

 

と、尋ねた。

 

その質問に驚き、足を止めて振り向く環。

 

鋭い視線とともに、離れかけていた夜凪への関心を繋ぎ直す。

 

雪も知らないその情報。

「え…?」と声を漏らす雪。

 

「…ああ」

と、環は夜凪に話し掛ける。

 

「あれ、墨字君、観せたんだ。すごいな…。名前どころか、顔も映していない。それも16年も前の私なのに…」

 

環はまだ言葉を続ける。

 

「よく気づいたね。あれが私だって知ってるのは当時のスタッフだけだよ。そっか…、バレたかぁ。恥ずかしいなぁ」

 

さらに、

 

「だって気づいてるよね?」

 

と、詰め寄ってくる環。

 

「当時の私は今のあなたの足元にも及ばない」

 

「でもね」

 

コツ、コツ、と環のヒールが床を鳴らす。

 

「あの2年後には、名実共に今の君を抜いている」

 

「私、遅れ咲きなんだ」

 

夜凪のすぐ近くに立ち、環は視線を飛ばす。

 

(…何、この空気。環蓮がけいちゃんを煽ってる?)

 

「若さを妬ましいと思ったのは初めてだよ」

 

「どうしてか分かる? 景ちゃん」

 

顔を、ずい、と間近に寄せてくる環。

 

「分からない」

と答えながら、すすっ、と距離を取る夜凪。

 

「だよね」

 

「所詮、映画は一期一会」

 

「子供の役は子供にしか」

 

「少女の役は少女にしか演じられない」

 

環のこの言葉に、夜凪は顔色を変えずに「…?」という反応を見せた。

 

「あ、あの、環さん。墨字さんとはどういう…」

空気の悪さを察して、雪が言葉を挟もうとする。

 

…だが、環は()まらなかった。

 

「私が後10歳若かったら」

 

「墨字君の隣にいたのは私だったんだよ」

 

「君じゃなくてね。景ちゃん」

 

夜凪は依然(いぜん)として顔色を変えない。

 

「妬いちゃうなぁ。私だけ妬いていてムカつくなぁ」

 

「どうしよっかなぁ…」

 

「そうだ。仕返しに墨字君には憂えて貰おう」

 

…環は、夜凪の肩に手を置いた。

 

 

「『本当は環で撮りたかったけど仕方ない。夜凪で我慢しておくか』…って」

 

 

両腕を夜凪の肩に乗せて夜凪に迫り、環はその言葉にずしりと重さを加えた。

 

「無理だと思う」

 

夜凪は目を逸らさずに、さらりと答えた。

 

「あはは。そう?」

 

環の視線はまだ夜凪に絡みついていた。

 

               「scene116.もっと」/おわり




以上が、アクタージュ「scene116.もっと」の紹介となります。

扉絵は、ショート丈タンクトップ姿でピースサインを決める環蓮。
腰まである黒髪ロングストレートで、前髪は6・4で2つに分けた長めの外ハネ。
腹筋が割れています。

今回は、何と言ってもオーディションにおける夜凪の「TUEEE」っぷりです。
「何人連れてきた?」と問われて「12人かな」と答える夜凪の、まあ恰好良いこと。
「100人に増やす」「1000人に増やす」と周囲を圧倒する様子は、アクタージュ内での「TUEEE」の最大瞬間風速を記録しています(あくまで私の個人的計測器使用結果です)。

環に絡まれた時も、夜凪の強さは揺れません。
相手は大河の主演を張る大物女優で、こっちは新人女優なのに。
終始、夜凪が強い、というエピソードでした。

ちなみに、役のバラエティに関する阿良也のレクチャーは夜凪家で行われたわけですが…。
どうなんでしょう?
夜凪は、「今日はカレーなんだけど、少し多めに作ってしまったわ」という不自然な電話を掛け、阿良也は特に疑問を持たず「じゃあ食べにいく」と釣りあげられてしまった感じですかね。

そして、憑依型カメレオン俳優阿良也は、夜凪のレクチャー役にされてしまった…。

あくまで私の勝手な推測ですが。

食事シーンでは、ルイとレイも一緒にカレーを食べています。
阿良也は「夜凪カレー」が好物なので幸せそうにもぐもぐ食べています。



…あと、私としては、夜凪が戻ってくるのを待ってる雪の、(はー…。映画撮りてぇ)、がすごく有り難かったのですよ。
小さいコマで小さい文字で、なんてことはない場面なんですけどね。
雪が「映画」に対する想いを語るシーンは、貴重というか希少というか、これは嬉しいなあ、と思いました。
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