前から書いてたヤツ楽しみにしていたっていう人には本当に申し訳ないです…。
Prologue:来館
歴史上の出来事というのは大体が他愛もない事がきっかけだったりする。
__例えば、
誰かの教えが世界を救う事がある。
誰かの支配が世界を創る事がある。
誰かの冒険に世界が驚く事がある。
誰かの閃きが世界を変える事がある。
誰かの献身が世界に広がる事がある。
誰かの忠義が世界を動かす事がある。
誰かの暮らしが
_そして、誰かの
「坊主、泊まり込みでバイトしねぇか?」
「…はい?」
冬木市某所_駅前の献血イベントに気まぐれで参加していた少年、
なんでも、海外の研究機関である実験プロジェクトがあり、蒼井は血液にそのプロジェクトの適正があったとの事。
「んで、これがバイト代。」
「ん?…おぉ。」
バイト代も身振りがよく、学生である蒼井には魅力的な話だ。
しかし…
(…なんか、きな臭いな。)
結局、この日は親に話を聞いてから、という事で男の名刺を貰って帰った。
「『ハリー・茜沢・アンダーソン』か…クォーターなのかあの人。」
その日の夜、自室で男から貰った名刺を眺めていると、ドアの向こうから母親が自分を呼ぶ声が聞こえた。夕食ができたようだ。
とりあえず、母には相談しておくべきだな。そう考えた蒼井は名刺をズボンのポケットに入れ、母親が待つリビングへ足を運んだ。…今日の夕食は鯖の味噌煮のようだ。
…結論から言うと、バイトに行く許可が下りた。
あの後、母親に名刺を見せながら昼間の話をすると、
「あら~、いいじゃない。いい経験になるわ。行ってきなさい~。」
と、母はまさかのオールオッケー。さらに名刺に書かれた電話番号からあのハリーという男に連絡をとり、本人を置いてあれよあれよと話が進み出発の日となった。
「…まじか。」
あまりに事が早く進みすぎて出発の飛行機が出る空港で蒼井はそうポツりと呟く。
「坊主、もう飛行機来るぞ~。」
ゲートの方でハリーが自分を呼んでいた。蒼井はもうこの際だし、この状況を楽しむ事を決め、思考をシフトしつつ声のする方へと歩いて行った。
飛行機内の座席は空っぽだった。自分達が早く着いたのか、それともただこの飛行機に乗る人が少ないのか…そのどちらかは分からないが、ほとんど貸し切り状態である事には変わりなかった。
指定された座席に座り、背もたれに体を預け、大きくゆっくりと息を吐く。空港に来る前も結構な長旅だった為、ようやく一息つけると蒼井がリラックスしたその時。
「坊主、喉乾いてねぇか?」
そう言って、ハリーはコップに入ったお茶を差し出して来た。
確かに喉は乾いている、ありがたく頂く。と言って蒼井はハリーからコップを受け取り、コップのお茶を飲みほした。
ハリー・茜沢・アンダーソンは冷や汗を拭いながら背もたれに体を預けていた。
その隣には睡眠薬を飲んだ蒼井が眠っている。周囲の座席には人がいない。
それもそうだ、この飛行機はこの青年を乗せ、ある場所へ運ぶ中継機でしかないのだから。
ハリー・茜沢・アンダーソン、彼はある組織から無茶なスカウト任務を受けた一人の研究員である。
ほとんど理不尽な状況の中、適合者であるこの青年を見つけたのはハリーにとってかなりの幸運だった。
あとは向こうの連中に任せるだけ…そう考えた後、ハリーはこの後入るであろう臨時ボーナスの使いどころを画策する。
(つっても、外車を買うって決めてんだけどな。)
そう考えた所でハリーは再び、隣で眠る青年を一瞥した後、アイマスクを取り出すと、飛行機が動き出したのを体で感じながら自身も一時の眠りについた。
「………。」
次に蒼井が目覚めた時に見たのは、見知らぬ天井だった。
「何処だ此処…。」
体のだるさからかなり長い時間眠っていたことが分かる。
どうやら、どこかの建物の廊下の床に倒れているらしい…それだけを理解すると蒼井は首を曲げ、出来る限りの範囲で周囲の様子を観察し始めた。
左に曲げると白い壁。右に曲げると窓が見えた。しかし、外は吹雪いており此処がどこなのかは分からない。
ふと、自分の腕を掲げてみると、服の袖が空港で着ていたものとは違うものになっている。
「何時着替えたのか…は、今気にする事じゃないな。」
そして、さあ起き上がるか。と体を起こしかけたその時…
「あの…、どうして廊下に倒れているのでしょうか…?」
「フォウゥゥゥ…。」
自分の足元から声が聞こえた。
ハリーのものではない。透き通った少女の声と犬か猫か分からないナニカの声。
「いえ、起きたら寝転がっていたもので。」
「はぁ…。」
「フォウ、フォーウ!」
そう返しながら起き上がり、埃をはたきながら蒼井は声の主と向き合う。
そこに立っていたのは薄い紫色のような色の髪をした、蒼井と同い年くらいの少女だった。その肩には犬か猫か分からないナニカが電気ネズミがごとく乗っている。
「いきなりですまないが、ここは何処なのだろうか?」
「はい、此処は『人理継続保証機関 フィニス・カルデア』です。此処がどんな場所にあるか、という意味なら雪山の奥としか私にも…。」
「フォウフォウフォウフォウ。」
少女の話を聞いて、どうやら目的地らしき所には着いていた事を理解する。
「…まぁ、わかってはいたが日本ではないか…。」
「…二ホン?と、いう事は
「…まぁ、そうなるな。…ん?先輩?」
「それでしたら、あと数分でファーストミーティングが始まります。会場の管制室に案内するのでついてきてください。」
現状、此処は何処で、何をする場で、自分はどうすればいいのか。それらが一切分からなかった蒼井に
「わかった。…それで、なぜ俺を先輩と?…それにその生き物は?」
「フォウさんはフォウさんです。」
「フォウ?」
「あ、はい。」
ちなみに先輩呼びの理由は教えてもらえなかった。
管制室までの道すがら、蒼井と少女は少しだけ話をした。
彼女の名前はマシュ・キリエライト。此処カルデアの職員であり、これから説明会が行われるファーストミッションでは最前線に出るメンバーの一人だった。
ファーストミッションの内容や自分のような“適合者”がカルデアに集められた理由はこれからのミーティングで説明される、との事。
一緒にいたあの謎生物の名前はフォウ。カルデア内でもマシュしかその存在を知らず、マシュ以外に姿をみせたのは蒼井が初めてだという。
「フォウ、フォウフォウフォウ。」
「む、何だフォウ君。」
「…どうやら、フォウさんは先輩をライバルと認識したそうです。」
「ゑ?」
…何故か、ライバル認定されてしまったが まぁ、ある種の友好の印だろう…。たぶん。
「…つかれた。」
あの後、ミーティングに参加したが結論、なんの情報も得られなかった。
話が聞けなかった。という訳ではないのだが、如何せん専門用語らしき単語が多すぎて話の内容が一つも理解出来なかったのだ。
それよか、自分の隣で居眠りをしてビンタされ負い出された赤毛の少女の方が記憶に残っている。何しに来たんだあの
マシュはファーストミッションの準備があるとどこかへ行ってしまった。
そこでふと、蒼井は一つの事を思い出す。
「あ、荷物。」
そう、空港で持っていた自分の荷物である。青色のキャリーバックに入れて持ってきた筈だが、廊下で目覚めた時には近くには無かった。誰かが持っているのだろうか…。
「フォウフォウ。」
「…ん?」
…と、自分の足元でフォウ君がとてとてとこちらへ歩いてきた。
蒼井はフォウ君の体を持って抱きかかえると、
「なあ、フォウ君。青色のキャリーバック知らないか?」
と、聞いた。もう一度言う。フォウ君に荷物の所在を聞いた。
…流石に冗談のつもりだった。この動物が人の言葉を理解できるとは考えていなかったし、ほんの少しの気休めのつもりだった。
しかし、
「フォウフォウフォーウ!!」
「え、まじか。」
フォウ君は蒼井の言葉を聞くや否や、体をジタバタさせて蒼井の手から抜け出し、そのまま管制室の外へ出ていった。
蒼井はそれを見失うまいと急いで後を追いかける。
一応、どれだけ進んで、どこで曲がったのかを記憶しながらフォウ君についていくと、青色のキャリーバックが一つの部屋の前に無造作に置かれているのを見た。どうやら、キャリーバックを前においているあの部屋が蒼井の自室らしい。
…しかし、その前には先ほどビンタを喰らったあの赤毛の少女がいた。
「ん?このキャリーバック、君の?っていうことはここ君の部屋?」
「…そうだし、そうなるな。」
「フォウ。」
なんだかグイグイ来るな…。そう思いながら蒼井はキャリーバッグを持ち部屋に入ろうとする。
「あ、君もしかしなくても日本人だよね?髪の色で誤解されるんだけど私もなんだ!私、
コイツヤバい。
蒼井は心の中でリツカを“ある意味危険人物”に認定した。
「はぁ~い、はいってま~…ってうぇえええ!?誰だい君達!?」
――――部屋の中にはケーキに舌鼓を打つ白衣の男がゐた。
(あれ、ここ俺の部屋じゃないのか?)
「
足元の
許してあげてほしい。だって明らかに距離の詰め方がおかしいのだ、彼女。
「すいませ~ん。この部屋って彼の部屋じゃ…ってそろそろ君、名前教えてよ。」
そして、
「えぇっと、た、大変だね…?」
「いえ、大丈夫です。名乗らなかった俺も悪いので。」
しかも目の前の白衣の男に同情を喰らう始末。彼が何をしたのか。
「はぁ…俺の名前は藤村蒼井。アオとでも呼んでくれれば。」
「へぇ~、女の子みたいな名前だね。」
「しばくぞ。」
「あはははは…。」
「フォウ…。」
蒼井と立香の漫才のようなやり取りに苦笑いするしかない白衣の男。しかし、そこはしっかりと切り替えて朗らかな笑みで二人に向き合った。
「じゃあ、ボクも名乗らないとだ。ボクの名前はロマニ・アーキマン。ドクターでも、ロマンでも、好きな方で呼んでくれ。」
「あ、私は藤丸立香。よろしくドク。」
「君、距離詰めすぎじゃないかい!?」
(まぁそう思うよな。)
「フォウ。」
どうやら、藤丸立香の距離の詰め方は大人の目から見ても異質らしい。そのことを確認したその時、
「『ロマニ、今医務室かい?』」
部屋の中の誰でもない声が響いた。
ロマンは白衣のポケットをまさぐり、通信端末と思われるものを取り出す。
因みにここは医務室ではない。
「やぁ、レフ教授。何かあったのかい?」
「『あぁ、実はBチームのメンバーが一人と補欠の子が一人管制室にいないんだ。補欠はともかく、Bチームの子を見ていないかロマニ?』」
通信の向こうの男…レフが言う補欠とは蒼井の事だろう。
「いや、Bチームの子は見ていないな。補欠の子は今一緒にいるけれどどうする?」
「『いや、補欠はいい。それより管制室に来てくれないか。Bチームの数名のバイタルが安定しない。医務室から管制室まで二分とかからないはずだ、頼むよ。』」
…通信が切れる。もう一度言うがここは医務室ではない。
「…どうしよう。ここから管制室まで走っても五分はかかるぞ…。」
「いや、ドクが悪いでしょ。…っていうか、ドクってここの職員さんなんだよね?」
「あ、あぁ。一応、ここの医療部門のトップを任されてるよ。」
「尚更サボっちゃダメじゃん!!」
立香の叱責がロマンに飛ぶ。とそこにひぃ、と情けなく怯むロマン。
その次の瞬間、部屋の電気が消えた。
「「!?」
「うわぁぁ!?な、何!?」
遅れて轟音と振動が響き渡る。
「な、なんだ!?」
「爆発!?」
「わわぁ、うわぁぁぁあああ!!!」
「フォォォオウ!?」
突然の停電、そして爆発。立て続けのトラブルに部屋の三人と一匹はパニックになる。
「うわぁぁああ!!ば、爆発!なんか爆発したぁぁ!!!」
「爆心源は!?」
「方角からして管制室だ!!モニター!!」
混乱の中、どうにか冷静に対処しようとする蒼井とロマン。立香はすっかり混乱しきっている。
そして、モニターが映し出したのは…
「な…!?」
「…これは。」
炎に包まれた管制室。まさに地獄のような光景だった。
モニターで見る限り、生存者の姿は見えず生命の灯は一つも感じられない。
と、そこで部屋に電気がつく。予備電源に切り替わったようだ。
「…アオ君、君は立香ちゃんを連れて外へ。彼女の事を頼んだよ。」
「…ドクターは。管制室へ?」
「あぁ、…生存者を探しに行くよ。」
ロマンの目は強い覚悟で満ち溢れていた。
「分かりました。気を付けて。」
そして、ロマンが管制室の方へ走って行った後、蒼井は未だパニック状態の立香の手首を引き、ロマンと逆方向に走りだそうとする。
「フォウフォーウ!!」
「…フォウ君?」
その時、フォウ君が突然大きな声で鳴き始める。
「…あ。」
その時、蒼井は一人の人物を思い出した。目覚めた時に出会ったあの少女…。そう、マシュが、まだ管制室にいる筈なのだ。
「……まぁ、迷う暇も必要も無いな。」
「…フォウ!」
蒼井はそう決心をすると手首を握っている立香に向かい合う。
「藤丸。」
「あ、あぁうん。ようやく落ち着いた。…それで?出口はどっちだっけ?」
「俺、管制室に用事があるんだ。」
「え、ちょっと待って。」
「お前は管制室の反対方向にひたすらに逃げてくれ。たぶん出られるだろうから。」
「待って、適当すぎるから。まって。」
「じゃあ、時間無いから。健闘を祈る!!」
「え、待って、ちょっおい…ふっざけんなぁああ!!!」
そういって蒼井は立香を置いて全速力で管制室の方へと走って行った。その前をフォウ君が案内するように走っている。
「
「う~ん、君の言葉は分からない筈なのに何を言っているかはわかる気がする。」
前を走るフォウ君にジト目で見られながら管制室への廊下を走る蒼井。謎生物の視線が痛い。
まぁ確かにぱっと見最低な事をしているし、弁明も何もないのだが。
「ちょっ…アオ!あおぃぃいいいいい!!!!」
「ゑ。」
「フォォオオオウ!!??」
しかし、先ほど置き去りにされた立香は後ろから走って追いかけて来た。
まるで人間列車のごとく蒼井の元へ追い付き、そのまま並走する。
「な…、なんでお前逃げなかったんだ!?」
「あの状況でほっぽり出されて逃げられるとでも!?」
正論である。
「あと、ひとりこ゛わ゛い゛がら゛い゛っじょに゛い゛で!!」
本心である。
「えぇ…だからって自ら危険に入り込む事ないだろ…。」
「ブーメランって知ってる?」
「フォーウ。」
「え、なんで君達ここにいるの!?」
と、前方からロマンの声が聞こえる。どうやらいつの間にか追い付いていたらしい。
「ちょっと人探しに!」
「フォーウ!!」
「え、そうなの!?相談してよ!?」
緊急事態の最中の筈なのに思いきりマイペースな二人、その様子を見て呆れた表情を浮かべるロマンだが、すぐさまその表情を硬くし、
「…危ないと感じたらすぐ逃げる事。数分後に隔壁が閉じるから、それまでに脱出する事。以上の事は絶対に守ってくれ。」
そう、二人に向かって言った。
「「分かりました。」」
そう二人が同時に返したその時、管制室が見えてきた。
「ボクは地下に向かう!二人とも、隔壁が閉じる前にちゃんと脱出するんだよ!!」
「了解です…って、蒼井!?」
蒼井は部屋の中に入った瞬間、急な不安感に襲われた。嫌な予感がする。根拠のないその感情は、自然と彼の足を早まらせる。
完全無策で炎が立ち込めるその部屋に入るその姿は勇敢というよりも愚かしいという言葉の方が相応しい程だった。
管制室の中、想像を超える熱量に耐えながら蒼井は彼女の…マシュの姿を探す。そして____
「…あ。」
少年は、
瓦礫に潰された少女の下半身を見た。
血に濡れた、少女の顔を見た。
「…せ、ん…ぱい…?」
全身を血で濡らした少女が
死にかけの虚ろな瞳が自身の姿を映す。
…怖い。
少年の心中はその言葉一色であった。
そこには明確な“死”があった。
生き残った自分さえも飲み込みかねない死があった。
そう、突き放されるような錯覚を覚えた。
「………。」
少年の体は『死にたくない』とこわばっている。
少年の理性は『逃げろ』と告げている。
「にげ…て、くだ、さい。わた…し、はもう…助かりません…から。」
「大丈夫だ、マシュ…最期まで傍にいる。」
…しかし
そして少年は地面に置かれた少女の手を取った。
力強く、しかし優しく、離さないといわんばかりに。
理由は分からない。動機もはっきりしない。
しかし、ここで逃げては駄目だという確信だけが少年を動かしていた。
『システム、レイシフト最終段階へ移行。座標、西暦2004年1月30日、日本、冬木市。』
_蒼井の意識の外、管制室全体でそんなアナウンスが聞こえた。
『アンサモンプログラム、セット。 マスター候補生は最終調整へ。』
無機的なイントネーションで何かのシステムが作動していく。
『カルデアスの状態変化。近未来観測データ、更新。』
『
『人類の生存確認、失敗。人類の未来保証、失敗。』
淡々とした口調で、絶望的な状況が告げられていく。
『管制室ゲート封鎖、館内浄化まであと180秒。』
奥の方で何かが閉まる音が聞こえ、完全に逃げ場が無くなった。
「あおぉぉぉぉ!!!どうじよ゛お゛お゛お゛お゛!!がぐべぎどじじゃっだぁぁぁああ!!!!!!」
そして、立香の涙混じりの声が管制室内に響いた時。
『レイシフト実行マスターを検索…。発見。』
『マスター番号 47番
『マスター番号 48番
『以上、2名をマスターとして登録。レイシフトを実行。』
『全行程、
立て続けにアナウンスが流れ、そして__
なるべく更新早く済むよう頑張ります。