タイトルの元ネタは『風都探偵』。正直アニメ化するとは思わなかったので、作者は非常に楽しみです。
2021/8/22 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。
No.01 雄英探偵
それは、俺がリカバリーガールから緊急の呼び出しを受けた所から始まった。
「後頭部脳挫滅……ギリギリ生きてるみたいですが、これかなり不味くないですか?」
「だからアンタを呼んだんだ。早くしな。事態は一刻を争うよ」
何事かと思い保健室に急行してみれば、峰田が生きているのが不思議な位の重傷を負っており、それはリカバリーガールの言う様にデッド・オア・アライブとしか言いようのない命の瀬戸際であった。
幸い、俺の『モーフィングパワー』による外科治療と、リカバリーガールの『治癒』による細胞活性の合わせ技で峰田は一命を取り留め、しばらくして意識も無事取り戻した。通常ならば重篤な後遺症が心配されるのだが、その心配もどうやらなさそうだとの事。
かくして俺は一仕事を終え、のんびりとエリの相手をしていたのだが、耳郎と麗日が俺達の元を訪れた事で、本日の予定は珍妙な方向へと崩れていく事になる。
「ちょっと解決して欲しい事件があるんだけど良い?」
「事件?」
「いや、事件かどうかはまだ分からないんだけど……まあ、今の状況でもコレはコレで事件って言うか……」
妙に歯切れの悪い耳郎と麗日が言う所によると、先程保健室に担ぎ込まれた峰田だが、アレは寮の裏手で頭から血を流して倒れているのを八百万が発見したモノで、峰田自身何故こんな事になったのか全く記憶がない事から、出久と飯田と瀬呂の三人は峰田が重傷を負った真相の究明に乗りだしているらしい。探偵や刑事のコスプレをした状態で。
「……大体分かった。しかし、何故俺に依頼を?」
「(依頼って何気に探偵っぽい事言うとる……)」
「いや、呉島が一緒ならすぐ解決するでしょ? それに飯田と緑谷はI・アイランドの事件の時の呉島を意識してるっぽいのよ。ロビーに推理小説とか散らかってたし」
「なるほど……」
正直言って自分でもビックリする位に全くやる気が起きない。被害者が峰田と言う時点で、何か禄でもないオチが待っていそうな気がしてならないからだ。
「? お兄ちゃん、また何か始まるの?」
「ん~~……始まると言うよりは、終わらせるって感じだな」
「? 始まるのに終わるの?」
「えっとね……エリちゃんは探偵って分かる?」
「たんてい?」
「誰も分からない犯人を当てたり、トリックを見破ったりする凄く頭の良い人や」
確かに探偵小説に登場する探偵は麗日が言う様な感じではあるが、現実世界の探偵とは主に「相手の事情や罪状を密かに調べ上げる」と言う職業を指し、少なくとも今の出久達の様に率先して事件に首を突っ込んだりはしない筈だ。多分。
「それでお姉ちゃん達は呉島お兄ちゃんに事件を解決して欲しくてきたって訳」
「? お兄ちゃんはたんていさんなの?」
「まあ、アイツらよりは頼りになるかな」
「名探偵なんよ」
「めいたんてい……!」
そして、何たることぞ。耳郎と麗日のヨイショによって、エリがキラキラとした尊敬の眼差しを俺に送っているではないか。こうなってしまっては最早、二人の依頼を断ることなど俺には出来ぬ。
「はーい、アンタ等どいてどいてー。名探偵のお出ましだよー」
「来た! 強力なライバル探偵の登場だ!」
「いいな! ますますぽくなってきた!!」
「ああ! ぽいな!!」
「??」
そんなこんなで耳郎に連れられて出久達の元へとやって来た訳だが、俺を見た出久達は妙に嬉しそうだった。そして何故か出久が俺にグイグイと妙に強い押しで金田一耕助の衣装を渡してくるので、俺は仕方なくソレに着替えて彼等に同行する事になった。俺としては明智小五郎の方が良かったのだが……。
その後、三人が調べて手に入れた情報を教えて貰ったのだが、第一発見者は八百万で、峰田が倒れていた現場は寮の裏手で外からは植え込みで見えづらく、寮の中からも死角になっている場所なのだと言う。
峰田の性格的に自殺は考えづらく、普段の行動と言動から怨恨の線を有力視しているが、麗日が育てていたイチゴの植木鉢が現場の近くに落ちていた為、それがたまたま頭に命中した事による事故の線も否定出来ないのだとか。
「……なるほど。現状では事件と事故の両方の可能性がある訳か」
「うん。それでガイシャの人物相関図を作ってみたよ!」
好意……上鳴。
殺意……麗日。蛙吹。八百万。芦戸。耳郎。葉隠。
利用……イナゴ怪人1号~RX
滅亡……イナゴ怪人アーク
「……なるほど。禄でもないな」
出久が自信満々で発表した人物相関図を見て頭を抱えたくなるものの、ぶっちゃけ間違っているとも言い難い。峰田に好意を持っているのが上鳴だけで、女子全員からは毛虫の如く嫌われているとしても、普段の峰田を鑑みるに当然の結果と言わざるを得ない。
「ふむ……イナゴ怪人達は兎も角として、女子全員に動機があるのか」
「それじゃ、一人一人に聞き込みして回るか」
「そうだね」
「………」
かくして我々は峰田の負傷を事故ではなく事件と仮定し、容疑者を特定する作業に移った。1人目は『Ultimate DIE』と言う不穏な文字が胸にデカデカとプリントされているTシャツを着た葉隠だ。
「たまにこっそり抓ったりしてるけど、流石にホントに殺そうとしたりはしないよ」
「死んだらそれ以上苦しまないもんな」
「そう言う事じゃないと思うケド……」
出久のツッコミを無視し、葉隠は殺意を否認していると言う事で、俺達は次の容疑者から話を聞く事にする。2人目は『Kill You』と物騒極まりない言葉が目を引くTシャツを着た芦戸だ。
「ヒドーイ! 疑うなんて! 大体私なら死体が上がらない様に溶かすし!」
「怖ッ!!」
「まあ、そうだろうな」
そもそも峰田が負った傷は後頭部脳挫滅である。脳挫滅と言うのは頭蓋骨と脳を深く大きく破壊された状態を指し、高確率で死に至る重傷の一つだ。
これはかなり強力な物理的衝撃によって引き起こされるもので、鉄パイプなどで殴打される他、高所から落下した重量物が頭部に命中した事でなる事もある。
その為、現時点で俺は内心出久達三人とは違い、事故の線が強いのではないかと睨んでいるのだが……。
「八百万さんは……どうする?」
「動機は一番強そうだぜ」
「第一発見者が犯人のパターンか。幾つか読んだな」
しかし、事件の方向での聞き込みを続ける出久達が八百万に話を聞きに行った時、事態は思いも寄らない展開を見せ始める事となる。
「実は峰田さん、当時はまだ息があって……『違う……誤解だ』と呻いていた様に見えました」
「誤解?」
「ええ……『違う……誤解だ』と……」
「やっぱり他殺の線が濃くなってきたな」
「ゴカイ……五階の誰かって言おうとしたのかも」
「なるほど。蛙吹君か」
「………」
俺としては「ゴカイ」よりも「チガウ」と言った方が気になるのだが……ひとまず女子全員の話を聞こうと言う事で梅雨ちゃんから話を聞いた所、真相を解明する上で最も重要な情報を手に入れる事が出来た。
「今朝9時頃? 中庭で皆でご飯してたわ」
「女子全員!? 一気に皆アリバイが!!」
「そう言えば、峰田ちゃんしきりに言ってたわよ。『今日は朝練があって大変だ』って……」
「朝練?」
……おかしい。これまでの証言を全て真実だと仮定して考えた場合、明らかに奇妙な所がある。そして俺の考えが正しい場合……やはりこの事件は禄でもないオチで終わる事になるだろう。
そんな俺の心境を余所に、皆で峰田が倒れていた所を発見された現場に行ってみれば、そこには真新しい血痕と人形の白線。それにもぎもぎが幾つか落ちていた。
「ホントだ……もぎもぎ、見落としてた」
「んー? さっきあったか?」
「では、峰田君は朝ここで自主練習中に何者かに何らかの誤解を受け、それが元で殺されたと?」
「今の所、矛盾は無いね」
「いや、峰田は生きてるし、矛盾する所ならちゃんとあるぞ?」
「「「え!?」」」
「被害者である峰田の足取りだ。普段の峰田の性格と行動を考えると、大きな矛盾が見受けられる」
「被害者の足取りの矛盾!」
「スゲェ! 何かスゲー解決編っぽい!」
「ああ! 物凄くぽいな!」
「………」
だから何でコイツ等こんなにもノリノリで嬉しそうなんだろう? まあ、そんなキラキラした眼差しもすぐに曇るだろう。禄でもないオチの所為で。
「それで! それで被害者の足取りの矛盾とは一体何なんだ!? 金田一君ッ!?」
「……これまでの情報を整理すると、峰田は女子に『朝練が忙しい』としきりにアピールし、その後此処で自主練習をしていた事になる訳だが……何故峰田は自主練習の場所として此処を選んだんだと思う?」
「え……?」
「峰田の行動原理は基本的に『女にモテたい』と言う欲望だ。その為に女子に努力する姿をアピールすると言うのなら、当然『努力している所を見せよう』と行動する筈だ。
しかし、現場は寮の裏手で、外からは植え込みで中の様子が見えづらく、寮の中からも死角だ。普段の峰田の性格と言動を考慮すれば、その言動と行動には大きな矛盾があると思わないか?」
「……言われてみればそうだな。しきりに女子にアピールしておいてこんな場所で朝練するってのはちょっと不自然だ」
「そして、八百万が峰田を発見した時に聞いた『違う……誤解だ』と言う台詞から察するに、峰田は此処で『誤解を受けるような事をしていた』と考えられる」
「誤解を受けるような事?」
「さっき出久と瀬呂が言っていただろう? 恐らく、本当にその時には『もぎもぎ』が無かったんだろう。そして、時間が経って剥がれたから気付いたんだ」
「剥がれた? ……あ! 壁か!!」
「そうだ。恐らく峰田は此処で『もぎもぎ』を使い、壁を登っていた。そして手を滑らせたか足を滑らせたかして地面に落下し、重傷を負ったんだ」
「それじゃ、あっちゃんはこの事件は事故だって言う訳?」
「いや、ある意味では事件だ。落ちているもぎもぎの個数や麗日の植木鉢が落ちている事から察するに、峰田は麗日の部屋へ壁を登って侵入しようとしたと考えられる」
「何ッ!?」
「それじゃあ……まさかッ!!」
「朝練云々と言う部分は恐らくフェイクだろう。万が一、誰かに見つかった時に誤魔化す為のな。仮に峰田を泥棒か何かだと思って誰かが攻撃したとすれば、その攻撃した誰かが峰田を放置するとは考えにくい」
「つまりコレは……『被害者が実は加害者だった』と言うパターンかッ!!」
「でもよ、証拠はあるのか? 何かこうバシッと決まる様な証拠は」
「ある。雄英の警備システムを考えれば、何処かの監視カメラにこの現場が映っている可能性が高い。何が起こったのか、その一部始終がな」
ぶっちゃけた話、こんな事をしなくてもそれで一発解決なのだが、流石にその辺のロマンは俺も分かっているので敢えて言わなかった。
かくして、推理の答え合わせと称して俺達は警備室に雪崩込み、そこで事件の真相を知る事になる。
――壁をよじ登って麗日の部屋のベランダに侵入し、干していた麗日の下着を盗もうと手を伸ばした所、手すりに乗っていたイチゴの植木鉢を誤って落としてしまい、それを拾うべく手足を滑らせて地面に落下していく峰田の姿が……。
「「「「………」」」」
以上が事件の顛末である。当然ながら峰田には制裁が加えられたが、実はこの事件には後日談がある。
変態ブドウ下着泥棒未遂事件より数日が経過し、雄英が平和を取り戻したある日の事。寮の共有スペースで夕食を摂っていた俺達の前に、イナゴ怪人アークが台車に布を被せた大きなモノを乗せて現われたのだ。
『先日の変態ブドウ下着泥棒未遂事件により、私は新たに「探偵」と言う存在をラーニングした。そこで私は今後、類似した事件が起こった場合に備え、ラーニングした探偵の情報を元に、かつて私がスクラップにした雄英のセキュリティロボのパーツを材料にあるものを製作した』
「あるものって……何?」
『人工知能による高度な演算と情報処理能力。それに優れた捜査能力と非常に人間らしい感性を併せ持った探偵型ロボットだ』
「「「探偵型ロボット!?」」」
『お見せしよう。たった一つの真実を見抜く、迷宮無しの名探偵! その名も……』
「「「その名も!?」」」
『テツワン探偵ロボタックだッ!!』
「は~い! ボク、ロボタック、バウ!」
「「「ええええええええええええええええええええええええええ!?」」」
探偵ロボットと聞いて思わず身を乗り出した出久達三人だが、イナゴ怪人アークが披露したのは真っ赤なボディが眩しい二頭身体型の、実にゆるキャラチックな犬のロボットだった。しかし、テツワン探偵とか言っているが、この姿の何処に探偵要素があるのだろうか?
「こ、このAIBOが変な方向に進化したみてーなロボットが、アークの造った探偵ロボット!? ワズ・ナゾートクは!?」
『そんなモノは知らん』
「つーか、コレ全然探偵っぽくないんだけど!? 何で人型じゃないの!?」
『人間に似せる必要などあるまい』
「てか、オイラの事件を参考にしたっつーなら、男を喜ばせる様な機能を持ったロボットを造るべきなんじゃねーの!?」
『男が喜ぶ機能なら搭載している。ロボタックよ! ジシャックチェンジだッ!!』
しかし、イナゴ怪人アークが造ったロボットが只のロボットである筈がない。イナゴ怪人アークの謎の指令を受けたロボタックにより、我々は想像の斜め上の光景を目の当りにする。
「ジィイーーーー、シャアーーーークッ!!」
何とロボタックの両腕と両足が分離し、頭部・胴体・両腕・両足それぞれが変形。それらがドッキングするとカッコ良い頭が胴体の中から出現し、ロボタックは二頭身のゆるキャラから八頭身のメタルヒーローに変身した。
「勇気凜々! 腕はビンビン! 笛の音色はワンダフル! ロボタック・アズ・ナンバーワンッ!!」
「「「「「「「「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」」」」」」」
確かにロボットの変形機能は男が喜ぶ機能には違いないので、イナゴ怪人アークはウソ“は”言っていない。現に「そうじゃねぇよ」と吼える峰田以外の男衆はロボタックの勇姿を見て盛大にフィーバーしている。
「確かに男子ってああ言うの好きだよねー」
「ねー」
何処か呆れた様にテンションアゲアゲの男子達を見る女子達だが彼女達は知らない。来年度の雄英高校一般入試の実技試験。そして雄英体育祭において、彼等を筆頭とした人工知能を搭載した可変機能を持つロボットが大量に投入され、色んな意味で世間の話題をかっ攫って一世を風靡する事を……。
キャラクタァ~紹介&解説
呉島新
幼女の期待を裏切る事が出来ない怪人。事件は無事に解決したし、推理した内容も当たっていたものの、汚れを知らぬ幼女に下着泥棒未遂を説明するのは気が引ける。結局、麗日達を頼って何とかイイ感じにふんわりと説明して貰った。
緑谷出久&飯田天哉&瀬呂範太
探偵プレイにのめり込んでいた三人。今回の一件で怪人探偵との推理対決に敗れたが、割と面白かったので結果としてはそこそこ満足している。でも推理で負けたのは悔しいので、再戦の機会を虎視眈々と狙っている。
イナゴ怪人アーク
本編第一話で破壊したセキュリティロボの残骸を用いてリサイクルを実践してみた怪人。ヒューマギア? 知らないマシンですね。尚、ロボタック達を扱う会社の名前は『ゴールドプラチナ社』を予定している。飛電インテリジェンス? 知らんな。
テツワン探偵ロボタック
正直ロボタックやカブタックやロボコンを知っている読者が何人居るのか分からないし、ワズ・ナゾートクを期待した読者には悪いが、ジシャックチェンジは男の浪漫が溢れる素晴らしい機能なのだ。尚、作者が『ロボタック』で一番好きなキャラはマイトバーン。
原作がアレなので書く予定は一切ないが、この世界では来年度の雄英高校の一般入試の実技試験や雄英体育祭では審判としてマスターランキングの他にキャプテントンボーグやガンツ先生が投入され、更に混沌とした様相を呈する事になる。
???「四つ! 容赦はせずに制裁だッ!!」