怪人バッタ男 THE NEXT   作:トライアルドーパント

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大変長らくお待たせしました。『シン・仮面ライダー』とか『BLACK SUN』とか『ゲンムズ』とか、仮面ライダーの50周年記念がマジヤベーイ!
そしてウマ娘ブームに乗っかって、この世界の文化祭では「ウマ男怪人ダービー」とかウケるんじゃないかと思うんだけど、どうかな?

八百万「競馬は文化祭の出し物として不適切なのでは?」

今回のタイトルの元ネタは『セイバー』の「目を覚ます、不死の剣士」。初めは“戦士”でしたが“闘士”とは「主義の為に戦う人」を指す言葉だとの事で此方を採用。これ以上の見せ場とか、この世界の彼には無いだろうし。

2021/5/12 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

5/25 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。


第8話 目を覚ます、不屈の闘士

雄英高校1年ヒーロー科の誰もが仮免試験合格を目指し、各々が必殺技を修得すべく圧縮訓練に汗水流して励む中、訓練終了後には生徒同士で各々の必殺技に関する意見交換や、必殺技の自主訓練が行われていた。

 

「SMAAAAAAAAAAASH!!」

 

「ヌゥウウンッ!!」

 

対人戦闘の訓練において、最悪事故が起こっても問題ない相手を作れる“個性”と言うのは重宝されるが、流石に訓練時間外までエクトプラズムに頼る訳には行かない。そこでA組の生徒の訓練時間外における自主訓練では、イナゴ怪人達が対戦相手を務めていた。

 

「フン。急拵えとは言え、大分様になってきたようだな」

 

「うん。元々『フルカウル』はあっちゃんの動きを参考にしてるから、足が主体のシュートスタイルは割とイメージしやすかったんだ」

 

急遽スピード&テクニック重視のバトルスタイルへ切り換えた出久の回し蹴りを受け、短期間にしては思ったよりも足技が身についている事をイナゴ怪人が口にすると、出久はシュートスタイルを『フルカウル』の発展系としてイメージしている事を伝えた。

要するに「足を主体としたバトルスタイルを体得するには、『フルカウル』と同様に新の真似をすれば良い」と出久は考えたのだ。流石に単純な身体能力の強化だけで新と全く同じにと言う訳にはいかないが、それなりに動けてはいる。

 

「でも、あっちゃんや飯田君の足技と比べるとキレが無いんだよね。試験まで余り時間も無いし、何とか必殺技と呼べるレベルまで仕上げないといけないんだけど……」

 

「私としてはいっそ逆に考えるべきだと思うがな」

 

「? 逆って?」

 

「ハッキリ言えば仮免試験までに貴様が我が王やトリップ・ギアターボと同レベルの足技を修得するのは不可能だ。どう考えても技術を熟成させる為の時間が足りん。二人のそれは例えるならば年単位の時間を掛けて鍛えあげた業物よ。貴様ではどう頑張っても付け焼き刃程度のモノにしかならん」

 

「……うん……」

 

「しかし、ここで多くの愚かな人間共が失念している重大な事実がある」

 

「重大な事実?」

 

「付け焼き刃とは切る事も刺す事も出来る“刃物”だと言う事だ。つまり、急所に当たれば相手は死ぬ。業物と同じ使い方をするのが間違いなのであって、付け焼き刃も確かに有効な手段なのだ。要は頭の使い方次第よ」

 

 

●●●

 

 

ヒーロー事務所『暗黒組織ゴルショッカー』。

 

それは対義語を掛け合わせた質の悪いジョークとしか思えない名前を冠し、組織のトップが改造人間でその他の構成員がミュータントである所為か、宿敵である『敵連合』の方がむしろヒーローっぽく見えるかも知れないと言う、ありとあらゆる意味でクレイジーな正義の怪人軍団である。

 

今回の仮免試験では『雄英潰し』対策と言うか、『雄英潰し返し』とでも言うべき奇策の為に、イナゴ怪人1号からイナゴ怪人RXまで12体のイナゴ怪人に加え、I・アイランドで誕生した植物怪人等、厳選された合計27体の怪人(量産型アリ怪人は除外)を投入している。

 

……お分かり戴けたであろうか? そう、イナゴ怪人が12体にその他の怪人が27体である。つまり怪人の数は合計で39体となる訳で、明らかに名乗りを上げた怪人達と数が合わない。

コレはそれぞれの能力に合わせた役割分担に基づくものであり、例えばアリキメデスはずっと地下に潜伏させて量産型アリ怪人の生産・補充に専念させているし、ウツボカズラ怪人の様に空間転移の能力を持つ怪人は裏方に徹して貰っている。

 

要は適材適所。俺からすれば大昔の特撮番組の様に、全ての怪人を正面から堂々と馬鹿正直に突撃させて戦わせる必要は何処にも無いのだ。

 

「此処は?」

 

「我々ゴルショッカーがいち早く確保した高層ビルの展望室だ。此処からならお前達にも戦況が把握しやすいだろうと思ってな」

 

「良し。でかしたぞ、ザンジオー」

 

「ゲギー! 大首領の有り難きお言葉ッ!!」

 

――エリート怪人ザンジオー。

 

自らエリートを名乗るとはなんとうぬぼれが強い……と思いきや、日本アルプスの人食いサンショウウオ(自己申告)が素体となったこの怪人は、ウツボカズラ怪人と同様にイナゴ怪人1号の肉体を食らう事で「全身を泡に身を包み、あらゆる場所に移動する」ワープ系能力を獲得したマジモンのエリートである。

 

ワープ系の“個性”は所謂『レア“個性”』に該当する稀少な能力である為、それが出来る怪人が他にも居れば色々と便利なのだが、やはりそこは各々の素質による部分が大きいのか、イナゴ怪人1号の『ローカスト・エスケープ』を元にしたワープ系能力を獲得した怪人は非常に少ない。

そんな数少ないワープ系能力を獲得した怪人であるザンジオーには今回の仮免試験でその能力を用いた神出鬼没な活躍を期待していた訳だが、早くも傑物学園が怪人軍団に気を取られている隙に我々A組を安全地帯に逃がすと言う、正にエリートと呼ぶに相応しい手際の良さを見せてくれた訳だ。スバラシイ。

 

『えー、現在まだ何処も膠着状態……通過0人です……。あ、情報が入り次第、私が此方の放送席から逐一アナウンスさせられまーす』

 

「ふむ。ひとまず傑物学園の包囲網からは脱したが、これからどうする?」

 

「一応、考えている策はある」

 

「「マジで!?」」

 

飯田が今後どう展開していくべきか皆に意見を聞いてきたので、思いついた作戦がある事を俺が告げると瀬呂と芦戸が驚愕した。まあ、マジでただの思いつきなので、そんなに大したモノではないのだが。

 

「今回の仮免試験に参加している学校はそれぞれ大体20人位だから、仮に『雄英潰し』が成功したとしても一次試験を突破出来るのは最大で10人だ。そうなるとその学校の全体的な戦力が半減する事になるから、それはそれで他校から狙われる要因になる」

 

「あぁ……! 先着100名って事で焦って抜けちゃうと、試験に残ってるクラスメイトがドンドン不利になっちゃうんだ……」

 

「戦闘演習でも救助演習でもチームプレイが認められているなら、『連携しやすいクラスメイトと一緒の方が仮免試験に合格しやすくなるんじゃないか』ってどの学校も考えるだろうから、そういう展開は避けたい所だよね」

 

「そう。だから他校への牽制も含めて、出来るだけ全体的な戦力を維持したまま一次試験を突破しようと考えている学校が殆どだと思う。そうなると、他校がぶつかり合ってお互いに消耗した所を襲う漁夫の利的なやり方を思いつく学校も居ると思うんだよ。俺達雄英と傑物学園の戦いを遠くから観察していた学校が」

 

「なるへそ……確かにクラス全員で合格しようってんなら、最低でも他校を二つ相手しねーといけねーもんな……考えてみればそれが一番効率良い方法かもな……」

 

「でも、逆に言えば一気に合格枠が減っていくやり方って事よ。一校辺りの受験生が20人前後なら、学校単位だと5校しか試験を通過出来ない計算になるわ」

 

試験の内容から他校の動向を推理した俺の話に、麗日と瀬呂は納得の表情を見せているが、梅雨ちゃんが言う様に学校単位で考えると、参加しているおよそ77校の内5校しか突破する事が出来ない計算になる。

出久が考える通り、少しでも仮免試験の合格率を上げる為、受験生の大半が可能な限り同校の仲間達と一緒にこの一次試験の突破を目指していると予想される以上、何時事態が急変しても可笑しくはない。

 

具体的な数字を出した事で一次試験の不安定さを全員が理解し、何となくソワソワと忙しない雰囲気が流れ始めた時、展望室が大きく揺れた。

 

「何!? 地震!?」

 

「いや、傑物学園の真堂先輩が起こした地割れ攻撃だ。ゴルショッカーによってクラスの半数以上が捕獲されたもんだから、何とか態勢を立て直そうと必死なんだよ」

 

「捕獲?」

 

「うむ。我々ゴルショッカーが倒した傑物学園の人間は全員、厳重に拘束した上でこのビルの一室に転がしてあるのだ」

 

芦戸の質問に俺とザンジオーは何でも無いように答えているが、バッタが持つテレパシー能力を用いた感覚共有でイナゴ怪人1号の視界を通して見た『傑物学園 対 ゴルショッカー』の死闘は、口にするのも憚られる程に一方的なモノだった。

 

何せ単純に物量で押してくる量産型アリ怪人に加え、怪人ヤマアラシと怪人カタツムリがローリングアタックで傑物学園に突撃して隙を作り、妖怪と見紛うばかりに巨大な蛇と大ムカデに変態したヘビ怪人と怪人オオムカデが地中から強襲すると言った具合に、それなりの特殊能力を備えた怪人共がそれなりに戦略を立てて襲いかかってくるのである。

 

また、傑物学園に対して名乗りを上げなかった怪人達も密かに参戦しており、モグラ怪人が落とし穴を掘ってサボテグロンから渡された爆弾サボテン『メキシコの花』を設置するコンボを食らった傑物学園の先輩の末路には同情の涙を禁じ得なかった。

 

「ホラホラ、どうしたどうしたぁ!?」

 

「ぬぅうう、おのれ傑物学園! かくなる上は、咲いて散れ『メキシコの花』ァアーーーッ!!」

 

「おっとォ!」

 

戦闘経験と格闘技術の差により、サボテンソードを振るうサボテグロンを上手い具合に翻弄し、徐々に追い詰めていく試合巧者な傑物学園の先輩に対し、サボテグロンは破れかぶれで爆弾サボテンを繰り出した(様に見える)。

傑物学園の先輩が爆弾サボテンを後方に跳んで華麗に回避し、余裕の表情で着地した次の瞬間。なんと傑物学園の先輩の足元が崩れ、彼の体は爆弾サボテンが満載された落とし穴の中に吸い込まれていった。

 

「へっ?」

 

「ヒィヒィヒィヒィ!」

 

「チュチューン!」

 

奈落の底へと落下していく刹那、傑物学園の先輩の勝利を確信したニヤけた笑顔は、「何が起こったか分からない」と言った困惑の表情に変化し、大爆発による火柱と黒煙が落とし穴から上がる光景を前にしたサボテグロンとモグラ怪人の2人は、共に独特な勝利の高笑いを上げた。

 

「へい! マントが似合うそこの貴方! 貴方のラッキーシャケはコレッ! ドゥルルルルル……シャケチャーハンッ!!」

 

「はあ? って、熱っっ!! 熱っっうッ!! 何コレ!? 何コレ!? うぉおおおおおおお! 強火でパラパラにされちまうぅううううううううう!!」

 

また、大半の怪人が二人以上のチームプレイで傑物学園に相対する中、戦略もクソも無く単独でシンプルに正面から傑物学園を圧倒する怪人も存在する。その内の一人がこのベニザケ怪人だ。

コイツはシャケ料理のイメージをぶつけて相手を叩きのめす『シャケ料理フルコース攻撃』と言う、どう聞いてもふざけているとしか思えない必殺技を持っているのが、これが中々馬鹿に出来ない必殺技だった。

 

何せこの『シャケ料理フルコース攻撃』はテレパシーに由来する精神系・幻覚系の攻撃なので、同系統の“個性”を持つ者なら対抗する事も出来るだろうが、そうでなければ基本的には回避も防御も不可能。容赦なくベニザケ怪人によってステキに料理され、しかも傍目からは何が起こっているのかサッパリ分からないので助けようがないときている。

 

「シャーケッケッケ! どうだぁ、美味しいだろぉ~?」

 

「確かにシャケチャーハンが唯々美味しいぃーーーッ!!」

 

「おい! お前はさっきから何を言ってるんだ!?」

 

恐らくはご飯やシャケと一緒にフライパンで豪快かつステキに炒められたイメージを叩きつけられて精神的大ダメージを受け、錯乱状態になったとしか思えない意味不明な言動を宣う仲間に対し、困惑しつつも心配する声が掛けられるが何も心配は要らない。何故なら本人が言うように、シャケチャーハンが唯々美味しいだけだからだ。

 

「離れろ! 完全にコイツ等のペースに乗せられてる! 割って仕切り直すッ!!」

 

「ほう、『割る』か……ならば真っ向勝負と行こう」

 

そして、形勢不利と見て遂に傑物学園のリーダー真堂先輩が動くと同時に、イナゴマン改めショッカーライダーマンも動いた。両手を地面につけている真堂先輩に対し、イナゴマンは右手を開いて地面を叩く動作に入っている。

 

「最大威力! 『震伝動地』ッ!!」

 

「ぬぅうんッ!!」

 

真堂先輩の必殺技の発動と、ショッカーライダーマンの右手が地面を叩いたのは殆ど同時だった。ショッカーライダーマンはモーフィングパワーを用い、地面を変形させて地割れを起こしているのに対し、真堂先輩は振動による物理的な破壊によって地割れを起こしている点で本質は異なるが、ぶつかり合う二つの地割れ攻撃によって想像を絶する大破壊がフィールドにもたらされた。

 

これにより傑物学園は姿を眩ました訳だが、『暗黒組織ゴルショッカー』に手抜かりは無い。如何に傑物学園の先輩方が人並外れた傑物であろうとも、怪人コンドルを筆頭とした優れた五感を持つ怪人達による追跡から逃れる事は出来ない。既に傑物学園の先輩方の居場所は怪人軍団により完全に補足されている。

 

「それでだ。話を戻すが俺達を観察していた学校から見れば、傑物学園は『雄英潰し』を仕掛けたが怪人軍団の返り討ちに遭って失敗。怪人軍団から逃げる事には成功したが、学校としての戦力はガタ落ちした上に体力・精神力共に消耗し、各々の“個性”もバトルスタイルもある程度まで割れた……となる訳だ」

 

「ならば当然、今が傑物学園を倒すチャンスと見て、打って出る学校が出てくるだろうな」

 

「そっか! それで今度はウチ等が傑物学園と他校が争ってる所を狙えば、全員が合格する分のポイントを確保出来る!」

 

「上手く行けばな」

 

「上手く行けば?」

 

「自分達が漁夫の利を狙っていた様に、『姿を眩ました雄英が傑物学園を餌に他校をおびき寄せ、一網打尽にする機会を伺っているのではないか?』と警戒して動かない可能性もあると言う事ですわ」

 

障子や耳郎が言う様に、俺達の立ち位置は今、シギとハマグリから漁夫のソレになったと言える訳だが、同じ様に漁夫の立場だった学校からすれば八百万が懸念した様な事も当然考えつく訳で、その優位性を考えればそう簡単に漁夫の立ち位置を放棄するとは考えにくい。下手に動けば再びシギとハマグリの立場に逆戻りし、第三者に足元を掬われかねないと言える訳だが……。

 

「それじゃあ、ソイツ等はオイラ達が出てくるまで、息を潜めてずっと待ってるかも知れねえって事か?」

 

「いや、俺としてはそこまで気を遣う必要はないと思う。効率を考えて合理的に情報量の多い俺達を狙っていた連中からすれば、今やどんな能力を持った怪人が後どれだけ控えているのか全く分からない俺達を狙うのはリスクが高過ぎる」

 

「まあ、そうだよね……」

 

「何処の学校も傑物学園の二の舞はゴメンだろうしね……」

 

「どんだけ頑張って倒してもポイントにならねえんだから、どの学校も出来るだけ怪人軍団の相手はしたくねぇだろうな」

 

実際、俺達に関しては試験前と今とで他校の評価は一変していると言っても過言では無い。葉隠と砂藤の言った事が、他校が雄英に対して思っている事の全てだろう。

 

「そして、懸念材料の『雄英生を倒す事そのもの』を目的にしている奴等からすれば、俺達よりも単独行動をしている轟や、勝己・切島・上鳴のチームの方がまだ倒しやすく見えるだろうから、ソイツ等はソッチの方に向かったんじゃないかと俺は考える」

 

「そうだね……かっちゃんと轟君が体育祭の二位と三位の入賞者だって事を考えれば、そう言う人達は尚更かっちゃん達の方を狙うと思う。特にかっちゃんは説明の時の発言があるし……」

 

「まあな。もしかしたら勝己はその辺の事を考慮して、ワザとあんな煽る様な事を言ったのかも知れん」

 

「俺達の方へ雄英にヘイトを溜めた奴が行かないようにってか?」

 

「いやいや、爆豪はそんなキャラじゃねーだろ」

 

「「「「「「「「「「うんうん」」」」」」」」」」

 

確かに我ながらポジティブな意見だとは思うが、悲しい事にこの場に居る面々からすれば「勝己がどんな形であれ他人を助ける姿が想像出来ない」と言うのが共通認識である様で、瀬呂の意見に対して迷う事無く首を縦に振るクラスメイト達を見た俺は仮面の下で苦笑いを浮かべた。

 

『あ、漸く一人目の通過者が……だ、脱落者120名! 一気に120名を脱落させて通過したぁあーーー!!』

 

「120名が脱落!?」

 

「そっか、『二人以上を倒したら通過』だから、“個性”によってはそう言う事もあり得るのか。それにしても一体誰がどんな“個性”でそんな大それた事を……」

 

「士傑高校の夜嵐イナサだ。風を操る“個性”で他の受験生のボールを根こそぎ奪い、ソレ等を上空から雨霰とぶつけたんだと」

 

「え!? アイツ!?」

 

何時ものブツブツが始まりそうな出久に対する俺の発言に耳郎が驚いた声を上げるが、俺としてもこの報告は正直意外だった。

 

何せあの相澤先生が「マークしておけ」なんて言うもんだから、怪人軍団の中でも戦闘能力が高い怪人達を夜嵐に付けておいたのだが、夜嵐は此方に来る事無く単独で動き、とっとと試験を突破してしまった。

ちなみにその事を俺に報告したのは、デスインカ帝国の使者であるポイズンスコーピオンが操るミュータントサソリの死骸を元に造り出した怪人サソランジンで、何故か彼女はデスインカ帝国の打倒を目標としている。

 

「意外だね。てっきりウチ等の所に来ると思ってたんだけど」

 

「でも、コレである意味一安心だね」

 

「『雄英と競い合える』とか言ってたケド、単に『どっちが早く試験を突破出来るか競争しよう』って事だったのかもね」

 

耳郎と同じく俺も夜嵐は此方に来るものだと思っていた。しかし、実際には尾白が言う様に、「どちらが早くクリア出来るか競争する」と言うだけの事だったのだろう。

まあ、何にしても吉報である。下手すると轟以上の実力者と相対する展開も覚悟していたが、それがなくなったと知って安堵の息を吐く葉隠にクラスの何人かが同調している。

 

『えー、さて、ビックリして目が覚めて参りました。これからドンドン来そうです! 皆さん、早めに頑張って下さぁーーいッ!!』

 

「……ま、夜嵐については置いておいてだ。思いついた策は全部で三つ。一つは戦力が大幅に低下した傑物学園の情報を流し、寄せられてきた連中諸共一網打尽にする。情報の拡散については口田にやって貰いたい。カラスとか喋る事が出来る動物を使ってな」

 

「ぬ? 怪人達を使わないのか?」

 

「俺は試験を突破するのに必要な人数を確保して試験を通過したと他校に思わせる為に、一部を除いて怪人共を軒並み引っ込めていてな。可能な限り俺がまだ試験を突破していない事を知られたくない。

二つ目は誰かが囮になって釣られてきた連中を罠に嵌めるって方法。所謂『釣り野伏』ってヤツだ。囮は可能な限りヘイトを集めている人間が好ましいが、この中で最も囮に相応しいのが誰かと言うと……」

 

「……え?」

 

作戦を説明する俺が視線を下の方に向けると、それにつられて皆もその人物に視線を向けた。例外はクラスの視線を一身に受けて冷や汗を流している峰田だけだ。

 

「も、もしかしてオイラかッ!? 何で!?」

 

「傑物学園の投擲先輩が真っ先にお前を狙ったからだ。真堂先輩が『テレビで見た』と言っていた以上、間違いなく投擲先輩も今年の雄英体育祭を見ている。つまり八百万の尻に貼りつき、腰を激しく動かしていたお前の姿もだ」

 

「確かに……単純に戦闘能力や“個性”を考えれば、最初に峰田さんを狙ったのは少々不自然かも知れませんわね」

 

「そう考えると何だか悪い事したね」

 

うむ。必殺技のモーションが余りにも隙だらけだったので、思わず速攻で仕留めてしまった俺が言うのも何だが、投擲先輩は心が紳士だからこそ義憤に燃え、何としてでも峰田を狩ろうと大きな隙を晒してしまったのかも知れない。だからと言って容赦はしないが。

 

「まあ、傑物学園に限定するなら俺が一番ヘイトを集めているだろうがな。特に真堂先輩から」

 

「え? あの真堂って人に何かやったの?」

 

「地割れのどさくさに紛れてワニ怪人が真堂先輩のコスチュームをピンク一色のヤベーデザインに改造したんだ」

 

「うわぁ……」

 

名乗りを上げた怪人の内、ワニ怪人はモーフィングパワーに由来する「相手のコスチュームを自分の思い通りのデザインに変えてしまう」と言う恐るべき必殺技を編み出しており、それ故ワニ怪人は『おしゃれ怪人クロコダイルダンディー』を自称している。

しかし、ワニ怪人の圧倒的に壊滅的なファッションセンスを目撃した者達は、ワニ怪人に対して『クソコーデ怪人ナシゲーターおじさん』と親しみを込めて呼んでいる。つまりは……そう言う事だ。

 

確かにベストジーニストと同様に、そして別ベクトルで人類が服を着ている限りは有効と言える必殺技だが、ワニ怪人自身は最悪にイカれたファッションを最高にイカしていると本気で思っているのが始末に悪い。

そんなワニ怪人の所為で真堂先輩は現在、上半身に「親しみやすさ」とプリントされたピンクのTシャツの上に、カッパみたいに透明なビニールのジャケットを着ており、下半身はTシャツよりも鮮やかなピンク色の七分丈ズボンに厚底ブーツと、見た者の正気を削る様な超絶的にクソダサい姿に変貌している。勿論、ワニ怪人の1000%の善意でだ。

 

「それで最後の一つは?」

 

「轟や勝己達を狙う他校の連中をボコボコにする。つまりは挟み撃ちだ。問題は勝己なら確実に自分を囮にした事に気づき、激昂して俺達に襲いかかってくるだろうって事だ」

 

「ケロ……ある意味、一番ハイリスクな作戦ね」

 

「まあ、どの作戦を取っても成功する確率は高いと思うぞ。さっきも言った通り9月の仮免試験は受験生が多い。その理由は後が無い3年生がこぞって受験するからで、彼等には少なからず焦りがある。そこへ合格者が先着100名と言う悪条件が重なれば気持ちも逸る。隙を見せれば多少のリスクは度外視して今がチャンスだと釣られる連中がこれから必ず出てくる。まあ、だからと言って此処で余り迷っている時間も無いが」

 

「そうだな、この場に留まり続けるのも良くはないだろうし……他に作戦が無いなら、民主主義に則り多数決で決めると言う事でどうだろうか!」

 

「待って。それなら、こう言うのはどうかな?」

 

飯田の提案で俺が提示した三策の内、最も票を集めた一策を実行に移そうと決まりかけたその時、出久が待ったを掛けて新しい作戦を提案した。その作戦とは……。

 

 

○○○

 

 

傑物学園高校2年2組のリーダー。真堂揺は怒りに満ちていた。

 

『ファー、コレで漸く30人目。まだまだ先は長いですぅ……早くしてくださいよ。ホントに……』

 

「……状況を整理しッ、共有しよう……ッ!!」

 

「「「「「「「………」」」」」」」

 

全身がピンク色の超目立つクソダサファッションに身を包んだ真堂の台詞は冷静な思考力を感じさせるモノであったが、その口調と表情は台詞と全く噛み合っていなかった。

その眼光は腸が煮えくり返る思いで最早モツ煮と化しそうな真堂の内心を、クラスメイト達に嫌でも理解させるヤバさと凄みを兼ね備えていた。

 

「雄英に焦点を絞り、戦力を分散させようと試みた結果、俺達は予想外の伏兵の襲撃により雄英を逃がしてしまい敗走。そこへ行方を眩ませた雄英よりも、戦力を半数以上削られた俺達の方が倒しやすいと判断した複数の学校が便乗し、血眼になって俺達を探している。俺達は他校の追跡をかわしつつ、コソコソと隠れて反撃の機会を伺っている……コレが今の俺達の状況さ」

 

「ヨー君の言う『雄英潰し』……やっぱ先生が言った通り、止めて置けば良かったんじゃ……」

 

そう。実は真堂達は今回の仮免試験に臨む際、今年の雄英体育祭を観戦した担任教師から「1年A組が相手の時だけは『雄英潰し』を狙わない方が良い」と言われていたのだが、彼等にも多かれ少なかれヒーローを目指す者としてのプライドと自負がある。

ヒーロー飽和社会と呼ばれる現代に於いて、ヒーローを目指す若者はそれこそ星の数ほど居る訳だか、その志の高さには有名も無名も関係無い。そう信じて日々厳しい訓練を積んできた彼等がその言葉に反発を覚えるのも無理はない話だが、今回ばかりは相手が色んな意味で悪過ぎた。

 

「正直俺もそう思ったケド……考えようによっては今の状況もそう悪くはない。俺達の数が減った分、雄英の方も数が減っている筈だ。怪人共があれから姿を見せない事を考えれば、不確定要素の塊みたいな最大戦力が居なくなった雄英に今や怖いモノは無いと言える」

 

「………」

 

「そしてこのまま俺達が逃げ続ければ、どの学校も次第に残席数で頭が一杯になってくる。焦って飛び出てお互いに争い始めれば、当然広かった視野も徐々に狭くなる。俺達はその時が来るまで息を潜め、しっかりと牙と爪を研いで待っていれば良い」

 

「やっとチョーシ戻ってきた。ヨー君こすいんだぁ」

 

「機転が利くと言ってくれよ。ま、土壇場に来て焦るのも、策を講じるのも、不屈の心があってこそさ。この場の人間全て、誰もが夢と理想を掴もうと藻掻いている。その藻掻きに貴賤なんて――」

 

「セイヤァアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

突如、絶叫と共に傑物学園が組む円陣の中央へ何者かが落下し、その衝撃をモロに受けた傑物学園の面々は吹き飛ばされ、傑物学園を探していた他校の受験生も何事かと其方の方に目と足を向けた。

 

「何だ!?」

 

「いた! 傑物……て、オイ! アレ!」

 

「な、何でアイツが居るんだよ!? 突破したんじゃなかったのか!?」

 

もうもうと上がる土煙の中から、緑色の複眼を輝かせるバッタを模したコスチュームに身を包んだ仮面の男が現われると、その場に居合わせた受験生達に激しい動揺が走った。

 

今回の仮免試験は異例の少数採用。しかも先着100名ともなれば、試験突破に必要な人数を倒したなら、とっとと試験を突破してしまうのが普通だ。

現に大抵の学校は10人前後のチームで動き、戦力と機動力を両立させつつも、各々が「取れる時は取る」スタンスであり、チャンスがあれば抜け駆けも良しとしている。

 

だからこそ、怪人達が居なくなった事で、真堂は「呉島新はもう試験会場には居ない」と判断した。他校も「怪人達の姿が全く見えない」事で半信半疑の情報をあっさりと信じた。自分達が呉島新の立場なら、間違いなく「試験の突破を選ぶ」からだ。「留まり続ける」など有り得ない選択だからだ。

 

しかし、この一次試験に於いてありとあらゆる意味で戦いたくない人間№1と言える男が、自分達の目の前に立っている。その上、雄英の仲間も配下の怪人も、誰一人として連れていない単騎と言う状況が余りにも不気味過ぎる。

 

一体何を考えているのかサッパリ分からない。そんな彼等の困惑に乗じ、戦場に降り立った仮面の男は更なる一手を繰り出した。

 

「ムゥウウ……ッ!!」

 

仮面の男が空に手をかざすと、どこからともなく金属がこすれる嫌な音が鳴り響き、無数に蠢く銀色の小さなモノが上空に集まってきた。

それは鋼鉄で構成された肉体を持ち、しかし命は持たないバッタの群れであり、その規模は瞬く間に日の光を遮るほどに巨大な軍勢と化した。

 

ソレを目の当りにした者達の反応は二つに分かれた。圧倒的な脅威から身を守ろうとその場から後退する者。もう一つは、今この瞬間にコイツを倒さないと大変な事になると判断して前進する者だ。

 

「呉島ぁあああああああああああああああああああ!!」

 

「『集光屈折・ハイチーズ』!」

 

「何っ!?」

 

「った、まぶし……ッ!!」

 

「ケロッ!!」

 

「ぐあッ!」

 

しかし、真堂を筆頭とする仮面の男に迫る者達の前進は、またしても予想外の伏兵によって阻まれた。何時の間に其処に居たのか、それとも最初から其処に居たのか。『透明』の“個性”を持つ葉隠と、新技の「保護色」を発動した蛙吹の二人による意識の外側からの攻撃は、怪人達の奇襲を警戒していた真堂達にとって正に寝耳に水である。

 

「フンッ!!」

 

「な、何だぁ!?」

 

「傑物だけ閉じ込めたのか?」

 

「何にせよチャンスだ! 逃げるなら今の内に――」

 

「何だ!? 痛ッ! 痛って!!」

 

「ハトォ!?」

 

「『鳥達よ! その場で旋回を続けるのです!!』」

 

「『深淵闇躯(ブラックアンク)』……黒き腕の暗々裏ッ!!」

 

「ぬおぉおっ!?」

 

「雄英だ!」

 

「コイツ等、どっからこんなに……!」

 

「SMAAAAAAAAAAASH!!」

 

そして、仮面の男が鋼鉄のバッタを操って壁を造り、傑物学園とその他を分断した様子を見て安堵し、逃げ出そうと背を向けた者達にも脅威が迫っていた。

口田が“個性”で呼び出した無数の鳥によって逃げ場を失った受験生達に対し、或る者は相手の姿勢を崩し、或る者は身動きを封じると言った具合に、突如出現した雄英が続々とコンボを決めていく。

 

「今回の様な乱戦が予想される試験の場合、漁夫の利狙いが最も効率的ですが、それには一つ大きな穴があります。公安委員会の目良さんは『二人倒した者から勝ち抜け』と言っていましたが、恐らく同校生徒でもソレは適用される。つまり『同校生徒での潰し合い』……言い換えるなら共食いをされると漁夫の利は得られません。

流石に率先してやるとは思いませんが、追い詰められて『せめてお前だけでも仮免に合格してくれ』と仲間の糧になろうとする者が出るのは不思議じゃ無い。漁夫に対する嫌がらせにもなりますし、それもチームワークの1つの形には違いない。だから全滅させずに8人で止めておきました(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

淡々と説明する仮面の男に対し、傑物学園の心は一つとなった。この男は「あのまま全滅させる事も出来たが、他校を釣る餌として自分達をわざと生かしておいた」と宣ったのだ。また“8人”と言うのは言われてみれば確かに絶妙な数かも知れない。

基本的に10人以上で動く他校からすれば数的に有利で4人が合格出来るオイシイ数。当事者からすれば仮に潰し合いをしても2人しか試験を突破する事が出来ず、全員での突破を諦めるにはまだ早い。そんな悪魔の数字だと。

 

「……テレビでも散々見たけど……イカレてんな、テメェはよぉッ!!」

 

「それが素ですか。しかしヒーローとはそう言うモノでしょう? 正気のまま存分に狂う。まあ、ワザワザ言う様な事じゃないんですが、視線誘導と時間稼ぎを兼ねてチョット言ってみた次第です」

 

「あ゛あ゛ッ!?」

 

「頼むぞ、青山」

 

「すぃ☆。頼まれた☆」

 

仮面の男が指を鳴らしたと同時に、鋼鉄のバッタの群れは一瞬にして鏡面の様に美しい円筒に変化した。するとまたもや何時の間にか円筒の中に居た青山が、腹や肘など全身の各所からレーザーの弾丸を連射し、発射された無数のレーザー弾はピンボールの様に円筒の中を縦横無尽にバウンドする。

 

「うぉおおおおおおお!! 舐めるなぁああああああああああああ!!」

 

「ええ、舐めてはいません」

 

「うごぉ!?」

 

「ギャンッ!?」

 

すかさず地面を割り、岩盤を盾にして穴を掘る真堂だが、仮面の男は複数の鋼の板を操って幾つかのレーザー弾を任意の場所や人物へと反射させており、確かに「下手な鉄砲数打ちゃ当たる」と言う様な大雑把な戦法では無い。

良く見ると仮面の男は念力によってレーザーを防いでいる様だが、青山の方にも鋼の盾が展開されており、レーザーの跳弾から青山を守っている。そして、全てのレーザー弾が円筒の中から消滅した時、傑物学園で立ち上がったのは真堂だけだった。

 

「流石にリーダーを務めるだけはありますね。しぶとい」

 

「当然、だろ……! 不屈の心こそ、今のヒーローが持つべき素養だと思ってんだよ! 俺はッ!!」

 

「同感ですね」

 

目の前のこの惨状は、間違いなく自分の決断が招いた事だ。『雄英潰し』は止めておけと言った担任の忠告を無視し、クラスを扇動した為にこうなった。ならせめて、ケジメは付けるべきだ。この信念だけは貫き通さなければ駄目だと真堂は思った。

 

「脳味噌シェイクになっちまえッ!!」

 

相手が余程強靱な肉体を持つ強敵でもなければ出来ない、直触りによる振動攻撃。相手の体に触れさえすれば、文字通り一撃必殺の威力を誇る必殺技に、真堂は全てを賭けた。

 

「セイッ!!」

 

「ぐぅう……! ウリィヤァアアッ!!」

 

「オラァ!!」

 

「ウガァーーッ!!」

 

触れさえすれば確実に倒せる。しかし、その触る事が出来ない。勝利を目前にしても油断する事無く、真堂が動いた所で仮面の男は攻撃してくる。

しかも攻撃する箇所は両腕に集中しており、徐々に両腕が痺れていく事で“個性”の発動に必要な両手を上げる事が難しくなり、真堂の抵抗する力を確実に削られていく。

 

「フンッ!!」

 

「ぐぅうううう!!」

 

真堂は確信した。この男は「触れればアウト」な“個性”を知っている。そう言う“個性”を持つ相手を想定した訓練を積んでいる。

必要最小限の動きで此方の攻撃を捌き、相手には極力隙を見せないこの立ち回りを身に着けている理由は、それ位しか考えられない。

 

「ライダー……電熱チョップッ!!」

 

敗北は目前だった。仮面の男が右手にエネルギーを集中して放つ必殺チョップが迫るものの、真堂はダメージによって痺れた両腕を上げてガードする事も、カウンターを狙って迎撃する事も出来ない。

 

「真堂ぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

しかし、真堂は倒れなかった。何故ならレーザーを喰らって倒れていた真壁が突如立ち上がり、真堂の盾となって致命の一閃をその身に受けたからだ。

 

「あぐあぁあ……! 今だ、真――」

 

「ライダーサンダー!!」

 

「がぁあああああああああああああああ!!」

 

だが、現実は非情だった。『硬質化』の“個性”で防御力が強化されたコスチュームにより手刀を受け止め、仮面の男を抑える事に成功した真壁を間髪入れずに緑色の電撃が襲い、今度こそ真壁は倒れた。

 

「トォオオウ! ライダー……錐揉みキックッ!!」

 

そして、仮面の男は天高く跳躍すると、真堂に向かって錐揉み回転しながら右足を繰り出して急降下する。間違いなく止めの一撃。しかも相手は空中で、状況的に相討ちすら難しい。

 

「最、大……威力……ッ!!」

 

それでも真堂は諦めない。身代わりとなった仲間が稼いだこの時間を、こんな自分に託した仲間の覚悟を無駄にしたくない。そんな気持ちが真堂の体を突き動かしていた。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

後先など考えず、がむしゃらに痺れる右腕を無理やり動かし、迫り来る仮面の男へ真堂は渾身の力を振り絞り、右手を振りかぶった。

 

――その時、不思議な事が起こった。

 

真堂の右手を中心に大気が振動し、傑物学園を包囲していた鋼鉄の円筒を一息に消し飛ばしたのだ。

 

 

●●●

 

 

出久が提案した作戦は、俺が提案した作戦を組み合わせた大胆なモノだった。ベースは傑物学園を餌にした漁夫の利狙いなのだが、傑物学園が追い込まれた方向にはワープ系能力を持つ怪人を複数体潜伏させていた。

つまり、傑物学園もそれを追いかける他校も、知らず知らずのうちに罠へと誘い込まれていたのである。何だかやっている事がUSJの時の『敵連合』と被っている様な気もするが、此方は目的を達成したのだから問題は無い。

 

ただ、一般的に“個性”とは超人が持つ『身体能力の一部』であり、“個性”の成長とはボディビルと同様に、“個性”を使った訓練の積み重ねによって得られると言われているが、精神的な要因から“個性”が爆発的な成長を見せるケースもごく稀に存在する。コレも一種の“Plus Ultra”と言えるが、対戦相手にコレが起こると厄介な事この上ない(俺が言うのも何だケド)。

 

真堂先輩が俺に平手で殴りかかった時、その指先一つとて俺には触れていなかった。しかし、その手から発生した衝撃波は俺のキックを撥ね除け、『メタルクラスタ』による包囲網をも破壊した。

恐らく、真堂先輩はこの土壇場で“個性”を成長させたのだろう。麗日が触れている大気の気体成分を無重力化した様に、振動先輩は触れた空気そのものを揺らしたのだ。それもあらん限りの力を込めて。

 

「青山、無事か?」

 

「スィ☆……あの人は何て言うか……僕達と似たトコがある人なんだろうね☆」

 

「……ああ、多分な」

 

衝撃波で吹き飛ばされたのであろう、仰向けに寝っ転がっている青山に声をかけると、意外と言っては何だが共感できる感想が返ってきた。考えてみれば、他校の“Plus Ultra”なんて初めて見た気がする。

 

「呉島君!! 青山君!!」

 

「飯田か。そっちはどうだ?」

 

「全員が試験を通過するのに必要な人数は集まった! 君の『メタルクラスタ』が弾けたのを見て駆けつけたんだが、何があったんだ?」

 

「真堂先輩にやられた。不屈の心は伊達じゃ無いな」

 

よく見ると真堂先輩の他にミーハーな先輩も居ない。レーザーが当たって戦闘不能になったと思ったのだが、反射した事で威力が弱まっていたのか、それともギリギリで体を一部引っ込めたのか、兎に角仕留め損なっていたらしい。

怪人共の情報によると真堂先輩の“個性”は使用すると暫く身動きが取れなくなるデメリットがあるらしいので、彼女が動けない真堂先輩をどさくさに紛れて連れ出し逃げた……と言う事なのだろう。

 

『え~、結構状況動いてます。ここで一気に14名通過来ましたーーー! 続々出てます! 現在通過者53名。今、54人目出ました! ガンガン進んで良い調子です! もっと早くッ! 終われッ! ホリィイイイイイイイイイイイイ!』

 

「皆は一足先に通過して、後は俺達だけだ。君達も早く!」

 

「待て、飯田はまだ取っていないのか?」

 

「俺はA組の委員長。クラスを導く立場にある。時間と脚が許す限りはクラスに貢献したい。兄さんならそうする。俺はこれから轟君と爆豪君達のどちらかに向かうつもりだ」

 

「……いや、その必要は無いと思うぞ」

 

「むっ、何故だ?」

 

「どちらも今交戦中だ。あと5分もしない内に、両方とも片が付くだろう」




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 主人公が強くなりきって見せ場が無いなら、周りを主人公的に見せれば良いじゃないかと作者が考えた結果、ラスボス的な描写になってしまった怪人主人公。まあ、個人で軍団を組織できる大首領だから仕方ないよね。

青山優雅
 地味に派手なコンボを怪人と編み出していたエセ貴族。「チームプレイが前提ならコンボの一つや二つは編み出しているのが自然」と言う考えの元、話の流れで原作における飯田との絡みが消滅した彼が採用された。

真堂揺
原作でマスキュラーを相手に奮戦していたので、この世界でも見せ場を増やそうと作者に決意させた不屈の男。でも主人公と戦っている時は全身ピンクな服装をしている事を考えると、何か妙な笑いがこみ上げてくる。

エリート怪人ザンジオー
 実は泡を用いたワープの他に「口から一万度の炎を吐く」事が出来る。シンさんはそんな能力を渡していない為、これはザンジオーが独力で獲得した能力と言う事になるのだが、その能力を知ったシンさんは真っ先にデク君のお父さんの生存確認をしていたりする。

サボテグロン&モグラ怪人
 映画『仮面ライダー 対 ショッカー』で、サボテグロンとモグラングが組んでいた為に採用された怪人コンビ。正直に言うと悪の組織はそれぞれの怪人の能力を活かしたコンボを編み出していれば仮面ライダーに勝てたんじゃ……と思わないでもない。

ベニザケ怪人
 外見はゴルゴムだが、中身はギャングラーな怪人。両手のヒレは岩をも切り裂く事が出来るなど、実は素の戦闘能力も高く割と隙が無い。後に彼のクリスマスでの精力的な活動が農林水産省を動かし、ゴルショッカーの日本征服がヒロアカ世界で果たされるかも。

ワニ怪人
 素体となったのはイナゴ怪人が下水道で発見した捨てられたペットと思われるワニ。その経緯故か「元の飼い主のファッションセンスが壊滅的だった事が原因で、クソダサイ服を最高にオシャレだと思う様になったのではないか?」と疑われている。



メタルクラスタ
 登場自体は前作からしているが、正式に名前が決まったのは今話からになる必殺技。当初は「メタルクラスタホッパー」と元ネタのまんまだったが、ミッドナイトから指摘されて少し短くなって言いやすくなる。

“個性”『揺らす』
 近接戦闘は対死柄木戦を想定していれば問題無さそうな“個性”。今回シンさんによって散々追い詰められた結果「触れてねぇ」が出来る様になったが、覇王色の覇気に覚醒した訳ではない。取り敢えず真堂君には薙刀のサポートアイテムを渡しておこうか。
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