怪人バッタ男 THE NEXT   作:トライアルドーパント

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大変長らくお待たせしました。そう言えば前話の投稿も5月の連休を利用して執筆していました。時間が取れれば割とスムーズに書き上げられるんですが、リアルの事情が解決しない限り、以前の様な月一位の投稿も中々難しいです。

今回のタイトルの元ネタは萬画版『仮面ライダーBlack』の「東京 クワガタの夏」。本編の他にも『すまっしゅ!!』を元ネタにした番外編を投稿しますので、気が向いたら其方の方も宜しくお願いします。

2021/8/22 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第9話 多古場:ゴルショッカーの夏

これは雄英高校1年A組の大半が一次試験を突破したのとは、時間的に少し前後する事になるのだが――。

 

「上鳴ー。何で付いてきたんだー?」

 

「君達が走ってっちゃうからさァ!! 寂しくてついてきちゃったのぉーッ!!」

 

「うっせぇな!」

 

「うぇえ……何その言い方ぁ……」

 

団体行動を嫌ってクラスから離れて行動する事を選んだ爆豪と、そんな爆豪を放っておけず追いかけた切島。そして思わず2人の後を追ってしまった上鳴の3人は仲良く(?)高架道路のハシゴを登っていた。

 

元々爆豪は自身へ集まるヘイトを利用し、それに寄せられた他校の受験生を返り討ちにする事で一次試験を突破しようと目論み、獲物を求めて徘徊する肉食獣の様なギラギラした眼で他校の受験生を探していたのだが、彼等に喧嘩を吹っかける他校の受験生は意外な事に皆無であった。

 

爆豪の“個性”『爆破』は雄英体育祭で日本全国に認知されており、雄英体育祭準優勝と言う結果は高い対人戦闘力を備えている事を証明している。その上、爆豪のお供をしているのは近接戦闘では無類の強さを発揮し、攻防共にシンプルに強い“個性”『硬化』を持つ切島と、広範囲の制圧攻撃を可能とする“個性”『帯電』を持つ上鳴の二人である。

それぞれ雄英体育祭本戦においては二回戦敗退と一回戦敗退と言う結果に終わっているが、それでも今年の雄英高校1年生の中では上位クラスと言える実力者であり、全体的に見れば割とイイ感じに戦力のバランスが取れていて隙が無い。

 

つまり、僅か三人の少数チームであると同時に、選りすぐりの精鋭と言える強豪チームが本人達の意図しない形で出来上がっていたのである。

また、ゴルショッカー怪人軍団と言う予想外の伏兵の存在が明らかになったことで、他校の受験生が「コイツ等にも未知の怪人が着いているんじゃないか?」と疑心暗鬼になり、二の足を踏んでいる事も彼等が襲撃されない理由の一つである。

 

「止めろって爆豪。上に何人も居たっぽいし、此処は3人で協力して……」

 

「しねぇ」

 

「そう言うなって……」

 

そこで爆豪は既に戦闘が行われているだろう場所へ乱入し、一気にポイントを稼ぐ作戦に変更。そんな爆豪を追いかける切島と上鳴に対し、爆豪は相も変わらず協調性皆無の台詞を連発している。

 

「! 危ねぇ!!」

 

「切島!?」

 

「クソッ! 離れ……この……!」

 

何時もの様にツッパっている爆豪を、これまた何時もの様に諫める切島が、爆豪に迫るソレにいち早く気付き、身を挺して庇った事で爆豪は無事だったが、ソレに触れてしまった切島は宙に浮き、身長170㎝の体が見る見る内に小さくなっていった。

 

「な、何だありゃあ!? どうなってんだ!?」

 

「要するに! 野郎の仕業って事だろ」

 

相手の“個性”によるものであろう。不細工なハンバーグの様になった切島を手にするのは、試験開始前に見た士傑高校の生徒の1人。その近くには切島と同じ様な姿形に加工された受験生が何人も転がっていた。

 

「ブッ殺す……!」

 

 

○○○

 

 

一方、自身の“個性”の問題から集団行動よりも単独行動の方がやり易いと考えてA組から離れ、戦闘を避けつつ工業地帯のエリアで身を隠して一次試験の趨勢を伺っていた轟はと言うと……。

 

「(他の奴等は何処も10人以上のチームを組んで動いてやがる。コッチから仕掛けても良いが、不利な“個性”持ちが居ると厄介だしな……。他のチームがぶつかり合って、双方の人数が減った所を襲うってのが理想的な状況だが……)」

 

『え~、結構状況動いてます。あ、ここで一気に14名通過来ましたーーー! 続々出てます! 現在通過者53名。今、54人目出ました! ガンガン進んで良い調子です! もっと早くッ! ホリィイイイイイイイイイイイイ!』

 

「(悠長に待ってられないか)」

 

一度に10人以上の通過者が出現した事に加え、合格枠が残り半分を切った事で時間的猶予は無いと判断し、轟は身を隠す事を止めて動き出した。尚、その切っ掛けとなった14名の通過者の正体が自身のクラスメイト達である事を轟は知らない。

 

周囲に絶えず注意を払いながら轟が1人工場地帯を進む中、一個のボールが轟に迫る。それを炎で迎撃した轟は足を止め、探していた獲物……もとい、対戦相手を確認した。

 

「やるやる~。流石は雄英体育祭三位。轟君だっけ? しっかし、一人で行動するなんて凄いねぇ? 余裕有りまくり」

 

「でもさぁ、幾ら雄英だからって、一人は不味いっしょ」

 

「1対10だよ。どうすんの?」

 

それは忍者服に身を包んだ誠刃学園の生徒達。デザインは統一されているが赤・青・黒・黄色……と各自のカラーリングが異なり、中でも最初に轟に話しかけた赤い忍者服の男が立ち位置的にもリーダーの様だ。

 

「助かる。探す手間が省けた」

 

「んっふふっ!! カッコ良いねぇ……」

 

轟の台詞に不快感を露わにするリーダーに呼応する様に、仲間達が次々にボールを轟へ向けて投げつける。彼等の言動と態度から「何が飛び出して来るのか?」と警戒し、身構えていた轟としては、ある意味で予想外の攻撃である。

しかし、幾ら数が多かろうとも、所詮は“個性”の力も何も加わっていない只のボール。轟は氷の壁を作りだしてボールを難なく防ぎ、そのまま地面に、壁に、パイプに、タンクに氷を走らせ、ひとまず正面に見える5人の足元を凍らせて固定する。

 

「クソッ! 動かねぇ!」

 

「……お前等、本当に体育祭見てたのか?」

 

「勿論、見てたよッ!!」

 

余りにも呆気なく拘束出来た事を疑問に思った轟に対し、赤い忍者服の男がナットを轟に投擲すると、ナットは瞬時に空中で巨大化。その見た目に違わぬ重量と質量を以て、轟が新しく繰り出した氷の盾に激突する。

 

「(物を大きくする“個性”か)」

 

「まだまだぁ!!」

 

「(最大で出すか? しかし他にも仲間が……)」

 

一気に全員を無力化すれば楽なのだが、何処かに仲間が隠れているとなれば面倒である。また、仲間では無くとも漁夫の利を狙う者が居ないとも限らないので、轟としては可能な限り急激な体温の変化で動きが鈍るデメリットを持つ最大出力を使うのは避けたい。

 

どうしたものかと轟が思案する中、次から次へと氷の壁に突き刺さり亀裂を入れる巨大化した釘による投擲攻撃によって、遂に氷の壁が破壊された。

氷では埒があかないと判断した轟は炎を繰り出すが、巨大化したナットは超高温の炎をかき分け、轟に向かって勢いが衰える事無く真っ直ぐに突き進む。

 

「くッ!(全部融かせないとしても、全く影響が無いだと!?)」

 

「只の金属じゃないからねぇ。熱に強いタングステンを使ってる訳ッ!」

 

やむを得ず巨大化したナットをジャンプで回避した轟に、赤い忍者服の男は炎が効かないカラクリを説明しつつ、自身と仲間の動きを封じていた足元の氷を釘やナットの投擲によって破壊する。

 

「言ったっしょ、轟く~ん! 幾ら雄英生だからって単独で動くなんて……余裕、有り過ぎだっての」

 

「チッ……まだッ!!」

 

「やれッ!!」

 

「「応ッ!!」」

 

攻撃が無力化出来ないなら、直接使い手を狙えば良いと考えて轟が繰り出した炎を、飛び出した青色の忍者服を着た男と黒色の忍者服を着た男がそれぞれ手から水流を繰り出して相殺する。

 

「クッ!!」

 

「畳みかけろォ!!」

 

「「応よッ!!」」

 

ならばと轟が氷結攻撃に切り換えると、今度は2人の黄色い忍者服を着た男達の体が膨れあがり、その筋骨隆々とした体に違わぬ怪力でパイプを引き抜き、轟が生成した氷塊に投げつけて破壊する。

 

「(炎には水、氷には物理攻撃。コイツ等、しっかり対策を練ってやがる!)」

 

思ったよりも厄介な相手ではある。――しかし、コイツ等を倒す方法について、考えが無い訳では無い。対策をしっかりと練っていると言う事は、言い換えるなら動きを予想しやすいと言う事でもある。

 

「フッ!!」

 

「無駄だってッ!!」

 

轟が再び炎を繰り出すと、轟の思った通りに青色の忍者服を着た男と黒色の忍者服を着た男が水流をぶつけて相殺を狙う。しかし、先程と違い今度は炎を相殺する事には成功したものの大量の水蒸気が発生し、それに紛れて轟は姿を消した。

 

「チィ! 奴は何処に……」

 

「(試験会場にこんな工場を作ったのは、ヒーロー公安委員会の意図だろ。建物や地形の特性を活かして戦えって言う)」

 

「! 居た! 囲めぇ!」

 

白い靄の中に浮かぶ炎の揺らめきを赤い忍者服の男が発見すると、誠刃学園の全員がソレに向かって殺到する。禄に視界が効かない状況と、1対10と言う数的不利を考えれば、下手に攻撃すれば自分の居場所を教える事に繋がり不意を突かれる事になる。

視界を確保する為に炎を灯したのだろうが、それによって轟からは此方の居場所が分からず、此方からは轟の居場所がまる見え。加えて先述の理由から最も恐ろしい範囲制圧攻撃をおいそれと繰り出せないと考えれば、誠刃学園の面々に怖い物は無い。

 

「(なら或る筈だ。タンクの中にも本物が!)」

 

「!? 謀られた……ッ!!」

 

「フンッ!!」

 

「「「「「「「「「「グワーーーーーーーー-ーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

しかし、彼等は浅はかであった。轟が視界を確保する為に灯した思った炎の正体が、実は立ち入り禁止の看板に着火した囮であると視認出来る距離まで炎に近づいた時、虎視眈々と誠刃学園が集結するタイミングを見計らっていた轟は、予め氷で穴を開けておいた囮の近くのガスタンクに炎を送り込んだ。

ガスタンクの穴を塞いでいた氷は瞬く間に溶かされ、炎はガスタンクの中身に引火。巻き起こる爆発に対して轟は氷の壁でやり過ごしたものの、誠刃学園の面々は為す術無く爆風に吹き飛ばされた。

 

「あの野郎……! 無茶苦茶しやが……ハッ!?」

 

「やっぱ委員会も、流石に爆発の威力は抑えてたか」

 

「テ、テメェ……!!」

 

「悪いな。落ちる訳にはいかねぇんだ」

 

「うむ。やはり加勢する必要は無かったな」

 

吹き飛ばされてボロボロになった誠刃学園全員を問答無用で即座に氷結で固定し、身動きを封じる事で勝利を我が物とした轟。

そこで突如聞こえた第三者の声に反応して轟が警戒の視線を向けると、そこには轟と誠刃学園の面々を見下ろす無数の怪人達の姿があった。

 

「お前等……付いてきてたのか?」

 

「うむ。そして現在、チームボンバー・ファッキューを除けば、A組では我が王とトリップギア・ターボ、それにプリンスマンの3人が残っているのだが、それも合格に必要な数を確保し、貴様等が合格するのを待っている状態だ。無論、貴様が危なくなったら我々ゴルショッカーが乱入するつもりではあったぞ」

 

「大首領が通過したら俺達も撤退しないとイカンからなぁ……。しかし忍者戦隊カクレンジャーに忍風戦隊ハリケンジャーの連合部隊となると相当の苦戦を強いられると思ったが、まさか巨大ロボはおろか合体武器も持っていないとはなぁ……」

 

「キキキ……確かに! 攻防の全てが“個性”頼りで、メカクレキャラなのに写輪眼の使い手ではないし、尾獣化出来る人柱力も居ない! 挙げ句の果てには、分身の術も変わり身の術も使えないとくれば、コスチュームが忍者服である必要性が何一つとして無いな!」

 

「確かに忍者なのに『この星を守る為に受け継いできた秘密の力』も『忍者シノビの奥の手』も持って無いと言うのは拍子抜けだな。せめて忍術と空手を組み合わせた武術『忍空』を身に付けていて欲しかった」

 

「そもそも何で10人とも忍者服なんだ? リーダーの趣味か? それとも学校の指定か? 仮に後者だとしたらコスチュームに忍者服を指定している癖に、生徒に基本的な忍術の一つも教えない最悪のアカデミーと言う話になるのだがその辺どうなのだ?」

 

「戦闘スタイルもハッキリ言えば理解不能だ。忍者と言えば不意討ちや闇討ちを得意とするアサシンな連中なのに、正面から堂々と姿を現して攻撃する意味が分からん。『人も知らず、世も知らず、影となりて悪を討つ』と言う有名な口上を知らんのか?」

 

「そもそも忍者はヒーローと相性が悪い。忍者とは『無名である事を誉れ』とする存在。記録にも記憶にも残らない……そんな無名の忍者こそが真の忍者なのだ。知名度が命のヒーローとは正に真逆の存在よ。エッジショット? アレは火影的なモノだからノーカン」

 

「初手が『ボールを一個投げる』と言うのも話にならんな。『ボールに偽装した煙玉を投げる』だったなら煙幕で視界を塞ぎ、ソレに乗じて仕留めるサイレントキリング的な戦法が取れる。それなら忍者らしくて非常に良かったと思わんかね?」

 

「むしろ、Wが似たような戦法を用いて忍者軍団を一網打尽にしていると言うのが、実に皮肉が効いていて笑えるな。何が『謀られた』だ。無駄にカッコ良く言いおってからに。炎がその場から全く動かない事にほんの少しでも奇妙だと貴様は思わなかったのか?」

 

「武器の形状も問題だ。素材にタングステンを選んだのは良いとして、何故手裏剣やクナイではなく釘やナットなのだ? もしかして貴様の趣味か? だったら今すぐ忍者服を脱ぎ捨て、ワーク○ンで作業服かツナギを買う事をオススメする」

 

「そして何よりも問題なのはアイサツだ。例え相手が肉親の仇であろうとも、アイサツを欠かしてはならないと古事記にも書かれている。まあ、スゴイ・シツレイな貴様等はアイサツをする実力すら無いサンシタ・ニンジャだった訳だが」

 

「理解したか? 貴様等がWに勝てず此処で脱落するのは! 仮免が取れないのは! その理由の全てはッ! コスチュームと合致していない、貴様等のその中途半端な見せかけだけの忍者スタイルに凝縮されていると言う事をッ!!」

 

正直、誠刃学園の面々には怪人達が何を言っているのか、意味不明過ぎて理解出来ていない部分もある。しかし、怪人達の此方を小馬鹿にした態度と、割と真っ当なダメ出しは完全に理解出来ていた。そして、正論ほど相手の心を深く抉る言葉はこの世に存在しない。

 

「て、テメェ等ぁ……! コッチが黙ってれば良い気になりやがっ――」

 

「ンンンンンンンンッ!! まさにッ! 正論ッ!!」

 

「おいッ!!」

 

「確かに忍術の一つも使えないのに、コスチュームが忍者服である必要性とか無いよな……」

 

「考えてみれば俺達、見た目と中身が全く伴ってないんだよな……」

 

「落ち着けぇええええええ! 惑わされるなああああ! これは雄英が俺達の心を折る為の卑劣な精神攻撃だああああああああッ!!」

 

「そうだ。貴様等は犠牲になったのだ。ヒーロー社会に古くから続く犠牲……その犠牲にな。そもそもは誠刃学園が生まれた時からある大きな犠牲だ。貴様等はその犠牲になったのだ。そんな犠牲に貴様等はなった……犠牲の犠牲にな」

 

「犠牲……?」

 

「犠牲だ。貴様等は犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな」

 

「ヤメロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「キーーーーー!!」

 

「………」

 

内部崩壊を始めた誠刃学園に対し、支離滅裂な言動で更に追い打ちを掛けるフレンチクルーラーみたいな仮面を付けたフクロウ怪人と、謎の奇声を上げる怪人コンドルを見て、轟は「早めにコイツ等に止めを刺してこの場を離れた方がコイツ等にとって慈悲になるな」と思うのであった。

 

 

〇〇〇

 

 

その頃、士傑高校の肉倉と対峙していた爆豪と上鳴はどうしていたのかと言うと、意外と言っては何だがまだ戦闘に入っていなかった。

 

「我々士傑生は活動時、制帽の着用を義務付けられている。何故か? それは我々の一挙手一投足が、士傑高校と言う伝統ある名を冠しているからだ。これは示威である。就学時より責務と矜恃を涵養する我々と、粗野で徒者のまま英雄を志す諸君との水準差」

 

「……嫌いなタイプだ」

 

「何っつったあの人!? 頭に入ってこねー」

 

「目が細過ぎて、相手の実力見えませんだとよ」

 

「そうだッ! 若い頃からそんな狭い物の見方をしてはいかんッ!!」

 

「私の目は見目良く長大であるッ!!」

 

「オイィイイイイ! コンプレックスだったっぽいじゃん! 止めなよ、そう言うの! ……うん? 何か今もう一人いなかったか?」

 

「雄英高校……私は尊敬している。御校と互する事に誇りすら感じていたのだ。それを諸君等は、品位を貶めてばかり……!」

 

「! さっきのまた来るぞ!! キモイやつ!!」

 

「うるせぇ! 責務? 矜恃ぃ? ペラペラペラペラと……口じゃなくって、行動で示してくださいヨ、先パイ!!」

 

「特に貴様だよ!! 爆豪ッ!!」

 

肉倉の背後より現われた、宙に浮かぶ五つの巨大な指の形をした不気味な肉塊。肉倉の激情を乗せたソレ等が一斉に、切島の時とは比べものにならないスピードで爆豪へと突撃する。

 

「『徹甲弾(APショット)機関銃(オートカノン)』!!」

 

「ぬっ!?」

 

切島が肉塊に触れた事で変形・無力化された所を鑑みるに、触れる事無く対処する必要がある複数の肉塊……そんな難物に対して爆豪は、一点集中させた爆破を小出しに連射する事で全て撃ち落とし、攻略する事に成功した。

 

「対人用に威力は抑えたけどな……」

 

「つーか俺達、心配した通りに方々から狙われてんじゃねーか……」

 

「ちっ……!(私とした事が……乗せられた)」

 

「散ったキモイのが……戻ってく!?」

 

「………」

 

肉倉が宙に浮かせた肉塊を体に戻す様を見て、そのグロテスクな光景に内心引いている上鳴に対し、爆豪は無言で相手の“個性”を分析していた。

触れた相手の肉体を変形させる肉塊を、自分の体から切り離して操る事が出来る“個性”……タイプとしてはB組の取陰が持つ『トカゲの尻尾切り』が近いだろう。

 

注目すべきは最初に不意討ちを仕掛けた時、切島を捕らえただけで切り離した肉塊をすぐに戻し、今爆破で粉々にされた肉塊を体に戻している事。

これらの事から爆豪は「体から肉塊を切り離して操るには制限時間がある」と。「肉塊が小さければ小さいほど、体から離して操る時間は短くなるのではないか?」と、肉倉の“個性”の弱点にあたりを付けた。

 

「(安易な挑発に直情的な精神構造……ソレ等は一重にプライドの高さによるモノ……)ならば、私が手折り気付かせよう。帰属する場に相応しい挙止。それが品位であると!」

 

「何なんだこの人は!?」

 

「うるせぇ奴だ……」

 

故に、両腕を変形・切り離す事で更に手数を増やした肉倉を見て、爆豪はチャンスだと思った。

 

肉塊をより細かく分離すれば時間切れにより遠隔操作は出来なくなり、再使用するには一度体に戻してインターバルを取る必要があるとすれば、肉塊を全て撃ち落として粉々にすれば完全に無防備になる隙が生まれる筈だと。

 

「ぶっ殺す!!」

 

「だー! 待て試験だぞ!? 忘れんなよ! 

 

「だからぶっ殺すんだろうが!!」

 

「笑止!!」

 

だからこそ爆豪は猛然と前に出る。これは自身の機動力と反射神経に、そして攻撃力に絶対の自信がある爆豪だからこその判断だ。

一方で肉倉もまた爆豪を迎え撃つ気満々であり、先程よりも複雑な動きで、更にはフェイントを織り交ぜて肉塊を操作し、爆豪を仕留めに掛かる。

 

しかし、肉倉の如何なる攻撃にも爆豪は瞬時に対応し、変幻自在に迫り来る魔の肉塊を爆破で全て撃ち落としていた。

 

「もぉ……こんな戦闘、不毛過ぎんだろ。早いトコ切り上げっぞ!」

 

爆豪の判断と行動に愚痴りつつも、上鳴は右腕に装着したシューターにカートリッジを装填。肉倉に向けてシューターから円盤を二発発射するが、肉倉は円盤を難なく回避し、円盤は高架道路のフェンスに着弾した。

 

「! 飛び道具か」

 

「あ、くそ」

 

「目障りだ。先に丸めてやろうか」

 

「俺をぉ……無視すんなぁ!!」

 

「……してないが?」

 

肉倉が攻撃に回していた肉塊を全て迎撃し、爆豪が一点集中の強力な爆破の一撃を肉倉に叩き込む。しかし、肉倉が自身の周囲に展開した肉塊の耐久性は攻撃に使った肉塊よりも遙かに高く、爆豪は肉倉が変形させた肉の壁を抜くことが出来なかった。

 

――そして、攻撃の手数を勘違いした爆豪の背後より、音も無く致命的な一手を肉倉は決めてのけた。

 

「あアん?」

 

「私の肉の一つ。高架下から回り込ませていたのだ。さて……先程切島で見たであろう。その肉は触れたら終わりだ」

 

「爆豪!!」

 

「ッソ……! オイ、アホ、コレ……」

 

「あ!?」

 

「情けなし。出直して来るが良い」

 

切島と同様に体が変形していく中、爆豪から投げ渡されたモノを受け取った上鳴だがそれ以外は何も出来ず、唯々爆豪が不細工な肉塊になるのを見ている事しか出来ない。

A組でもトップクラスの戦闘能力を持つ爆豪をほぼ無傷で無力化する事に成功すると言う肉倉の戦果は、上鳴にとって正に信じ難い光景だった。

 

「ウッソぉ……」

 

「これは示威である。今試験は異例の少数採用。オールマイトが引退し、時代は節目。本来であればヒーローは増員して然るべきではないか?」

 

「?」

 

「即ち、これらが示唆するは有象無象の淘汰。ヒーローと言う職をより高次なモノにする選別が始まったと推察する。私はそれを賛助したく、こうして諸君等を排している」

 

「試験そっちのけでやる事ッスか……? おかしーよ、何かソレ……」

 

「徒者が世に憚る事の方がおかしい。何者にも屈さぬ強さと、高潔な品位を兼ね備えた者が今必要とされているのだ。呉島新は心を入れ替えた様だが、貴様等は違う。切島は品位こそある様だが、強さが足りない。ちなみに、この姿でも痛覚等は正常に働く。放電は皆も傷つけるぞ、上鳴電気」

 

爆豪を足蹴にする肉倉に言われて良く見てみれば、肉倉の“個性”で丸めた切島と爆豪は肉倉と上鳴の間に配置されている。肉倉の背後に回れば何とかなりそうだが、肉倉とて案山子では無いので、放電を警戒して必ず自分との間に転がっている2人を挟む形となる立ち回りをする事は、上鳴にも容易に予想する事が出来た。

 

「……さっきからアンタも大概中傷ヒデーからね? 効くから止めて欲しいんだよね……」

 

「それは己に自覚があるからだ。省してくれれば、幸い」

 

「俺の事じゃねぇよ!」

 

肉倉は慎重かつ堅実な試合運びをしていた。上鳴が放電を使えない状況を作り、上鳴がどんな行動を取ろうとも対処する事が出来る様に注意を払っていた。

しかし、これまでの戦闘から上鳴が左手で投げたモノが、先程見た飛び道具の円盤だと考えた為、肉倉はソレを全く警戒していなかった。

 

――だからこそ、自分の足元で突如爆発が起こった事に、肉倉は心底驚いた。

 

「(爆発!? 爆豪は丸めた筈! ……爆豪の装備!?)」

 

爆発と言えば爆豪が真っ先に思い浮かび、爆豪の復活が頭をよぎった肉倉は当然、爆発した原因に視線と注意を向ける。そうなれば当然、切り離した肉塊のコントロールは乱れ、その動きは身体能力で爆豪に劣る上鳴でも回避しやすい単調なモノとなる。

 

「爆破の成分入れて簡易手榴弾に出来るんだとよ。前に『オシャレか?』って聞いたら、キレながら教えてくれたぁ……」

 

「(あの時……渡していたか!!)」

 

「所で先輩……良い位置によろけましたね」

 

「む!? ぐぁああ!!?」

 

肉倉が上鳴の言葉の意味を理解する前に、無差別でコントロール出来ない筈の放電が、上鳴の人差し指と高架道路のフェンスにくっついた円盤を繋ぐ一筋の閃光が、肉倉の体を貫いた。

 

 

○○○

 

 

時は仮免試験が始まる前――雄英高校で仮免取得に向けた圧縮訓練が行われている真っ最中まで遡る。

 

「雄英潰し対策?」

 

「俺、他の皆よりも優先して他校から狙われるって話じゃん? だから何とかならないかなーって……」

 

「それは良いが、それを何で俺に聞く?」

 

「いや、呉島ってI・アイランドの時のヴィランの推理とか結構当たってたからさぁ……何かこう、俺を狙う奴の気持ちとか分かるんじゃないかなぁーって……」

 

「……仮に俺が上鳴みたいなタイプを相手にするなら、作戦としては三つある。『“個性”を使われる前に倒す』。『“個性”を無効化して倒す』。『“個性”を使わせずに倒す』だ」

 

「……つまり、どゆこと?」

 

「一つ目と二つ目は分かるだろう? 遠距離からの狙撃や死角からの不意打ちとか、相澤先生みたいに“個性”を消すとか、電撃が効かない“個性”や装備でゴリ押しするとかそんな感じだ。そして最後の三つ目は、お前の“個性”の弱点を突いた戦法や立ち回りをするって事だ」

 

「俺の“個性”の弱点を突いた戦法って言うと、具体的にはどんな?」

 

「お前の放電は無差別で指向性をコントロールする事が出来ない。体育祭の騎馬戦でお前が轟とチームを組んだ時、メンバーの中に八百万が居なければ味方も巻き込んでいた事は体育祭を見たら容易に推測する事が出来る。

つまり、チーム戦においてはおいそれと“個性”を使えない。だからまずは『放電に対処出来る奴』から仕留める。俺等A組で言うなら八百万は勿論、空を飛べる勝己や麗日なんかがそうだ。他にも仲間を倒して盾にするとか、そうやって“個性”を封殺する形に持っていくって事だ」

 

「あー……確かにチーム戦だと放電に対応出来ないヤツと一緒だとキチィな……」

 

「しかも仮免試験はチームプレイが前提になっているから、間違いなく他校はその弱点を突いてくる。だから“個性”を使っても仲間が巻き添えにならない方法……具体的には『自力で放電の指向性をコントロール出来る様になる』か、『電撃をコントロールする事が出来るサポートアイテムを用意する』必要がある。『近接戦闘を身に着ける』ってのも手ではあるが、正直言ってソレは嫌なんだろ?」

 

「まぁな。つーか今から覚えても、呉島や爆豪みたいにはなれねぇだろうしよ……」

 

「確かに遠距離タイプの上鳴が今から空手なり合気道なりをやって使い物になるかと言われると、無理だと言わざるを得ない。今回に関してはサポートアイテムを作って貰うのが一番手っ取り早いだろうな。モチベ的にも」

 

そんな経緯を以てサポート科の開発工房を訪れた上鳴は、電撃をコントロール出来るサポートアイテムを……具体的には放電の狙い撃ちが出来る様になるサポートアイテムを造って欲しいとパワーローダーに頼むと、数日後に完成したソレは上鳴の右腕に装着されていた。

 

「ご要望のポインターとそのシューター」

 

「私と先生の合作ベイビーです!! ポインターをシューターにセットして発射すると、着弾箇所にひっつきます! ポインターとの距離が10m以内なら、貴方の放電はポインターへ一直線上に収束します! 複数個ある場合はダイヤルでポインター選択。付属のグラスで位置は常に把握出来ます!」

 

「何か……頭使う感じ……?」

 

「サムズアップ!」

 

「でもこれなら……周りを巻き込まずに“個性”を使えるんすねー」

 

「但し、余りソレに頼り過ぎる事の無い様にね。『サポートアイテムを失ったら力を発揮出来ない』……今日日そんなヒーローも珍しくはないからね」

 

「相手の武器を破壊する事による無力化は、ヒーローとヴィランに共通する常套手段ですからね!」

 

「うッス……ちなみに呉島は電撃をどうしてるんすかね?」

 

「すみませんが私の口からお答えする事は出来ません! 夫の機密情報をペラペラと喋る訳にはいきませんので!」

 

「………」

 

何か参考になるかもと思って聞いた何気ない質問に対する呉島(自称)明の返答に、上鳴電気は閉口した。

 

 

○○○

 

 

かくして、肉倉が優勢のまま進めていた戦いの天秤は、上鳴が繰り出した正に青天の霹靂と言うべき一撃によって、上鳴本人も気付かぬまま上鳴の方へと一気に傾いていた。

 

「……先輩。爆豪はソヤで下水道みてーな奴だけど、割とマジメにヒーローやろうとしてますよ。咄嗟に手榴弾くれたのも、打開の為の冷静な判断ってヤツじゃないっスか? それに切島だって、自分じゃ中遠距離の攻撃が出来ないから、それが出来る俺等の為に体張ってくれたとは思わなかったんスか?」

 

「(しまった……! 一瞬……緩んだ!)」

 

「断片的な情報だけで知った気んなって……コイツ等をディスってんじゃねえよ!!」

 

「立場を自覚しろと言う話だ! 馬鹿者が!!!」

 

激昂する肉倉には最早冷静さは無く、その目には上鳴しか見えていない。そんな視野狭窄に陥った肉倉は隙だらけであり、そんな大きな隙を見逃すほど雄英生は……復活した切島と爆豪は甘く無い。

 

「……ッ!!」

 

「ダメージ次第で解除されちまうんか」

 

「どおりで遠距離攻撃ばっかな訳だ」

 

切島の『硬化』による鉄拳を鳩尾に、更に至近距離から爆豪の『爆破』による追撃を受け、肉倉は意識を失い戦闘不能に追い込まれる。しかし、彼等が肉倉の“個性”『精肉』の呪縛から解放されたと言う事は……。

 

「ありがとな、上鳴!」

 

「遅ぇんだよ、アホ面ぁ!!」

 

「ひっでぇな! やっぱディスられても仕方ねぇわ、お前!! つーか、後ろ!! 丸く捏ねられたのはお前等だけじゃ――」

 

「「「「「「「「「「グワーーーーーーーー-ーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

一難去ってまた一難。切島と爆豪の二人と同様に復活した多数の他校生を前にして上鳴が狼狽えたその時、彼等は何故か一斉に爆発した。

 

「へ……?」

 

「爆豪……お前、何かやったか?」

 

「んな訳ねぇだろ! オラ、出てこいや! 居るんだろ!?」

 

「良かろう」

 

爆豪の何かを確信した怒声に答える様に、爆豪達三人の前に二体の怪人が現われた。その正体はヒーロー事務所『暗黒組織ゴルショッカー』が誇る強力な怪人の一角。クモ怪人とカニ怪人である。

 

「クモ怪人とカニ怪人?」

 

「もしかして、ずっと俺等と一緒にいたのか?」

 

「ククククク……その通り。そしてキャツ等を仕留めたのは何を隠そう、このクモ怪人が誇る最強の能力! その名も『リア充破壊爆弾』の力よッ!!」

 

「『リア充破壊爆弾』!?」

 

「え!? 何ソレ?! ヘブン!?」

 

『現在76名通過しておりますーー。もうじき定員ですよーー』

 

「そんな事より急いで欲しいんだよねぇ。アンタ等以外のA組は大首領を入れた3人を除いて、み~んな通過してるんだ。大首領達はアンタ等が通過するのを待ってると言うか、アンタ等が通過してくれないと大首領が通過出来ない。だからアタシ等はそこに転がってるのを使って、アンタ等にとっとと通過して欲しいのよ」

 

「ふざけんな! テメー等が倒した雑魚なんざ誰が使うか!!」

 

「しかし、ソイツ等は既にそこのミートマンに倒されていたのだろう? 貴様等がミートマンを倒したなら、必然的にソイツ等は貴様等にも敵わない。つまりソイツ等が敗北する事は決まっているのだから、我々が此処で倒しても問題は無い。違うかな?」

 

「そうだねぇ。むしろワザワザ爆破で倒してやったんだから、アタシ等に感謝して欲しい所だよねぇ?」

 

「テメェ……!」

 

『現在79名! ガンガン進んで良い調子ですよーー』

 

「おい! もう時間ねぇよ! さっきだって14人も一気に通過してたし、俺等もそろそろ通過しねぇとマジぃよ!」

 

「此処は三人で勝ったって事で良いじゃねぇか! な!? なっ!?」

 

「~~~~~~ッ!!」

 

確かに上鳴や切島が言うように、残席数を考えればもう時間は無い。一気に10人以上の受験生が通過した前例があった事を考慮すれば、10秒後に100名の合格枠が埋まったとしても何も可笑しくは無いのだ。

妙に冷静と言うか、みみっちいと言うか、そう言うちゃんとした状況判断や計算が出来るタイプである勝己はプライドと仮免合格を天秤に掛け、悩みに悩んで苦虫の大群を租借したかの様な表情を浮かべながら、肉倉とクモ怪人によって爆破された他校生一人の的にボールを当てて一次試験を通過した。

 

『さて、立て続けに3名通過。現在82名……いや、更に3名通過で85名。残席はあと15名――!』

 

「レスポンス早ぇ!」

 

「ほんじゃ、アタシ等は一足先にお暇させて貰うよ。えー、マラソンランナーとかけて、曲がった松の木と解きます」

 

「お! その心は?」

 

「走らにゃならない(柱にゃならない)! ではッ!!」

 

中々上手い事を言ったカニ怪人が吐き出す泡にクモ怪人とカニ怪人の体が包まれ、泡が消えたと思えばクモ怪人とカニ怪人は姿を消しており、その場には一次試験を突破した爆豪達3人と、ボロボロになった他校生達が残された。

 

「「……って、俺達はッ!?」」

 

当然、歩きである。

 

 

●●●

 

 

『さて、立て続けに3名通過。現在82名……いや、更に3名通過で85名。残席はあと15名――!』

 

自分達以外のクラスメイト全員が通過したのを確認し、確保しておいた傑物学園をポイントにして一次試験を突破した俺と飯田と青山の3人は途中で轟と合流し、通過者が待機する控え室へと向かっていた。

 

正直、逃走した真堂先輩とミーハーな先輩がどうなったのか少々気になるが、彼等が控え室に姿を現せば自ずと結果は分かる。だから心置きなく我々は彼等のクラスメイトをポイントにさせて貰った次第である。

 

「ふむ。割と余裕を持って……と言うのもアレだが、まずは全員一次試験を通過する事が出来たな」

 

「結構な事じゃないか! この調子ならA組全員で仮免取得も夢じゃないぞ!」

 

「悪ぃな……お前等を待たせちまってよ……」

 

「気にするな。俺達が勝手に待っただけだ」

 

「オイ! ねぇアレ、飯田達じゃん!? やったぁ、スッゲ、オーイ!」

 

「上鳴君! 切島君と爆豪君もやったな! 凄いぞ! オーイッ!!」

 

そんな俺達に合流するのは、勝己と切島、それに上鳴の3人。俺等を発見した上鳴の発言に飯田は律儀に返し、更には上鳴と切島が繰り出す勝利の舞いを一緒になって踊り始めた。律儀に。

 

「………」

 

一方、我々と同じ踊っていない勢の勝己はと言えば、唯々無言で俺を凝視していた。何か言いたそうな顔をしてはいるのだが、だからと言って特に何か言うつもりも無さそうで、何と言うか複雑な心境なのだなと俺は察した。

 

「呉島達が来たぜ! 轟や爆豪達も一緒だ!」

 

「って事は!」

 

「A組全員! 一次通っちゃったぁああああああああ!!

 

そして控え室に入ってみれば、俺達の姿を見た芦戸や瀬呂を筆頭とした騒がせメンバーを中心に、既に仮免に合格したかの様なお祭り騒ぎとなっていた。

 

「皆さん、良くご無事で! 心配していましたわ」

 

「ヤオモモー! ゴブジよゴブジ! つーか、早くね皆!?」

 

「怪人達のサポートがあったからな。それで俺達は一足先に同じタイミングで一気に通過した」

 

「え……? それじゃ一気に14人通過したのって……」

 

「ウチらの事だよ」

 

「やっぱ緑谷達の方に行っときゃ良かったーーーーッ!!」

 

「そうでもないぞ。貴様が居なかったらボンバー・ファッキューも烈怒頼雄斗も一次試験の突破は厳しかっただろう。まあ、我々が参戦すればその限りではないが」

 

「おおう……そ、そうだよな? 俺、スンゲー活躍したよな? 俺が今回のエムッ! ブイッ! ピーッ! だよなッ!?」

 

「爆豪と切島を差し置いて、上鳴がM・V・P? チョット信じ難いんだけど……」

 

「はぁ? お前チョットそこなおれ!」

 

「シンちゃん、ターゲットを外すキーが奥にあるわ。ボールバッグと一緒に返却棚に戻せって」

 

「あい、わかった」

 

障子の説明やクモ怪人のフォロー、耳郎のツッコミで上鳴がアップダウンの激しいリアクションを見せているのを含め、何はともあれA組全員が試験を通過する事が出来たのだから、皆のテンションが高めになるのは理解出来る。だが、どうもソレを快く思わない者が居る事もまた事実である。

 

「………」

 

雄英高校1年A組……と言うか、轟にピンポイントで向けられる只ならぬ眼光……ッ! そんな物騒な視線を向けているのは、あの士傑高校の夜嵐イナサである。他にも士傑高校の面々が此方に視線を送っている所を見るに、何か一波乱有りそうな気配がする。

 

『100人!! 今埋まり! 終了! ですッ!! ハッハーーーッ!! これより残念ながら脱落してしまった皆さんの撤収に移ります』

 

そんでヒーロー公安委員会の目良さんは本当に感情を隠さねぇな。色んな意味で大丈夫なのかこの人。いや、こう言うキャラクターだからこそ、こう言った現場に駆り出されているのかも知れない。

 

「ええええ!? 肉倉先輩、落ちちゃったんスかぁあッ!?」

 

「声デカイわ。先走って行動するからだ、あの劇場型男! お前等もだ! 1年の夜嵐は兎も角……ケミィ! 駄目よ!」

 

「ハァイ」

 

確かに普通にコッチにまで会話が聞こえてくる位、夜嵐の声はデカイ。試験前に会った時の事を考えると素でそうなんだろうとは思うが、肉倉なる先輩の顛末は俺もクモ怪人達から聞いている為、その反応も無理はないと理解は出来る。

何せその肉倉なる先輩は、確実に一次試験を突破出来たにも拘わらず、私情を優先した結果一次試験を落ちたのである。勝己ですら切島と上鳴の説得があったとは言え私情よりも合格を優先したと言うのに……。

 

しかし、傑物学園の真堂先輩やミーハーな先輩の姿が控え室に見えない。俺達の知らない場所で誰かに狩られたか、或いは力尽きてアレ以上戦う事が出来なかったか……いずれにせよ、傑物学園は一人残らず脱落したと言う訳だ。主にゴルショッカーの所為で。

 

『えー、100人の皆さん。これ御覧下さい』

 

「フィールドだ」

 

「何だろうね?」

 

そうこうしている内に受験生の撤収作業が終了したのか、突然控え室のモニターにフィールドの様子が映し出されたのだが……次の瞬間には市街地、工業地帯、岩山等、先程まで俺達がいたフィールドの建物や地形が満遍なく爆破されていった。

 

「「「「「(何故ッ!?)」」」」」

 

『次の試験でラストになります! 皆さんにはこれからこの被災現場で、バイスタンダーとして救助演習を行って貰います』

 

「「パイスライダー……?」」

 

「バイスタンダー! 『現場に居合わせた人』の事だよ。授業で習ったでしょ?」

 

「『一般市民』を指す意味でも使われたりしますが……」

 

『ここでは一般市民としてでは無く、仮免を取得した者として――どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』

 

「む……? 人がいる……」

 

「え……あァア!? 老人に子供!?」

 

「危ねぇ! 何やってんだ!?」

 

『彼等はあらゆる訓練に於いて、今引っ張りだこの要救助者のプロ!! 「HELP(ヘルプ)US(アス)COMPANY(カンパニー)」。略して「HUC(フック)」の皆さんです!!』

 

「要救助者のプロ?」

 

「色んなお仕事あるのね……」

 

「ヒーロー人気のこの現代に則した仕事かもね」

 

『傷病者に扮した「HUC(フック)」がフィールド全域にスタンバイ中。皆さんにはこれから彼等の救助を行って貰います。

尚、今回は皆さんの救助活動をポイントで採点していき、演習終了時に基準値を超えていれば合格とします。10分後に始めますので、トイレなど済ましといて下さいねー……』

 

フム。一口に採点と言っているが、それが加点方式なのか減点方式なのかも分からんと来たか。雄英の一般入試における実技試験と同じだと仮定すれば、助けた人の数が多ければ多いほど得点を獲得出来る事になるが……。

 

「緑谷君、呉島君……」

 

「うん……神野区を模してるのかな……」

 

「あの時、呉島君と爆豪君の元へ向かった君と轟君と分かれた俺達は、センチピーダーとバブルガールの指示の元、要救助者の避難誘導と救助活動を行った。その中では……やはり死傷者も多くいた……」

 

「………」

 

あの時、オール・フォー・ワンとの決戦を乗り越えた俺は、リカバリーガールを筆頭とした多くの医師の指示に従い、一刻を争う命の最前線に立っていた。俺の『モーフィングパワー』を用いた治療は、確かに救いを求める人間の幾らかを救いはしたが……それでも救えなかった命が幾つもあった。

 

――全てを救うことは出来ない。

 

理屈の上では分かってはいる。だが、いざそれを目の当りにすれば、人を救った達成感を塗り潰す位に強烈な無力感で一杯になった。それはきっと俺だけのモノではなく、あの時神野区に居た医師、警察官、消防官、プロヒーロー……人の命を救う事を仕事に選んだ全ての人達が、同じ事を感じていたのではないだろうか。

 

「――頑張ろう」

 

「……ああ、そうだな」

 

それでも逃げ出さない、投げ出さない。次の一人を救う為に、次の一人を守る為に戦うと。理不尽を凌駕する理不尽になるのだと、既に心に決めたのだから。

 

「士傑コッチ来てんぞ」

 

「うん?」

 

神妙な心持ちで二次試験へのやる気を密かに滾らせる中、切島が言う様に士傑高校の面々がゾロゾロと此方にやってきた。どうやら二次試験の前に一波乱ありそうだな……。

 

「爆豪君よ」

 

「あ?」

 

「肉倉……糸目の男が君の所に来なかった?」

 

「(毛スゲェ)」

 

「ああ……ノした」

 

「やはり……! 色々無礼を働いたと思う。気を悪くしたろう。アレは自分の価値基準を押しつける節があってね。何かと有名な君を見て暴走してしまった。雄英とは良い関係を築き上げていきたい。すまなかったね」

 

……と思いきや、一波乱所かチンピラ染みた勝己の物腰と物言いに対し、極めて紳士的な態度と対応が返ってきた。

 

そして、この毛羽毛現(けうけげん)みたいな先輩の言動から察するに、肉倉先輩は士傑高校では結構な問題児として認識されているようで、もしかしたら雄英における勝己のポジションに居るのがあの肉倉先輩なのかも知れない。

 

「(良い関係……? あの顔は……)」

 

「それでは」

 

「おい、坊主のヤツ。俺なんかしたか?」

 

「……ほホゥ」

 

肉倉先輩についての謝罪を終えると、その場を立ち去ろうとする士傑高校の面々だったが、そこで轟は何か思う所があるのか、夜嵐を呼び止めた。そして轟に呼び止められた夜嵐はと言うと、並々ならぬ嫌悪をその眼に宿している。

 

「いやァ、申し訳ないッスけど……エンデヴァーの息子さん」

 

「!?」

 

「俺はアンタ等が嫌いだ。あの時より幾らか雰囲気変わったみたいスけど、アンタの眼はエンデヴァーと同じッス」

 

「? 夜嵐どうした?」

 

「何でも無いッス!」

 

「………」

 

どう見ても見知らぬ相手に向ける類いのモノでは無い。轟は夜嵐について面識は無いと言っているが、夜嵐は確実に轟を知っている。推薦入試でトップの成績を修めながら雄英の入学を辞退した事も含め、やはり夜嵐には何かあると確信させるやりとりだ。

 

そんな中、瞬間移動能力を獲得した事から採用されたゲンゴロウ怪人が、俺に近づいてこう言った。

 

「時に大首領。あの士傑高校のボディスーツを着たムチムチバディの娘! アレから眼を離してはなりませんぞ!」

 

「あん? 何でだ?」

 

「あの女の血は美味いッ!!」

 

「は……?」

 

そう言えばコイツは分身の子ゲンゴロウを操り、それを介する事で吸血した人間に変身する能力を持っていたが、これはもしや粛正案件か?

少々心苦しいが、どうやらヒーロー事務所『暗黒組織ゴルショッカー』初となる、鉄の掟に背いた怪人の処刑が実行される時が来たようだな。

 

「いやいやいやいや! 実はですな……」

 

何だ、命乞いか? 貴様の寿命がほんの少し長くなるだけだろうが、聞くだけは聞いてやろう。そう思い必死に首と手を横に振っているゲンゴロウ怪人より耳打ちされた情報は余りにも予想外で、且つ度肝を抜く内容だった。




キャラクタァ~紹介&解説

爆豪勝己&切島鋭児郎&上鳴電気&轟焦凍
 かっちゃん達は原作通りの展開でお肉先輩を撃破し、轟に関してはアニメオリジナルの展開を採用。無事に一次試験を突破したが、それぞれ怪人共の介入によって試験を通過した順番が大いに狂ったり、余計なストレスを抱え込む羽目になったりする。

誠刃学園
 アニメオリジナルの学生忍者軍団。アレはナンナンジャでシュシュッと参上したが、忍術的な戦闘技術なんて一切使わず、完全に血継限界と言うか“個性”頼りの戦いしかしなかったので、作者は心底ガッカリしたでござるよ。

肉倉精児
 士傑高校のお肉な先輩。引率の先生が言う様に影響されやすい性格故に、試験開始前のシンさんの行動と言動を受けて原作よりも少しマイルドになっている。まあ、だからと言って運命を覆せる訳でもないのだが。

クモ怪人
 前作に登場したクモ女が操る爆弾小グモの死骸から得られたデータを参考に作られた怪人。クモ女と同様に爆弾小グモを操る能力を持つ。『リア充破壊爆弾』とか言っているが、実際にはリア充だろうが非リアだろうが問答無用で爆破される。

カニ怪人
 見た目は『アマゾン』のカニ獣人だが、中身は『フォーゼ』のキャンサー・ゾディアーツと言った感じの怪人。ザンジオーとよく似たワープ系の能力を獲得しているエリート。放課後になると教室を借りて落語を披露しており、「ワタリ亭ガザミ」と名乗っている。

ゲンゴロウ怪人
 思わず本音を零してしまい、大首領に大切断されかかった怪人。元ネタになった『アマゾン』のゲンゴロウ獣人と同様の能力を持っている。そして、人間への変身能力の元になった“個性”が何かと言われれば……。



犠牲になったのだ
 折角の忍者ネタなんだから、この際『NARUTO』を筆頭に色々とブチ込んでしまおうと思い切ってブチ込んだ忍者ネタの数々。実は『轟VS誠刃学園』は当初『ニンジャスレイヤー』風に書いていたのだが、何か違うと判断して途中で止めた。

士傑のお肉先輩、雄英のかっちゃん的ポジ説
 キャラクターとしては全く正反対と言える二人だが、その言動や行動を問題視されていると言う共通点がある様に見え、お肉先輩も士傑高校では「成績は優秀なんだけど、性格と態度がなー」みたいな感じで周りに扱われているのではないかと作者は思う。
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