怪人バッタ男 THE NEXT   作:トライアルドーパント

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番外編でロボタックを出したら、ロボタックやカブタックを知っている読者さんが想像以上に多くて作者は割とマジでビックリしました。
そしてYouTubeの配信は「カブタックのカレー対決って第三話だったっけ!?」とか、「コブランダーってビデオテープ飲んで分析とか出来たっけ!?」とか、見る度に何かしらの驚きがあって面白いです。

今回のタイトルは『新 仮面ライダーSPIRITS』の「神速顕現」から。今話で仮免試験は終了しますが、『仮免試験編』となると「デク君VSかっちゃん」までがそうなのでしょうかね?

2021/9/27 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第10話 神速顕現

その姿は、俺が憧れたヒーローの姿に酷似していた。

 

『もう配置したHUC全員が救出されているッ!! ヤバイですって! 開始からまだ1分も経ってないんですけど! ヤバイですよコレは!』

 

「あ……?」

 

―じゃあ、コレも君の言う『憧れ』には支障ないかな。あのね、呉島君は……オールマイトからオールマイトの“個性”を受け継いでいるんだよ―

 

「そ、それじゃ、控え室を救護室にトリアージを……してあるーーーーーーッ!!」

 

「な、ならば救急車が通る為の道とヘリの離発着場を……作ってあるーーーーーーッ!!」

 

「………」

 

模倣なんかじゃねぇ。心底認めたくねぇが、最早オールマイトそのものだった。

 

―君にもオールマイトに見初められるチャンスはあった。“平和の象徴”の後継者に選ばれ、その力を手に出来る、たった一度の好機があった。だが、君は強さに拘る余り、それをフイにした―

 

「……もう大丈夫! 何故って? 私が来たッ!!」

 

『全ッ然、大丈夫じゃないです! 主に私の睡眠がぁあああああああああああ!!』

 

―残念だったねぇ、爆豪君。あの時、君が表彰台で宣言した『此処から1番になり、呉島君を超える』事はもはや叶わない。オールマイトが呉島君を選んだ時から、君の憧れは無駄になった―

 

「………」

 

神野の時のヴィランのボスヤローの言葉が、やけに鮮やかに頭の中で蘇った。

 

 

●●●

 

 

コレはあくまでも私見と言うヤツなのだが、プロヒーローがヴィラン退治で全力を出す機会と言うのは、思ったよりも少ないのではないかと俺は思っている。

 

勿論、ヴィラン退治は本気で取り組む必要があるし、実際に本気でやっているとは思うが、生まれ持った“個性”によっては「全力なんて出せない」と言う事もままある。具体的には13号先生の『ブラックホール』やエンデヴァーの『ヘルフレイム』等、殺傷能力の高い“個性”を持ったヒーローがそれに該当すると言えるだろう。

尤も、「こうしたヒーローは対ヴィラン戦において全力を出す機会がないのか?」と言えばそうでもない。保須市に出現したステインや脳無。神野区におけるオール・フォー・ワンと言った具合に、彼等が全力を出すことが許される特別なヴィラン……所謂『スーパーヴィラン』とでも言うべき規格外な者達が、この世には確実に存在するからだ。

 

では、そのスーパーヴィランであるオール・フォー・ワンが、自身の新しい器として作りだした改造人間『ガイボーグ:SEVEN』から更に進化した肉体を持つ俺の場合はどうなるだろうか?

 

単純な身体能力だけでも通常のヴィラン退治においては最早「苦戦する事に苦戦する」と言わざるを得ず、本気は兎も角として全力など出せる筈もない。

現状、俺が全力を出す事が許されるだろう仮想敵は、オール・フォー・ワンの後継者である死柄木弔が率いる『敵連合』か、総勢約11万人の構成員を誇る『異能解放軍』位であり、仮免試験に参加している学生が相手となれば全力など論外である。

 

しかし、コレが救助・救命活動となれば話は変わる。そもそも人命が掛かっている状況下で手加減するとか、全力を出さない等と言う考えは、ヒーローは元より『人を救う仕事』を選んだ人間には絶対に許されない言語道断の悪徳だ。

 

……とは言うものの、救助・救命活動と言うのはそうした訓練をこなした場数は勿論、実際の現場を経験した事による経験値の多さがモノを言う。流石に自主練習では限界がある為、此処は救助・救命活動を指導してくれる先生が欲しい所である。

 

そこで、エンデヴァーのアドバイスを元に必殺技を編み出すトレーニングに熱中する出久達を一物抱えた表情で物陰からじっとりと凝視し、あからさまにいじけている様子のオールマイトを見つけた俺は、オールマイトにある素晴らしい提案をした。

 

「俺に救助・救命活動を教えてくれませんか?」

 

「呉島少年ッッ!!!」

 

かくして、俺の提案に飛びついたオールマイトの協力により、クラスの皆が必殺技を習得する為の圧縮訓練に精を出す中、俺はオールマイトとマンツーマンで救助訓練に精を出していた。ちなみに必殺技に関しては「これ以上はありとあらゆる意味で必要無い」と他の先生方から太鼓判(?)を貰っている。

 

「さあ、もう大丈夫! 私が暗闇を行くッ!!」

 

「おお! 全身から溢れる圧倒的な聖なるオーラッ!! 木の方が君を避けているぞ、呉島少年!!」

 

所で、オールマイトは密かに「教えるのが下手」だとか、「教師としてはへっぽこ」だとか言われているのだが、その最たる理由として「オールマイトが見せるお手本は、オールマイトにしか出来ない」と言う点が挙げられる。

 

人間は自分に出来る事しか他人に教える事は出来ない。そしてオールマイトに出来る事は大抵の人には真似する事が出来ないので、常人にはオールマイトの見せるお手本は全く参考にならないのである。

 

しかし、それは言い換えるならオールマイトを真似する事が出来るだけの能力を持つ者にとって、オールマイトはヒーローとして最高のお手本になると言う事。何と言ってもこの国で長年に渡り№1の座に輝いたヒーローの所作なのだから。

 

「全員大丈夫そうだったので、全員助けました!」

 

「よーし! 大分様になってきたな! 呉島少年!」

 

「………」

 

途中で様子を見に来た相澤先生が何かスゲェヤベェ目で俺とオールマイトをガン見していたが、何はともあれ俺はオールマイトから救助活動をみっちり教わり、試験前日には「私が日本でデビューした時と大体同じ位の力量だな! HAHA!」と言う評価を貰い、仮免試験に臨んだ次第である。

 

それにしても、『ガイボーグ:SEVEN』の能力と『強化服・三式』の性能を用いてオールマイトの日本デビュー時と同等の力量と考えると、俺の経験値や技術がオールマイトよりも圧倒的に足りない事を考慮しても、単純な身体能力の増強だけで「大災害から一人で1000人以上を救い出す」と言う偉業を成し遂げたオールマイトはやはり規格外と言わざるを得ない。

 

『ヴィランによる大規模テロが発生! 規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数!』

 

「演習のシナリオね」

 

「え!? じゃあ……」

 

「始まりね」

 

『道路の損壊が激しく、救急先着隊の到着に著しい遅れ!』

 

「また開くシステム!?」

 

「………」

 

警報のベルと目良さんのアナウンス。それに目まぐるしく展開していく演習試験の流れにクラスメイトが戸惑う中、俺は左腰に装備されたサポートアイテムを取り出し、救助活動の準備を進めていた。

 

――小型遠隔索敵装置『ホッパー』。

 

これは『強化服・一式』に搭載される予定だった「人工衛星と通信し、あらゆる情報を収集する機能」を限定的かつ小規模ながらも可能とするサポートアイテムで、『強化服・三式』に搭載された新装備の一つだ。

 

普段は左腰のホルスターにシリンダー型の発射装置と共に収められており、発射すると上空500mの位置で停滞し、そこから10㎞四方の映像・電波・音波・赤外線を探知して仮面の多目的モニターにそれらの情報を送信する機能を持っている。

要は「携帯できる通信衛星」とでも言うべきサポートアイテムで、画像は5㎞以内のものであれば新聞紙を読むことが出来る程の解像度を誇り、自動二輪兵器『サイクロン』が俺の「もう一つの体」なら、この小型遠隔索敵装置『ホッパー』は俺の「もう一つの目」と言っても過言では無い。

 

『到着するまでの救助活動は、その場に居るヒーロー達が指揮を執り行う。一人でも多くの命を救い出す事!!! それでは……START!』

 

「ヌン!」

 

目良さんの合図により、一次試験を突破した猛者達が我先にと駆け出す中、俺はその場から一歩も動く事無く、右手に持った『ホッパー』を頭上に向かって打ち上げた。

そしてオーラエネルギーによる生命感知と、『ホッパー』から送られてくる情報を併せる事で、救助対象となるHUCの皆さんの現在位置を特定すると同時に、救助の優先順位を決定。テレパシーで怪人共にそれぞれ役割を指示し、俺自身も超高速機動の準備を始める。

 

赤いヘルメットの複眼が緑色に輝き、ベルトのダブルタイフーンが起動する。『強化服・三式』に電力が供給され、倍力機能が作動を始めると同時に、体内に生み出される熱を冷却し、活動に必要な大量の酸素を得る為に、二つの風車がその回転数を上げていく。

それに連動する様に、強化服の下で俺はオール・フォー・ワンが『シャドームーン』と呼んだ姿から、更に一歩先を進んだあの姿に。悪意によって改造され、自分の意志で選んだ進化の帰結に……俺が『RXフォーム』と呼称する白銀のバッタ男へと変身した。

 

『もう大丈夫! 何故って?』

 

強化されたテレパシー能力を用い、フィールド内の要救助者全員に声を掛けつつ、ミュータントバッタの大群に変化したイナゴ怪人1号を操り、ソレ等を瓦礫に埋もれた要救助者の元へと向かわせる。

 

要救助者からすれば大量のミュータントバッタに全身を包まれるのは恐怖でしかないだろうが、今にも消えようとしている(と言う設定であろう)尊い人命には代えられない。

一応、ザンジオーやカニ怪人と言った、瞬間移動能力が使える怪人も向かわせてはいるが、どうしても手が足りないので仕方が無い。

 

『我々が……来たッ!!』

 

そして、静止した時間の中を、俺はただ只管に駆け抜けていく。ショッカーライダー達がモーフィングパワーでベッド等を作っている間に、俺は能力を駆使する事で文字通り瞬く間に要救助者をスタート地点に集めきると、それぞれの負傷の程度を外見から改めて判定する。本当に負傷していればもっと楽に判定出来るのだが、だからと言って「設定通りの重体になってくれ」とは口が裂けても言えない。

 

「こっ、これは……!?」

 

「!? !? !?」

 

「うぁあああああああああ!? ……あ、あれ?」

 

「ムガムー、ガムガム」

 

「え? あ、ありがとう……?」

 

「ムガムガ」

 

案の定、『ローカスト・エスケープ』により転送され、少々取り乱している様子の要救助者も居たが、「気付いたら自分達が助かっている」と言う状況の方に混乱している様子。

そんな彼等も清潔な布や水を配布する、見た目が完全にゆるキャラなダイナマイトタイガーを前にすると、毒気を抜かれたかの様に精神状態は落ち着いていった。

 

『ん? これは……うぉおおぁああああああああッ!? もう配置したHUC全員が救出されているッ!! ヤバイですって! 開始からまだ1分も経ってないんですけど! ヤバイですよコレは!』

 

「え……?」

 

「全員、救出……?」

 

「そ、それじゃ、控え室を救護室にトリアージを……してあるーーーーーーッ!!」

 

「な、ならば救急車が通る為の道とヘリの離発着場を……作ってあるーーーーーーッ!!」

 

一方で俺と同じ受験生達はどうだったかと言うと、自分達が「さあ、救助するぞ」と現場に向かっていた正にその時、どう言う訳は既に救助は終わっていたと言う謎の現象を前に、誰もが狐に包まれたかの様な唖然とした表情を見せていた。

中には「それならそれで他にもやる事はある」と、すぐさま気持ちを切り換える者も居たが、トリアージの他にヘリの離発着場と救急車が通る為の道路が、量産型アリ怪人の物量作戦と力自慢の怪人達の突貫工事によりそれらは既に完成している。

 

更に、彼等は知る由も無い事だが、ある作戦が水面下で進行していた。

 

「きえ~~~~~ッ!!」

 

「ぬぉおおおおおお!?」

 

「クックック……『要救助者を助ける』、『ヴィランを確保する』。両方やらなきゃならないのが『ヒーロー』の辛い所だよなぁ……」

 

この救助演習の設定が「地震などの自然災害」ではなく「ヴィランによる大規模テロ」であるのなら、「ヴィラン役がフィールドの何処かに潜んでいる可能性がある」と推理した俺は、壁の裏側で蠢く謎のオーラエネルギーの元へと別働隊を差し向けていた。

具体的にはコウモリ怪人やヘビ怪人、グリーンマンティスと言った具合に、暗闇と言う状況下でこそ真価を発揮する事が出来る能力や、狭い屋内での戦闘を得意とする怪人達をだ。

 

「キキ……俺達の勝ちの様だな、ギャングオルカ! お前は間も無く俺の超音波指令の命ずるままに動かざるを得なくなる! 俺の可愛いウィルス共が、お前の体の中で繁殖を始めているのだ!!」

 

「うむぅ……!」

 

「キキキ……よせよせ、無駄な抵抗は止めるんだ。俺の牙からはウィルスが、爪からは痺れ毒が入っている!」

 

そして壁の裏側に潜む多数のオーラエネルギーの正体は、№10ヒーローのギャングオルカとそのサイドキック達であり、俺が推理した通りに今回の救助演習におけるヴィラン役を担当していたのだと言う。

本来は適当に要救助者が集まった所で、その近くにヴィラン役として乱入する手筈だったらしいが、流石に開始から間も無くして要救助者が全員救助された上に、試験会場に乱入する前に自分達の居場所を補足されて攻めてくるのは完全に想定外だったとの事。

 

「キキキ……恐ろしいか? 悔しいか? 欲しいだろうなぁ、『血清』が……バット=ウィルスの解毒剤が……」

 

「き、貴様……! それを持っているのか!?」

 

「キキ……! ああ、持っているともさ。良いだろう。人形世界への土産に教えてやる……とか言って、俺が能力の弱点を暴露するマヌケだと思うかーーーーッ!!」

 

「グワーーーーーーーーッ!?」

 

自身の無敵の能力の弱点を暴露すると言う怪人とヒーローのお約束を無視し、ギャングオルカに前蹴りを食らわせて完全勝利を手にするコウモリ怪人。情け容赦ない様に見えるが、敵に対して自分が不利にしかならない情報を教える様な怪人はゴルショッカーに存在しないのだ。

 

「……もう大丈夫! 何故って? 私が来たッ!!」

 

『全ッ然、大丈夫じゃないです! 主に私の睡眠がぁあああああああああああ!!』

 

そして恥も外聞もなく発狂する目良さんに止めを刺すのは、試験会場に鳴り響く試験の終了を告げるアラームだ。

何でもフィールドにスタンバイしたHUC全員が危険区域から救出された時点で二次試験は終了となるらしく、その後に控える手分けしての救助者への応急処置や、救急隊への引き継ぎなどは行われないのだと言う。

 

『えー……すみません。少々取り乱してしまいました……。えーっと……皆さん、一度控え室に戻って待機して下さい。それと、呉島新君は係員の指示に従い、フィールドから退場して下さい……』

 

「あっちゃん……」

 

「シン君……」

 

「呉島……」

 

「ケロ……」

 

「呉島さん……」

 

「呉島君……」

 

何か出久を筆頭にA組の面々が不安な顔で俺を見ているが、俺は別に悪い事をした訳では無いので堂々と胸を張って係員の指示に従うのみである。

ちなみにその他の受験生は信じられない様なモノを見るような目で俺を見ている者が大半で、何故か士傑高校の夜嵐はキラキラと輝く様な眼差しで俺を見つめている。

 

その後、別室で目良さんから幾つか質問をされたが、特に不正を働いた訳でもない俺はその全てに嘘偽りなく答えた。

尚、勝手に同行していたイナゴ怪人1号が「現在のヒーロー活動はヒクほど迅速になっていると言ったのは、他ならぬ貴様ではないか」と言ったら「自分で自分の首を絞めるエライ事を言ってしまった」と言わんばかりの渋い顔をしていた。

 

また、ヴィラン役のギャングオルカとそのサイドキック達を戦闘不能にした事については、バット=ウィルスの血清を投与されて復活したギャングオルカが「悪事を働いたヴィランが更に悪事を働く前に仕留めるのは、ヒーローとして何も間違っていない」と弁護してくれた事もあって問題視はされなかった。

 

問題はHUCとヒーロー公安委員会による『採点』である。目良さんによるとこの二次試験では受験生それぞれに持ち点が与えられ、HUCとヒーロー公安委員会による二重の減点方式が採用されている。

そして、試験終了時に自分の持ち点が合格ラインを上回っていれば仮免試験は合格となり、HUCの皆さんは受験生の救助行動の正否を判定する審査員の役割を担っていたのだが……。

 

「あ……ありのままに、ワシの身に起こったことを話す! 『ワシの頭の中に声が聞こえたと思ったら、ベビーベッドで可愛いトラの怪人に優しく寝かしつけられていた』! 何を言っているのか分からないと思うが、ワシも何をされたのか分からなかった!

頭がどうにかなりそうじゃった……催眠術みたいなトリックや搦め手だとか、超スピードみたいな単純に動きが速いだとか、そんなチャチなモンじゃ断じてない! もっと恐ろしい、暗黒組織『ゴルショッカー』の……大首領の片鱗を味わった気がするぞい……」

 

これは赤ちゃんの要救助者に扮したHUCの台詞であるが、イナゴ怪人1号の『ローカスト・エスケープ』を筆頭とした瞬間移動能力によって控え室に転送されたHUCの皆さんの感想も大体似たようなものである。

駆けつけたヒーロー候補生に向かって「助けてくれ」と言おうと思う間も無く、突如脳内にオールマイトの代名詞たる決め台詞が聞こえ、蝗の群れなりカニの泡なりに包まれたと思えば、何時の間にか救護所のベッドに横たわっていたのだ。何が何だか分からない。

 

しかし、救助した此方からしてみれば、最後の方は中々どうして酷い言い草である。まあ、何が起こったのか分からず窮地に陥ってしまった被災者からすれば、「何をされたのか分からない内に助かる」と言うのは恐怖以外の何物でも無いのかも知れない。迅速に助ければそれで良い訳では無いと考えを改める機会をくれたHUCの皆さんの意見は実に貴重だ。

 

「な、何ぃ~~~~~~~ッ!! ど、どうして大量のHUCが控え室にッ!! そして控え室が何時の間にか救護所にッ!! お、俺は一瞬たりとも目を離さなかったッ!! だ、誰か今、呉島新がHUCを運んだ所を……いや、HUCを救出した所や、救護所が出来る所を見た者が居るかッ!?」

 

「い、いや……俺も控え室に居た担当の受験生を見ていたが、気がついた時には控え室が救護所になっていた!!」

 

そしてヒーロー公安委員会の方はどうかと言えば、此方は「自分の“個性”に適したポジショニングをしているかどうか」と言った俯瞰的な動き等を、採点マニュアルと受験生のデータを元にして公安委員100名が受験生を各自一名ずつ採点しているのだが、俺の場合は怪人軍団を率いている事もあり、どう考えても他の受験生よりも圧倒的にデータが多い。俺の担当をした人はハッキリ言ってババを掴まされた気分だっただろう。

 

尤も、俺の担当だった公安委員の台詞から察するに、仮に大人数で俺や怪人達を採点したとしても、結果は特に変わらなかっただろう。

彼等の目に映るのは『結果』だけだ。『過程』は消し飛び、救助を終えたと言う『結果』だけが残る。彼等が認識する事が出来るのは、その残った『結果』だけなのだ。

 

まあ、だからと言って俺は救助活動の際、別に時間を止めたり消し飛ばしたりしている訳では無いので、会場に設置されているカメラにはしっかりと映像記録として救助の様子がバッチリと残っている筈だし、『強化服・三式』のヘルメットに記録されているデータを参照すれば、第三者が俺の救助活動の正否を判定する事は可能である。

 

ただ、ヒーロー公安委員会としてはコレで仮免試験を終わりにするつもりはないようで、今度は俺を除いた受験生99人で救助演習を行う事となり、俺は相澤先生の隣で二回目の救助演習を見学する事と相成った。

俺の仮免試験の合否については、この二度目の救助演習の後で他の受験生と同時に発表する為、俺にはそれまで待機していて欲しいとのお達しだ。

 

「……俺としては、お前は合理的な判断をしたと思う。人命が掛かっている現場で手を抜かず、全力を出すのは何も間違った事じゃない。ただ、誰もお前の真似をする事も、お前に着いて行く事も出来ないってだけの話だ」

 

そしてどう言う風の吹き回しか、相澤先生が珍しく俺の所行を褒めてくれている、もしかしたら俺を慰めているのかも知れないが、俺は別に凹んではいない。それに、俺一人だけがフィールドから離れているこの状況は、ある意味では非常に都合が良いと言える。

 

「……相澤先生。実は一つ耳に入れて欲しい情報があります」

 

「何だ?」

 

俺がゲンゴロウ怪人から受けた報告を相澤先生に耳打ちすると、途端に相澤先生の目つきがプロヒーローのソレに変わった。

 

「……士傑高校の生徒達がソレに気付いている様子は?」

 

「ありません。奇妙な事なんですが、不思議と馴染んでいる様に見えました」

 

「馴染んでいる……か。いずれにせよ、士傑高校と話し合う必要があるな。ついて来い」

 

そして今後の為、俺と相澤先生はケミィと呼ばれていた女子生徒の話を聞くべく、士傑高校の受験生を引率して来たであろう士傑高校の先生の元へと向かったのだった。

 

 

○○○

 

 

『えー……皆さん、お待たせしました……。これよりもう一度、救助演習を行います……。状況設定は先程と同じく、ヴィランによる大規模テロが発生ぇ……。規模は○○市全域、建物倒壊により傷病者多数ぅ……。道路の損壊が激しく、救急先着隊の到着に著しい遅れぇえ……』

 

「「「「「「「「「「(さっきよりも露骨に元気がないッ!!)」」」」」」」」」」

 

『到着するまでの救助活動は、その場に居るヒーロー達が指揮を執り行うぅ……。一人でも多くの命を救い出す事ぉ……。それでは改めましてぇ……STARTぉ……』

 

明らかに意気消沈した目良のアナウンスにより再開された、受験生99名による救助演習。余りにもアレな目良の態度に受験生一同思う所はあるものの、救助演習が再開されたこと事態は正直ありがたい為、誰もが皆「今度こそは」とやる気に満ち溢れている。

 

「(力も魅力も、全てに於いて一強だったオールマイト……。彼程のカリスマ性を持つ人間はそうそう現われる様なモノじゃない。だからこそ次の“彼”を待つより、『群のヒーロー』でその穴を補っていく。

今回の仮免試験から免許交付に於ける判断基準要項を『救助に於ける個々の基礎知識はあるものと前提した上で、その先の協力・協調姿勢に注力した内容』へ改訂したのは、その足がかりの様なモノ……だったんですがねぇ……)」

 

流石に呉島新の様な規格外は他に存在しなかった為、予想通りの展開と言うか常識的な速さで受験生の救助活動は進んでいる。

ただ、こうして見比べると、やはり呉島新とその他の受験生では隔絶した大きな開きがあると思うのだ。それこそオールマイトとその他のヒーローがそうであった様に……。

 

「(まさか本当にコッチがヒク程のスピードで動くなんて思う訳無いじゃないですか……戦闘演習ではそんな事しなかったから尚更に……)」

 

戦闘能力が高い“個性”を持つ受験生は、救助・救出活動よりも対ヴィラン戦闘を強く意識する傾向にある場合が多いのだが、呉島新は逆に戦闘演習において相手を気遣ってか手を抜き、救助演習では迷う事なく全力を振るっていた。

遠くない未来世界において、オール・フォー・ワンが『個性特異点』との戦争を想定して造った改造人間だと上司から聞いていた為、此方としては戦闘演習に細心の注意を払っていたのだが、救助演習で全力を出したのはハッキリ言って意外だった。

 

「(でもまあ、おかげで人格的にはヒーローとして全く問題無いと上に報告出来るので良しとしましょう。私の睡眠時間と引き替えに……)」

 

『調子は?』

 

「初動は……まァ、至らない者も多いですが……。それでもHUCの皆さんが下す減点判断は、想定していたよりも少ないです。概ね良いんじゃないですかね」

 

そして当初の予定通り、救護所に要救助者が程よく集まってきた所で救護所の近くの壁を破壊し、其処からギャングオルカとそのサイドキック達がヴィラン役としてフィールド内に突入する。

 

「救護と対敵……全てを並行処理出来るかな?」

 

『ヴィランが姿を現し、追撃を開始! 現場のヒーロー候補生はヴィランを制圧しつつ、救助を続行して下さい(大規模テロに遭った人々の救助。そして、そのテロを企てたヴィランへの対応……大変ですが、皆さん頑張って正しい選択を行って下さい……)』

 

想定外の事もあったが、多古場の仮免試験もいよいよ大詰めである。

 

 

●●●

 

 

相澤先生と共に士傑高校の先生が座る観客席に向かい、ケミィなる女子生徒の話が終わった後、ついでと言う事で一緒に二回目の救助演習の様子を見学しているのだが……。

 

「初動こそ訓練量や判断力が顕著に表れる。イナサ……通常2年で受ける試験を1年にして嘆願し、そして受理される程、その実力確かである。ただ、前傾姿勢が過ぎる。経験と自覚の不測である……」

 

「………」

 

「……一人だけ早々に落ちたの、分かってます? 肉倉君……」

 

「分かっております」

 

「ああそう……」

 

士傑高校の先生の言いたい事は分かる。俺の隣に座る肉倉なる先輩の態度にせよ物言いにせよ、ソレは間違いなくデキる奴のソレだ。傍から見れば仮免の一次試験に落ちた人間だとは到底思えない雰囲気や風格と言うヤツが滲み出ている。

 

「これを機にちゃんと顧みて下さいよ? 影響され過ぎです」

 

「影響?」

 

「ステイン以降、分かりやすく出ています」

 

「ヴィランの言葉に私が……!? 笑止!」

 

「笑止て! いやね、必ずしも悪い事ではありません。奴の原理主義主張とオールマイトの引退を受け、ヒーローの姿勢を正そうと考える人は増えているそうです。ただね……君が今回そうなったように、“否定”や“嫌い”を原動力にすると、時に目が曇り、行き過ぎてしまうんですよ」

 

「………」

 

素晴らしい。流石は士傑高校で教鞭を執っている先生だ。「正しくあろう」とする事で盲目的になる危うさを教え子に説くその姿勢は正に教師の鑑である。

 

その後、引率の先生の言葉が効いたのか、それから肉倉なる先輩は特に喋る事もなく(何となく毛羽毛現(けうけげん)みたいな先輩の「士傑の名折れ」と言う台詞に反応していた様な気はするが)、出久がギャングオルカに蹴りを一発叩き込んだ所で演習試験終了のアラームと目良さんのアナウンスが流れた。

 

『えー、只今をもちまして、配置された全てのHUCが危険区域より救助されました。誠に勝手では御座いますが、これにて仮免試験全行程終了となります!!!

集計の後、この場で合否の発表を行います。怪我をされた方は医務室へ……他の方は着替えてしばし待機でお願いします』

 

そして俺は肉倉なる先輩と先生方に別れを告げてクラスの皆と合流し、制服に着替えて合格発表まで皆と一緒に待機していた。勿論、人間ではなく怪人バッタ男としての姿で。

 

「え!? シン君、あの時にギャングオルカ達も対処してたの!?」

 

「ああ。状況設定が自然災害じゃなくてテロだったからな。ヴィラン役がフィールドの何処かに潜伏しているかも知れないと予測していた」

 

「あの放送があった時点でか……」

 

演習試験が終わったので、心置きなく俺が一度目の演習試験で何をしていたのか説明すると、やはりと言うか何と言うか皆から驚かれた。それもこれもサー・ナイトアイの指導のお陰であると思うと頭が下がる思いだ。

 

「ケッ!! それ位、俺だってとっくに気付いとったわ!!」

 

「ああ、爆豪それでずっと何か探してる風だったのか……」

 

試験中の勝己の行動に切島が得心した様子を見せるが、演習試験において勝己はヴィラン役のギャングオルカやそのサイドキック達と一切交戦していない。

その上、救助活動は勝己に着いて行った切島と上鳴の二人が主に行っていた為、この試験で勝己はハッキリ言って殆ど何もしていない。それでも採点が減点方式である為、下手をすると受かる可能性があると言うのが恐ろしい。

 

「アタシ等はどうかなぁ……」

 

「やれることはやったケド……どう見てたのか分かんないし……」

 

「こう言う時間、いっちばんヤダ」

 

「ワカル」

 

「人事を尽くしたならきっと大丈夫ですわ」

 

「……あっちゃんはどう思う?」

 

「……全員合格は正直厳しいと思う」

 

クラスの誰もが試験の結果に不安な様子を見せていたが、出久の不安は自分よりも轟に対する比重が大きいようで、観客席で救助演習を見ていた俺に意見を求めたのも轟に対する不安を払拭したいが為だろう。

 

「………」

 

しかし、ハッキリと言わせて貰うなら、轟の仮免試験合格はかなり厳しい。今回の演習試験に於いて、ヴィラン役のギャングオルカとそのサイドキック達と言う大人数を相手にするなら、広範囲制圧攻撃が繰り出せる轟は「救護所から要救助者を移動させる為の殿」として最適解と言える配役だった。

 

問題は同じ様に広範囲に渡る制圧能力が高い“個性”を持つ夜嵐と鉢合わせた結果、ギャングオルカ達の目の前で喧嘩をおっ始めてしまった事。

 

予想通りと言うか何と言うか、やはり夜嵐と轟には雄英の推薦入試の時に因縁があったようで、お陰で轟は完全に調子を崩し、ギャングオルカの超音波攻撃によって戦闘不能に追い込まれた。

また、夜嵐も同様に超音波攻撃で戦闘不能にされた事で戦線が崩壊。出久の一喝で冷静さを取り戻した二人はそれぞれの“個性”を組み合わせた「炎の竜巻」でギャングオルカを足止めする事には成功していたが、救助者へと向かうサイドキック達に関しては出久がかなり頑張って戦線を作っていた。

 

初めから轟と夜嵐が共闘する事が出来ていれば問題は無かったのだが、私的理由から要救助者を危険に晒したマイナスを考えると、理由が理由だけに轟が仮免試験に合格出来るかと言われれば……。

 

『皆さん、長い事お疲れ様でした。これより発表を行いますが……その前に一言。採点方法についてです。我々ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんによる、二重の減点方式で貴方方を見させて貰いました。

つまり……「危機的状況でどれだけ間違いの無い行動を取れたか」を審査しています。取り敢えず、合格者の方は50音順で名前が載っています。今の言葉を踏まえた上で、ご確認下さい……』

 

そして迎えた審判の時。大型モニターに合格者の名前が映し出され、ヒーローの卵100個の運命が今決定する。

 

「結構、受かってるな!」

 

「あ! 私あったぁ! やったぁ!!」

 

「み、み……み……み……」

 

「みみみみみみみみみみ」

 

「二人とも落ち着け。セミみてーになってる」

 

まあ、確かに周りから「受かった」って言葉が聞こえたらそりゃ焦るよな。かく言う俺も内心「落ちていたらどうしよう」と焦っている。

出久と峰田を諫めつつ、“あ”から順番に視線を動かし、芦戸や梅雨ちゃんとクラスメイトの名前を確認しつつ、切島の名前が通り過ぎてから間も無くして、俺は『呉島新』の3文字を見つけた。

 

「フィーー……」

 

「「「「「「「「「「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!! ゴルショッカー、大バンザァアアアアアアアアアアアアイッ!!!」」」」」」」」」」

 

流石に安堵の溜め息が出た。一方、観客席ではゴルショッカーの怪人軍団が、俺がヒーロー免許の仮免に合格しただけなのに、まるで世界征服でも成し遂げたかの様な雄叫びを上げている。ついでにクラス全員の名前を確認してみると……。

 

「ねぇッ!!」

 

「………」

 

轟もそうだったが、勝己の名前も載っていなかった。逆に言えば二人以外のA組は全員が仮免試験に合格していた。

 

「轟ッ!!」

 

そして、轟と同様の理由で不合格となり、モニターに名前が載らなかったのであろう夜嵐が轟に近づいたと思えば、豪快に地面へ頭を叩きつけた。

 

「ごめんッ!! アンタが合格逃したのは、俺の所為だ!! 俺の心の狭さの!! ごめんッ!!」

 

「元々俺が撒いた種だし……よせよ」

 

「けどッ!!」

 

「お前が直球でぶつけてきて、気付けた事もあるから……」

 

「轟……落ちたの?」

 

「ウチのトップ3の内、二人が落ちてんのかよ」

 

「暴言、改めよ? 言葉って大事よ?」

 

「黙ってろ。殺すぞ」

 

「止めとけ。余計に惨めになるぞ」

 

「両者共トップクラスであるが故に、自分本位な部分が仇となった訳である。ヒエラルキー……崩れたり!」

 

「黙れっつってんだろ!! 殺すぞ!!」

 

合格間違い無しと思われていた人物が不合格と言う結果に、芦戸や瀬呂は意外な顔をしているが、峰田はここぞとばかりに轟を煽り、マウントを取りに行っていた。そんな峰田は天才的なセンスを生まれ持ったイケメンよりも上に居ると言う、滅多にない状況を存分に愉しむつもり満々の邪悪な笑みを浮かべている。

 

そしてそれは勝己にも当て嵌まる訳で、勝己は今にも殺人でも犯しそうな顔で峰田に吼えるものの、今や敗北者と堕した勝己の怒号では勝利者である峰田のニヤニヤ笑いを消す事は出来ない。

余りにも見苦しい峰田の態度が目に余る為か、飯田が無言で峰田の首を強引に反転させているが、どうにも効果は薄そうだ。

 

『えー、全員ご確認いただけたでしょうか? 続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されていますので、しっかり目を通しておいて下さい』

 

「切島君」

 

「あざっす!」

 

「よぉこぉせぇやぁ……」

 

「いや、そう言うんじゃねぇからコレ……」

 

「上鳴見してー」

 

「ちょ、俺まだ見てない」

 

『ボーダーラインは50点。減点方式で採点しております。どの行動が何点引かれたか等、下記にズラーっと並んでおります』

 

「61点。ギリギリ」

 

「俺84!! 見て、凄くね!? 地味に優秀なのよね、俺って」

 

「待って、ヤオモモ94点!!」

 

ふむ。特に悪い所が見当たらない尾白でも61点と考えると、ヒーロー公安委員会とHUCが下す減点判断はかなり厳しいモノだったと想定される。そして瀬呂が地味に優秀なのも同意する所であるが、それでも84点か……。

 

「飯田君、どうだった?」

 

「80点だ。全体的に応用が利かないと言う感じだったな。緑谷君は?」

 

「僕71点。行動自体ってより、行動する前の挙動とか足止まったりする所で減点されてる。あっちゃんは?」

 

「90点。他の受験生と連携やコミュニケーションを取らなかった事で減点されてる」

 

「こうして至らなかった点を補足してくれるのは有り難いな!」

 

「うん……!」

 

「そうだな……」

 

クラスメイトが公安委員から渡された採点結果に一喜一憂する中、俺は出久と飯田に90/100と言う実技演習の採点結果を見せるも、内心ではかなり複雑である。

 

何せ俺の場合はHUCがまともに採点する事が出来なかった訳で、ヒーロー公安委員会がビデオ判定や提出したデータを参照する事で漸く行動の正否を判定している。

つまり、例えば八百万は「94点に相応する正しい行動を取ったからこそ94点」となったのだろうが、俺の場合は「90点にせざるを得ない状況を作り出したから90点」と言った感じがするのだ。

 

ただ、ミュータントバッタの群れを用いた『ローカスト・エスケープ』による瞬間移動に関しても減点されていると予想していたのだが、それが無かったのは意外と言えば意外だ。

 

この事を帰りのバスで相澤先生に聞いた所、相澤先生は次の様に答えた。

 

「一秒を争う人命救助の場において、救助者の救出に有用な“個性”を恐怖心や嫌悪感などを理由に減点するのは“個性”差別と変わらない。何より、個人の感情を人類の総意の様に言うのは合理的とは言えん。世間にはゴキブリが好きな奴もいれば、チョコが嫌いな奴だっている。減点対象にならなかったのはその為だ」

 

言われてみれば確かに、ヒーロー公安委員会やHUCが“個性”差別に繋がる様な判定をする訳が無い。現に出久達の減点された要項を確認したが、減点対象は要救助者への暴言や失言、安全確認の有り無しや状況判断の甘さなど、言動や行動に関するものばかりで「“個性”に関係する怖いや嫌い」と言ったモノは一つも無かった。

彼等としては如何にヴィラン染みた見た目をしていようとも、ヴィラン向きだと思われる“個性”であろうとも、「困った誰かを救う為に“個性”を使う事」が出来る者を排斥する様な採点をする訳にはいかないと言う事か。

 

『えー、合格した皆さんはこれから緊急時に限り、ヒーローと同等の権利を行使出来る立場となります。即ち、ヴィランとの戦闘。事件・事故からの救助等……ヒーローの指示がなくとも、君達の判断で動く事が出来ます。しかし、それは君達の行動一つ一つに、より大きな社会的責任が生じると言う事でもあります』

 

「………」

 

『皆さんご存じの通り、オールマイトと言うグレイトフルヒーローが力尽きました。彼の存在は犯罪の抑制に成る程大きなモノでした。心のブレーキが消え去り、増長する者はこれから必ず現われる。均衡が崩れ、世の中が大きく変化していく中、いずれ皆さん若者が社会の中心になっていきます。

次は皆さんがヒーローとして規範となり、抑制出来る様な存在にならねばなりません。今回はあくまで仮のヒーロー活動認可資格免許。半人前程度に考え、各々の学舎で更なる精進に励んで頂きたい!!』

 

うーむ。仮免試験中は何ともアレな面ばかりが目立っていた目良さんだが、流石にヒーロー公安委員会をやっているだけあって、決める所ではキッチリと決めてくる。そんな真剣な空気に当てられた所為か、合格者も不合格者も、誰もが皆神妙な面持ちで目良さんの話に聞き入っている。

 

『そして……えー、不合格となってしまった方々。点数が満たなかったからとしょげている暇はありません。君達にもまだチャンスは残っています。三ヶ月の特別講習を受講の後、個別テストで結果を出せば、君達にも仮免許を発行する予定です』

 

「「「!?」」」

 

『今私が述べた“これから”に対応するには、より“質の高い”ヒーローがなるべく“多く”欲しい。一次は所謂“落とす試験”でしたが、選んだ100名はなるべく育てていきたいのです。そう言う訳で全員を最後まで見ました。

結果、決して見込みが無い訳では無く、むしろ至らぬ点を修正すれば合格者以上の実力者になる者ばかりです。学業との並行でかなり忙しくなるとは思います。次回、4月の試験で再挑戦しても構いませんが―――』

 

「当然ッ!!」

 

「お願いしまっす!!」

 

目良さんの話に即座に反応したのは勝己と夜嵐の二人だったが、轟の目にも決意の光が宿っていた。間違いなく来年4月の仮免試験まで待つ事無く、三ヶ月に及ぶ特別講習を受講するつもりだ。

 

「やったね、轟君!!」

 

「止めとけよ。な? 取らんで良いよ。楽に行こ? ひえらるきぃ……」

 

「お前が止めろ。その見苦しい真似を」

 

「すぐ……追いつく」

 

かくして、少々残念な結果に終わったものの仮免試験が終了。合格者は写真撮影などの手続きを済ませると、一枚のカードを渡された。カードには『ヒーロー活動許可仮免許証』と書かれており、先程撮影した写真や本名の他、ヒーローネームも記載されている。

 

ヒーローネームはローマ字で記載されており、例えば出久は『デク』が『DEKU』と書かれていて、俺の場合は『仮面ライダー』が『MASKED RIDER』となっている。

ちなみに切島の『烈怒頼雄斗』は『RED RIOT』となり、字面のイメージが厳ついモノから何処かスマートなモノになった様に感じる。

 

「シン君、嬉しそうやね」

 

「まあな。色んな事があって、俺自身も色々と変わっちまったケド……それでも皆と同じ様に、普通に証明書が貰える事が嬉しい」

 

「……うん。そだね」

 

普通の人間ならこんな事は考えないだろうが、今や俺は人間のフリをしている超生物だ。それでも、こうして皆と同じ物を手にしていると、何と言うか……ココに居て良いと認められている様な気がするのだ。

 

「イレイザー」

 

「ん?」

 

「今回はまぁ……あんな感じになったケド、折角の機会だし、今後合同の演習でもやれないかな?」

 

「ああ……それ良いかもな」

 

そしてMs.ジョークが相澤先生に雄英高校と傑物学園の合同演習を持ちかけているが、正直俺としては可能な限り遠慮して欲しい案件である。傑物学園を全滅させた相手との合同演習とか、ただのリベンジマッチ以外の何物でも無いだからだ。それもあの真堂なる先輩が見せた形相から察するに、相当に苛烈な感じの……。

 

「おーい!!」

 

「あら、士傑まで」

 

「轟!! また講習で会うな!! けどな! 正直まだ好かんッ!!」

 

ここまで堂々としていて、いっそ清々しい位に猛烈な勢いのある「嫌い」発言があるだろうか? そしてここまで明け透けだと夜嵐に対して嫌悪感ではなく、逆に好感が持てるのが実に不思議だ。

 

「先に謝っとく!! ごめん!! そんだけー!!」

 

「どんな気遣いだよ……」

 

「こっちも善処する」

 

「めるすィ☆ 彼は大胆と言うか繊細と言うか……どっちも持ってる人なんだね☆」

 

大胆にして繊細か……言い得て妙だな。ちなみに俺としては善くも悪くも「豪快にして純粋」と言ったイメージである。

 

「我が王。間も無く準備が整います」

 

「そうか。それじゃ、始めるか……」

 

「? 始めるって何をだ?」

 

「先程まで士傑高校の現見ケミィなる女子生徒になりすましていた『敵連合』のトガヒミコを現在、我々ゴルショッカーが追跡している。包囲網が完成し次第、トガヒミコ捕獲作戦が開始される」

 

一陣の風に乗ったイナゴ怪人1号の発言に、俺と相澤先生を除いたA組の面々が息を呑む音が聞こえた。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 多古場の受験生はおろか、全国の仮免試験受験者をぶっちぎりで超越してしまっている怪人。真面目に頑張れば頑張るほど、何故かラスボス化が進行する呪縛に囚われている。まあ、闇の帝王の祝福(改造)なんて呪いと大差無いだろうしね。

爆豪勝己&轟焦凍
 原作通りに仮免に落ちた二人。轟は兎も角として、かっちゃんに関しては雄英の一般入試の実技試験みたいに、下手をすると「救助活動は一切せず、ヴィラン役との戦闘行動のみ」と言う形で仮免に合格する未来もあったのではなかろうか。

オールマイト
 真の後継者がエンデヴァーに靡きつつある中、偽の後継者から頼りにされてとても嬉しい元№1ヒーロー。教師や師匠としての自信を取り戻したが、相手が自分の教えに着いてこれているだけだと言う事には気付いていない。

ギャングオルカ
 ゴルショッカーによる襲撃を受けたシャチョー。本人の見た目もそうだが、この時にサイドキック達が着ている試験用コスチュームも相俟って、初見の人なら「悪の秘密結社同士の抗争だ」と言われれば信じるである光景が試験の裏で展開されていたりする。

相澤消太
 主人公とオールマイトの訓練を見て、救助演習の結果が予想出来ていた男。主人公に対して妙に優しいのは、主人公から「救えなかった命を想う心」を感じていた為。決して教え子が全滅してMs.ジョークが静かになった事に対する御礼ではない。

コウモリ怪人
 勇学園の藤見が送ってきた『ゾンビールス』に適合し、元ネタ通りに「噛み付いた相手を操る能力」を獲得した怪人。仮免試験に望む際、イナゴ怪人の研修で「呪術師でもないのに自分の能力をバラすのは愚策」と徹底的に教育されている。

ヘビ怪人
 コウモリ怪人と同様にギャングオルカ達の元へと派遣された、悪い言葉で言うなら闇に紛れての暗殺を得意とする怪人。ちなみに、作中で覚悟が出来ているイタリアギャングっぽい台詞を宣っていたのはコイツ。



小型遠隔索敵装置『ホッパー』
 元ネタはご存じ『仮面ライダーV3』の装備「V3ホッパー」。『仮面ライダー THE NEXT』のV3は装備こそしているが未使用のまま終わった事と、小説『仮面ライダー1971-1973』に登場した「強化服・三式」の説明におけるセンサーや通信系統の強化ってつまりコレだよねって事で、この作品の主人公に使って貰った。要は何時もの作者の趣味。

ありのままに今起こった事を話すぜ
 ご存じ『ジョジョ』第三部に登場するポルナレフの名(?)台詞。作中でエンヤ婆が「『ザ・ワールド』の時間停止能力は圧倒的なパワーとスピードによって可能としている」と解釈できる様な台詞を吐いており、その所為で「オールマイトはその圧倒的なパワーとスピードで時を止めている」と言う謎理論が作者の脳内で構築された。
 単純にラスボスネタが使いたかったと言う事もあるが、スピンオフの『ヴィジランテ』における活躍等を含め、オールマイトならヒーロー活動の際に時間の一つも止めていてもおかしくない気がするのが怖い。勿論、筋肉で。それと『ワン・フォー・オール』って『オーバークロック』みたいに脳機能も強化出来たりするんじゃないかしら?

仮免試験実技演習の得点
 アニメの仮免試験において一瞬だけ映った、ヒーロー公安委員会が持つ実技試験の採点表の一部を元に採点。その中で「周囲の受験者との連携」と「その場に居合わせた者達とのコミュニケーション」があった為、各5点を引いて合計10点の減点としている。
 警視庁やヒーロー公安委員会が求めているヒーロー像はあくまでも『互いに協力し合えるヒーロー』であり、『オールマイトの再来』ではないと思われる為、「傍目から見てオールマイトの様に試験をクリアしても100点にはならない」と作者は判断した。

次回4月の試験
 作者の個人的な仮免試験における謎要素。ブラドキングは「毎年6月・9月」と言っているが、目良さんは「次回4月の試験」と言っている。原作では一次試験で仮免試験に再挑戦していると思われる他校生が確認される為、「仮免の一次試験を通過した者は、通常とは違う試験を受ける」と言う事なのかも知れない。
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