怪人バッタ男 THE NEXT   作:トライアルドーパント

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読者の皆さん、お久し振りです。

去年も今年も正に厄年としか言い様が無かった2年でした。車の事故で右手の指がグシャグシャになったりとか、人間関係で重度の鬱を患ったりとか、血便が出て大腸ガンの疑いが出たりと、それぞれの問題解決まで随分時間が掛かりましたが、依然と同じ程度に生活が出来る様になりました。

今回のタイトルは『仮面ライダーBLACK』の「愛と死の宣戦布告」が元ネタ。まあ、ハテナマークとビックリマークを入れているだけなんですが。

2023年最初にして最後の投稿を楽しんでいただければ幸いです。


第13話 愛と死(?)の宣戦布告!

人生における盛衰と、その人間が持つ善悪は、必ずしも一致するものでは無い。

 

そう、決して一致するものでは無い筈なのだが……人と言う生き物は盛える者を善と崇め、衰える者を悪と貶む習性を持つ。

これは誰もが「善なる者にはそれに相応しい未来を、悪しき者にはそれに相応しい末路を」と、心の中で無意識の内に望んでいるからであろう。

 

「仮免落ちた憂さ晴らしで?」

 

「謹慎~~~~~~~!?」

 

「馬鹿じゃん!!」

 

「ナンセンス!」

 

「馬鹿かよ」

 

「骨頂――」

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

では、もしもその人の盛衰と善悪……と言うか、普段の言動と態度が現在の結果と一致していた場合どうなるか? 考えるまでも無い。それは今の勝己の姿を見れば日を見るより明らかであり……そこに更なる悪評が加われば反論の余地など皆無である。

 

グラウンド・βで起こった勝己VSイナゴ怪人1号(疑似シャドームーン)の乱闘騒ぎから一夜が明けた時、その所行は瞬く間にA組全員が知る事となり、満身創痍の姿で掃除機を掛ける様子も相俟って、勝己は朝から滅茶苦茶に機嫌が悪そうな顔をしていた。その様を影から見ているイナゴ怪人1号は、スガスガしいまでに機嫌が良さそうだった。

 

尚、俺がイナゴ怪人1号の体を使って戦った事はバレていない。勝己がその事を相澤先生に話さなかった事もあるが、イナゴ怪人1号が「ボンバー・ファッキューの憂さ晴しに付き合ってやっただけだ」とシラを切り通した事に加え、シャドームーンへの変身も、使用した特殊能力の全ても、今のイナゴ怪人1号ならば全て可能な範疇に収っていたからだ。

 

「それで、デク君は何で謹慎になったん?」

 

「よ、よく寝付けなくて、ちょっと外に……」

 

一方で、災難としか言いようがないのが出久だ。雄英が全寮制になった事に伴い、夜9時以降は特別な理由や許可なく寮の外を生徒が出歩く事は禁止されている為、出久もまた処罰の対象になってしまったのだ。

ちなみに、相澤先生が勝己と出久に処罰として下した謹慎期間は、勝己が1週間で、出久が今日一日。共に朝と晩A組の寮内の共有スペースの清掃と、反省文の提出を言い渡されている。

 

「緑谷君は兎も角、爆豪君はよく謹慎で済んだものだ……!! ではこれからの始業式は二人も欠席だな!」

 

「爆豪、仮免の補習どうすんだ?」

 

「うっせぇ! テメーには関係ねぇだろ……!」

 

「じゃー、掃除よろしくなー」

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

謹慎の理由が理由だけに、勝己に対してクラスメイトから同情する声は無い。むしろ何でも出来る上に、何だかんだで必ず結果を出すタイプの才能マンが見せる数少ない醜態を目の当りにし、面白おかしく見ている者の方が多い位だ。

 

そんなやり取りがA組の寮で行われるのを尻目に、俺は罰則としてB組の寮へと向かっていた訳だが、予想通りと言うか何と言うか、どんなに丁寧に表現しても「頭がおいかれになっている」としか思えない男が絡んできた。

 

「聞いたよ――A組ィィ! 二名ッ!! 其方、仮免落ちが二名も出たんだってええぇ!?」

 

「おう。ソッチは全員合格したらしいな。おめでとう」

 

正直言うと、『雄英潰し』において狙われる要素の塊みたいな物間と、“個性”『ギャグ補正』の特性と使い手の性格が致命的に噛み合っていない神谷がどうやって仮免試験を突破したのか非常に謎であるが、自分でも驚くほど興味が引かれないのでワザワザ試験の詳細を聞くつもりは無い。

 

ちなみに、何故B組全員が仮免試験に合格した事を俺が知っているのかと言うと、それは小森が率いるマタンゴ軍団を経由して情報を得ていたからだ。

多古場の試験会場は俺自身と怪人軍団により混沌を極めた様相を呈したが、B組の方も小森が指揮するマタンゴ軍団の魔の手により、負けず劣らずオゾましい光景が展開された事は想像に難くない。

 

「その様子だと、何で俺がコッチの寮の掃除を命じられたかも知ってる感じか?」

 

「ああ、昨夜に問題行動を起こした罰則だろう? 何でも仮免試験に落ちた憂さ晴しだとか!」

 

「それは勝己の話だ。俺は仮免試験に紛れ込んでいたトガヒミコを捕まえた所為でこうなった」

 

「……は?」

 

「『結果的に有名なヴィランを捕まえても、命令無視のスタンドプレーは論外』って事で、今後ヒーローインターン等で似たような事態に遭遇した他の生徒が同じ様な事をしないように見せしめの意味でコッチの寮の掃除を命じられたんだよ」

 

「………」

 

物間は沈黙した。トガヒミコの逮捕は他の『敵連合』のメンバーを捕らえる為もあり、昨夜の段階ではどのメディアでも報道されておらず、別の目的も兼ねて段階的にソレが知らされる手筈になっている。

 

「それじゃ、夕方にも来るからソレまでに部屋のゴミとか廊下に出しといてくれなー」

 

「お、おう」

 

「三日間、よろしくねー」

 

その後、石像と化した物間を拳藤が引っ張り、B組の面々がゾロゾロと学校へと向かっていくのを見送りつつ、俺はB組の寮の共有スペースの清掃を始めた。

 

『我が王、間に合いそうですかな?』

 

「終わらせるさ。時間までにはな」

 

始業式には出られないが俺にはやるべき事があるので、出来る限り掃除を急ぐのだった。

 

 

○○○

 

 

学校生活。特に夏休みや冬休みと言った長期休暇が終わり新学期が始まる時、今も昔も変わらない一つの試練がある。

 

「やあ! 皆大好き、小型哺乳類の校長さ! 最近は私自慢の毛質が低下しちゃってね。ケアに一苦労なのさ。これは人間にも言える事さ。亜鉛・ビタミン群を多く摂れる食事バランスにしてはいるものの、やはり一番重要なのは睡眠だね。生活習慣の乱れが最も毛に悪いのさ。皆も毛並みに気を遣う際は、睡眠を大事にすると良いのさ!」

 

「(物凄くどうでも良くて))

 

「(有り得ない程長ぇ)」

 

そう、校長の話である。古今東西の全ての学生が体験するこのイベント。もはや使い古されてあるあるネタとして使う事すら烏滸がましいモノであるが……今回は少し違った。

 

「生活習慣が乱れたのは皆もご存じの通り、この夏休みで起きた“事件”に起因しているのさ」

 

校長のその一言は、夏休み明けの始業式においてありがちな怠い空気を、一瞬にして緊張感を孕んだモノへと変えた。

 

「柱の喪失。あの事件の影響は予想を超えた速度で現われ始めている。これから社会には大きな困難が待ち受けているだろう。特にヒーロー科諸君にとっては顕著に現れる。2・3年生が取り組んでいる校外活動……『ヒーローインターン』も、これまで以上に危機意識を持って考える必要がある」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」

 

「暗い話はどうしたって空気が重くなるね。大人達はその重い空気をどうにかしようと頑張っているんだ。君達には是非ともその頑張りを受け継ぎ、発展させられる人材となって欲しい。経営科も普通科もサポート科もヒーロー科も、皆社会の後継者である事を忘れないでくれ給え」

 

誰もが真剣な眼差しを以て校長の話を聞いていた。雄英高校に在籍するからこそ、校長の言葉の意味が、誰よりも理解出来ていたからだ。

 

「大分短く纏めただろ? 定石を覆したのさ」

 

「流石です。根津校長、ありがとうございました」

 

「(後継か……)」

 

朝礼台を後にする校長を見つつ、オールマイトは改めてこれからのヒーロー社会に巻き起こるであろう混乱と、自身の後継者と言える2人とは別の……最初に自身の後継者として考えていた若者の事を思い浮かべていた。

 

『後継を探していると言うなら、雄英ほど若い才能に恵まれた環境はないさ。どうだい? 教職の件……君の状態を鑑みても悪い話じゃないと思う。何、私も漠然と言ってるんじゃない。まさしく君の後継に相応しい人間がいる』

 

最終的にその若者がオールマイトに後継として選ばれる事は無かったが、何の因果か神野区の戦いに参戦していた。その意図については後日、その若者の師であるナイトアイから聞いている訳だが……。

 

「(より良い未来の為には、“平和の象徴”を緑谷少年一人に背負わせる必要は無いのかも知れないな……)」

 

 

○○○

 

 

「――それでは最後に幾つか注意事項を、まずは生活指導ハウンドドッグ先生から――……」

 

「グルルル……昨日う゛う゛ルルルルルル……寮のバウッ、バウバウッ! 慣れバウバウ! グル生活バウッ!! アオーーーーーンッ!!!」

 

「「………」」

 

「ええと、『昨晩、校内で暴れた生徒がいました。慣れない寮生活ではありますが、節度を以て生活しましょう』とのお話でした」

 

「グルルル……」

 

「「(ハウンドドッグ先生、何だったんだ?)」」

 

「キレると人語忘れちまうのかよ……雄英ってまだ知らねー事、沢山あるぜ……」

 

「緑谷さんは兎も角、爆豪さんは立派な問題児扱いですわね……」

 

「続いて、新しい警備員の皆さんを紹介します」

 

ブラドキングの言葉に生徒達が疑問符を頭に浮かべた刹那、何の前触れも無く辺りが暗くなった。訝しんだ生徒達がふと上空を見上げた先にあったのは……夥しい数の巨大なバッタの群れ。

まるで砂嵐の様な羽音を立てながらミュータントバッタの群れが、絶句する生徒達と教師陣を尻目に校庭をぐるりと一周すると、周囲の風景は一変していた。

 

この場に集まった雄英高校に所属する者全てを取り囲むように仁王立ちする、イナゴ怪人を含めた様々な怪人達。これでもかと乱立する、黄金の鷹とリンゴを食らわんとする銀色のヘビが描かれた黒地の旗。そして何処からとも無く流れてくる、昭和レトロでメタルな音楽。

 

「『仮面ライダー』こと呉島新は、『秘密結社ショッカー』の大首領にして、『暗黒結社ゴルゴム』の創世王である! 彼の手によって合併された『暗黒組織ゴルショッカー』は、この世界の闇を切り裂き、光をもたらす事を企むヒーロー事務所である! 『仮面ライダー』は生きたいと願う命の自由と平和の為、今日も戦うのだッ!!」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

全校生徒の9割以上が呆然としていた。1年A組は「何時もの事だな」と慣れた様子だった。何処からどう見ても悪の組織の決起集会的な状況に困惑した生徒が教師陣を見るが、教師陣は軒並み傍観を貫いていた。

 

ファオーン……ファオーン……

 

そんな彼等に追い打ちを掛けるが如く、耳に残る独特の電子音と共に、朝礼台に立っていた黒いモノリスに描かれたシンボルマークのリンゴの部分が紅く光り輝き、皆の注目を集めた。

 

『我がゴルショッカーの精鋭達よ! お前達を生み出した最新のバイオロジックが、この混沌に満ちた世界を変える時が来た! お前達の命を捧げるのは、今だッ! この混迷するヒーロー社会を平和に導く為、人に仇成すヴィラン共を、徹底的に撃滅するのだ! 改造するのだ! 希望の代価に犠牲を要求する、この世界のルールそのものを……!』

 

何だコレは!? 何だコレは!? 何だコレは!?

 

我々は一体、何を見せられているのか? 此処は雄英高校。全国でもトップに位置するヒーロー育成機関であり、自分達はそこの生徒の筈だ。決して悪の秘密結社のアジトではないし、そこの戦闘員でもない。

しかし、頼りになる筈のプロヒーローである教師陣は、この意味不明としか言いようのない光景を前にしても尚、鎮圧に動き出す気配は全く無い。

 

『運命に翻弄されし、異形なる者達よ! 無意味な暴力と、理不尽な屈辱に耐えてきた同胞達よ! 私は君達があるがままの姿で生きる事が出来る世界を実現する為、ヒーロー事務所「暗黒組織ゴルショッカー」を結成した! それは君達がいずれ訪れる事を望んだ「自由と平和」をもたらす為であり、それは何も大それた……特別な願いでは無い筈だ!』

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

『この言葉に心を動かされた諸君! 君達にお見せしよう! 道半ばで諦めた夢の続きを! 世界の残酷さに屈服し、破らざるを得なかった約束の続きを! 産まれてきた意味を呪った、悲しい歴史を終わらせる為に……!』

 

「「「「「「「「「「……!」」」」」」」」」」

 

呉島新の演説は、その言葉に共感を覚えた者達へ、ある気持ちを呼び起こした!

 

それは独裁者に従う兵隊の様な気持ちッ!! 或いは、邪教の教祖に憧れる信者の様な気持ちッ!! 即ち、どうしようも無く心を惹き付ける、抗いがたい強烈な衝動ッ!!

 

人はそれを――『カリスマ』と呼ぶッ!!

 

『ゴルショッカー各員に伝達! 大首領命令である! 諸君……』

 

故に、魅入られた者達は固唾を呑んで見守った。数多の怪人を従える“彼”の、決定的な言葉を期待して……!!

 

『世界を創るぞ……!』

 

「「「「「「「「「「IIIIEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「イィーーーーーーーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

それは、一糸乱れぬ美しい敬礼であった。心の奥底から放たれた魂の咆哮であった。イナゴ怪人を筆頭とした怪人軍団に続き、雄英高校の生徒達が同じ様に、大首領へ忠誠のポーズを取っていた。その中には……。

 

「ちょ! 顎大和! 何やってんだよ!?」

 

「……ハッ!? お、俺は一体何を……?」

 

怪人軍団に悪感情を持っていた筈の、普通科の生徒すらいた。尚、この時に敬礼のポーズを取っていた者達には、一部を除いて“何処かしらに人ならざる特徴を持っていた”と言う共通点があったりする。

 

「我々からは以上だ! さあ、3年生から順に教室へ戻るが良いッ!!」

 

恐るべき展開に生徒達がツッコミを入れる間を許す事無く、やる事をやったと言わんばかりに〆の一言をイナゴ怪人が告げると、再びミュータントバッタの群れが校庭に飛来し、同じ様に校庭をぐるりと一周すると、校庭は何事も無かったかの様に元通りになっていた。

 

「えー……、それでは3年生から教室に戻って――……」

 

再起動に時間が掛かりながらも、生徒達は各々の教室に戻っていた。彼等の話題は勿論、ヒーロー事務所『暗黒組織ゴルショッカー』を名乗る怪人軍団である。

 

「ねえねえ、知ってるんだよ! ねえ、聞いちゃったの、聞いて。今年の仮免試験、怪人の軍団が大暴れしたんだって! 1年だって。1年生の試験会場! ねえねえ! それに知ってる? 校内でム○クを見たんだって! でもガチ○ピンは何処にも居ないの! しかも、所属がポンキ○キじゃなくて『暗黒組織ゴルショッカー』なんだって! 不思議だよね? ねえ、聞いてる?」

 

「……ほほう」

 

「ねえってば!」

 

それは雄英でもトップに君臨すると言われる者達も例外では無かった。

 

 

○○○

 

 

「じゃあ、今日からまた通常通り授業を続けていく。嘗て無い程に色々あったが、上手く切り換えて学生の本分を全うする様に。今日は座学のみだが、後期はより厳しい訓練になっていくからな」

 

「…話ないねぇ……」

 

「何だ、芦戸?」

 

「ヒッ! 久々の感覚!」

 

「ごめんなさい。良いかしら先生。ヒーローインターンについてなんだけど、私達はどうなるのかしら?」

 

「確かに、その辺はどうなるんですか」

 

「俺も気になっていた」

 

「既に取り組んでいる先輩方にも、これまで以上に危機意識を持って考える必要があると仰っていましたが……」

 

「それについては後日やるつもりだったが……そうだな。先に言っておく方が合理的か……」

 

相澤としては、ヒーローインターンに参加する事が決定している新を含めて説明しておきたかったのだが、ヒーローインターンにおける内容も含めて、新は色々な意味で特殊で例外的なケースである。そうした意味では、彼等には今の内に説明するのが合理的であろうと、相澤は判断した。

 

「確かに仮免の取得に伴い、諸君等はより本格的・長期的にヒーローとしての活動へ加担する事が出来る様になった訳だが……お前等1年生の参加に関しては校長を始め、多くの先生が『やめとけ』と言う意見なのが現状だ」

 

「えー! 仮免取るのに、あんなに頑張ったのに!?」

 

「でも全寮制になった経緯から考えればそうなるか……」

 

「ただ、『今の保護下方針では強いヒーローは育たない』と言う意見もあり……これから慎重に協議を重ね、良い落とし処を探っている。後日行われる体験談なども含め、最終的な結論は一週間程で出る予定だ。じゃ……待たせて悪かった。マイク」

 

「一限は英語だーー!! 即ち、俺の時間ッ!! 久々登場、俺の壇場。待ったかブラ!!! 今日は詰めていくぜーーー!!! アガってけー! イエアア!!」

 

かくして、夏休みが明けて最初の授業が始まった。そしてプレゼントマイクの授業は、やっぱり普通だった。

 

 

●●●

 

 

口田が飼っているウサギのゆわいちゃんが口田の部屋から脱走し、チョットした騒動を起こしたものの、謹慎生活一日目が無事に終了しようとしていた。

 

ベースが虎である怪人ダイナマイトタイガー達を翻弄する普通のウサギと言う構図は見ていてちょっと面白かったが、ゆわいちゃんからすれば如何にゆるキャラチックな見た目とは言え相手は虎で、しかも複数体が寮内をウロチョロしている。

ゆわいちゃんの立場を考えれば、今の生活環境は割とストレスが溜まって死活に直結するのではないかと思わないでもないが、意外や意外。午前中の逃走劇がまるで嘘の様に、今やダイナマイトタイガーとゆわいちゃんは仲良くバナナを食べていた。

 

尚、「虎はバナナ食わねぇだろ」と言う、至極当然のツッコミは無しだ。何せコイツ等はチョコアイスだって普通に食うのだから。

 

「んッんーー…この埃は何です? 爆豪君?」

 

「典型的なイジワル姑ムーヴやめい」

 

「そこデクだ! ザケんじゃねぇぞ! オイコラ、テメー掃除も出来ねぇのか!?」

 

「お前はお前でもう少し落ち着け。コイツが心底イラつく顔してんのは分かるケド」

 

謹慎が明けたらたっぷりとお礼参りされそうな峰田の邪悪な笑顔を見つつ、B組の寮の掃除を手早くかつ丁寧に終わらせた俺は、ゆわいちゃん脱走事件で遅れているA組の寮の掃除を出久と勝己と共に行っていた。

 

「なぁ、今日のマイクの授業さ……」

 

「まさかお前も……?」

 

「当然の様に習ってねー文法出てたよな」

 

「あーソレ! ね! 私もビックリしたの!」

 

「予習忘れてたモンなぁ……」

 

「一回躓くとその後の内容、頭に入らねぇんだよ」

 

「「「………」」」

 

「インターンの話さ。もしも1年も参加できるってなったら、ウチとか指名無かったけど、参加できないのかな?」

 

「やりたいよねぇ」

 

「前に職場体験させて貰ったトコでやらせて貰えるんじゃないかな?」

 

「………!?(たった一日で、スゴイ置いてかれてる感……ッ!!!)」

 

「――と言う顔だね、謹慎君!」

 

「キンシンくんは酷いや。あの飯田君、インターンについて何かあったの?」

 

「俺は怒っているんだよ! 授業内容などの伝達は先生から禁じられた! 悪いが3人ともその感をとくと味わっていただくぞ! 聞いているか、爆豪君!」

 

「っるせんだよ! 分かってら、クソ眼鏡!」

 

「ムムッ……」

 

「………」

 

出久と勝己の2人は勿論、クラスの皆にも悪いが、俺はヒーローインターンに関しては特に心配していない。何故なら、俺の場合はリカバリーガールの元でヒーローインターンを行う事が決定しているからだ。

正確に言うなら、リカバリーガールの元でインターンを行う事で、全国の病院を巡って患者さんを治療する事が、俺が雄英高校で生活する為には必要であり、クラスの皆が取り組むようなインターン活動は出来ないのである。

 

しかし、そこで話が終わらないのが、ヒーロー事務所『暗黒組織ゴルショッカー』の存在である。

 

イナゴ怪人を筆頭に、そこら辺のプロヒーローにも勝るとも劣らぬ能力を備えた多種多様の怪人達を遊ばせておいては、世の為にも人の為にもならぬ。其処で手始めに彼等をヒーローインターンに参加させる事となったのだが、コレには二つの条件があった。

 

一つ目は、『ヒーローインターンに参加できるのは、ヒーロー公安委員会が出す試験に合格した怪人』であること。これは仮免試験では測れなかった部分……具体的には人間社会に於ける一般常識や各々の人間性(怪人に何を期待しているのだと思わないでも無いが)に問題が無いかを精査するのだとか。

 

二つ目は『実績と信頼のあるヒーローの元へと派遣する』と言う事。これは派遣した怪人の監視もそうだが、もしも怪人が暴走した場合、怪人を止める事が出来るだけの実力を備えている必要がある為だろう。

これは「怪人を派遣する=その怪人は派遣先のヒーローの弱点を補える能力を持っている」と言う図式が成り立つ場合、「派遣した怪人は派遣先のヒーローの弱点を突く事が出来る」とも考えられるからだ。

 

一つ目に関しては、怪人共はどう言う訳か無駄に知識と良識を備えている為、余り問題視はしていない。しかし、二つ目に関しては所謂、若手のヒーローの元へ送れない事が逆に不味い気がする。各々の“個性”の問題や、実戦経験の浅さをカバーする事が出来ないと言う意味で。

尤も、その辺の事は公安委員会も理解はしている様で、『実績と信頼のあるヒーローとのチームアップ』を条件に、若手のヒーローへの怪人の派遣も行えるのだとか。

 

そんな訳で、ヒーローインターンに関しては、何処か諦観している部分はあるのだけれど、それでも助けを求める声があるならソレに応えてこそヒーロー。皆と少し土俵が違うと言うだけで、ヒーロー活動に変りはない。

 

「(しかし、授業に遅れるのは流石に痛い……)」

 

寮内謹慎を言い渡されている以上、タルタロスへ足を運んでオール・フォー・ワンから情報を引っ張り出す事も出来ない。当然、逮捕されたトガヒミコに会いに行って、荼毘や黒霧の正体に繋がる何かしらのヒントを貰う様な事も出来ない。

 

「「「「創世王様~!」」」」

 

そんな事を考えている俺の元へ、一体のイナゴ怪人と、三体のカラス怪人がやってきた。

 

その名はイナゴ怪人グリス。『三羽ガラス』を名乗る赤・青・黄色の実にカラフルな三体のカラス怪人を従える、平成イナゴ怪人軍団の一人にして生粋のドルヲタと言う、よく分からない属性を備えたイナゴ怪人だ。

 

「俺達、創世王様の為に『ゴルショッカー』の広報活動に最適なアイドルを選んだんッス!」

 

「取り敢えず三つまで絞ったんで、見てくだせぇ!」

 

「あ~……、どれどれ?」

 

アイドル処か芸能界にすら興味は無いが、イナゴ怪人グリスとその愉快な仲間達の努力を無碍にするのは悪いと思い、折角だから彼等が選出したアイドルとやらを見てみることにした。

 

1.B小町

 

2.ゴクドルズ

 

3.PURE CLUB

 

「おぉおうぅ……」

 

何かしらんが、ドイツもコイツも厄ネタの臭いがプンプンする。特にこのB小町の星野アイとか言うヤツ。見た目は正統派な美少女って感じだが、何かとんでもない闇を抱えているのを感じる……。

 

――その時、不思議な事が起こった。

 

突如、俺の脳内に溢れ出す……“存在しない記憶”。

 

『そうだ! あの場で誰よりも完璧に嘘つきな君だったから!! 私は突き動かされた!!』

 

『!?』

 

『私が知る、ある少女もそうだった。彼女は自分にも、周りにも嘘をつき続けていた! たった一つの、本当の繋がりを手に入れたかったが為に!』

 

『………』

 

『君も! そうなんじゃないのか!?』

 

『………うん……!』

 

『君は、ゲッターになれるッ!!』

 

いや、イナゴ怪人1号(お前)かい。

 

どうやら、テレパシーによる感覚共有を用いて俺の脳内に直接映像を見せている様だが、よりにもよって既に最も厄そうなヤツに現在進行形でコンタクトを取っていやがった。しかも出久とオールマイトのビギンズナイト的な運命の出会いをパクった感じで。

 

「パクったのではない。インスパイアだ」

 

「それ言い方が変わっただけで、中身は一切変わんねぇヤツ」

 

「生まれ持った天秤による絶対的な強さ! それ故の孤独! この小娘に愛を教えるのは、誰よりも人間を愛しながら、誰よりも人間に愛されてはならぬ宿命を背負ってしまった男……即ち、我が王に他ならぬッ!!」

 

「何か違う気がするし、俺では無い様な気がするんだが……」

 

「しかし、『暗黒組織ゴルショッカー』は『秘密結社ショッカー』が前身と言う設定。それを考えるならば、我が組織には『アイ』が必要なのですぞ」

 

「然り! そして『暗黒結社ゴルゴム』との合併と言う設定である以上、このミュータントバッタのエキスをふんだんに使ったゼリー飲料『ヒートヘブン』もまた必要不可欠なのです!」

 

何時以上に訳が分からん謎の理論を展開するイナゴ怪人2号だが、どう転べばグロテスクなバッタの怪人が美少女アイドルに愛を教える事になる。そしてショッカーにはアイが必要とはどう言う理屈だ。

あと、イナゴ怪人BLACKが持っているその『ヒートヘブン』とか言う、とんでもゲテモノゼリーは果たして需要があるのだろうか?

 

「いずれにせよ、オール・フォー・ワンの供述が正しければ、『異能解放軍』は芸能界に手を出していない。強大な相手に付け入る隙があるのなら、容赦なく其処を突いていくべきだと思いますぞ?」

 

「ううむ……」

 

イナゴ怪人2号の言わんとする事は分かる。現状、俺達は後手に回っている。いや、後手に回らざるを得ない状況になっている。何せ敵対勢力である『異能解放軍』ほどの下積みや蓄積が無いのだから。

 

今だってオールマイトとオール・フォー・ワンと言う光の王と闇の王のW陥落による社会の混乱に乗じているに過ぎない。

ならば、「良い波が来ている内に、それを利用して出来る限り行ける所まで一気に行ってしまう」と言うのは作戦としてアリだとも思う。

 

しかし、しかしだ。あのオール・フォー・ワンが、そして『異能解放軍』が、闇の世界の住人と言える連中が、闇の深そうな芸能界に手を出さなかったなど、果たして有り得るのだろうか……。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 遂に世界征服(?)に乗り出した『大首領』にして『創世王』、そして『仮面ライダー』である男。運命に翻弄されし異形なる者達にとって、ある意味ではコイツこそが完璧にして究極、そして最強で無敵の偶像(アイドル)と言えるかも知れない。

イナゴ怪人グリス
 平成イナゴ怪人の一人にしてネタ枠の一角。実は彼には最推しのネットアイドルがいるのだが、「あくまでも純粋な一ファンとして応援したい」と言う理由から、ゴルショッカーを宣伝するアイドルの候補から外している。

三羽ガラス
 上記のイナゴ怪人グリスの体を構成するミュータントバッタを食らった事で、突然変異を起こしたカラスの怪人×3。その所為かコイツ等もイナゴ怪人グリスと同様に生粋のドルヲタ。しかし、金銭感覚はコイツ等の方が大分マシ。

星野アイ
 完璧で究極のゲッターを目指す物語が始まってしまったアイドル。作者が『仮面ライダー THE NEXT』に登場した「Chiharu」のアイドル要素を申し訳程度に入れようとした結果、『シン・仮面ライダー』で登場したAIが「アイ」って名前だった事で彼女が採用された。後は「個人的に今年一番面白かったネタは入れないとな」と言う作者の使命感。

星野アイ「アイの新曲『MOG・ROG』『MAゴコロあ・げ・る』聞いてね♥」
イナゴ怪人グリス「愚かな人間共がアイの虜となり、ゴルショッカーの奴隷となる日もそう遠くないと思われます!」
イナゴ怪人BLACK「社会や学校に失望し、アイドルを応援する事でしか生きがいを感じられない若者に目を付けるとは、良い所に気がついたな」
シンさん「………」

 上記の会話は『仮面ライダーBLACK』でのビシュムとシャドームーンの会話が元ネタだが、これが1988年(昭和63年)で行われていたと言う事実に作者は戦慄した。ドルヲタとは何時から地上に存在していたのだろうか……。



レリーフ越しに語る組織のトップ
 何処からどう見ても仮面ライダーではなく、ショッカーの大首領の所行。しかも、この時の音声は主人公の肉声ではなく、ショッカー首領でお馴染みの納谷悟朗ボイス。ある意味では正体の隠蔽を徹底していると言える。

ショッカーにはアイが必要
 元ネタは『シン・仮面ライダー』に登場する、SHOCKERの運営・管理を行っている人工知能。『最も深い絶望を抱えた少数の人間を救済する』と言う部分は、ある意味では今作のショッカーの大首領と共通している。その方法はまず相容れないだろうが。

ゴルゴムにはヒートヘブンが必要
 元ネタは『仮面ライダーBLACKSUN』に登場する、怪人の食料。元ネタは人間の肉片と創世王のエキスのミックスゼリーと言う『アマゾンズ』も真っ青の代物だが、この世界ではミュータントバッタのエキスが主原料。味はひとまずレモン・リンゴ・メロンの三種類を予定。

存在しない記憶
 元ネタはご存じ『呪術廻戦』だが、これは『真・仮面ライダー 序章(プロローグ)』において既に映像化されているのだ。余りにも時代を先取りし過ぎた御大こと石ノ森章太郎先生の発想力には脱帽なのだ。


後書き
 ログイン出来ない間に貯まりまくっていた感想は、明日からゆっくり消化していきます。それでは読者の皆さん、よいお年を。
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