そして、前話を投稿した後、何気なく日刊ランキングを見ていたら本作が18位にランクインしていてビックリ。『怪人バッタ男』に対する変わらぬご愛顧ありがとうございます。
今回のタイトルの元ネタは『ビルド』の「ビルドが創る明日」。出来れば気晴らしも兼ねてチマチマ書いていた『ビルド』や『リバイス』世界に怪人主人公が介入した外伝『怪人バッタ男 世界を駆ける』を同時に投稿したかった所ですが、完成にはまだ時間がかかりそうです。
7/8 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。
相澤先生より言い渡された三日間の謹慎が終わり、勝己より一足早く、そして出久より一足遅く復帰し、俺の雄英高校の二学期が遂に幕を開けた。
呉島新、復活ッ!! 呉島新、復活ッッ!!!
「恥ずかしながら、帰って参りました」
「恥ずかしながらって……」
「シン君、オツトメご苦労様!!」
「いや、オツトメって……」
「全くだ。娑婆の空気は美味い……!」
「いやいや、娑婆って……ホントに対照的だよね、アンタ等……」
俺の帰還を個性的な台詞で歓迎する麗日に対し、ギャグなのかマジなのかよく分からない返しをするイナゴ怪人1号と、困惑しつつも律儀にツッコむ耳郎を余所に、久々に足を踏み入れた1年A組の教室は、改めて自分が日常へ帰還した事を実感させる。いやはや、今年は実に濃密な夏休みだったな。
「ま、兎に角今は三日間の遅れを取り戻さんとな」
「あ~……、うん。お前としては、確かにそうなんだろうケドな……」
「遅れてるどころか、ぶっちぎりで先に行ってるからな」
「俺等の方がむしろ置いてかれてる感がスゲェってどう言う事だよ」
我らがA組の賑やかし担当である切島、上鳴、瀬呂の三人が、俺に対して何とも言えない微妙な顔で、何とも反応に困る事を宣った。
それもその筈。俺自身は謹慎中であるにも関わらず、始業式での恐るべき宣誓から三日が経過した現在、ヒーロー事務所『暗黒組織ゴルショッカー』は世間を無駄に大きく騒がせているのだ。
現在、ネット上では誰がどう見ても「世界征服を企む悪の秘密結社の集会」としか思えないゴルショッカーの結成式や、雄英高校二学期の始業式を筆頭に、様々な怪人動画が今『ゴルショッカーチャンネル』より全世界に向けて配信されている。
これは情報戦略の一環なのだが、別に独断でやっている訳では無い。これでもオールマイトを筆頭としたプロヒーロー達や、塚内さんの様な警察関係者などと話し合った結果、「問題ない」と太鼓判を押されたCMなのである。
かくして、ゴルショッカーとしての活動が本格化した翌日。ネット上に掲載された気になる記事の見出しは――
『ヴィラン殲滅指令! 迫るゴルショッカー、地獄の軍団!』
――である。仮にもヒーロー事務所を名乗っているとは到底思えない謳い文句であるが、間違っている事は一切書いていない。ゴルショッカー怪人軍団はヴィランにとって『地獄の軍団』以外の何者でもないからだ。
さて、兎にも角にも予定より大幅に早く世間様にデビューする事と相成ったゴルショッカーであるが、一応はエンデヴァーヒーロー事務所の預かりである。これはエンデヴァーが暫定№1ヒーローである事と、実際に怪人達の有用性を知っているプロヒーローが、エンデヴァー以外だとMt.レディとプッシーキャッツ。後は仮免試験で相対したギャングオルカ位しか居ない為である。
そして、エンデヴァーは万年№2なんて呼ばれているが、その一方で史上最多の事件解決数を誇るヒーローである。つまり、プロヒーローの中でもダントツで活躍の場が多い訳で、怪人軍団がヒーロー達のサポートだとしても活躍の機会は多い。
そして、実際に怪人達が世の為人の為にヒーロー的な活動を行った翌朝。その事について書かれたネットの記事の見出しは――。
『日本征服完了! ここにも! そこにも! あそこにも! 怪人軍団大暴れ!』
――我ながら、本当に正義の味方なのか疑わしくなるような一文だ。これでもキャッチコピーとして「よい子の為に平和を守る! 悪を懲らしめ成敗する!」を掲げている暗黒組織……もとい、ヒーロー事務所なのだが。
確かに北は北海道から、南は沖縄まで、日本全国津々浦々にゴルショッカーの怪人達を派遣しているが、別に大した事はしていない。精々、怪人達がチンピラレベルのヴィランの不意討ちからヒーローを守ったり、カツアゲしていた不良をしばき回したり、迷子の子供や老人を目的地に送ったり、ゴミ拾いなど地域のボランティアに精を出したりと、極々普通の事をしただけだ。
ちなみに今日のニュースサイトに掲載された、ゴルショッカーに関する記事の見出しは――
『大首領かく語りき! ゴルショッカーが創る、明日の地球とは!?』
――果たして俺は自分が成りたいヒーローである、『生まれ持った“個性”に苦しむ人達の“希望の象徴”』にちゃんと近づけているのだろうか?
お陰で現在、ネット上では『日本征服RTA走者』だの、『ありとあらゆる意味で早過ぎる怪人』だの、名誉なのか不名誉なのかよく分からない様々な二つ名が俺に付けられている。
とは言え……だ。明らかに『仮面ライダー』としての名よりも、『大首領』や『創世王』の名の方が世に認知されようとも。実は平成イナゴ怪人軍団が世界中に散らばっているので、本当は日本征服どころか地球征服を成し遂げられる状態が密かに作り出されていようとも。世間がゴルショッカーに注目しているこの状況は、我々が事前に想定した通りの展開だったりする。
現在逃走中の死柄木弔が率いる『敵連合』。世代を超えて虎視眈々と雌伏の時を狙う『異能解放軍』。オール・フォー・ワンの協力者である『財団』。倒さねばならぬ闇組織は数あるが、未だにその全貌は掴めていない。
『敵連合』に関してはトガヒミコこそ確保できたが、あれは完全にまぐれ当たりの様なもので、現に『敵連合』の他のメンバー……特に「改造技術者」や「脳無」を筆頭とした改造人間に関係する情報は、日本中に派遣したゴルショッカーの怪人達から報告は一切無い。『異能解放軍』や『財団』に関しても似たようなモノである。
そこで考え出されたのが、この『ゴルショッカー日本征服作戦』である。内容としては至って簡単。日本征服を企む連中よりも早く我々ゴルショッカーが日本を征服したと大々的にアピールする事で、ヴィラン共を死ぬほど悔しがらせてやるのである。
普通の人からすれば「それに一体何の意味があるのか?」と思うだろうが、ここは相手の立場になって考えて欲しい。オール・フォー・ワンの息が掛かった『敵連合』も、リ・デストロが率いる『異能解放軍』も、総じて日本を征服する為の準備をしてきた筈なのである。それも恐らくは何十年もの歳月を掛けて。
つまり、彼等からすればヒーロー事務所『暗黒組織ゴルショッカー』は、自分達を差し置いて、いきなり自分達の目的を電光石火の速さで達成してしまったのである。それもヒーローサイドと言う全く予想外な連中が合法的に。
例えそれが名ばかりのモノだとしても、「日本を征服した」と世間に認識されれば腸が煮えくりかえると言う言葉がよく似合う心境になる事は明白だ。いや、実際に怪人達は日本の至る所に居る訳なんだけれど。
真に賢しいヴィランは闇に潜む。しかし、その闇に潜んで等居られない様な状況が起きればどうなるだろう? それこそ雨が降ると地中の酸素が不足する為に地表に躍り出るミミズの様に、辛抱堪らず闇の中から飛び出して来るのではないだろうか?
いずれにせよ、撒き餌は充分に撒いた。これでもかと言わんばかりに撒いた。後は釣り針を付けた餌に獲物が掛かるのを待つばかりである。果たして小物が釣れるか、大物が釣れるか。今はじっくりと待つ事にしよう。
ちなみに、雄英の方ではこの三日間でどんな動きがあったのかと言うと、仮免試験に潜入していた『敵連合』のトガヒミコを捕まえたと言う実績は我々が思ったよりも大きく、彼女が『変身』と言う恐るべき“個性”を持っていた事も相俟って、生徒の保護者……特に林間合宿で直接的な被害に遭っているヒーロー科1年A組とB組の保護者の皆様から、ゴルショッカーへ幾つもの感謝の言葉が雄英に寄せられたらしい。
本来であれば相澤先生を筆頭とした、雄英の教師陣が取り戻すべき信頼を横取りしてしまった様で少々気が引ける話だが、先生方は「そんな事は気にしなくて良い」と言ってくれたので気にしない事にした。
「じゃ、呉島も戻った所で……本格的にインターンの話をしていこう。入っておいで」
「ん?」
「?」
かくして、朝のHRが始まった訳だが、『ヒーローインターン』についての説明は俺が居なかった為に行っていなかったらしい。俺の場合はかなり特殊だから、出久が戻った段階でも良い様な気がするが……。
「職場体験とどう言う違いがあるのか、直に経験している人間から話して貰う。多忙な中、都合を合わせてくれたんだ。心して聞くように。現雄英生の中でもトップに君臨する3年生3名――…通称『ビッグ3』の皆だ」
「!!」
相澤先生の合図を受けて教室に入ってきた3年生3名……特に、先頭を歩く金髪の男を見た時、俺はある出来事を思い出した。
●●●
それは、謹慎一日目が終わろうとする夕方のこと、ゴミ捨て場までゴミ袋を運ぶ傍ら、残り二日をどう過ごしたモノかと考え事をしていると、俺の視界に明らかにそこにあってはならないモノがある事に気がついた。
「………」
「!?」
顔だ。壁から男の顔が生えている。しかもあろうことか、目が合った瞬間此方を見て笑っているではないか。
「ゴミね。食品トレイとかも可燃で出しちゃって大丈夫だからね」
「あ、はい……」
男の顔は俺の返答を聞いて満足そうに頷くと、壁の中へと消えていった。
「今のは確か……」
「『ゴルショッカー』の大首領って君だよね!?」
……と、思いきや。今度は地面に男の顔が生えた。何とも奇妙な遭遇であるが、それでも未知との遭遇と言う訳では無い。
「……そう言う貴方は、ルミリオンですね?」
「おや? 俺の事、知ってるの?」
「出久とナイトアイから少し……神野ではお世話になったそうで」
「アハハ! お世話って程でもないけどね! むしろ瞬殺されちゃったし! まぁ、近いうちにまた会う事になるんだけど、気になってチョット様子を見にきたんだよね。その時は神野のリベンジを――」
「………」
消えた。どうやら今度こそ、この場から立ち去った様だ。しかし、神野のリベンジとは一体……。
●●●
……とまあ、そんな事があった為に気にはなっていたのだが、リベンジってこう言うことか? てか、真ん中の先輩は体育祭の時に、イナゴの佃煮と蜂の子の素揚げを持っていった人ではないか。確か天喰とか言う「食べた物を再現できる“個性”」を持った人の為だった筈だが……。
「雄英生のトップ……」
「『ビッグ3』……!!」
「びっぐすりー!!」
「あの人達が……。的な人が居るとは聞いてたケド……!」
「めっちゃキレーな人居るし、そんな感じには見えねー……な?」
「目標、捕捉……補足補足補足補足補足補足……!!」
「ヌハハハハ、笑止! 何が雄英生のトップ! 何が通称『ビッグ3』だ! 貴様等が雄英の頂点に君臨する存在だと言うのなら、我が王はこの星の頂点に君臨する絶対唯一にして最強たる極限の単独種! 通称『アルテミット・ワン』だッ!!」
雄英高校の頂点に君臨する先輩三名の登場に教室が沸いている中、体育祭の時の事を考えていた俺は、何時の間にか隣に居るイナゴ怪人1号の手によって地球最強の存在に押し上げられていた。
しかも、割と冗談になっていない上に、二つ名として妙に上手いネーミングだった。『ワン・フォー・オール』と『オール・フォー・ワン』が融合した『究極の一』たる“個性”――その名も『アルテミット・ワン(タイプ・ホッパー)』って感じの……。
「通形先輩!」
「や! 緑谷君達は久し振りだよね!」
「知った顔も居るみたいだが……手短に自己紹介宜しいか? まず天喰から」
居たよ、天喰って先輩……もしかして体育祭ではあの後、隣の波動先輩からイナゴの佃煮や蜂の子の素揚げを食わされたのだろうか? 若干、申し訳ない気持ちになりながらも、相澤先生から自己紹介を促された天喰先輩は、突如凄まじいまでの目力を発揮した!
「(なんて目つきだッ!!)」
「(一瞥だけでこの迫力―――! おおおおお!!)」
一瞬にして緊張感に包まれる教室! そんな天喰先輩に対し、飯田を筆頭に畏敬の念を感じる者がチラホラ居たのだが――。
「――駄目だミリオ……、波動さん……。ジャガイモだと思って臨んでも……頭部以外が人間のまま……依然人間にしか見えない。イナゴ怪人に至っては只の化物にしかならない。どうしたらいい。言葉が……出てこない」
「!?」
「頭が真っ白だ……辛いッ! 帰りたい……ッ!!」
「「「「「「「「「「(ええ……!?)」」」」」」」」」」
その言葉を最後に、此方に背を向けてしまった天喰先輩。どうやら、かなり無理をしていらっしゃったご様子。そんな天喰先輩のギャップにクラスの皆は混乱するばかりである。
「あの、雄英……ヒーロー科のトップ……、ですよね……?」
「あ、聞いて天喰君! そう言うのってノミの心臓って言うんだって! ね! 人間なのにね! 不思議! 彼はノミの『天喰環』。それで私が『波動ねじれ』。今日は“
そんな天喰先輩に代わり、真ん中の波動先輩がA組に来た目的を話してくれるが、相変わらず独特の雰囲気としゃべり方をする人だった。
「けどしかし……ねぇねぇ、そこの君。もしかして君がゴルショッカーの大首領? 体育祭の時に会ったよね? 何で怪人じゃなくて人間の姿なの? 何で大首領って呼ばれてるの? と言うか創世王でもあるってどう言う事なの?」
「ヌハハハハハ! 良かろう! このイナゴ怪人1号が我が王に代って――」
「あ! 君がイナゴ怪人だよね? ね! 何で呉島君の事を我が王って呼んでるの? それと、ゴルショッカーに『ポン○ッキ』のムッ○や、『にこ○こぷん』のぴ○ころが居るって本当?」
「………」
「ねぇねぇ、世界征服を企んでるって噂は本当なの? 最近見た二頭身の虎みたいなムガムガ言ってたのはマスコットなの? それともバウバウ言ってた犬のロボットの方? ねぇねぇ、答えて。とっても気になるの」
「………」
そして、やっぱりこの先輩はイマイチ掴み所が分からん。俺としてはあの後、イナゴの佃煮と蜂の子の素揚げがどうなったのかが気になるのだが、質問する勇気が無い。
「天然っぽーい。かわいー」
「幼稚園児みたいだ」
「……合理性に欠くね?」
「イレイザーヘッド、安心して下さい!! 大トリは俺なんだよね! 前途――!?」
「「「「「「「「「「(ゼント……?)」」」」」」」」」
「多難」
「そう! 多難――! っつってね! ありがとう呉島君! そしてツカミは大失敗だ! アッハッハッハッハ!」
「……3人とも変だよな。ビッグ3と言う割には……何かさ……」
「風格が感じられん」
「まァ、何が何やらって顔してるよね。必修って訳でも無い“
うわぁ、急に冷静になった! とは言え、砂藤や常闇の言いたい事も理解出来る。三人ともキャラが濃い事は確かだが、雄英のトップ3と言われると……まあ、初対面かつ今の会話内容ではイメージしづらいだろう。
「1年から仮免取得……だよね。フム。今年の1年生って凄く……元気があるよね……。そうだねェ……何やらスベリ倒してしまったようだし……」
「ん?」
「ミリオ!?」
「君達纏めて、俺と戦ってみようよ!!」
「「「「「「「「「え……ええ~~~~~~~~~!?」」」」」」」」
「俺達の“経験”をその身で経験した方が合理的でしょう!? どうでしょうね、イレイザーヘッド!!」
「……好きにしな」
かくして、ヒーローインターンについての話は、講話から実戦形式での体験に変更され、俺達は体育館γに向かう事となった。
「ふむ……そう言う事であれば……」
そして、イナゴ怪人1号の独り言を聞いた俺は、物凄く嫌な予感がした。
●●●
そんなこんなで通形先輩と戦う事になった俺達は体操服に着替え、体育館γに移動した訳であるが……。
「あの……マジすか?」
「マジだよね! ところで……」
「ミリオ……止めた方が良い。インターンについては、形式的に『こう言う具合で、とても有意義です』と語るだけで充分だ」
「何で環は磔になっているのかな?」
俺の予感は寸分の狂いもなく的中してしまった。現在、体操服に着替えた天喰先輩は、なんかイイ感じの崖の上で、ゴルショッカーのレリーフが付いた十字架に手足を縛られる形で拘束されている。
「決まっておろう! 貴様の経験とやらを体験する為、より実戦的な形式にしたまでの事よ! 具体的には『悪の秘密結社に捕まったヒーローのお仲間』と言う設定だ!」
「物凄く説得力のある設定だね! 色んな意味で!」
それにしても同じ『ビッグ3』でも、通形先輩と天喰先輩は実に対照的な性格をしている。下の名前で呼び合っている事を考えるとかなり親しい関係のようだし、所謂「でこぼこコンビ」的な間柄なのだろうか?
ちなみに十字架に縛られて磔になっている天喰先輩であるが、実はちゃんと地に足が着いている。つまり見た目は完全に人質のそれだが、イナゴ怪人は人質の体調にちゃんと配慮する事ができる怪人なのである。
「皆が皆、上昇志向に満ち満ちている訳じゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」
「え?」
「立ち直れなくなるって……」
「あ、聞いて、知ってる? 昔挫折しちゃって、ヒーロー諦めちゃって、問題起こしちゃった子が居たんだよ。知ってた? 大変だよねぇ、通形。ちゃんと考えないと辛いよ。これは辛いよー」
「ガムガム、ムーガ? ゴロゴロ……」
「アハハ! 虎なのに猫みたい! 不思議!」
「それで波動さんは何でそんなセクシーな衣装を着ているのかな?」
「知れたこと! この無意識の内に人間の心の地雷を踏み抜く処か、心の地雷原でコサックダンスを踊りそうなこの娘は、ゴルショッカーが誇る怪人ダイナマイトタイガーの恐るべき魅力に屈し、怪人マインスイーパーに生まれ変わったのだッ!!」
「うん! そう言う設定って事だね!」
「まぁ~た勝手に変な名前付けてるし」
「しかも3年の先輩に」
「………」
イナゴ怪人1号の言いたい事はなんとなく分かる。波動先輩は何と言うか、出久とは別のベクトルで人の気にしている所に踏み込む雰囲気がする。それこそ、放っておけば致命的な間違いを犯しそうだ。
尚、今の波動先輩は黒いレオタードに網タイツ、そして赤のネッカチーフと腰布を巻いた上でベレー帽を被っており、その姿はダイナマイトタイガーを膝に乗せて弄り倒してなければ、悪堕ちしたヒーローの様に見え無くもない。……多分。
「メッチャ羨ましいッッ!!!」
「お前、いい加減に鏡見た方が良いぞ?」
「………」
そして、これでもかと下唇を噛み締め、血涙を滝の様に流しながら、まるで親の仇の様にダイナマイトタイガーを見つめる峰田は、もはや色々と手遅れだ。何がA組のマスコット枠を奪われただ。お前がA組のマスコット枠だと思っている奴は誰一人として居ないぞ。
「そして! 我々がこの男を捕獲したのは、実は人質にする為ではない! 聞くところによるとこの男、『食べた物を肉体に再現する』と言う“個性”を持っているそうだな?」
「うん、そうだね! 環の“個性”は『再現』! 食べた物の特徴を体に再現する事が出来る“個性”なんだよね!」
「スバラシイ能力ではないか!! この男に我々ゴルショッカーが世界中から集めた素材を摂取させれば、複数の生物や植物などの特徴を備えた恐るべき合成怪人が誕生する!! 具体的にはこのゴリラのエキスと粉微塵に砕いたダイヤモンドを摂取させる事で、『合成怪人ゴリラモンド』になれるかの実験を開始するッ!!」
「合成怪人ゴリラモンド!?」
「いや、何でゴリラとダイヤ?」
「知れたこと。ゴリラとは怪力で有名な生き物だが非常にデリケートでストレスに弱く、ダイヤモンドはその硬度ゆえに滅多に傷つかないが、ハンマーなどで叩くと容易く割れる。この強靱さと脆さを併せ持つ特徴を持つゴリラとダイヤモンドこそ、この男に最も相応しいベストマッチな組み合わせだと思わんかッ!?」
「案外、ちゃんと見て考えてるんだね」
「そう言われると、確かに先輩に合ってる組み合わせの様な気がするね」
現在、平成イナゴ怪人達が世界中に散らばっているお陰(?)で、ゴリラやペンギンを筆頭とした我々もよく知る生物は勿論の事、『生きた化石』として有名なシーラカンスだとか、同じく『生きた化石』的な南米の奥地に生息する爬虫類ピラザウルスだとか、紀元前1800年頃にエジプトに居た火を吐く怪物エジプタスのミイラだとか、ユニコーンによく似たユニコルンとか言う古代生物の化石だとか……兎に角、様々かつ得体の知れない怪人の素体となるものが雄英に送られている。
平成イナゴ怪人軍団は伝説の雪男であるイエティさえも発見し、生け捕りにして日本に送る位には無駄に行動力溢れる連中であるから、もはや何が送られてきたとしても全く可笑しくはない。
だからそれを持って来た時も正直な話、あまり驚きはなかった。「ああ、見つけて来たんだ」と言う印象だった。生きた個体だったなら流石に心底驚いただろうが見つけたのは化石。それも完全体ではなく極一部分だったから。
「最終的には我々が発見したプテラノドン、トリケラトプス、ティラノサウルスの化石から採集・再生した血液を摂取させ、合成大怪人プトティラザウルスになって貰うのだッ!!」
「合成大怪人プトティラザウルス!? 一体どんな怪人なんだ!?」
「良いだろう! この男へのプレゼンも兼ねて教えてやる!! 合成大怪人プトティラザウルスとは、頭と両腕がプテラノドンになっており、トサカを引っ張る事で嘴が縮み、嘴が戻る反動で衝撃波を放つ事が出来るッ!!」
「いや、チョット待て!! プテラノドンにそんな事が出来るなんて聞いた事ねぇぞ!!」
「馬鹿め!! プテラノドンとはそう言う恐竜だ! 太古の昔、プテラノドンはそうやって大空を舞いながら狩りをしていたのだッ!!」
「そ、そうだったのか! 知らなかった!」
「先輩、絶対違います!」
「と言うか、プテラノドンは恐竜ではなく翼竜ですわよ?」
「分かっているが、翼竜より恐竜と言った方が分かりやすいだろう! そして、胴体からはトリケラトプスの首が生えており、二本の角を伸ばして敵を突き刺したり、フリルの部分を電ノコの様に高速で回転させたりする事が出来るッ!!」
「いや、それも嘘だろ!?」
「馬鹿め!! トリケラトプスとはそう言う恐竜だ! この能力で数々の肉食恐竜を返り討ちにし、“実在した最強の生物”として今日まで語り継がれてきたのだッ!!」
「そ、そうだったのか! 知らなかった!」
「もう突っ込まねぇぞ……それじゃ、ザウルスは!? ティラノサウルスの部分は何なんだ!?」
「下半身がティラノサウルスになっており、強靱な脚部と尻尾が生えているのだ!」
「……それで?」
「それだけだ」
「いや、何でだよ!? 尻尾がドリルになるとか、なんかあるだろ!?」
「馬鹿め!! ティラノサウルスとはそう言う恐竜だ! 様々な能力を持つ数多の恐竜を圧倒的なフィジカルのみでねじ伏せ、この星の頂点に君臨していたのだッ!! そう、まるでオールマイトの様になッ!!」
「そ、そうだったのか! 知らなかった!」
「い、今までで一番説得力がある説明だけど……」
「なんか凄い釈然としない……」
「………」
いや、通形先輩って本当にノリが良いな。師匠がナイトアイだからか、ユーモア溢れる……と言うかもう支離滅裂のレベルだが、イナゴ怪人の珍妙で奇天烈な言動の数々に対してイイ感じのリアクションをとっている。クラスの皆はツッコミの雨霰だと言うのに。
「(正直、このイナゴ怪人の提案は勘弁して欲しい。恐竜の血とか飲みたくない。あと、プトティラザウルスの姿を想像してみたが、そんなの恐竜じゃなくて化物だ。だが……恐竜と聞いて目を輝かせるミリオや1年生達の期待を裏切る様で、断る事が出来ないッ!! 辛いッ!!)」
「さあ、お膳立てはココまでだ! 恐怖するがいいルミリオンよッ!! 我ら『暗黒組織ゴルショッカー』を統べる大首領にして、新世界に君臨する創世王! 即ち、我が王たる呉島新の知と力の前にひれ伏すが良いッ!!」
「OK! さあ、何時何処から来ても良いよね! 一番手は誰だ!?」
「あ、ちょっと待って下さい。作戦タイムです」
内心で「茶番の間違いだろ」と思いつつ、これから始まる対通形先輩戦に関して未だに何も話し合っていない為、一応作戦を練る為の時間を要求してみる。要求が通らなかったら通らなかったでやりようはあるが……。
「うん! 認める!」
「認めるんだ……」
「それだけ余裕があると言う事か」
「いや、実際にあの人はマジで強えよ。俺と緑谷と轟の三人相手に瞬殺したからな」
「……え、マジ?」
上手い事、作戦を練る時間が確保できた。そんな通形先輩をクラスの半数以上が疑わしげに見ているが、クラスでも屈指の戦闘力を持つ轟や、近接戦闘に優れた出久と切島を瞬殺したと聞けば話は変わる。
「取り敢えず、あの通形先輩の“個性”ってなんだ? 緑谷達は知ってるんだよな?」
「うん。“個性”は『透過』。どんな物でもすり抜ける“個性”で、その応用でワープが出来るんだ」
「実質、“個性”を二つ持ってる様なモンか……」
「うん。ただ、任意で発動する“個性”で、ワープは『透過』を解除した時に『質量のあるモノが重なる事が出来ない』から起こる現象だって言ってたから、ワープした瞬間を狙うカウンターが有効だとは思うんだケド……」
「『ビッグ3』と呼ばれる実力者である以上、当然“個性”が割れた場合の対策もしている筈ですわ」
「いずれにせよ、その透過やワープがどんなモンなのか、実際に見て検証する必要があるな……変身」
話を聞く限り防御や回避、そして移動に優れた“個性”で、中・遠距離攻撃は不可能。主な攻撃手段は近距離の徒手空拳とみた。
「まずは俺が突っ込む。皆は隙があったら援護でも攻撃でも、好きな様にやってくれ。兎に角、『透過』による防御やワープを使わせて、その性能を見てみたい」
「大首領!! 良いね! 君やっぱり元気があるなぁ!」
「『仮面ライダー』です……」
まあ、今の見た目は完全に「怪人バッタ男」なので、「仮面ライダー」よりも「大首領」の方がしっくりくるのはワカるが、それでもヒーローネームで呼んで欲しいと思うのは贅沢だろうか?
「引き締めてくぞ! ワープすると一瞬で近くに出てくるからよ! そいじゃ通形先輩、折角のご厚意なんでご指導ぉ――よろしくおねがいしまーすッ!!」
そして、切島の言葉と同時にいよいよ模擬戦開始……と意気込んだのも束の間、通形先輩の服が地面に落ちた。それも、服が体をすり抜ける様に。
「あーーーーーーッ!!」
「服が落ちたぞ!!」
「安心して下さい! ちゃんと履いてますよ!」
確かにパンツは履いているが、デザインがかなりきわどい所為で、見る角度によってはまるで履いてない様に見える。てゆーか、明らかに意図的に履いてない様に見えるポーズをビシッと決めていらっしゃる。これはもう確信犯ですわ。
「隙有りッ!!」
「!?」
「トォウッ!!」
そんなユーモア溢れる面白いポーズを、超強力念力を用いて完全に固定。その場で高く跳躍して一気に仕留めに掛かる。
「ライダァーーー、キィーーークッ!!」
しかし、必殺の跳び蹴りが当たる少し前、超強力念力の手応えがなくなり、通形先輩は何事も無かったかの様に歩き出し、俺の突き出した右足は通形先輩の顔をするりと通り抜けた。
「初手、必殺技て」
背後で着地する俺を見つつ、迫り来るレーザー・テープ・酸の三つの追撃を見る事無く『透過』で全て回避する通形先輩。まるで「何が来るのか分かっていた」かの様な行動……それに既視感を覚えるのは、やはり通形先輩がナイトアイの弟子だからだろうか。
そんな事を考えつつ、容赦なく“個性”による攻撃に晒される通形先輩を観察するが、土煙が上がるとその姿が見えなくなる。そして、視界が晴れた時には、通形先輩の姿は影も形も無かった。
「待て! いないぞ!!」
「まずは遠距離持ちだよね!」
「ぎゃぁあああああああああああ!?」
「でしょうね」
「およ!?」
そして、これが『ワープ』か。確かにこのスピードは殆ど瞬間移動に近い。しかも、通形先輩から最も離れていた耳郎の真後ろに現れた所から、移動できる距離もかなり長い。
だが、『ワープ』が『透過』の応用であり、『透過』により実体を無くしているとしても、死んでいる訳ではない。だから問題なく見えるし、感じ取ることが出来る。通形先輩の体から発せられる美しい生命エネルギーの炎……『オーラ』が。
「ふむ……流石に『アルテミット・ワン』を名乗るだけはあるよね!」
「グハハハハ!! その通りだ、ルミリオンよ! 例え、この雄英高校の頂点に君臨しようとも、貴様なぞ『アルテミット・ワン』たる我が王の足元にも及ばぬッ!!」
「………」
最初に狙われた耳郎の他、八百万、常闇、瀬呂、青山、芦戸、上鳴、峰田、障子、梅雨ちゃんを通形先輩の魔の手から救出したものの、この間僅かに約5秒。この短時間で10名もの人間を強襲していると言う事実に戦慄を禁じ得ない。
高笑いするイナゴ怪人1号が言う様に、決して自惚れる訳では無いのだが、仮に俺がそこで見学している轟の様に参戦していなければ、先程の10名は為す術なく地に伏していただろう。そう思える程、通形先輩は強い。
「分かっちゃいたけど……メッチャ強え!!」
「すり抜ける上にワープとか、もう無敵じゃないですか!」
「ずるいや! 何か弱点とかないの!?」
「あるぞ。割と目白押しだ」
「「「「「「「「「「マジで!?」」」」」」」」」」
「!!」
「弱点の無い“個性”は存在しない。一見すれば無敵に思える様な能力でも、必ず何らかの制限がある。時にはその強大な能力そのものが弱点になるパターンも存在する。通形先輩の『透過』は正にソレだ」
「能力そのものが……」
「弱点?」
「通形先輩は“個性”を発動している間、息をしていない。『“個性”の発動条件が息を止める事』なのか、『“個性”の発動中は息が出来ない』のかは分からないが……いずれにしても“個性”を使わせ続ければ酸欠状態に追い込んで気絶させる事が出来る筈だ」
「オオ!!」
「それじゃ、遠距離攻撃が出来る人を最初に狙ったのは……」
「通形先輩に中・遠距離の攻撃手段が無いからだ。距離を保った状態で中・遠距離攻撃に晒され続けて“個性”を使わされ続けたら、いずれは限界が来て自滅する。だからそれが出来るヤツを先に潰す必要があった」
「「「「「「「「「「なるほど~~」」」」」」」」」」
「………」
「次にすり抜けはあくまでも物理的なものだから、精神に作用する“個性”は普通に通用する可能性がある。例えば心操の『洗脳』や、ベニザケ怪人の『シャケ料理フルコース攻撃』なんかがそうだ」
「精神系か……でも、ウチ等にそんなタイプ居ないよね?」
「そう考えると、やっぱ心操って凄ぇ“個性”持ってんだな」
「強いて言うなら口田の“個性”がソレに近い。人間には使えんがな。最後に、ワープは地面に潜った時のみ発動している。逆に言えば、地面に潜った時は必ずワープする。なら移動先を先読みすれば、罠に嵌める事も可能だろう」
「シン君はどうやって先読みしてたん?」
「先読みしたんじゃなくて『オーラエネルギー』……つまり通形先輩の生命力を感知していた。透過して実体が無くなっていると言っても、相手は『生きている』。死んでさえいなければオーラで居場所を感知する事は可能だ」
「!!(この一年……事も無げに言っているが、移動したミリオを感知してから対応していたのか!?)」
「厄介なのは、『実体が無くなる』と言う“個性”の特性上、地面を移動する際に音や振動が出ないから、聴覚でワープの出現場所を特定する事が出来ないって事だ。幸い、遠・中距離攻撃が使える面子は全員無事だし、これまでの出現パターンからある程度は移動先を予測して罠を張る事も出来るだろう。具体的には……」
「よし、其処までだ。呉島は下がれ」
「「「「「「「「「「えぇーーーーッッ!?」」」」」」」」」」
「お前等、呉島におんぶに抱っこで勝って嬉しいか? ある程度は攻略の道筋も見えてきたんだから、後はお前等だけでやってみろ」
「む……」
「それは……」
「2度目の作戦ターーイムッ!」
「うん、認めるッ!!」
認めるのか……。まあ、実際にやりあって思ったが『透過』の防御・回避性能はアホかと思う程高い。発動中はほぼ無敵だ。しかし、それ以上に厄介なのは『透過』の性能よりもむしろ……。
「いやはや、リベンジならずだね! ちなみに、呉島君はどうやって俺の『透過』を攻略するつもりだったんだい?」
「そうですね……フッ!!」
通形先輩に一気に接近し、腹部目掛けてアッパー気味に右拳を放つ。すると通形先輩は先程の蹴りと違い、両腕でガードの姿勢を取った。
恐らくは神野区の戦いの際、シャドームーンのオーラエネルギーを受けた経験が通形先輩の体を突き動かし、拳をガードさせたのだろう。
「ぬぅうううッ!?」
しっかりと『透過』を使ったにも関わらず、拳を腕で受けて吹き飛ぶ通形先輩の姿に、その場にいた誰もが驚愕した。
「つぅ……今のは!?」
「先程説明した『オーラエネルギー』を纏った拳で、先輩の『オーラ』を殴ったんです。だから『透過』で実体が無くなっても攻撃が通った。『オーラエネルギー』を持つ相手なら……つまり相手が生きている限り有効な技です。出力を調整すれば、一撃で気絶に追い込む事も出来ます」
「何とも痺れる技だね……! 二つの意味で!」
「そのユーモアを忘れない台詞回しは、実にナイトアイらしいですね」
かくして、通形先輩に有効打を一発入れると、俺は怪人の姿から人間の姿へと戻り、相澤先生と轟の元へと歩を進めた。ふと気がつくと天喰先輩が、俺を「有り得ないモノを見た」と言わんばかりの顔をしてガン見しているが気にしない。
「しかし、轟はやらないのか? 貴重な強敵と戦うチャンスだぞ?」
「俺は仮免取ってないからな……」
「そうか……」
正直、轟が参戦しないとなると、A組の勝利はかなり厳しい。まず『透過』を解除する事によるワープだが、これは炎が適用されない可能性がある。
炎とは固定の質量を持った“物質”では無く、熱と光を出す“現象”である為、地面に潜ると同時に辺り一帯を火の海にすれば、通形先輩は地面から弾かれる際に炎を透過できず、ダメージを受ける可能性がある。
そうでなくとも、炎を使われ続ければ空気中の酸素濃度は低下していくし、極端な高温や低温は身体機能を著しく低下させる為、遠距離攻撃を持たず肉弾戦による近接戦闘しか出来ない通形先輩にとって、身体機能の低下はかなりの痛手になる。
神野区に行く前にナイトアイから提案されたテストにおいて、轟は出久や切島と共に瞬殺されたらしいが、話を聞く限りは通形先輩の勝利は戦術的な部分や不意討ちによる所が大きく、こうした形式での戦闘となれば割とイケると俺は思う。
つまり、轟の『半冷半燃』は通形先輩の『透過』が相手でも割と有効な“個性”であり、仮に倒す事は出来なくとも、ワープを封じる事で倒しやすくする位なら可能だと思うのだが……如何せん、本人にやる気が無いならそれは期待できない。
「良い機会だからお前等、しっかり揉んで貰え。その人……通形ミリオは俺が知る限り、最も№1に近い男だ。プロも含めてな」
「………」
他にワープを封じる、或いはそれに伴う『透過』の解除によるカウンターを取る事が出来そうなのは、質量を持たない
そして、道具を作成する事で周囲に炎を撒いたり出来る『創造』の八百万に、『透明』故に透過するタイミングが見えない葉隠も案外イケそうな気はする。
「よし! それじゃ改めて、よろしくお願いしますッ!!」
「………」
ふむ、遠距離主体のヤツと近距離主体のヤツが2~3人で組み、互いの死角を無くしてワープに対応するって感じか。確かにこれなら……。
「OK! それじゃ今度は……コッチから行くよッ!!」
「来るぞッ!!」
先程と異なり、今度は通形先輩が先手を取った。勿論、皆も思い思いの遠距離攻撃をするのだが、やはり全て体を通り抜ける。しかも今度は地面に沈みながらだ。
「沈んだッ!!」
「(現れるとすれば……此処ッ!!)」
次に通形先輩が出現したのは、先程と同じく最後尾。移動距離も大体同じだ。そこへ出久がカウンター狙いの蹴りを繰り出した。
「(反応じゃない! 俺が此処に現れるのを……予測した!?)だが、必殺!! ブラインドタッチ目つぶし!!」
「うッ!?」
……やはり『ビッグ3』の名は伊達では無い。と言うか、通形先輩の『予測する能力』が半端じゃない。出久の蹴りを『透過』で回避しつつ、目つぶしを繰り出しで視界を奪う。攻防一体の一手で出久が怯んだ所を見逃さず、鳩尾に重い一撃を叩き込んだ。
「(鳩尾……ッ!)」
「ほとんどがそうやってカウンターを画策するよね。ならば当然、ソイツを狩る訓練! するさッ!!」
「緑谷君!?」
そして、出久が最初にやられたのも束の間、目にも止まらぬスピードで縦横無尽且つ神出鬼没にワープする通形先輩にクラスの皆は翻弄されまくり、瞬く間に全員が腹パンされて地に伏せる。
「POWERRRRRRRRRRRR!!」
かくして勝利の雄叫びを上げる通形先輩は、またもや履いてない様に見えるきわどいポーズを取るのであった。
●●●
結局、俺以外のメンバーは誰一人として通形先輩に有効打を与える事が出来ずに終わり、磔になっていた天喰先輩は解放された。波動先輩はまだダイナマイトタイガーを抱えていた。
「と言う訳で、呉島君へのリベンジは残念ながら出来なかった訳だケド……まぁ――こんな感じなんだよね!」
「訳も分からず、全員腹パンされただけなんですが……」
「まあ、“個性”の性能もそうだが、“個性”を運用する為の技術力と、予測能力が異常なレベルで高いからな。この人の意表を衝くのはかなり難しいだろう」
「!!」
「ほう……呉島君はどうしてそう思ったんだい?」
「最初に『超強力念力』で通形先輩の体を固定しましたよね? 傍目から見れば何気なくスルリと拘束から脱したように見えましたし、ほとんど一瞬の出来事でしたが……その時の手応えから察するに、体の複数個所……と言うか、体の一部をすり抜けたり、解除したりして脱出しましたよね?」
「その通り! 実はこの“個性”を全身に発動すると、地面に落っこちてしまうんだ! だからもしもこの『透過』で壁を抜けようとするなら――
1.片足以外発動。
2.もう片方の足を解除して接地。
3.残った足を発動してすり抜け。
――と言った具合に、簡単な様に見える動きにも、幾つか工程が要るんだよね」
「なるほど……」
「急いでいる時ほどミスるな。俺だったら……」
「しかし、通形先輩の一番の武器は『透過』ではなく、『予測能力』だと俺は思う。タイミングを予測して背後からの攻撃を見ることなく回避するのも充分凄いが、恐らくワープする為に地面に潜れば、通形先輩は『地上がどうなっているか分からない』。実体がなくなっている訳だからな。だからワープする際には『移動先がどうなっているのか、予測してワープしていた』んじゃないですか?」
「!!(この一年生……! 事前に“個性”の情報があったとは言え、先程のミリオとのやりとりで、そこまで見抜いて!?)」
「正にその通り!! さっき呉島君も言ってた事だけど、この“個性”は発動すると呼吸が出来ない。吸っても肺が酸素を透過してしまうからだ。同様に鼓膜は振動を、網膜は光を透過する。だから全身に“個性”を発動した場合、何も感じる事が出来ず、ただただ質量を持ったまま、地面の中を落下していく感覚がある……と言う感じになるんだ」
「何も感じなくなってるんじゃ、フツーは動けねーんじゃ……」
「そう! 案の定、俺はまともに動けず遅れた! ビリっけつまであっという間に落っこちた。服も落ちた。この“個性”で上に行くには、遅れだけはとっちゃ駄目だった!! この“個性”を使いこなすには、何よりも『予測』が必要だった!! 周囲よりも早く! 時には欺く! そしてその予測を可能にするのは経験! 経験則から予測を立てる!!」
「より多くの経験が予測を可能にする……と」
「そう! 長くなったけど、コレが手合わせの理由! “言葉”よりも“経験”で伝えたかった! インターンにおいて我々は『お客』ではなく一人のサイドキック!
それはとても恐ろしいよ。プロの現場では、時には人の死にも立ち会う……! けれども、怖い思いも辛い思いも、全てが学校じゃ手に入らない一線級の“経験”!! 俺はインターンで得た“経験”を力に変えてトップを掴んだ! ので! 怖くてもやるべきだと思うよ、一年生!!」
「(経験を……力に……!!)」
「話し方もプロっぽい……」
「一分で終わる話をここまで掛けてくださるなんて……!」
「『お客』か……確かに『職場体験』はそんな感じだった」
「危ないことはさせないようにしてたよね」
「インターンはそうじゃないって事か」
「仮免を取得した以上、現場に出ればプロと同格に扱われる……!」
「……うん」
「覚悟しとかなきゃな……」
「上等だっての!」
「そうだよ! 私達、プロになる為に雄英入ったんだから!」
「そうだな」
「セラヴィ☆」
「……上昇あるのみ」
「“Plus Ultra”……」
「……(早く仮免とらねぇと、置いてかれちまう)」
「………」
明らかにクラスの皆の面構えが変わった。最初に教室で顔を合せた時と違い、実際にその底知れぬ実力を垣間見た事で、通形先輩の言葉に大きな説得力が生まれたからだ。
「そろそろ戻るぞ。挨拶!」
「「「「「「「「「「ありがとうございましたッ!!」」」」」」」」」」
「ねぇ、私達居る意味あった? 知ってる?」
「何もしなくて良かった……ミリオに感謝しよう……」
「ムガ?」
「待てぃ、小娘ッ!! そのコスチュームはくれてやるが、ダイナマイトタイガーを連れて行くなッ!! そして貴様は我々ゴルショッカーのお詫びとして、ゴリラのエキスとダイヤモンドの粉末が入ったこのボトルを受け取れぇええええいッ!!」
「………」
しかし近い将来、『ビッグ3』にゴルショッカーの魔の手が及び、最終的に三人ともゴルショッカーが誇る三大怪人とかになりそうな気がするのは俺の気のせいだろうか?
キャラクタァ~紹介&解説
呉島新
割とマジで『星の最強種』と言われても否定しきれない怪人主人公。ミリオとの戦闘は地味にナイトアイの兄弟弟子対決となり、ミリオの持つ予測能力の高さに戦慄。やっぱり、オールマイトよりもナイトアイの方が弟子の育成能力は高いんじゃ……と思わないでもない。
通形ミリオ
割と冗談抜きで、最も№1ヒーローに近い男。この世界線では原作と違い、女性陣に配慮して毛髪の繊維で作ったきわどい角度のピチピチパンツを穿いている。作者としてはとにかく明るい性格をしている彼には、どうしてもこのネタをやって欲しかったのだ。
波動ねじれ
怪人主人公とは前作『THE FIRST』の体育祭編以来となる『ビッグ3』の紅一点。本作では作者の趣味によって「ショッカー女戦闘員」の格好をする羽目になったが、本人は割とノリノリ。でもダイナマイトタイガーを回収されて、チョットご機嫌斜めになる。
天喰環
他の二人と違い、怪人主人公とは今回が初対面となる『ビッグ3』最後の一人。本作では未来の大怪人としてイナゴ怪人に目を付けられてしまった悲劇の男。結局、ゴリラのエキスとダイヤモンドの粉末が入ったボトルを押しつけられ、どうしたものかと途方に暮れる。
ゴルショッカー日本征服作戦
作中で語られた通り、目的としては闇組織を炙り出す為の作戦なのだが、実際に日本中に怪人を派遣しているので割と冗談になっていなかったりする。そしてこの作戦により、超人社会に『怪人』と言う新たな生態系の一員が確立されるのだ。
“個性”『アルテミット・ワン(タイプ・ホッパー)』
元ネタは『Fate』シリーズに登場する「極限の単独種」だが、このヒロアカ世界なら“個性”の名前でも通用しそうな感じがする。そして、タイプ・ホッパーの名前が示すとおり、“個性”『アルテミット・ワン』は一つではない。
“個性”『透過』
作中で怪人主人公に語って貰った通り、作者的には「一見すると無敵だが、割と対策はあるように思える“個性”」と言った感じ。作者の気分次第では、ミリオがパンイチの姿でベニザケ怪人によって氷頭なますにされる展開も有り得た。
“個性”『再現』
原作に登場した時から色々考えが捗る“個性”。ゴリラモンドに関しては今『ビルド』が「東映特撮YouTube Official」で放送しているから採用。プトティラザウルスは作者の趣味で採用。エジプタスのミイラを食えばエジプタスになれる天喰君の明日はどっちだ?
世界中から集まる怪人の素体
元ネタは主にTV版『仮面ライダー(初代)』で、この時から既にしてと言うべきか、むしろ最初だからこそなのか、割と結構アレな代物が多い。TV版『Black』でも色んな動物をベースにした怪人の作製に着手しており、この時シャドームーンは「地球上の動物達全てが怪人となる」と言っていた。……が、クワガタ怪人の回なのに、ラクダやチンパンジーなど哺乳類ばかりだったのは何故だ。もっと、昆虫とか魚とか出せや。
○○○とはこう言う恐竜だ!
元ネタは『ONE PIECE』に登場するリュウリュウの実の能力者達の台詞だが、流石にブラキオサウルスは出せなかった。そもそもブラキオサウルスの怪人って『風都探偵』の「ブラキオサウルス・ドーパント」と『リバイス』の「ブラキオ・デッドマン」位しかいない。
とは言うものの、作者としては是非ともあの技はやっておきたい所ではある。ぶっちゃけた話、あの技は原作における「“マスターピース”に覚醒した死柄木」でも、一度見れば度肝を抜くこと請け合いだと思う。