怪人バッタ男 THE NEXT   作:トライアルドーパント

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大変長らくお待たせしました。短編の『真・怪人バッタ男 序章(プロローグ)』、連載作の『怪人バッタ男 THE FIRST』から続く、『怪人バッタ男』シリーズの三作目であります。

原作で死柄木に移植された“個性”『オール・フォー・ワン』に宿ったオール・フォー・ワンの意志が死柄木の肉体を乗っ取ろうとしたり、オール・フォー・ワンが“個性”に宿る人間の意志について臓器移植を例に挙げて解説したりと、作者的に「ヒーハー!」と叫びたくなる展開が続いて楽しいです。

原作デク君「例え、何を犠牲にしたとしても……ッ!!」

作者「? 今の死柄木に『ワン・フォー・オール』を譲渡すれば爆発して死ぬのに? 意味ないよ」

しかし、ガンギマリデク君VS改造超人死柄木の戦いを見てこう思ったのは、果たして作者だけなのだろうか……。

今回のタイトルの元ネタは『ストロンガー』の「おれは電気人間ストロンガー!!」。令和の世でも相変わらず昭和ライダーのタイトルを参考にしております。

10/25 誤字報告より誤字を修正しました。誤字報告ありがとうございます。


本編
第1話 俺は改造人間バッタ男!!


仮面ライダーこと呉島新は、改造人間である!

 

彼を改造した『敵連合』は、ヒーロー社会の崩壊を企む反社会組織である!

 

「それじゃ、いってきまーす」

 

「い、いってきまーす」

 

「車に気をつけるんだぞー」

 

「「はーい」」

 

仮面ライダーは人間の自由の為に、今日も登校するのだ!

 

 

○○○

 

 

雄英高校敷地内、徒歩5分の場所に建てられた築三日の学生寮『ハイツアライアンス』。その玄関前に集合していたのは、家庭訪問と言う名のある意味では林間合宿以上の修羅場を乗り越えた、ヒーロー科1年A組の面々であった。

 

「取り敢えず、1年A組。無事にまた集まれて何よりだ」

 

「あの……呉島さんがこの場に居ないのですが……」

 

「呉島は訳あって寮の中に居る。心配する必要は無い」

 

「って事は……皆、入寮の許可降りたんだな」

 

「私は苦戦したよ……」

 

「フツー、そうだよねぇ……」

 

「二人はガスで直接被害遭ったもんね」

 

この場に姿が見えない唯一のクラスメイトが居ると知って皆が安堵する中、葉隠は両親の説得が困難だった事を思い出して溜め息をついた。

それを見た耳郎は葉隠と同様の被害を受けたにも関わらず、両親の説得が割かし容易だった事の方がおかしいと改めて理解した。

 

尚、耳朗の両親が雄英の全寮制……つまりは娘を継続して雄英へ通わせる事に好意的だったのは、ヴィランに攫われてヒーローに救出された直後、地獄と化した神野区の病院で医療活動を行っていたと言う、娘のクラスメイトのロックな記事を見た事が原因である。

 

「無事集まれたのは先生もよ。会見を見た時はいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」

 

「うん」

 

「……俺もびっくりさ。まぁ……色々あんだろうよ」

 

正直に言えば、相澤としても今回の事件の責任を負う形で退職する事を覚悟していた。しかし、雄英に潜む『敵連合』の内通者と言う懸念材料は決して無視する事が出来ない為、如何なる理由であっても雄英から教師・生徒を問わず人を出す事は余り宜しくない。

 

故に、雄英としては「敢えて泳がせる事で、内通者の尻尾を掴むつもりでいる」と相澤は考えているが、それを口に出す事はない。目の前に居る生徒達もまた容疑者である事もそうだが、生徒達を疑心暗鬼に陥らせるなど、それこそ内通者の思う壺だからだ。

 

「さて……! これから寮について軽く説明するが、その前に一つ。当面、諸君等は合宿で取る予定だった、“仮免”取得に向けて動いていく事になる」

 

「そういやあったな、そんな話!!」

 

「色々起き過ぎて頭から抜けてたわ……」

 

「大事な話だ。いいか……轟、切島、緑谷、八百万、飯田、麗日、蛙吹。この7人はあの晩、あの場所へ、呉島救出に赴いた」

 

「え……?」

 

「お前達に何があったのかは俺も聞いた。確かに、お前達に言われたような事は、呉島の身に充分起こり得た」

 

「「?」」

 

「その上で、色々棚上げして言わせて貰う。オールマイトの引退とサー・ナイトアイの口添えがなけりゃ、俺は呉島・爆豪・耳朗・葉隠以外、全員除籍処分にしてる」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「オールマイトの引退によって暫くは社会に混乱が続く……『敵連合』の動きが読めない以上、今雄英から人を出す訳にはいかない。先の7人の行動はサー・ナイトアイのお陰で一応は正規の活動と言う事になっているが、俺達の信頼を裏切った事に変りはない。把握しながら止められなかった10人も同様だ」

 

相澤は家庭訪問の前に、神野区における顛末をオールマイトとサー・ナイトアイの二人から聞いているが、仮にサー・ナイトアイが7人と病院で合流しなかった場合、7人はそのまま独断で呉島救出に赴いていたと確信している。

特に八百万は自身を含めた『敵連合』が警戒しているだろう面子を囮として使い、別働隊として麗日と蛙吹の二人へ密かに呉島の救出を頼んでいたと言うのだから始末に負えない。作戦が合理的なだけ余計に質が悪い。

 

「正規の手続きを踏み、正規の活躍をして、信頼を取り戻してくれると有り難い。以上! さっ! 中に入るぞ。元気にいこう」

 

「「「「「「「「「「(いや、待って。行けないです……)」」」」」」」」」」

 

「どうした貴様等!! どっかに玉ぁ落としたか!? それとも早速ママのパイオツでも恋しくなったかッ!?」

 

「そ、その声は!」

 

「イナゴ怪人……」

 

「やれやれ、珍しくしけた面をしおってからに。まあいい、我が王と我が君のおなりだ」

 

相澤の発言を受け、葬式の参列者の如く意気消沈しているA組の面々。そこへ現われたのは、本体である新を王として崇め奉り、要る事も要らん事もしでかす忠実なる下僕(自称)。その名もイナゴ怪人1号だ。

そして、相変わらずの態度と何時も通りの言動をかますイナゴ怪人1号がこの場にいると言う事は、彼等の主である新も此処にいると言う事に他ならない。イナゴ怪人を見て安堵すると言う、入学当初からは考えられないリアクションを各々が見せるなか、数日振りに彼等の前に現われた新はと言うと――。

 

「大丈夫。皆、気の良い奴等だから」

 

「………」

 

――何故か傍らに見知らぬ幼女を連れていた。

 

「くっ呉島コラァアアア! コラァコラら鳴呼鳴呼鳴呼鳴呼!!」

 

「ひっ……!」

 

『………』

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

 

そんな新を見て発狂する峰田。奇声を上げて迫りくる峰田に怯えた幼女が新を盾にして隠れた瞬間、幼女の影の中から出現した謎の白いバッタ怪人の指先から放たれる謎の光線を受け、峰田は断末魔の悲鳴を上げながら石化した。

 

「な……!」

 

「今のは……」

 

「………(クイッ)」

 

「ハッ!」

 

A組の大半が驚き絶句する中、新とイナゴ怪人1号、それに相澤はこうなる事が分かっていたとしか思えない程に冷静だった。そして、新の目配せを確認したイナゴ怪人1号は、石像と化した峰田を迷う事無く森に向かって放り投げた。

 

「………」

 

「大丈夫。もう怖いの居ないから」

 

「いや……峰田は、その、大丈夫なのか?」

 

「問題ない。しばらくすれば元に戻る」

 

「てゆーか、今の何!?」

 

「白いイナゴ怪人……?」

 

「も、もしかして、その子って、呉島の子ど……ブヘラッ!?」

 

「この痴れ者がッ!! 我が王は1000%童貞だぁッ!!」

 

謎の幼女と謎の怪人の組み合わせから、幼女の正体を邪推した尾白にイナゴ怪人1号の情け容赦ない鉄拳が炸裂する。しかし悲しいかな、イナゴ怪人1号の発言はある意味、新の名誉回復にも汚名返上にもなっていない。

 

「えっと……あ、あっちゃん。どうしたの、その子?」

 

「取り敢えず、この子に自己紹介させてくれ。ホラ」

 

「……エリです。よろしくおねがいします」

 

「うん、良く出来ました。エライエライ」

 

「うぅー……」

 

元々人見知りなのか恥ずかしがり屋なのか、或いは峰田が発狂した所為なのか、幼女は顔を出してA組の面々に自己紹介をするものの、その手はずっと新のズボンを掴んでおり、すぐに新の影に隠れてしまう。しかし、新に頭を撫でられて目を細める姿はとても可愛らしい。

 

「かっかっ可愛~~」

 

「いや、可愛い子だけど、服ッ!!」

 

麗日がエリの可愛さにメロメロになる一方、芦戸はエリが着ている服についてツッコんだ。

何故ならエリが着ている服は、目が異様に大きいネコのイラストにフリルがあしらわれた、妙な迫力を備える余りにもダサい代物だったからだ。

 

「ねぇ、その子の服って呉島が選んだの?」

 

「いや、コレは相澤先生が選んだ服だ」

 

「「「「「「「「「「え゛ッ!?」」」」」」」」」」

 

「もっと言えば、全部俺のオーダーメイドだ。どうだ? 羨ましいか?」

 

エリが着ているクソダサい服の送り主が相澤だと知ってA組の面々が驚愕する一方、相澤は自身のファッションセンスに絶対の自信を持っている為、生徒達のリアクションは良い意味での驚きだと思い込んでいた。その証拠に相澤は何処かニヒルな笑みを浮かべている。

 

「(やっべぇ、これ本人気付いてねぇパターンだ!)」

 

「(最早どっから突っ込んで良いか分からねぇ!)」

 

「(ある意味、想像の斜め上を行く破壊力……ッ)」

 

「(ここは一つ、オブラートに包む形で……)」

 

「いや、ダサッ!!」

 

「「「「「「「「「「(芦戸ぉおおおおおおおおお!?)」」」」」」」」」」

 

「いやいや、これもう放送事故レベルでしょ!? よくこんなの選びましたね!?」

 

誰もがどうにか相澤を傷つけない様にファッションセンスの無さを伝える方法を模索する中、芦戸が相澤のクソダサコーデを真っ向から酷評する。それに対する相澤の返答は……。

 

「ダサい? 誰が? 俺? ……フッ、見る目ねぇな」

 

「「「「「「「「「「(全然、動じてないッッ!!!)」」」」」」」」」」

 

自身が受け持った生徒のファッションセンスの無さ(主観)を鼻で笑うと言う驚くべき返しに、少年少女は度肝を抜いた。

正にプロヒーローに相応しい圧倒的な精神力を誇る相澤に対し、彼等彼女等に打てる手段など最早何一つとして残されていない。

 

「ではこれで義理は果たしたな。貴様等は少し其処で待っているが良い。我が君のお色直しだ」

 

「? お色直し? 何でだ?」

 

「いや、だってこのネコ、目が怖いじゃないですか」

 

「うん。このネコさん、お目目こわい」

 

「………」

 

……と、思いきや。プレゼントした相手からストレートに好みじゃないと言われ、相澤は地味に精神的大ダメージを受けた。

哀れではあるが、これで「プレゼントとは自分の趣味を押しつける様な物ではいけない」と言う事を理解した事だろう。

 

そんな貴重な教訓を得た相澤は、新がエリを連れて寮に戻ったのを確認すると、気を取り直してエリについての事情を切り出した。

 

「あの子……エリちゃんはオール・フォー・ワンによって壊滅した指定敵団体『死穢八斎會』の組長の孫娘でな。先日のオール・フォー・ワンの逮捕に伴って保護されたんだが、林間合宿で緑谷達に撃ち込まれた『個性破壊弾』。その原料となっていたのが、エリちゃんの血液や細胞なんだそうだ」

 

「え……?」

 

「それじゃあ……」

 

「尤も、オール・フォー・ワンの供述によると、『敵連合』はもうあの子に頼る事なく『個性破壊弾』を量産する事が出来るらしくてな。あの子が再び『敵連合』に狙われる可能性は低いと言うのが警察の見解だ」

 

「? それでは何故、雄英に?」

 

「エリちゃんは親に捨てられた上に、血縁関係にある『死穢八斎會』の組長は現在意識不明で、現状あの子には寄る辺が無い。本来なら養護施設に送る所なんだが、エリちゃん自身が自分の強大過ぎる“個性”を制御する事が出来ていない。それに加えてお前達も見た通り、少々厄介な事になっている」

 

「それって……」

 

「さっき見たあの怪人の事ですか?」

 

「ああ。あの怪人の名前はイナゴ怪人アーク。その正体はイナゴ怪人4号の変異体だ」

 

――イナゴ怪人4号。それはイナゴ怪人3号が自身の相棒として彼等に語った、『敵連合』の操るイナゴ怪人の名前である。

 

「先程の様子を見れば分かる通り、アレはあくまでもエリちゃんを守る為に存在する。無闇にエリちゃんを怖がらせたりしなければ問題は無い」

 

「しかし、それではエリちゃんはあのイナゴ怪人アークを通じて、『敵連合』の監視下にあると言う事なのではないのですか? それどころか、此方の情報が『敵連合』に筒抜けと言う事も……」

 

「それは無い。アレの支配権は今、呉島が持っている。その辺の事は緑谷達から聞いているだろう?」

 

イナゴ怪人4号の変異体と聞いて息を呑み、今回の全寮制が無意味なものとなる懸念を口にする飯田に、相澤はその心配が杞憂であると説明する。

そして、相澤の言葉を聞いて、出久と轟、常闇と障子の4名は、林間合宿に於いて『敵連合』が襲撃をかけた夜のイナゴ怪人3号の捨て台詞を思い出していた。

 

――「呉島新が死ねば、我が主が『新世界の王』となる!! 我が主が死ねば、呉島新が『新世界の王』となる!! それが、我らが求める世界の……『未来の魔王』なのだッ!!」――

 

要するに、新が生き残った事で、エリちゃんに取り憑いたイナゴ怪人アークの支配権を新が手に入れたのだろう。それならば確かに雄英の情報が『敵連合』に漏れる事は無いだろうと、彼等は納得した。

尤も、エリちゃんにイナゴ怪人アークが取り憑いたのは“新がイナゴ怪人4号の支配権を得た後”なので、事の真相を知る相澤と生徒の間で微妙に認識が食い違っているのだが、「言わない理由も無いが、やって貰う事は変わらん」と、相澤は合理的に無視した。

 

「いずれにせよ、力の使い方が禄に分かっていないエリちゃんを下手な施設に預ける訳にはいかない。元々の“個性”にせよ、イナゴ怪人アークにせよ、強大な力との付き合い方を模索していくなら、ここ雄英はうってつけだ」

 

「なるほど……」

 

「そこで、当初は教師寮の空き部屋を使ってエリちゃんを監督するつもりだったんだが……今の所、エリちゃんが心を開いている相手は呉島だけでな。これまでの経緯から大人に対する警戒心が強く、唯一病院で世話になったリカバリーガールには警戒心は薄いが、婆さんは普段から出張が多い為、あまりエリちゃんの面倒を見る事は出来ない。

しかし、エリちゃんを呉島と一緒に男子棟に住まわせるとなると、今度はこのクラスに性欲の権化が居る事を懸念され、エリちゃんの教育に宜しくない所かエリちゃんの身が危険だと言う話になった」

 

「「「「「「「「「「ああ……」」」」」」」」」」

 

「そこで協議を重ねた結果、寮のセキュリティを一部変更し、使用する予定の無かった女子棟2階のフロアに呉島とエリちゃんを住まわせると言う案が出た」

 

「「ちょっと待てぇえええええええええええええええええええええええええ!!」」

 

雄英の校風は“自由”が売り文句であり、『生徒の如何は教師の“自由”』である。しかし、それを差引いても聞き捨てならない案が出ている事に、上鳴と石化から復活した峰田の怒りが爆発した。

 

「いやいやいや! それはおかしいでしょ!? だったら、呉島とエリちゃんが教員寮で暮らせば良いじゃないですか!」

 

「最初は俺達もそれを考えた。だが、イナゴ怪人やマタンゴが発生した経緯を考えると、呉島をお前達から切り離す事で孤独感を誘発する様な真似は避けたい。今の呉島の状態を考えれば尚更だ。心の闇を刺激されて無意識に生み出された怪人がどんな能力を持っているか、まるで予測が付かないからな」

 

「ククククク……賢明だな、イレイザーヘッド。そうだ。我々は言った筈だ。『心を照らす光が生まれる事で、更なる闇が生まれる』と。『王の中で貴様等と言う存在が輝けば輝くほど、王の闇を体現する我々もまたその力を増す』と。

今や、我が王の心に巣くう闇は、我々イナゴ怪人を生み出した昔のソレとは違う。暗闇の性質が違う。その中から生まれるモノがどんな姿や性質を備えているのか、我々ですら想像もつかん」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

事実、当初は3人しか居なかったイナゴ怪人は順当にその数を増やし、林間合宿では別のプログラムを課した事が原因で(B組の小森の“個性”『キノコ』が生物系であると言う点も大きいが)マタンゴと言う突然変異の怪生物が誕生している。

また、勇学園との合同演習において、藤見露召呂の“個性”『ゾンビウィルス』がイナゴ怪人アマゾンに感染し、変異したシグマウィルスも同様の理由で誕生したと考えられる為、新を教員寮で生活させれば更なる怪人やミュータントが誕生するリスクが高くなる事は明白だ。

 

「いやいや、だからってオイラの所為でそうなるってのはおかしいでしょ!? だったら、むしろオイラを女子棟の2階に住まわせれば良いじゃねーですか!!」

 

「お前が今までにやってきた事を、胸に手を当てて考えてみろ……ッッ!!」

 

「「「「「「うん」」」」」」

 

しかし、それでも納得出来ない峰田の直訴に対し、これでもかと感情が込められたドスの効いた声色で凄む相澤と、相澤に賛同して一斉に首を縦に振る6人の女子。

男子も相澤を肯定する発言こそ口にしていないものの、先程の峰田の奇行を見ている事もあり、男子の大半が「確かにコイツにエリちゃんを近づけるのは危険だな」と考えている。

 

「――とは言え、諸君等が非常識な話だと訴えるのは理解できる。しかし、呉島が仮免を取得した場合、『校外活動(ヒーローインターン)』でリカバリーガールと行動を共にする機会が多くなり、今ほどエリちゃんの相手をする事が出来なくなる。

言い方は悪いが、これは呉島がエリちゃんに構ってやれる今の内に、エリちゃんが呉島以外にも信用できる人間を作る事を目的とした処置だ」

 

「『校外活動(ヒーローインターン)』?」

 

「平たく言うと“校外でのヒーロー活動”。以前行ったプロヒーローの元での『職場体験』……その本格版だ。『職場体験』の様な授業の一環ではなく、各々の生徒が任意で行う活動で、雄英では仮免を取得した2・3年生の多くがこれに取り組んでいる。

これは一般企業で見られる数日から一週間の『就業体験(インターンシップ)』とは異なり、最低でも一ヶ月の就労で給料も出る。インターン生はサイドキックと同列……つまりプロとして扱われ、卒業と同時にそのままインターン先の事務所へサイドキック入りする……何て事も珍しくはない」

 

「はぁ~~そんな制度があるのか……」

 

仮免を習得する事で選ぶ事が出来る雄英の制度の話を聞き、「お給料が出るならやろうかな」と思い始めた麗日。しかし、制度の内容を今一度考えた時、ある重大な事実に気がついた。

 

「体育祭の頑張りは何だったんですかッッ!!?」

 

そう。雄英体育祭である。相澤はあの時「雄英在学中でも三度しかないアピールの場だ」と言っていたが、仮免を取得して『校外活動(ヒーローインターン)』なる制度を利用すれば、雄英を卒業した後はそのままインターン先のヒーロー事務所へのサイドキック入りが可能なのであれば、わざわざ体育祭で全力を出す意味は果たしてあったのだろうか? それこそ死に物狂いで体育祭に取り組んだ麗日としては、決して無視する事の出来ない話である。

 

「確かに……! そんな制度があるなら、体育祭で指名を頂かなくても道は拓けるな」

 

「まあ、落ち着けよ。うららかじゃないぜ?」

 

「しかしぃ!!」

 

「『校外活動(ヒーローインターン)』は体育祭で得た指名をコネクションとして使うんだ。むしろ、体育祭で指名を頂けなかった者は活動自体が難しいんだよ。元々は各事務所が募集する形だったが、雄英生徒引き入れの為にイザコザが多発し、その様な形式に落ち着いたそうだ。分かったか?」

 

「早とちりして、すみませんでした……」

 

「つまり仮免を取得すれば、諸君等はより本格的・長期的にヒーローとしての活動へ加担する事が出来る様になる訳だ。尤も、1年生の仮免取得は余り実例が無い事と、今後ヴィランの活性化が予想される事も相俟って、お前等の参加は慎重に考えているのが現状だ。

だが、呉島の場合は少々事情が異なり、仮免習得後はリカバリーガールの元で『校外活動(ヒーローインターン)』を行う事が決定している。貴重な医療に転用する事が出来る能力を持っているからな」

 

相澤は新の今後についての事情を説明したが、勿論それだけではないだろうとA組の大半が察していた。

 

今の新は改造人間であり、その戦闘能力は現時点でもオール・フォー・ワンに匹敵、或いは凌駕する程のモノである。

下手なヒーロー事務所に送れば改造人間としての戦闘能力を見せつける形となる可能性が非常に高く、新が『敵連合』に攫われた事も相俟って、不要なトラブルを招きかねない。

 

つまり、リカバリーガールの元での『校外活動(ヒーローインターン)』が決まっているのは、雄英が新を守る為の配慮なのである。これは他にも幾つかの狙いがあっての決定なのだが、新としては夏休み中にリカバリーガールから『校外活動(ヒーローインターン)』の誘いがあった事もあり、願ったり叶ったりと言った所である。

 

「まあ、詳しい事は体験談なども含め、仮免を取得した後でちゃんとした説明と今後の方針を話す。コッチにも都合があるんでな。

それで話を戻すが、もしも峰田を別館に住まわせるなら、呉島とエリちゃんを男子棟に住まわせても大丈夫だろうと言う事になった」

 

「別館?」

 

「ああ、コッチだ」

 

別館と言っても、周囲にそれらしき建物やモノは無い。生徒達が怪訝に思いながら相澤の後に続くと、其処にあったのは『峰田』と書かれた白い名札が眩しい、何処から見ても文句の付けようもない程に立派な犬小屋だった。サービスで地面に深く打ち込まれた杭と、鎖に繋がれた首輪まで付いている。

 

「……え? 冗談ですよね?」

 

「俺が冗談を言う様な奴だと思うか?」

 

「これ別館って言うか、犬小屋ですよね?」

 

「犬小屋じゃない。この小屋に犬は一度も住んでいないからな」

 

「(此処で……? これからずっと……?)」

 

改めて別館と言う名の犬小屋を確認する峰田。其処はどう見ても飼い犬の気持ちを存分に堪能する事ができる素敵な空間であり、此処ならば雨にも負けず、風にも負けず、冬の寒さにも、夏の暑さにも負けないと言う、正にヒーローに相応しい精神を育む事が出来るだろうと予想された。

 

「いや、やっぱ変だろ!! これならオイラ普通に通うよ!!」

 

「大丈夫! アンタなら出来るッ!!」

 

「オイラのポテンシャル信じ過ぎだろ-ーーーーーーッ!!」

 

結局、峰田は男子棟に住む事を熱望し、雄英での犬小屋生活は始まらなかった。イイ笑顔でサムズアップしながら峰田が出来る男である事を信じる耳朗を筆頭とした女子勢は揃って盛大な舌打ちをした。

 

仮に雄英での犬小屋生活が始まったとしたら、それは最早事件レベルのスキャンダルになるだろうが、それ以上のスキャンダラスな事件をやらかす危険性と前科を併せ持っているのが峰田実と言う男なので、単純に同じ建物に住んで欲しくなかったからである。

 

「……此方としては、エリちゃんの心と体の安定を図りつつ、おいおい彼女の能力を検証していくつもりだ。エリちゃんが自分の力を上手くコントロール出来る様になったら、2人の対応もまた変わる」

 

「待たせたな皆の衆! これが我が君の真のお姿である!」

 

「「「「「「「「「「「おお~~~~」」」」」」」」」」」

 

そして、新に手を引かれる素敵なおべべを着たエリちゃんを見て、A組の面々は感嘆の声を上げ、相澤は複雑そうな表情でそれを見ていたが、気持ちを切り替えて次の仕事に移った。

 

「では、これから寮の説明に入る。1棟1クラス。右が女子棟、左が男子棟に分かれている。但し、1階は共同スペースだ。食堂や風呂・洗濯等は此処で」

 

「おぉ~~~~!!」

 

「広キレーーー! そふぁああああああ!!」

 

「中庭もあんじゃん!」

 

「豪邸やないかい……ッ!」

 

「おっと」

 

「?」

 

寮内の設備の充実振りに大興奮の一同。先日まで借りていたアパートとは比較にならない豪華さを目の当りにして卒倒する麗日と、床にぶっ倒れる前に背後に回って麗日を支える新。そんな麗日のリアクションをエリは不思議そうに見つめていた。

 

「聞き間違いかな……? 風呂・洗濯が共同スペース? 夢かッ!?」

 

「男女別だ。お前がそんなんだから呉島とエリちゃんを使う予定の無い女子棟の2階に住まわせるだの、セキュリティの一部を変更するだのと面倒な話になったんだ。いい加減にしろ」

 

「……ハイ」

 

相澤の瞳は憤怒と殺意に満ちていた。これ以上峰田が何かやれば相澤は、エリの安全確保よりも雀の涙ほどの反省と改心を期待する意味で峰田を別館に住まわせるだろう。

 

相澤からすれば雄英から人を出せないと言う状況でなければ、これまでの前科から鑑みても峰田を除籍処分とするのが一番合理的なので、警告で済ませなければならない現状はハッキリ言ってストレスが溜まる。今年は峰田の所為で苦労が無駄に増える羽目になっていたのだから尚更だ。

 

「部屋は2階から、1フロアに男女各4部屋の5階立て。一人一部屋。エアコン・トイレ・冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間だ」

 

「ベランダもある。すごい」

 

「我が家のクローゼットと同じ位の広さですわね」

 

「豪邸やないかい……ッ!!」

 

「って、またか」

 

「……ハッ! そうだ! 先生、光熱費は!? 光熱費はどんな算出方法なのですか!?」

 

「基本的に全部雄英持ちなので、考える必要は無い」

 

「で、では、エアコンの設定温度はッ!?」

 

「まぁ……自由だ」

 

「うわぁあああああああああああああああああああああ!!」

 

「ああ、うん。良かったな。うん」

 

「? お兄ちゃん、このお姉ちゃん何で泣いてるの?」

 

「大きくなると色々あるんだよ。この場合は主に世知辛い苦労だ」

 

「せちがらいくろう?」

 

「結局、世の中はお金が無いと何も出来ない。だから泣いてるんだ」

 

「? お姉ちゃん、お金ないの?」

 

「グハァアアアアッ!?」

 

純粋無垢な瞳の幼女から放たれる悪気の無い一言が、麗日にクリティカルヒットした。

 

これまでヤクザや闇の帝王と言った裏社会の住人に囲われて暮らしていたエリにとって、麗日の様な庶民的なセンスを持った貧乏人とは、ある意味“未知との遭遇”である。

また、エリにはこれまで自由は無かったものの、その代わり物に困る事も無かった為、麗日の涙ぐましい節約生活を想像する事は不可能だった。

 

「部屋割は此方で決めた通り。各自、事前に送って貰った荷物が部屋に入っているから、取り敢えず今日は部屋作って自室にいろ。明日また今後の動きを説明する。以上、解散!!」

 

「「「「「「「「「「ハイ、先生!!!」」」」」」」」」」

 

何はともあれ。かくして彼等の雄英高校における新生活は、若干の茶番を交えつつスタートしたのであった。

 

 

●●●

 

 

エリが呉島家に来てから数日が経過し、呉島家で全寮制に関する家庭訪問が行われた頃にはすっかりエリに懐かれた俺は、紆余曲折あってエリと一緒の部屋で暮らす事になった訳だが、それが女子棟の二階と言うのは流石に想定していなかった。

 

そもそも、俺が継続して雄英に居続ける事だって、実は結構危ういのではないかと内心思っていたのだが、その辺は家庭訪問に来た相澤先生の話によると、根津校長が色々と動いてくれたらしい。曰く、「異常とさえ言える程に強大な力を持つ者を、通常と切り離して扱う事こそ危険なのだ」と。

この辺はリカバリーガールから聞いた所によると、根津校長は“個性”を生まれ持ったが故に人間に色々と弄ばれた過去があるそうなので、今回の俺やエリに関する事は他人事とは言えないと言う部分もあるのかも知れない。

 

ちなみに、家庭訪問に関しては思いの外すんなり入寮する事で話は終わった。どうも、俺と相澤先生の会話をイナゴ怪人が録画していたらしく、それを父さんに見せたのが決め手になったらしい。理屈としては“見えない所で人の事を良く言っている人こそ信頼できる”と言った所か。

 

問題はエリである。今のエリは俺から離れる事を非常に恐れており、入浴や就寝を含めて24時間体勢で俺が相手をしている。正直に言えば、エリが俺に半ば依存しつつある現状は、オール・フォー・ワンが目論んだ俺とエリの関係に等しいものだろう。

だが、だからと言ってエリに甘える事を許さないほど俺は鬼ではない。むしろ、今の内は存分に甘やかすつもりだ。相手がまだ6才の子供である事と、これまでの経緯や環境を鑑みれば、エリが俺の後をヒヨコの様に付いて回るのは仕方が無いと俺は思っている。

 

そして、エリは諸々の事情から雄英で預かる事になったのだが、エリだけを教員寮に住まわせるのはエリの精神状態を考えると難しいと考え、当初は俺とエリを教員寮に住まわせる予定だったらしいのだが、それが新たな怪人を誕生させる引き金となりかねない事を考えれば、俺がクラスメイトと離れて教員寮で生活するのも危険だと判断された。

 

しかし、これから新学期が始まる事を考えると、これまで通りに俺がずっとエリの面倒を見るのはどう考えても不可能である。

その為、俺が学校で授業を受けている間はエリを教員寮で面倒を見ると言う話になったのだが、これは『死穢八斎會』の若頭とオール・フォー・ワンの厄介極まりない置き土産によってご破算になった。

 

「お兄ちゃん、何処に行くの?」

 

「これからエリがお世話になる所だよ」

 

「来たか、コッチだ」

 

「!」

 

それは、雄英が教員寮に用意したと言う、エリの勉強部屋を見に行った時の出来事である。この時、エリが相澤先生を見た途端に俺の服を掴む力が強くなり、未だに相澤先生(と言うより大人か)を警戒しているのがよく分かった。

 

「此処がエリちゃんの為に用意した部屋だ。お前が授業を受けている間、雄英教師で手の空いている者がエリちゃんを此処で監督する」

 

「中々良い部屋ですね。子供っぽいと言えばそれまでですが……エリ?」

 

案内された部屋にはポップな絵の壁紙が貼ってあり、スタンドなどの小物類も楽しげなデザインの物が多めの、正に子供向けのレイアウトが施された可愛らしい部屋だった。

随所にエリが楽しく勉強できる様にと言う雄英の配慮と努力が見て取れるが……肝心のエリはその部屋を見た途端、恐怖と絶望に染まった表情を浮かべており、その小さな体はガタガタと震えていた。

 

「いや……いや……」

 

「エリ?」

 

「いかないで……おいていかないで……」

 

子供部屋を異常に怖がり、全力で服を掴みながら怯えるエリを落ち着かせるべく、ひとまずエリと共に教員寮から外に出ると、教員寮の一角が大爆発を起こした。

けたたましいベルの音が鳴り響き、爆炎の中から現われたのは、やはりと言うか何と言うかイナゴ怪人アークだった。

 

どうやら今も胸の中で恐怖するエリの為、その原因を物理的に排除するべく傍迷惑にも潜在能力の一部を開放したようで、その力によって子供部屋は瓦礫の山と化し、早くも雄英が誇る最新の防犯・防災システムがイナゴ怪人アークを相手にその機能をフル活用している。

 

その後、恐慌状態のエリを何とかなだめる事で、スクラップを量産したイナゴ怪人アークを引っ込め、改めてエリから話を聞いてみると、エリの“個性”の悪用を目論んだ『死穢八斎會』の若頭とオール・フォー・ワンは、悪党にしては意外と言うか何と言うか、エリにちゃんとした「まともな子供部屋」を用意していたらしく、今回雄英が用意した子供部屋を見た事でその時の怖い思い出が一気にフラッシュバックしてしまったらしい。

 

結果、エリは余計に俺から離れたがらなくなり、大人に対する警戒心を強めてしまった。そこで、今度は子供とも大人とも言えない中間くらいの高校生との触れ合いを経験する事で、エリにはまず年上の人に慣れて貰う所から始めようと言う事になった。

要はエリが大人を警戒するので、手始めに生徒の中から信用できる人間を作ろうと言う事らしい。エリが信じられる人間を複数作り、エリが信頼する生徒達から語られる人物評を通して教師陣の評価の向上を狙う訳だ。

 

無論、内通者の可能性を考えれば、エリと接触させる人間に対し、ある程度の警戒は必要になるだろうが、内通者とは別の理由で信用する事が出来ない例外を除き、A組の面々は信用出来ると俺は思っている。その例外は早速石になったが。

 

「お兄ちゃん、まだー?」

 

「今行くー」

 

そして、俺はイナゴ怪人の人海戦術で瞬く間に部屋を完成させ、色々あった所為で疲れたエリの昼寝に付き合う所である。それも全裸で変身した状態で。

 

何故、全裸で怪人に変身する必要があるのかと言うと、エリは普段の人間の姿よりも、救出された時の怪人の姿の方が安心するらしく、実際に人間の姿で寝れば高確率でエリは魘される。

俺にとってエリが安眠できる様にする事は最も重要な事柄の一つであり、怪人の姿で寝る事は別に苦では無い。ただ、幼女を全裸で抱きしめて眠らねばならないのがどうにも慣れないだけだ。

 

そして、俺はエリの昼寝に付き合うと同時に、テレパシーの精神感応によってイナゴ怪人の肉体を使い、隣の部屋でバイクの運転免許を取得する為の勉強に励んでいる。

エリを寝かしつけながら静かに免許の勉強をするマルチタスクを一時間ほど実行した頃、何者かによって部屋のドアがノックされた。

 

「『開いてますよ、どうぞー』」

 

ドアの向こう側に居るだろう来客に鍵が開いている事を告げると、ゆっくりとドアを開けて2人の女子が部屋に入ってきた。耳朗と葉隠だ。

 

「え? イナゴ怪人? 呉島は?」

 

「『テレパシーでコイツの体を使って勉強してんだよ。本体はエリと一緒に隣で昼寝してる』」

 

予想外の来客であるが、こうした展開もあろうかと、お茶とお茶請けは部屋に完備されている。俺は座布団とちゃぶ台を引っ張り出し、適当に見繕ったクッキーとアイスティーを2人に提供した。

今の俺はイナゴ怪人の体を使っているので、傍から見ればちゃぶ台を挟んで1人の少女と透明人間がバッタの怪人と向かい合っていると言う、実にシュールな光景が展開されている。それでも全裸の怪人が幼女を抱きしめて眠っている絵面よりはマシだと思うが。

 

「『それで、一体何の用だ? 特に五月蠅くしたつもりは無いんだが』」

 

「いや、そう言う事じゃないんだけどさ……」

 

「『なら何だ? 正直、耳郎と葉隠の組み合わせで此処に来る理由で俺が思いつくのは、真下の階から聞こえる騒音とかのご近所トラブル位しか思い当たらないんだが』」

 

「……あのさ、ウチと葉隠が気絶してる間に、一体何があったの?」

 

「『何とは?』」

 

「何かクラスの空気が変にギスギスしてるって言うか……それとは別に皆は何か分かってる感じだけど、ウチ等だけが置いてけぼりにされてる感じって言うか……」

 

「『………』」

 

そう言えば、イナゴ怪人3号が出久の病室に現われた際、耳郎と葉隠はガス人間第1号……もとい、マスタードとか言うヴィランの毒ガス攻撃で意識不明になっていたんだったな。

 

正直に言うと、イナゴ怪人3号が語った事はオール・フォー・ワンの勘違いが多分に含まれているのだが、ソレを聞いた出久以外のA組の面々には確固たる事実として認識されている。俺の口からソレを語るのは少々アレだが、2人がソレを知らないでいるのも問題だ。現にこうして他の面子とのズレが生じている訳だし。

 

「『……これから話す事は、2人が意識を失っていた間に起こった出来事だ。A組では2人以外の全員が知っている。心して聞いて欲しい』」

 

「う、うん」

 

「わかった」

 

そう前置きして、俺は出久から聞いた病室での一部始終を2人に説明した。そうなると必然オールマイトの“個性”『ワン・フォー・オール』についても言及する事になるのだが、そこはイナゴ怪人3号が語った内容と同じく、俺がオールマイトから『ワン・フォー・オール』を継承し、俺の“個性”『バッタ』と融合したと話しておいた。

 

勿論、真実は違う。だが、出久と『ワン・フォー・オール』の現状を考えると、俺が『ワン・フォー・オール』を継承したと勘違いさせたままにしておいた方が色々な面で都合が良いと判断し、クラスに蔓延する勘違いを貫き通させて貰う事にした。

 

そして、俺がオール・フォー・ワンによって肉体を改造された、脳無を超える改造人間である事。オール・フォー・ワンが改造人間を造る目的が、いずれ来る『個性特異点』との決戦の為であり、その素体として俺が攫われた事。そして、事と次第によっては脳無の様に、平和に仇成す危険物として秘密裏に処理されていただろう事を話した。

 

「『……以上だ』」

 

「「………」」

 

一通り話を終えた時、耳朗と葉隠は呆然としており、何を言えば良いのか分からないでいる様子だった。自分達の想像を超える内容に、脳がキャパオーバーを起こしたのだろう。或いは、単純に俺の話が信じられないのかも知れない。

 

「『まあ、とてもではないが信じられんと言うのも無理は無いが……』」

 

「いや、信じるよ。呉島は嘘つく様なヤツじゃないし、嘘つくならもっとマシな嘘つくでしょ?」

 

「うん。疑ってる訳じゃないよ。それに、私達だけにそんな嘘ついたって仕方ないしさ」

 

確かにな。話の内容が世界七不思議の一つや、今やカルト化している終末論が絡んでいる為、単純に信じて貰えない方が可能性としては高いと考えていたのだが、そんな嘘を教えた所で意味は無い。クラスの他の連中に聞けば一発でバレるからだ。

 

「それに……確かにそんな事があったら、あんな空気にもなると思うしさ……」

 

「うん……」

 

「『………』」

 

それっきり、俺達には会話がなくなってしまった。こうなる事は予想していたが、気まずいにも程がある。そんな空気に耐えかねたのか、部屋をキョロキョロと見回した葉隠が、ふとこんな事を言い出した。

 

「そ、そう言えばこの部屋だけどさ! 何でそこの壁にカーテンがしてあるの?」

 

「『校長の許可を貰って壁を取り払って、隣の部屋と繋げてるんだ。流石に2人で一部屋に暮らすとなると、チョット手狭だからな。コッチが俺とエリの勉強部屋で、隣が寝室って所だ』」

 

「ああ、それでこの部屋に机が二つあって、ベッドが無いんだね」

 

「ってかさ。林間合宿でも思ったケド、呉島ってやっぱ釣りとかキャンプとかアウトドア趣味にしてたんだね」

 

「『まあな。訓練を兼ねた趣味なんだが、結構楽しいんだよ、これが』」

 

葉隠が部屋の事を話題にした事で、それに便乗する様に耳郎が俺の趣味について聞いてきた。部屋の片隅にはこれ見よがしに釣り竿やクーラーボックスが置いてあるから、これでアウトドアな趣味が無い人物だとは誰も思わんだろう。

 

「? このおじさん誰? 呉島君のお父さんじゃないよね?」

 

「『その人は勝己の親父さんだ』」

 

「え?」

 

「何で呉島が爆豪のお父さんとキャンプしてんの?」

 

「『勝己の趣味って登山なんだけど、それで反抗期の息子とコミュニケーションを取ろうとした親父さんが、アウトドアが趣味の俺に相談してきたんだよ』」

 

「え? それじゃ爆豪って反抗期だからあんな感じなの?」

 

「『いや、俺が知る限り、勝己は5才の頃からずっとあんな感じだ』」

 

尚、親父さんが言うには俺と出会う前から勝己はずっとあんな感じだったらしく、「思い返してみると、今までずっと反抗期の様な気がする」との事。それでもコミュニケーションを取ろうと努力する親父さんの何と健気な事か。親の心子知らずとは良く言ったモノである。

 

「『それで、一応相談には乗ったんだけど、勝己は「下界のモブより俺が上に居るって言う事実がゾクゾクしてたまらねぇ」って理由で山に登ってるから、内心では親父さんが思う様な爽やかな展開にはならないだろうなって思っててな』」

 

「爆豪ってそんな理由で山に登ってんの!?」

 

「『それで勝己と登山に対する意見の相違に苦しんだ親父さんと一緒にキャンプする事になった時の写真がそれだ』」

 

「……ねえ、呉島君。一つ聞いても良い?」

 

「『何だ?』」

 

「もしかして、爆豪君よりも爆豪君のお父さんの方が仲良かったりする?」

 

「『………』」

 

そう言われてみれば、そうかも知れん。例えば一緒にキャンプした時、親父さんは嬉々としておばさんとの馴れそめを俺に語ってくれたが、もしかしたら勝己は知らないかも知れん。勝己の場合「そんなん知りたくもねぇ」とか言いそうだから尚更に。

 

そんな親父さんは爆豪家において最弱のカーストに属する男であり、爆豪勝と言う名前からは想像もつかないほど気弱な性格をした人物であるが、美人の良い女を嫁さんに出来た事を考えれば、少なくとも名前負けはしていないレベルの人生勝ち組である。尤も、それで一生分の幸運を使い果たしてしまったのかも知れないが……。

 

「『……まあ、俺と爆豪家の関係は兎も角としてだ』」

 

「(やっぱ、爆豪君より仲良いんだ)」

 

「(下手したら実の息子より仲良い息子の友達って……)」

 

「『俺としては迅速にエリが周りを怖がっているのを何とかしたい。流石に一朝一夕といかない事は分かっているが、せめて取っ掛かり位は今日中に作ってやりたい』」

 

「(それよりもヤオモモ達をどうにかした方が良いと思うんだケド……)」

 

「(知らぬが仏ってこう言う事を言うんだろうね……)」

 

一方、エリを第一に考える発言をする新に対し、耳郎と葉隠は新の知らない隠された問題を先に解決するべきだと考えていた。

 

林間合宿二日目の夜におけるA組とB組の合同女子会の全容を知る2人からすれば、ヴィランに攫われた新を救出すべく、麗日・蛙吹・八百万の3名が神野に赴いた事について思い当たる節があった。

また、仮に自分達と同様にヴィランのガス攻撃で意識不明になっていなかったら、救出メンバーの中にB組の小森が加わっていたのではないかとも考えている。他には自身の悪性(と言うほどでもないが)に懺悔し、贖罪を求めていた塩崎とか。

 

「(まあ、『重い』って事は分かるんだけどさ……)」

 

「(そりゃ、責任を取らなきゃいけないって事なんだろうケド……)」

 

オールマイトから託された力がヴィランに悪用される事を防ぐ為に自害する……それがヒーローとしては正しい事は分かる。そうしなければならない責任がある事も理解できる。だが、納得は出来なかった。だからこそ、あの3人は動いたのだ。例えソレがルールに反する事だとしても。

 

「『何か案は無いか? 具体的には、俺が持ち得ない女子の視点でのアイディアが欲しい』」

 

「って言ってもねぇ……何かイベントでも企画してみるとか?」

 

「『イベントか……悪くは無いと思うが、何が良い? 流しそうめんとか?』」

 

「いや、流しそうめんって……まあ、夏らしくて良いケド……」

 

「! そうだ! 良い事思いついた!!」

 

「『どんな?』」

 

「フッフッフ……クラスの皆がエリちゃんと仲良くなれて、クラスの雰囲気も元に戻るウルトラCな企画だよ!」

 

「『だからどんな?』」

 

「ふっふっふ……それは……」

 

「『それは!?』」

 

「……次回をお楽しみにッ!!」

 

「『この引き上手ッ!!』」

 

「いや、今話せば良いんじゃないの!?」

 

自信満々に胸を張る葉隠の顔は透明で見えないが、確実に渾身のドヤ顔をかましている事だけは理解出来る。

そして、耳郎のツッコミも虚しく、葉隠は自称ウルトラCな企画を秘密にしたままお茶会は終了した。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 前作で改造人間へとジョブチェンジしたが、怪人バッタ男である事は変わらない主人公。これから『HOPPER-Version3』こと『強化服・三式』を使う為、必然的に妹ポジのキャラが出来た。父よ、母よ、妹よって事で。

エリちゃん
 相澤先生が選んだGANRIKI☆NEKOのクソダサい夏服を着て登場した幼女。その後は夏を感じさせる素敵なオベベにお着替えした。デザインに関しては原作コミックス19巻のおまけページに載っているヤツの夏服バージョンと言った感じをイメージ。

相澤先生
 この世界線では自ら茶番を作り出す教師の鑑。ヒゲ面のおっさんで服のセンスがダサいとなれば、作者は「クソコーデおじさん」こと『ビルド』の氷室幻徳のネタを使わずにはいられない。

峰田実
 ある意味では元凶。こんな人間が除籍処分にならず、前年度は相澤が担当したクラス全員が除籍処分。つまり、「雄英の2年A組は変態ブドウ以下と言う耐え難いレッテルを貼られている事になるのではないか……?」と、作者は訝しんだ。

イナゴ怪人(1号~RX)
 ある意味では主人公以上に、この『怪人バッタ男』シリーズを象徴する怪人。シンさんの中で最優先すべき存在に設定されているエリちゃんを「我が君」と呼ぶ。尚、イナゴ怪人クウガを筆頭とした平成イナゴ怪人軍団はどっかに消えた。

イナゴ怪人アーク
 最早イナゴ怪人とは言えない脅威の怪人。エリちゃんに危害を加える存在に容赦しない。相手がオートバジン……ではなく、ロボットならば火球をぶっ放す。人間ならばビームで石化させる。そこから食われないだけまだマシだと思え。

耳郎響香&葉隠透
 前作における展開の都合上、クラスメイトと認識のズレがあった二人。今回シンさんから偽りの真実を知る事になるが、その様子は傍目から見るとシュールにも程がある。作者は二人に『目兎龍茶(メトロンちゃ)』を出すべきか否か地味に悩んだ。

没ネタ『狙われない女』

イナゴ怪人「ようこそ、イヤホン=ジャック。我々は君が来るのを待っていたのだ」

耳郎「………」

オール・フォー・ワン&オーバーホール
 両者ともエリちゃんに割とちゃんとした子供部屋を用意していたヴィラン。オーバーホールは潔癖症な点がそうさせたが、オール・フォー・ワンは「ヒーローがまともなレイアウトの子供部屋を用意すれば、それがエリのトラウマを刺激する引き金になる」と言う、ヒーローへの嫌がらせを兼ねていたりする。

爆豪勝
 かっちゃんの父親。今回は息子のかっちゃんを含め、スピンオフ作品である『チームアップミッション』第一巻の巻末に収録されている『私のヒーローアカデミア』のネタを使わせて貰った。尚、キャンプではヘビを捕獲して食うシンさんにドン引きしていた。



シンさんとエリちゃんの部屋
 配置は原作コミックス11巻に記載された見取り図で言うと、女子棟2階の上から二つ目と三つ目。校長の許可を得て壁を抜いている為、実質一部屋。上から二つ目が寝室で、三つ目が勉強部屋になっている。
 実は学生時代に作者は寮生活を経験しているのだが、建物の大部分が男子部屋で、一部分が女子部屋と言う学生寮で生活していた。つまり、今回の話の「一階上がれば女子部屋のエリア」、「上の階に居る同級生の女子が、下の階の男子部屋にやってくる」と言った部分は、作者の学生時代の実体験が元ネタになっている。
 尚、現在では女子生徒の増加と、建物の老朽化に伴う改築工事によって、ちゃんと建物毎に男子寮と女子寮に別れている。今にして思えばトンデモナイ環境で生活していたと思うが、それだけ生徒のモラルがしっかりしていた学校だったと言えるかも知れない。……実際に何らかの間違いが起こっていたのかどうかは知らん。
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