怪人バッタ男 THE NEXT   作:トライアルドーパント

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読者の皆様のお陰で、10月29日の日刊ランキングで43位を記録しました。怪人への変わらぬご愛顧を、何時もありがとうございます。

今回のタイトルは『新 仮面ライダーSPIRITS』の「軋む変身」から。そして前作『THE FIRST』で軽く触れた部分に、若干の変更や加筆、修正を加えて突入します。だって、そのまんまだと面白くないでしょうし。


第3話 軋む変身

雄英に全寮制が導入され、昨日から敷地内の学生寮で過ごす事になった俺達だが、現在雄英は夏休み期間中であり、新学期が始まったと言う訳では無い。

ヒーロー科に在籍する我々が少々特殊なカリキュラムを組んでいるから雄英に居るのであって、普通科や経営科の生徒は今も夏休みを満喫している事だろう。

 

残念な事に林間合宿は予想外の形で終わってしまったが、だからと言ってヒーローを目指し切磋琢磨する日常まで終わってしまった訳ではない。また、仮免試験に向けた“個性”の強化を目的としたカリキュラムを正常な形で修了する事が出来なかった事で、我々は半ば追い込まれた状況にあると言って良いだろう。

 

「昨日話したと思うが、ヒーロー科一年A組は、“仮免取得”を当面の目標とする」

 

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

 

しかし、その程度の逆境で怯むほど、我らA組の精神力は柔では無い。むしろ、全員が仮免の取得を目指し、今日から再開される訓練に対してやる気に満ち溢れている。

ちなみにエリは本日、学校に出勤しているリカバリーガールに面倒を頼み、保健室で預かって貰っている。

 

「ヒーロー免許ってのは、人命に直接関わる責任重大な資格だ。当然、取得の為の試験はとても厳しい。仮免と言えど、その合格率は例年5割を切る」

 

「仮免でそんなキツイのかよ……」

 

「そこで今日から君等には、一人最低でも二つ……『必殺技』を作って貰う!!」

 

「「必殺技ぁ!?」」

 

「「学校っぽくて、それでいて……ッ!」」

 

「「ヒーローっぽいのキタァアアアアアッ!!」」

 

仮免の合格率の低さを考えれば、教室にエクトプラズム、セメントス、ミッドナイトの三名が追加で入ってきた事を含め、これから始まる仮免試験を突破する為の訓練の過酷さが相当のモノである事は想像に難くない。

しかし、そんな状況下でも心が高鳴るモノがあれば、テンションの一つも高くなるのが人情である。それが超人社会の誰もが、人生で一度は考える「必殺技」に関する訓練となれば尚更だ。

 

「必殺! コレ即チ、必勝ノ型・技ノ事ナリ!」

 

「その身に染みつかせた技・型は他の追随を許さない! 戦闘とは如何に己の得意を相手に押しつけるか!」

 

「技は己を象徴する! 今日日、必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」

 

「詳しい話は実演を交え、合理的に行いたい。コスチュームに着替え、体育館γへ集合だ」

 

かくして、エクトプラズム、セメントス、ミッドナイトがそれぞれ考える必殺技の定義を聞いた俺達は、久方ぶりにコスチュームに着替えて体育館γに集合した。

そこはレスキュー訓練で使うUSJと異なり、一見すると特に何も用意がされていない広めの体育館なのだが、そこは雄英。此処がただの体育館である筈がない。

 

「体育館γ。通称、トレーニングの台所ランド。略してTDL!!!」

 

「「え……?」」

 

「(TDLはマズそうだ!!)」

 

「此処は俺考案の施設。生徒一人一人に合わせた地形や物を用意出来る。“台所”ってのはそう言う意味だよ」

 

「なーる」

 

「質問をお許し下さい! 何故、仮免許の取得に必殺技が必要なのか、意図をお聞かせ願います!」

 

「順を追って話すよ。落ち着け」

 

TDLの考案者であるセメントスの説明と軽い実演の後、飯田が相澤先生に必殺技修得の必要性を問う。それは正にA組における日常の風景であり、その光景に安心感を覚えるのはきっと俺だけではないだろう。

 

「ヒーローとは、事件・事故・天災・人災……あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。取得試験では当然、その適性を見られる事になる。

情報力・判断力・機動力・戦闘力の他に、コミュニケーション能力・魅力・統率力等、多くの適正を毎年違う試験内容で試される」

 

「その中でも戦闘力は、これからのヒーローにとって極めて重視される項目となります。備えれば憂い無し! 技の有無は合否に大きく影響する!」

 

「状況に左右されること無く、安定した行動を取れれば、それは高い戦闘力を有している事になるんだよ」

 

「マタ、技ハ必ズシモ“攻撃”デアル必要ハ無イ。例エバ……飯田君ノ『レシプロバースト』。一時的な超速移動。ソレ自体ガ脅威デアル為、必殺技ト呼ブニ値スル」

 

「! アレ必殺技で良いのか……ッ!!」

 

「なるほど……要は自分の中に“これさえやれば有利・勝てる”って型を作ろうって話か」

 

「その通り! 先日大活躍したシンリンカムイの『ウルシ鎖牢』なんか、模範的な必殺技よ。分かりやすいよね。相手が何かする前に縛っちゃう」

 

「中断されてしまったが、林間合宿での『“個性”伸ばし』は……この必殺技を作り上げる為のプロセスだった」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

「つまり、これから後期始業まで……残り10日余りの夏休みは、“個性”を伸ばしつつ必殺技を編み出す――圧縮訓練となる!!」

 

相澤先生の言葉に呼応し、セメントスの“個性”によって体育館の床は起伏に富んだものに変化し、何十体と言うエクトプラズムの分身がエクトプラズムの口から現れる。

 

そして、エクトプラズムの分身と同時に体育館に現れたのは、6体のイナゴ怪人。しかもイナゴ怪人達は全員、何故か黒いジャンパーを着込んでいる。

 

「って、なんでエクトプラズム先生に混じってイナゴ怪人がいるんだ?」

 

「ククク、知りたいか? ならば……お見せしよう……ッ!」

 

不敵な笑みを浮かべながら紡がれたイナゴ怪人2号の台詞に合わせ、イナゴ怪人全員が一斉にジャンパーを脱ぎ捨てる。すると、イナゴ怪人達の腰に見覚えの有り過ぎるモノが装着されていた。中央に風車を備えたベルトである。

 

「ね、ねぇ、アレって……」

 

「まさか……!」

 

「変身ッ!!」

 

「変身……ブイスリャァアアアアアアアアアアッ!!」

 

「いくぞッ!!」

 

「セッターーーーープッ!!」

 

「アーーーーマァーーーゾォーーーーンッ!!」

 

「変身……ストロンガァアアアアーーーーーーーーッ!!」

 

「「「「「「トォオウッ!!」」」」」」

 

三者三様ならぬ、六者六様のポーズを決めるイナゴ怪人が一斉に跳躍すると、ベルトのダイナモが回転すると同時にベルトに格納されたライダースーツが飛び出し、異形の体を包み込む。

そして、全員が同じタイミングで着地すると、6人のイナゴ怪人は首に巻かれた黄色のマフラーを靡かせ、何処からともなく取り出したバッタを模したヘルメットを装着する。

 

「な……に……!!」

 

「変身、した……」

 

「『仮面ライダー』……だと……」

 

「そう……我々イナゴ怪人もまた『仮面ライダー』。我らの王が愛用した『強化服・一式』と『強化服・弐式』で得られたデータを元に、我々イナゴ怪人専用として開発された『強化服・一七五式』を纏った姿よ」

 

「そして、これこそが我らイナゴ怪人最強の姿。今や我々の誰か一人が貴様等全員と戦ったとしても……貴様等に勝ち目は無いッ!!」

 

「面白ぇ……!」

 

「言っておくが、コイツ等の相手は俺達から見て、それなりに必殺技が形になっている者からになるので、各自そのつもりで。

尚、各々の“個性”の伸びや技の性質に合わせて、コスチュームの改良も平行して考えていく様に。プルスウルトラの精神で乗り越えろ。準備は良いか?」

 

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

 

「ワクワクしてきたぁあああああああああ!!」

 

明確な逆境を前に、皆冷汗こそかいていたが、決して臆する事は無かった。むしろ、不敵な笑みを浮かべている者の方が多い位だ。何故なら「逆境を覆す事」は、俺達にとって初体験ではない。むしろ、ヒーローになれば必須の条件と言えよう。

 

「(……どうしよう……)」

 

「………」

 

しかし、そんなクラスメイト達を余所に、自分の右腕を不安な顔で見つめる出久の事が俺は気になっていた。

 

現在、出久に宿る“個性”『ワン・フォー・オール』は“個性”そのものに蓄積された力を全て使い切り、“無個性”に等しい状態に陥っている。その力を復活させた上、更なる力を得る方法もあるにはあるが、予想されるリスクとデメリットが高過ぎる。

 

また、仮に『ワン・フォー・オール』が使用可能になったとしても、それが出久の為になるかと言われれば、それはそれで疑問が残る。

 

大事を前にすると小事を疎かにしがちなのは人間の悪しき習性であるが、出久の場合はそれが自己犠牲と言う形で現われる。俺も出久の事は言えないが、『ワン・フォー・オール』がその強大な力を取り戻したのなら、出久は遠くない未来でここぞと言う時、間違いなく自分自身をも滅ぼす力を迷い無く使うだろう。

俺自身、出久のそうした自己犠牲によって救われた結果、こうして雄英にいられる訳なので、ソレに関して強く言う事が出来ない。しかし、それでも病院のベッドで死人の様に眠る出久に縋る出久のおばちゃんの姿を思い出す度に、やはり力を手にする事の是非について考えてしまう。

 

「サテ、必殺技ノ修得ニツイテダガ……君ノ場合ハ既ニ複数ノ必殺技ヲ持ッテイルト言ッテ良イ」

 

「でしょうね……」

 

仮に人から「必殺技とは何ぞや!?」と問われたならば、俺は「文字通り相手を必ず殺す技である」と答える。それを食らえば終わる的な恐るべき技であると。

 

しかし、先生方が考える必殺技の定義を総合して考えれば、ヒーローにとって必殺技とは「自分自身の代名詞となる必勝の型・技である」との事で、言い換えるなら「飛び抜けた長所=必殺技」と言っても過言では無い訳だ。

その点で言えば、様々な困難を乗り越えて複数の能力と複数の形態を体得した俺は、既にそれ自体がヴィランに対する脅威である為、現時点で複数の必殺技を持っているに等しいとエクトプラズム先生の分身は言う。

 

ただ、その理論で言えば、出久の方はかなり不味い事になる。

 

出久の他を圧倒する長所の一つは『ワン・フォー・オール』に由来する「自身の肉体が破壊される程の並外れた力」だ。しかし、これまでに出久が見せたモノの中では、『フルカウル』以外の使い方は先生方が求める様な「安定した行動」とは正直言い難い。

これまでに出久が使ってきた決め技は全て必殺の威力こそあるが、常に無視する事の出来ないリスクとデメリットが付いて回る博打に等しいモノであり、必殺技の定義からすれば論外と言わざるを得ない代物……と言う訳だ。

 

そもそもの話、“無個性”でも超人社会の柱になるべく体を鍛え続けてきたオールマイトと、中学校三年生の春から体を鍛え始めた出久では、同じ“無個性”でも積み重ねてきたモノの厚さがまるで違う。

オールマイトと同じ様に『ワン・フォー・オール』を使う事自体、冷静に考えればかなり無茶な話なのだが、これに関しては『ワン・フォー・オール』の使い方を教授できる人間……つまり経験者がオールマイトしか居ない為、理論派の出久は感覚派のオールマイトから使い方を習い、オールマイトの使い方に倣わざるを得なかったと言う仕方の無い部分もある。

 

また、出久のオールマイトに向ける憧れは、最早崇拝の域に達するレベルにあり、オールマイトの“個性”と言う巨大で強大過ぎる力を授けられ、「“平和の象徴”の後継者になった」と言う自覚もまた「オールマイトに倣わなければならない」と出久に思い込ませ、その力の使い方を限定させた要因と言えるだろう。

 

しかし、しかしである。それなら闇の帝王の“個性”と言う凶悪で凶暴過ぎる力を吸収した俺も立場的には似た様なモノである。そして、俺はあの男に倣うつもりは毛頭ない。

 

確かに強力な“個性”は素晴らしい。卓越した能力は眩しい。だが知った事か。選ばれて手にした力がどれだけ強く美しいモノなのだとしても、俺は俺で、出久は出久だ。オール・フォー・ワンじゃあないし、オールマイトでもない。

 

「一応、先生方の言う『必勝・必殺の技や型』で、パッと思いついたモノは幾つかあるんですが……」

 

「ホウ……デハ、早速見セテ貰オウカ」

 

「待て、その役目は我々がやろう。今は出来るだけ多くのデータが必要なのでな」

 

分身であるが故に、その身を以て俺の考えた必殺技を受けようとしたエクトプラズム先生に待ったを掛けたのは『強化服・一七五式』を……即ち、『仮面ライダー』と言う名の鎧を纏ったイナゴ怪人達。

その数は5体。残り一体はどう言う訳か傍観を決め込んでいるが、俺が思うにアレは客観的な視点でのデータ収集を担当している。後は勝己あたりが強化服を纏ったイナゴ怪人に喧嘩を吹っかけそうなので、その為に残っていると見た。

 

「それじゃ……始めるか」

 

「うむッ!!」

 

これまでの様に「オールマイトの力でオールマイトを模倣する」やり方を続けていたら、何時まで経っても出久は「安定行動に繋がる必殺技」を身に付ける事は出来ない。

出久はこれまでのやり方を捨て、自分の他の長所を用いた必勝・必殺の型や技を編み出さなければならない。言わば、オールマイトでも持ち得ない、出久だけのオリジナルを……だ。

 

最近の出久はすっかり忘れているようだが、出久にはオールマイトとは違う持ち味と言うモノを持っている。俺にだってオール・フォー・ワンとは違う持ち味がある。俺はそれを言葉ではなく、行動で此処に示そうと思う。

 

「「「「「………」」」」」

 

そんな俺達の様子を、体育館の外から5人のイナゴ怪人がじっと見つめていた。

 

 

○○○

 

 

A組の皆がそれぞれ必殺技を修得するべく、分身のエクトプラズムの指導を受けて訓練に励む中、僕はその様子を見て焦りと不安を覚えていた。

 

「(皆、進んでる……)」

 

「何ヲ、ボーットシテイル?」

 

「ドッハ!」

 

根本的な立ち回りの改善。“個性”の使い方の工夫。皆が訓練の方向性を定めていくのを見ていた僕に、エクトプラズムのツッコミが蹴りと言う形で入る。

 

「あっと……その、必殺技なんですけど……僕、“個性”を使い過ぎた後遺症で“個性”が使えなくて……」

 

「ウム。ソノ事ハ、りかばりーがーるカラ聞イテイル。確カ、う゛ぃらんトノ戦闘デ無理ニ“個性”ヲ引キ出シタノダッタナ」

 

「はい……一応、回復の見込みはあって、前みたいに“個性”が使える様にはなるみたいなんですけど……正直、先生方が言うような必殺技のヴィジョンが全然見えないんです……」

 

「フム……確カニ君ノ“個性”ハアル意味、安定行動トハ最モ遠イ。ソノ“個性”ガ不調トナレバ、今日ノ所ハ安定行動ヲ取ル為ノすたいるヲ模索シテイコウカ」

 

前もって用意していた言い訳を使って“個性”が使えない事を誤魔化したケド、安定行動が取れるスタイルの模索と言っても、『フルカウル』の許容上限を伸ばす以外に特に思いつくモノは無い。

仮に『ワン・フォー・オール』が前みたいに使える様になったとしても、オールマイトみたいに100%の出力を使いこなせない現状でどう戦っていけば良いのか、その答えが見つからない。

 

「やってるねぇ、皆!」

 

「オールマイト……?」

 

「私が……呼ばれてないケド、今日は特に用事もなかったので、来たッッ!!」

 

「いや、療養してて下さいよ。後期に備えて」

 

「(挨拶代わりに変身したわ……)」

 

「オイオイ、つれないな。必殺技の授業だろ? そんなの見たいに決まっているんだよ! 私も教師なんでね。―――……」

 

僕が必殺技について悩んでいる中、体育館γにオールマイトがやってきた。あっちゃんとリカバリーガールのお陰で神野区での負傷は治ったらしいんだけど、憔悴した体を治す事は出来なかったみたいで、現にマッスルフォームになったのはほんの一瞬で、すぐにトゥルーフォームに戻ってしまう。

 

神野区の件ではオールマイトから随分と心配されたし、長いお説教も受けた。お母さんの気持ちを蔑ろにして気苦労をかけた結果、雄英で学ぶ事を一時は猛烈に反対された。

 

どんなに困ってる人でも笑顔で助ける――そんな最高のヒーローになるには、大事な人達に心配をかけない為には、まず自分が無事でいなきゃいけないんだと、今更ながらに分かった。だから、安定行動を取る為の必殺技の修得は、僕にとって必要不可欠のモノなんだけど……。

 

「久々に暴れるとスッキリすらぁ……! エクトプラズム!! 死んだ!! もう一体頼む!!」

 

「彼は凄いな」

 

「ええ。もっと強くなりますよ。アレは」

 

「おぉ! 爆豪君、張り切ってる!」

 

「アイツもう技のヴィジョン沢山あんだろうな」

 

「入学時から技名つけてたもんね!」

 

「オイラだってガキん頃から温めてる『グレープラッシュ』っつう技あんぜ!」

 

「つーか、誰でも一度は考えんだろ。俺『電撃ソード』とか考えてた。それをこうやって実現できるってんだから、テンション上がるぜ!」

 

「………」

 

やっぱり、皆を見ると焦ってしまう。“無個性”に戻ったら僕には何も無いんだと思ってしまう。どうすれば良いのか、どんなに考えても何も分からない。

 

「ヘイ!」

 

「あっ、オールマイト……!」

 

「アドバイス。『君はまだ、私に倣おうとしてる』ぞ!」

 

「へ……? それはどう言う……」

 

オールマイトのアドバイスの意図が理解出来ず、どう言う意味か聞こうとしたその時、何かが高速で回転する甲高い異音と共に、体育館γの中に強風が吹き荒れる。

ふと、突如発生した嵐の発生源に目を向けると、そこには力強いポーズを取り、強化服を纏った5体のイナゴ怪人と向かい合うあっちゃんの姿があった。

 

「ライダー……パワーッ!!」

 

あっちゃんの言葉に呼応する様に、バッタを模したヘルメットの複眼は赤く輝き、全身に隈無く高密度のエネルギーが駆け巡っている。

 

ライダーパワー。それは瞬間的に『強化服・弐式』の性能を限界まで向上させるモノだと、あっちゃんから聞いた。そして、神野区ではその切り札を使って、あのオール・フォー・ワンと渡り合ったとも。

 

「行くぞッ!! 者共、かか――」

 

それは、正に刹那の間に起こった出来事だった。一筋の赤い閃光が走ったと思ったら、次の瞬間には衝撃波が発生し、イナゴ怪人の一体が高速でセメントスの作った高台に激突。そして、一呼吸適度の間を置いた後、大爆発を起こした。

 

「何が……」

 

「殴ったんだよ。『電撃』を拳に纏い、『爆破』を込めてイナゴ怪人を殴り、時間差で爆破した」

 

オールマイトの言う通り、爆煙が晴れた後には黒焦げの強化服を纏ったイナゴ怪人が横たわっていて、さっきまでイナゴ怪人が立っていた場所には、ボロボロのグローブを嵌めて右拳を突き出したあっちゃんが立っていた。

 

「ぬぅ、おのれぃッ!」

 

「キェエエエエエエエッ!!」

 

五体の内一体が早速脱落し、残された四体のイナゴ怪人達が猛然と襲いかかる。強化服を身に付けた事で向上した身体能力から繰り出される攻撃は速く鋭く、その拳が、蹴りが、手刀が、爪先が高い攻撃力を有している事を容易に予想させる。

 

「………」

 

直後、僕達は驚くべき光景を目の当りにした。あっちゃんは迫り来るイナゴ怪人達の攻撃を次々と通り抜けた……いや、透り抜けた。まるで、『透化』の“個性”によって実体を無くしたミリオ先輩の様に。

 

「新しい能力……」

 

「いや、アレは新しい能力なんかじゃない。回り込んでいるだけだ」

 

「回り込んでいるだけ……?」

 

「そう。ただ、極限まで無駄が無い。あれは“個性”に由来する特殊な能力ではなく、純粋な技術によって為し得たモノだ」

 

オールマイト曰く、あっちゃんがやっている事は「回り込んだ」だけで、何も特別な事はしていない。ただ、その防御に、体捌きに、足運びに関する無駄な動きがギリギリまで削ぎ落とされ、その結果“回り込む”を超越し“通り抜ける”の境地に踏み込んでいる――と。

 

つまり、今僕が目にしたのは、単純で地道に積み重ねた、理に適った努力の帰結。「回り込む」と言う凡庸な技術が磨き上げられ、速度の概念を超えた速度を身に付けた事で、「通り抜ける」と言う超常の高みに到達したのだと。

 

「シィッ!!」

 

「ヌァアアアッ!!」

 

そんな僕の驚きを余所に、あっちゃんはイナゴ怪人達の攻撃すり抜けると、猛烈なキックを一体のイナゴ怪人の背中に叩き込んで空中にかち上げる。

 

直後、再びあっちゃんは姿を消し、幾筋もの赤い閃光がイナゴ怪人の肉体を落下させる事無く空中に留めていた。

 

やっている事は多分、期末テストの実技演習でサー・ナイトアイを相手にやった、空中に『超強力念力』の足場を展開して行う高速戦闘。

だけど、明らかにあの時とはスピードが違う。空中を移動するスピードが、空中に『超強力念力』の足場を展開するスピードが、桁外れに速くなっている。

 

「ライダー……キックッ!!」

 

「ぐぉおおおおおおお!?」

 

次にあっちゃんの姿がハッキリと見えたのは、空中でイナゴ怪人に必殺の右蹴りを叩き込んだ一瞬だった。多分、『超強力念力』の壁を空中のイナゴ怪人の背後か周囲に展開して、逃げ場を無くしていたんだろう。

それから『超強力念力』を解除。或いは力技で強引に破る事で、イナゴ怪人が勢いよく地面に叩きつけられると同時に衝撃波と振動が体育館γに発生。先程と同じ様に一呼吸程度の間を置いて大爆発が巻き起こる。

 

「フゥー……」

 

「「「シャァッ!!」」」

 

あっちゃんのコスチュームは必殺技の反動からか、右足のブーツが右腕のグローブと同様のダメージを受けていた。

そんなあっちゃんに休む間を与えまいと、3体のイナゴ怪人達がダーツの様な物を三方向から一斉に投げつけ、今度はあっちゃんが爆発に飲み込まれた。

 

「やったかッ!?」

 

自分達の主へ容赦なくダーツ型爆弾で攻撃したイナゴ怪人達は、確かな手応えを感じた発言をしていた。

その直後、炎の体を持つバッタの群れと、氷の体を持つバッタの群れがイナゴ怪人達を強襲し、あっちゃんが居た場所には半円状の金属が鎮座していた。

 

「あれは、I・アイランドでの……!」

 

「そうだ。あの時は薬物による“個性”の強制的な活性化と、ヴィランのサポートアイテムを奪う事で可能としていた。だが、今の呉島少年ならば、それらの外的要因が無くとも同様の事が可能となる」

 

イナゴ怪人達が炎と氷のバッタの群れに翻弄される中、あっちゃんが爆発から身を守る為に半円状に展開していた金属が分解され、鋼の体を持つバッタの群れとなってイナゴ怪人達への攻撃に加わる。

あっちゃんの意志によって操作された三種のバッタの群れは、三体のイナゴ怪人達を二体と一体に分断すると、氷のバッタ達が二体のイナゴ怪人を纏めて覆い尽くし、凍りつかせてその動きを止めた。

 

すると、間髪入れずに炎のバッタ達が集合し、人型に変形。空中で飛び蹴りの体勢を取ると、その高密度に圧縮されたエネルギーを以て、必殺の威力を誇る一撃を氷漬けで身動きの取れない二体のイナゴ怪人に繰り出し、炎の人型は大爆発と共に霧散する。

 

「これで決まりだ」

 

あっちゃんに相対するイナゴ怪人は残り一体。その最後のイナゴ怪人を撃破するべく、あっちゃんは鋼のバッタの群れを人型に変形させると、最後のイナゴ怪人へ向けて跳び蹴りを繰り出す体勢を取らせた。

 

「させるか! トォオオオウ!!」

 

それに対する最後のイナゴ怪人の返答は、その場から勢いよく跳躍し、鏡写しの様に跳び蹴りの体勢を取る事だった。

 

「ライダーキィーーックッ!!」

 

迫り来る鋼の人型の右跳び蹴りを、同じく右跳び蹴りで迎撃するイナゴ怪人。空中でせめぎ合う二つの必殺キック。勝負に競り勝ったのは、イナゴ怪人だった。

 

「フッ……ぬっ!?」

 

イナゴ怪人の必殺技によって崩壊する鋼の人型。それを見てイナゴ怪人は勝利を確信するが、砕けた金属は無数のバッタに姿を変えた後に円錐状へと変形し、その切っ先をイナゴ怪人に向けた状態で回転を始めた。

 

「トォオオオオオオウッ!!」

 

「!!」

 

「ライダァアーーーキィイイーーーック!!」

 

そして、あっちゃんはその場から跳躍し、イナゴ怪人に回転する鋼の円錐を押し込む様に跳び蹴りを繰り出した。緑色の電撃を纏って行われたその攻撃は、正面からまともに受けたイナゴ怪人を猛烈な勢いで吹き飛ばし、やはり一呼吸程度の間を置いての大爆発を引き起こした。

 

「………」

 

圧倒的だった。でも、あっちゃんは一度も被弾する事無く戦闘を終えたにも関わらず、コスチュームは全身の至る所がボロボロになり、ヘルメットの一部から火花が散っていた。『強化服・弐式』があっちゃんの行使する力と技に耐えきれていないのは明白だった。

因みに、イナゴ怪人達のコスチュームはあっちゃんの必殺技のダメージによって黒焦げになっていたけど、それでもダメージはかなりに抑えられていたらしく、全員がヨロヨロと起き上がると、あっちゃんの元へ歩いていった。

 

「……うん。アドバイスをもう一つ付け加えるなら、呉島少年を参考にすると良いよ」

 

「はい!?」

 

僕はオールマイトの言いたい事がますます分からなくなった。今の僕があっちゃんの何をどう参考にしろと言うのか。

 

「それと、今日の訓練が終わったら、呉島少年と共に職員室に来てくれ。会わせたい人達が居るんだ」

 

「え? わ、分かりました。それで、あっちゃんを参考にってどう言う……」

 

「やぁ、切島少年! 私がアドバイスして回るぞ!」

 

混乱する僕を余所に、オールマイトは切島君の方へと行ってしまった。そして、オールマイトのアドバイスの意味が分からぬまま迎えた放課後で、僕は予期せぬ再会を果たす事となる。

 

 

●●●

 

 

人間とは誰もが運命の奴隷であり、人生と言う船は運命と言う潮流にただ流されるモノでしかない。しかし、その抗えない潮流は時として、予想だにしない方向へと船を走らせ、思いがけない幸運を船の乗り手に与える事がある。

 

「……信じられない。これが、たった一つの“個性”によるモノだとは……」

 

そう。例えば、目の前でモニターに齧り付く、デヴィッド・シールド博士の様に。

 

博士はI・アイランドにヴィランを招き入れ、安全と平穏を約束された科学者の楽園に恐怖と混乱をもたらした罪で警察に逮捕された訳だが、博士の「オールマイトの“個性”が消失の危機にある」と言う、大半の人間が質の悪いジョークだと一笑に付したその犯行動機は、オールマイトの引退によって異様な信憑性を帯びる様になった。

 

仮定の話と言うモノは、総じて何の生産性も無い、毒にも薬にもならないモノだと相場が決まっているが、事は世界にその名を轟かせ、ヒーローの本場アメリカでも有名な日本の№1ヒーローの現役引退である。

こうなると博士の犯行に至る経緯を知る者の中に「仮に博士の研究が完成していたのなら、オールマイトは引退せずに済んだのではないか?」と言う考える者が出ても可笑しくはない訳で、それを上手い事利用しようと企む怪人もまた存在した訳である。

 

「デヴィッド・シールドはオールマイトの“個性”が消失の危機にある事を知っていた。そして、それを打破するべく行動に移したと言うのが事件の真相だ。結果的に博士の目論見は失敗したものの、博士の懸念はオールマイトの引退と言う形で現実のモノとなった。各国政府の愚かな決断がなければ博士の研究は完成し、少なくともオールマイトが今引退する事は無かった……貴様等もそうは思わんか? ん?」

 

イナゴ怪人の言う事は正直とんでもない暴論であるが、博士の研究が試作段階で止まった原因は各国政府の圧力によるモノである事は間違いなく、研究が完成していれば今とは違った結末を迎えていた可能性は高い。そう断言する事が出来るだけの天才性を博士は持っていた。

 

「……単刀直入に聞く。何を目的にそんな情報を我々に話した?」

 

「知れた事よ。貴様等の力でデヴィット・シールドを日本に呼び寄せて欲しいのだ。あの男ならもしかすればオールマイトの“個性”を復活させ、現役復帰させる事も出来るやも知れんぞ?」

 

「……確かに魅力的な話ではあるわ。でも、それだけではないのでしょう?」

 

「当然だ。何、悪い様にはならん。貴様等とて『敵連合』が……ひいてはオール・フォー・ワンが改造人間の完成形と称した『ガイボーグ:SEVEN』。そのデータの一つや二つは欲しいだろう? それも信頼できる優れた科学者から」

 

「「………」」

 

脳無とガイボーグと言うプロトタイプを経て、それらから得られたデータを元に完成させた改造人間『ガイボーグ:SEVEN』。

オール・フォー・ワンが“個性特異点”との決戦を想定して造ったと言う力が如何ほどであるかと言うのは、警察や公安委員会が知っておきたい事柄であり、近々調べようと思っていた案件ではあった。

 

しかし、そうなると問題となるのは「誰にそれを任せるのか?」と言う事。

 

超常黎明期から社会の闇に君臨していたオール・フォー・ワンのシンパである『財団』は、警察でも何処にどれだけ潜んでいるか把握する事が出来ず、改造技術者の存在を考えれば優秀な医者や科学者であるほど、オール・フォー・ワンの息が掛かっている危険性は高い。

 

仮に『財団』のメンバーではなかったとしても、それが『異能解放軍』や他の闇組織の人間だったと言う事になったら目も当てられない。特に『異能解放軍』はオール・フォー・ワンの供述が正しければ、何十年と言う永い時間をかけて政治や経済、メディアと言った様々な業界・分野に深く潜り込み、雌伏の時を虎視眈々と狙っている、今や日本の裏社会最大の闇組織だ。

 

誰よりも“個性”に精通し、『敵連合』の改造技術者と同等の技術力と知識を併せ持ちながら、確実にヒーローサイドであると信じるに値する人物――犯罪者であると言う一点を除けば、雄英卒業後にアメリカで活動していた若き日のオールマイトのサイドキックを勤め、オールマイトが日本に戻ってからも長年に渡ってオールマイトを支え続けたノーベル個性賞の受賞者と、デヴィット・シールド博士はこれらの条件を全て満たす希有な人材だった。

 

当然、犯罪者であるデヴィット・シールド博士を動かすのは容易ではないが、元々計画を立案し、博士にそれを提案したのは助手のサムであり、その辺の事情はサム本人が自白している。また、金銭目的でヴィランに協力していたサムと比べれば、博士はまだ情状酌量の余地があり、幸か不幸かオールマイトの現役引退がそれを後押していた。

 

結果、日本の正義と秩序を守る組織の偉い人達が如何なる手段を用い、どの様な過程を経てこうなったのかは余り考えたくないが、兎に角デヴィッド・シールド博士は超法規的措置によって密かに雄英に召喚され、俺の肉体や“個性”の解析に勤しんで貰っているのである。いやはや、権力とは恐ろしい……。

 

「それで、デイヴ。君は呉島少年に『ワン・フォー・オール』を譲渡し、緑谷少年に戻したとしたら、『ワン・フォー・オール』はどうなると思う?」

 

「……それは、今も緑谷君の中にある『ワン・フォー・オール』の力を復活させる事は可能かと言う事だな?」

 

「ああ。連合が“人造個性”や“複製個性”と言った技術を保有していると考えられる以上、奴等が今後『オール・フォー・ワン』の“複製個性”を、後継である死柄木に与える可能性は高い。脳無の様な改造人間に対抗する為にも、『ワン・フォー・オール』の復活は必須だと私は考えている」

 

「ううむ……」

 

しかし、そんな偉い人達の頑張りのお陰で、見方によってはオールマイト以上に『ワン・フォー・オール』を熟知している博士に俺と出久の体と“個性”を調べて貰い、『ワン・フォー・オール』の力を復活させる最適解を意見して貰う事が出来る訳だ。

尚、博士には『ワン・フォー・オール』の詳細は元より、『ガイボーグ』の製造目的や『敵連合』が保有するであろう“複製個性”や“人造個性”に関する情報も既に伝えてある。

 

だが、流石の博士も『ワン・フォー・オール』については前例の無いパターンである為か、眉間に深い皺を寄せて唸っている。

 

「……その方法なら『ワン・フォー・オール』は力を取り戻す所か、今まで以上の力を手にする事が出来るだろう。だが、その後で『ワン・フォー・オール』にどんな変化が起こるか、全く予想出来ない。

測定された呉島君の個性数値は、全盛期のオールマイトの『ワン・フォー・オール』のソレを遙かに上回っている。神野区で起こった緑谷君の変化を鑑みても、それ以上のナニカが緑谷君の身に起こったとしても不思議じゃない」

 

「それ以上のナニカ……ですか」

 

「そうでなくとも、元々『ワン・フォー・オール』には不可解な点がある。『ワン・フォー・オール』の始まりは、オール・フォー・ワンが弟に『力をストックする』“個性”を与えた事だと言う話だが、それなら『ワン・フォー・オール』を使えばストックされている力は消費される筈だ。譲渡される度に力が蓄積されて増強の一途を辿り、それらが一切消費される事無く使えると言うのはおかしい。

それに『力をストックする』“個性”は、オール・フォー・ワンが病弱な体を持つ弟でも使いやすい(・・・・・・・・・・・・・・・)と考えて与えた“個性”なのだろう? つまり、それから派生した『ワン・フォー・オール』の力を蓄える能力については、別に体を鍛えていなくても問題は無いと言う事になる筈だ」

 

「し、しかしだな、デイヴ。実際に『ワン・フォー・オール』を譲渡する際、それを受け止められるだけの器を作らなければ、受け止めきれずに四肢が爆散してしまうのだが……」

 

「それについては“個性”に蓄積されるエネルギーの量みたいな話ではなく、譲渡される度に継承者が発揮できる身体能力の上限が増え、その伸びしろが極端に増える負荷に肉体が耐えきれずに起こるのではないかと私は考えているが……兎に角、『ワン・フォー・オール』には色々と説明の付かない部分がある事は確かだ」

 

ううむ、流石はノーベル個性賞を受賞した個性研究の第一人者だ。我々とは異なる発想と視点を持ち、我々では気付く事の無かった点を指摘してくれるのは実に有り難い。

 

「ふむ……つまり、『ワン・フォー・オール』そのものに懸念材料があり、安易に復活させるのはデクの為にならないと言う訳だな?」

 

「うん? まあ、そうだな……」

 

「ならば、話は簡単だ。デクが『ワン・フォー・オール』を我が王に譲渡する必要は無い。むしろ、その逆……つまりは、我が王がデクに力を与えれば良いのだ。今のデクでも使いやすい力を。かつて、オール・フォー・ワンがそうした様にな」

 

秘密の会議に乱入したイナゴ怪人スカイのアイディアに、出久とオールマイトと博士の三人は揃って目を剥いていたが、俺にとってソレは非常に魅力的な解決方法に思えた。

 

そうだ。『ワン・フォー・オール』を譲渡すれば、『ワン・フォー・オール』へ極端に大きな力が蓄積されてしまう。

ならば、ただ出久に使いやすい力を与えれば良い。この方法なら出久が“個性”の反動によって必要以上に傷つく事も、それで出久のおばさんが涙する事も無くなる。

 

「………」

 

「あ、あっちゃん?」

 

「お前が大切だ。今のお前でも、使いやすい力があるんだ。『共に征こう』」

 

「!?!?!?」

 

「オール・フォー・ワンッ!! 貴様ッッ!!!」

 

俺のオール・フォー・ワンの声真似に、出久は夜道で魔王にでも出くわしたかの様な表情を見せ、オールマイトは般若の如き凄まじい形相でマッスルフォームを発動し、俺の顔面に渾身の一撃を叩き込もうとしていた。

 

「待って待って待って待って!! ちょっと待って! 嘘! ウソ! 冗談! ジョーダンですって、オールマイト!!」

 

「「「………」」」

 

「すみません! 悪ふざけが過ぎました! 正真正銘、俺です! 呉島新です!」

 

「……雄英の合格通知の映像で、麗日さんが名前を知らない僕の事を何て言ってた?」

 

「美少女ゲームとか好きそうな、アイドル馬鹿にするとマジギレしてくる感じのヤツ!」

 

「林間合宿の前にクラスの皆と行った買い物で、僕が手に入れたオールマイトのパネルに書かれていた言葉は?」

 

「オールマイトの匂い完全再現!」

 

「……うん。オールマイト、本物のあっちゃんです」

 

「質が悪いにも程があるッ!! 心臓が止まるかと思ったぞッ!!」

 

出久のお陰で何とか誤解は解けたが、オールマイトからはマジで怒られてしまった。それもこれも二人はオール・フォー・ワンが“個性”『オール・フォー・ワン』を投与する事で、俺の肉体を乗っ取ろうとしていた事を知っている為だ。

 

「それで真面目な話どうします? それ以外の方法となると、サー・ナイトアイやグラントリノに協力して貰う位しか思いつかないんですけど?」

 

「……少なくとも、呉島君に『ワン・フォー・オール』を譲渡するのは駄目だ。それに、緑谷君の体が『ワン・フォー・オール』と合っていなかった事は、“個性”を研究する者として否定する事は出来ない。『ワン・フォー・オール』に蓄積される力を、緑谷君の体に合わせる事が出来るのなら話は変わるが……」

 

「しかし、これから緑谷少年が相対するであろう脅威の事を考えると、私としては少なくとも前と同じか、それ以上の力を発揮できる方が良いと思うのだが……」

 

「確かに今後の事を考えれば、その方が良いのかも知れない。“個性”と体が合っていないのなら、今の所はそう言う人達の為に開発したサポートアイテムに頼ると言うのも選択肢としてはアリだろう」

 

「なら……」

 

「だがな、トシ。私はもう、その人の体が耐え切れない程に強い力が与えられる事を、良しとする事は出来ない。例えソレが、人々の平和の為に必要なのだとしてもだ」

 

「デイヴ……」

 

まあ、そうでしょうね。博士ならそう言ってくれると思っていました。

 

しかし、俺の横に座る出久の顔を見た感じ、出久はオールマイトと同様に「前と同じかそれ以上の出力派」と言った感じである。俺と博士が提案する「出久の体に合わせた出力派」との対立は避けられないだろう。

 

ちなみに、「出久でも使いやすい力を与える」案が採用された場合、俺が魔王の力を習熟する必要があるのだが、恐らくソレはすぐに出来る。

何せ俺の体はオール・フォー・ワンの鎧にして、その魂を収める鉢として改造されている。そう考えれば、この体は『オール・フォー・ワン』が使える事を前提にしている筈だ。現に脳無やガイボーグを人間に戻す際、その“個性”を奪う事が出来ている。

 

もっとも、それとは別にソレが出来る様になる必要が俺にはあるのだが……。

 

 

●●●

 

 

林間合宿において、『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』のマンダレイ、ピクシーボブ、ラグドールの三名がオール・フォー・ワンによって“個性”を奪われ、その“個性”は俺に投与された。

 

事件が終結し、拉致された彼女達は無事に保護されたが総じて“無個性”となり、ヒーロー活動を休止せざる得なくなってしまった。

そんな彼女達がメンバーの虎さんや、安全な場所に一時的に預けていた洸太君と共に事務所へ戻った翌日、想像を絶する事態が5人を待ち受けていた。

 

「フォフォフォウ、フォフォフォウ、フォッフォフォウッ!!」

 

「フォフォフォフォ、フォフォフォフォ、フォッフォフォフォウ!!」

 

「フォフォフォフォ、フォフォフォフォ、フォッフォフォフォオ……」

 

「フォッフォフォ、フォッフォフォ、フォフォーフォーウッ!!」

 

「「「「フォウフォフォ・フォウフォフォ・フォッフォーフォーッ!!」」」」

 

「「「「「………」」」」」

 

マタンゴの奇形種であるマランゴ。『敵連合』の一人を苗床にして4体に増えたマランゴ達は、ガス人間第一号ことマスタードを撃破した後、森の中へと姿を消して行方を晦ませていた。

 

巨大な男性器を模したキノコの怪人と言う、見た目だけならある意味で俺以上にヤベェ奴等が、黙って失敬したプッシーキャッツのフリフリのコスチュームに身を包み、人ならざる声で本人達の口上とポーズを決めると言う悍ましい絵面を前に、プッシーキャッツの面々と洸太君がマランゴ達に嫌悪と絶望の表情を向けていた事は簡単に想像できる。

 

『それでこのまま同士達の“個性”が戻らなければ、奴等がプッシーキャッツの新メンバーになりかねんのだ……』

 

「それって既にマランゴにチームを乗っ取られたも同然では?」

 

そんな訳で虎さんが雄英を通して俺に助けを求めたのだが、これはエンデヴァー等の“個性”を俺が復活させた事で、彼女達の“個性”を復活させる事も出来るのではないかと期待しての事らしい。

 

だが、エンデヴァー等が受けた無個性化と、プッシーキャッツの3名が受けた無個性化は、「個性が使えない」と言う点こそ同じだが、その過程と本質が全く違う。

 

前者はエリの『巻き戻し』に由来する、体内の個性因子に影響を与えた結果であるが、後者は『オール・フォー・ワン』による“個性”そのものの強奪である。少なくとも『巻き戻し』由来の力では彼女等の“個性”を元に戻す事は出来ない。

 

『一応、我とジェスチャーでコミュニケーションが取れる上、協力する気持ちはある様なのだが……その……必殺技の見た目がどうにも……卑猥でな……』

 

虎さん曰く、マランゴ達は虎さんのヒーロー活動を助ける意思と意欲に溢れており、それをアピールする為に必殺技を見せたのだと言う。

 

だが、今一度言うがマランゴは巨大な男性器にしか見えないキノコを頭と両腕に生やした怪人と言う、最低最悪のヴィジュアルを誇る魔物様である。

両腕の巨大なタケリタケをロケットパンチとして繰り出す「マラバゴーン」もそうだが、プッシーキャッツに見せた必殺技と言うのも、絵面が本当に酷いモノだったらしい。

 

両腕を回転させて放つコークスクリューパンチの「ドリルマーラ」を筆頭に、虹色の胞子を両手や頭部の一点に集中・圧縮し、ビームの様に噴射する「マラブッシャーン」。4体のマランゴが合体・巨大化する「ガッタイダアーッ」に、その強化フォームによって4つの巨大なタケリタケが合体した両腕から機関砲の様に「マラバゴーン」を連射する「マランペイジガトリング」。

挙句の果てには合体した4つの頭部と四対の両腕をニョキニョキと伸ばし、12本の巨大なタケリタケから虹色の胞子光線を放つと言う、キングギドラも真っ青な応用技まで見せたらしい。聞いただけで目眩がする必殺技の数々である。

 

スペックだけを見れば、胞子の感染によるヴィランの無力化や、毒ガスや薬品を無効する体質など、マランゴは割と有用な能力を数多く持っている怪人なのだが、ヒーロー活動休止中のメンバーがマランゴの必殺技を死んだ魚の様にハイライトの無い瞳で見つめ、ただただ静かに涙を流す様を見てしまった虎さんは、最善はやはりメンバーの“個性”が復活する事であると結論付け、方々に手を回して奔走したのだと言う。

 

『タルタロスのオール・フォー・ワン曰く、マンダレイの『テレパス』は貴殿のテレパシー能力の強化に。ピクシーボブの『土流』はモーフィングパワーの強化を目的に使われ、ラグドールの『サーチ』は投与された後、シャドームーンなる姿の能力の一つである『マイティアイ』に変化したらしい』

 

「なるほど……」

 

幸いと言っていいか分からないが、虎さんが聞いたオール・フォー・ワンの話が真実ならば、彼女等の“個性”は今も俺の中で形を変えて、或いは吸収された形で存在している。そして、元は各人が持っていた能力である以上、拒絶反応など起こる筈もない。

 

問題は、各人の能力がオール・フォー・ワンに奪われる前よりも何かと強化されて返却される可能性がある事だが……少なくとも、マランゴ達にチームの抜けた穴を任せるよりはずっとマシだろう。多分。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 幼馴染みに色々思う所がある怪人。戦闘面では『ゼロワン』の要素が盛り沢山だが、本人は期末試験でナイトアイから指摘された事を実行しているだけである。その体が魔王の器である以上、魔王の力が使えない道理は無い。

緑谷出久
 日頃の行いが原因で、幼馴染みに「下手に強大な力を預けると、また同じ事をやらかすだろう」と判断されている原作主人公。原作の世界線にしろこの世界線にしろ、その懸念は当たっている。つーか、マジでどうなるのよ、原作のデク君。

デヴィッド・シールド
 ショッカー首領の指令により、ヨーロッパから日本へ招集された怪人造りの名人っぽい扱いの科学者。正直この人に相談すれば『ワン・フォー・オール』について色々分かる事は多かったと思うの。ちなみにI・アイランド産の植物怪人達も一緒に雄英に来ている。

ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ
 この世界線では原作以上の被害により、事実上の壊滅状態に追い込まれているヒーロー集団。しかも唯一健在の虎をサポートする為に立候補した補充メンバーが下記のマランゴと言う、悍ましくも切羽詰まった状況に陥っている。

警察上層部&ヒーロー公安委員会
 元ネタのショッカーやゴルゴムみたいに怪人と結託する正義の組織。メンバーの中には当然、オール・フォー・ワンのシンパである『財団』の人間も居る訳だが、『財団』からすれば今回の件は“闇の帝王の勅令”以外の何物でもない。

イナゴ怪人(1号~RX)
 遂に仮面ライダーの力を手にした怪人達。今回変身したのは2号・V3・イナゴマン・X・アマゾン・ストロンガーの6体。密かに1号が上記の偉い人達に爆弾情報を渡して取引をするのを筆頭に、各々やりたい放題に拍車が掛かっている。

マランゴ×4
 善意が空回るキノコ怪人達。コイツ等としては自分達が生まれた森の管理者達を助けたいだけなのだが、管理者達からすれば大きなお世話と言わざるを得ない。各種必殺技の元ネタはハカイダーだったりゴリライズだったりと、ノリで決めた所為で統一性がまるで無い。



ショッカーライダー×6
 総合的な意味でイナゴ怪人最強フォーム。メタ的な事を言うと今回変身したのが6人なのは、「ひとまずは元ネタと同じ6人にして、次に萬画版『仮面ライダー』みたいに12人のショッカーライダーを登場させよう」と言う、作者の原作へのリスペクトである。

強化服・一七五式
 読みは「きょうかふく・いちななごしき」。名称は語呂合わせで「一七五(イナゴ)」を採用。『敵連合』の操る改造人間との戦闘を前提に造られている為、防御性能は折り紙付き。これからバージョンアップを繰り返し、全身に武装が搭載される予定である。
 見た目は『仮面ライダー THE NEXT』に登場した「ショッカーライダー」の強化服そのもの。その為テレビ版『仮面ライダー』のショッカーライダーの様に、個体毎にマフラーの色が違うと言った外見上の差異は無い。
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