怪人バッタ男 THE NEXT   作:トライアルドーパント

7 / 18
大変長らくお待たせしました。例年、年納めとして大晦日に最新話を投稿していたのですが、去年はそんな余裕がありませんでした。そして年始めの投稿が2月になる始末……。

現在放送中の『仮面ライダーセイバー』ですが、『Sound Horizon』のファンである作者は『終端の王と異世界の騎士達の壮大な戦いの浪漫』ってガイダンスボイスが流れるワンダーライドブックを妄想しております。名前的に仮面ライダーホライズンとか今後出てきそうな気がする。

タイトルの元ネタは『ゼロワン』の「コレが滅の生きる道」。今回は二話連続投稿で、どちらも17000字超えの大ボリュームです。

2021/5/11 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2021/9/21 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第5話 コレが新の生きる道

仮免試験まで残り一週間を切った中、ブラドキング先生から仮免試験には『雄英潰し』と言う、煮ても焼いても食えない名物がある事を知った我々A組は、必殺技の修得に加えて『雄英潰し』の対策を練る必要に迫られた。

 

風の噂によると、ブラドキング先生の教育方針は「生徒とは親身に接する」と言う相澤先生の教育方針とは真逆のもので、その程度がどれほどなのかは分からないが、間違いなくB組は既に『雄英潰し』の対策がある程度出来ている。

また、拳道は過去に期末試験の実技演習に関する情報を、個人的に仲が良い先輩から聞き出していた。まず間違いなく今回の仮免試験も同様に、その仲が良い先輩から当時の仮免試験の内容を聞き出している事だろう。

 

つまり、A組は仮免試験の対策において、B組に後れを取っている訳だ。その事に目敏く気付いた物間が何時もの様にA組を不必要に煽り倒した事もあり、可能な限り迅速にこの後れを取り戻そうと言う気概と意識が、TDLでの訓練を終えたA組に浸透していた。

 

「案ずるな、皆の衆! 既に『雄英潰し』に関する情報は収集済みだ! 主にエンデヴァーから!」

 

「「!?」」

 

しかし、A組の皆が鼻息を荒くして『雄英潰し』対策を考えようと教室に集まった矢先、待ち構えていたイナゴ怪人1号が割とトンデモない事を堂々と胸を張って宣いやがった。

我々が『雄英潰し』について聞いたのはついさっきなので、時間を考慮するとどう考えてもこの短時間でイナゴ怪人達がエンデヴァーから『雄英潰し』について聞き出したとは思えない。

 

そうなると、考え得る答えは一つ。イナゴ怪人達は事前に仮免試験の情報を収集していて、『雄英潰し』についても知っていて教えなかった訳だ。大方その情報が一番高く売れる機会を見計らっていたのだろう。俺にも秘密で。

ただ、どうやってあのエンデヴァーから『雄英潰し』に関する情報を聞き出せたのかが、俺としては気になる所だ。まあ、だからと言って聞きたいとは思わないが、轟が俺に向ける物理的に攻撃力を発揮しそうな力強い視線を無視する訳にもいかない。

 

「……取り敢えず、どう言う経緯でエンデヴァーから情報を手に入れたか教えて貰おうか」

 

「うむ! これは我が王が我が君の相手をしていた時の事なのだが……」

 

そんな俺の心境を知っているのかワザと無視しているのか、イナゴ怪人1号は意気揚々と事の顛末を語り始めた。

 

 

○○○

 

 

時を遡ること三日前。新がエリを膝に乗せて絵本を読んでいた時、イナゴ怪人1号は充電中の新のスマホを勝手に使い、エンデヴァーへ連絡を入れていた。

 

「我が王の慈悲により“無個性”と言う名の呪縛から解き放たれし者よ。今こそ、その大恩に報いる時である」

 

『……用件は何だ』

 

暫定とは言え、現№1ヒーローに対する態度とは思えない、この異様にふてぶてしい物言いは、間違いなくイナゴ怪人のソレだ。普段ならブチ切れて通話を切る所だが、そこをぐっと堪えてエンデヴァーは連絡した理由を聞く事にした。

 

此処で感情に任せて着信拒否にでもしたら、今度はイナゴ怪人達が群れを成してエンデヴァーの元へ襲来し、直接話を聞きに来るだろう。そうなればもっと面倒臭い事なる。

イナゴ怪人の主には確かに大きな借りがあるし、電話で済むような用件ならそれで済ませるのが吉……そう結論づけたエンデヴァーの判断は賢明である。

 

「我々イナゴ怪人は今、我が王を仮免試験に合格させるべく情報を収集している。過去の仮免試験の試験内容から出題傾向を予測する為にな」

 

『……それは分かったが、何故俺に聞く?』

 

「情報は多ければ多いほど良い。それには多数のサイドキックを雇用するヒーロー業界でも大手の事務所を構え、更には可愛い息子の力になりたいと常日頃から考えている貴様が最も都合が良い。肝心の息子に送ったラインは全て未読スルーされていたようだが」

 

『貴様、何故それを知っている!?』

 

「スマホをチラ見したと思ったら、実に忌々しそうに舌打ちをした所を偶々見かけてな。どうかしたのかと聞いたら苦虫を噛み潰した様な顔で教えてくれたぞ? ついでに流石に未読スルーは鬼畜過ぎるから、せめて既読してやれとアドバイスしてやった」

 

『!!』

 

全寮制になった事で新が昼夜を問わず他人と関わる時間が増えた事に伴い、必然的にイナゴ怪人達も人間と触れ合う時間が増えた。その結果、イナゴ怪人1号はエンデヴァーが送ったラインを轟に既読させる偉業を達成し、エンデヴァーは突然ラインに既読が付く様になった理由を秒で理解した。

 

『(うくっ……ま……まあ、情報位くれてやるか……)』

 

エンデヴァーとしては息子の為だけに集めた情報なのだが、此処で良くしておけばイナゴ怪人が息子との仲を上手い具合に取り持ってくれるかも知れないと言う期待と打算は、当初の予定を覆すだけの価値を秘めている。

結果、お互い言葉にはしていないものの、イナゴ怪人1号とエンデヴァーとの間で何処か薄ら暗い取引が成立した。海老で鯛を釣るどころか、ミミズで牛を釣るレベルで両者の損得に隔たりがある気がするが、双方が納得しているので問題は無かった。

 

「なるほど、『雄英潰し』か……ならば『雄英潰し』を受けた側だけでなく、『雄英潰し』を仕掛けた側の意見も聞きたい所だな。我々が雄英と言う襲われる側に立つ以上、どうしてもその予測は想像の範疇を出ない。経験に基づいた襲う側の生きた情報が必要だ。まあ、無理にとは言わんが」

 

『……ふん。つまらん気遣いは無用だ。俺とサイドキック共の関係は、その程度の事で揺らぐ様なモノでは無い』

 

そして肝心の『雄英潰し』についてだが、イナゴ怪人1号は『雄英潰し』を突破した経験者としての意見は元より、あろうことか『雄英潰し』を仕掛けた側の意見まで聞き出そうしていた。

常人ならば何て事をと思う所行だが、意外や意外。エンデヴァーの返答は良い意味で予想外であり、エンデヴァーは既に自分のサイドキック達の中から雄英高校の卒業生と『雄英潰し』を実行した経験者を探し出し、彼等から当時の意見を聞き出していた。無論、溺愛する息子の為にだ。

 

『そもそも俺は「雄英潰し」を卑怯だとは思わん。彼等は別にルール違反を犯した訳ではないし、自分に出来る事を全てやっていたに過ぎない。それは「何が何でもセミプロになりたい」と言う、真剣で純粋な気持ちの表れだ。体育祭における貴様等の主がそうだった様にな』

 

「フン、言うではないか」

 

そんなやりとりを経てエンデヴァーから語られた『雄英潰し』に関する情報であるが、仮免試験において雄英生が他校生に何かとマークされている事は確かだが、『雄英潰し』を実行するかどうかは「仮免試験に居合わせた雄英生の“個性”やバトルスタイルと、自分や仲間達の“個性”やバトルスタイルの相性や噛み合わせ等を吟味し、勝てるかどうか相談した上で決める」のが普通だと言う。

 

まあ、それはそうだろう。相手が自分や仲間の“個性”と不利な“個性”を持っていると知っていて、しかも対抗手段が一切無い勝ち目のゼロの状態でワザワザ仕掛けに行く様な馬鹿はいない。

イナゴ怪人としては「相手の“個性”が自分の“個性”と不利だから戦わない」と言う考えには少々思う所はあるが、そんな事を言っていられない人命が掛かった緊急時ならばまだしも、あくまで試験に合格する為の戦略と言う範疇で考えれば、別に間違ってはいないと納得した。

 

――だが、エンデヴァーが言うには、そう言った“個性”の相性や戦闘力の強弱と言った要因とは関係無く、優先的に雄英生を狙う受験生が仮免試験には出現するのだと言う。

 

『雄英の一般入試は何かしらの強力な攻撃を可能とする“個性”持ちが合格しやすい傾向にあり、推薦入試もやはり戦闘において有益な“強個性”や“レア個性”を持っている方が合格には有利に働く。

故に、雄英の入試に落ちて別の高校のヒーロー科に入学した経緯を持つ受験生の中には、仮免試験の合格を目的にこそしているが、その手段として「雄英生を倒す事」に固執する者が後を絶たない』

 

「つまり『物理的な破壊力を持たない“個性”を持つ者』や『試験内容が対ロボット戦闘だった為に真価を発揮する事が出来なかった“個性”を持つ者』が、雄英の入試に落ちた私怨で積極的に雄英生を狙ってくると?」

 

『事実、今年の体育祭で緑谷と戦った普通科の心操なる生徒の様に、対人戦において有効であろう“個性”持ちが合格出来ない入学試験を続ける雄英に対し、悪感情を持つ者は少なくない。何かと他者から一目置かれるエリート校となれば尚更だ』

 

今年度の雄英高校における一般入試の合格枠は、前年よりも定員が二つ多い38名。倍率は例年通り300を超えたが、仮に300倍と仮定すると受験生の総数は11400名にのぼり、実に11362名もの中学生が雄英の一般入試に落ちた計算になる。

その中には心操の様に、ヒーロー科の入試に落ちた後に普通科へ入学し、編入制度を利用してヒーロー科に編入する……つまり雄英でヒーローになる事を諦めない者も居る訳だが、大抵は雄英でヒーローになる事をとっとと諦め、滑り止めで受けた他校のヒーロー科に入学してプロヒーローを目指す。

 

そして、体育祭における心操がそうだった様に、雄英に落ちた約1万人の胸の内には「雄英ヒーロー科の連中に一泡吹かせてやろう」と思う気持ちが大なり小なり燻っているのだとエンデヴァーは言う。

 

「愚かな。透明になるだけ等の攻撃力を一切持たぬ“個性”を持つ者達が合格している以上、そんな理屈は通用しない。そんな事も分からん馬鹿が雄英に合格出来る道理など有るわけが無いではないか」

 

『違いない。そして、試験の内容は確かに毎年異なるものの、合格の判定基準である「仮免許を発行するに足るだけの戦闘行動と人命救助を、ヒーローとして全うする事が出来るのか」と言う部分は変わらない。つまり、多少至らない所があったとしても、ヒーローとして大事な部分を蔑ろにしてさえいなければ一発で失格になる事はまず無い』

 

「なるほど。要はマニュアル通りの対応をしていれば失格は避けられる訳か」

 

『うむ。だがあくまでも「失格にならない」と言うだけで、「不合格にならない」と言う訳では無い。当然ある程度の柔軟性や臨機応変さも求められる。特に人命救助を目的とした演習試験ではな』

 

最後に、エンデヴァーが地味に懸念している事として、『人命救助を目的とした実技演習』を挙げた。これは単純な経験不足による不手際だけでなく、同校の生徒同士で協力する事は勿論、場合によっては他校の生徒とも協力し、連携を取って事にあたる必要がある。

 

――つまり、事と次第によってはついさっきまで敵同士であり、最悪仮免合格の為にクラスメイトを餌食にした者達と、或いは自分達が仮免に合格する為に餌食にした者達の仲間と協力しなければならないのである。

 

様々な確執を乗り越え、助けを求める人々の声と命を優先する事が出来るのか――。そんなヒーローとしての精神力を試すと言う事なのかも知れないが、仮にそうなったら中々エグい事態に陥る事は想像に難くない。

 

だからこそ、エンデヴァーの話を聞いたイナゴ怪人1号は密かにこう思った。『雄英潰し』が実質的な学校単位での対抗戦ならば、『雄英潰し』を仕掛けてきた学校の受験生は一人残らず脱落させる必要がある……と。

 

 

●●●

 

 

「――と言った感じで、仮免試験と『雄英潰し』の情報を集めておいた次第だ!」

 

「お前『報連相』って知ってる?」

 

「何分、試験まで時間がありませんので。それに我が王と我が君の尊き時間が削られる事を避けるのは、我が王の忠実なる僕として当然の行動では?」

 

「聞いてねぇし」

 

「……待て。それじゃお前は親父から情報を聞く為に、俺を利用したって事か?」

 

「何を言う。一般的に考えて父親からのメールを無視するのはどう考えても良くないだろう。『既読が付くから』と言う理由で父親の方からラインを始めたとなれば尚更だ」

 

「まあ、確かに未読スルーは無いよな」

 

「そうだぜ。幾ら不仲とは言えよォ」

 

「う゛……」

 

「でも轟君の気持ちだってあるしさ。そこは本人に任せようよ」

 

「(緑谷……)」

 

「最悪さ……ホラ、僕がエンデヴァーの相手になるし。ラインとか……ね?」

 

「(み、緑谷……?)」

 

「ううむ……しかし、『雄英潰し』とは想像以上に根が深い問題の様だな」

 

「そうだな。聞いた時は“仮免試験の悪しき慣習”と思っていたが、これは“雄英が抱える負の側面”と捉えた方が良いかも知れないな」

 

「ハッ! くだらねぇ」

 

返答になってない返答をしれっと宣うイナゴ怪人1号に頭痛を覚えるが、収集してきた情報は間違いなく有益だった。

 

そんなイナゴ怪人1号に詰め寄る轟だが、上鳴と瀬呂が轟の所行を咎めた事で何も言い返せず、フォローに回った出久は出久で何か裏がありそうな提案をしており、轟を困惑させている。

一方で、イナゴ怪人1号の話を聞いて『雄英潰し』に思う所がある様子を見せる飯田や障子の様な者も居れば、勝己みたいに「それがどうした」と言わんばかりに無関心な者と、その反応は正に十人十色である。

 

「尚、ボンバー・ファッキューの訓練教官であったベスト・ジーニストから話を聞いた所、ボンバー・ファッキューが仮免試験を突破する事は不可能だろうと予言していた」

 

「あ゛あ゛ッ!?」

 

「ちなみにその理由は?」

 

「ベスト・ジーニスト曰く、『雄英潰し』で狙われる受験生の一例として、“雄英に相応しくない振る舞いを見せる者”が挙げられる。ヒーローらしからぬチンピラ染みた粗悪な言動と態度が周囲の反感を買い、仮免試験では優先的に狙われるだろうとの事だ」

 

「勇学園の藤見みたいにか?」

 

「お前、方々から同じ様な理由で目ぇ付けられてんのな……」

 

「っっせぇッ!! 要は全員ブッ殺しゃあ良いんだろ!!」

 

「だからソレが駄目なんだっての」

 

確かにこのリアクションを見ると、ベスト・ジーニストの言いたい事も分からんではない。だが、勝己の仮免試験の合否に対する予想は、一重に職場体験で勝己の気質と性格を間近で見た事が原因だろう。

期末試験における実技演習の内容を出久から聞いた限りでは、勝己も目的の為に他人と協力する事位は出来る様になっているらしいので、少なくとも職場体験の時よりは可能性があると俺は考えている。

 

「他人事の様に言っているが、リビドー・スパーキングよ。同様の理由で貴様とグレープ・チェリーも優先的に狙われる可能性は高いのだぞ?」

 

「え? 何で?」

 

「この痴れ者がッ!! 貴様は体育祭でグレープ・チェリーと結託してうら若き乙女達の痴態を拝むべく卑劣な策略で誑かそうとした結果、誰も得をしない醜態を日本全国と世界のお茶の間に流した挙げ句、プロからの指名が掛かったトーナメントで対戦相手をナンパする凶行に及んだであろうがッ!!」

 

「「「「「「ああ~~~……」」」」」」

 

「いや、それってお前等の所為でもあるよな!? 俺達はむしろ被害者だよな!?」

 

「……そうですわね。『裁かれるべき被害者』と言う感じですわね」

 

「もう裁かれた後だっつーの!」

 

「しかし、不合格になった者達の『雄英に合格した者は自分よりも雄英に相応しき者であってくれ』と願う気持ちは理解出来る。

入試と言う名の蟲毒から栄光を勝ち取った以上、俺達は誰もが一万を超える破れた夢と叶わなかった理想の上に立っている」

 

「そうなると、やっぱ全国放送で塩崎をナンパしたのは不味いよねー」

 

「瞬殺宣言した後で逆に瞬殺されたのもねー」

 

「………」

 

上鳴は体育祭の時の事をすっかり忘れていたのか、イナゴ怪人1号から指摘された事で当時の事を思い出した様だが、上鳴と峰田に騙されそうになった八百万、芦戸、葉隠によってガラスのハートを粉微塵に砕かれ、何とも形容し難い表情を浮かべている。

 

そして、常闇の言う事も充分に理解出来る為、確かに勝己ほどではないにしても、上鳴とて『雄英潰し』の優先的ターゲットとして狙われる要素は少なからずある訳だ。八百万の尻に貼りついて腰を振っていた峰田に関しては最早説明不要。論外である。

 

「他にもエンデヴァーに対するアンチでWが。異形に対して偏見を持つ愚か者共から我が王が狙われる可能性は高い。ただ、この世にはガチ勢と呼ばれる熱狂的な連中も存在する為、もしかすれば逆に味方する者が出現する可能性も否定出来ない。あのスピナーの様にな」

 

「スピナー? 誰だっけ?」

 

「我が王の熱烈的なファンだ。メンバーを募集していた『敵連合』に潜入し、林間合宿では襲撃メンバーの“個性”を含めた様々な情報をヒーロー側に提供した後、自らもヴィランとして逮捕される事により、我が王の偉業の礎になろうとした狂信者よ」

 

「そう言えば、彼はあの後どうなったんだ? 何でも“個性”の増強剤を打たれた事で暴走し、警察に逮捕されたと聞いたが……」

 

「ヤツなら雄英の用務員として働いているぞ」

 

「何ッ!?」

 

「他の逮捕された『敵連合』のメンバーと異なり、“個性”の暴走による被害は自分の意志によるものでは無く、前科も無かったからな。それに『林間合宿』の襲撃で死者が出ずに終わったのは、ヤツが我々にもたらした情報による所も大きい。

報復が予想される『敵連合』の魔の手から身の安全を確保する為でもあるが、本人の強い希望により採用の運びとなったそうだ。ちなみに、イレイザーヘッドからは似た様な個性犯罪に巻き込まれた被害者が勤務する猫カフェをオススメされたらしい」

 

「猫カフェ? 相澤先生の行きつけか?」

 

「恐らく。至極どうでも良いが」

 

俺が狙われる理由はお前等イナゴ怪人が体育祭で暴れ倒した事もあるんじゃないかとか、あんな覚悟が変な方向に決まったガチ勢はそうそう居ないだろと思いつつ、俺はイナゴ怪人1号の話を黙って聞いていた。共食いとかやった俺も人の事は言えないし。

そして、話題がスピナーの顛末に及んだ事で、スピナーの行動には少なからずステインが絡んでいたからか飯田が興味を示していた。そんな飯田も、スピナーが雄英の用務員として働いている事について心底驚いていた。

 

ちなみに俺は本人に直接会ってその事を聞いていた。尚、スピナーの本名は伊口秀一と言うそうで、伊口家は代々爬虫類系の“個性”が発現する家系なのだとか。あと、相澤先生は他人に猫をひたすら推すのは止めた方が良いと思う。

 

「それで、結局『雄英潰し』はどうする? 正直、爆豪が言う様に近づいてきたヤツを片っ端から倒していく以外に何かあるか?」

 

「そうだね。『雄英潰し』が受験生同士の戦闘演習で起こるなら、迎撃に徹するのもアリだと思う。相澤先生は“試験内容は不明”って言ってたケド、『雄英潰し』が仮免試験で毎回起こる(・・・・・・・・・・)って言うなら、確実に受験生同士で対戦する形式の試験があるって事だし……」

 

最終的にエンデヴァーとのラインの文面を添削して貰う事で出久と話がついた轟が反れた話を戻しに掛かるが、轟や出久が言う様に勝己の暴論は『雄英潰し』の対処方法としては案外的を射ている。

 

仮免試験で『雄英潰し』が発生するのは、「学校単位での対抗戦になる状況」に限定されている為、見方を変えればそれは「倒すべき相手が向こうからやってくる」と言う事に他ならない。

勝己や轟の様に強力な攻撃を繰り出せる“個性”を持った面子からすれば、『雄英潰し』は自分から対戦相手を探す手間が省ける好都合なモノでしかない。

 

だが、それはあくまでも“強者の理論”である。この『雄英潰し』対策会議も、そうした強者ではない者達が合格する為に開かれたと言っても過言では無い。

 

「それなのだがな。今回の仮免試験で起こると予想される『雄英潰し』は、その内容と言うか実行する人間が偏る可能性が高い」

 

「? どう言う事だ?」

 

「『雄英潰し』が起こる状況は学校単位でのチーム戦。当然、体育祭でチームプレイの競技があればソレを参考にする。では、今年の体育祭におけるチームプレイ……第二種目の騎馬戦では一体何が起こった?」

 

「え?」

 

「あ……」

 

イナゴ怪人1号に言われて各自が思い起こすのは、文字通りの意味での騎馬戦と言うか、色んな意味で一方的な合戦だった。と言うか、冷静に考えたら俺に関しては第一種目もチーム戦だった。

しかも他人の体を乗っ取る事が出来る上に、何度倒しても残機がある限り幾らでも復活すると言う、面倒極まりない能力と特性を持った怪人が縦横無尽に暴れ回ると言う、雄英体育祭でも前代未聞の内容だ。

 

「気が付いたようで何より。無論、対抗手段はあるだろう。しかし効率を考えて『雄英潰し』を企む連中からすれば、我らイナゴ怪人が集う1年A組は獲物としては不適格と判断するのではないか?」

 

「って事はアレか? 俺達の場合『雄英潰し』が起こるとすれば、『雄英生を倒したい』って考えてる奴等が主な相手になるって事か?」

 

「うむ。つまりは『勝つ事よりも勝ち方に拘るタイプ』と言う事よ。そして、こうした連中は“勝利の質”を重視する傾向にある。自分が望む勝利の形、勝利に至る為に練った方法に拘る余り、その執着を捨てる事が出来ない。それが致命的な隙となる。

そこで! このイナゴ怪人1号に一つ名案がある! 同じ雄英生でも狙われやすい者と狙われにくい者が混在する状況を利用するのだ!

即ち! 我が王、ボンバー・ファッキュー、リビドー・スパーキング、グレープ・チェリー、Wの5名を囮とし、油断しきった愚か者共の不意を突く! 名付けて『目指せ、二代目“平和の象徴”! 卑劣なる囮寄せ大作戦』だッ!!」

 

「作戦名が酷いッ!?」

 

「てか、自分で卑劣って認めてるのな……」

 

確かにヒーローとは思えない酷い作戦名だ。しかし、俺を含めて囮に選ばれた5名は“個性”による強力な広範囲攻撃や、相手の身動きを止める拘束手段に長けている為、タチは悪いが割とイケそうな内容である。

 

「待ってくれ。先程の理屈で言えば、兄がステインの被害を受けた俺も皆より比較的狙われやすいと言えるのではないか?」

 

「その可能性は低いな。此処に居る全員のメディアでの露出について一通り調べてみたが、確認した限り貴様は雄英生としてもヒーローとしても模範的な行動と言動を心がけている。言い換えるなら、“雄英生に相応しい振る舞い”をしているのだ。

確かにステインの魔の手に掛かった貴様の兄と関連づける輩はいるやも知れんが、私としては貴様が『雄英潰し』で優先的に狙われる可能性は極めて低いと判断する」

 

「………」

 

懸念材料を述べた飯田にイナゴ怪人1号は杞憂だと断言するが、俺としてはそれ以外にも「高速移動を可能とする“個性”持ちは対処が難しい」事も、飯田が狙われにくい理由の一つだと考えている。

 

これは必殺技について説明を受けた際、エクトプラズム先生も触れていた事だが、「相手が自分より速く動ける」と言う事は、それだけ充分な脅威なのだ。

無論、手の内が分かっていれば何かしらの対策を練る事も出来るが、突き抜けた“速さ”は優れた策を打つ前に潰して「無策」にする事が出来る。要するに、飯田はA組の中でも攻略するのが結構難しい部類に入ると言う訳だ。本人に自覚はないみたいだが。

 

「それと、エンデヴァーから各々のバトルスタイルや“個性”についての意見を一通り貰っている。纏めた資料があるので、各自目を通しておくが良い」

 

「………」

 

それってエンデヴァーのポンコツ親父な性格を考えると、「本当は轟にだけやりたかった事なんだケド、それだと上手くいかないからA組全員にアドバイスする形にした」と言う事なのではないか?

例えるなら、クラスの好きな子に年賀状を書こうと思ったけど、変に思われたくないからクラスメイト全員に年賀状を書いて送るみたいな……。

 

「何々……『電気で剣を作れないとの事だが、それは“個性”の本質が電気を取り込む事であるのが原因だと考えられる。例えば、対ロボット戦闘においても溜め込んだ電気を放出して攻撃するのではなく、電力を吸収する事による無力化を狙う戦法を用いればデメリットも少なかった筈だ』……どう言う事?」

 

「要は、貴様の“個性”は『電気を吸収する』のが本領であって、電気の放出はその副次的なモノでしかないと言う事だ。内容を鑑みるに近接戦闘の技術を身に付けた方が良いとも聞こえる。

安定して“個性”を運用する事を考えるなら、キャパを増やしてもデメリットそのものを無くす事が出来ない電気の放出による遠距離攻撃より、電気を纏った状態での近接攻撃の方が継戦能力は高くなる……とな」

 

「なるほど……何て言うか、思ったよりもこう……」

 

「ああ、結構ちゃんとしてるってか、熱い感じがするな」

 

「正直、オールマイトよりも上手いかも……」

 

「エンデヴァーは努力で№2に登り詰めたヒーローだからね! 出来ない人の気持ちが分かるんだよ!」

 

「………」

 

そして、流石は暫定№1ヒーローと言うべきか、A組の“個性”やバトルスタイルの情報など体育祭の活躍とイナゴ怪人からの説明位しか無いにも関わらず、エンデヴァーの意見はどれもためになるものばかりで、予想に反してかなり好評である。

特にそれが目立つのは、スタイルチェンジを褒められて完全にのぼせ上がっている出久。対照的なのは「あの野郎」と言わんばかりに釈然としない形相を見せる轟。他で気になるのはドアの陰から一物を抱える表情で此方を見つめるオールマイト――。

 

「!?!?!?」

 

「? シン君、どうかした?」

 

「……いや、何でも無い」

 

はて、今視界の隅にオールマイトが見えた様な気がしたが、気の所為か?

 

訓練の疲れから来る幻覚だろうと気を取り直し、イナゴ怪人1号より渡された資料に目を通して見たが、何度見ても資料には『赫灼熱拳』の四文字があり、初めは轟のモノと間違えたと思ったが、轟に『バッタ』の“個性”は無いので、間違いなくそれが俺の資料だと分かる。

 

現在進行形で必殺技を習得しているからこそ理解出来る事だが、ヒーローにとって必殺技とは自分自身を象徴する代名詞である。それを息子の轟ならまだしも、他人の俺に教えるエンデヴァーの意図がまるで分からない。

 

まさかと思うがあのポンコツ親父、同じ様に炎が使える俺に自分の必殺技を伝授する事で、轟の対抗心でも煽ろうとしているのか?

それとも自分と息子との仲を取り持ってくれる事を期待しての賄賂か? 非常に判断に困るのだが……取り敢えず、アドバイス通りにやってみるか。この技、割と応用は利きそうだし。

 

 

○○○

 

 

その日の夜。学生寮一階の共有スペースに、A組の女子全員が集まっていた。

 

「フヘエエエ……! 毎日大変だぁ……!」

 

「圧縮訓練の名は伊達じゃないね。ヤオモモは必殺技どう?」

 

「………」

 

「ヤオモモ?」

 

「え? あ、はい。やりたいことはあるのですが、まだ体が追いつかないので、少しでも“個性”を伸ばしておく必要がありますわ」

 

「梅雨ちゃんは?」

 

「………」

 

「梅雨ちゃん?」

 

「ケロ? 私はよりカエルらしい技が完成しつつあるわ。きっと透ちゃんもビックリよ。お茶子ちゃんは?」

 

「………」

 

「お茶子ちゃん?」

 

「うひゃん!!」

 

「お疲れの様ね」

 

「いや、梅雨ちゃんもだからね」

 

「え?」

 

「ヤオモモもね」

 

「はい?」

 

「三人とも何か様子が変だけど……何か悩み事?」

 

「それは……」

 

「ケロ……」

 

「……何だろうね。最近、心が無駄にざわつくんが多くてね……」

 

「恋だ!」

 

「ちゃう」

 

「違うわ」

 

「違いますわ」

 

まさかの即答。三人とも全く狼狽える事無く、余りにもハッキリと物を言うものだから、流石の芦戸も何時ものノリで茶化す事など不可能であった。

 

「えっ……えっと、それじゃあ、何で?」

 

「……嫌なんよ」

 

「嫌? 何が?」

 

「……何て言うんかな。林間合宿の前までは、普通にシン君の事応援してられたんだけど……何でやろね。前と同じ様に一緒に勉強出来て嬉しいのに。ヒーローになって欲しくないなって気持ちもあって……今日も必殺技の訓練の様子とか見てたら、何か胸がザワザワするんよ」

 

「そう……ですわね」

 

「ケロ……」

 

「………」

 

重い。芦戸としては何処かフワフワとした甘酸っぱい青春の一ページなやりとりを期待していたのだが、場の空気はそんなゼログラビティとは程遠い、何処か鉛の様に重く苦しいモノへと変わっていった。

 

実は葉隠と耳朗の二人は八百万達が救出に動いた理由を……つまりは新がイナゴ怪人BLACKによる自害を決断し、実行した事を新から聞いているが、芦戸はその事を全く知らない。

これは芦戸が「ヴィランに攫われた呉島を麗日達三人が助けに行った」としか認識していないが為に起った悲劇であった。

 

「……あのさ。それって『呉島にはもう戦って欲しくない』って思ってるって事?」

 

「うん……戦ってたら、その……また同じ事が起こるかも知れんし……」

 

「………」

 

そして、麗日達の行動理由を知る耳郎には、一つ危惧している事があった。

 

そもそも、麗日達が神野区で呉島を回収する事が出来たとして、彼女達はその後で呉島をどうするつもりだったのか?

警察やヒーローを頼れない以上、呉島を秘密裏に匿っておく位しか手は無いだろうが、それは一般的に拉致監禁と呼ばれる行為である。

 

耳郎は何故か地下に沈んだ教室に設けられた水槽に浸かる呉島が何時か復活する事を信じ、水槽に張り付く三人の姿がありありと想像出来てしまい、このまま放っておいたらコイツ等はいずれトンデモない事をしでかすのではないかと気が気でなかった。

 

「……もしもし呉島? 今チョット時間ある?」

 

だからこそ、耳朗は此処で決断した。多少無理をしてでも早急にこの問題を解決しなければ、ある意味では『敵連合』以上の脅威が身内から生まれてしまうだろう。

 

「ちょ、耳郎さん!?」

 

「いいから。……うん。うん。分かった、今からソッチに行くから」

 

交渉の結果、耳朗は呉島と麗日達三人が話し合いをする間、エリの相手をする事と引き替えに、話し合いの席を設ける事に成功した。

最初は新と離れる事にエリがぐずついていたが、どう言う風の吹き回しかイナゴ怪人アークがエリを説得した事で、エリは耳郎の部屋に連れていかれた。

 

「どうぞ。梅シロップのソーダ割りだ」

 

「うん……」

 

「い、いただきますわ」

 

「………」

 

その一方で、この急展開に全くついていけてなかったのは麗日達だ。同じ様に寝耳に水だった新の方がむしろ落ち着いていて、お洒落なグラスに入った特製ジュースで三人をもてなしている。

 

耳朗が自分達に気を利かせてくれたのは分かる。このままじゃいけないと言う事も理解している。

 

だが、突破口が見えない。正着手が分からない。

 

目の前に座る新は自分達が出会うずっと前から、『戦う』事を選択していた。その帰結が自死と言う決断だった。ならば、新が再び『戦う』事を選択した以上、何時か何処かでこの男は再び同じ決断を下すだろう。

 

「「「………」」」

 

「……耳郎から俺に話があるって聞いたんだが……もしかして、何か企んでる感じか?」

 

「「「………」」」

 

鋭い。そうだ、死なせる訳にはいかない。もう一度、この男に同じ答えを選ばせる訳にはいかない。

 

しかし、どうすれば納得する? どう話せば翻せる? この男の決意と覚悟を――。

 

「ん~~~、アレだ。正直、そう押し黙られても困る。何でも良いから話してくれ。このままじゃ埒があかない」

 

「はぁ……」

 

「話せば場は動き出す。後はその動きの中で考えていけばいい。不完全でも、動かないと何も変わらない。それは俺達が此処で実践している事だろう?」

 

「「「………」」」

 

気付いたら説得する側である筈の自分達が、説得する相手に逆に気遣われていた。だが、確かにその通りである。どれだけ不安材料や不確定要素があろうとも、例え一切の戦略が立たずとも、動かなければ何も変わらないし、変えられない。

 

「あのね……私、思った事は何でも言っちゃうの」

 

「うん」

 

「……でもね、思ってても何も言えなくなったり、どうすれば良いのか分からない時もあるの」

 

考えがまとまらないままだけど、言葉が全然見つからないけれど、精一杯の勇気を振り絞って、まずは蛙吹が動き出した。

 

「病院でモモちゃんからシンちゃんが何をしようとしてるのか聞いて、とてもショックだったの。事件が終わった後、シンちゃんから電話を貰って、本当に良かったって思ったけど、もしもまた同じ事が起こったら、またシンちゃんは同じ事をするんじゃないかって考えたら……」

 

「………」

 

「ずっと嫌な気持ちが溢れて、止まらなくて……本当は皆と一緒にお部屋披露大会したかったケド……前みたいにシンちゃんと楽しくお喋り出来そうになくって……でもどうしたら良いのか全然分からなくて……でもこのままじゃ駄目で……」

 

「………」

 

「とても悲しいの……」

 

涙が溢れて止まらなかった。でも全部言い切った。ケロケロと泣き出した蛙吹の背中をさすりながら麗日が、そして八百万が続いた。

 

「梅雨ちゃんだけじゃないよ。私も、八百万さんも、多分、他の皆も、きっとそこの所がすんごい不安で……でも皆シン君の考えもちゃんと分かってて……だから、その……責めるんじゃなくて……」

 

「……緑谷さんから話を聞いた時、どうにもならない事だと思いました。まだ学生の身分ですが、それでも普通の人よりはヒーローについての知識も考えもあります。オールマイトに次の“平和の象徴”として選ばれる程の人なら……仕方がないと思いました。ですが、その……何と言うか……本当に、良かったんですか?」

 

「うん?」

 

「本当に……死ぬつもりだったのですか? あの時……本当に、『生きよう』と思わなかったのですか? もしかしたら、誰かが助けてくれるかも知れないとか……カケラも……1%も……」

 

「………」

 

聞き手に徹していた新は、八百万の質問にどう答えたモノか悩んだ。言えば確実に目の前の三人は傷つくと容易に想像する事が出来たからだ。

しかし、その沈黙を肯定と受け取ったのか、彼女達の表情から滲む不安の色はますます濃くなっていった。

 

「ゼロ、だったのですか? 本当に、心から……」

 

「……いや、0%どころか、100%『生きたい』と思っていたよ」

 

「え……?」

 

「ずっと『生きたい』とか『助けて欲しい』とか……死ぬつもりなんてサラサラ無かったよ。本当は」

 

悩んだ末、新は正直に話す事にした。例えこれから語る事がどれだけ残酷な事でも、あの時に自分が何を思って『自死』の決断をしたのかを、その過程を正直に話す事こそが、彼女達の勇気に対する誠意なのだと考えた。

 

「ちょ、ちょっと待って!?」

 

「だったら、何で……」

 

「……今の俺にしてみれば当時の事は後から思い出したって感じで、その時は何も不思議に思わなかった。それを前提にして聞いて欲しい」

 

新の予想外の答えに動揺した麗日達だったが、自分達が最も知りたい事柄を話してくれるとあって、一字一句を聞き逃すまいと姿勢を正し、真剣な表情で新を見つめていた。

 

「林間合宿で奴等に捕まってからの記憶は殆ど無い。感覚としては、ずっと夢を見ていたって感じだ。だから、死ぬだとか苦痛だとか、そう言うモノは無かった。無かったんだが……漠然と自分が無くなっていく恐怖があった。どう言う訳か少しずつ俺自身が無くなって、別のナニカに変えられていく。そんな悍ましさと恐怖が、実感を伴ってどんどん大きくなっていった」

 

「「「………」」」

 

「次第に思い出せるモノが少なくなって、別のナニカになる事がむしろ当然だとさえ思い始めて、それを自覚して心底ゾッとした。いよいよ、俺が俺で無くなるんだと思った。もう……駄目なんだと思った。

それで俺が俺である内に、せめて父さんと出久に会いたいと思った。さよならも言えずに消えたくなかった。そしたら……何て言うのかな。俺の中から決定的なモノが無くなった喪失感があって……それからは、ずっと何も考えられなくなった……」

 

その話を聞いて麗日達は殴られた様な衝撃を受けた。自分達が止めたいと思う男の『自死』と言う選択は、思っていたよりもずっと単純な理由からきていた。

 

――単純に、間に合わなかったのだ。

 

ヴィランに攫われて二日以上が経過し、自分達がまだ取り戻せると思って行動に移した時、タイムリミットは過ぎていたのだ。「奪われたなら取り返せば良い」等と言うのは甚だ見当外れな考え方で、むしろ「奪われた時点で終わり」なのだ。

 

「俺は事前にオールマイトから『敵連合』が操る改造人間の正体を聞いていた。だから、奴等が俺で何をしようとしているのか予想がついていた。だからこそ、俺は変わり果てた俺を殺すと決断したが……それは間違いだったと、今はハッキリと言える」

 

「え……?」

 

「人命に携わる職業を選んだ人間が言って良い台詞じゃないとは思うが……俺の人生の主役はあくまでも俺自身で、命は俺が俺の人生を全うする為の……俺を目的地まで運んでいく乗り物だと考えていた。

つまり、俺が俺を全うする為に命がある訳で、俺が俺で無くなった命に、俺の信念や矜恃が消えてしまった命に価値は無い。破壊と殺戮を成す為の抜け殻に成り果ててまで、俺は生きていたいとは思わなかった」

 

「「「………」」」

 

「勿論、あの時の決断に義務や責任と言ったモノが無かった訳じゃない。だが、どちらかと言えば……もっとシンプルな好き嫌いの問題だった。俺は『ガイボーグ』として生きるよりも、『仮面ライダー』として死にたかった……だけど、それが間違いだった」

 

「……間違い、って?」

 

「俺なんかよりもずっと厳しい状況に陥りながらも、決して諦めなかった人達がいた。例え命を奪われても、肉体も魂も失ったとしても、その願いや祈りは決して、誰にも奪う事は出来ない。そんな願いと祈りのお陰で、俺は俺を取り戻す事が出来た。

その人達に『こんな俺にありがとう』と感謝する気持ちがあれば……同時に『まだまだなっちゃいない』と未熟を恥じる気持ちもある。俺が俺でなくなるから消えて無くなろうと、そんな甘ったるい考えを実行した事に、諦めてしまった自分に腹が立つ」

 

「「「………」」」

 

「ヒーローがヴィランとの闘いに敗れ、その結果命を失う。その点について疑問を挟む余地は何も無い。ヒーローでなかったとしても、事件や事故で命を落として、身近な誰かが突然居なくなる事もある。そう言う事は何時だって、誰にだって起こり得る事だ。俺にも……お前達にもな」

 

「「「……!」」」

 

麗日も蛙吹も八百万も、新の目を見てハッとした。胸がギュッと締め付けられた。

 

新の心配をしている場合ではないのだ。他ならぬ自分達も、新が言う様な悲劇が起こらないかと、家族に心配をかけている。

そして、新が自分達に向けた視線は、雄英への入寮に際し、家族が自分達に向けた視線と同じモノだった。

 

「警察官や消防官がそうである様に、確かにヒーローには自己犠牲の精神が必要とされる時がある。だが、だからと言って自己犠牲そのものを誰も望んでなんかいない。

だから、『我が身と引き替えなら』と、誰かを救うと言う結果を得る為に自分を切り捨てた事。それを好き嫌いで選択した事。それは誰かの希望になろうとする人間がしていい選択じゃない。評価されるような事じゃない。むしろ、恥ずべき事だ」

 

「「「………」」」

 

「かのフローレンス・ナイチンゲールはこう言った。『犠牲なき献身こそ真の奉仕』だと。『看護師は自己犠牲を持って他人に尽くしたとしても、それは本来あるべき真の奉仕ではない』と……この言葉は、本来は奉仕活動であるヒーローにも言える事だと思う。

いざと言う時、自己犠牲の精神を発揮できる人間であれ。しかし、自分を犠牲にする事なく物事を解決する事が出来る人間であれ。何かを成す為に、自分や自分の大事な何かを捨てるのではなく、それらを全部抱えて前に進む事。それが、『ヒーロー』をやるには必要なんだと、俺は思う」

 

ああ、そうだ。そうだった。その余りの強さに目を奪われ、見落としてしまっていた。この男が自分達と同じ学生で、未だに孵化すらしていないヒーローの卵なんだと。

 

自分達が不安に感じていた事を男は後悔と共に教訓とし、より良い明るい未来を目指して『戦う』選択をしたのだ。

 

最高のヒーローにはまだ遠い――と。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 前作で超常黎明期の先人や母親からは特に悪い事は言われてないけど、その在り方を見て密かに猛省していた怪人。今回彼が語った事は、原作のデク君にとってかなり耳が痛い話だと思うが、ソレはソレ、コレはコレで気にしないで欲しい。

エンデヴァー
 焦凍成分の補給に余念が無いポンコツ親父。必殺技の修得とか溺愛する息子へ確実に、そして積極的に絡んでいるだろうイベントなので、この時には原作でも迷惑メールレベルで轟にラインを送っていたと思うの。

轟焦凍
 クラスメイトの中で父親の株が急上昇する様を見て、「これはきっと悪夢に違いない」と現実逃避した男。彼の中ではデク君が「エンデヴァー最高!!」とサムズアップしているが、現実のデク君はそんな事を言っていないし、してもいない。思ってはいるケド。

緑谷出久
 エンデヴァーの「出来ない人の目線によるアドバイス」は、同じ様に出来ない人である彼にとってかなり為になるモノだった為、その背中をオールマイトが物陰から見つめている事に気付いていない程に浮かれている。エンデヴァー最高!!

麗日お茶子&蛙吹梅雨&八百万百
 開催時期と場所がズレた梅雨ちゃんイベントの参加者。心配していた事は杞憂に過ぎなかったと分かったが、それとは別に色々と考えさせられる事に。この夜以降、毎日家族に連絡を入れる事を日課にしたとか。

イナゴ怪人
 自分達の主が神野区の病院で得たプロヒーロー達のコネクションを利用し、独自の情報網を構築している魔物。今回得られた情報を元に『雄英潰し』対策を練るが、その具体的な方法については次回をお楽しみに。

オールマイト
 今回の『すまっしゅ!!』ネタの犠牲者。弟子枠の少年二人がそれぞれ別人の影響を大いに受けている所為で腹に一物抱えている。特にオール・フォー・ワンから聞いたお師匠の家庭事情を鑑みてエリちゃんと接するシンさんは見ていて色々と複雑な気分になる。

伊口秀一/スピナー
 前作で回収されることなく放置されていた事の一つ。雄英高校の用務員とか異能解放軍の大幹部に比べると実にささやかな出世だが本人は幸せ。ルート次第ではヒーロー事務所と言う名の秘密結社だか暗黒結社だか暗黒組織だかの大幹部になる。



雄英潰しの内情
 実際、試験開始直後の固まっていた所を狙った傑物学園は良いとして、アニメで単独行動する轟を10人体制で襲った誠刃高校や、八百万達四人を狙った聖愛学園はその後でどうするつもりだったんですかね?
 デク君が言う様に「相手の手の内がバレてるから対策が立てやすい」って部分もあるとは思うケド、原作とアニメを見る限り「仮免合格」よりも「雄英生を倒す事」が目的になっている受験生って割といると思うの。

エンデヴァーの教育スキル
 今回は『すまっしゅ!!』要素をメインに据えたが、原作におけるインターンを見るとオールマイトよりも人に教えるのが上手く見える。これはエンデヴァーが努力型の人間で、生徒側にオールマイトの様な感覚型の人間が少ない事が理由だと作者は考えている。

シンさん地下監禁エンド
 原作のガンギマリなデク君みたいに、シンさんが自分の身を省みなかった場合に発動。最終的には監禁場所を嗅ぎつけた発目がカチコミをかけた事で水槽から投げ出されたシンさんの体が粉々に砕け散って終了。

かのフローレンス・ナイチンゲールはこう言った。
 原作第三話においてプレゼントマイクが言った「かの英雄ナポレオン=ボナパルトはこう言った」のオマージュ。彼女が遺した言葉の数々は、ヒロアカ世界における『ヒーロー』と言う職業の本質的な部分に刺さるものが多いと作者は感じます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。