怪人バッタ男 THE NEXT   作:トライアルドーパント

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二話連続投稿の二話目。ジャンプで連載中の原作を読んだ結果、『怪人バッタ男 THE NEXT』の終着点は超常解放戦線との総力戦にする事としました。本作ではスピナーが『敵連合』に居ませんので。

今回のタイトルの元ネタは『ゼロワン』の「ソノ結論、予測不能」。作者的に『ゼロワン』のサブタイトルは何気に汎用性が高い気がします。

2021/2/21 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

6/15 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。


第6話 ソノ変態、予測不能

――『反省する』……キーワードは、『反省する』である。

 

人は社会全体や大多数の人間から批難され、弾劾されたなら、その人は自分を正当化、或いは弁護しつつも、心の中では『反省』をする。出ている杭は打たれ、突出したパワーは引っこ抜かれて消え失せてしまう。大抵の場合は――。

 

 

●●●

 

『他者に能力を分け与える能力』……これは俺がオール・フォー・ワンから投与され、取り込んだ“個性”『オール・フォー・ワン』に由来するモノだが、俺のそれは『オール・フォー・ワン』とは少々仕組みが異なるらしい。

 

デヴィッド・シールド博士曰く、“個性”をアプリに例えるなら、アプリを使えば使うほどキャッシュデータが貯まる。このキャッシュデータの蓄積が当人の努力による「“個性”の成長」であり、“個性”『オール・フォー・ワン』は他人のハードからアプリとそのキャッシュデータを奪えるアプリなのだと言う。

 

しかし、ハードに奪ったアプリを使えるだけのスペックや、アプリに対応したシステムがなければ奪ったアプリは使えない。奪ったアプリが起動しないなんて事もあれば、奪ったアプリが使えたと思ったらハードのシステムに悪影響が出たなんて事も起こりえる訳だ。

 

そこでオール・フォー・ワンは古いハードでも最新のアプリが問題なく使える様に、アプリを取り込むと同時にスペックが強化され、システムがアップデートされるハードを求めた。

 

そんなオール・フォー・ワンの理想のハードたる俺がやっている「能力の譲渡」だが、『オール・フォー・ワン』のソレがハードにストックしたアプリを他のハードへ移動させるのなら、俺の“個性”『バッタ』のソレはアプリの膨大なキャッシュデータを元にアプリを作成もしくは複製し、他のハードに譲渡している様な感じ……らしい。比喩だが。

 

その為、他のアプリを取り込んで獲得した新機能はアプリから無くならないが、譲渡した分アプリの性能や出力が落ちる。しかし、アプリを使っていればキャッシュデータは蓄積され、落ちた性能や出力もいずれは元に戻るのだと言う。

 

オール・フォー・ワンが『ガイボーグ』を造ったのは、いずれ来たる『個性特異点』との決戦を想定しての事。世代を経る事で深化し複雑化する強大な“個性”がひしめく未来世界において、再び頂点に立つには単独でソレと同等の事が出来なければならない。

先程の様に“個性”をアプリで例えるなら、他人のアプリを複数ストックする事で色々な事が出来ても、それらを元に自分のアプリそのものを強化し深化し進化する事が出来ないと、最新のアプリに対抗する事が出来ない……と言う訳だ。

 

しかし、そうなると今度は今までの様に「“個性”の譲渡」によって配下を作る事が出来なくなる。能力そのものは複数あっても“個性”自体は一つしかないからだ。

 

超人社会における『オール・フォー・ワン』の最大の利点は「“個性”と言うどうしようもない事を何とか出来る」と言う部分に他ならず、力を持たざる者や望んでその力を得た訳では無い人達にとって、その能力は何物にも代え難い魅力となる。

かつて“個性”が“異能”と呼ばれていた時期から裏社会に闇の帝王として君臨していたオール・フォー・ワンがその事を知らない筈は無い。自分にしか出来ない忠実な部下を作る方法を簡単に手放す訳が無い。

 

だからこそ、他者の“個性”を奪い、取り込み、自身の“個性”と体を自己進化させつつ、今までと同じ様に他者に“個性”を譲渡する事が出来る方法を模索し、確立したものが俺の『他者に能力を分け与える能力』の正体なのではないかと博士は推測している。

 

そして、この方法なら将来的に起こると予想される「“個性”の出力が肉体の容量を上回る事で暴走する」と言う問題も、「一度相手の“個性”を奪って自分を強化し、その後で奪った“個性”を相手の肉体に合せた出力に調整して返却する」と言った一石二鳥のやり方で解決し、未来世界で忠実な小間使いを増やす事も可能となる訳だ。

 

「仮免試験の合格を目指す我が王に、このイナゴ怪人V3から素晴らしい提案がある。貴方も怪人を作らないか?」

 

「何言ってんだお前」

 

……とまあ、最近モノになってきた能力について色々と考えながらペンを動かす中、俺はイナゴ怪人V3の提案に思わず素で「訳が分からん」と返した。お前に言われずとも怪人なら既に作っているからだ。

 

不本意ではあるが、イナゴ怪人スーパー1を筆頭に、マタンゴ、ウツボカズラ怪人、死神カメレオン、人食いサラセニアン、エトセトラ、エトセトラ……と、俺の“個性”に由来するミュータントは此処一ヶ月の間で爆発的に増殖した。

改造手術に伴う俺自身の“個性”の成長と言うか進化した能力に関する資料を仮免試験の前に作成し、市役所に提出する必要に迫られている今、当然俺の“個性”から生まれた怪人達についても纏めなければならない。

机の上に積み上げられた“個性”に関する資料は一目で通常のソレとは明らかに違う厚さを持ち、もはやムック本の領域に足を踏み入れている。

 

「我が王、このイナゴ怪人V3が仮免試験において『雄英潰し』が慣習化した最大の理由を教えよう。人間だからだ。弱点は克服出来ないからだ。デメリットを消す事が出来ないからだ」

 

「………」

 

大分口足らずな台詞に加え、普段のイナゴ怪人らしからぬ慇懃無礼な態度だが、言いたい事は分からんでもない。

 

“個性”は使えば使うほど成長し飛躍する。“個性”は使い続ける事でその能力は次第に強大に、コントロールはより緻密に、そして誰よりも洗練されたものへと昇華していく。

だが、これはあくまでも「長所が伸びる」とか「出来なかった事が出来る様になる」と言った事であって、決して「弱点やリスクがなくなる」と言う事では無い。

 

具体的な例を挙げるなら、青山や麗日など“個性”を使い過ぎる事で何らかのデメリットが発生するタイプの“個性”は、使い続ける事で「デメリットが発生するまでの限界値を伸ばす事」や「デメリットをある程度まで軽減する事」は出来ても、「デメリットそのものを無くす事」は出来ない。

 

幾ら努力して成長しようと、バトルスタイルやコスチュームを変えて工夫しようと、“個性”のデメリットはなくならない。弱点を克服する事は出来ない。

それは誰もが知っている“個性”の共通見解であり、それが“個性”の割れた雄英生を狙う『雄英潰し』が仮免試験で慣習化した最たる理由だと、イナゴ怪人V3は言う。

 

「怪人を作ろう、我が王。そうすれば、ヒーロー科1年A組の全員が仮免試験に合格する確率は飛躍的に高くなる。例え愚かなる人間共がケチをつけ、怪人軍団を仮免試験で運用する事が認められなくとも、その手伝いにはなれる」

 

「リハーサルとか必要無いだろ。多分」

 

「しかし、人間共が我が王の『ミュータントを無意識の内に造り出す能力』を恐れているのなら、我が王にはその力を意識的にコントロールする事が出来る様に訓練する必要があるのでは?」

 

痛い所を突いてきやがった。確かにイナゴ怪人やマタンゴの様に、俺の孤独や願望によって厄介な怪人が生まれている事は間違いない。

しかし、しかしだ。それはミュータントハリガネムシや死神カメレオンを作り出したお前等が言って良い台詞ではない。

 

「いやいや、ミュータントハリガネムシや死神カメレオンについても我が王と無関係とは言えますまい。何故なら我々を構成するミュータントバッタの細胞が持つ意志と行動力は、全て我が王が与えたモノではありませんか」

 

「………」

 

これまでのミュータントバッタの研究により、その起源は俺の“個性”『バッタ』が無意識に発動した超能力によって、自然界に生息するごく普通のバッタが持つバイオロジック……即ちDNAとRNAを改造した事であると判明している。

この新型のDNAとRNAによって塩基配列が猛スピードで変化した結果、バッタの細胞そのものが意志と行動力を持つようになり、ごく普通のバッタをミュータントバッタに、そしてイナゴ怪人と言う全く違う形の怪生物へ変異させたのである。

 

生命体の形を造っているのは細胞の――遺伝子の並び方に他ならず、『従来の生物をミュータントに変異させる能力』とは、地球が45億年と言う永い年月をかけて創った細胞の並び方を……言い換えるなら『生物の歴史を作り変える能力』と言う事に他ならない。

だからこそイナゴ怪人を初め、ミュータントハリガネムシやマタンゴ。果ては死神カメレオンやウツボカズラ怪人と言った具合に、様々な怪人・怪生物の発生源と言える俺が危険視されるのは当然だった。

 

しかし、その発動にはある程度の条件があり、それが感情や意志をスイッチとしているのであれば、それはコントロールする事が可能な能力である事の証左であり、そう言った状況を作り出さない環境に居ればひとまずは何とかなる。

 

だからこそ俺はこうして高校生活をエンジョイ出来ている訳で、仮にミュータント化が無差別且つコントロール不能な代物であれば、とっくの昔に俺は極めて危険な生物として討伐対象待ったなしだ。まあ、超人を超えた超生物になった現状も似たようなもんだが。

 

「『毒を以て毒を制す』と言う言葉がある様に、如何に危険な代物でも有益と判断すれば寛容になるのが人間だ。幸いな事に此処は雄英。“個性”をコントロールする為の訓練に於いて此処ほど都合の良い場所はなく、またその訓練を止める道理もありますまい」

 

「怪人が生まれる事そのものが問題の様な気がするんだが?」

 

「ハハハ、笑止。“個性”やミュータントによる生態系の破壊や遺伝子の汚染云々を言うなら、ネズミのミュータントが雄英の校長をするなど有り得ませんぞ」

 

「それを言っちゃあ、お終いだ」

 

イナゴ怪人V3が言う様に、ネズミと言う生き物は一個体で見ればそれほど強い生物ではないが、一種族として見れば何でも食べる雑食性に加え、一度の出産で生まれる子供の数と成熟するまでのスピードの速さに、レベルの高い危険察知能力と、人間とは比べものにならない驚異的な潜在能力を秘めた恐るべき生物である。

こと生態系の破壊について言うなら、人間が持ち込んだネズミによって在来種の鳥類が絶滅した何て事例がある訳で、そんな生物に「人間を超える知能」が宿ったとなれば、この星が猿の惑星ならぬネズミの惑星になっても何ら不思議ではない。

 

そんな「生まれた事が罪」と人間に判断され、凍結処理されかねないマジヤベー存在が、如何なる経緯で日本トップクラスのヒーロー教育機関で校長をやっているのかは俺の知り及ぶ所ではないのだが、イナゴ怪人の思考回路に根津校長と言う希有な前例を利用しない道理は存在しなかった。

 

「尚、この件に関してはイレイザーヘッドから許可を貰っております。『まあ、懸念材料を放置して本人ですら知らない内に能力も特性も分からない怪人を造られるよりはマシか』と、半ば諦めた様な表情で言っておりました」

 

「………」

 

「そして、世界中から我が王の忠実な僕となる怪人に相応しき素体は、既に充分な数が集まっております。具体的にはイナゴ怪人1号がヨーロッパに向かう途中で密猟者から助けた虎など」

 

「虎?」

 

「全長4.7m。体重490㎏と言う同種でも最大級のシベリアトラで御座います。愚かな人間共は毛皮を目的に密猟していた様です」

 

そうか、イナゴ怪人1号がヨーロッパに行く途中で善行を積んでいたのは良い事だ。しかしシベリアトラって確か生存の危機が叫ばれる保護動物じゃなかったか? 何でも世界で500頭くらいしか生息していないとか……。

 

「心配ご無用。この国にはかつて葛飾区亀有署に勤務する警察官が南極のペンギンを手懐け、『ペンギンの自由意志で日本に来るのだから輸入ではない』と言う理論を振りかざし、ペンギンを日本に持ち込んだ前例があります。

今回我々が確保したシベリアトラもそれと同様、イナゴ怪人1号の肉体の一部を食らう事でヒーロー事務所『暗黒組織デストロン(仮)』に忠誠を誓い、自由意志によって怪人になる事を希望したに過ぎません」

 

「単に敵だと思って攻撃しただけじゃね?」

 

「尚、件の警察官は火山の爆発に巻き込まれ、ビルから転落しても無傷で済む恐るべき生命力を誇り、単独でアメリカ軍を叩き潰す事が出来る戦闘力を備えた、ガン細胞すら食い尽くす超強力な抗体を持つ“無個性”の人間だそうです」

 

「それは本当に“無個性”って言うか人間なのか?」

 

俄には信じられないが、イナゴ怪人達は嘘をつかない。信じ難い事だが、下手をすると改造人間の俺ですら歯が立たない様な“無個性”の警察官がこの世に、それも日本の葛飾区に存在していた事は間違いない。

 

「他にもハザード怪人デンジャラスゾンビこと勇学園の藤見より、学校を通して成長した『ゾンビールス』のサンプルが献上されております」

 

「『ゾンビウィルス』な。いや、『ゾンビールス』の方が響きは良いケド……」

 

先日、雄英に勇学園の藤見が俺に宛てて送ってきたと言うソレは、紫色のガスが封入された6本の小さな試験官だった。

 

同封された資料によると、雄英との合同演習の後で藤見が“個性”を成長させた事で『ゾンビウィルス』の特性がバージョンアップし、ゾンビウィルスに感染した人間を意のままに操れる様になったらしく、俺が提供した『シグマウィルス』のお返しとして送ってきたのだとか。

 

ちなみに『ゾンビ』とは本来ヴードゥーに於ける恐るべき社会制裁であり、ハイチ社会の裁判で有害と判断された人間を毒物で一度仮死状態にしてから復活させ、その時にはもう自分の意志では生きていけない状態に……つまりは奴隷になるより他にない状態にされた人間を指す言葉である。

これは彼等が毒物をいじっている内に発見した発明であり、劇画や映画の様に死者が勝手に蘇る訳では無い。まあ、ウィルスを毒と解釈すれば「他者の思考力を奪い、意のままに操る」と言う点で、藤見の“個性”は本来の『ゾンビ』に近づいたと言えるだろう。

 

但し、懸念材料として「感染者が元から持っている記憶や感情等は相変わらず残る為、勝己や峰田の様に強烈なエゴや欲望を持つ人間がバージョンアップした『ゾンビウィルス』に感染しても、前回と特に何も変わらない可能性がある」とも書かれている。

 

「これらの素体を用いた訓練にかこつけて我が王に忠実な怪人を増やし、一大勢力を築き上げましょう! 最早ヒーロー事務所『暗黒組織デストロン(仮)』が日本を征服する日は目前です!」

 

「……いい加減にその(仮)とか止めて、ヒーロー事務所の名前を決定しないか?」

 

「そうですな。確かにそろそろ決定した方が良いでしょうな」

 

漸く会話のキャッチボールが成立した。そして怪人を生み出す能力の訓練は自分でも驚くほど気が乗らなかった。しかも、イナゴ怪人達が用意した素体と言うのが、全て眼球が複眼になっていたり、触角や羽根が生えていたりと、既に半ばミュータント化していた。

尚、イナゴ怪人1号は「生態系の破壊を防ぐために確保した」と言っているが、その後で「動物ならば確かに法に触れるだろうが、突然変異を起こしたミュータントならば何も問題ない!」と、悪党を成敗しつつそれに便乗しているとしか思えない発言をしている。

 

それだけなら最悪、集まった素体を全て殺処分すると言う選択肢もあった。しかし、イナゴ怪人1号は容赦なく、俺に最強の切り札を叩きつけた。

 

「しかし、我が君に自身が忌み嫌う『巻き戻し』の訓練を課すのなら、我が王もまた御身が忌み嫌うミュータントの作成能力を訓練し、我が君に範を示さなければならないのでは?」

 

ぐうの音も出ない正論だった。俺はエリのお兄ちゃんだから逃げる訳にはいかなかった。精神的には今までで一番辛い訓練だったけど、やらない訳にはいかなかった。

一度エリが寝ぼけて俺を「お父さん」と言い間違えた事で顔と耳を真っ赤にする様を見ていなければ、俺はきっと耐えられなかっただろう。

 

だが、如何にエリの為を思い、自分に言い聞かせて訓練をしてみても、気分が乗らない上に手探りで“個性”を使っている為、当然ながら思った通りに成功するとは限らなかった。

 

まず、俺は最初にイナゴ怪人1号がヨーロッパへ向かう旅で密猟者と出くわし、密猟者をボコボコにした後で檻から出そうとしたイナゴ怪人1号を食らったと言うシベリアトラに『爆破』の能力とオーラエネルギーを与えてみた。

イナゴ怪人達は「コンピューターの計算によると、トラとUFOの組み合わせがベストマッチ」と言っていたが、UFOなんてどうしようもないしイナゴ怪人達の言う通りにやるのは何か嫌だったので、独断で『爆破』の能力を与えてみたのだ。

 

するとシベリアトラは何故か巨大な繭を作って蛹になり、俺は今にもシベリアトラとイナゴ怪人が合体した勝己の“個性”が使える怪物と言う、悍ましくも恐ろしいミュータントが誕生するだろうと予想していた。

 

「さあ、生まれ出でよ! 怪人ダイナマイトタイガーよ!」

 

「ムガー」

 

「ンンッ!?」

 

「ガムガム。ムガ?」

 

繭の中から出てきたのはグロテスクとは程遠い、怪人と呼ぶのも憚られるプリチーな見た目をした、エリと同じ位の身長で二頭身体型の、人畜無害かつ何処か愉快なサムシングだった。しかも一体ではなく何十体と繭の中から出現し、何か良い感じに癒やされる動物の群れが爆誕した。

 

想像していたのとは全然違うし、与えたはずの『爆破』の能力も失われていたが、俺としては見た目が爆発的に可愛いので、個人的にはコレはコレでアリだ。

 

しかし、それによって「A組のマスコットキャラの座を奪われた」と言いがかりを吹っかけてくる峰田と、大した能力もない怪人らしくない怪人を見て異口同音に「ソレ見た事か」と抜かすイナゴ怪人達に心底苛ついた俺は、神野区の決戦以降世界中に散らばったと言う平成イナゴ怪人軍団の一人であるイナゴ怪人オーズが日本に送り込んだ……もとい、自由意志で日本に来たと言うペンギンを素体に選び、次の怪人製作に移った。

 

俺はオール・フォー・ワンが持っていた“個性”の一つ『エアウォーク』に由来する能力とオーラエネルギーをペンギンに与え、空を飛べるペンギンの怪人を作るつもりだった。

しかし、出来たのは空を飛ぶ処か、怪人になった影響からか泳ぐ事も出来なくなり、異様に高いフィジカルを誇る身長180㎝のペンギンだった。二頭身の低身長ではない分、前よりは怪人らしい見た目をしていると言えよう。

 

「いやいや! これ服着てないケド、まんま『にこに○ぷん』のぴっ○ろよね!?」

 

「いや~、懐かしいですねぇ~」

 

「『にこ○こぷん』って何ですか?」

 

「ああ、世代が違うから知らないか。えっと……『おか○さんといっしょ』って教育番組分かる? あれでやってた着ぐるみ人形劇の名前よ。『ドレ○ファ・ど~○っつ!』の前にやってたやつ」

 

「『ド○ミファ・ど~な○つ!』って何ですか?」

 

「『ぐ~○ョコラ○タン』は知ってるけど……」

 

「え? 『ぐ~チ○コ○ンタン』?」

 

ミッドナイト達教師陣と生徒間のジェネレーションギャップを浮き彫りにする快挙を成し遂げたペンギンの怪人だが、とても気が強いが面倒見の良いしっかり者で、メス個体と言う事もあって試しにエリの相手をさせてみると、仲良くごっこ遊びに興じている辺り問題は無さそうである。

 

思った通りの怪人が出来ず、いよいよ追い詰められた俺は「正誤は重要じゃない! 自分で考え行動する事が重要なんだ!」と妙に熱く語るオールマイトの励ましを受け、三度目の正直と言わんばかりにヒマラヤで発見したイエティと言うスペシャルな個体を使って更なる怪人製作に挑んだ。

 

冷静に考えたらコイツに関してはそのまま運用した方が良かったんじゃないかと思わないでもないが、トゥワイスの“個性”『二倍』の“複製個性”が元になっていると言うシャドームーンの分身生成能力とオーラエネルギーを与えた結果、怪人スノーマンに生まれ変わったイエティは見事に『内なるもう一人の自分(ドッペルゲンガー)』と言う頭に角が生えた分身を作る特殊能力を獲得していた。

ちなみに『内なるもう一人の自分(ドッペルゲンガー)』とは“オリジナルの悪の側面”を自称するオリジナルとは別の人格を備えた分身であるが、自制心がオリジナルよりも高い所為で『内なるもう一人の自分(ドッペルゲンガー)』の方が何だかまともに見える。

 

外見もヒマラヤから遠く離れた日本の環境に適応する為なのか、真っ白な体毛が赤いモジャモジャのモップの様に変化し、眼球が大きく飛び出しているその姿は何処かユーモラスではあるものの、誰がどう見ても怪人だ。

 

「いや、コイツはどう見てもム○クじゃねーか!」

 

「ムッ○ではない! よく見ろ! 頭にプロペラが付いていない!」

 

「だからプロペラが無いだけの○ックだろーーが!」

 

「角が生えたガチャ○ンをガチョビンって言ってる様な感じカナー?」

 

「それでガ○ャピンは何処にいるんだ?」

 

「何を馬鹿な事を言っているんだ貴様等。現代に恐竜が生息している訳が無いだろう」

 

「雪男が居たのに恐竜が居ないとか全然説得力ねーよ!」

 

尚、これらの妙にコミカルな見た目をした怪人達について博士に検証して貰った結果、俺がエリの事を考えて造った為にこうなったそうで、彼等は全員エリの子守と護衛を担当して貰う事にした。

 

「ストーミングペンギンにスノーマン。ちょっとコッチに来てくれ」

 

「………」

 

「ストーミングペンギン? スノーマン?」

 

「………」

 

「……ぴっ○ろとムッ○」

 

「ハーーイ!」

 

「はいはい、何の御用ですかな~?」

 

「………」

 

しかし、呉島の名を勝手に名乗る発目が、これまた勝手にサポートアイテムの服やらプロペラやらを与えた事をきっかけに、二体は自分達の事を本気でぴっ○ろやムッ○だと思い込む様になってしまった。

ちゃんとそれぞれストーミングペンギンとスノーマンと言う名前があるのに、ぴっ○ろやム○クと呼ばないと反応しないのである。

 

これは服やプロペラが付いたことで完全に瓜二つな見た目になり、クラスの連中が悪ノリした所為でもあるのだが……発目め、要らん事をしてくれやがって。

 

そんな珍妙奇天烈な過程を経たものの、慣れてきた所為か怪人作成の能力を制御する為の訓練は順調に進み、その能力にせよ見た目にせよ徐々に俺の思い通りに、怪人らしい怪人を作れる様になっていった。

 

そして、仮免試験当日まで残り二日と迫った時、雄英教師陣の監督の下、前代未聞の戦闘演習が体育館γで開始された。

 

 

●●●

 

 

その日、体育館γは異様な雰囲気に包まれていた。困惑するクラスメイトを前にした俺はシャドームーンの姿で今か今かと出番を待ち望む怪人達を背に、サタンサーベルを振るいながら声を大にしてこう言った。

 

「雄英ヒーロー科1年A組の諸君! 毎日の厳しい訓練、実にご苦労! 折角だが此処が貴様等の墓場だッ!! 掛かれぇーーーー!!」

 

「「「「「「「「「「WHYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」」」」」」」」」」

 

「「いや『雄英潰し』って絶対こんなんじゃないよな!?」」

 

「でも何か無駄にしっくりしてる!」

 

「確かに何かスゲー自然っつーか、納得しちまう絵面だな……」

 

切島と上鳴のツッコミはごもっともだし、芦戸や瀬呂が言う様に俺もビックリする位、妙にこの立ち位置がしっくりくる。

そして、気になる戦闘演習の内容は、シャドームーンの姿になった俺が率いる怪人軍団VS俺を除いたA組全員……実質的には俺 対 A組と言う、教師陣の正気を疑う実にイカれた内容だった。

 

これは圧縮訓練の総仕上げとして、『雄英潰し』の模擬戦闘を兼ねた怪人達の能力テストであり、俺がシャドームーンの姿をしているのは怪人達の動きを全て「マイティアイ」でチェックする為である。

当然、試験直前と言う事もあって怪人達にはある程度手加減する様に命令してあるが、今回投入された怪人達は総じて人間並みの知能に加え特殊な能力を備えており、贔屓目無しに見てもクラスの連中を相手に遅れは取るまいと俺は考えていた。

 

「ゴロニャーン♪」

 

「え? 何? 何が起こってるの?」

 

「マタタビの成分を造りましたわ!」

 

「おい、クロネコ怪人! 何をしている! クロネコ怪人! クロネコ怪人!?」

 

「ニャニャニャニャーン♪」

 

「キャー!! くすぐったいですわ!」

 

「クロネコ怪人ンンンンンンンンッ!!」

 

しかし、怪人軍団には致命的な弱点が存在した。それは如何に強力な怪人と雖も、その見た目から何の怪人なのかが一目瞭然であり、元になった動植物の感性に引っ張られる形で容易く無力化されると言う事だ。

 

八百万が“個性”『創造』で出したマタタビ成分のエキスによってメロメロになっているクロネコ怪人などは正にその典型で、八百万は怪人達にとって天敵と言える存在だった。

 

幸いな事にクロネコ怪人はしつこく八百万に纏わり付いている為、結果的に八百万が他の怪人達の対処に向かうのを妨害していると前向きに考えれば、厄介極まる“個性”『創造』の封じ込めには成功している。

 

他にも低温による無力化等、対生物戦では無類の強さを発揮する轟や、怪人になって日が浅い所為か“個性”で怪人を操れる口田など、A組には怪人達にとって鬼門と言える“個性”持ちが多く、怪人軍団は苦戦を強いられていた。

 

無論、中には善戦所か圧倒する怪人も存在する。その中でも今回、俺が一番注目しているのは――。

 

「グォオオオオオ!? かっ、固ぇええええええ!?」

 

「クックック……なるほど、人間にしては中々の能力だ。しかし! 時の重みを加えた俺の硬さには及ぶまいッ!! オ゛ォーーーーーンッ!!」

 

「ぐわぁあああああああ!?」

 

――化石男ヒトデンジャー。

 

この怪人は生きた巨大ヒトデの化石が素体となっており、その肉体は地層の中で何万年もの歳月によって固められた事で鋼鉄を上回る硬度を誇り、並大抵の攻撃ではビクともしない。

 

事実、切島が果敢に殴りかかっているが、ヒトデンジャーからはとても生物を殴ったとは思えない鐘を突いた様な音がするばかりで、ヒトデンジャーはピンピンしている。

また、手裏剣の様に高速回転して繰り出すヒトデンジャーの体当たりは、A組でも随一の防御力を誇る切島を真っ正面から跳ね返してしまう程に強力だ。

 

「んのヤロウ……!」

 

「んんん、温いッ!! どうした! この程度かぁ!!」

 

更に生きたまま化石になった所為か、そのヒトデ丸出しの見た目に反して轟が繰り出す氷と炎はおろか、上鳴の電撃も通用しないし、口田の強制話術も受け付けない。その意外な弱点さえ突かれなければ、正に無敵と言っても差し支えない脅威の怪人である。

 

「クソッ、手が付けられねぇ化物がいやがる……!」

 

「ヌワッハッハッハッハッハッハッハ!」

 

「KYIII―――――!!」

 

しかし、如何にヒトデンジャーが無敵とは言え、他の怪人達はそうでもない。轟がヒトデンジャーに繰り出した炎熱攻撃の余波で、女王アリの卵を素体にした怪人アリキメデスが生み出した量産型のアリ怪人が何体か燃えており、勝利を確信して高笑いするヒトデンジャーの横で、一体のアリ怪人が仲間を助けようと消化器を振り回している。

 

「ハッハ……ハッ!? きっ、気を付けろッ! 俺に水をかけるな、馬鹿者ォ!!」

 

「KYIII―――――!?」

 

「え……?」

 

「もしかして……」

 

あ、不味い。異様に水を嫌がってアリ怪人を殴ったヒトデンジャーのリアクションを見て、半信半疑ながらも轟が天井目がけて炎を放ちスプリンクラーを作動させた。終わった。

 

「ウォオオオオオオ! ヤメロォオオオオオオ! 俺は水が弱点なんだぁあああああ!」

 

「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ッ!?」

 

ずぶ濡れになって恐慌状態に陥ったのか、ヒトデンジャーは自ら「水」と言う弱点を暴露し、まさかの内容に上鳴が驚愕する。

正確には「水そのもの」が弱点なのではなく、「水を吸収すると体が柔らかくなってしまう」のが弱点なのだが、ヒトデンジャーの無敵と思われた能力が破られた事には変わりない。

 

「ウラァアアアア!!」

 

「ホゲェエエエエッ!!」

 

「!! さっきまでと感触が違ぇ! 湿気ると体が柔らかくなっちまうのか!」

 

「ぐぉおおおおお!! おのれぇええええええええ!!」

 

圧倒的な防御力が無くなった事で一気に窮地に立たされたヒトデンジャーは勢いよく跳躍すると、高速回転によって空を飛び、高台に登った。恐らく体が乾いて防御力が復活するまでの時間稼ぎであろうが、そんな致命的な隙を身逃す程A組は甘くない。

 

「逃がすかぁああああああああああああああああ!!」

 

「ぬぉおおおおおお! 落ちてしまえぇええええええええええ!」

 

全身を硬化させて高台をよじ登る切島に、ヒトデンジャーは“個性”の圧縮訓練で破壊されたのであろう、セメントの的の残骸を落として必死に妨害する。しかし切島の体は瓦礫よりも固く、ヒトデンジャーの落石攻撃をものともしない。

 

「オララアアアッ!!」

 

「ア゛ア゛ア゛-ーーーーーーーーッ!!」

 

悪足掻きも空しく、ヒトデンジャーの元まで辿り着いた切島は、ヒトデンジャーの足を掴むと勢いよく投げ飛ばした。落下するヒトデンジャーは柔らかくなった体で受け身も禄に取れなかった為に大ダメージを受け、一度は根性で起き上がったものの力尽き、仰向けにバッタリと倒れた。

 

「倒した……のか……?」

 

「多分……ってか、あの見た目で弱点が水って……」

 

「いや、これはある意味、一番凄い怪人なんじゃないか? だってあんな見た目じゃ誰も水が弱点だなんてまず思わないもの。人間の心理的な盲点を上手く突いているって言うか、実際に弱点が分からない状態だと正攻法で倒すのは難しい訳で……(ブツブツ)」

 

「落ち着いて、緑谷ちゃん。怖い」

 

「ふむ……総合的に見ると、素体が持つ才能と言うか質の差が出てきますな。一部例外は居ますが」

 

横でデータ収集に勤しむイナゴ怪人1号の言う通り、基本的には素体となったのが通常の生物の怪人と、“個性”絡みの生物が素体となった怪人では戦闘力が違う。

また、攻撃性能は申し分ないが、防御性能が杜撰なのが多いと言った印象で、その辺を補えるヒトデンジャーはかなり良い感じだったのだが……まあ、次に期待するか。

 

「所で我が王、ヒーロー事務所の名前の候補として『秘密結社ショッカー』と『暗黒結社ゴルゴム』の二つに絞りましたが、我が王はどちらが宜しいでしょうか?」

 

「……いっそ、二つを合せて『ゴルショッカー』とかじゃ駄目なのか?」

 

「なるほど、第三の選択肢が生まれましたな」

 

冷静に考えたら異形系の……それも生物系の“個性”の生徒だけで構成された学校のクラスなんてある訳が無い。まあ、此方としても色々と収穫はあったから、それなりに有意義と言えば有意義な訓練だった。

 

――そう納得して適当にヒーロー事務所の名前に意見した時、不思議な事が起こった。

 

「気分はエクスタシィイイイーーーーーーッ!! フォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

突如、野獣の様な咆哮によって体育館γが落雷にでも遭ったかの様に振動し、何事かと思ってその発生源に目を向ければ何たることぞ。そこにはパンティを仮面の様に被り、その上から更にブラジャーを装着した峰田がいた。

 

「クロスアウトぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「「「「「KIYIIIIIIII―――――!!」」」」」

 

邪悪な紫のオーラで着色された一陣の風が峰田に近づいたアリ怪人達を吹き飛ばし、体育館γを走り抜けると、峰田は己の象徴である筈のコスチュームを迷うことなく脱ぎ捨て、限界までねじり上げたパンツと網タイツだけの変態スタイルにフォームチェンジしていた。

 

その直後、変態ブドウに変身した峰田に誰もが呆気にとられる中、体育館γの天井に大穴を開けてイナゴ怪人アークが乱入した。

 

『………』

 

「アーク……」

 

明確な敵意を以て並び立つ怪人と変態。何らかの方法で絶滅させるべき変態の出現を感知したらしいイナゴ怪人アークは、真っ直ぐに峰田を見つめつつ疑問を口にした。

 

『何故だ。何故変態ブドウに変身する事が出来る? 貴様の変身に必要な物は、私が破壊した筈だ』

 

「それはアーク……お前のお陰だ」

 

『何……?』

 

「お前がオイラのエロ本を、エロDVDを、全てのエロスグッズを破壊した事で、極限状態に晒されたオイラの欲望は最高潮に達し、臨界点を突破したオイラは遂に……! 遂に女人の臭いを新品のパンティに付与する能力を獲得したんだッ!!」

 

「何かますます手が付けられない変態にグレードアップしとる!」

 

「そしてッ! 更にブラと言う強化パーツを使う事で、変態ブドウはより完全で究極の力を得たッ!! 今のオイラは変態ブドウエロツー! アーク! お前を止められるのは唯一人……オイラだッ!!」

 

「いや、むしろアークにアンタを止めて欲しい!」

 

峰田が堂々と胸を張って変身の原理を説明する様を見て、先日ベランダに干してあった下着を峰田に盗まれかけた麗日が戦慄し、変態ブドウエロツーを名乗り決めポーズを取るその姿に芦戸が容赦ないツッコミを入れる。

尚、芦戸に言われるまでもなく、イナゴ怪人アークはこの手の施しようのない変態を止めるつもりで此処に来ている。こんな変態が下界に出たらどうかるか分かったもんじゃないからだ。

 

「行くぞぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

『前提を書き換え、結論を予測……』

 

変態的で人間離れした動きを見せるエロツーに、イナゴ怪人アークはエロツーの攻撃パターンを卓越した演算能力によって計算し、正確に予測する事で対応する。

 

『予測、完了……!』

 

そして、イナゴ怪人アークは次から次へと繰り出されるエロツーのトリッキーな攻撃を、余裕を持って流れ作業の如く次から次へと捌いていく。

イナゴ怪人アークの予測はもはや未来予知のレベルに足を突っ込んでおり、その過程は元よりその結末に至るまで、既に予測済みである。

 

『ハァッ!!』

 

「ぬぅ!? う、動けんッ!!」

 

有効打を打てないエロツーがひとまず距離を取った瞬間、その攻防の隙を予測していたイナゴ怪人アークが発射した円錐状のエネルギーにより、エロツーの体が拘束される。

 

『この一撃を以て、エロツーは滅びる』

 

身動きが取れないエロツーにイナゴ怪人アークは止めを刺すべく、右足にエネルギーを集約して跳び蹴りを放つと、エロツーを中心に大爆発が巻き起こる。

 

『フッ……ムッ!?』

 

予測通りの完全勝利を確信し、笑みを浮かべるイナゴ怪人アーク。しかし、その背後から邪悪な紫色のオーラが立ち上っていた。

 

「残念だが、その結論は予測済みだ」

 

『……!! シィッ!!』

 

イナゴ怪人アークが背後に裏拳を放つも、エロツーはそれを難なくかわしたばかりか、お返しとばかりにボディブローを叩き込む。

その後は先程までの展開がウソの様にエロツーがイナゴ怪人アークを圧倒し、驚異的な速度で翻弄しつつ、一方的に攻撃を叩き込んでいく。

 

『馬鹿な……! 私の結論を超えていく……何故だッ!!』

 

「この新品のパンティとブラには、オイラが寄せ集めた女人の臭いが……そう! 雄英ヒーロー科1年A組とB組の女子全員! それにサポート科の発目にメリッサさん! 更にミッドナイトの、合計16人分の臭いが染みついているからだッ!!

つまり! オイラが被っている新品のブラとパンティは、うら若き16人の女人が洗濯せずに使い回した使用済みのブラとパンティに等しい! 故に、変態ブドウの16倍もの戦闘力を発揮する事が出来るんだッ!!」

 

――それってもう殆ど『ワン・フォー・オール』じゃね? いや、女子の臭いを勝手にブラとパンティに集めている点はむしろ『オール・フォー・ワン』に近いかも知れない。

 

いずれにせよエロツーの発言はありとあらゆる意味で凄まじい破壊の力を発揮し、普段ならブツブツとその能力の考察を始める出久が絶句し、ただただエロツーを死んだ魚の様な目で見つめている。

無理もない。遠くない未来で『ワン・フォー・オール』をも超える“個性”が生まれ、誰かがきっと“平和の象徴”になるだろうと思っていても、まさかそれがこんな変態的な能力によって実現される等と誰が予想出来ようか。

 

『じゅ、16人の女性が使い回した未洗濯のブラとパンティだと!? な、なんと不潔な……ッ!!』

 

「いや、私達は穿いてないからね!」

 

「そう言われると新品の筈なのにメッチャ汚く見えるね……」

 

イナゴ怪人アークは絶望した。滅ぼすべき悪と判断した変態は、自分の行動が原因で予測を遙かに超える最狂最悪最凶の変態へと究極進化していたからだ。

しかも、新品のブラとパンティを使うと言う点が厄介だ。これではこの世から全てのブラとパンティを消滅させない限りエロツーは永遠に不滅だ。

 

「これで終わりだッ! アークゥウウウウウウウウウ!!」

 

「フォオオオーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

余りにも隔絶した変態を滅ぼす為の有効な手段が全く予測出来ず、心が折れたイナゴ怪人アークにエロツーの莫大な変態パワーによるエネルギー弾が迫る。

必殺の一撃を回避する素振りすら見せない絶体絶命のイナゴ怪人アークを救ったのは、プッシーキャッツの元から帰ってきたマランゴだった。

 

棒立ちのイナゴ怪人アークを押しのけ、身代わりとなってエロツーの攻撃を受けたマランゴの体は一瞬でバラバラになり、その残骸が辺り一面に転がった。

 

「マランゴ……? 何のつもりだ?」

 

「抜カセ、変質者ガ! 我々ハ倒シニ来タノダ! 放テ-ーーーーーーッ!!」

 

「「フォオーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」」

 

イナゴ怪人アークを庇った個体の除いた三体のマランゴが頭と両腕を伸ばし、一点に圧縮して放つ胞子光線を一斉にエロツーへと発射する。

マランゴの只でさえアレな見た目がよりアレな感じになり、公共の電波に乗せられない様な絵面の必殺技を、エロツーが無駄に三次元的な動きで変態的かつ華麗にかわす。

 

地獄としか言いようのない光景を前に、誰もが嫌悪と絶望の眼をしている中、イナゴ怪人アークは自分を庇ったマランゴの首に話しかける。

 

『何故だ……何故、私を……』

 

「あーく……アノ、邪悪ナ変態ヲ……止メテクレ……! 皆、オ前ノ勝利ヲ願ッテイル……!」

 

確かにな。ぶっちゃけ、あんな変態の相手は誰もしたくないから、出来るならアークの手で何とか決着して欲しい。これは間違いなくこの場にいる全員に共通した切なる願いだ。

 

そんな我々の内心を美しい言葉で纏めたマランゴの首が崩れ落ちたかと思えば、その残骸がイナゴ怪人アークの右腕に集まり、男性器を模した歪なキノコの豪腕を形成する。

 

――渾身。右腕のみのマランゴアーマー。その歪な姿が物語っている……!

 

「煩わしい」

 

「「「フォォオオーーーーーーーーーーーー!!」」」

 

エロツーが地面に向けて放ったエネルギー波により三体のマランゴが一掃され、戦いは再びエロツーとイナゴ怪人アークの一対一となる。そして、エロツーは此処に来て、更なる変身を遂げた。

 

「精神の話はよして……現実の話をしよう。麗日。蛙吹。八百万。芦戸。葉隠。拳藤。塩崎。柳。小大。小森。角取。取蔭。発目。メリッサさん。ミッドナイト……変態パワーを破壊エネルギーとして放つのでは確実性が無い。確実に倒す為に、今のオイラが掛け合わせられる最高最適の女人の臭いで降臨した、この股間の荒ぶる神で……君を殴るッ!!」

 

「二頭身の峰田が、オールマイトみたいな八頭身の大男にッ!!」

 

「てか、さっきまでと画風が違うッ!!」

 

「……ウチは?」

 

名付けるなら差し詰め『変態ブドウエロツー・マッスルフォーム』と言った所だろうか。

 

そんな悍ましくも逞しい姿に変わった峰田にクラスの面々が驚愕し、色々と思う所があるだろう出久とオールマイトは白目を向いた。でも荒ぶる神って言う割には、股間はその何て言うか……控えめだった。

そして、耳郎だけがハブられていた理由は何となく察するが、口に出せば確実に命が無い事が分かっているので俺は黙っていた。無言ではいたが露骨に耳朗の慎ましい胸を見ていた上鳴には死刑が執行された。

 

「必殺! 変態秘奥義――」

 

エロツーはひらりと高く飛び上がると、股間を中心として全身をプロペラの様に回転させた。そして、変態ブドウの時とは比較にならない程に高まった変態パワーにより、エロツーの全身が炎に包まれた。

 

「地獄のスピニングファイヤーッ!!」

 

イナゴ怪人アークに訪れる二度目の窮地。しかし、イナゴ怪人アークを助けるのは何もマランゴだけではない。

 

イナゴ怪人アークはかなり特殊な経緯で誕生した怪人だが、彼もまたバッタが持つテレパシー能力を備えている。

つまり、その気になれば俺とイナゴ怪人達はイナゴ怪人アークに対し、この状況を打破する為の情報をテレパシーで転送する事が出来るのだ。

 

俺は自分と同じヒーロー名を冠する、偉大な先人の生き様の記憶を情報として転送した。それと同時にイナゴ怪人1号は単身ヨーロッパへ向かう途中、北海道で出会ったとある猟師との記憶を転送していた。

 

――だが、この世界にはまだ、正義は存在する! それを今から教えてやる! この俺が――その使者となって!!――

 

――五発あれば五発勝負できると勘違いする。一発で決めねば殺される。一発だから腹が据わるのだ。――

 

『……ラーニング、完了……!』

 

一度は折れた心を奮い立たせ、イナゴ怪人アークは右腕に力を込める。正義は悪から生まれて悪を打倒するのが道理だと言うのなら、変態から生まれたマランゴの力で変態を打倒するのもまた道理だ。

エロツーは変態ブドウの時とは、その能力も戦法も違う。真っ向勝負で有効打は期待出来ない。何とかエロツーの虚を突き、マランゴより託されたこの歪な豪腕を叩き込む以外、イナゴ怪人アークに勝機は無い。

 

「フォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

全身を燃やしながら高速回転して突っ込んで来るエロツーの股間と、マランゴアーマーを纏ったイナゴ怪人アークの右腕が激突する。

花火の様に火の粉を飛び散らし、激しく回転し続けるエロツーの股間にマランゴアーマーは正面から押し潰され、瞬く間に崩壊していく。

 

『……知っているか、エロツー……! 信念は、覚悟は、人の思いは……時として計算を超えるらしい……ッ!!』

 

「ハウワアッ!?」

 

股間と拳の激突の余波で体育館γに嵐が吹き荒れる中、マランゴアーマーを剥がされたイナゴ怪人アークが、剥き出しになった右手でエロツーの股間を鷲掴みにする。

そうして強引に高速回転を止めたイナゴ怪人アークの左腕には、崩壊したように見えて実はエロツーの死角を移動していたマランゴアーマーが装着されていた。

 

最後の一発……! 右腕のマランゴアーマーを左腕に! 右腕を囮に使ったッ!!

 

『これが……これが私の勃○だァアアアアーーーーーーーーーーッ!!』

 

「ブファアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

腰の入ったイナゴ怪人アークの渾身の一撃がエロツーの顔面を捉え、殴り倒すと同時にブラとパンティを破壊する事でエロツーを変身解除に追いこんだ。

気持ち悪い位に筋骨隆々とした身長2メートル超えの大男が、一瞬でエリと同じ位の身長にまで縮み、鼻血を出して気絶している姿はとても同一人物とは思えない程の変貌だ。

 

「……○起……?」

 

「そうだ。これが『勃○』だッッッ!!!」

 

絶対に違う。予想外の単語に誰もが困惑する中、無駄に力強く、そして無駄に格好良くイナゴ怪人1号が叫ぶ。

滅茶苦茶に下品な単語を言っている筈なのに、異様なカッコ良さと訳の分からない感動がある所為で誰も何も言えない。

 

その後、教師陣がいち早く再起動した事で戦闘演習は終了し、イナゴ怪人アークは手を洗うべく体育館γを後にした。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 立ち位置が完全にラスボスな怪人主人公。戦闘演習では怪人軍団に任せっきりだが、変態ブドウエロツーと言うイレギュラーが無ければ途中で『強化服・三式』を纏って参戦し、どっちがヒーローなのか分からない絵面を展開していたかも知れない。

イナゴ怪人V3
 №3の繋がりで上弦の参と化した怪人。元々はイナゴ怪人1号が主人公を説得していたのだが、今話の見直し中に2021年にアニメ『鬼滅の刃』の遊郭編が開始されると知って、急遽その場のノリで内容を変更した。

峰田実/変態ブドウエロツー
 自分の所行を反省する処か全力疾走して色々と振り切ってしまった変態特異点。ブラを装着した事で視界はほぼ0%だが、変態仙人の様に超音波を獲得しているので問題ない。つまり目が見えない状態で戦っていた訳で……やっぱり変態オール・フォー・ワンじゃないか。

イナゴ怪人アーク
 肉体面よりも精神面のダメージが大きい怪人。滅ぼすべき変態相手に辛勝した事を反省し、変態ブドウエロツー対策として中年男性の靴下を用いた女人臭気破壊剤『オヤジジェン・デストロイヤー』の開発に乗り出す。

マランゴ×4
 今回のエロツーとの戦いで全員消滅。これに伴い、前作のオーマランゴオウへ至る未来は破壊され、ゲイデヤバイブドウが誕生する未来もなくなったのだが……。尚、条件さえ整えば別個体だが復活そのものは可能だったりする。

平成イナゴ怪人軍団
 前作でイナゴ怪人1号は「世界中に大飢饉をもたらす」と宣っていたが、それはコイツ等を世界中に派遣していたからに他ならない。彼等は今も世界中にミュータントバッタの卵をばら撒き、怪人の素体となるミュータントや動植物の採集に勤しんでいる。

怪人ダイナマイトタイガー
 エリちゃんと同じ位の身長で、見た目が爆発的に可愛い怪人。元ネタは『ダイナマ伊藤!』に登場するムガトラことダイナマイトタイガー。トラの怪人と言う事で、実は「しまじろう」も候補に挙がっていたが、キャラ的に余りいじれなさそうなので止めた。

怪人ストーミングペンギン
 名前は『ゼロワン』に登場するレイダーだが、見た目が完全に『にこにこぶん』のぴっころな怪人。本物に倣って相撲・ボクシング・レスリングを嗜む様になった武闘派。ちなみに好きな相撲漫画は『火ノ丸相撲』ではなく『バチバチ』。

スノーマン
 名前はショッカーの怪人だが、見た目は完全に赤いモジャモジャのモップ。恐竜が何処にも居ない為、とあるサポート科の女子にスペースガチョビンスーツを開発して貰い、『世界皆ガチョビン化計画』を発動する事で緑色の相方を作ろうと企んでいる。

化石男ヒトデンジャー
 巨大なヒトデそのものの見た目で岩タイプと言う、ポケモンのウソッキーみたいな怪人。前作で死穢八斎會が壊滅したので、乱波に代わる切島のライバルキャラとして作者が採用。ヒトデ由来の再生能力もあって、訓練の翌日にはケロッとしていた。

アリ怪人
 女王アリの卵を素体とした怪人アリキメデスの配下で、萬画版『Black』に登場した無数のアリの怪人が元ネタ。所謂「戦闘員」のポジションに位置する量産型の怪人で、複数体がいる。アントロード? アリアマゾン? 知らんな。
 尚、今回の演習でヒトデンジャーに殴られた個体は、演習終了後に速攻でビーイングを買いに行った。「ちくしょう! タイミングさえ合えば、何時でも転職してやる!」と息巻いているらしいが……。



シャドームーンと怪人軍団
 前作で読者さんから貰った意見の一つに「雄英体育祭はシンさん&イナゴ怪人軍団VS雄英一年でも良い」って言うのがあったのを思い出して、2年生の雄英体育祭は出来そうにないから此処でソレっぽい事をやってみた次第。要は何時もの読者サービス。
 ちなみに怪人達は人間ではなく動植物がベースになっている為、その成り立ちは『アマゾン』の獣人に近い。え? どっちかと言うと『アマゾンズ』の溶原性細胞? コントロール出来る様になったから違うって。

これが私の勃○パンチ
 後半は完全にオールマイトVSオール・フォー・ワンのパロディですが、相手が変態ブドウエロツーとイナゴ怪人アークなので、『ゼロワン』ネタもふんだんに盛り込んでみた次第。キメワザについて女子勢から「下品なのに不思議と不快感がない」と困惑の声が上がった。



後書き

今回の投稿はここまで。そして投稿が遅れたお詫びと読者サービスを兼ねて、作中で未だに仮称扱いの主人公のヒーロー事務所の名前を「怪人達の投票」と言う設定で、読者の皆さんの投票によって決めようと思います。

下記の三つの選択肢から一つを選び、活動報告にて投票して戴ければ幸いです。尚、投票が一切無かった場合、自動的に三番目の選択肢で決定とします。

①秘密結社ショッカー

②暗黒結社ゴルゴム

③暗黒組織ゴルショッカー

期限は3月7日の日曜日正午までで、投票の結果は次話の投稿を以て発表とさせていただきます。具体的にどうなるかと言うと――。

「貴様等こそ獅子身中の虫。我等ヒーロー事務所『○○○○○○○○』に仇成す、目の上のたんこぶ――生かしておく訳にはいかぬッ!!」

――と言った具合で、仮免試験の傑物高校との戦いでイナゴ怪人達が高らかに名乗ります。

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