怪人バッタ男 THE NEXT   作:トライアルドーパント

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遂に主人公のヒーロー事務所の名前が決定しました。アンケートでは予想以上に多くの票が集まり、想像以上に二次創作特有のオリジナリティを望む声が多かった事に作者は驚きました。読者の皆さん、アンケートへの協力、本当にありがとうございました。

今回のタイトルの元ネタは『仮面ライダー(初代)』の「ゲルショッカー出現! ライダー最後の日!」。投票結果がタイトルで完全にバレバレですが、もしもショッカーやゴルゴムに決定したなら別のタイトルを採用していました。「13人の仮面ライダー」とか。

2021/3/15 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。 


第7話 ゴルショッカー出現! 傑物学園最後の日!

仮免試験まで二日と迫ったこの日、ヒーロー公安委員会本部にて臨時の会議が開かれていた。

 

「……良いのか? コレを認めて」

 

「今回の仮免試験は意図的に混乱状況を作り、『非常時に能力や思考を働かせられるかどうか』を採点する形式になりますので、問題は無いかと。我々が想定する以上の混乱状況を作り出せると考えれば、渡りに船とも言えます」

 

「しかし、これでは他と比べて雄英が有利過ぎないか?」

 

「私としてはむしろ雄英が今まで不利過ぎたとも思いますが……先日の企画会議で言ったように、オールマイトの引退に伴い、警視庁からの提唱で今回の試験から『協力と協調の姿勢を強く意識した“群のヒーロー”』が求められている訳ですが、その一方で我々は“より質の高い”ヒーローが、なるべく“多く”欲しい。能力が強過ぎる事を理由に制限を掛けると言うのはナンセンスです」

 

「ううむ……」

 

「何より“個性”不明のアドバンテージに頼った形で仮免に合格しても、セミプロとして活動すればそんな戦法はすぐに通用しなくなります。彼等に試金石の役割を期待し、結果的により質の高いヒーローを選別出来ると考えれば、そう悪くはないと思いますが?」

 

会議に参加した誰もが「多古場競技場での仮免試験は荒れるだろうな」と思いつつ、一斉に深く溜め息をついた。彼等の手元にある資料には、“ヒーロー事務所『暗黒組織ゴルショッカー』”と記載されていた。

 

 

●●●

 

 

怪人共の厳正なる投票の結果、俺のヒーロー事務所の名前は『暗黒組織ゴルショッカー』に決定した。怪人の中には『ゴルゴムショッカー』と言っている奴もいるが、ゴルショッカーと言う名称自体『秘密結社ショッカー』と『暗黒結社ゴルゴム』を混ぜたものなので、別に間違ってはいない。

 

「これよりヒーロー事務所『暗黒組織ゴルショッカー』の結成式を執り行う!」

 

「「「「「「「「「「KIIIIEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」」」」」」」」」」

 

「『秘密結社ショッカー』と『暗黒結社ゴルゴム』は統合され、『暗黒組織ゴルショッカー』に新生した! ゴルショッカーは幸福により必ずや地上を征服する! その為に我々はヴィラン犯罪の鎮圧! 災害時の人命救助! ゴミ拾い等の社会貢献活動! あらん限りの善行を山と積み上げ、世界に平和と安寧を撒き散らすのだッ!!」

 

「「「「「「「「「「KIIIIEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」」」」」」」」」」

 

「言ってる事は至極まともだな」

 

「ああ、言い方が悪いだけだな」

 

「………」

 

統合も何も怪人の軍団は元々一つだっただろうが。強いて区別するなら日本産とI・アイランド産と言う産地(?)の違い位である。

 

昨日はそんなツッコミ所が非常に多いゴルショッカーの結成式に、俺はゴルショッカーの大首領として出席した訳だが、無数の怪人が雄英体育祭で使われたスタジアムを埋め尽くし、司会を務めるイナゴ怪人1号の演説に咆哮を上げる光景は、誰がどう見てもヒーロー事務所の結成式には見えない。

黄金の鷹にリンゴを食らわんとする銀色の蛇が絡みつくゴルショッカーのシンボルマークが印刷された黒地の旗がスタジアムの至る所に乱立している事も相俟って、悪の秘密結社の結成式だと言われた方が余程納得する事が出来る絵面だ。

 

監視と称して同席した相澤先生とブラドキング先生は特に問題視していないが、善行を用いて世界征服を企むヒーロー事務所とか、悪行を以て世界征服を企むヴィラン犯罪組織よりも遙かに質が悪いのではないかと思うのは俺だけか?

此処がヒーローの巣窟たる雄英高校ではなく、広大な地下空間で人知れず行われていたならば、偶然目撃した一般人にヒーローと警察を呼ばれたって仕方が無いと思うのは俺の考え過ぎか? そして目撃者は確実に始末されると思うのは俺の気の所為か?

 

「降りろ。到着だ」

 

朝早くからバスに揺られながら俺はそんな事を考えていた訳だが、今日は待ちに待ったヒーロー仮免許取得試験当日。事前にあった説明の通りにA組はB組と別会場での受験となり、A組の試験会場は国立多古場競技場だった。

 

「うぅ~~緊張してきたァ……」

 

「多古場でやるんだ」

 

「学校によっては試験会場近くのホテルに泊まって受験するらしい。その点バスで行ける距離の試験会場を選んで貰った俺達はラッキーな方だ」

 

「うむ。少しでも仮免取得の為に訓練の時間を作ってくれた先生方の配慮に感謝しないとな!」

 

仮免試験が全国三ヶ所で一律に行われる以上、学校によっては試験会場までの移動に1日を費やす所もある。轟や飯田が言う様に、1年生の俺達が受験する会場が多古場なのは、訓練期間が他校の受験生よりも短い俺達が仮免に合格出来るよう、雄英側が配慮した為だろう。

 

「あの、呉島さん。何故、既に変身を?」

 

「戦いは既に始まっているからだ」

 

「ちょっと! アレ! アレ!」

 

「マジかよ……同じ会場なのかよ……」

 

「ウソだろ。アイツ、1年だろ?」

 

「もう駄目だ。お終いだぁ……!」

 

そして、俺は試験会場に到着した時点で既に人間の姿ではなく、怪人バッタ男の姿になっていた。雄英体育祭の関係で怪人バッタ男の姿こそが「呉島新」として最も有名である所為か周囲の視線を独り占めしており、所々で畏怖と絶望に満ちた声が聞こえるがそれは幻聴と言うモノだろう。多分。

 

「試験て何やるんだろう。ハー、変身なしでオイラ仮免取れっかなァ……」

 

「峰田、“取れるか”じゃない。“取って”こい。変身なしでな」

 

「おっ! もっ、モロチンだぜ!!」

 

思わず零れた峰田の不安も、ドスの効いた相澤先生の言い分も理解出来る。確かに試験そのものは変態ブドウの力を以てすれば楽勝かも知れないが、峰田が変態ブドウに変身した時点で峰田は間違いなく失格となり、合格不合格どころの話ではなくなる。

 

「この試験に合格し、仮免許を取得出来れば、お前等タマゴは晴れてヒヨッ子……セミプロへと孵化出来る。頑張ってこい」

 

「っしゃあ! なってやろうぜ、ヒヨッ子によぉ!!」

 

「何時もの一発決めて行こーぜ! せーのっ、“Plus……」

 

「Ultraaaa!!」

 

「!?」

 

切島の音頭で景気づけに雄英の校訓でもあるお馴染みの言葉を決めようとしたその時、やけに声が大きくガタイの良い坊主頭の男が乱入した。これには俺も少々驚いたが、それ以上に気になるのはこの男が着ている制服だ。

 

「勝手に余所様の円陣へ加わるのは良くないよ、イナサ」

 

「ああ、しまった!! どうも! 大変!! 失礼ッ!! 致しましたぁあああああッ!!!」

 

同じ制服を着ている事から、同校の生徒と思われる人物の注意を受け、坊主頭の男は無駄にキレの良い動きで姿勢を正し、猛烈な勢いで頭を下げて謝罪すると、その勢いのまま頭を地面へ豪快に叩きつけた。

物凄い音が鳴ったが坊主頭の男は生身であり、“個性”を使った様子も全く無いので、彼は大事な試験の前に相当な大ダメージを受けている事になる。

 

「何だ!? このテンションだけで乗り切る感じの人は!?」

 

「飯田と切島を足して二乗したような……!」

 

「!(この男……)」

 

「待って、あの制服!」

 

「あ! マジでか……!」

 

「アレか! 西の有名な!!」

 

「東の雄英。西の士傑」

 

「数あるヒーロー科の中でも雄英に匹敵する程の難関校――……士傑高校!!」

 

やはり士傑高校の生徒だったか。士傑高校――その名を知らずにヒーローを志している者はモグリと呼ばれても仕方が無いと言われる程、雄英高校に負けず劣らずスーパーヒーローを排出し続けている、ヒーロー養成学校の中でも名門中の名門である。

また、雄英高校は自由な校風が売りで有名なのに対し、士傑高校は対照的に規律にとても厳しい事で有名なので、その辺の違いも『東の雄英。西の士傑』と呼ばれる所以だろう。

 

「一度言ってみたかったっス!! プルスウルトラ!! 自分、雄英高校大好きっス!! 雄英の皆さんと競えるなんて、光栄の極みっス!! 宜しくお願いしまあああああああっすッ!!」

 

「あ、血」

 

「行くぞ」

 

「待てぃ!!」

 

俺は立ち去ろうとする士傑高校の面々を呼び止め、頭から派手に流血している坊主頭の男に近づいて患部を確認し、何処からともなくガーゼと包帯を取り出して応急処置を始めた。坊主頭の男の頭はものの見事に割れていたが、しっかりと止血すれば問題無く受験する事が出来そうだ。

 

「? 何すか?」

 

「止血だ。血は出ているが、骨や脳に損傷は無いから安心しろ」

 

「……何のつもりだ?」

 

「ヒーローは怪我人を無視する様な事はしない。プロともなれば、例え相手がヴィランでもその命を助けなければならない時がある。これから合格を奪い合う相手であろうとも、怪我人を治療するのはヒーローを目指す者として当然の行為だ」

 

やけに目つきが鋭い細目の男からの疑問に答えつつ、坊主頭の男の頭にしっかりと包帯を巻き付ける。この場にはリカバリーガールが居ないので、治療に“個性”を使う事は出来ない。此処は包帯を巻いて止血する程度がベストな選択だろう。

 

「む……」

 

「感激っす! アンタのヒーローとしての熱い思い! しっかりと受け取ったッス! ありがとうございましたぁあああああああッ!!」

 

俺の返答に細目の男が言葉に詰まる一方、処置が終わった坊主頭の男は感極まった様子で先程よりも更に勢いをつけて頭を下げる事で感謝の意を示し、またもや地面へ盛大に頭を叩きつけていた。その衝撃で頭の傷が更に開いたのか、真っ白な包帯に真っ赤な血が滲んでいる。

 

「もしかして無限に処置しないといけない感じか?」

 

「いえ、結構。行くぞ、イナサ」

 

「ええ! もう大丈夫っす! それに俺好きっすから、血! それでは、雄英の皆さん! 失礼しまっす!!」

 

何だか誤解を招きそうな発言をその場に残し、士傑高校の面々は嵐の様に去って行った。主にイナサと呼ばれた坊主頭の男のキャラが異様に濃い事が原因だが。

 

「すごい前のめりだな」

 

「よく聞きゃ、言ってる事は普通に気の良い感じだ」

 

「夜嵐イナサ……」

 

「先生、知ってる人ですか?」

 

「ありゃ……強いぞ。嫌なのと一緒の会場になったな……」

 

「はて? 我々ゴルショッカーの調査によると、過去3年間のメディアにおいて、士傑高校で夜嵐イナサなる人物の情報は無かった筈だが……」

 

雄英体育祭ほどではないにしても、職場体験なんかの校外活動はどの学校のヒーロー科でも授業の一環として行っている為、何かしらの活躍を見せればメディアに露出する可能性はある。その為、仮免試験前にイナゴ怪人達は“仮免試験で遭遇するだろう高校生”の情報を収集していた訳だが、その中でも注目していたのは士傑高校の生徒だ。

実際、先程現われた士傑高校の生徒の中に、ゴルショッカーが纏めたリストで見た覚えのある者を何名か確認しているが、夜嵐イナサなる人物についてはノーチェックである。

 

「世間的にはそうだろうな。だが、雄英教師の間で“夜嵐イナサ”と言えば、ちょっとした有名人だ。昨年度……つまり、お前等の年の推薦入試。トップの成績で合格したにも拘わらず、何故か入学を辞退した男だ」

 

「え!? じゃあ、一年!? てゆうか、推薦トップの成績って……」

 

「しかし、雄英大好きとか言ってた割に入学は蹴るって、よく分かんねぇな」

 

「ねー、変なの」

 

「変だが本物だ。マークしとけ」

 

「うむ。あの口ぶりから察するに、積極的に『雄英潰し』を実行する可能性が高い」

 

「所で、あの夜嵐の“個性”について俺達に教えてくれたりとか……」

 

「俺が教えると思うのか?」

 

「ですよねー……」

 

この場で唯一、夜嵐の“個性”を確実に知っている相澤先生に上鳴が夜嵐の“個性”の詳細を聞いてみるが、予想通りけんもほろろに断られた。

まあ、普段の相澤先生の教育方針を考えれば、「雄英の推薦入試をトップの成績で合格した」と言う情報をくれただけでも大盤振る舞いと言える。

 

「轟と八百万は夜嵐について何か知ってるか? 推薦入試の時に会ってるとか」

 

「……いや」

 

「私も存じ上げませんわ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「推薦入試の実技試験は6名ずつで行われる3㎞のマラソンで、体育祭の障害物競争の様に『“個性”を駆使して所定のコースを完走する』と言うものでした。推薦入試をトップの成績で合格したとなると、機動力や応用力に優れた“個性”をお持ちなのではないかと」

 

「なるほど」

 

そこで俺は推薦合格者である轟と八百万の二人に夜嵐について何か知っているかと聞いてみたが、二人とも夜嵐と面識は無いとの事。二人が受けた試験の内容からある程度は予想が立てられるが、結局夜嵐の“個性”については分からずじまいだ。

 

「イレイザー!? イレイザーじゃないか!! テレビや体育祭で姿は見てたけど、こうして直で会うのは久し振りだな!」

 

「!」

 

「あの人は……!」

 

予想外の強敵が出現した事に誰もが多かれ少なかれ戸惑う中、現役のプロヒーローと分かる格好をした女性が相澤先生に話しかけてきた。尤も、当の相澤先生はその知己と思える女性に対し、心底嫌そうな顔をしているが……。

 

「結婚しようぜ!」

 

「しない」

 

「わぁ!!」

 

「プハァ! しないのかよ! ウケる!」

 

「相変わらず絡み辛いな、ジョーク」

 

「スマイルヒーロー『Ms.ジョーク』! “個性”は『爆笑』! 近くの人を強制的に笑わせて、思考・行動共に鈍らせるんだ! 彼女のヴィラン退治は狂気に満ちてるよ!」

 

何時も解説サンクス、出久。そして今のやり取りで相澤先生が嫌な顔をした理由は察したが、このMs.ジョークなるヒーローの態度には妙な既視感が……って言うか、この異様な強引さは呉島姓を勝手に名乗るサポート科の発目のソレと同じなのではなかろうか?

 

「私と結婚したら笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞッ!?」

 

「その家庭、幸せじゃないだろ」

 

「ブハハ!」

 

「仲が良いんですね」

 

「昔、事務所が近くてな! 助け助けられを繰り返す内に、相思相愛の仲へと……」

 

「なってない」

 

「良いなァ、その速攻のツッコミ! いじりがいがあるんだよなァ、イレイザーは!」

 

前言撤回。どうやらMs.ジョークのソレは「単に相澤先生をからかうのが面白い」ってだけで、発目の様に「結婚によって得られる利益や損得」を主体としたモノではないようだ。

 

しかし、俺と発目のやり取りも傍から見ればこんな感じなのだろうか? そう考えると相澤先生に対して親近感が泉の如く湧いてくるのだから、人間の感覚とは実にいい加減なモノである。

 

「なんだ。お前の高校もか」

 

「そうそう、おいで皆! 雄英だよ!」

 

「おお! 本物じゃないか!」

 

「すごいよ、すごいよ! テレビで見た人ばっかり!」

 

「一年で仮免? へぇー随分ハイペースなんだね。まァ、色々あったからねぇ。流石、雄英はやる事が違うよ」

 

「傑物学園高校2年2組! 私の受け持ち、よろしくな」

 

そんな発目とは似て非なるMs.ジョークの呼びかけで、彼女が担当するクラスの生徒達がゾロゾロと此方に近づいてきた訳だが……彼等が1年生である俺達の事を知っていると言わんばかりの発言をしているのは由々しき問題だ。

 

「俺は真堂! 今年の雄英はトラブル続きで大変だったね」

 

「えっ、あっ」

 

「しかし君達は、こうしてヒーローを志し続けているんだね。素晴らしいよ!! 不屈の心こそ、これからのヒーローが持つべき素養だと思う!!」

 

「(眩しい……)」

 

「(ドストレートに爽やかなイケメンだ……)」

 

「中でも神野事件を中心で経験した呉島君と爆豪君」

 

「………」

 

「あ?」

 

「君達は特別に強い心を持っている。今日は君達の胸を借りるつもりで頑張らせて貰うよ」

 

明るい口調とフレンドリーな態度。そして爽やかな笑顔で誤魔化されそうになるが、この真堂なる人物の目の奥は全く笑ってない。その事に気付いたのか、俺達に握手を求める真堂先輩の手を勝己が払いのけた。

 

「フカしてんじゃねぇ。台詞とツラが合ってねぇんだよ」

 

「ボンバー・ファッキューの言う通りだ。貴様の瞳の奥には野獣が見える。心に闘争の炎を燃やし、丹念に研磨を重ねた牙を突き立てる瞬間を虎視眈々と待ちわびる――そんな血に飢えた野獣の姿がなぁ」

 

「………」

 

「コラ! オメー等、失礼だろ!」

 

「何を言う。貴様等人間は誰しも、心の中に獣や魔物を一匹や二匹飼っているモノではないか。もっとも、ソレを容易く看破される様ではまだまだ未熟よ」

 

「だから止めろっての! すみません、コイツ等無礼で……」

 

「……良いんだよ! 心が強い証拠さ!」

 

野獣……もとい、真堂先輩は先程と同様に爽やかな態度で切島に返しているが、勝己とイナゴ怪人1号の言葉に沈黙した瞬間に見せた表情が真堂先輩の本心を何よりも雄弁に物語っている。やはりこの男、油断出来んな。

 

「ねぇ、轟君。サイン頂戴。体育祭カッコ良かったんだぁ」

 

「止めなよ、ミーハーだなァ」

 

「はぁ……」

 

「オイラのサインも上げますよ」

 

「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」

 

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

 

……まあ、お互いに小手調べはこの位だろう。ただ、どうにも爽快感のあるイケメンの所行に流されている感じの奴が多いのはチョット不味いかも知れん。

 

「何か……外部と接すると改めて思うケド……」

 

「やっぱ、結構な有名人なんだな。雄英生って。イヤハヤー」

 

「呑気な事を言っている場合じゃ無いぞ」

 

「え?」

 

「考えてみろ。例年通りなら警戒すべきは最も試験会場で出会う可能性が高い2年生で、次が自分達よりも訓練期間が長い3年生だ。しかし傑物学園の先輩方は、不参加の可能性が高い1年生の体育祭を見ていた。じゃあ、何の為にそんな事をすると思う?」

 

「!! 『雄英潰し』か……!」

 

「もっと言えばさっき出久達の手を握ったのも、“個性”の仕込みやバトルスタイルの確認の為だったかも知れん」

 

「は……?」

 

「……もしかして、あっちゃんは真堂さんの“個性”が、麗日さんや物間君みたいに『相手に触れる事』で発動するタイプの“個性”だって考えてるの?」

 

「「!!」」

 

「あくまでも可能性の話だ。中にはラグドールの『サーチ』みたいに、一度見るだけで居場所が分かる“個性”何てモノも有るから、その為の視線誘導(ミスディレクション)だったとも考えられる。事と次第によっては傑物学園相手に防戦一方なんて展開もあり得る」

 

「それじゃ、バトルスタイルの確認ってのは?」

 

「例えばエンデヴァーも指摘していた事だが、上鳴の『帯電』は近接戦闘の技術を身に付けた方が安定して“個性”を運用出来る。その確認を握手でしたとは考えられないか?」

 

「……マジで?」

 

「考え過ぎ……とは、言えないよね……」

 

「うむ。各々方、気を引き締めよ。我々の相手は相当の手練れだ。ある意味ではヴィランよりも強力で狡猾な連中よ」

 

実際の所はどうなのか分からない。しかし、傑物学園の真堂先輩からは明確な戦意が感じられ、今言った事も考えられない事では無い。既に仮免試験を合格する為の戦いは始まっていると指摘されれば、流石に危機感ゼロの状態ではいられない。

 

ある者は気合いを入れ直し、ある者は真剣な眼差しで、またある者は剣呑な雰囲気を醸し出しつつ、決戦の舞台へと向かった。

 

 

●●●

 

 

おニューのコスチュームに着替えた俺はこれから始まる仮免試験の説明をクラスの皆と一緒に待っている訳だが、俺が着ている『強化服・三式』は『強化服・弐式』から続く正常進化と呼べるコスチュームでありながら、『強化服・一式』から『強化服・弐式』への進化と比べると、かなり印象が異なるデザインになっている。

 

これまで首に巻いていた赤いマフラーは、左右の肩からそれぞれ緑色のマフラーが一枚ずつ背中にかけて流れるセパレート式に変更され、ベルトの前面には『強化服・一式』と『強化服・弐式』に装備されていたベルトの『タイフーン』が連装された『二連タイフーン』が取り付けられている。

ヘルメットは『強化服・弐式』が緑色の地に赤色の複眼と言うカラーだったのに対し、『強化服・三式』は赤色の地に緑色の複眼と逆転し、『強化服・一式』から黒色だったライダースーツは暗めの緑色に、グローブは濃い金色に変更され、全体的に色彩トーンがやや明るめになった事で前よりヒロイックさが増した感じがする。

 

デザイン的にはイナゴ怪人達が使う『強化服・一七五式』の方が『強化服・弐式』の系譜っぽく感じられるが、『強化服・一七五式』を纏った12体のイナゴ怪人達が横一列に並び、その真ん中に『強化服・三式』を着込んだ俺が立てばあら不思議。「スペシャルな隊長機とそれに率いられる量産機」って感じが半端ない事になる。まあ、ソレを狙ってデザインしたんだろうけど。

 

「多いな……!」

 

「多いね……!」

 

「9月の次となると来年の6月になるからな。まだ仮免を取ってない各学校の3年生がこぞって受験する関係で、9月の試験は人数が多くなるんだと」

 

「「なるほど~」」

 

想像以上に受験生の数が多い事に驚きを隠せない出久と麗日へ、9月の仮免試験がどう言うものかを説明するとそれぞれ納得の表情を見せたが、実際3年生は此処で仮免を取らないとマジで後がないので、死に物狂いで仮免合格を目指すだろう。

至極当然の事であるが、仮免許を取らないと本免許の試験を受ける事が出来ない。つまり、3年生は今回の試験で仮免が取れなければ、卒業と同時にプロヒーローになる事が出来ないのである。そりゃ誰だって必死になる。

 

受験生の中では誰よりも訓練期間が長く、更には背水の陣の覚悟で望む為に決して油断しない精神性を持つと考えれば、3年生は仮免試験における最大の難敵と言えるかも知れない。

 

「ハッ! 2年半もやって、ずっとうだつが上がらなかったってだけだろうが」

 

「回りのヘイトを集めて自分を追い込むのは一人の時にしてくれ。頼むから」

 

確かに人間の潜在能力は追い詰められた時にこそ発揮されるものだが、勝己はその追い詰め方が悪過ぎる。もしかしたら「どうせ他校のヘイトを集めてるんだから、いっその事それを利用して試験を有利に進めてやろう」と開き直った結果なのかも知れないが、それで俺達を巻き込むのは止めて欲しい。

 

「えー……では仮免のヤツを、やります。あー……僕、ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠。宜しく。仕事が忙しくて禄に眠れない……人手が足りてなぁい……ッ、眠たぁああい……ッ! そんな信条の元、ご説明させていただきます……」

 

「(疲れ一切隠さないな! 大丈夫か、この人)」

 

「(……まさか俺の所為って事は無いよな?)」

 

「仮免のヤツの内容ですが、ズバリこの場に居る受験者1540人。一斉に勝ち抜けの演習を行って貰います」

 

「マジか……随分、ザックリだな」

 

「現代は『ヒーロー飽和社会』と言われ、ステインの逮捕以降、ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません」

 

「………」

 

ステインに関わった者として、“『ヒーロー』とは見返りを求めてはならない”。“自己犠牲の果てに得うる『称号』でなければならない”と言う彼の主張には、確かに理解と共感が出来る部分はある。

 

ただ、コレについて誤解している人も結構いるのだが、ステインの主張である『英雄回帰』とは「人助けをした事で御礼として報酬を受け取ったり、結果的に名声を得るのは構わないが、報酬や名声を得る為の手段として人助けをするのはおかしい」と言う、謂わば『ヒーローとしての心構えや筋道』についての話であり、見返りを求める心を問題視していても、見返りを受け取る事については強く否定しておらず、「ヒーロー活動とは無報酬でやるべき」と言う様な主張では無いのである。

 

ヒーローと言う職業の本質はあくまでも奉仕活動であり、奉仕活動とはその人の善意と自己犠牲に依存した活動だ。そうした活動は経済的な援助無しには決して長続きしない。

ステインがかつてヒーローになるべくヒーロー科に在籍していた事を考えれば、その辺の事情をステインは理解していたのかも知れない。

 

実際、お金があるからこそ成し遂げられる偉業と言うモノは確かにある訳で、出久によるとオールマイトはヒーロー活動で得た報酬で独自に支援施設を立ち上げており、それによって必要以上に集まった金を立場の弱い者へと還元し、新たな雇用まで生み出しているのだとか。

 

そう言う意味では、去年「トップヒーローになって高額納税者ランキングに名を刻む」と抜かしていた勝己や、「女にモテたいからヒーローになる」と宣う峰田は、ステインからすれば完全にアウトなタイプのヒーローと言う事になるのだが……まあ、邪道でも必要とされる才能と言うモノもあるから、その辺の事は深く考えない方が良いのかも知れない。

 

「まァ……一個人としては動機がどうであれ、命がけで人助けをしている人間に、『何も求めるな』は……現代社会に於いて無慈悲な話だと思う訳ですが……兎に角、対価にしろ義勇にしろ、多くのヒーローが救助・ヴィラン退治に切磋琢磨してきた結果、事件発生から解決に至るまでの時間は今、ヒク位迅速になっています。

君達は仮免許を取得し、いよいよその激流の中に身を投じる……そのスピードについていけない者、ハッキリ言って厳しい。よって試されるはスピード! 条件達成者、先着100名を通過とします」

 

「「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」」

 

「受験者は全部で1540人……合格者は5割だと聞いてましたのに……!」

 

「つまり、合格者は一割を切る人数と言う事ね」

 

「ますます緊張してきたァ……!」

 

「まァ、社会で色々あったんで……運がアレだったと思って、アレして下さい」

 

只でさえ狭き門である試験が更に輪を掛けて狭くなった事で、会場は大きくざわめいていた。何せ、一次試験の合格者が100人である。例年通りならこの会場の受験生だけでも1540人中770人が合格する計算だが、今回の場合は全国三ヶ所の試験会場を合計しても合格者は300人以下になる計算だ。それでも倍率は雄英の一般入試よりも低いが……。

 

「で、その条件と言うのがコレです。受験者はこのターゲットを三つ。体の好きな場所……但し『常に晒されている場所』に取り付けて下さい。足裏や脇等は駄目です。そして、このボールを六つ携帯します。

ターゲットはこのボールが当たった場所のみ発光する仕組みで、三つ発光した時点で脱落とします。『三つ目のターゲットにボールを当てた人』が“倒した”事とします。そして、“二人倒した者”から勝ち抜きです。ルールは以上」

 

ふむ。基本的にターゲットの取り付け位置以外は、例え相手のボールを奪って使おうが、どんな方法でボールを当てようが、特にルール違反にはならない訳か。普通に戦って相手を無力化し、拘束して無抵抗になった所でターゲットにボールを当てるのが一番良さそうだな。

 

「えー……じゃ、展開後、ターゲットとボール配るんで。全員に行き渡ってから、一分後にスタートとします」

 

「展開?」

 

奇妙な単語が出た事に轟が疑問を持った直後、天井と壁がゆっくりと動き出し、目良さんの言葉の通り会場そのものが大きく“展開”され、100個の合格枠を奪い合う試験会場の全貌が明らかとなった。

 

「各々、苦手な地形、好きな地形、あると思います。自分の“個性”を活かして頑張って下さい。一応、地形公開をアレするって言う配慮です。まァ、無駄です。こんなモノの所為で睡眠がぁあ……ッ!! 私がなるべく早く休めるよう、スピーディーな展開を期待しています」

 

「……これ来るよね?」

 

「来るわね。確実に」

 

「しかし、このターゲット何処に付ける? これで割と合否が分かれるぞ。ちなみに勝己は負ける気が一切ねぇから、両目と股間に付けるってよ」

 

「テメェ、そう言やぁ俺が付けるとでも思ってんのか! あ゛ぁ゛ん!?」

 

「股間……なるほど、そう言うのもアリか」

 

欲望丸出しの目良さんの台詞をスルーし、まず間違いなくこれから始まる『雄英潰し』を口にする麗日と梅雨ちゃんの横で、俺は公安委員会の人から受け取ったターゲットの位置について、無駄にヘイトを集めた意趣返しとして勝己を茶化しながら皆に意見を聞いた。

 

峰田が何か不穏な事を呟いているが、変態ブドウへの変身を含めた変態的行動を取ればどうなるかは流石に分かっている筈だ。……筈だよな? そして最終的に俺のターゲットの取り付け位置は、左胸・右脇腹・左脇腹に決定した。

 

「皆分かっていると思うが、まず間違いなく此処で『雄英潰し』が来る! 可能な限り単独行動を避け、最低でも二人以上のチームでこの試験を突破するんだ!」

 

「ふざけんな。遠足じゃねぇんだよ!」

 

「バッカ、待て待て!!」

 

「かっちゃん!」

 

「切島君!」

 

「俺も抜けさせて貰う。大所帯じゃ却って力が発揮できねぇ」

 

「轟君!」

 

「心配するな出久。どっちも手は打ってある」

 

飯田が提案した通り、仮免試験に於ける『雄英潰し』対策の一つは「単独行動を避けて複数人で事に当たる」と言うものだが、俺としては勝己と轟が単独行動を取ろうとする事も、切島が勝己を追いかけて行く事も想定済みだ。唯一、上鳴が勝己と切島の後を追って行った事だけが想定外だが問題は無い。

 

「それで、ひとまず何処に向かう?」

 

「岩山のエリアはどうかな? 体育館γで訓練した地形に比較的近いし」

 

「そうしようぜ! もう時間ねぇし!」

 

出久の提案で岩山エリアへ纏まって移動しつつ、誰もが周囲を絶えず警戒していた。『雄英潰し』を企むならば、最も有効な戦法は“個性”不明による初見殺し。そして自分の“個性”が分析さない早い内の方が、『雄英潰し』を成功させる確率は高い。ならば――

 

『第一次試験、スタート』

 

――試験開始直後に仕掛けてくる可能性が極めて高い。

 

「! やっぱり!」

 

「ああ!」

 

「テレビで見たよ。“自らをも破壊する超パワー”……まァ、杭が出ればそりゃ打つさッ!!」

 

物陰から飛び出した傑物学園の先輩方が放った無数のボールが、俺達1年A組に雨霰と降り注ぐ。チラホラと“個性”が込められているボールも散見されるが、大半はただ適当にボールを投げただけの「様子見」で、他は「開始直後にワンチャン狙った」と言った具合か。

 

黒影(ダークシャドウ)!」

 

『アイヨ!』

 

「いよっしゃぁああああああああああああああ!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

――だが、俺達も伊達に修羅場はくぐっていない。そんな大雑把な攻撃が通用するほど、俺達は弱くない。俺が超強力念力の壁でボールを止めた様に、各々が“個性”による迎撃・回避・防御と、自分の得意な方法で迫り来る脅威を的確に対処していく。

 

「へぇ……!」

 

「皆この調子! 締まって行こう!」

 

「「「「「「「「「「応ッ!!」」」」」」」」」」

 

早くもスピード・テクニック重視のシュートスタイルでボールを一掃した出久の掛け声で、油断する事無く気合いを入れ直す。初撃は防いだが、相手は俺達より1年も訓練期間が長い2年生。容易く倒せる相手では無い筈だ。

 

「ほぼ弾くかァ――」

 

「こんなものでは雄英の人はやられないな」

 

「けどまぁ……見えてきた。任せた」

 

「任された」

 

「………」

 

ふむ。ボールを“個性”で変質、或いは変形させて、ソレを仲間に渡したとなると……次からは二人以上の“個性”の合わせ技。つまりは合体技で攻めるのが、傑物学園の仮免対策と言う事か。

 

「コレ、うっかり僕から一抜けする事になるかもだけど……そこは敵が減るって事で大目に見て貰えると有り難いかな。ターゲットロックオン!!」

 

「!!」

 

「シュ「フンッ!!」バァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

恐らくは“個性”の発動条件なのだろうが、片目を瞑る事で死角を増やした上、ボールを投げる際に仰け反ってジャンプした事で自ら逃げ場を封じ、更には腹部前面に三角形の形で並んだターゲットが無防備な状態になっているにも関わらず、自分の前に壁も壁役も一切用意していない――。

それは同級生から任される程度には信頼の厚い必殺技なのだろうが、俺にしてみればハッキリ言って「やってくれ」と言わんばかりに超デカイ隙だった。余りにも隙がデカ過ぎて逆に罠の可能性を疑った位だ。

 

しかし、傑物学園の……えーっと、何だ。投げる前に謎ポーズを取っていた先輩は、確かに「ターゲットロックオン」と言っていた。

そして、開始直後に傑物学園が俺達を狙ってきた事を踏まえれば、謎のポーズの先輩の“個性”で傑物学園の先輩方は俺達の居場所を把握している可能性がある。

 

何かしらの罠を警戒しつつも、最優先して潰すべきと考えた俺が投げた三つのボールは、レーザー光線の如き速度で謎ポーズの先輩の三つのターゲットへ正確に難なく命中し、謎のポーズの先輩を盛大に吹っ飛ばした。

 

結局、俺が懸念していた事は杞憂に過ぎず、謎のポーズの先輩は自身が言った通りに(仮免試験から)うっかり一抜けした。

 

「任せて良いか?」

 

「任せて!」

 

だが、謎のポーズの先輩の“個性”が込められた四つボールは未だに地面の中を移動し、此方に向かっている。それに対処すべく前に出たのは、新しいサポートアイテムを両手に装着した耳郎だ。

 

「音響増幅、アンプリファージャック――『ハートビートファズ』!!」

 

「オオオォ! 地面を抉りやがった!」

 

「って、オイラに来てるぅう!!」

 

「粘度・溶解度MAX! 『アシッドベール』ッ!!」

 

耳朗は両耳のイヤホンジャックが接続された両手のサポートアイテムを地面に当て、増幅された爆音を利用して固い地面を破壊していく。

しかし、地面ごと“個性”で固められたボールを破壊する事は叶わず、割れた地面から飛び出した四つのボールは峰田に向かっていた。

 

恐らく、先程投げたボールへの対応を見て、「倒しやすい」と判断して峰田を狙ったのだろう。そんな謎のポーズの先輩の最後っ屁を、芦戸が右腕を振るって張った溶解液の壁が阻んだ。

 

「助かった! イイ技だな!」

 

「ドロッドロにして、壁を張る防御ワザだよ――」

 

「そんな、投擲!!」

 

「隙が生じた。『深淵闇躯(ブラックアンク)』!」

 

「言い易く、カッコ良くなってる!」

 

「“宵闇よりし穿つ爪”!!」

 

「うわっと、危なッ!!」

 

ふむ。どうやら俺が吹っ飛ばした謎のポーズの先輩は投擲と言う名前らしい。そして、投擲先輩の“個性”が「目でロックオンした相手に投げた物がミサイルの様に向かって行く」“個性”だと考えると……最初に出会った時に俺達の誰かをロックオンし、触れた物を方位磁石や羅針盤の様に使って俺達の居場所を探知した……と考えるのが妥当か。

 

そんなレーダーの役割を果たしていただろう投擲先輩がやられた事で生まれた動揺を見逃す事なく、常闇が……えっと……ミーハーな先輩へ体に纏った『黒影(ダークシャドウ)』の右腕を伸ばして攻撃するが、ミーハーな先輩はカメの首の様に上半身を下半身に引っ込める事で常闇の攻撃を回避する。

 

「フー、強い」

 

「容赦ないな……まあ、ある訳無いか。なるほど。体育祭で見てたA組じゃないや。成長の幅が大きいんだね」

 

「呑気に分析なんてしている場合じゃないですよ」

 

「うん?」

 

「後ろを見れば嫌でも分かりますよ。貴方達が――罠の真っ只中に居る事をッ!!」

 

作戦の要になるだろう“個性”を持つクラスメイトが脱落したにも拘わらず、落ち着いて次の一手を打とうとしている真堂先輩に、俺は此方の手の内を敢えて大々的に暴露する。そんな俺の聞き捨てならない台詞に反応し、振り返った傑物学園の先輩方が目にしたものは――。

 

「「「「「「「「「「え゛え゛-ーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

――何時の間にか音も無く自分達を取り囲む、合計28体の怪人の群れッ!!。

 

「イナゴ怪人改め……ショッカーライダー1号ッ!!」

 

「ショッカーライダー2号ッ!!」

 

「ショッカーライダーブイスリャァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「ショッカーライダーマンッ!!」

 

「ショッカーライダーエェーーーーーーックスッ!!」

 

「アァーーーーマァーーーーーゾォオオーーーーーーーーーンッ!!」

 

「ショッカーライダー……ストロンガァアァーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「ショッカーライダースカイッ!!」

 

「ショッカーライダースーパー1ッ!!」

 

「ショッカーライダーゼクロスッ!!」

 

「ショッカーライダーッ! ブラァッ!!」

 

「ショッカーライダーッ! ア゛ーーッ! エ゛ェーーーーッ!!」

 

「人食いサラセニアン!」

 

「サボテグロン!」

 

「ヘビ怪人!」

 

「グリーンマンティス!」

 

「怪人大ムカデ!」

 

「ワニ怪人!」

 

「怪人ヤマアラシ!」

 

「クロネコ怪人!」

 

「怪人ヘビトンボ!」

 

「ゲンゴロウ怪人!」

 

「怪人カタツムリ!」

 

「ハンミョウ怪人!」

 

「イソギンチャック!」

 

「ウツボ怪人!」

 

「怪人コンドル!」

 

「ベニザケ怪人!」

 

「こ、これは……!」

 

「フハハハハハ! 貴様等こそ獅子身中の虫! 我等ヒーロー事務所『暗黒組織ゴルショッカー』に仇成す、目の上にたんこぶ――生かしておく訳にはいかぬッ!!」

 

「グハハハハハ! これ幸いと『雄英潰し』を実行した浅慮を存分に後悔するが良い! 貴様等は雄英と言う名の撒き餌に釣られ、ノコノコと現れた間抜けな獲物に過ぎんッ!!」

 

「ヌハハハハハ! 確かに“個性”不明のアドバンテージを生かした『雄英潰し』は有効な戦術だった! その為に多くの雄英生達が涙を飲んできた! しかし、今度はそうはいかんぞッ! 何故なら今度の相手は――『雄英潰し』を企んだ貴様等そのものだからだッ!」

 

「ゲハハハハハ! 例え貴様等が不死身であろうとも! この大軍団を相手に、万に一つの勝ち目もあるまいッ!!」

 

「ゼハハハハハ! その通り! 我ら『暗黒組織ゴルショッカー』は貴様等の様な人間共を尽く葬り去る為、貴様等超人と同等の能力を持つ超怪人を造ったのだッ!!」

 

「ちょ! 『葬り去る』ってアンタ!」

 

「こんなのアリかよ……!」

 

「落ち着け! 彼等はターゲットを付けていない! なら彼等を無視して呉島を――居ないッ!?」

 

雄英生と怪人軍団の挟み撃ちを前にして、傑物学園から冷静さを失う者が続出する中、傑物学園の中心人物である真堂は怪人達がターゲットを一切付けていない事からまともに戦う意味は無く、怪人達の主を脱落させれば良いと冷静に判断して振り返る……が、そこには大きな白い泡の塊があるだけで、肝心の呉島新はおろか雄英生全員が、何時の間にか煙の様に消えていた。

 

「馬鹿め! ゴルショッカーは無敵の軍団だ! 手抜かりは無いッ! そして我が王が貴様等の相手をするまでもないのだ! ゴルショッカーの戦闘員達よ、かかれぇーーーーッ!!」

 

「「「「「「「「「「WIIIIEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」」」」」」」」」」

 

そしてイナゴ怪人1号改め、ショッカーライダー1号の指示で地面から飛び出した量産型のアリ怪人達が、傑物学園の面々に圧倒的な物量を以て殺到する。

 

――どうする!? 傑物学園高校2年2組!!




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 暗黒組織ゴルショッカーの大首領。怪人体は久し振りに通常形態である仮面ライダーシンの姿だけど、今回からコスチュームを着た姿は『仮面ライダー THE NEXT』の仮面ライダーV3のソレになる。

夜嵐イナサ
 原作との違いは頭に巻いた包帯と頭部のダメージ。主人公との絡みは雄英高校一般入試の時のデク君とお茶子のオマージュ。主人公に対してかなり好意的なのは、色んな意味で轟との対比になっている。

Ms.ジョーク/福門笑
 ゴルショッカーの怪人軍団と戦う羽目になっている教え子達の姿に絶句。五月蠅い奴が黙ったので隣に座っている相澤先生はニッコリ。生徒の自主性を尊重していたが、内心1年A組に『雄英潰し』を仕掛けるのは不味い事になる様な気はしていた。

真堂揺
 笑顔とは本来攻撃的なモノである事を熟知しているイナゴ怪人に本心を見破られた事にイラッとしていたイケメン。そこで終われば良かったのに、よりにもよって『雄英潰し』を実行してしまったのが運の尽き。ここからが本当の地獄だ。

投擲射手次郎
 この世界線では台詞を深読みした主人公の手によって、ボールでは無く明らかに死亡フラグな台詞の方がブーメランしてしまった。尚、作者はヒロアカ第三期アニメを見るまで、彼の名前が「軌道弦月」なんだと思っていた。

サボテグロン&ウツボ怪人&ベニザケ怪人
 今回登場した怪人達のモチーフは、殆どが『アマゾン』に登場するゲドンとガランダーの獣人と共通している中、作者の趣味で登場した怪人達。そしてサボテグロンの素体は主人公が『真・怪人バッタ男 序章』でオールマイトから貰ったサボテン。
 ベニザケ怪人はテレビ版『BLACK』に登場するゴルゴム怪人が元ネタだが、ウツボ怪人は萬画版『仮面ライダー』に登場したウツボ男が元ネタなので、知らない人の方が多いかも。決してプロテインダイエットのCMに登場していた怪人が元ネタではない。



ヒーロー事務所『暗黒組織ゴルショッカー』
 地獄の怪人軍団。組織のシンボルマークが『仮面ライダー(初代)』のゲルショッカーに酷似している……と言うか、ゲルショッカーのシンボルマークとの相違点は、蛇の目の前にリンゴをイメージした赤い丸があるだけ。
 戦闘員のポジションに量産型アリ怪人がいる為、アリコマンドを使う『仮面ライダー(新)』のネオショッカーっぽい所も。今後、特訓を重ねた事でライダーキックを修得する量産型アリ怪人が現われるのも面白いかも知れない。

ゴルショッカー怪人大軍団
 雄英体育祭で怪人はイナゴ怪人7体しか登場しなかったが、今回の仮免試験では大量の量産型アリ怪人と、動植物がベースになった新怪人が27体。それにショッカーライダーと化した12体のイナゴ怪人が『雄英潰し』対策で投入されている。
 元ネタは劇場版『仮面ライダー 対 ショッカー』の再生怪人軍団で、作者はそれに倣って一次試験に投入された怪人の数を(戦闘員である量産型アリ怪人を除き)39体に設定した。今回名乗りを上げた怪人の数が28体なのもソレに殉じている。
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