パンを貪りしカップル   作:ああああ

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怠惰な日常

狩凪(かりなぎ)遥斗(はると)はパンが大好きだ。

 

日々の日課は『やまぶきベーカリー』へと通うことであり、登校と下校時に必ず寄る。種類は問わない。寧ろ "パン" という概念が好きなのだ。菓子パンは勿論、カレーパンやクロワッサン、フランスパンも好物だ。

 

――そして、彼は青葉モカと出逢う。

 

偶然か必然か、両者共にパン好きであり、『やまぶきベーカリー』を高頻度で利用する。出逢わない方が難しいレベルだ。

 

パン好き同士が仲良くなるのに大して時間は掛からなかった。共通の趣味嗜好がある。ただそれだけで人間は仲良くなれるのだ。

 

――二人は何時しか付き合っていた。つまり、『カップル』となっていたいたのだ。

 

誕生日にはお互いにパンを贈り合い、休日にはどちらかの家で怠惰とパンを貪る日々。年頃の男女が特別な仲になるには十分過ぎる程の条件が揃っていた。二人がそうなるのも必然だ。

 

 

 

さて、この物語はパン好きカップルの日常を記しただけだ。時々イチャつき、九割方はマイペースにパンを食べてマイペースに会話するだけの二人を書いた文章。興味があるのならば、少しだけでも覗いていってはくれないだろうか?

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

「お腹空いた...パンあったっけ?」

 

己の食欲に正直に応じる少年の名は狩凪遥斗。現在の時刻は丁度昼頃だ。朝食としてパンを食べてから五時間近くは経っているので、空腹も必然だ。

 

この少年、一日三食の内二食はパンで済ませることが多い。勘違いしないで欲しいが、遥斗は決して面倒臭いから取り出して食べるだけのパンを食している訳では無い。単純にパンが好きなのだ。本当なら一日三食オールでパン祭りへと突入したいところだが、それでは栄養バランスが偏ると止められているのだ。その為、多くても一日二食+間食で我慢している。

 

「......パン、もう無いな」

 

確か朝に六つ程買ってきた筈だが...と、自身の胃袋にすべて収まっている事実を忘れ、行方不明のパンに憂いを寄せながら外出の準備をする。目的地は勿論『やまぶきベーカリー』だ。パンが無ければ買いに行けば良いと言わんばかりの行動力。この情熱はパンと恋人以外には基本的には向けない。

 

徒歩十分弱で目的地へと到着する。幼少期から通い続けている、言わば行きつけの店だ。当然ながら『やまぶきベーカリー』を経営する夫婦の娘、山吹沙綾とは幼馴染と言えるだろう。

 

(よし、今日はチョココロネだな。この時間帯なら売り切れてないはず......多分)

 

毎回チョココロネだけが売り切れているのだ。原因は友人のチョココロネ狂いだ。あの狂い様は自分のパン愛を僅かに上回ってたりする。一点集中で愛を注いでいるのでチョココロネに特化しているのだろうか?

 

割と下らない事を考えながら入店する。

 

「いらっしゃいませー...って、遥斗じゃん。今日二回目だね」

 

店番をしている少女の名は山吹沙綾。遥斗を出迎えたのでは無く、飽くまで接客の一環だ。今日のような土日には両親に変わって店番をしているのだ。

 

「やあ、沙綾。なんかね、朝に買ったパンが全部消えたんだよ。それで仕方無しと思って買いに来た所存であります」

 

「いや、どうせまた食べただけでしょ...相変わらず目の前にあるパンは食べ尽くしてるね。ウチの売上になるのは有難いけど、幼馴染のお金だって思うとなんかもどかしいし...」

 

何気ない会話を行っている風に見えるが、遥斗の思考は殆どパンで埋まっていた。何故なら、場所がパン屋だからだ。視覚だけでなく、香ばしい匂いが嗅覚を刺激する。今すぐ飛びついて貪りたい衝動に駆られるが、幼馴染の前でみっともない姿は見せまいと辛うじて我慢している。

 

そんな我慢を他所に店のドアが開かれる。お客の入店音としてドアに付けられたベルが鳴った。

 

「あ、いらっしゃいませ!...って、次はモカか...流石カップル、来る時間帯も殆ど同じだね」

 

「やあやあ、さーや。モカちゃん登場だよ〜。あれ、もしかして浮気現場だったり?」

 

「俺が浮気するわけないじゃん。あ、でも沙綾と結婚したらパン食べ放題なのか?」

 

「あ、ハーくん頭良いね〜。あたしもさーやと結婚するよ」

 

「嫌だからね?どっちと結婚しても店のパン全部食べられそうだし。この店のパンは食べる為じゃなくて売る為に作ってるの!」

 

勿論遥斗もモカも冗談だ。遥斗は沙綾に対して恋愛感情は一切抱いていないし、モカも同様だ。沙綾も承知の上でわざわざノリに乗っている。これは三人の定番のノリだ。

 

「それで、モカも朝に買ったパンを食べ尽くしたの?」

 

「ううん、食べたんじゃなくて消えたんだよ〜?うぅ〜、誰があたしのパンを...」

 

「モカもか...実は俺のパンも消えたんだよ。最近はパン泥棒でも出るのか?」

 

「だ・か・ら!二人共全部食べたんでしょ!!」

 

沙綾は目の前のアホ丸出しな会話に思わずツッコミを入れる。遥斗と同じくモカも食べ尽くしたのだ。因みに、本人達には悪意どころか自覚すら無かった。

 

「ねえ、ハーくん。定番の "アレ" やる?」

 

「へぇー、 "アレ" をやるの?俺は良いけど、モカは良いのか?」

 

「ふっふっふ〜!今日のあたしは昨日のあたしと一味も二味も違うからね?」

 

遥斗とモカのパン好きカップルは両者拳を構えて向かい合う。彼等の目は先程までもぼんやりとしたものとは一変する。

 

二人は勝負の掛け声を同時に叫ぶ。

 

「「最初はグー!ジャンケン...ポン!!」」

 

その勝負の名は『ジャンケン』。石、紙、ハサミの三種の神器をそれぞれの拳のみで再現し、勝敗を決する遊戯(ゲーム)。その勝利を得たのは――

 

「よし!モカ、今回はお前の奢りだ!!」

 

「ぐぬぬ〜、これで二連敗だ...」

 

「その前は俺が三回連続で負けてたんだからな?さて、遠慮なく奢ってもらうからな?」

 

このカップルは両者共に平等だ。『男だから奢れ』や『女なら家庭的であれ』等の主義は大して意味を成してない。今回のジャンケンはどちらがパンを奢るかを決める為に行った。勝者は狩凪遥斗だった。

 

「どっちでも良いけどさ、買うなら早く買って行ってよ。店の中で騒がれると営業妨害だよ!」

 

「ほら、モカが負け犬の遠吠えの如く騒ぐから沙綾に怒られた」

 

「いやいや、ハーくんが年甲斐もなくジャンケンで勝って喜んでるからだよ〜」

 

「両方だよ!!」

 

 

この後、怒る沙綾を他所にゆっくりとパンを選んでから店を出た。

 

 

「モカ、何処で食べる?」

 

「いつも通りハーくんの家で食べようよ。あたしの家よりもハーくんの家の方が近いし」

 

「まあ、そうだな」

 

話し合いの結果、遥斗の家でパンという名の昼食を摂ることにした。年頃の男女が二人きりで家に集まるのは倫理的に問題があると言えるが、この二人ならば大した問題は無い。パンを食べ、漫画を読み、怠惰を満喫するだけだから。それは付き合う前も付き合った後も変わらない点だ。

 

「ねーねー、あの漫画...『ロドリゲスの大冒険』の続きあるかな?」

 

「あ、まだ買ってなかった」

 

「えぇ〜...モカちゃんガッカリ...『ToLOVEる』を全巻揃えるよりも『ロドリゲスの大冒険』を買う方が最優先なのに...」

 

「ちょっと待て。なんで『ToLOVEる』を買ったこと知ってるんだ?俺としては大分恥ずかしいんですけど?」

 

「あはは〜、ハーくんってラッキースケベ系の漫画好きだからね。他にも『ゆらぎ荘の幽奈さん』とかも読んでそうだね〜」

 

「男子高校生の趣味嗜好を外で話すのやめてもらえる?羞恥心で発狂するよ?」

 

お年頃な男子が好んでいるセクシー系漫画を暴露されているのだ。これは拷問と言っても過言では無いだろう。実際、遥斗は涙目だ。

 

「後でちゃんと買うから...」

 

「あれれ〜?別に催促してないんだけどな〜?まあ、どうしても買いたいなら止めないけどね?」

 

「...男女平等パンチをかましたい」

 

言葉にはしつつも実行はしない。そもそも女子を殴るつもりは無いし、DV男になりたくもない。飽くまでもそのくらい怒っているという比喩的表現だ。もっとも、遥斗は『男女平等パンチ』の本家の如くは出来ないと思うが。

 

「ほら、着いたぞ」

 

「うん、やっぱりハーくんの家ってやまぶきベーカリーに近いね。通いやすくて羨ましいなぁ〜」

 

「だろ?でもさ、モカは高校卒業したらこの家に引っ越して来るんだろ?」

 

「モチのロンだよ。やっぱり付き合ってるなら『同棲』ってやつを体験したいからね。ハーくんは丁度一人暮らしだし」

 

モカも言っているが、遥斗は現在一人暮らしだ。二階建ての一軒家。一人では広すぎる家は海外で働く両親が残していったのもだ。二、三年に一度くらいは帰ってくるが、殆どは某トークアプリや電話で済ませている。

 

「て言っても、既に合鍵は持ってるけどね」

 

「まあ、モカだったら渡してもいいと思うからな。あ、でも漫画とかゲームは勝手に持ち出すなよ?クラスメイトから借りてるやつもたまにあるから」

 

「ふむふむ、心得ておりますとも〜」

 

「本当に分かってるのか?」

 

雑談をしながら家の中へ入り、居間へと向かう。そして、複数個あったパンを数分でたいらげた後にモカはある物を発見する。

 

「なっ!?は、ハーくん?こ、これって...!?」

 

「ふっ、気が付いたようだな。そうだ!これこそが人類の天敵であると同時に俺たちの心強い味方である "人をダメにするクッション" だ!」

 

多少高かったが、何とかアルバイトでお金を貯めて買った念願のクッション。使い心地は『至福』の一言に尽きた。

 

「...はふぅ〜、最高だね〜」

 

「だろ〜?そんなに喜んで貰えたなら奮発したかいがあったよ。気に入ったならモカも買えば?一応コンビニでアルバイトしてるんだし、買えなくはないだろ?」

 

「う〜ん、あたしは要らないかな?どうせハーくんのを使い古すし」

 

「なんでモカが使い古すんだよ。このクッションは俺のだからな?いや、既に相棒と称しても構わないとすら考えてる」

 

この男、怠惰の末にクッションを相棒にした。休日は『おはよう』から『お休み』まで、外出以外の時はこのクッションを使用している為、もしもクッションが生き物だったならば本当に相棒となってだろう。実際は無生物なので、遥斗はクッションを相棒と言い張るだけの所謂『痛い人』となっている。

 

「ハーくんハーくん」

 

「はいはい、ハーくんだよ」

 

「寝てもいいかな?このクッションを抱いてると本当に眠くなるんだよね〜」

 

「寝るのは構わないけどさ、そのクッションは使わせないぞ。何故ならこれから俺が抱き枕として使うからだ」

 

「むむむ...残念ながらモカちゃんはこの "人をダメにするクッション" を気に入っちゃったんだよね。つまり、これはあたしの物と言っても過言では無いはず」

 

「その無理やりさにジャイアンもビックリだな...どんな思考回路をしたら "気に入った=自分の物" ってなるんだよ」

 

それでもモカは所有権の移転を所望する。怠惰の為ならば多少の労力にも目を閉じるのがこの青葉モカという少女だ。己の睡眠欲を満たすためのアイテムをそう簡単には諦めれない。

 

「はぁ、埒が明かない」

 

「そんなハーくんに天才美少女モカちゃんが妥協案を提示しよう。一緒に使うのはどうかな〜?このクッションって結構大きいから二人で使っても事足りると思うんだよね」

 

「...まあ、それでもいいか」

 

遥斗はモカの妥協案に乗ることにした。二人の間にクッション挟み、抱きしめる。傍から見たら十分に羞恥を覚える行為だが、この二人は今更そんなこと気にしない。

 

「ふぁぁ...ハーくん、おやすみなさい」

 

「おやすみ、モカ」

 

お互いに寝る前の挨拶をし、眠りにつく。その後、二人が再び目覚めるのは夕方頃だった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆

 

主人公紹介!

 

『 狩凪遥斗 』

・この物語の主人公。現在は高校二年生。容姿は明るめの茶髪であり、デフォルトで半目なので性格をそのまま表している。本人はマイペースで常にだらけたいと思っている。青葉モカと交際しており、高校卒業後は同棲する予定。恋人とどこまで進展してるのかは秘密。Afterglowの全員と面識があり、彼女達も遥斗とモカが付き合っていることは認識している。

 





『恋愛』という名のタグ詐欺。...まあ、飽くまでも二人の恋愛ですから。この後も続けばいずれ恋愛要素も入ってくる......はず。

何を読みたいですか?

  • パン好きカップルのイチャイチャ
  • 混沌と書いてカオスと読む系の夢落ち
  • 幼き日の記憶(遥斗)
  • 意味もなく思い付いただけのバトル展開
  • それとも――ぜ・ん・ぶ♡
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