パンを貪りしカップル   作:ああああ

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評価ありがとうございます♪


噂程度の本探し

 

休日の過ごし方。

 

面接試験でもよく聞かれる質問だ。有り触れているが、なかなかに答えずらい質問。だが、面接等々を全く考えずに答えたらどうなるのだろうか?

 

これに関して狩凪遥斗は、『寝る』『パンを食べる』の二つは欠かさずに加えて話す。怠惰主義者自称代表という肩書きを自ら背負う遥斗にとって、『寝る』は当たり前、『パンを食べる』についても説明するまでもないだろう。

 

ならば、青葉モカはどのように答えるのだろうか?彼女はゆったりと生きている風に見えて意外と動いている。Afterglowのバンド練習にコンビニアルバイト、稀に友人と外出して遊ぶこともある。それに加えて『寝る』『パンを食べる』もあるのだ。

 

遥斗も一応バイトはしている。本当ならしたくないが、好物のパンを大量に買うため、仕方なく働いている。バイト先は古本屋だ。客も殆ど来ないので数時間座ってボーとしているだけで給料が貰えるのだ。まさに遥斗にピッタリな働き先だ。

 

だが、そんな人気の無いバイト先も今日に限っては静かじゃ無かった。

 

 

 

――チリンチリン

 

久方ぶりに店のドアに設置している鈴が鳴った。珍しくお客様が御来店しやがったのだろう。同時に遥斗の平穏を一時だけでも脅かすものであった。

 

「らっせー」

 

いつも通りの腑抜けた挨拶。今現在、『いらっしゃいませ』をどこまで崩して挨拶出来るかを実験中なのだ。もっとも、客なんて殆ど来ないのでモカに引き続きを頼んでいたのだが。

 

「..,遥斗君、それは挨拶なのかしら?」

 

「げっ...千聖さん」

 

「『げっ』じゃないわよ。これでもお客様なのよ?お客様は神様だって教わらなかったの?」

 

「いえ、全く教わってませんよ。お客様はクレーマーも稀にいるから適当に受け流しとけって教わりました。ところで、自分を神様だって言い張るお客様はクレーマーに含まれるんでしょうか?」

 

「ひねくれた解釈しないでちょうだい。比喩的表現よ」

 

勿論遥斗は理解した上で言っている。遥斗は『お客様は神様』という考え方があまり好きではない。神様とは、つまりは何かしらの力や功績があって信仰される者だ。初対面のお客様を信仰しろだなんて無理だ。極端な考えだとは思うが、極端だと言うならばその延長線上ではある。屁理屈も理屈の内。つまりはそういう考えだ。

 

「さてさて、それではお客様。本日はどのようなご要件で?まさか雑談が目的では無いですよね?だとしたら営業妨害で訴えますけど」

 

「客が来てないのに営業妨害もなにも無いでしょ。安心してちょうだい、雑談じゃなくて買い物に来たのよ」

 

「えっ、店全部の本を買い占めに来たって?流石女優ですね。一般ピーポーな俺達の買い物とはスケールが違う」

 

「そんなお金持って来ていないわよ。耳年増でももっとマシな聞き間違いをするわ。今日は普通に本を買いに来たのよ。他の本屋では無かったのだけれども、ここならお客さんも居ないしもしかしたらって思ったの」

 

ついに珍しいお客様にまで客が居ないとストレートに言われた。それでも尚経営出来ているのは店長がお金持ちなのと、その人の趣味で本屋を開いているからだ。遥斗は金持ちの趣味はよく分からないと感じていた。

 

「それで、その本の題名はなんです?一応アルバイトですし、探すお手伝い程度はしないといけないので」

 

「題名は『ゲスパルト戦記』よ。作者名は分からないけど、マイナー中のマイナーな小説よ。私だって噂程度でしか聞いた事がないし」

 

「......確かに聞いたこと無いです。てか、噂程度で来ないでくださいよ。せめて作者名くらいは突き止めてから来てくれないと探すのに時間が掛かるんです」

 

情報が題名しかない。そんな状態で探したら日が暮れてしまう。この古本屋は客が来ない割には無駄に広くて無駄に本が多い。中には外国語で書かれた小説だったあるので、何冊あるかは数え切れない。

 

「...情報が見つからないのよ。スマホで調べても出てこないし...まあ、『火のないところに煙は立たない』って言うわ」

 

「『根が無くとも花は咲く』とも言いますよ。噂があるからと言って元があるとは限りません。――と言っても、どうせ探すんでしょう?」

 

「ええ、当たり前だわ。普段ならとっても忙しいから、たまにある休日くらいは好きなことをして過ごしたいもの。好奇心のなせる技と考えて貰ってもいいわ」

 

「へいへい、よく回る口ですね。仕方が無いのでバイト時間中は手伝いますよ。時間が過ぎたら問答無用で帰りますけどね」

 

そして、狩凪遥斗と白鷺千聖による噂の本の捜索が始まった。情報は題名のみ、作者名どころかジャンルすらわからない始末だ。一冊一冊を確認して周るしかない。それは単純で簡単故に飽きやすく面倒な作業だった。

 

――探し始めてから二時間。

 

「千聖さん、見つからないんですけど」

 

「...まあ、存在するかも怪しい本だし。最後まで見つからない可能性だって大いにあるわよ。私自身も九割五分は見つからないと思ってるわ」

 

「あーはいはい、残りの5%を信じて探せば良いんですね。言い換えれば二十分の一......見つかる気がしない。なんか見つけた時のご褒美とか無いんですか?」

 

この男、アルバイトの分際でご褒美を要求する。勿論他人に対してはやらないし、ある程度はしたしい仲である千聖だから要求しているのだが、それにしても図々しい。

 

「......はぁ、仕方が無いわね。じゃあ、『ゲスパルト戦記』を見つけたらなんでも言うことを聞いてあげるってのはどうかしら?女の子から『なんでも言うことを聞く』なんて簡単には聞けることじゃないのよ?」

 

「ほう、何でもですか?」

 

「ええ、女に二言は無いわ。可能不可能はあるけれど、出来る限りは叶えるつもりよ?」

 

「......やる気が出てきました!さあ、早く見つけましょう!!」

 

遥斗の考えることは一つ、満足するまでパンを奢ってもらうことだ。健全な男子高校生ならば H な考えも浮かんだのだろうが、生憎と狩凪遥斗は紛うことなき変人だ。性欲よりも食欲を優先する。他人の金で食べるパンは嘸かし美味しいのだろう。もしも『ゲスパルト戦記』が見つかったらのであれば、その暁には千聖の財布が軽くなることは確定だ。

 

 

――夕方。

 

「無い......しかも、本はまだまだあるし」

 

「この本屋...どれだけ本があるのよ。こんなの1日掛けても終わる訳ないじゃない...!」

 

やる気が出たからと言って発見率が上がる訳では無い。最初から手を抜いてはいないので、効率やスピードも大して変わらない。結局、その日は見つからずに遥斗のバイト終了時間を迎えたのだった。

 

「千聖さん、そのご褒美って何時まで有効ですか?」

 

「何時まででも構わないわよ。見つかること自体が奇跡なんだし、その位は譲歩するわ」

 

「だったら、バイトの時は探しておきますよ。この古本屋ってご存知の通り客が全く来ないので時間は有り余ってます。なので、見つけたら連絡しますね。あ、ご褒美のことは絶対に忘れないでくださいよ?」

 

「ええ、分かったわ」

 

 

その日以降、ボーとしているだけのバイト時間が噂の本探しに変わった。尚、本が尋常じゃないくらい多いので全て確認する日はまだまだ来ないだろう。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

その日、モカが目を覚ますと全身から温もりを感じた。

 

「?...ああ、ハーくんか」

 

モカはハーくんこと遥斗に抱き枕になっていた。いくら恋人とはいえ、顔の位置が近すぎる。思わずして赤面してしまうのは仕方の無いことだろう。モカは寝ている遥斗の頬にキスすることが稀にあるが、逆は意外と弱いのだ。

 

(ち、近い...///)

 

普段は怠惰を貪っている遥斗だが、ここ最近は忙しそうだった。ハロハピのライブでミッシェルの妹役をやったり、バイト先で千聖のために本を探したり等...普段の彼を見ていたら有り得ないと思う程働いていた。そんな彼を起こすのは気が引ける。その考え方はカップル共に似ていた。相手を労う気持ちはお互いに持ち合わせているのだ。

 

(...にしても、安らかな寝顔だね〜。普段だったら落書きしたくなるけど、今はそんな気分じゃないよ)

 

何となく和んでしまう。モカと遥斗は傍から見れば悪友のような関係に見えるが、お互いに対する恋愛感情は本物だ。たまには彼氏の寝顔を見て癒されることだってある。

 

(こうしてると、初めで出会った時のことを思い出すな〜)

 

遥斗とモカの出会いはロマンチックでは無く、劇的でも無い。やまぶきベーカリーにて偶然お互いに目が合い、シンパシー的何かを感じただけ。そんな有り触れた出会いだが、今となっては懐かしい。そんな出会いを何度も繰り返し、何時しか友人となっていた。某会話アプリで連絡先を交換して、休日は二人で遊びに行く仲になった。そして、いつの間にか抱いていた自分の気持ちを恋だと知ったモカが告白し、今へと至る。

 

(そっか...この状況は今でこそ当たり前になってるけど、あの時はこんな関係になるなんて考えもしなかったよね〜)

 

――モカは改めて狩凪遥斗について考える。

 

自分と似ていて、自分よりも秀でた面も数多く持ち合わせているのに全く発揮しない。最近知ったことだが、女装がとても似合う。そして、この世の誰よりもパンが好き。そんな少年をモカは――

 

「やっぱり...大好きだよ、ハーくん♪」

 

寝ている彼の唇に唇を重ねる。それが彼女のできる最大限の愛情表現だ。柔らかい唇と己の熱を感じながらゼロ距離にあった顔を離す。まだ起きないで。自分の赤い顔を見られたくない少女の微かで可愛らしい願いだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆

 

――とあるパン好きとパン好きの初めての会話。

 

「ねえねえ、そこの君。パン好きなの〜?」

 

「...どなた?いや、割とやまぶきベーカリーで見かけるけどさ、話したのは初めてだよな?」

 

「あたしは青葉モカだよ?特別にモカって呼ぶことを許そうじゃないか〜。ほらほら、初対面の美少女を名前呼びするってどんな気分なのかな?」

 

「あーはいはい、モカだな。俺は狩凪遥斗だよ。特別に遥斗って呼ぶことを許そう。なあ、初対面の男子を名前で呼ぶってどんな気分なんだ?」

 

「遥斗くんか...じゃあハーくんだね。ところで、ハーくんはパン好きなんだよね?」

 

「あ、コイツ話聞かないタイプだ」

 

 

何となく自分に似ている。遥斗とモカはお互いにそう感じていた。

 





おかしい...YouTubeでゲーム実況を見ているだけなのに夕方になっている。そんな休日が増えてる今日この頃。

何を読みたいですか?

  • パン好きカップルのイチャイチャ
  • 混沌と書いてカオスと読む系の夢落ち
  • 幼き日の記憶(遥斗)
  • 意味もなく思い付いただけのバトル展開
  • それとも――ぜ・ん・ぶ♡
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