パンを貪りしカップル   作:ああああ

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評価をまたまた頂きました!

『アテメン』さん、『ガイラ』さん、『砂糖のカタマリ』さん

ありがとうございました♪


木は森で、恥を恥で隠す(前編)

「はぁ...はぁ...っ...!」

 

―――少女は逃げる。

 

背後からゆっくりと、それでも確かに迫り来る追跡者から逃れるために走り続ける。

 

心臓が煩い。肺が空気を欲する。疲労した足が縺れそうになる。だが、それでも少女は一歩一歩を確実に踏みしめ、ほんの少しでも追跡者から距離をとる。

 

「彩さ〜ん、まだ逃げるんですかぁ?」

 

―――少女は逃げる。

 

捨てきれない恥を引き摺り、せめて人の居ない裏路地をピンク髪を揺らしながら駆ける。

 

アイドル兼バンドの練習で常人よりは鍛えられた体力をフル活用し、決して後ろを振り返らないように走る。どれだけ離れたつもりでも、足音だけは一定の距離を保って着いてくる。きっと、まだまだ離れられてないのだろう。

 

 

「っ...あと...少しで...!」

 

目的地に着けば追跡者から逃げきれたも同然。微かに胸の内に芽生えた希望に縋りながら足にムチ打ち歯を食いしばって地を蹴る。

 

「へぇ〜、あと少しなんですね。でも、残念ながらゲームオーバーですよ、彩さん」

 

「っ!?」

 

希望を覚えてから数秒、少女はゲームオーバー宣言を受ける。希望が絶望に塗り替えられた瞬間でもあった。少女―――丸山彩は壊れたブリキの玩具のように振り返る。

 

「ヒィッ...」

 

「どうも、数分ぶりですね〜」

 

そこには獰猛な笑みを浮かべた男―――狩凪遥斗が居た。

 

 

この男、意味も無く少女を追い掛け回して恐怖心を植え付けていた訳では無い。第三者が聞けば『まあ、しょうがないな』と言う程度の理由は持ち合わせていた。

 

「ほら、早く渡してくださいよ」

 

「い、嫌だよ!これは私が日菜ちゃんから貰ったんだもん!!所有権は私にあるんだもん!!」

 

「我儘言わない。俺は肖像権の侵害で日菜さんごと通報しても良いんですよ?ただその場合、俺の黒歴史も警察の人にほぼ確実に見られるから最終手段にしているだけで、其れが手段の一つである事実は変わらないんですよ。ほら... "それ" を渡すか、刑務所でクサイ飯食うか。二つに一つは選んでください。なんと今なら日菜さんも刑務所に着いて行くオマケ付きなんですよ?」

 

「ぐっ...!で、でも...!!」

 

事の始まりは遥斗の女装写真流出事件だ。撮った本人は各人へばら撒いており、その対象は丸山彩まで広まっていた。

 

遥斗はファンでもあり、常識人でもある大和麻弥から彩が件の写真を持っている聞き、回収しに来たのだ。本人は最後の最後まで拒否り続け、逃走を図り自宅へ向かうという暴挙に出たのは遥斗も予想外だった。

 

間一髪で捕まえた遥斗は脅しも込めて写真の譲渡を促すが、状況は決して良くは無かった。

 

「彩さん、想像してみてくださいよ。自分が鬼の如くエゴサーチし、目を充血させながら鼻息を荒立ててる姿を写真に収められ、其れをばら撒かれる。ね、最悪でしょう?」

 

「絵面が最悪なんだけど!?もっとマシな例え話無かったの?一応アイドルなんだし、その姿だけは想像もしたくないんだけど...」

 

「つまり、晒されたくないってことですよね?其れが今の俺の感情です。羞恥心を切り捨てられ、プライドを踏み躙られ、肖像権を焼き払われた俺の気持ちなんです」

 

「...でも、似合ってたよ?遥斗くんの女装姿。さっき例に出された私の姿は...控えめに言って奇妙だったけど、遥斗くんのは逆に可愛いって褒められるじゃん!」

 

どうやら、このピンクは男のプライドの欠片すら理解出来ていないらしい。遥斗は一生独身でいればいいのにと呪いの言葉を心の中で唱えながら諭すように問いかける。

 

「価値観の相違ってご存知ですか?俺は男であり、一般市民。身分は高校生なんです。それに対して彩さんは女だし、アイドルでもある。同じところなんか種族と高校生という身分くらいですよ。そんな俺らがどうして同じ思考回路をしているとお考えで?俺には理解しかねますよ」

 

「す、少なくとも人類の過半数は遥斗くんの女装を肯定するはずだもん!」

 

「根拠なき発言は虚言と称されても文句は言えない。彩さんの発言だって同様ですよ」

 

「こ、根拠ならあるよ!私だけじゃなくてイヴちゃんとか千聖ちゃんも可愛いって言ってたもん!つまり、これは私だけの感性じゃないってことだよ!!」

 

懇親のドヤ顔を晒す彩。珍しく頭を回した結果でこの答えに辿り着いたのだ。普段なら一言『ドヤ顔ウゼェ』と発する遥斗だが、今はそれどころじゃない。彼女の発言には聞き逃せない言葉があった。

 

「...い、イヴと千聖さんにも見られてるのか...?嘘だろ...」

 

「...なんて言うか...ドンマイ?あ、二人とも褒めてたよ?イヴちゃんは兎も角、千聖ちゃんは珍しく満面の笑みで褒めてたんだよ?」

 

「終わった...あの悪魔に見られたって...彩さん、其れは満面の笑みじゃないです。相手の弱みを握れた悪女の嘲笑又は冷笑です。次あの人にあったら確実に煽られますよ...憂鬱だ...」

 

最も弱みを握られたくない人物に黒歴史を見られた現状。遥斗は四つん這いになってままならない現実と過ぎ去りし後悔の時に思い馳せる。

 

「...取り敢えず写真だけは返してください。彩さん、貴女ならこんなに弱ってる年下男子を更に痛めつけるような真似はしないと信じてますからね?」

 

「ぐ、ぐぬぬ...」

 

悩む。流石に目の前の少年を憐れむ心は持ち合わせているし、これ以上追い込んで自殺でもされたら困る。だが、彼の女装写真が欲しいのもまた本心であり、本気だ。銀髪ウィッグを着けて、青葉モカと双子のように見える少年(少女)。超激レアと称しても良いレベルで似合っていた。ただで渡すには惜しすぎる代物だったのだ。

 

 

(揺れてはいるけど...決定打にはなってないか。脅すのも失敗、情に訴えても同情止まり。流石に無理矢理ってのは女子相手にできないしなぁ...)

 

少年は考える。写真はなんとしてでも回収しないと気が済まない。勿論回収後は燃やして灰に帰すけど。其れは置いといて、まずは回収が先だ。だが、方法が浮かばないのもまた現状だ。

 

――賭け事でもするか?

 

(いや、確実性に欠けるから却下だ。そもそもトランプとか無いし、イカサマ用の小道具も持ち合わせてない。やるなら最終手段だな)

 

――誰かに助けを求めるか?

 

(...でも、其れは俺の黒歴史をもう一人に広めるだけの駄策だ。こんな方法、考えたくも無いな)

 

 

結局、話し合いでの解決しか望めないだろう。丸山彩という人間は変なところで頑固だったりするので、単純そうに見えて意外と扱いずらいヤツの一人だ。

 

「...こ、交換条件なら!」

 

苦悩の果てに彩は提案した。

 

「交換条件?」

 

「うん!写真はあげるから、遥斗くんは別の女装で写真を撮らせてくれたら嬉しいなぁって!ピンク髪のウィッグを使ったら私と双子っぽくなるじゃないかなって思うの!!」

 

「アンタ妹いるでしょうが。そっちに頼んでくださいよ」

 

「妹と双子は全然違うよ!なんかこう...具体的には言葉にしずらいけど、違うの!!え〜と...そ、そう!双子コーデとかできるじゃん!!」

 

「...双子コーデなら双子じゃなくても出来ますよ。そもそも双子コーデってのは『お揃い』って言い方もできるんですよ。仲のいい友達同士の女子がお揃いの服装で出かけることを主に指すんです。―――つまり、俺じゃなくても良いってことです」

 

「遥斗くんが女の子になれば解決するよ!!」

 

話が通じない―――其れが彼女に対して少年が抱いた感想だった。最初は双子っぽく女装しろと要求してきたのに、後半はただ女子になれと無理強いしてくる始末。手に負えないとは言わないが、かなり厄介だ。

 

(...いや、逆に考えろ。俺が彩さんの要求に応じた場合のメリットは何だ?...一つは写真が帰ってくること。もう一つは...彩さんを信用するとしたら、写真が晒されないことか?晒された場合は強制でこちらの要求を飲ませることも可能。......悪くない)

 

「分かりました。ある程度の条件を飲むならば、彩さんの要求にも応じますよ」

 

「ほ、本当に!?」

 

「飽くまでも条件を飲んだら、ですよ?」

 

「...因みに、どんな条件?」

 

「簡単ですよ。何があっても今日撮る俺の女装写真を他の人に見せないこと。もし不可抗力で晒されたとしても、彩さんには俺の要求をなんでも(・・・・)聞かなければいけない。其れが例え奴隷や犯罪の片棒を担ぐ行為だとしても、NOとは言えない。まあ、写真が流出さえしなければ何のデメリットもありませんよね?」

 

「な、なんでも...!でも、流出さえしなければ写真が無料で手に入るも同然!!その提案、乗ったよ!!」

 

 

その後、彩は遥斗の女装のためにウィッグを買いに行った。服などは自分のを着せるらしい。身長がお世辞にも高いとは言えず、肩幅も大して広くない遥斗ならば自分の着ている服でも着れると判断したのだろう。それに対して遥斗は悲しさを込めた視線で彩を見つめていたとかいないとか―――

 

「買ってきたよ!!」

 

「...それは良いんですけど...何処で写真撮るんですか?彩さんの家はご両親と妹さんが居るから却下ですし、俺ん家はモカが高頻度で出没するので論外なんです」

 

「あ...今日は私の家、誰も居ないから問題ないよ。お父さんとお母さんは今日から二人で旅行に行くし、妹はお友達と遊ぶって言ってたの」

 

「...まあ、それなら」

 

二人は丸山家に向かって歩き出した。憂鬱な遥斗を他所に彩はルンルン気分だった。中性的な顔の彼にメイクしたら完全に女の子の顔になるだろう。そこにウィッグとレディースの服を着せて自分風にアレンジする。幼い頃にやってた人形の着せ替えの上位互換だ。可愛くなった彼を見てみたいという気持ちで心が一杯だった。

 

 

―――遂に着いてしまった。

 

「ただいま〜!」

 

「誰も居ないのに挨拶するんですか?...お邪魔します」

 

早速彩の部屋に向かい、準備をさせられた。

 

「お化粧しよっか!あ、大丈夫だよ?ぜーんぶ私がやるもん!」

 

「...まあ、化粧に対して俺は無知ですからね。全部彩さんに任せます。...出来るだけ早く終わらせてくださいね?俺のSAN値が尽きる前に」

 

「さ、SAN値?...あ、ああ!あれね、あれ!!SAN値が尽きる前に終わらせるね!!」

 

この少女、全く理解出来ていなかった。だが、分からないと言うのは年上として憚られる。元々無かった威厳がマイナスに達してしまうのを恐れたのだ。因みに、SAN値とは簡単に説明したら、人物が理性を保持しているか、どれだけ精神的ショックに耐えられるかを指す。つまり、女装は遥斗に精神的ダメージを与え続けているのだ。

 

 

――数十分後

 

「できた!メイクよし!着替えよし!ウィッグもよし!何処からどう見ても私の双子だね!!...私よりも可愛い気がしなくも無いけど...それでも双子だもん!!」

 

「...写真撮るなら早くしてください。精神的に死にますよ?主に俺が...!」

 

そこに居たのはピンク髪ツインテールにフリフリな彩の趣味全開のコーデを決めた遥斗の姿があった。一番キツかったのは男である自分がスカートを履くという行為だったと、後に遥斗は語った。

 

「言われなくとも、ちゃーんと写真撮るよ!全体像を撮った後に二人でも撮ろうね!!」

 

スマートフォンのカメラアプリを開き、準備を進める。いざ撮ろうと構えた時、問題は起きた。

 

 

『ただいま〜!彩〜、帰ってるの〜?』

 

 

「あ、お母さんだ!」

 

「...彩さん、ご両親は旅行に言ったのでは?どうやら帰ってきてるようですけど...!」

 

 

―――帰ってきた彩の母、女装中の遥斗。

 

次回に続く。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆

 

――とある天才アイドルとピンク髪アイドルの会話。

 

「彩ちゃん、これ誰だと思う?」

 

「...誰?...もしかしてモカちゃんの姉妹とか?あ、でもモカちゃんって一人っ子だったよね?...結局誰なの?」

 

「実はね〜、ハルっちだよ!可愛いでしょ?るんってくるでしょー!!」

 

「えっ...遥斗くん?コレが?...写真って貰えるかな?」

 

「もちろん!」

 

 

このやり取りを後ろから見てた機械ヲタクが遥斗に連絡した事を二人は知らない。尚、彩が少年に捕まったのはこの二時間後だったらしい。

 

 




次回は続きなのだ〜!

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  • ヤンデレのモカちゃん
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