パンを貪りしカップル 作:ああああ
・なんやかんやあって再び女装することになった遥斗。丸山家に移動してメイクや着替えを終わり、写真を取ろうとしたその時、一つの問題が起こってしまった。旅行へ行ったハズの丸山母帰宅。さて、女装姿の遥斗はどうするのか―――
『ただいま〜!彩〜、帰ってるの〜?』
「あ、お母さんだ!あわわ...!ど、どうしよう!?」
廊下から聞こえるのは彩の母親の声。足音は自分たちの居る場所―――彩の部屋に向かって来てる。
(落ち着け...!こんな時だからこそ落ち着け!!)
焦りが加速する脳を無理矢理にでも落ち着かせ、冷静に思考する。スカートの違和感、隣で慌ててる彩さん、無駄に女の子風をアピールしてそうな部屋etc.....今は其の全てを頭から除外して現状打破の策を考える。
――今からメイクを落として服を着替えるか?
否、ほぼ確実に間に合わないだろう。丸山母が玄関から彩の部屋まで辿り着くのには分単位すら必要ないだろう。生憎と早着替えの特技は持ち合わせていない。つまり不可能だ。
――彩さんに母親の足止めを頼むか?
否、冷静ではない今の彼女ならば逆に疑われてしまいかねない。事態の悪化も有り得なくない、そんな状況を今以上に悪くしないためにも、彼女には大人しくしてもらうのが最善だ。
「くっ...この方法だけは使いたく無かったけど...!」
「な、何が案あるの!?」
「...俺が女子の真似をすればいいんですよ。格好だけでなく、仕草等諸々を女子っぽく振る舞えば、彩さんが女子友達を家に連れてきただけになる。少なくとも、狩凪遥斗が女装したっていう事実だけは隠せます...!」
これが現状での最善だろう。飽くまでも、遥斗の精神的ダメージを見て見ぬふりした場合の話だが。これも一つのコラテラル・ダメージ―――つまりは必要犠牲だと思えば涙が溢れそうになる目も多少は落ち着くだろう。家に帰ったら確実に泣くだろうけど。
「が、頑張ってね!私もできる限り協力するから!!」
「寧ろ何もしないでください。目を瞑って、息を止めて、心臓を休ませて、自分のベッドの中で潜んでてくださいよ。寝てるだけって体にしますから」
「息を止めて心臓を休ませたら死ぬよね!?」
「コラテラル・ダメージです。俺の尊厳を死守するための必要な犠牲だったんです。さあ、何かやらかす前にForeverなSleepへと誘われてください」
「永眠しろと!?表現方法を変えただけじゃん!!」
そんな戯言を交わす間にも足音は自分たちの方向へと近づき、遂にドアの前で止まる。
「彩、居るのー?」
「お、お母さん!」
ノックの工程は何処へやら、心の準備等をする暇もなくドアが開き、彩の母親が顔を覗かせた。親子で会話を交わしあった後、遥斗と目が合った。
「あら、彩のお友達かしら?」
「ど、どうも...狩凪はるt...ハルです!」
(えっ、その声どこから!?完全に女の子の声だよ...!!)
彩は驚嘆する。目の前の少年(女装済み)からは普段とは全く異なる声質―――女性ボイスが発せられていた。元々多才な人だとは思っていたが、このような特技まで持ち合わせているのは知らなかった。声の質は明るく高い。事実、遥斗は女装姿に一番合いそうな声を意識して出していた。
「狩凪ハルちゃんね。......心做しか彩に似てるような?他人の空似かしら?」
「た、多分そうですね。ほら、世の中には似ている人が三人いるっていいますし」
現在の遥斗の格好を思い出して欲しい。中性的な顔をメイクの魔法によって女子のものに。頭にはピンク髪ツインテールのウイッグ。服装はカラフルでフリフリな彩の趣味全開のコーデだ。元々双子コーデを目指していたので、顔をよく見ない限りは彩そのものだった。
「そんな事よりも、お母さん。なんで帰ってきたの?今日からお父さんと二人で旅行に行くって言ってなかったっけ?」
「それがねぇ、お父さんったら財布を家に忘れて来たのよ。あの人、変なところでドジだからね。またドジ踏まれたら新幹線に間に合わなくなるし、お母さんが取りに来たってわけよ」
「あ、あはは...お父さんったら相変わらずだね」
母娘が談笑する中、遥斗の思考はただ一点のみ。『早く帰りたい』だった。帰るにもこの姿のまま外に出る訳にはいかないし、着替えようにも丸山母がいる限りは無理だろう。遥斗の希望を言うならば、丸山母がさっさと財布を回収して家を出て、その後遥斗も少し時間を置いてから着替えて帰ることだ。
「お母さん、早く戻らないと新幹線に間に合わなんじゃない?それに、お父さんを待たせてるでしょ?」
(ナイス彩さん!)
遥斗は母娘の会話に参加する気は無い。飽くまでも傍観者、飽くまでも娘の女友達なのだ。家庭の事情に首を突っ込むつもりは無いし、変に話してボロを出したくもない。だからこそ彩の話題誘導は非常に有難かった。
「それもそうね。それじゃあハルちゃん、ごゆっくりね」
「は、はい」
ドアの閉まり、足音が少しずつ小さくなっていく。少年の心には安堵が広がる。自分の考えていた有り得てしまう最悪の結果にならなくて良かったと、遥斗は安心した。
「は、遥斗くん!さっきの声何処から出したの!?」
「ちょっ、声でかいですって。バレた時のペナルティ、忘れてないですよね?」
「あ......う、うん。もちろんだよ」
「俺の知る限りでは、本当に覚えていたヤツは視線を泳がせながら『やっべ、忘れてた』みたいな顔をしないんですけど」
虚しくも想像は的中していた。この女、ペナルティについては完全に忘れていた。ほんの少し前から女装同意の喜びや、母帰宅の焦り等で記憶に残っていなかったのだ。彼女がバカでアホなのも原因の一つなのだろうけど、と遥斗は割と失礼なことを心の底で考えていた。
時間を潰すために部屋で雑談をしていると、玄関から丸山母の声が響いてきた。
『彩〜!お母さん行ってくるね〜!!』
「行ってらっしゃい〜!!」
「......部屋と玄関で大声出し合って...この家の近所にだけは絶対に住みたくないな。」
丸山母は玄関か、丸山長女は自室から大声で挨拶を交わす。お客様という立場にある遥斗からしたら大迷惑だ。本人達がなんの躊躇もなくやっているので、恐らくは普段から大声で近所に迷惑をかけていることだろう。
―――丸山家に二人っきりになった後の彩の動きは速かった。其れはもう、ゴキブリ先輩のように素早かった。
スマートフォンのカメラアプリを即座に起動し、遥斗に向けた。アイドルでありながら撮る側に秀た才能。その姿はとことん残念少女だった。
「ピースして!ピース!!ほら、笑顔も忘れないで!!後にも先にも遥斗く...ううん、ハルちゃんの写真を撮れる機会なんて殆ど無いんだし、何百枚でも撮っちゃうんだから!!」
「ぐっ...無駄に注文が多い...!男の女装姿で息を荒立ててカメラ片手に『ヒャッハァァー!!』って世紀末のモヒカンみたいな声を出す変態が!!恥を知れ!!」
「ふんっ、どんな言葉の刃を振りかざしても無駄だよ!どんなに傷ついてもハルちゃんの写真で癒されるもん!!」
「グハァ...!」
遥斗は吐血した。自分が精神的に責めて傷つけた彩が自分の女装姿の写真を見て回復する無限ループ。一周ずつの精神ダメージも尋常では無いのに、それが無限ループ化したのだ。メンタルはボロボロに、体は吐血する始末。一切の外傷もなく満身創痍になった怠惰主義者がそこには居た。
「ハルちゃんハルちゃん!次はツーショットね!ああ、遂に憧れの双子ツーショットだ!!」
「...もう、好きにしてくれ...」
「あ、次は動画にしようね!さっき遥斗くんがハルちゃんボイスを出てたし、これは100%女の子確定事案だよ!!」
「...ぴえん」
少年は涙目だ。謎の威圧感がある彩には逆らえる気がしなかった。その結果、少年が嫌う悲しみの表現方法、通称『ぴえん』を己への皮肉も込めて使った。尚、彩はその一言すら『女子高生みたいだね♪』と言って遥斗を涙目から滝涙へと進化させた。
―――撮影会から数時間が経った。
窓を見ると、外はもう真っ暗だ。季節が冬だということもあり、時刻は夕方でも外は暗闇に包まれる。
「あ、彩さん。そろそろ帰らせてください。あまり暗くなると怖い...じゃなくて!足下が見えなくなって転倒の原因となり得ますから!!」
「ハルちゃん、今怖いって言った?」
遥斗は未だに幽霊が怖かった。勿論否定するが。
「言ってないです。あとハルちゃんって呼ばないでください。次呼んだらそのピンク髪を水色に染めて日菜さんとキャラ被りさせますからね?」
「待って、アイドルはキャラ被りが最大の敵だから。頼むから其れだけは勘弁して...!」
真顔からの懇願。丸山彩がパスパレでセンターを務める理由は派手なピンク髪だってのもあるだろう。それを染めるのは死活問題と称しても過言では無い。
「送って行く?夜道は危ないし、ハルちゃんも怖がってるから」
「いや、大丈夫です。怖くないし...あと、ハルちゃんって呼ぶな。帰る前に丸山家に火をつけますよ?」
「急にバイオレンスに!?」
「ほら、早く部屋から出て行ってくださいよ。着替えれないじゃないですか。彩さんが男の着替えを目を充血させながら視姦して息を荒立てるド変態だって広めますよ?」
少女は即座に部屋を出て行った。遥斗は有言実行の男だ。其れは良い意味で作用することもあれば、悪い意味で効果を発揮することもある。地味に後者の方が多かったりもするが、大差ないだろう。
彩もその性質を理解しており、遥斗の発言から彩が行動に移るまでは三秒も掛からなかった。
未だに慣れない服を慣れない動作で脱ぎ捨て、来客時に着ていた服を着る。
(ズボンって...素晴らしいなぁ)
生まれてから十六年と数ヶ月、初めてズボンに感謝した。ついでに男物の服にも。
『遥斗く〜ん、着替え終わった?』
ドアの前から彩の声がする。地味に呼び方が『ハルちゃん』から『遥斗くん』に戻されていた。大して多くもない脳内容量をこんな無駄な事に使う丸山彩。遥斗は改めてドアの外に居るであろう少女に哀れみの目を向けた。
「んじゃ、俺は帰りますね」
「あ、ウィッグどうする?遥斗くんが欲しいなら持ち帰っても良いけど」
「ああ、じゃあください。帰ってから黒歴史と共に燃やして現実逃避の材料にするので」
「だ、ダメだよ!?これは私がしっかりと保存しておくね。また何時か使う日が来るかもだから」
「ははっ、そんなわけないですよ」
二人で笑いながら、遥斗は思ってしまった。あれ、今のセリフってフラグっぽくね?と。果たしてフラグ回収の日は訪れるのか。それとも、フラグが回収されないフラグなのか。其れは誰も知らない。
―――この日、彩が撮った写真の枚数は合計163枚。動画が13本だった。
(あ、みんなにバレないようにアルバム買わないとなぁ。写真は二枚ずつコピーしてスマホから消さないと)
後日、彩の本棚の奥には二冊のアルバムが隠されたのは少女一人の秘密だった。
◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆
―――ピンク髪ウィッグの行き先
「うーん、これどうしようかな?遥斗くんに渡したら燃やして捨てられるし...部屋に隠すのが無難なのかな?」
「家族に見つかったら『えっ、ハゲで悩んでたのかな?』って思われそうですね。まあ、それもまた一興です」
「私がハゲだって誤解されるんだけど!?」
「...?なにか問題でも?」
「...問題以外が見つからないんだけど?」
割と本気で問題無しだと思ってた遥斗だった。尚、ウィッグは彩の部屋の押し入れ奥底に眠っているらしい。
アンケートの終了はいつかって?ネタが尽きてからさ。既に尽きかけてるけど。...見たいネタとかあれば、是非ともアイデアを...(懇願)
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