パンを貪りしカップル   作:ああああ

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モカを甘やかそう!

 

青葉モカは寛容だ。

 

恋人である遥斗が構ってくれなくとも、忙しいのだと理解する。遥斗が女子と話してても口を出さないし、嫉妬もしない。彼が裏切らないことを知ってるからだ。

 

「つーん」

 

だが、そんな寛大なモカも今日ばかりは違った。口をへの字にしてそっぽを向く。何時ものゆるふわな雰囲気は不変だが、心做しかトゲトゲする気がしなくもない。見る人によっては明らかに機嫌が悪いとも感じるだろう。

 

「...モカ、俺何かしたか?」

 

「彼女を放ったらかしで他の女の子と戯れるのが好きなハーくんなんて知りませんよーだ」

 

さて、先に書いたことを訂正しよう。モカは寛大だが、嫉妬くらいはする。彼女は紛いもなく人間なのだ。恋人が構ってくれなく、他の異性とばかり遊んでいたらジェラシーの一つや二つは湧き上がるのだ。

 

「あー、ごめん。全然気が回ってなかったよな?」

 

「ふーんだ、デリカシーどころか恋人を大事に出来ないハーくんなんて知らないもん」

 

「...本当に悪かったよ。どうすれば許してくれる?」

 

この場合、モカは『自分で考えれば?』なんて言わない。普通のカップルの喧嘩ならば有り触れた返し文句だが、生憎とモカは面倒臭い女というやつには成りたくないと考えている。

 

モカは考えた。彼は十分反省してるし、許すのは容易だ。既に怒りも収まっている。だが、コレはある意味いい機会なのでは?とモカは答えを出した。今の彼は、言うならば彼女の我儘を普段以上に聞いてくれる状態だ。

 

(つまり、普段以上に甘やかしてもらえるよね〜♪)

 

「...やっぱり自分で考えた方が良いのか?」

 

「ううん、今日一日あたしの言うことを聞いてくれるだけで良いよ〜。まあ、難しいことは言わないから、そんなに気を張らなくても良いんだけどね〜」

 

「...分かった。今日一日だけは犬でもパシリでもやってやるよ。...可能不可能は考えてくれそうだし」

 

遥斗もモカを信用はしている。いきなり『空を飛べ』みたいな不可能当たり前な命令は絶対にしない。其れは確信の域だった。

 

「さて、お嬢様。最初は何をしたらいいんだ?」

 

「う〜ん...あ、耳掻きをお願いできるかな?」

 

「イエス、マイロード。綿棒とってくるからちょっと待ってて」

 

場所は最早定番とも言える遥斗の家だ。遥斗は後ろにあるタンスを開け、綿棒を取り出す。人にやるのは慣れてないが、何とかなるだろうという楽観的な思考の元に耳掻きを始めた。

 

「はっじめーるよー」

 

「ばっちこーい」

 

気の抜けるような掛け後を開始の合図とし、いつの間にか遥斗の膝に頭を乗せていたモカの耳に綿棒を突っ込む。

 

「っん...」

 

「モカの耳、結構キレイだな。これなら耳掻きするまでもないと思うけどな。モカが望むならいくらでも綿棒でほじくるけどさ」

 

「ん〜、なかなか気持ちいいよ〜?将来は青葉家の耳掻き当番として雇いたいくらいだよ〜。時給百円でどう?」

 

「嫌だっての。てか、モカの耳掻きくらいなら何時でも無料でやるよ。恋人なんだし、そのくらいはサービスにしといてやるよ」

 

ゆったりと会話しながら両耳を終わらせる。割と最初から耳の中は綺麗だったので、普段から定期的に耳掃除をしているのだろう。遥斗にとってはモカの反応を見ながら耳をほじくるだけの楽な作業だった。

 

 

「さてさて、次は何をする?歯磨きでもするか?」

 

「次はね〜、漫画の読み聞かせかな?ハーくんだったらキャラごとに声の使い分けとか簡単でしょう?何なら男女問わずだしね〜」

 

「りょーかい。声を真似る程度なら誰でも出来ると思うけどなぁ。まあ、今日はモカを甘やかすって決めたし文句は無いけどさ」

 

「わーい、じゃあ『ToL○VEる』ね〜♪」

 

「何の拷問だよ!?しかも何で隠し場所を把握してんだよ!!男子高校生を演技とはいえ喘がせて楽しいか!?この鬼畜!この悪魔!!」

 

「次は『ゆらぎ荘の幽○さん』で、その次が『終末のハー○ム』で〜」

 

「だーかーら!!何で隠してるのに見つけてくるんだよ!?男子高校生が彼女にギリ18禁未満の漫画を意図して隠してるんだぞ!理由を察せれない程鈍感でも無いだろ!!」

 

モカは凶悪な笑みを浮かべ、手には『ToL○VEる』、『ゆらぎ荘の幽○さん』、『終末のハー○ム』のそれぞれ一巻を持って擦り寄ってくる。普段なら心の中で可愛いと一言呟く程度の余裕はあるが、事はそこまで楽観できる状況では無い。

 

この少年、狩凪遥斗は十八禁の保険実技の教科書は持ち合わせていない。其の理由は大してなく、精々買う場所と度胸諸々が無いからだろう。

 

だが、仮にそれ等を買ったとしよう。 "意味深" という言葉を添えて通称『自家発電』の道具として購入した場合、遥斗は確実に自宅へ、もっと具体的に言ったら自分の部屋に隠すだろう。

 

彼女は其れを見つけてくる可能性を秘めているのだ。男子にとって、『自家発電』の道具が見つかることは自殺と同等なのだ。精神が軽く死ねるのだ。

 

(...隠し部屋でもつくるか?...いや、ダメだな。工事してる間に100%バレる。アイツ、無駄に察しがいいからな...)

 

そんな彼氏の思考を敢えて察さずにモカは話を進める。

 

「はりーあっぷ。モカちゃんは早くハーくんの女声系喘ぎ...じゃ無くて、この漫画の内容が気になるなぁ〜。表紙についてる女の子も可愛いしね〜」

 

「貴様ぁぁぁ!!」

 

建前は何処へやら、最初に本音が露見する。後からオマケと言わんばかりに建前が建前の意味を成さずに出てきたのは語るまでも無い。

 

「ハーくん、早く〜。モカちゃんこの本の内容が気になるだけなんだけどな〜。あ、ハーくんが読んでくれないなら蘭に読んでもらおうかな〜?」

 

「俺が殺されるんだけど?」

 

「大丈夫大丈夫、さすがに蘭も殺したりなんか......ご愁傷さま」

 

「もう少し幼馴染を信用しろよ!?しかも俺が殺される前提だし!姉御は兎も角、蘭には負けない...ハズ」

 

「...最後の方の声が小さいよ〜?」

 

男女の差で体力や筋力は上なのたが...何故か勝ちが確信できない。本能がナニカ訴えているような気がするのはきっと気の所為だろう。遥斗は正体不明の怖気を自分への嘘でコーティングして隠した。自己解決とはとても言えないが、怖気寒気頭痛等を誤魔化すためだった。

 

「さてさて、ハーくんはどうするのかな〜?」

 

「......クソっ!読めばいいんだろ!?読めば!!寛大な心でやってやるよ!!この羊の皮を被った悪魔が!!」

 

「わぁーい、ハーくんの読み聞かせだ〜♪」

 

この女、別に読み聞かせが楽しみなのではない。寧ろ目的は別にあった。

 

『T○LOVEる』、『ゆらぎ荘の○奈さん』、『○末のハーレム』の3つは青少年共が好きそうなラッキースケベやハーレム、えちえち要素がふんだんに使われた漫画である。その事実はモカでも理解しており、其れが今回読み聞かせに選んだ理由でもある。

 

端的に言えば、『彼氏の新しい面を見たい』という乙女心がなせる技。もっとも、モカはそんな純粋な想いだけでは無いのだが。

 

(いいよいいよ〜♪羞恥に染まったその顔、屈辱を味わうも拒否できない現状。うん、控えめに言って可愛いね〜)

 

男性主人公が喋るシーンでは落ち着いて冷静に読める。例え慌ててるシーンだとしても、心は冷静だった。

 

だが、ラッキースケベのシーンは違った。主人公がヒロインの胸や下半身にダイブして、ヒロインが思わずして喘いでしまうシーン。読むだけならまだしも、これを女性ボイスで喘ぎ部分までを読み上げるのだ。男子高校生のメンタルはボロボロだった。

 

 

 

――二時間後~

 

「...もう...勘弁してくれ...///」

 

「え〜、ハーくん読むの上手いからもっともっと聴きたかったのになぁ〜。まあ、仕方ないね。流石のモカちゃんでも恋人を涙目にしてまで虐め...揶揄いたかった訳じゃないからね〜」

 

「コイツ...地味に虐めって言いやがった...!」

 

「ん〜、あたしには何の事だかさっぱりだね〜?そんなことよりも、次は何しようかな?時間は有限だしね〜」

 

モカは考える。この時間を有効活用するために、次は何をするべきかを――

 

(ハーくんの心の余裕を考えると...あまり変なことは言えないよね〜。あたしだってハーくんを傷つけたい訳じゃないんだし。――あ、きーめた♪)

 

「その顔、また何か思い付いたな?頼むから変なことはさせないでくれよ?男子高校生及び自分の彼氏がみっともなく泣き喚く姿なんて見たくないだろ?」

 

この男、キリッとした表情で平然とダサい事を言い放つ。其れも含めて狩凪遥斗なのだが、第三者が見たらほぼ確実に引くだろう。

 

「膝枕なんてどう?」

 

「了解。ほら、こいよ」

 

遥斗は自分の膝をポンポンと叩く。これまでのお願い(強制)に比べたら何百倍もマシな願いだった。

 

「ううん、そうじゃなくてね。あたしの膝にハーくんが頭を乗せて寝転ぶんだよ?考えてみたらさ、あたしがハーくんの膝を枕として使うことは結構あったけど、ハーくんがあたしの膝枕で寝ることって無かったよね?」

 

「あー、言われてみれば...確かに。ほら、人間の頭ってボウリング玉一個分の重さだって言うじゃん。モカの膝に負担かかるかなって」

 

膝枕欲はある。だが、それ故にモカに負担をかけるのは遥斗にとっても好ましく無い。男である自分なら多少の負担には耐えられるし、モカについても大して重いとは感じない。それでも、男女には大きな差がある。

 

「むむむ〜。ハーくん、あたしはそんなに貧弱じゃ無いよ?こう見えて運動神経抜群だし、バンドの練習でギターとか持ったまま動いてるから力もそこそこあんるだよ〜?」

 

モカは『だから』と一言告げると大きく深呼吸して、次の一言を紡ぐ――

 

「安心して、あたしの膝枕を堪能してよね」

 

何故だろうか、普段から可愛くてしょうが無い彼女が――普段以上に可愛くて、美しいと感じてしまう。

 

「モカちゃんの超極上膝枕を堪能できるなんて、世界でハーくんだけなんだよ〜?」

 

彼女は冗談を言うように言い放つ。

 

「――ああ、そうだな。モカの膝枕は俺だけのものだ。他の男になんか譲ってやるもんかっての。寧ろ嫉妬で狂うくらい堪能して見せつけてやるよ」

 

「う、うん...そうだね〜」

 

肯定。其れはモカの予想外でもあった。自分達は普段から冗談を言ったら軽口で返すような仲だ。そんな彼が冗談半分の発言を肯定して、『お前は俺だけのものだ』とも受け取れる発言をしたのだ。これにはモカの頬も桃色に染まる。

 

「んじゃ、膝上失礼しま〜す」

 

「どうぞどうぞ〜」

 

モカの膝に遥斗の頭が乗る。多少重いとは感じるが、愛しい彼の重さだと感じると何時間でも耐えられそうだ。短パンの空いた隙間に彼の髪が当たる。男子なのに固くなく、寧ろ柔らかい髪質を撫でながら感じ取る。

 

(安心する――)

 

その考えは両者ともに頭に浮かんでいた。初めての膝枕なのにしっくりとくるモカ。後頭部にモカの温もりを感じながら安心感を得た遥斗。

 

 

「...‪モカ...少しだけ寝てもいいか?」

 

「うん、モーマンタイだよ〜。ちょっとしたら起こすから、遠慮しないで寝ていいよ」

 

 

――少年は愛しい彼女の温もりを感じながら眠りについた。

 

――少女は愛しい彼の頭を撫でながら安らぎを感じていた。

 

「おやすみ、ハーくん♪」

 

 

願わくば、この先何十年後も――自分達がお爺さんお婆さんになっても共に過ごし、喜びを共感して、悲しみを分け合えますように。

 

 

口に出さずとも二人が望むことは同じだった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆

 

――とあるパン好きカップルの会話。

 

「ハーくん、パン中で何が一番好きなの〜?」

 

「なんだよ突然」

 

「ハーくんってさ、パンを好き好きって言ってるじゃん。まあ、それはあたしも一緒なんだけどね。でもさ、何か一つのパンを集中的に食べることってあまり無いよね?だから気になったの。ハーくんは何のパンが一番好きなのかなぁってね〜」

 

「...全部のパンが好きだけど...敢えて選ぶならメロンパンかな。メロンパンには色々な思い出があるし。そもそも俺のパン好き人生の始まりはメロンパンからなんだぜ?」

 

「へぇ〜、実はあたしもメロンパンなんだよね〜」

 

この後、数時間に渡ってパンについて語り合ったが、結局は全部好きという結果に辿り着いたらしい。

 

 





寒いから着る毛布を買った♪...思ったよりも使い勝手は良くなかった...

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