パンを貪りしカップル   作:ああああ

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※狩凪遥斗がモカとは恋人関係には発展せず、尚且つ誰とも付き合っていない場合のストーリーです。時系列はあまり気にせずに、精々モカ達が高校二年生くらいだと思って頂ければ。


ifルート : 独り身男子高校生

 

 

『恋人なんていらない』

 

 

其れが未だに交際経験の無い少年、狩凪遥斗の口から漏れた本音だった。

 

決して男子高校生による年相応の強がりでも無いし、特定の誰かを拒否するために紡いだ言葉でも無い。隠すことなく告げられる本音でしか無かった。

 

 

「...どうしてかな、ハルトくん」

 

聞き返すのは青葉モカ。恋人がいらないと断言した彼に想いを寄せる哀れな少女だ。もし付き合いでもしたら『ハーくん』とニックネームで呼ぶが、生憎とそのような関係ではない。

 

「だってさあ、恋人って肩書き...なんか重くない?例えばデートとかしたとするじゃん。そのデート自体が既に面倒臭いのに、服選びでは納得のいく意見を複数回求められて、全行程における会計という場面では男子だからって理由で払わないといけない。超怠惰主義者の俺からしたら重しにしかならない」

 

「...まあ、言いたいことは分かるよ〜?あたしもハルトくんよりはマシだけど、怠惰主義者みたいなものだしね〜」

 

肯定。其れは女子男子問わずして気のある相手との会話で無意識にしてしまう行為だ。相手との共通点を見つけて話の種にし、仲を深めたい。その思考はマイペースで天然なモカもその例外ではなかった。

 

「も、もしもだよ?ハルトくんと同じように怠惰が好きな女の子がいたらどうする?その女の子なら必要以上にお出掛けとかに誘わないと思うけど...」

 

「良き友人関係でありたいと思う。親友以上恋人未満ってやつ?そもそも、俺と同じ価値観の持ち主だったら恋人関係なんて望まないと思うし」

 

「で、でもさ...」

 

 

もう何度彼に自分の想いをアピールしただろうか?彼の答えは毎回不変の『やっぱり恋人はいらない』だった。想いが伝わないことに憤怒した事もあったが、結局は拒絶を恐れて真っ直ぐに伝えられない自分が悪いのだと自己嫌悪に陥る。その後はまた遠回しのアピールの繰り返しだ。

 

 

――だから、繰り返す毎日だ。

 

 

 

とある男友達から問われた。

 

「遥斗、もしもお前のこと好きな女子が奇跡的に現れたらどうするんだ?」

 

「...多分、拒絶はしない。仲のいい女子だったら受け入れるし、好きになる努力もするつもり。まあ、俺みたいな怠惰主義者を好きになるヤツなんていないだろうけど」

 

「...はぁ、鈍感かよ」

 

遥斗は自己評価が低い。それ故にモカの自分に向ける気持ちが恋愛的な好意だとは思わないし、美少女な彼女に自分みたいなだらしのない奴が釣り合うとも思えない。

 

『もしも』、モカが恋人だった――そんな自分勝手な考えが頭に浮かんでは否定する毎日だ。

 

彼女が自分の好みのタイプや自分に好意を寄せる女子が居たらどうするか等を聞いてくる度に、もしかしたら自分に好意を...と思ってから罪悪感で否定する。一度だけモカに好きな人はいるのか、と興味本位で聞いたことがある。答えはYESだった。つまり、自分の妄想は彼女と彼女が好意を向ける相手に失礼なのだ。

 

「...やっぱり、モカ以外と付き合うなんて考えられないよな〜。そんなモカも好きな相手がいるし...あーあ、やっぱり恋人なんていらないな」

 

「...青葉さんが可哀想だな...」

 

「ん、何か言ったか?」

 

「いんや、何でもない。俺が介入していい話じゃないだろうし」

 

男友達が何かを呟いたが、小声だったので聞こえなかった。聞き返しても本人にも伝える意思は無かったし、遥斗と再度聞こうとは思わなかった。

 

 

 

――これは両想いなのに何方も想いを伝えない少年少女の物語。きっかけが無くて恋人同士になれなかった遥斗とモカの " ifストーリー " だ。

 

 

言い換えれば、相手が好きだけど告白する勇気が湧かないから惚れさせたい女と、相手が好きだけどその相手には好きな人がいると勘違いしてる男の物語。

 

 

 

――――――――――

 

「ハルトくんハルトくん、明日暇かな〜?」

 

「明日か?...バイトも無いし、予定もないし...暇だな。怠惰を貪ることを忙しいと定義しない場合はだけど」

 

勿論 "怠惰=忙しい" とは定義できないので暇だ。遥斗も小粋なジョークのつもりで言っている。

 

「それじゃあ、明日ハルトくんの家に行くね〜。暇で暇でしょうが無い美少女モカちゃんに楽しい時間を提供して欲しいんだよ〜」

 

「...俺は構わないけど...良いの?付き合ってもない男の家に遊びに行ったら勘違いされるぞ?」

 

「大丈夫大丈夫〜♪」

 

「...何が大丈夫なんだよ?って、聞いてないし...」

 

遥斗はモカの想い人に勘違いされると思い、指摘したがモカは其れも計算済みだった。

 

遥斗が自分好意に気が付かないなら、外堀を埋めれば良い。友人や同級生に自分と彼が交際していると思わせ、彼自身にも意識させる。それが今日及び明日からの作戦だった。因みに、前提条件の一つを勘違いしている遥斗は気が付く様子も無かったらしい。

 

 

――翌日

 

「おっじゃましま〜す」

 

「適当にジュースと菓子類持ってくから、先に俺の部屋に行ってて。...みかんジュースで良いよな?」

 

「うん、今日のモカちゃんはお客様だからね〜。存分に持て成してくれたまえ〜!」

 

なんと図々しい客なのだろうと思いつつ、台所に向かう。冷蔵庫からみかんジュースを取り、戸棚から買い溜めしておいた菓子類から甘い系としょっぱい系の二種類をお盆に乗せる。ついでに自分と彼女の大好物であるパンを複数個持って部屋に向かった。

 

 

「......何してるんだ?」

 

「うわぁ!?は、ハルトくん?」

 

部屋に戻ると、モカがベッドの下に上半身を突っ込んでいた。今日は短パンだったが、もしもスカートだったら下着がこんにちはしていたであろう。それは置いといて、今はモカの奇行について問い詰める。

 

「もう一度だけ聞く。人のベッドの下で何してるんだ?」

 

「あ、あはは〜、定番イベントの回収をしようかなぁ〜って。男の子の家に来たらベッドの下とか机の中にえちえち本があるか確認するのが定番だよ〜?これはもはや義務と言っても過言では無いのだ〜!」

 

「モカだけパン抜きな」

 

「ごめんなさい。...でもさ、あたしだって好奇心と探究心に負けた、言わば被害者の立場なんだよ?」

 

「へぇー、反省の意は無しと?」

 

この後、モカは謝った。土下座はしなかったが、しそうな勢いで謝ったのは間違いない。パン好きに一番効果的な脅し文句は『パン抜き』だった。パンを食べれないということは人生の損失と称しても過言では無い。常人における休日無しと同等なのだ。

 

一応と頭には付くが、反省はしているモカを寛大な心で許した。もっとも、遥斗の部屋には十八禁の本など最初から無いのだが。

 

「さてさて、ハルトくん。これから何するんだい?なんと今日のモカちゃんは何の予定や計画も無いんだよね〜。つまり、暇つぶし方法を完全にハルトくん任せにしてるのだ〜」

 

「なんて迷惑な。一応女子高校生なんだし、スマホのアプリゲームでもやって時間潰せば良いのに」

 

「むむむ、携帯依存症はダメだよ〜?それに、モカちゃんは新イベントとか出ない限りはログイン勢ですからね〜」

 

「俺も。目的もなくプレイするのって面倒臭いしなー。ソシャゲはハマり過ぎない程度が一番だよな」

 

なんの予定も無く、ただ雑談で時間を潰す。だが、遥斗は無駄な時間だとは思わなかった。何故か心休まり、安心できる空間だったからだ。

 

そして、それはモカも同様だったらしい。

 

「......」

 

「なんで来たばかりでウトウトしてるんだよ...寝不足か?」

 

「...そんな...ところ...かな〜?」

 

来てから三十分弱、朧気な意識のみでコクリコクリとジャーキング現象を繰り返す。今日が土曜日だということもあり、一週間分の疲れも溜まっているのだろう。

 

「寝てもいいぞ?」

 

「ありがと〜」

 

「...って、ここで寝るなよ。ベッドで寝れっての...はぁ、もう寝てるし。何処の某0点量産機小学生だよ」

 

肩に凭れ掛ってくる少女を呆れながらも不意に嬉しいと感じてしまうが、仕方が無いだろうと自己完結する。彼女は冗談のつもりで己を美少女と形容するが、遥斗は本当に美少女だと思ってる。そんな美少女が自分に気を許して寝てるのだ。

 

「すぴ〜」

 

「...パン食べよ」

 

丁度手の届く範囲内にパンがあったので、モカを揺らさないように気を付けながら手を伸ばす。

 

「......」

 

パンを貪りながら視界の端に移り続ける銀髪少女に目を向ける。柄にも合わずに内心ドキドキな自分の気持ちなど知る由もなくスヤスヤと眠る少女。

 

(...モカが悪いんだからな。人の気も知らずに寝てるんだし...)

 

自分に言い訳兼正当化を済ませ、遥斗は寝てモカの頭に手を伸ばした。決してイタズラする気は無く、ただ頭を撫でる。柔らかくて、心做しか甘い匂いがするモカの髪の毛。数回撫でた後、こちら側が癖になりそうだと遥斗は思った。

 

「んっ...Zzz〜」

 

「っ!...起きたかと思った...」

 

悪いことをしているつもりは無いが、自らの行動を振り返れば女性の体に気安く触れている事実が見えてくる。軽く罪悪感を覚えつつ、そっと手を離した。

 

結局暇なことは変わらないので、手元にあったスマホでソシャゲをして時間をつぶす。

 

 

――数時間後

 

モカが眠ってからだいぶ時間が経った。未だに目覚める気配も無く、グッスリと眠るモカ。生憎と前日から今朝にかけて合計十二時間睡眠をキメた遥斗は眠気の欠片すら湧いてこない。

 

「ん〜...ハル...ト...くん」

 

「...寝言か?」

 

「だい...すき...」

 

「っ!?...あーあ、これが恋愛的な意味だったら良かったのにな...人を勘違いさせて...起きたらパンにワサビ仕込んでやる...!」

 

嬉しくないか、と聞かれれば間違いなく嬉しいと答える。でも、青葉モカは友人であれば誰に対しても恥ずかしげも無く『大好き』と口にできる少女だ。過度な期待をしてガッカリするのは自分自身だと、己に言い聞かせる。

 

(なのに...どうしてだ?...めっちゃ嬉しいって感じてしまう...)

 

遥斗はモカに恋愛的な意味で好意を寄せている。諦めざるを得ない状況でさえ無ければ告白したいと感じている程度には好きだ。

 

(だから、俺は俺が嫌いなんだよ...!モカに...想い人に失恋して欲しい(・・・・・・・)って考えが浮かぶ俺自信が...)

 

 

――遥斗は一度だけ、モカの幸せを否定した。

 

 

自分の幸せのために、想い人の不幸を一度でも願ってしまう自分が大嫌いだ。遥斗は謙虚なのでは無く、自分に自信を持てないのでもない。大嫌いだと断言出来る。

 

(モカの幸せを願う反面、自分の幸せのためにモカの不幸を願ってしまった俺...想いを伝える資格すらない)

 

それは嫉妬の感情だった。

 

過去に一度、モカに好きな人はいるのかを問うた。

 

『...うん、いるよ〜。愛しくて堪らない人がね〜♪』

 

彼女の幸せそうな顔を見る。嬉しいハズなのに...想い人の幸せのハズなのに――

 

『へぇ〜、叶うといいな』

 

笑顔の裏には醜い嫉妬の感情がどす黒く存在する。そんな自分が――

 

「だから...期待させんなよ」

 

 

 

 

――これは戒めだ。

 

想いを伝えることを禁じ、恋することを禁じ、彼女を裏切ることを禁じる。

 

常に友人として接し、常に彼女の味方であり、常に彼女を優先する。

 

 

自分の想いを包み隠して、ただの友人としての仮面を被る。

 

 

苦しい――苦しくなんかない。自分にはそう思うことすら生ぬるいから。

 

悲しい――悲しくなんかない。人の悲しみを願ったのなら、それ相応だ。

 

愛しい――愛しくなんかない。そう思えば、また間違いそうで怖いのだ。

 

 

さあ、自分はまだまだ平気だ。まだ演じられるし、モカの幸せを願える。未だに感じる嫉妬を押し殺して見て見ぬふりをする。

 

「俺は...モカの良き友人だからな」

 

 

遥斗の目は、心做しか曇っていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆

 

ifルートの『狩凪遥斗』

・モカに告白されず、好きな人がいるのかを本人に聞いたら肯定されて嫉妬した結果の遥斗。恋人がいないのは自らに課した戒めによるものだ。想い人と良き友人として接することが自分に対する罰だと感じている。心做しか、本編の遥斗よりも目が死んでいるらしい。

 

 

ifルートの『青葉モカ』

・本編とは違い告白は出来ていないが、遥斗を諦める気は無い。本編では『ハーくん』と呼んでいるが、今ルートではそこまで深い仲では無いので『ハルトくん』と呼んでいる。今は勇気が出ないが、モカ自身は変わろうとしているようだ。告白するのも時間の問題.....かも?

 

 





このルートの続きを書こうか迷っています。続きを書くとしたら、モカの告白にifルート遥斗がどのように対応するのか...ですよね〜。

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