パンを貪りしカップル 作:ああああ
...忙しくて...遅れました...
(そろそろだな!)
その日、有咲はご機嫌だった。
先日、遥斗と電話をする約束をしたのだ。友達無き中学時代を過ごした有咲にとって、友人との通話は友情レベルを上げると起こる素敵なイベントだと思ってる。
勇気を振り絞って『通話しよう』と彼に言えた自分を褒めたい。普段は変な羞恥を発揮して言葉を伝えられない自分が、己の意思でお誘いできたのだ。成長を感じずには居られない。
某トークアプリの無料通話機能を使い、煩い心臓を抑えて電話をかける。
プー、プー、プー...
電話に出ない。
自分の知るアイツは面倒臭がりだが、約束を違えるやつでは無い。事故や犯罪に巻き込まれたりも想像したが、その場合は直ぐに友人達から連絡があるだろう。
(...ちょっと都合が悪いだけだよな?そうだ、そうに違いない!)
自分に言い聞かせる。
十分程時間を潰し、再び電話をかける。
―――電話にはでなかった。
(...もしかして、私が知らず知らずの内にアイツを怒らせたか?...覚えがあり過ぎる!)
暇だと言って遊びに来た彼を冷たくあしらった。それは一度や二度では無い。何度も重ね、最早習慣として成り立つ程度には冷たく接してきた。尚、その冷たく接しられた本人は『またツンデレ発動か?可愛いやつだなぁ』と思い、大して気にしていなかったとか。
一度悪い方向に考え出したら、もう止まらない。胸の中には黒い感情が渦巻いてる。
「......メッセージ、送るか」
某トークアプリのトーク機能を使用する。飽くまでもフランクに、相手に悟られないように機嫌を探る。そんな意味を込めてメッセージを送った。
〈おーい、起きてるかー?〉
寝ている可能性に賭けたくて、こんなメッセージを送る。面倒臭い女だと思われたくない。恋人持ちの男にまとわりつくヤツだと勘違いされたくない。そんな感情もこもっていた。
―――返事は来なかった。
既読も付かない。
先程の考えが頭に浮かんだ。
『嫌われた』
そんなわけない。怠惰な生活を送るアイツのことだ、きっとまだ寝ているだけだ。
最も可能性の高い意見を思い浮かべるが、『嫌われた』という考えが嫌なくらい脳内に残り続ける。否定を続けるが、いっその事肯定して楽になれと囁く自分の負の面。
「...もう一度くらいなら、面倒臭いヤツって思われないよな?」
またメッセージを送る。
〈起きてたら連絡しろよ?〉
―――返事はない。
〈約束、覚えてるか?今日さ、通話するって約束したよな?無駄に記憶力の良いお前のことだし、覚えてんだろ?〉
―――返事はない。
〈...返事くれよ。スタンプだけでもいいから〉
―――返事はない。
―――返事はない。
―――返事はない。
―――返事はない。
―――返事はない。
―――――――――
◆◆◆◆◆◆◆
「ん〜っ!よく寝た〜」
遥斗は昼寝から目が覚める。カーテンの隙間から紅い光が漏れているので、恐らくは夕方なのだろう。我ながら怠惰な一日を過ごしたと思う。
「今何時だ?」
枕元に置いてあるスマートフォンを手に取る。横に付いている電源ボタンを押し、画面を付けると―――
「...は?メッセージが48件?...しかも、有咲から...?」
目を疑う。メッセージの数も異常だが、問題はその相手だ。市ヶ谷有咲、彼女は自分の知る中で一番連絡してこなそうな友人だ。
「...何かあったのか?...でもなぁ、有咲なら俺よりも香澄とか沙綾を頼るだろうし...うん、意味わかんない」
某トークアプリを開いてメッセージ一つ一つを読むのも億劫だ。面倒臭い。だから、普通に電話することにした。多少電話料金はかかるが、アルバイトと親からの仕送りでお金は余ってる。無駄な労働を減らすために、寧ろこれが有効活用だと遥斗は言い切った。
「もしもし、有様?」
『...なんだよ』
電話の先からは不貞腐れたような声が聞こえる。ご機嫌斜めなご様子だ。
「いや...めっちゃメッセージ来てたからさ、何事かと思って」
『...約束..,したよな?』
「...約束?俺と有咲が?」
覚えが無かった。遥斗は自分の無駄に良い記憶力を知ってるから、今日は有咲と遊ぶ約束や待ち合わせ等はしてないと断言できた。
『忘れたのか?......なあ、本当に忘れたのかよ?』
「...俺の記憶が正しければ、
『...馬鹿野郎!結局...結局お前はそういう奴だったんだな!!お前を友達だと思った私が馬鹿だったよ!!お前に分かるか!?信じて裏切られた気持ちが!!』
スマホを当ててた耳がキーンとする。
遥斗は思わずスマホを落としそうになるが、何とか堪えた。何故か怒りを抱く有咲に、遥斗は言葉を返す―――
「...は?何キレてんの?こっちはした覚えのない約束ってやつに振り回されてイラついてるんだけど?俺に喧嘩売るためにメッセージ送ってきてたのか?なあ?お前が俺としたって言う『約束』の内容について言ってみろよ」
流石の遥斗も少しだけカチンときた。身に覚えの無い事でキレられ、罵倒された。遥斗でなくともブチ切れ案件だった。
『ああ、話してやるよ!その変わり、お前が本当に忘れてたら土下座してもらうからな!!』
「...へぇ、じゃあ有咲の勘違いだったら...そのデカい胸部を揉ませてもらうからな!勘違いじゃないって自信があるなら、断らないよな?」
これは土下座と同等のペナルティなのだと遥斗は言い訳した。決して自分の性的欲求を満たすために揉むのではない。飽くなき探究心を満たすために勇気を振り絞ったに過ぎないのだ。
―――尚、彼は本棚の奥に『ToL○VEる』を隠すタイプだ。
『ぐっ...!この変態!恋人がいるのに他の女の胸を揉むのかよ!?恥と思え!!』
もっともな言い分だ。―――それがパン好きカップルの片割れじゃ無ければの話だが。
このパン好きカップルには通常のカップルの常識なんて通じない。それがマイペースな彼女達の恋愛だからだ。
「さっきモカ許可とった。モカは『良いよ〜、ご利益ありそうだしね〜』って言ってた。まあ、有咲が自信ないなら断っても良いんだぜ?」
『...いいよ、受けてやるよ!お前の土下座が楽しみでしょうがないからな!!』
「こっちも大きくて柔らかい有咲の胸を揉むのが楽しみだ!ゆっくりと揉みながら感想も付け加えてやるよ!」
今の遥斗は控えめに称しても変態でしかなかった。売り言葉に買い言葉で咄嗟に出た言葉だが、彼は有言実行を志す男でもある。やると言ったら絶対にやるのだ。
『約束について話すぞ?...あれは、一週間前の事だった―――』
その日、有咲は緊張してた。
(そろそろ...良いんだよな?私と遥斗.,.結構仲良いと思うし...!)
友情イベントの一つ、『友達との通話』。自分と彼は出会ってもう十分と言える程度には仲を深めた。実際、友情イベントの一つ、『家で遊ぶ』を達成してるのだ。
―――初めての異性の友人は狩凪遥斗だ。
(...まあ、素で話せる男子なんて遥斗しかいないんだけどな...)
猫かぶりの結果だった。遥斗の前ではボロが出てからは猫かぶりを止めたのだが、他の人の前で『さあ、素で話すか!』とは中々出来ないものだ。
自分の悪癖で若干テンションが下がったが、今回の目的は忘れてない。遥斗と『通話』すること、其れを達成するために、自分は今ここに居るのだ。
―――アルバイト終わりの遥斗を公園に呼び出した。直接話したいことがあると某トークアプリのトーク機能で伝えたのだ。
ベンチに座って周りを見渡すと、少しだけ遠くに見覚えのある少年がいた。勿論遥斗だった。
「おつかれ、遥斗。バイト終わりに悪いな」
「いや、構わない。有咲が普通の男子が告白されると勘違いしそうな文面で呼ぶから、何か面白そうだな〜って思ってたし」
「こ、告白...!?」
思い返して見れば、年頃の女子が男子に『直接話したいことがあるから待ち合わせしよう』だなんて言ったら、半分以上は告白の流れだ。
有咲は何も考えずにメッセージを送ってた。
「ち、違う!違うからな!!」
「分かってるって。有咲って男子の友達に勘違いされやすいタイプだもんな。...まあ、女子しか友達がいないらしいけど」
「うぐっ...」
痛いところを突いてくる。実際、遥斗に指摘されるまでは自分で気づきもしなかったのだ。知らず知らずの内に天然な面を持ち合わせていたらしい。
「んで、その大事な話って?」
「そ、その...」
勇気を振り絞れと己を鼓舞する。ここまでは全て成功しているのだし、後は一言を口から出すだけだ。今だけは羞恥を忘れ、言葉を紡ぐ―――
「私と...私と通話してくれ!」
「.........えっ、それだけ?」
「それだけってなんだよ!」
「...ああ、なるほどね。大体把握した」
遥斗は有咲の性格や思考を有咲が思う以上に理解してた。要する、ツンデレが勇気を振り絞った結果がこの "通話のお誘い" だったのだろう。
「別に構わないよ。それで、いつにするんだ?」
―――その後、日にちと時間帯を決めた。それが有咲と遥斗の『約束』だった。
『ほら、思い出したか?』
電話先で有咲が怒りを込めて聞いてくる。だが、遥斗の返事は変わらなかった。
「やっぱり、俺の勘違いじゃないな」
『なんだよ。言い訳でもするつもりか?』
「有咲、違うんだよ。その『約束』って
やはり、有咲は前提から勘違いしてた。
『は?何言ってるんだ?』
「だからさ、その『約束』の日は明日なんだよ。どんだけ楽しみにしてたんだよ。遠足が楽しみ過ぎて勘違いした小学生かよ」
『...あっ』
所謂勘違いだ。約束の日は明日なのだ。有咲も日にちを確認したのか、思わず声が漏れてた。何なら電話の先で小さく『やっちまった...』と憂鬱そうな声が聞こえてきた。
「さて、有咲の勘違いも解決したことだし...さっき交わした『約束』、忘れてないよなぁ?」
『へっ...?』
「おいおい、忘れたのかよ。約束したよな?有咲のが勘違いだったら、胸を揉むって―――」
確かに約束したのだ。罵られてもいい。軽蔑されても構わない。有咲の胸を触れるなら安いものだ。
電話の向こう側にいる有咲は、顔を真っ青にして震えながら思考を回す。この怠惰人間なのに、変なことにだけやる気をだす変態変人をどのように対処しようか。
―――そして、一つだけ思い付いた。
『あ...あー、電波が...』
「おいコラ、欠けらも無い演技力を発揮するな」
プツンと電話が切れた。そして、同時に遥斗が外出の準備を始めた。
その後、遥斗は有咲の家まで走ったらしい―――
◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆
・とあるパン好きカップルの会話―――
「モカ、有咲の胸触ってもいい?」
「......ハーくん、大きい方が良いの?」
「其れを確かめに行くんだよ。俺の趣味嗜好なんて俺にも全部把握しきれてない。だから、俺自身が大きい方が好きなのか...それとも、大きさは気にしないタイプなのかを確かめたいんだ」
「うん、ならオッケー。ご利益ありそうだし、揉みしだいてきたまえ〜」
「イエッサー」
―――その話を聞いた有咲は、『やっぱりコイツら変だ...』と呟いてた模様。