パンを貪りしカップル 作:ああああ
...ど、どうも。二ヶ月ぶりっすね...
―――問おう。
怠惰の真髄とは何だろうか?
これまでの固定概念は捨て去り、一度初心に戻って考えるのもまた一興。この際に面倒等は度外視して、怠惰を続けてきた遥斗はもう一度考えた。
そして、多種多様な答えが返ってくるであろうこの問い。異論も反論も認める前提で、遥斗はこの問いに対して声を大にして答えよう。
『快眠こそが怠惰の真髄なのだ』と。
その答えを追求するにあたって、定義や条件なんて後付けでも良いし、多々ある考えの選択肢でしかない。なので普段の凡怠惰を続けた結果で錆び付いていそうな脳を潤滑油とも言える "快眠" の元で潤わせて、理想の眠りを探求する。
通常の睡眠を快眠と称すには、少々ではあるが特別さが物足りない。有り触れ過ぎている。家でも学校でも、寝たい時に寝ての起きたい時に起きるの繰り返しだ。
某桃姫が毎回誘拐されることに配管工の赤帽子は何の意外性も感じてはいない。それと同じく、遥斗は日々の睡眠に特別な感情は持ち合わせていないのだ。
『慣れ』とは恐ろしく、少し前までは満足していた事を段々と満足の対象外だと認識してしまう。其れは怠惰人間の遥斗も例外では無かった。
だから考えた。その結果――
「さて、モカよ。快眠するのに必要なことってなんだと思う?」
「お〜、流石ハーくん。思考のしの字すら感知させないほど素早い人任せだね〜。一周まわって尊敬の域だよ。モカちゃんじゃなかったら見逃してたかもね〜」
「これが思考の結果だよ。1番簡単な方法は何か、という単純な疑問に対して人任せという答えが出たんだ。シンプルイズベストって言うだろ?モカが俺も思いつかない妙案を持ってる可能性も捨てきれない。そんな自分への言い訳...もとい自問自答の元、人任せの発動に至った」
「はっきりと自分への言い訳だって言ったね〜」
他人任せ。其れもまた一つの立派な手段と言えるだろう。一部の人類には、自分一人で物事を解決しようとする悪癖を持ち合わせた者がいる。主に王道主人公系の一人で全てを背負いがちな人が。
先に言っておくが、遥斗は決してその人達を愚者とは罵らない。自分が実行しようと思えない方法を当然のように行えるのだ。遥斗は尊敬の念すら抱く。だが、同時にその人達には適材適所という言葉を知って欲しいとも思う。そう刹那に願うのは正真正銘の怠惰人間だった。
端的に換言すれば、『人任せマジ楽〜』という事だ。むしろ面倒臭い思考等は自分に適してないとすら思ってる有様。
「今日の俺は一味違う。快眠のためならば多少の苦行労働にも目を瞑るし、普段以上に怠惰へと貪欲に向き合おう。それが俺の覚悟だ!」
名言風に戯言を話す愚者が一人。学校の授業をサボるためならば火事でも起こしてやると、そう言っているも同然だ。勿論そこまでの愚か者では無いが。こんな変人ではあるが、『一応』と頭には付く前提でそれなりの『適度』というものは理解している。
「快眠のアイデアプリーズです」
「しょうがないなぁ、そんなハーくんに天才美少女のモカちゃんが良案を授けてしんぜようー。良質な寝具を揃えるのだ〜!良い眠りは良い環境からってね〜」
「...それもそうだな。ベッドは兎も角、俺の使ってる枕とか毛布って安さだけを重視した、通称 " 安物 " だからな。これを機に買い換えるのも一つの手か」
「そうそう、ふっかふかのお布団を買おうよ〜」
「それってモカも使う前提だろ?別に構わないけどさ」
快眠の土台作りとして、寝具を揃える。バイト代と親からの仕送りが無駄に余ってる遥斗には実行可能な案だった。すぐにでも買いに行きたい衝動に駆られる。
―――だが、足りない。
寝具を一変するだけで至高の眠りに辿り着けるならば、それは至高とは言わない。『至高』には簡単お手軽なんてキャッチコピーは不要なのだ。有り触れている眠りになど、既に興味無い。
「何だ?何が足りないんだ?...疲労でベッドに沈むのは有り触れているし...満腹で寝るのも普段からやってる...」
「悩みどころですな〜。いっそのこと、全部やってみたらどうかな?こういうのは丸々全部やった方が良いのだー!」
「...つまり...寝具を買い替えて、運動してから腹一杯までパンを食べて、それから寝るのか?...いや、もう一つくらい何が欲しいな」
具体的な例や案は無いが、どこか物足りない感があった。犬や猫等の小動物を抱きながら眠りについたら快適な惰眠生活を送れるだろうけど、生憎とペットは飼ってないし、飼う予定も無い。
「あたしを抱き枕にするのは〜?温かくて柔らかいモカちゃん枕なんだぜ〜?」
「まぁ、それでいいか」
「むむむ〜、モカちゃん的には妥協案みたいに『それでいか』と言われるのは不服だよ?まあ、泣いて喜ぶ狂喜乱舞を見せられても逆に困るけどね〜」
「あーはいはい、めっちゃ嬉しいっす」
「分かりやすく棒読みだ...そこはお得意の演技力を披露しようよー」
「嫌だっての。モカの前で演技とか嘘とかやっても直ぐにバレるし」
――青葉モカを抱き枕にするのはどうか?
超高品質な抱き枕に匹敵しながら、それでいて温もりで癒されたりもする。口では淡白に接していても、遥斗はかなりの良案だと思ってた。
そうと決まったらあとは単純だ。
モカと二人でショッピングモールに出向き、真っ先に寝具コーナーに向かう。多少値の張る枕でも躊躇せずに購入し、布団も軽くて温かいをキャッチコピーにしているモノを買った。
一応配達サービスも存在はしたが、帰って直ぐに使いたかったのでモカと協力して持ち帰った。
地の文では少なく感じられる時間でも、実際に移動してから帰ってくるまでは大分時間が掛かった。少なくとも『疲れたー』と軽く溜息をつく程度には疲労が溜まった。
「さて、寝具は揃えた。ショッピングモールまでの行き帰りは運動になったし、パンも食べた!」
「お腹いっぱいだねぇ〜」
「...俺の財布は軽いけどな?」
寝具代とパン代。主に後者でお金が飛んでいったのは、この二人が異常なパン好きだからだろう。食べる量が並外れている遥斗とモカが腹いっぱいに食べたら、たとえバイト代があろうとも財布が軽くなるのは不回避だ。
何はともあれ、これで全ての条件が揃った。後は微睡みに身を任せて意識を手放すだけだ。抱き枕ことモカを抱きしめ、ふかふかの布団と調度良い高さの枕。その全てが遥斗を安眠へと導く――
「ハーくん、おやすみ〜」
「おやすみ、モカ」
ベッドに体が沈むような感覚と共に眠りについた。
「あー、よく寝た...」
寝てから何分、何時間が経ったのだろうか。良い目覚は快眠の証拠だった。満足感に浸りながら目を開ける。隣で寝ているモカも安眠のご様子だ。
布団から出て、固まった体を伸ばす。心做しか普段よりも気分が良い気がしなくもない。
(...たまには快眠も悪くないな)
今回学んだことは、様々な条件を満たして初めて『快眠』と言えることだ。そんな面倒臭いことを毎日やるなんて、怠惰人間の遥斗には無理だ。だから稀に今回のようなことをするだけで満足できるのだ。
本音を言えば、快眠に慣れたくないのだ。
慣れてしまえば『いつも通りの睡眠』になってしまう。快眠特有の特別性が薄れてしまうのだ。それだけは阻止したい。つまり、普通の睡眠生活を送る中で稀に快眠を挟むのが遥斗には調度良いと感じられるのだ。
勿論今回買った布団等は普段使いするが、他の快眠要素を自ら揃えるのはまた先のことになるだろう。
チラリと寝ているモカを見る。
「すぴ〜、すぴ〜」
気持ちよさそうに寝ている。
当然だ。自分とモカが考えた快眠の条件を全て実施したのだ。自分が寝ている時もこのような表情で寝ていたのだろう。
もう十分と言って良いほど寝たハズなのだが、モカを見ていると何だか眠気が差してくる。
「ふぁ〜...もう一回寝よ」
もう一度布団に入り、寝ているモカを両手で抱きしめる。モカの温もりは安心できる。頬をぷにぷにと指で突き、再度眠気に身を任せた。
そして、遥斗は二度寝へと洒落込むのだった。