パンを貪りしカップル 作:ああああ
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「ハーくん、パン禁止ね〜」
それは恋人の口から放たれた無情で残酷な言葉。
「も、モカ...?」
遥斗は困惑の念に包まれ、言葉の主である恋人の名を呼ぶ。自分の聞き間違いだったという微かな希望に縋りたいがために。
「流石にパンを食べ過ぎだよ?あたしだって一日に十個までは許容するし、一緒に食べる事だってあるよ。でも、毎日二十個以上はダメだよ。栄養バランスも偏るし、体に悪いからね〜」
遥斗は一理あると納得してしまった。そう、
「...具体的な期間は?」
「二週間くらいかな〜?その後は一日十個まで制限かけるけどね。きっとハーくんなら出来るよ」
「その信頼が重い...はぁ、一度決めたことだ。最後までやってやるよ!」
その日から狩凪遥斗はパンを食べなくなった。気付けば無意識にパンへ手を伸ばしかけていることもあった。登校してるはずなのに『やまぶきベーカリー』へ向かってることもあった。それでも何とか耐えた。鋼を超えてダイヤモンドくらいの硬度を誇る精神力をフルに稼働させた。
(はぁ...物足りない)
健康的な食事の後には必ずそう感じてしまう。美味しいし、量も十分だ。それでも、食事の最中には頭の中にパンが存在する。米を噛む度に『これがパンだったら』と考えてしまう。
そんな日々が続いた。
――青葉モカは考える。
自分の愛する彼のパン好きは、最早依存性と称しても良いレベルだ。自分も過度のパン好きだが、彼ほどでは無い。最初は良く食べるので、見てる分には気持ちが良かった。
彼の体質なのか、自分と同じでどれだけ食べても一向に太る気配がない。それでも、一日に二十個は食べ過ぎだ。稀になら全然構わない。自分だって稀にだが、二十個以上食べる日もある。だが、それが毎日なのだ。一日三回の食事の内二回はパンであり、それに足して間食もパンなのだ。
誰が見ても明らかなパンの食べ過ぎだ。
その結果、今回の『パン禁止令』が出された。
――だが、何かおかしい。
誰よりも健康的な生活をしている。なのに、遥斗は段々と弱っていく。食事も十分摂ってる。生活リズムも殆ど乱れてない。なのに、元気がないのだ。
「ハーくん、大丈夫?パン食べる?」
「......いや、遠慮する。自分で我慢するって決めたんだし、最後までやりきるよ」
「で、でも...そんなフラフラになってる...せめて病院に行こうよ?あたしも付き添うから」
「...分かった」
その後、弦巻財閥に所属する病院に行ったところ、驚くべき結果が返ってきた。
〘狩凪遥斗は進化している〙
詳しく説明するなら、狩凪遥斗はパンのみで全ての栄養を保てるようになっていた。その機能は本来ならば人間には存在しない。つまり、狩凪遥斗がパン好きのために独自の進化をしたということだ。勿論他の食事からも栄養は摂取できるが、パンが一番効率的だ。
「これでパン食べ放題だ!!」
「やったね、ハーくん」
――という夢をみた。
「いやー、我ながら無理のある夢だったよ」
「パンで全部の栄養を摂取できるとか...最高の夢だね〜」
「だろ?まあ、流石に進化は無理だと思うけどな。結局夢は夢なんだなって思ったよ」
取り敢えずパンは一日十個までに抑えようと思った遥斗だった。
◆◆◆◆◆◆◆
「私、狩凪イヴになりたいです!」
「イヴ、その発言は色々と勘違いされかねないからやめて。特に巴とかに聞かれたら俺の人生が終了確定するから」
言わずとも分かるとは思うが、浮気では無い。決して結婚してくれという遠回しの告白でも無い。ただ若宮イヴが『狩凪』という苗字が気に入ったので、自分も『狩凪』名乗りたいと言うだけの話だ。そこに恋愛感情はないのだ。
「 "凪" のように穏やかな心で獲物を "狩る"。私の求めるブシドーとは一味違いますが、それも一つの答えなんです!荒々しく戦うブシドーもカッコイイんですけど、気配を殺して獲物を仕留めるブシドーもわたしの憧れなんです!」
「それで『狩凪』を名乗りたいと?」
「はい!」
イヴは元気いっぱいに相槌を打つ。この元気は遥斗には真似れないことだ。何故なら、遥斗は常に省エネの暮らしを目指しているのだ。こんなに騒いでいたら三十分も持たない。高校生なので、体力はそれなりにあるのだが、精神的にしんどい。どうせ騒いだ挙句に『あれ、俺は何をしているのだろう』と急に我に返ってしまうのがオチだ。
その後、何とかイヴを説得した。具体的にはイヴの苗字である『若宮』について中二病風に語り、カッコよさを全面的に紹介したのだ。遠回しに彼女でもない女子を褒めているので、こんな会話を他の人に聞かれたら浮気だとか言われなねない。
――だが、遥斗は知らない。人々はその思考を『死亡フラグ』と呼ぶことを...
「ふぅ...やっと帰った。こんな会話、他の人に聞かせる訳にはいかないからな」
「さて、じゃあ次はアタシから大事な話がある」
「と、巴!?」
遥斗は悟った。ああ、これは間違いなく勘違いされてる。そして、その勘違いを解くことなく自分は殺されるのだろう。被害の対象は自分で、加害者兼刑の執行者は宇田川巴だ。
「巴、苦しくないようにしてくれよ?俺だって苦しみながら死ぬのはゴメンだからな」
「アタシが遥斗を殺す前提で話を進めるなよ。人殺しの汚名なんて背負いたくないからな?てか、人をなんだと思ってるんだよ」
「えっ、さっきまで人殺しのような顔してたのに?その赤い髪はこれまで殺した奴らの返り血だったとか、太鼓の練習は人を撲殺するためだったとか。そんなことばかり考えてたんだけど?」
「よし、やっぱり殺すか。あはは、遥斗は撲殺がお望みだったよな?安心しろ。指先から順番に潰して、そう簡単には死なないようにしてやるからさ。やったな、長時間コースにご案内だぞ?」
「ごめんなさい、冗談が過ぎました」
人生初の土下座。心の中にあるのは反省ではなく、生への執着心だ。生きる為ならばプライドを捨てて土下座すらできる自分自身に驚く。また自分の新しい面が発見できたね♪なんてポジティブに考えたりもしたが、目の前の恐怖の権化によって暗い感情に塗り潰された。
「そ、それで...姉御。先程仰っていた『大事なお話』とは一体?」
「姉御って呼ぶな。慣れない敬語も使うな。これは『お願い』じゃなくて『命令』だ」
「あ、はい。...それで、俺に話って?」
「遥斗に聞いておきたいんだ。お前、本当にモカ一筋なのか?さっきの事は勘違いだって理解してるけどさ、他の女子と二人っきりで出掛けたりしてるだろ?他にも紗綾に結婚してくれとか言ってたってのも聞いたぞ?」
全部本当の話だ。後者は俺とモカ、沙綾の定番のノリだが、前者に至っては浮気者と判断されても仕方がない。本人達に恋愛感情が無くとも、第三者から見たらそう見えるのだろう。
「俺は間違いなくモカ一筋だよ。他の女子と出掛けてるのだって、ちゃんとモカに許可を取ってからにしてる。それに、出掛けるって言っても花音さんの案内係とか、ナンパ防止や荷物持ちの為だったりだよ。疚しい事なんて一切合切存在しない」
「...へぇ、なら信じる。モカが選んだんだし、悪人ではないのは確実だからな。それでも、恋は盲目だって言うから確認しに来ただけだよ」
「因みに、もし本当に浮気者だったら?」
「生きてることを後悔させる。幼馴染が騙させてて見過ごせる程薄情者ではないからな」
宇田川巴は男子である狩凪遥斗よりも数倍は『漢』だった。本人に伝えたら怒りを買うだろうけど、遥斗は心の底から思ってた。既に心の中では巴を姉御と呼び親しんでいたりもする。
「なあ、あね...巴」
「今ナチュラルに『姉御』って呼んでなかったか?」
「ははっ、気の所為だよ。俺が姉御を巴なんて呼ぶはずがないじゃん」
遥斗の言葉をよく読んで欲しい。そう、逆になっているのだ。本来ならば『巴を姉御なんて呼ぶはずがない』と否定の言葉を紡ぐはずだったのだが、焦りにより逆にしてしまった。これには巴さんも満面の笑みだ。勿論悪い意味で。
「やっぱり調きょ...お話しないとな」
「今ナチュラルに『調教』って言いかけてなかった?」
「ははっ、気の所為だって。アタシが遥斗にお話なんてする訳ないだろ?」
「それじゃあ『お話』はしないけど『調教』はするって事になるんだけど?」
恋人の幼馴染から調教されるだなんて、それこそ浮気だ。という思考に至るのは『調教』という言葉からSMプレイが浮かんだ人だけだろう。因みに、遥斗は完全に恐怖のど真ん中にいた。
遥斗は今日、恐怖心を心に刻んだ。
◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆
――朝起きると隣にモカが居ました。
「...なんで居るの?」
「ハーくん、人はそれを愚問って言うんだよ?朝早くから恋人が自分の寝ている横にいる。もうそれだけで答えなんて決まってるじゃないか〜」
「ああ、なるほどね。つまり、モカは俺を誘ってるわけか。ならばその誘いを受けようじゃないか。もっとも、この狩凪遥斗が
「だよね〜。じゃあ早速――」
「「やまぶきベーカリーに行こう!!」」
以上がパン好きカップルの朝の出来事だった。
怠惰に過ごしたいと願いながらも毎日忙しい現状。ペットの犬二匹だけが癒しだったり...ミニチュアダックスって可愛いよね?
何を読みたいですか?
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パン好きカップルのイチャイチャ
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混沌と書いてカオスと読む系の夢落ち
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幼き日の記憶(遥斗)
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意味もなく思い付いただけのバトル展開
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それとも――ぜ・ん・ぶ♡