パンを貪りしカップル 作:ああああ
暇ができたので久しぶりに書きました!あ、そもそも覚えてる人いるかなぁ…
突然だが、狩凪遥斗は菓子類が好きだ。
そもそもお菓子が嫌いな人はいないだろう、どういう正論は当店では受け付けておりません。赤髪の姉御に撥で叩いてもらった後にBIGな胸部の持ち主であるピンク髪に食べさせてください。
話を戻そう。
大好物のパン程ではないが、それでも人並み以上には菓子を好んでいる。甘いチョコレートや香ばしいポテトチップス、噛みごたえのあるグミに冷たいアイスクリーム。好む理由の一つは豊富な種類だ。お菓子が好き、と言うだけで好物を広範囲に広げれそうだ。
――さて、それでは数ある菓子の中で何が一番好きなのか?
そう問われたら、遥斗の答えは一つだけだ。
『おつまみ系』
スルメや味付きうずらの卵等、塩味が強いものを炭酸系の飲料で喉に流すのが堪らなく好きだ。スルメがふやけるまで噛み、口内に広がったしょっぱさをキンキンに冷えた炭酸で流す。味付きうずらの卵を舌の上で転がし、噛んだ後に出てくる黄身が舌に絡みつく。それも毎度の如く炭酸で喉に流す。つまり炭酸ジュースは一つ一つの動作を締めくくっているのだ。一言で表せば、『至高』に尽きる。
学校やアルバイト終わりに、自室で菓子を広げて炭酸を片手に寝転ぶ。誰に見られるわけでもなく怠惰を全開に過ごす時間は何よりも尊い。恋人のモカと過ごす時間も好きだが、遥斗にとっては同じくらいこの時間が好きなのだ。
過去の失敗も、明日の不安も、全てを忘れてダラけるこの時間。きっと、何十年経っても辞めることは無いのだろう。
――それをモカに話したら…
「ハーくん、オヤジ臭いよ?」
「……知ってる」
特に非難されるわけでもなく、ありのままの意見が遥斗の心を抉った。心做しか遥斗は落ち込んでいる模様。
遥斗としては、この至高の時間を共有したかったに過ぎないのだが、今どきの女子高生には共感し難い感性らしい。もっとも、今どきの男子高校生にも中々に似たような感性の持ち主はいないだろうが。伊達にオヤジ臭いと称されていない。
「それ、成人したら炭酸ジュースをビールに置き換えるやつだよね。天才美少女のモカちゃんには、ハーくんダメ人間物語がいとも容易く想像できるのだ〜」
「想像力に天才と美少女は関係ないだろ。…ふむ、ビールか…」
「あれれ?ハーくんはビールに興味津々なイキリ系男子高校生だった?そのうち煙草とは吸い始めんるんだけど、吸った煙を肺に入れないすぐに吐き出して、『はぁ〜、煙草うめぇ』とか全然思ってもないことを言ってカッコつけるタイプ?」
「世の中にいるなんちゃってヤンキーに辛辣すぎない!?」
遥斗の言う "なんちゃってヤンキー" はモカにとっては得意と言い難い人種だった。変にカッコつけるより、等身大の自分を自覚する、そんな人間がモカの好みのタイプだ。たとえば目の前に居る、変人を偽ろうとしない恋人とか。
モカとて、苦手なタイプに辛辣になることくらいあるのだ。ごく稀に、遥斗の前でしか見せない態度だが。
「それで、結局ハーくんはビールに興味あるの〜?」
「いや、むしろ逆」
「ぎゃく?」
モカは首を傾げて聞き返した。
「ビールって美味しいか?昔、父さんが飲んでるやつを一口貰ったことあるけど…苦くて不味い。当時の俺がお子様舌だったってこともあるだろうけど、やっぱりあの時からビールに対しては苦手意識がある…」
幼い頃は、現在とは違ってビールに興味津々だった。大人が美味しそうに、ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んでいるのだ。不味そうだと思う方が難しい。それに加え、子供は飲んではいけない、という特別感が当時の遥斗の想像内ビール像をより極上にした。
その想像をどん底に突き落としたのは、今でも記憶に残る苦さだった。思わず吐き出して父親に笑われたのは、今となっては良い思い出と言えなくも無い。
「多分、俺が今後自分からビールに手を出すことはないと思うよ」
「ハーくんって一度でも苦手だって思ったら、『君子危うきに近寄らず』とか大層な言葉を使って避け続けるよね〜」
「苦手…及び、危険から遠ざかりたいと思うのは昔から人間に備わってる本能なんだよ。俺が思うに、己の本能に逆らうのは論外。本能に従って生きるのが一番だと思う」
「あたしはハーくんほど本能に従って生きている人を知らないよ…眠かったら寝て、お腹がすいたらパンを食べる。…あれ?ハーくんって性欲くらいしか抑えてなくない?」
遥斗とて理性のないケダモノではない。性欲くらいは抑えるし、年相応の羞恥心で隠そうとする。余談だが、本棚の奥に隠してある『T○LOV○る』や『終○のハー○ム』、『パ○レルパ○ダイス』が恋人に見つかった時は、羞恥心が性欲を上回って、お色気系漫画を全部燃やそうとした。尚、今は押入れの奥に隠してるとか。勿論、某パン好き少女は知ってる。 だって恋人だから、という万能の謳い文句を添えて。
尚、何処ぞの巨乳金髪ツンデレツインテールにセクシャルハラスメントを働くのは性欲では無い。傍からどう見えていても、遥斗だけは違うと言い張った。
「んで、そういうモカはどうなんだよ」
「ん〜、何が?」
「ビール、もとい酒に興味あるの?」
「そりゃあ、少しは興味だってあるよ?今とのところは好きでも嫌いでもないけどね〜。ご存知の通り、モカちゃんは法律を守る系女子だし、飲酒経験皆無だよ〜?」
「んー、モカが法律を守る系女子なのはご存知らないんですけど。むしろ初耳っす」
「そりゃあ今初めて言ったからねー」
モカがお酒に抱くのは飽くまでも軽い好奇心であり、法を無視するまでの大胆な興味は持っていない、とモカは言う。
学生による飲酒の要因は大きく二つに分けられる。単純な興味か、現実逃避かの二種類。モカの場合は前者に近しいが、その興味自体がそこまで大きくない。よって、現在に至るまで飲酒に手を染めたことは無いのだ。
「なんかねぇ、酔うのって怖くない?」
モカは呟くように問い掛けてくる。
「怖い?普通、酒って酔いたくて飲むんじゃないの?酔って、面倒臭いことを忘れるために…とか?よく分からんけど」
遥斗は無駄にお気楽な性格のせいで自棄酒をしたくなるような経験は無いので分からないが…――いや、訂正しよう。某天才アイドルや某ピンクアイドルに女装を強制させられた時には自棄酒も辞さめ案件だった。
訂正、と言いかけて遥斗は口を閉じた。大して酒を理解は出来ていないが、どうせ言ってることは間違っていないだろうと決めつけて。
「酔った自分が何をするのか…モカちゃんはそれが心配かな〜。酔ってる間って、理性なんてあって無いようなものじゃん。誰かを傷付けるかもしれないし、誰かに酔ってる状況を利用させるかもしれない。それを全て『酔ってるから』で片付けられないのが難しいところだよね〜」
それは、単純な未知に対する恐怖だった。
飲酒経験がないからこそ、テレビや新聞で見る『酔っ払い』の起こす事件事故の当事者になるのではないか、という恐怖が湧いてくる。
モカの気持ちは遥斗にも何となく理解出来た。
いや、理解というよりは納得と言った方が良いのかもしれない。遥斗の中にある漠然とした酒に対する苦手意識に近い感情。それは昔、父から一口貰ったビールが理由の大半を締めているが、残りは酔いに対する自分の無知だろう。小学生の頃から現在の高校生になるまでの間、学校では酒の恐ろしさを過剰に、何度も授業されている。だからこそ、『酒=危険』と認識するようになった。
――さて、それは置いといて。
「本音は?」
「未知に恐怖する可愛い彼女を慰めても良いのだぞ〜?どうする?少女漫画の王子様みたいに頭ポンポンする〜?モカちゃんはいつでもカモンなのだー」
「台無しだな…」
非常に残念だが、酒如きに恐怖心を煽られるモカではない。図太さと腹黒さは遥斗に勝るとも劣らず。まさに似た者カップルだった。
「もしもモカちゃんが甘酒で酔ってしまう系の酒耐性最弱女子だったらどうするのさ〜?」
「現像と漫画の区別を付けさせるために冷水を浴びせるけど?バケツかホースで」
「辛辣だねぇー」
現実に甘酒で酔うような奴は存在しない。甘酒の原料には米麹と酒粕の2種類があるのだが、米麹はそもそもアルコールが含まれていない。それに、酒粕の甘酒だって1%未満程度のアルコールしか含まれていない。
1%未満程度で酔うなら、スピリタスをラッパ飲みしている某ダイビングサークルのメンバーは即死だ。勿論アルコール濃度96%は普通の人にも毒だが。余談だが、スピリタスのアルコール濃度が高すぎるので、ポーランドでは消毒薬として利用されることもあるとか。
「――結果、甘酒で酔うやつは意図的に酔ったフリをしている。ふっ、あざといぜ。酔ってるのは酒にじゃなくて、自分にだなぁ!!」
「おぉー、流石ハーくん。全然上手いこと言えてないのに、それを悟らせないほどのドヤ顔。これには全米とあたしが笑ったねー」
「全米に笑われてることを誇るべき?それとも恥じるべき?俺的には後者なんだけど」
笑うといっても、愚かさを嘲笑っているのだろう。知らぬが幸せ、という言葉は今の彼に使うのだ。実際は全米に笑われた事実など存在しないのだが。
「〜♪」
「…何でニマニマしてるんだ?なんかフラストレーションを刺激されるような笑みだな。えいっ」
「ぷふぅ〜…」
ニマニマと笑うモカの頬を指で突いたら、口から空気が漏れた音がした。相変わらずのヤミツキになりそうな感触に、遥斗は連続で突くことで欲を満たした。
(…やっぱりオヤジ臭いか?)
ほんの少しだけ、実は傷付いていた遥斗だった。
尚、酒について書いている作者は未成年な模様。飽くまでも妄想の書き連ねでしかないのですよ。