パンを貪りしカップル   作:ああああ

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休みなので書きやした。



歌、口ずさむこと勿れ

 

部屋に一人。

 

少年が口ずさむのは、頭にこびり付いた名曲だった。勢いのあるリズムとコールアンドレスポンス風の歌詞が男心を擽り、依存性を持たせる。

 

ロックな曲やセンチメンタルな曲、どんな曲にも所謂『下ネタ』が含まれることがある。事実として、有名な脳漿炸裂ガールや聖槍爆裂ボーイ等にも下いネタを想像させるような歌詞が含まれている。女性には歌詞を嫌ったりする人も少なからずいるが、男は別だ。男は例外なく下ネタ系が大好きだ。下ネタなのに、無駄にカッコ良い曲なんて卵かけご飯にごま油を入れるくらい大好きなのだ。寧ろ、男なのに下ネタが苦手だと言うヤツは全員ムッツリだ。結果、全員下ネタ好きなのだ。

 

勿論遥斗も例外ではなく、好きな曲の中には歌詞に下ネタを連想させるようなものもある。

 

下ネタ大好き系の有象無象の一人でもある遥斗。彼が変人なことは今更語るまでもないが、一応と頭に付けて、一般常識を持ち合わせている。

 

だから、そんな下ネタ系の曲を女友達や恋人とカラオケに言った際に歌ったりする愚行は絶対にしない。変態だと罵られて、恋人に泣きつくことになるのは明白だからだ。

 

――それでも、一人の空間だったら話は別だ。

 

狩凪遥斗は多方面に才能を持つ、某天才アイドルに近しいポテンシャルを有している。その為、歌姫こと湊友希那程ではないにしても歌は上手い。少なくとも、適当なバンドに放り込まれてボーカルを務めても違和感はない程度には。そんな彼だって歌を口ずさむことだってある。気持ち良く、声高らかに歌い上げることだって稀にあるのだ。

 

誰だって、歌うことは好きだ。

 

上手い下手は置いといて、老若男女誰もが居ないプライベート空間では得意げに歌を口ずさむ。

 

「〜〜♪」

 

一人なのに無駄にハイテンションで、一人なのに無駄にハイクオリティで、最後まで歌いきる。それが遥斗の一人での時間の過ごした方だった。

 

その曲名は『デリへル呼んだら君が来た』。

 

そこのギャグか?と思った君。某動画サイトで調べて見てほしい。『くるみ☆ぽんちお』や『思春期センセーション』等の控えめに言ってヤバい曲とは違い、カッコよさを絶対に感じると断言出来る。……特に『思春期センセーション』の節句、寿司、太陽を早口で言ってみようはダメだ。女子の前で言ったら嫌われること間違いないだろう。

 

「――No,39(ノーセンキュー)!」

 

先にも言ったが、遥斗は歌うのが好きだ。人並み程度ではあるが、好きな物は好きなのだ。最初は小さく口ずさんでいたが、徐々に大きく。最後に本域で歌っていた。どうせ一人だ。どうせ家には誰も居ない。そんな事を無意識で思っていたのだろう。

 

だから――

 

「おぉー、ハーくん歌上手いねぇ〜」

 

「でも、歌詞がね…ハルトの趣味?」

 

「っ!?」

 

()()()()()()()()のだ。その場に居るのは自分だけでないことに。

 

壊れたブリキの玩具のように、ゆっくりとぎこちなく振り返ると、青葉モカと今井リサが居た。モカはニヤケながら、新しい玩具を手にした様な笑みを浮かべ、リサは苦笑いで困惑した苦笑いを浮かべる。

 

「も、モカさん…?リサさん…?いつからそこに…!?」

 

「『それじゃちょっと息抜きでも――』って所からかなぁ〜」

 

「最初からじゃねぇか!?一声かけるって考えはないんですか!?合鍵は渡してるけど、ここ俺ん家だぞ!」

 

「あ、アハハ…」

 

最近、モカは同居人の如く入り浸っているが、決して同棲はしてない。かなり頻繁に泊まりに来てるとしても、同棲はしてないのだ。…心做しか、隣の部屋にモカの私物が増えてきたと思うが…それでも同棲はしてないのだ。

 

「胸が大きくて、髪型ショートの攻めるのが得意な娘がハルトのタイプなの?」

 

「曲の歌詞ですから!リサさんだって『乙女解剖』を歌ったからって人体解剖が趣味になるわけじゃないでしょ!?『僕らの記念日』を歌ったからって嫌いな人の口を縫ったり、生首で玉遊びしたりしないでしょ!?」

 

「モカちゃんが思うに、乙女解剖の歌詞って曲名の割には人体解剖について触れられてないんだよね〜。所謂比喩的表現っやつ?まあ、『僕らの記念日』は完全にダイレクトな表現だけどねー」

 

この時、遥斗はこれまでの人生で一、二を争うほど必死だった。誰だって、自分の性癖を勘違いされたくない。それが恋人や女子の先輩だったら尚更だ。

 

どんなに言い訳しても、モカとリサは微笑ましいものを見るような視線になる。珍しく、遥斗は赤面していた。その状況を二人は楽しんでいたのだ。

 

「…まあ、それは置いといて」

 

「えー、ハーくんの性癖は置いとくの〜?」

 

「それは置いといて」

 

「お姉さんも気になるなー☆制服、人妻、ナース、OLとか言ってたじゃん!あ、年下小柄な娘とかも言ってたね」

 

「それは置いといて」

 

「ハーくんがNPCになった…」

 

既に遥斗が取れる手段はNPC――つまりは正解の選択肢を選ばないと次に進ませない存在になった。この間、少年は完全に無表情だった。多少赤面してても、無表情ではあった。

 

「モカは兎も角、何でリサさんも居るんですか?」

 

「あたしが誘ったのだよ〜。この後バイトだし、それまで遊ぼうかなってねー」

 

「アタシはてっきり、ハルトには伝わってると思ってたんだけどね…」

 

残念なことに遥斗のスマホにはモカからの連絡は何一つ届いていない。普段から殆ど同じ空間で過ごしてるからか、一般のカップルに比べたら遥斗とモカは某トークアプリの使用回数も少ないのだ。

 

モカにチラリと視線を寄せると、斜め上を向きながら口笛の空吹きを始める。

 

(あんにゃろー、忘れてたな…!)

 

もしくはわざと、という可能性もある。どちらにせよ、もう起きてしまった悲しい事件だ。遥斗は流れてもいない涙を拭い、後でパンを奢らせようと心に決めた。

 

 

「ハルトって歌うんだね☆」

 

「何ですか、藪からスティックに…」

 

「何でルー○柴風に…いや、だってさ。ハルトってカラオケとか誘っても基本的に断るじゃん!だから歌とか苦手なのかなって勝手に思ってた」

 

「そりゃあ断るに決まってますよ。リサさんが誘う時って、絶対にRoseliaフルメンバーの時ですよね?その中に俺が入ったら、カラオケの店員に『うわぁ、ハーレム野郎だ…』とか心の中で囁かれて俺が傷付来ますので」

 

「ハーくんは自意識過剰野郎だねぇ」

 

「団体様における男子と女子の割合が一と五だったら、誰だってそう思うだろ。……思うよね?」

 

モカの言葉が遥斗な心を抉った。

 

「モカとはカラオケ行かないの?」

 

「「行きませんね」」

 

声を揃えて否定した。

 

「あたしとハーくんって、自主的に外出とかしないんですよねー。パンを買いに行く以外は家の中でも事足りますし」

 

「俺たちが外に出る時って、ひまりか姉御()に引っ張られて仕方なくって感じですね。まあ、俺の場合はこころとか香澄とか日菜さんに無理矢理連れ出させるけど…」

 

前者二人ならまだ良い。買い物とか、ラーメンを食べに行ったりとか。比較的日常の範囲を出ないからだ。

 

さて、問題が後者のアホとバカと賢いアホだ。

 

何処かの金髪笑顔の無料配布少女には雪山まで連行させられて遭難したり、何処かの星の鼓動大好き系少女からは星を見に行こうと言われて夜の山で遭難したり、何処かの天才アイドル少女は『るんっ♪』ってきたらかと意味不明なことを言って富士山に登らせてから遭難したり……面倒臭いメンツに関わると必ず遭難オチで終わる気がする。

 

そう考えると、外には危険しかないように感じられる。外に出る度に命の危機に晒される日々…

 

明日には…いや、今日のうちでも遥斗は死ぬかもしれない。こころの場合は黒服さん達が居るから安全だが、香澄と日菜は無計画の塊だからヤバい。運が悪ければ死にかねない。

 

「…オレ、ニドト、ソト、デナイ…」

 

「ハルトがカタコトになってるんですケド…一瞬のうちに何があったの?」

 

「あ、気にしないでください。ハーくんって定期的にこうなるので。精神退行とか野生化とか、バリエーションが豊富ですよね〜」

 

「情緒不安定はだけじゃない!?」

 

リサの周りには変人がそれなりに多いが、その中でも遥斗は上位に類する変人だった。そもそも、リサの知ってる常識人なんて有咲か美咲くらいなものだが。

 

遥斗曰く、Roseliaは猫狂いにポテト狂い、中二病で構成されている。唯一まともそうな燐子も人混みの中で簡易テントに籠るので、ヤバいやつの仲間入りだ。尚、当のリサは常識人と見せかけて変なことに対して頻繁に首を突っ込んで悪ノリするので、分類的には変人だ。

 

結果、Roseliaもヤベー奴の集まりだった。

 

「ソト、コワイ…!オレ、ヒキコモル…」

 

「おーい、ハルトー?正気に戻ってー!」

 

「リサさんリサさん、ハーくんの耳元で()()を流せば正気に戻りますよ。効果はあたしが保証しますよ〜?」

 

モカがリサに渡したのは、モカのスマートフォンだった。画面に写ってるのは――

 

「これって…さっきハルトが歌ってたヤツじゃん」

 

「っ!?な、何で撮ってるんだよ!!」

 

「あ、戻った」

 

遥斗が意気揚々と歌ってる姿が、モカのスマートフォンには収められていた。遥斗の黒歴史がモカに握られたのだ。これには遥斗も正気に戻らざるを得ない。

 

「いや〜、ハーくんがあまりにも気持ち良さそうに歌ってたからねぇ。皆にも共有したいなって思ったわけですよ〜」

 

「き、共有…!?ま、まさか…!」

 

「もちろん、もう蘭達に送ったよ〜」

 

「クソがァァァァァ!!こんなのアイツらに見られたら…蘭に殺される!あーもう!夜逃げの準備しないといけない…!一ヶ月くらいは帰れないじゃねぇか!姉御とかひまり、つぐみならまだいい。でも、蘭はダメだ!あいつ、躊躇なく俺のこと殺しに来るから…!」

 

「でも、ハーくん言ってたじゃん。髪型ショートの攻めるのが得意な娘がタイプだって。なんてことだー、蘭にピッタリじゃないか〜!」

 

「だ・か・ら!!あれは曲の歌詞だって!」

 

慌てる遥斗に悪戯な笑みを浮かべるモカ。この状況を眺めながら、リサは『カオスだなぁ』と他人事のように呟いた。

 

――ピンポーン

 

玄関からチャイムがなった。

 

「あ、蘭から家に来るって10分前に連絡あったよ」

 

「10分前に言えよ!!えっ、ちょっとまてよ。今、蘭が家の前に居るの?…えっ、死んだじゃん。狩凪遥斗くん死亡決定じゃん。来世に乞うご期待ってか?ははっ…ちなみにリサさん、玄関の鍵は…」

 

「アハハ、閉めてないかな☆」

 

 

 

失望と共に、()()()()()()()()()()――

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

遥斗「ち、違うんだ!コレにはワケが…!」

 

蘭「……」

 

遥斗「ら、蘭さん?ぼく、蘭さんの目が怖いなーって思ったり…ひぃっ、何で鉄バットを振り上げるの!?」

 

蘭「っ!」

 

遥斗「うわっ!?危ない!部屋の中でフルスイングは危ないから!モカ!リサさん!ヘルプミー…って居ないし!?」

 

蘭「しね」

 

遥斗「クソっ!誰がテンプレ通りに殺られるかよ!!絶対に逃げ切ってやるからなァァァ!!」

 

五分後、ピクリとも動かない少年の姿がそこにはあった―――

 

 

 

 

 

 

 





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