パンを貪りしカップル   作:ああああ

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投稿したのが消えてた…?
取り敢えず再投稿しました。また消えたら泣く。それだけは確実だと、断言した後に投稿しました。


例のブツ

 

君は友達の趣味や性格、癖まで全てを把握しているか?

 

答えは『否』。個人差があるだろう、という答えも同時に否定しよう。人間は自分のことすら完全に理解出来ていないのに、他人の全てを把握するなんて不可能なのだ。それが兄妹や両親だとしても、答えは変わらない。

 

とあるパン好きカップルを例に出そう。

 

モカと遥斗は元の性格が似ているために、お互いの行動一つ一つをそれなりに理解してる。だが、それでもお互いにどうしても理解できないこともある。

 

互いに面倒臭がり屋なのに、モカはAfterglowというバンドに所属している。遥斗はモカの活動を否定する気は一切無いが、自分がやるかと聞かれたら断固拒否するだろう。何故バンドを始めたのかは知っているが、それでも遥斗は、唯一無二の才能があったとしてもバンドは組まない。自分がそんな状況だったら、きっと別の手を探すだろう。

 

つまり、遥斗はモカの理解できない点がある。

 

逆にモカは、遥斗の感情豊かすぎる性格が理解出来ない。性格が似ていると言っても、同じとは決して言えない。モカは精神的な幼児退化なんてしないし、急にカタコトになったりもしない。遥斗が変人だからと言えばそれだけだが、モカが遥斗のようになることは消してない。

 

その点だけは、モカは遥斗を理解出来ない。

 

 

人の一面など、多面ある内の一つでしかないのだ。

 

 

ギャルっぽい今井リサが誰よりも乙女なことも、クールな湊友希那が音楽以外ポンコツなことも、王子を気取ってる瀬田薫が実はお雑煮好きなことも、オドオドしている松原花音に意外と度胸があることも――

 

知る人は知ってるし、知らない人は想像もつかない。

 

 

 

今回は、そんな知らない一面を知るという話だ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

それはアルバイトの帰り道での出来事。

 

「疲れた〜」

 

古本屋のアルバイトでレジに座っているだけの遥斗だが、それでも疲れるのだ。本しかない空間で、何時間も寝ずに過ごす。これがまた、精神的に疲れる。店内で流れる緩やかな音楽と、心做しか懐かしさと癒しを覚える古本の紙の匂い。ただでさえ睡眠欲の強い遥斗が、これに耐えて寝ないようにしている。その結果、精神力をゴリゴリを削れるのだ。

 

――ぐうぅぅぅ。

 

遥斗の腹が鳴った。誰が言わずとも、空腹の合図だ。いつもなら近くのパン屋に入るのだが、残念なことに今は近くにパン屋が無い。

 

ならば他の飲食店は無いのか、そんな思考の元に遥斗は辺りを見回す。

 

「ん…?あれはハンバーガーショップ…」

 

現在の遥斗のいる場所は、某ハンバーガーショップの前だ。それも、方向音痴先輩やエゴサーチ先輩がアルバイトをしている店舗だった。

 

ここで、遥斗の中に葛藤が生まれる。

 

少し歩いて、パン屋を目指すか。それとも、目の前のハンバーガーに妥協するか。妥協なんてしたらパン好きとしてのプライドが揺らいでしまうが、自由気ままに生きることを信条としてる遥斗としては、空腹を我慢することは避けたいところ。

 

(…ハンバーガーって具材をパンで挟んでるし、アメリカ版のおにぎりって言っても過言じゃない?具材を米で包むか、パンで包むかの違いだけだし!おにぎりは紛うことなき米だ。その理論で言えば、ハンバーガーはパンってことに…つまりハンバーガーはパンなのか?…うん、ハンバーガーはパンだな!)

 

遥斗の脳内で、ハンバーガー=パンになった瞬間だった。だが改めて考えれば、スーパーのパンコーナーには我が物顔でハンバーガーが居座っている。それはつまり、世間がハンバーガーをパンだと認めたと言っても過言では無いのだ。

 

さて、目の前にハンバーガーショップ(パン屋)があるのならば、パン狂い遥斗が止まる理由もない。パン狂人は躊躇なく入店した。

 

「いらっしゃいませー!」

 

それなりに聞きなれた声――丸山彩の声が聞こえてきた。アイドルなのに何故かアルバイトをしている変わり者だ。少し前に女装を強要してきた敵だが、空腹の前では全てがどうでも良い。たとえ丸山彩のツインテールをブチンと引き抜いても、空腹ならば仕方が無いはずだ。決して、ここぞとばかりに恨みを果たそうとしてる訳じゃない。

 

「っ!?……なんか今、ツインテールの危機を感じた気がする…!」

 

「きっと気の所為ですよ」

 

「あ、遥斗くん!珍しいね、ここに来るなんて」

 

「今さっき、ハンバーガーがパンであることに気が付いたので。これがこの世の真理ってやつなんですねぇ」

 

「多分違うよ!?」

 

この世の真理はそんなに軽くは無い。それはアホで有名な彩ですら知ってる事だ。つまり、遥斗はアホ()以下…それを彼に伝えたら全力で否定するだろう。

 

丁度客も少なく、レジに並ぶ人も居ない。これなら少し話す時間もあるだろう。

 

「さて、注文はどうする?」

 

「スマイル58個で」

 

「と、当店でのスマイルはお一人様一点までとなっております!」

 

「えー、じゃあテリヤキバーガー単品と、チーズバーガーのセットで。飲み物はメロンソーダでお願いします」

 

「スマイルは!?」

 

腹の足しにもならない物を注文する価値はあるのか?と遥斗は内心呟いた。尚、この変人は最初にスマイル58個を注文したことを忘れている模様。脳の小さいダチョウは3歩歩いたら物事を忘れると言うが、この馬鹿は一歩も歩かずに物事を空の彼方に放り捨てた。

 

ふと、視界の端に変なものが映った。

 

青緑色の誰かが、口いっぱいにポテトを頬張る姿。よく似てる誰かさんなら知ってるが、彼女は頬を膨らませてジャンクフードを食べるようなイメージはない。遥斗はその誰かさんの可能性を、首を振って否定した。

 

「彩さん、()()って何ですか?」

 

「紗夜ちゃんのこと?」

 

「oh……マジですか?」

 

一心不乱にポテトを貪るのは、Roselia所属の氷川紗夜さんだった。

 

あのクールの塊である紗夜が、目を輝かせてポテトを頬張るなど誰が考えるか。本当に幸せそうに食べていた。……思えば、ファミレスとかに行った時は毎回フライドポテトを二つも注文していた気がした。Roselia全員で言っても、少数で行っても、彼女は真っ先きフライドポテトを注文していた。

 

「…声、掛けるべきですかね?」

 

「……ノーコメントで」

 

「写真は撮ってもいいと思います?日菜さんに送れば、日菜さんが才能を全力で使った最高級のパンを貰えるんですよねぇ。そういう取り引きって言うか、契約なので」

 

「何その契約!?」

 

あの姉好きは、紗夜さんの写真のためなら何でもしそうだ。…今度、日菜さんから逃げる時は紗夜さんの写真をばら撒こう。そう心に決めた遥斗だった。

 

余程ポテトが美味しいのか、紗夜は此方には気付きもしない。遥斗は無言でスマートフォンのカメラを向け、写真と動画を撮った。

 

「紗夜ちゃんに怒られても知らないよ?」

 

「そんなのいつも通りですよ」

 

「アハハ…遥斗くん、紗夜ちゃんに会う度にお説教されてるからね。…少しは懲りないの?」

 

「大丈夫ですって。紗夜さんって、本気で嫌ってる相手にはノータッチノーコメントな人ですから。同校の人なら話は別ですけど、俺は通ってる高校とか別ですし」

 

それに、数時間の説教に耐えただけで最高級のパンが手に入るなら安いものだ。遥斗の中では、全てにおいてパンが優先される。多少の例外はあるが、少なければ無に等しい。

 

撮った写真と動画を某天才に送り、絵文字と音符を大量に使った感謝のメッセージを受け取った。日菜は姉コレクションが増えて、遥斗は美味しいパンを手に入れる。まさにWinWinな関係だった。

 

尚、このことを紗夜が知ることになるのは、もう少し先のことだ。今はただ、キャラ崩壊満載の写真が裏で取り引きされるだけの現状だった。

 

「んじゃ、声掛けてきます。仕事頑張ってくださいね〜」

 

「ありがと!あ、あまり店の中で騒ぎとか起こさないでね?」

 

「失礼な。常識人と名高い俺が騒ぎなんて起こすわけないじゃないですか!」

 

「…えっ、常識人?遥斗くんが?」

 

「おいコラ、馬鹿ピンク。その『お前正気か?』って目で訴え掛けるのやめろ。ネットで彩さんが目を血走らせてエゴサーチしてる写真広めますよ」

 

「ば、馬鹿って言った!私先輩なのに、馬鹿って言われた!!…てか、何でエゴサーチしてる写真なんて持ってるの!?」

 

「麻弥さんとの取り引き……じゃなくて、とある知人からの贈り物ですよ。いやー、何歳になっても贈り物って言葉にはワクワクしてしまいますね」

 

「今日、取り引きって単語多くない!?日菜ちゃんだけじゃなくて麻弥ちゃんもなの!?パスパレで私以外全員と怪しい契約とか結んでないよね!?」

 

遥斗は驚く。この丸山彩という先輩を馬鹿だと思っていたが、まさか隠してあった真実を突いてくるとは思わなかった。

 

この男、日菜や麻弥だけでなく、千聖やイヴとも怪しい契約を結んでいる。日菜は前記の通りで、麻弥にはアルバイト先の倉庫に眠る見覚えの無い機械を稀にあげてる。因みに、しっかりと店長の許可は取っている。千聖には定期的に駅前にある喫茶店のクーポンを献上することの対価として馬鹿ピンクがあの情報遥斗の女装を広めないかを監視してもらい、イヴにはアルバイト先の古本屋にある江戸時代から在りそうなボロボロの書物を贈る代わりに日々のランニングに付き合ってもらってる。

 

余談だが、最後のランニングについては、最近の遥斗は命の危機を感じることが多いので体力作りを始めた。ツンデレ暴力女や赤メッシュ、美竹さん家の長女が襲ってくるので逃げるしかないのだ。これには命が関わっているので、面倒臭がり屋の遥斗も無視できない。

 

「…さて、じゃあ俺はそらそろ行きますね」

 

「ちょっ!契約について詳しく教えてよぉ〜!!」

 

駄々をこねる彩を引き剥がし、遥斗は紗夜の元へ向かった。ピンク頭の誰がずっと此方を見てる気がしなくもないが、きっと気の所為だ。遥斗は自分に言い聞かせた。

 

「(もぐもぐっ)」

 

さて、目の前には未だにポテトを食べ続ける先輩が一人。目を輝かせていて、普段のクールな雰囲気とは一転して可愛いと感じてしまう。

 

(…ふむ、これがギャップ萌えってやつか?)

 

思わず小動物を重ねてしまった。長いポテトを口元に運んで、兎に人参をあげるみたいなことをしたい衝動に駆られたが、流石に怒られそうだから欲を抑えた。遥斗は後でモカにじゃ○りこを与えることで欲を満たそう、と心に決めた。

 

それにしても、中々認知されない。

 

紗夜の座る席の前に座り、頬杖をついて眺めている。それでも気が付かないのは、それだけポテトが美味しいからだろうか。遥斗も美味しいパンを食べていて、モカが部屋に来ているのを気が付かないことが稀にあるので、不思議には思わない。

 

「…紗夜さん?」

 

「?……ぴゃっ!?」

 

「何か凄い声出た…」

 

ぴゃって何だよ、と遥斗は呟いた。漫画ではきゃっ!とかうわっ!?とか言っているが、人間は咄嗟な出来事には型にハマらない言葉及び悲鳴が出るのだと、遥斗は学んだ。

 

「なっ…!い、いつから居たんですか!?」

 

「紗夜さんが目をキラキラとさせながらポテトを頬張っていた時から?時間的には数分前からですね」

 

赤面させながら、肩を震わせて問い掛けてくる紗夜。遥斗は新しい玩具を買って貰った子供のようにニコニコと――いや、ニヤニヤと笑いながら紗夜を眺めていた。控えめに言って変態不審者そのものだった。

 

「わ、忘れなさい…!」

 

「ん〜?紗夜さんや、俺は何を忘れたら良いんですか〜?紗夜さんの口から聞きたいなぁー」

 

煽る。この馬鹿はここぞとばかりに煽る。きっと、某赤メッシュや姉御がみたらヤンキー漫画の如く腹パンを喰らわせるだろう。遠慮なく二~三発は確実に。

 

「…これだけは使いたくありませんでしたが…この際、仕方がありませんね」

 

「…ん?何か嫌な予感が…」

 

()()、何か分かりますか?」

 

紗夜はスマートフォンの画面を此方に向ける。遥斗は首を傾げながら()()を見ると――

 

「なっ、なななな何でこれを!?」

 

「日菜から無理矢理送られてきたんです。その内、写真ホルダーから消そうと思ってましたけど、このような使い方もできるんですね」

 

そこに映っていたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。超端的に言えば()()()()()姿()()()()

 

これには遥斗も動揺を隠せない。あの日菜が写真を持っているのだから、多少は広がっていてもおかしくはなかった。だが、紗夜のスマートフォンにも写真があるのは予想外だった。

 

「あ、あの〜。紗夜さん?その写真は消して欲しいんですけど…?」

 

「どの写真のことですか?もっと大声で、ハッキリと言ってもらわないと分かりませんよ」

 

「すみませんでしたぁぁー!」

 

なんと見事なDO☆GE☆ZAなんだろう、と紗夜は思った。いもうとの才能を羨む紗夜だが、遥斗の土下座の才能だけは絶対に欲しくないと内心思った。

 

 

結局、写真を広めない代わりに紗夜の醜態を広めない、という約束になった。遥斗は日菜に送った紗夜の写真と動画については決して口にはしなかった。あの天才はどうせ隠し通すし、態々コチラからバラす必要も無いだろうという結論にたどり着いた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆◆

 

日菜「あれ?ハルっちから写真と動画が送られてきた?」

 

遥斗『例のブツです』

 

日菜「っ!?るんっ♪てきたぁぁぁぁ!!」

 

遥斗『どうかご内密に』

 

日菜「ヒャッハァァァー♪」

 





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