パンを貪りしカップル 作:ああああ
好きなバンドリssが投稿されてたからテンション上がって書きました。クオリティ?元から引くいし問題は無いハズさ…
夢を見る。
遥斗は大量に積み上げられたパンを前に、無邪気に喜びを表した。純粋に目を輝かせ、跳ねる笑うで喜んでいた。メロンパンから始まり、カレーパンやフランスパン。チョココロネにアンパン。思い付く限りのパンは、全てそこにある。
「ひゃっほぉー!!」
パンの山に飛びつこうとした瞬間――
「ごめんね〜、もう全部たべちゃったよ」
「モカ?……いや、モカ
すでに筋肉の塊としか称せないモカの姿を見て、遥斗はモカを呼び捨てにはできなくなった。声も渋くなっており、頭部以外は別物だ。念による制約と誓約なのだろうか?
心做しか、最初に見た時よりも肥大化した筋肉の鎧。モカが右手に持ってるパンを頬張ると、筋肉は一回り大きく、より硬くなった。
既に普段着てるパーカーはピッチピチになり、裂けそうになっていた。普段着ているパーカーを、マッチョプロレスラーと同等以上の体格をほこるモカが着ているのだ。耐久値が尽きるのも時間の問題だった。
「パン、なくなっちゃねぇ〜」
「あっ、はい。そうですね…」
「仕方ないから、買ってくるね。ふっふっふ〜、モカちゃんの大腿四頭筋と下腿三頭筋、その他諸々の筋肉はただ肥大化してるだけじゃないんだって所を見せてしんぜよ〜」
「あっ、はい。そうですね…」
ドスドスと足音を立てながら走り去るモカの後ろ姿を見ながら、遥斗は硬直した体を動かせずにいた。
「はーるとくん!あっそびーましょー!!」
「っ!……?さっきのマッチョモカは夢?」
それは早朝の出来事。
外から聞こえる騒音で目が覚めた。聞き覚えのあるアホの声に腹を立て、枕元の時計を見ると短い針が七を指す直前だ。つまり、何処かの常識無きアホはギリギリ6時台から人を遊びに誘っているのだ。
「…居留守使うか」
朝から家に居なかったと言えば違和感しか無いが、パンでも買いに行ったと後で言い訳しよう。パン馬鹿として築いてきた信頼は、パンを万能の言い訳として使うことが出来るところまで来てるのだ。
文明の利器、スマートフォンの電源切り、某トークアプリの通知や電話が来ないようにした。
嗚呼、布団がまだ寝ようと囁きかけてくる。微睡みに身を任せ、重力が働くがままに瞼を閉じた。
「はーるとくん!あっそびーましょー!!」
そもそも、朝早くから遊ぶなんて小学生じゃあるまいし。せめて昼頃までは待てないのだろうか。昼頃になれば遥斗だって普通に起きてるし、急な来客にも満面の笑みで対応しよう。実際はかなり渋い表情で『迷惑です』と伝えたそうに対応するのだが、その意を察する奴は、少なくとも遥斗の友人の中には居なかった。
一瞬だけ、何処かのアホの大声で意識が覚醒しかけたが、微睡みはいつだってすぐ側に居る。全身を優しく包み込み、欠伸を誘う。
眠気を誘導するのでは無く、寝ても良いのだと肯定されてる気分だ。それは人間が心の底から願ってる承認欲求を夢と現実の狭間で無意識に生み出してしまった、言わば虚像なのかもしれない。だが、それがどうした。ヘビースモーカーにだって、煙草が体に悪いということくらい分かる。それでも、人間は欲の赴くがままに流される。流されてしまうのだ。
だから、遥斗が今から寝るのも仕方の無いことだ。
遥斗は何百回と繰り返してきた自己肯定を再度発動させた。全ては今この瞬間に睡眠を取るために――
「はーるとくん!あっそびーましょー!!」
「うるっせェわァァァァァ!!」
窓を開けて、アホに怒声を浴びせた。
窓から叫んでから数分後、遥斗の部屋には新たに二人の人物が増えていた。一人はPoppin’Partyのリーダーこと戸山香澄。外で馬鹿みたいに叫んでいた奴だ。もう一人は市ヶ谷有咲。Poppin’Party内の唯一と言って良いほどの常識人だ。外で叫ばないし、歯でギターを弾かないし、ライブ中にチョココロネを投げないし、三刀流ドラムもしない。世話焼きな性格でもあり、素晴らしき
事の原因たる
「おい有咲。何でお前が居ながらこの
「いや知らねぇよ。生憎と私はこの
「そこは有咲の腕の見せ所だろ?」
「知ってるか?世の中ではそれを無茶ぶりとか、無謀って言うんだぞ?私は奥沢さんの二の舞にはなりたくないからな」
「あの〜、そろそろ正座をやめても…」
「「ダメ」」
「ひぇっ…」
残念だが、遥斗は一切許す気は無い。この怠惰人間こと遥斗が最も嫌うのは、安眠を妨げられることだ。それが休日ならば尚のこと。昨日は無駄に夜更かしした分、今日は昼過ぎまでは二度寝三度寝を繰り返して寝続ける予定だったのだ。
「んで、何で家の前に居たの?これが嫌がらせとかだったら、その猫耳もぎ取るけど」
「あ、有咲〜!」
「助け求めんなよ、自己責任だろ。むしろ今回は…いや、今回も私は被害者だっての。遥斗の場合は家の前から叫ばれる程度で済んでるけどさ、こっちは朝六時半から部屋に侵入されてるんだよ…!」
有咲は拳を握りしめ、恨めしそうき香澄を睨みつける。そして遥斗は珍しく察した。有咲も安眠を妨害された仲間だったのだと。有咲の認識を、加害者の保護者から被害者にグレードアップ?ダウン?させた。
「侵入じゃなくて、ちゃんと許可は貰ったもん!流石に無断で人の家に入るのは犯罪だって、私でも知ってるからね!」
「ばあちゃんか?また、ばあちゃんがコイツを家に上げたのか…!?」
「有咲のばあちゃん、香澄に甘いからなぁ」
因みに、部屋に侵入されたあとは先程同様に『遊ぼう!』と騒がれた挙句に
「うぅ〜、足痺れたよ〜!」
「知らん。保護者におぶってもらって帰れ」
「おいコラ、自然な形で私に押し付けるなよ!」
「いやだ!せっかく遊びに来たんだし、遥斗くんも一緒に遊ぼうよ!!」
「時計見ろ。今やっと七時になったところだ。つまり、今は夜中の三十一時と言っても過言じゃない。帰れ帰れ、夜中に他人の家に来るなんて非常識だぞ」
「?…有咲、七時は朝だよね?」
「気にすんな、コイツがおかしいだけだから。普通の人は七時を夜中の三十一時なんて言わねぇし、遥斗はどう考えても常識を解く側の人間じゃねぇから」
意地でも二度寝したい遥斗と、絶対に遊びたい香澄。その間に挟まれた被害でしかない有咲。
有咲はこの、自分に損しかない状況に頭を抱えた。遥斗の要望を叶えて家を出たら、香澄の世話を一人でやることになる。逆に香澄の要望を聞いたら、確実に疲れること間違いなし。元引きこもりな有咲としては、実に友人っぽいこの状況に憧れたことは何度もあった。だが、元とはいえ引きこもりだ。香澄に付き合うと体力が持たないのだ。
叶うなら香澄を遥斗に押し付けて帰りたいが、それも絶対に叶わぬ願い。何故なら、遥斗は死なば諸共派の人間だ。一人の平和のために自分が犠牲になるなんて許容するわけが無い。
「帰りたい。ただ切実に、帰りたい」
「香澄を連れて帰ったら?」
「その次は沙綾ん家に突撃する未来が見えるんだけど。結局私が疲れるだけじゃねーか。だとしたら、ここで大人しくしといた方が良い気がする」
「遥斗くんの部屋で遊ぶの?やったー!何する何する?ゲーム?お話?時間はいっぱいあるよ!!」
「何で俺を巻き込むことは確定事項なの!?俺の安眠が…!俺の平和が…!!」
遥斗は『ガッテム!』と叫んだ。平和とは、なんと儚いものなのだろうか。必死に作り上げても、一人の思い付きで簡単に崩れ去る。主に目の前の
いつの間に正座を解いたのか、香澄は遥斗のベッドの上に座っていた。今更そんなことを気にする遥斗ではないが、香澄の警戒心のなさで、彼女の将来が少しだけ心配になった。
「遥斗くん!このゲームなぁに?」
「勝手に他人の家の棚漁るなよ!…はぁ、そのゲームはオススメしないぞ。クソゲーだし」
香澄が手にしてるのは以前、白金燐子さんから送られてきたクソゲーだった。一週間に一つのペースでクソゲーが増えるので、収納に困ってる。一応貰い物なので安易に捨てることもできないのだ。
「あ、マリ○カートだ!遥斗くん、有咲!これやろーよ!!」
「勝手にやってろ。俺は朝ご飯食うから」
遥斗は何処からかパンを取り出し、食べ始めた。買い置きしておいた、やまぶきベーカリーのメロンパンだ。遥斗レベルのパン狂いになると、何時でもパンを常備しているのだ。寝起きも例外では無い。
「そのパン何処からか取り出したんだよ」
「な・い・しょ♡」
「うぜぇ…」
有咲の辛辣言葉はツンデレの証、とはよく言ったものだ。主に遥斗が。
パンを貪りながら、勝手にマ○オカートをプレイする香澄達を眺める。上手さで言ったら、どちらも可もなく不可もなく、といった感じだ。香澄はアウトドア派なため、そもそもゲーム自体をやり込まない。よって、良くて人並みの上手さだ。対する有咲は、インドア派ではあるが、残念ながら元ぼっちだ。NPC相手に連勝したところで対人戦が上達するわけがない。
「…おいたわしや、有咲」
「何で私は哀れみの目を向けられてるんだ…?」
「よく分からないけど、有咲!元気だして!!」
「よく分からないのに励まされたって嬉しくねぇよ!?」
「どんまい♪」
「喧嘩売ってんのか?」
有咲を弄りつつ、遥斗は五つ目のパンのパッケージを開ける。ちなみに、この後にも残り四つのパンが控えている。
「……」
「ん?どうしたの、遥斗くん」
「香澄の頭についてるツノ、どうなってんの?
「ツノ!?」
「さっきから飛んだり跳ねたりしてるけど、その髪だけ微動だにしないじゃん。中に針金でも仕込んでるのか?」
「つ、ツノじゃないよ!これは『星』だもん!!」
遥斗が興味を示したのは、香澄の髪型だった。聞いた話によれば、雨に濡れても崩れないとか。雨にも負けず、風にも負けないとか…まるで宮沢賢治の理想の人だ。人ではなく髪型なのだが。
「それ、意外と簡単にできるらしいぞ。団子ヘアーの亜種みたいなもんだし」
「ある程度の毛量は必要だけどね!この前、友希那先輩にもやってあげたんだよー!」
「へー、友希那さんにねぇ。意外…でもないか。よく見たら猫耳っぽいし」
あの人が興味を示すとしたら、音楽か猫の二択だ。自分の猫耳を鏡で見て、三十分は固まってる図が容易に想像できた。
「あ、そうだ。有咲の髪でも出来る?」
「先に言っとくけど、やらせねぇからな」
「えー!有咲にも似合うと思うのになぁー。遥斗くんもそう思わない?」
「めちゃくちゃ可愛いと思う」
「だよね〜♪」
「ちょっ!ハズいこと言うなよ!!お前らに羞恥心ってのはねーのかよ!!」
「幼少期に近所の川に逃がした。それ以来見てないなぁ…アイツ、元気にしてるかな?」
「羞恥心をペット感覚で語るな!!お前の羞恥心はメダカかオタマジャクシなのか!?」
やはり、有咲のツッコミは実家のような安心感がある。実家ではついついダラケてしまう様に、有咲の前ではついついボケてしまう。
「これが、世界の
「急に何言ってんだよ!?」
圧倒的安心感でした。
地味に、香澄が出てくるのって久しぶりな気がする。