パンを貪りしカップル   作:ああああ

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遥斗君は尊敬されたい

宇田川あこは狩凪遥斗よりも一つ年下だ。人生における後輩と言っても何ひとつ間違いではない。つまり、あこと遥斗は先輩後輩の関係なのだ。

 

――なのに、遥斗はまったく尊敬されてない。

 

あこからは『はっくん』と呼び親しまれている。そこに友愛はあっても、尊敬はない。昔から後輩は先輩を尊敬して敬意を払うものだ。だが、宇田川あこは人生の先輩に対して同等の友人だと考えているらしい。

 

「という事で、どうしたらあこに尊敬して貰えるのかで悩んでる。これは由々しき事態なんだよ。俺は部活動とはやってないから、仲のいい部活の後輩ってやつが存在しなかった。でも、あこは間違いなく『後輩』と称しても良い。そんな後輩に尊敬されたいんだよ」

 

「はっくん...それは本人に相談することじゃないよ?」

 

この男、考えるのが面倒臭いという理由から宇田川あこ当人に聞いているのだ。既にこの時点で尊敬できる点が一つも見当たらない。悩みは本物だが、それに割く時間と労力が勿体ないと感じているのだ。そのため、あこに直接聞きに来た。

 

「相変わらず面倒くさがりだね」

 

「効率的に事を済ませたいだけだよ。第三者に相談して変な知識とか植え付けられたら困るじゃん。モカとか日菜さんは笑いながらウソを刷り込んでくるし、ハロハピの三バカは論外だね。余裕で人外じみた事をさせようとしてくるから。その保護者である美咲は三バカの生贄になるという交換条件でしか相談に乗ってくれないし」

 

「...リサ姉とかは?」

 

「あ、リサさんに聞けば良かった。それじゃあ、リサさんに聞いてこようかな」

 

「手遅れだからね?この後あからさまに態度とか変えられても尊敬できないから。そもそも一歩目から致命的なミスだったんだよ」

 

「むむむ...俺はそれでもあこに尊敬されたい。具体的な理由は皆無だけど、尊敬されたいんだよ!!」

 

「だから尊敬出来ないんだよ!?」

 

理由は無い、それが遥斗の口から零れ落ちた表裏の無い本音だった。具体的な理由はないけど、アバウトな理由はある。何となく人から尊敬されたい。ただそれだけだ。尊敬されたい理由すら殆ど存在しないのに尊敬されたい。お金が欲しいけど働きたくないと同じ理論だ。総じてダメ人間だった。

 

「まあ...理由は置いといて、あこははっくんの何処を尊敬したら良いの?はい、自己PRの時間だよー!」

 

「えー...まあ、年上を敬うのは当然の義務だから?...まあ、自分でも尊敬する所を探すのは一年弱は掛かりそうだけど、そこはあこに何としてでも見つけて欲しい」

 

「一切の躊躇もない人任せ!?ほ、ほら!努力家な面...は無いけど!誰にでも優し...くもないけど!!何かしら良い所あるでしょ?」

 

「あれ、おかしいな...目から水が...」

 

遠回しの罵倒が飛んできた。悪意無き純粋な言葉なだけにダメージも特大だ。努力家じゃないのは怠惰に過ごしたいからだ。そもそも、何故か物事を見ただけで出来てしまうから努力の必要がないのも事実だが。優しくないのは他人に対してだ。身内にはそれなりに優しいと思う。万人に優しいのはつぐみとか香澄の役割だ。遥斗は身内と良い関係を築けるなら、他は割とどうでも良いタイプなのだ。

 

「うぅ〜、あこに虐められた!姉御に言い付けてやる!!」

 

「虐めてないよ!?真実を言っただけだもん!!そもそも、その『姉御』ってあこのおねーちゃんだよね?」

 

「モチのロンだよ。巴は俺の姉御だから...あ、この事は巴に言うなよ?言った場合――」

 

「お、脅すの?」

 

「次の日までにはこの世から狩凪遥斗という人物が消える。そして、山奥で撲殺死体として見つかることになるだろう。凶器は恐らく和太鼓の撥だな。指先から順に潰されていき、最後には身体中の骨という骨が砕けて死んでいる。だから命を助けると思って黙っててくださいお願いします」

 

「脅しじゃなくて懇願だった!?そんなに怖いなら『姉御』って呼ばなきゃいいじゃん!」

 

「嫌だ。俺は巴を己の姉御にするって決めたんだ!それに、既に巴の前以外では『姉御』って呼んで周ってるから。この町で巴が住民全員から『姉御』と呼び親しまれる日は近いだろう」

 

「やってる事はしょぼいのに範囲が広い!!もし本当にそんな日が来たら、それははっくんの命日になっちゃうね」

 

「ふっ、構わないよ」

 

勿論遥斗はそんなこと覚悟の上だ。例え自分が撲殺されても、第二第三の自分と同じ目標を持った同士が現れ、巴を『姉御』と呼び広めるだろう。自分の役目は種を蒔くことだ。これを育てて昇華させるのは後世の同士なのだ。遥斗は多くは求めない。ただ数十年後も数百年後も『宇田川巴』が人類の『姉御』であるという事が広まっていれば、それだけで十分なのだ。

 

「さあ、あこも巴を姉御って呼ぼうじゃないか!今!電話で!!」

 

「い、いま?」

 

あこは遥斗の押しに負けて姉へ電話をかける。くだらないとは思うが、姉の反応も見てみたいという好奇心も存在する。寧ろ、好奇心が心の大半を占めていた。

 

『もしもし?こんな時間に電話なんて珍しいな』

 

「ううん、大した用事じゃないよ。『姉御』」

 

『なっ!?あ、あこ?』

 

「うん?どうしたの、『姉御』」

 

『......あ、そういう事か。いいや、何でもないよ。取り敢えずその場に居る遥斗と代わってくれ』

 

「うん、分かった!はっくん、『姉御』がお話があるって」

 

「えっ...なんで近くに俺が居ること知ってんの?巴さん、シスコン過ぎて妹の情報でも分かるスキルとか身に付けたのか?」

 

そんな戯言を続ける遥斗にあこは苦笑いでスマホを渡す。あこは気付いてしまった。確かに姉は困惑していたが、次の瞬間には怒りと殺意の篭った声で遥斗に代わることを要求した。直接姉の声を聞いていない遥斗はそんな事を気づける訳もなく、素直に電話に出た。

 

「もしもし、巴?なんで俺があこの近くに居ることが...」

 

『おいゴラァ...妹に何吹き込んでるんだ?そんなに死にたいなら豚の餌にでもしてやろうか?ちょうどアタシもお前を殺したい気分なんだよ。殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺…どんな殺し方でもアタシは構わないぞ?好きなのを選ばせてやる今ならどれを選んでも拷問の末に殺すのは確定だけどな』

 

「あ、あの...ごめんなさ...」

 

『おいおい、謝って事を済まそうとか考えるなよ?やっぱり諦めは肝心なんだって、アタシは思うんだよ。世の中には二種類の間違いがある。取り返しのつく間違いと、取り返しのつかない間違い。お前のは後者だって事は言うまでもないよな?さあ、ギネスに載っちまうぐらい愉快な死体(オブジェ)にしてやるよ』

 

 

その後、あこのスマートフォンの充電が切れるまではずっと電話越しに土下座をし続けた。あこには二度と『姉御』だなんて呼ばないように釘をさし、ポテトチップやジェリービーンズなどを献上した。

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

「――ってことがあったんだよ」

 

遥斗は今日の出来事をモカに話す。どんなに恐怖しても、後になれば話の種ぐらいにはなる。だが、それは一時間前まで土下座をし続けていた男の態度では無いとモカは思ったりもした。

 

「一から十まで全部ハーくんが悪いよね?反省するべきだよ。そしてモカちゃんにパンを献上するべきだよ?」

 

「最後の一言の意味がわからん。巴とかあこにならまだしも、なんでモカに奢らないといけないんだよ。」

 

「愚問だね〜。パンを欲しがるのに理由なんて要らないのさ〜」

 

「一理ある。確かにパンを欲しがるのに理由はなんて要らないよな。世界中のパンは望むべき者の所へと届けられるべきだ。そして、俺は今やまぶきベーカリーのパンを爆食いしたい気分だ!何故なら先程までの土下座で疲れてるからだ!!」

 

「後半は自業自得だね」

 

そんなパン馬鹿達はパンを食べたいという欲望に抗える訳もなく、定番のジャンケンでやまぶきベーカリーへパンを買いに行く方を決めた。結果は遥斗の負けだった。三回連続勝利は叶わなかったらしい。

 

 

空腹の音が鳴り響く腹を抑えながら目的地へと向かった。今回はカレーパンや焼きそばパンなどを大量に買う事にする。何故ならハングリーだからだ。

 

「いらっしゃいませー。あ、遥斗君じゃない!」

 

「こんにちは、沙綾のお母さん」

 

店に出ていたのは山吹沙綾の母親だった。沙綾とは幼馴染なので、沙綾の母とも仲良くなった。余談だが、たまにパン試食とかして感想を言ったりもしている。

 

「今日もパンを大量買いに来たのね?どうせなら沙綾も貰って行かない?私は遥斗君にならお義母さんって呼ばれてもいいのよ?」

 

「そんな事より、体調は大丈夫なんですか?体が弱いんですし、あまり無理はしないでくださいね?」

 

「あー、ちょっと体調悪いかも。でも、遥斗君が沙綾と結婚してくれたら治るなー」

 

「元気そうですね。あ、今回はカレーパンと焼きそばパンを十個ずつお願いします」

 

沙綾母の戯言を無視し、買い物を進める。相手が此方をジト目で見てくるけど関係ない。毎回やってる流れなのだから。

 

「もー!うちの沙綾は優良物件なのよ?家事万能で優しいし、何より可愛い!!」

 

「あの、俺一応彼女いるんですけど?モカのことは誰よりも愛してますし、彼女を裏切れませんよ」

 

「だったらこころちゃんに頼んで一夫多妻制にして貰うわ!弦巻財閥って総理大臣に意見できる立場の人とかいるって言ってたわ!!」

 

「いや、普通に諦めてくださいよ。それに、沙綾の意見もちゃんと聞いてくださいね」

 

その言葉を残して遥斗は店を出た。恋人のいる人に『娘と結婚しろ』だなんて言うのはあそこぐらいだろう。遥斗はモカと別れる気は無いし、沙綾も自分とは結婚したいと思わないだろう。

 

「...はあ、鈍感なのね。遥斗君も沙綾も...」

 

 

沙綾母の声は遥斗には届かない呟きだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆

 

――とあるパン屋の母娘の会話。

 

「沙綾、好きな人とかいる?」

 

「急だね。まあ、今はいないけど」

 

「じゃあ遥斗君はどうかしら?昔からの付き合いだし、お母さんも遥斗君なら安心してお嫁に送り出せるわ」

 

「ちょっ、何言ってんの!?遥斗にはモカっていう恋人がいるんだよ?」

 

「そこはお母さんに良いアイデアがあるの!心が決まったら言ってちょうだい!!」

 

 

沙綾母の必殺技、『お願い弦巻家』が発動する日は来るのか――

 

 

 




朝起きたらアホ毛が発生してる。そんな寝癖に悩むお年頃なのです。

何を読みたいですか?

  • パン好きカップルのイチャイチャ
  • 混沌と書いてカオスと読む系の夢落ち
  • 幼き日の記憶(遥斗)
  • 意味もなく思い付いただけのバトル展開
  • それとも――ぜ・ん・ぶ♡
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