パンを貪りしカップル 作:ああああ
『milky』さん、『夕張抹茶メロン』さん、『Sui-Gyoza』さん、『レミレイ』さん、『鰯だよ』さん
評価ありがとうございます!!
「ふぇぇ...ここ何処なの...?」
さて、目の前には空色ヘアーの迷子が居る。不安と困惑に声を上げる少女は迷子に迷子を重ねてきた。この彼女は最早プロ迷子と称しても良いだろう。そんなプロ迷子の松原花音さんは定期的に狩凪遥斗の前に現れる。意識してでは無く、寧ろ逆だ。当の本人は普通に目的地へ向かって尚迷い、何故か遥斗へと辿り着く。
そんな花音を遥斗は毎回目的地まで案内するので、『迷子』と『案内係』としての逃れられない運命を行動で肯定している様だ。
「...またですか?なんかもう...外出自体が向いてないんじゃないですか?」
「あ、遥斗くん。私も出掛ける才能は無いなって思ってるよ?近所以外だと地図を見ても迷っちゃうから...」
「それは単純に地図の見方を理解してないだけでは?まあ、地図の見方が分からないなんてプロ迷子には必須スキルなんでしょうけど。花音さんの弱点は九割九分迷子になるのに外出への挑戦心だけは人一倍大きいことですね」
「ふぇ!?ぷ、プロ迷子ってなに...?」
「迷子を何重にも重ねた歴戦の猛者である迷子です。最早スマートフォンのナビ機能を使用しても道に迷える最高級の迷子に贈られる皮肉と意地悪を込めた称号なんですよ」
「そ、そんな不名誉な称号要らないよ!?」
この男、年上である花音を揶揄うことで癒されてるのだ。最近は巴に怒られたり、姉御に土下座したり、あこの美しき姉君に殺されかけたりしてたので疲れ等のフラストレーションが溜まりに溜まっているのだ。総じて遥斗の自業自得なのだが。つまり、癒されたいと思うのも必然だと自分に言い聞かせているのが現状だ。
「それで、今回の目的地は何処なんですか?」
「今日は友達から勧められた『猫カフェ』に向かってたんだよ。地図は貰ってきたんだけど...迷ったの......ね、不思議でしょう?」
「はい、不思議ですね。地図を見ても尚迷い続け、一向に成長の気配すら見せない花音さんの頭の中が不思議です。実はビジネス迷子だったりするんですか?」
「『プロ迷子』に続いて『ビジネス迷子』も出てきた...」
遥斗による『〇〇迷子シリーズ』が増え続ける。そうして花音はツッコミを放棄した。そもそも、ツッコミ自体が自分の役割ではないのだ。確かに流れにつられたり、遥斗の発言の衝撃のあまりに思わずツッコミを入れることは多々ある。だが、花音の本分はツッコミではなく常識人枠なのだ。毎回迷子になっている花音が常識人なのかは置いといて、少なくとも本人はそう思っているのだ。
「さてさて、じゃあ向かいますよ。ちゃんと着いてきてくださいね?」
「うん、ありがとう。私一人だと永遠に辿り着けないかもしれないから助かるよ......頑張って着いていくね」
「これでまた迷子になったら、もう次からは両手首を縛って行きますからね。周りから罪人の連行だと思われたく無いなら精々頑張ってくださいね」
「な、何としても着いていかなくちゃ...!!」
遥斗は本気だった。手を繋いで連れて行くという選択肢も無くはないが、これでも愛する相手がいる身だ。迂闊な事をして『浮気者』というレッテルを貼られたくはない。たとえ好意が無くとも、年頃の男女が手を繋ぐのは倫理的に問題があるのだ。
「花音さんは猫が好きなんですか?」
「う〜ん...好きではあるけど、大体の動物は猫と同じくらい好きだよ?犬も好きだし、兎も好きなの」
「まあ、花音さんの性格なら生き物に対して好き嫌いは言わなそうですしね。因みに、俺は圧倒的に犬好きですね。猫も好きですけど、やっぱり犬派なんです」
「あ、私はクラゲが好きだよ?結構頻繁に水族館に行ってクラゲを見てるんだ。この前はね、ミズクラゲとかタコクラゲを――」
松原花音によるクラゲ語りが始まった。一方の遥斗はクラゲについて全く興味が無いので適当に相槌で流してた。右耳からクラゲ知識が入ってきて、左耳から情報が逃げる。まるで授業中の教師の話の対処法だ。
その後、何とか目的地へ迷わずに辿り着いた。余談だが、今日最初に花音と出会った場所は目的地である猫カフェとは180°逆方向だった。
◆◆◆◆◆◆◆
「......寒い」
視界いっぱいに広がる白景色、呼吸するだけで肺が凍りそうになる寒さ――ここは『南極』だ。
「遥斗!すっごく真っ白だわ!!まさに南極だわね!!」
「こころ...帰りたい」
超ハイテンションの弦巻こころに対して、寒さにめっぽう弱い遥斗は帰宅を要求する。遥斗は自分が何故この場に居るのかを考えたが、答えは出てこなかった。自宅で怠惰を貪った挙句に寝落ちし、目が覚めたら南極の地へと移動していた。犯人は間違いなく弦巻こころだ。こんな非常識で遥斗の平穏を脅かすのは弦巻こころしかいないだろう。
「ねえ...なんで俺、南極に居るの?」
「私が『南極に行きたい!』って言ったら黒服の人達が遥斗を連れて来てくれたの!」
「それは『連れてきた』じゃ無くて『誘拐』って言うんだよ。不法侵入に誘拐って...どれだけ罪を重ねるんだよ。てか、やっぱり原因はお前だったか...それで、今回はどんな思い付きだ?俺を凍死させて弦巻家にアートとして飾ろうってか?それとも俺を雪だるまの中に入れて先に窒息死するか、それとも凍死するかを実験するのか?ははっ、とっても楽しそうだな」
遥斗は心底機嫌が悪かった。寒い所が苦手なのに南極へ連れてこられたこと、寝ている間に許可なく無理やり移動させられてたこと、この場にパンが存在しないこと...などの理由で機嫌が悪い。
「今回はとっっっても大きな雪だるまを作るのよ!!」
「そんな事よりも帰ろうよ。暖かい部屋で話に花を咲かせた方が余っ程有意義な時間を過ごせるよ。ほら、善は急げって言うじゃん。帰ることを善と呼んでいいかは分からないけど、取り敢えず急いで帰ろう」
「あら、遥斗は帰りたいの?」
「モチのロン。こころにしては珍しく話が通じるね。本物のこころかは疑わしいけど、帰れるなら構わないよ。さあ、帰ろう。今すぐ帰ろう。絶対に帰ろう」
「じゃあ帰りは泳いで帰りましょう!世の中には寒中水泳っていうのものがあるらしいの!」
「つまり死ねと?」
どうやらこころお嬢様はこの世から狩凪遥斗を消し去りたいらしい。遥斗は人外では無いので、南極で泳いだりなんかしたら心臓麻痺で確実に死ぬ。狩凪遥斗の身体は寒さに対する耐性が極端に低いのだ。ドラ○エで言えば、ヒャ○系の欄には『弱点』と表示されているだろう。
「ここから日本までどんだけ距離あると思ってんの?確実に着く前にくたばるから。努力とか根性でどうにかなるレベルでもない。常識的に考えれば分かるはずなんだけどなぁ...まあ、こころには理解できないか。取り敢えず、無理ってことだけ理解してくれ」
「ええ、理解したわ!」
「...本当に理解したのか?」
この少女の『理解した』は当てにならない。どうせ今回も斜め上の解釈をしているのだろう。噂によれば、彼女の通う花咲川女子学園では“花咲川の異空間”と呼ばれてるらしい。そんな彼女に常識を説いたって普通には理解しないだろう。
「この前、テレビでやってたの。『無理は言い訳。限界は越えるためにある』って!遥斗も限界を超えれば日本まで泳いで帰れるわ!!」
「何処の少年漫画風無理強いだよ。限界は越えられない壁だから限界なんだよ」
結局、この後はこころを言葉巧みに誘導し、何とか弦巻家の自家用ジェットで帰ることに成功した。
◆◆◆◆◆◆◆オマケ◆◆◆◆◆◆◆
『設定?』
・今作の主人公、狩凪遥斗はモカと同じ高校二年生である。
・沙綾は遥斗の幼馴染であり、小学校の時からの友人。
・モカと出逢ったのは中学三年生の時であり、付き合い始めたのは高校一年の時。
・遥斗の両親は海外で働いている。二~三年に一度は帰ってくるが、それ以外は某トークアプリで済ませる。
――とある迷子とパン好きの会話。
「ねえ、遥斗くん。なんで何時も送り迎えしてくれるの?遥斗くんって基本的に怠惰主義者だし、私の事なんか放っておきそうだなぁって思う...」
「特に意味なんて無いですよ?困ってるから助ける。小学校でも教えられる道徳心です」
「でも、それを実践できる人は多くないんだよ?...ふふっ、やっぱり遥斗くんって根は善人なんだね」
「その善人は毎回誰かかしらに殺されそうなんですけど?前回は巴で、今回はこころに凍死させられそうに...」
体が震えるのはきっと気の所為だ。決して恐怖心ではない。遥斗はそう自分に言い聞かせるのだった。
犬を撫でながらYouTubeで犬の動画を見る。ふっ、これが贅沢ってやつさ。
何を読みたいですか?
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パン好きカップルのイチャイチャ
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混沌と書いてカオスと読む系の夢落ち
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幼き日の記憶(遥斗)
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意味もなく思い付いただけのバトル展開
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それとも――ぜ・ん・ぶ♡