ARIA The PIACERE 1 その輝かしい船出を祝して   作:neo venetiatti

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第13話

「支店長、お電話です」

従業員が藍華のところへ小走りにやってきた。

藍華は、これからのスケジュールや自分のアイデアとして始めたイベントについて、あれやこれやと思案していた。

こんなときは決まって、エントランスの隅にあるテーブルと椅子のところに腰かけるのがパターンとなっていた。

「どうしたの?そんなに急いで」

「晃さんからです。お急ぎの様子で」

「晃さんから?わかった」

藍華はその従業員と一緒に事務所の方へと向かった。

マンホームの賓客一行のスケジュールが大きく変更になったことで、カンナレージョ支店もその対応に追われていた。

電磁波による問題は、予想以上に影響が大きく、おもてなしの中心となって対応していた姫屋は、全てのスケジュールで変更を余儀なくされていた。

そんな中で、晃からの急を要する電話に、藍華は落ち着かない気持ちのまま、受話器を手にしていた。

「もしもし、藍華です」

「忙しいところすまないな。そっちも大変だろ?」

「そうですけど、でもこっちに比べたら本店の方が相当大変じゃないですか?」

「まあな。確かに大変だ」

「ですよねぇ」

「それでなんだが、当初考えていたよりも人手が足りなくて、シングルも含めて支店からも応援を出してもらうことになりそうなんだ」

「そんなに大変な状況なんですか・・・えっ、今シングルもって言いました?」

「そうだ。実はそのことでトラゲットにも影響が出てきそうなんだ。街の交通の要ともいえるトラゲットを停滞させるわけにはいかないし、ちょっとした緊急事態といえるかもしれない」

ネオ・ヴェネチアを縦断する大運河を渡るための、渡し船の役割を果たしているトラゲットは、各水先案内会社に所属しているシングルたちによってまかなわれている。そのため、数的に多くを占める姫屋のシングルをトラゲットにまわせないとなると、影響は避けられないことが想像できた。

「さっき、アリシアとも話したんだが、出来るだけ影響がでないようにしようと言ったところなんだ」

藍華は晃の話をじっと聞いているしかなかった。

シングルによるおもてなしパーティー。

藍華のアイデアによるカンナレージョ支店の新たなる船出は、また終わりを告げようとしていた。

「なんで私ばっかり・・・」

「どうした、藍華?なんかあったか?」

「いえ、なんでもありません。ほんと、緊急事態ですね。こっちも全面的に協力します。任せておいてください!」

電話を切った藍華は、ぐっと目を閉じ、気持ちを押し殺して事務所を後にした。

 

灯里は急いでカウンター横の電話の受話器を取った。

「はい、ARIAカンパニーです」

「灯里さん?わたし、アマンダです」

「はい、灯里です」

「メッセージを残して頂いていたのに、お返事が遅れて申し訳なかったわね」

「いいえ、どうぞお気遣いなく」

灯里は、アマンダ婦人の宿泊先のホテルに、カンナレージョ支店のおもてなしパーティーのことで電話をかけていた。しかし、不在だったこともあって、ホテルにメッセージを残していた。

「それでどういったご用件かしら?」

「先日お話ししました、おもてなしパーティーの件です」

「そうだったわね。それでどうなったのかしら?」

「はい。やるつもりではいたんですが、どうもまたもや中止になりそうなんです」

「そうなの?それは残念ねぇ」

「藍華ちゃんもいいアイデアが浮かんだっていってたんですけど」

「その支店長さんね」

「はい」

「でもどうして、またそんなことになったの?」

「これはあまりお客様にお話しできることではないのですが・・・」

灯里はためらいつつも、事情を説明する必要があると思った。

「もうご存知だと思うのですが、現在ネオ・ヴェネチアにマンホームからの賓客の御一行様が来られています。でも問題が発生してしまって、予定通りマンホームに帰れなくなってしまったんです」

「そのようね」

「そのため、そのおもてなしの中心になっている姫屋が、とても大変な状況になってるようで。だからその支店のパーティーは、できるような状態じゃなくなってしまったんです」

「そうだったの。それは知らなかったわ」

「ご協力いただけるというお話しでしたが、どうもそれも叶わないかと・・・」

灯里は、アマンダ婦人の申し出に応えられなくて、申し訳ない気持ちでいた。

「申し訳ありません」

「何を言ってるの、灯里さん?あなたは何も悪くないわ。あるとしたら、それは私の方かもしれない」

「どういうことですか?」

「あなたのやさしさに甘えて、簡単に協力なんて申し出てしまって。あなたたちの大変さを何も理解してなかったのね」

「いえ、そんな・・・」

「それにね、ネオ・ヴェネチアのみなさんのご厚意にも気付けなかった。これは私たちにも問題があったといえるわ」

「えっと、それは一体どういうことでしょうか?」

「灯里さん、今まで黙っててごめんなさい。あなたが今話したマンホームからの賓客一行というのは、わたしたちのことなのよ」

「はひっ!」

灯里は電話の前で固まってしまった。

「今、私たちと言ったけれど、私自身は付け足しのようなものなんだけどね。ただ、これまでネオ・ヴェネチアの多くの方々に尽力していただいたことに、もっと気付くべきだったことは確かだわ」

灯里はどう返事していいかわからなかった。

「そういう意味では、私にも責任の一端はあると思うの。灯里さん、気付けなくてごめんなさいね」

「そんな・・・」

「アクアを発つまでに、まだ時間があると思うの。私に何ができるかわからないけど、力になれることがないか、考えてさせてもらえないかしら。こんなこと言える立場ではないとは思うのだけど・・・」

灯里はアマンダ婦人の申し出てを、そのまま聞いていいのか迷った。

自分がマンホーム一行に関係する人と、こんなふうに会話することになるとは思ってもみなかったからだった。

「正直申し上げて、私の一存では・・・」

「ううん、灯里さん、違うの。これは灯里さんと私との、個人的なお話しとして聞いてもらいたいの」

「個人的に、ですか」

「そう。そういうふうに受け取ってもらえるとうれしいわ。あなたの気持ちに応えたいだけなの」

灯里は、婦人との電話を切ったあと、しばらく海を眺めながら、これまでのことを頭の中で整理しようとしていた。

「アリア社長、どうしたらいいのかなぁ」

カウンターにのっそりと上がってきたアリア社長に話しかけてみた。

「ばいにゅーい!」

アリア社長の声は、まるで灯里の心をすべてわかっているかように、背中を押しているようだった。

「そうですね、アリア社長。ここで迷っていても仕方がないですよね」

「ばいぱばいぱぱーい!」

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