ARIA The PIACERE 1 その輝かしい船出を祝して   作:neo venetiatti

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第14話

カンナレージョ支店は、いつも以上に静かな空気が流れていた。

マンホーム一行の対応に追われることとなった姫屋は、この支店からも増員をかけていた。

姫屋のチーフ・ウンディーネである晃は、急遽、賓客一行に関するゴンドラ協会の対策窓口となって動いていたアリシアと調整を重ねていた。

他の水先案内会社の協力も得て、トラゲットについても問題なく運航することができていた。通常の観光案内についても、各社が上手く分担を引き受けてくれたこともあって、大きな支障が出ることもなかった。

ただ、思っていた以上に、途中から事がスムーズに動き出したことに、晃は変な違和感を感じていた。

そして気になることがもうひとつ、昨日のアリシアからの電話だった。

晃はその電話に関する事を聞きたくて、その話の中心に位置していると思われる人物に会うために、忙しい中、カンナレージョ支店にやって来ていた。

だが、いつもこの支店を騒がしくしているその人物の姿が見当たらなかった。

「なんか静かだと思ったんだが・・・」

忙しくエントランスを横切って行く従業員を呼び止めた。

「すまないが、藍華、どこにいるか知らないか?」

「支店長ならお客様と観光案内に行かれました」

「観光案内?ゴンドラで?」

「はい」

「つまり営業?」

「はい、そうです」

晃は呆気に取られていた。

「晃さんから言ってもらえませんか?支店長に表に出られたら、店の管理が大変なんです」

その従業員の言う通りだった。

「一体何を考えてるんだ?」

そうこうしているうちに、いつもの明るいチャキチャキの声が聞こえてきた。

「本日は、数ある水先案内店の中から姫屋をお選びいただき、まことにありがとうございました。お客様のご旅行が素晴らしい思い出になりますよう心からお祈り申し上げております」

お客様様を見送って、藍華は晴れやかな表情で店内に入ってきた。

「あれ、晃さん。どうしたんですか?」

晃は右手を腰に当てて、何やってんだと言いたげな姿で立っていた。

「藍華、おまえ、どういうつもりだ?」

「どういうって、ウンディーネとしてのお仕事をしてきたんですけど」

「そういうことを言ってるんじゃなくて」

「わかってますよ。晃さんの言いたいことぐらい。でも今はこうすることが、わたしにとって大事な時間なんです」

「大事なって・・・」

「実際、うちはプリマの数も本店に比べたら、うんと少ないわけですし、今のこの状況ではできる人がやれることをやるしかないと思うんです」

「藍華、おまえ・・・」

「どうしたんですか?」

晃は目を閉じると、少しうつむき加減で微笑んだ。

「いや、元気そうで良かった。実は少し心配してたんだ。いろんなことが続けて起こってただろう?こっちの支店の方は任せっきりになってたし」

「そうですね。確かに、落ち込むこともありました」

「やっぱりそうなのか?」

「そりゃあ、こうも立て続けにいろいろあると、さすがの私でもへこみます」

「そりゃあ、そうだよな」

「でも、みんなそれぞれ、自分のやるべきことをやっているんだろうなと思うと、なんかうつ向いている自分がバカみたいに思えてきて。〈何をやってるんだ、この藍華・S・グランチェスタ!〉ってね」

そう言って笑顔を見せる藍華に、晃は少し曇った表情になっていた。

「藍華、すまん。うまくフォローしてやれなくて」

「晃さん」

うつ向き加減で話す晃に、また自分が負担をかけてるんじゃないかと、藍華は少し情けなく思った。しかしその一方で、晃の心遣いにうれしい気持ちにもなっていた。

「晃さん、大丈夫です。今は自分のやるべきことを、しっかりやるだけです」

「確かにそうだな。藍華、おまえの言う通りだ」

藍華の明るい表情に、晃は逆に慰められているような気分になっていた。

「ところで晃さん、何か用があったんじゃないですか?」

「そうだ、それだ。忘れるところだった」

「なんか、つい最近も聞いたことあるようなセリフですけど・・・」

 

庭にあるバラのアーチが窓から見えるエントランスのテーブルを挟んで晃と藍華は座っていた。

「昨晩アリシアから電話があったんだが、マンホーム御一行から、姫屋の新しい支店の一周年のお祝いをしたいと言ってきたんだ」

「この支店のですか?」

「そうだ。だれか、知り合いでもいるのか?」

「いませんよ。知り合いなんて、ぜんぜん」

「だとすると、どういうことなんだろう・・・」

晃は腕を組んで、少し眉間にシワを寄せた。

「ただ、アリシアが言うには、賓客一行の中の、ある婦人グループからの申し出らしいんだ。だからなおさら、個人的な何か関係かと思ったんだが」

藍華も腕を組んで、「う~ん」と唸ってみた。

「そう言えば、アリシアからチラッと聞いたんだが、おもてなしパーティーとかなんとかっていうのを考えてるって」

「あぁ、それですか。考えてはいましたけど・・・」

「なんでアリシアが知っていて、この私が知らされていないんだ?」

「そ、それはですねぇ、もう少し具体的になったら、晃さんには言おうと思ってたんですけど・・・」

「けど?」

「ですけど、毎回早い段階でおわずけを食わされるというか・・・」

「おわずけってなんだ?」

「ですから、考えてたらマンホーム御一行様が来ることになり、また考えてたらマンホーム御一行様が今度は帰れなくなったって言うし」

「つまり、そのおもてなしパーティーをやろうと考えているとマンホーム御一行に関することが起こる、ということだな?」

「まあ、そういうことになります」

「だとしてもだなぁ、どうして賓客一行の中の人が、そのことを知っているんだ?」

「そうですよねぇ・・・」

「ただな、藍華。おまえには本当に悪いと思うんだが、そのおもてなしパーティー、本店サイドは手伝ってやれそうにないんだ」

「わかってますよ、晃さん。私だってそれくらい」

藍華は晴れやかな表情で応えた。

「元々はカンナレージョ地区の人たちと何か出来ればと思ってたぐらいのことですから」

そうはいっても、藍華は諦めかけていたおもてなしパーティーが、どういうかたちであれ、一周年記念の行事としてできそうなことに、嬉しさを隠しきれないでいた。

ただ、一方で状況はそう変わっているわけではないので、何が出来そうなのか、思案する必要があった。

「やっぱりあれで行くしかないか・・・」

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