ARIA The PIACERE 1 その輝かしい船出を祝して 作:neo venetiatti
「藍華ちゃん・・・?」
灯里は、またもやARIAカンパニーにやって来ては、せっせと店の手伝いを始める藍華に困惑していた。
だが、今回は前回と違い、鼻歌混じりでウキウキしていた。
「何?どうしたの?」
藍華は意外だと言わんばかりな顔だった。
「何って言われても・・・」
「灯里はいつもこうして、ひとりでがんばってるんだなぁと思ってね」
そう言って店内の拭き掃除を終えると、「よしっ」と納得したように呟いた。
「とりあえずこれでいいわね」
「ありがとう、藍華ちゃん・・・」
「何?朝から元気ないわねぇ」
「というか、どうしたの?こんな朝早くから」
「朝早いから来たのよ。私だって暇じゃないんだからね」
「そうだよね。だったら別に来てくれなくても、良かったんだけど」
「あら、灯里。冷たいこと言うのね」
「そういうわけじゃないんだけど・・・」
「冗談よ、冗談」
藍華はそう言って、話を続けた。
「朝起きたら、なんかすごい気分が良くてね。そしたら、灯里の顔が急に見たくなって」
「えっ、なにそれ、藍華ちゃん・・・」
灯里はちょっと頬を紅くして照れていた。
「あんたねぇ・・・」
藍華は呆れてものが言えないっていう仕草を見せた。
「藍華ちゃん、何かいいことあったの?」
「わかる?」
「そりゃあ、わかるよ。そんなにニコニコ顔でいたら」
「実はね、ずっと言ってたおもてなしパーティーの件、あれ、出来そうなのよ」
「えっ、そうなの?良かったねぇ~」
「そうなの。風向きが変わったと言うのかしら。私も急なことでビックリしてんだけどね」
藍華は、先日晃から聞いた、マンホーム一行からの申し出の話を灯里に説明した。
「アリシアさんから晃さんに連絡がきたらしいんだけど、姫屋の支店が一周年だということを、なぜか御一行様が知ってたらしいのよね。そんで、その中の人で協力したいって人が現れたってことらしいの」
「そうなんだ。いい人がいるもんだねぇ」
「なんかね、突然のトラブルにも、ゴンドラ協会や水先案内店が快く対応してくれたことに、とても感謝してるんだって」
「それって、いい話だねぇ。なんか、報われたというか、やっててよかったなぁと思えるよねぇ」
「そうねぇ。まあ、灯里んところは、スケジュール的にあんまり変わらなかったようだけどね」
「もう藍華ちゃん。またそれを言う~」
「ははは、ごめんごめん」
藍華は、笑いながらほっとした表情を浮かべていた。
すると、灯里が突然思い出したように声をあげた。
「そうだ!」
「何よ!突然いきなり!」
「ごめん、藍華ちゃん。でも大事な話を思い出したの」
「何?どんなこと?」
「以前に私がカンナレージョ地区の教会までお連れしたご婦人のこと、覚えてる?」
「ご主人が援助してた教会を見に行ったっていうご婦人のことでしょ?」
「アマンダさんていうお名前なんだけど、実はそのアマンダさん、マンホーム御一行様のおひとりだったの」
「そうなの?へぇ~そうだったんだ」
「そしたらね、忙しくておもてなしパーティーができなくなったってお伝えしたら、それは私たちにも責任の一端があるっておっしゃってて。やさしい方だよねぇ」
「そうねぇ。そんなふうに思って頂けるなんて・・・ん?」
「それでね、何か協力したいて言っていただいたんだけど、どう返事していいのか困ってたら」
「たら?」
「そんなに気を使わなくていいって。個人的に私の気持ちに応えたいっておっしゃっていただいて」
「それで灯里、あんたはどう返事したわけ?」
「まだ返事してないよ」
「なんで?」
「だって藍華ちゃんに相談してからじゃないとって思ってたから」
藍華は「はぁ~」と脱力感いっぱいのため息をついた。
「灯里、あんたはまだ気付いてないと思うけど、すでに個人的にどうのという話ではなくなってるような気がするの」
「ええ~、どういうこと?藍華ちゃん」
「一応念のために聞くけど、この話はアリシアさんにも伝わってるのよね?」
「話したよ。この前、久し振りに一緒に食事にいった時に」
「だとすると、話が大きくなるのも時間の問題ね」
「そうなの?」
「だってそうでしょ、灯里?あんたまだわからないの?アリシアさんから晃さんに来た話は、そのアマンダ婦人のことに決まってるじゃない!」
「ええ~!!」
「あんたが〈ええ~!!〉って驚いてることにビックリよ!」
「そんなぁ・・・」
「まあこれで、話が繋がったということね。なぜ急にこんな話になったのかが不思議だったもん」
藍華は腕を組んで、ようやく合点がいったという表情を浮かべた。
「でもね灯里。これはあんたのおかげよ。灯里がその教会へアマンダさんを案内してくれたことが、今に繋がってるのよ」
「そうかなぁ。でもそうだとしたらとてもうれしい。気持ちが伝わるって、しあわせなことだねぇ」
「それにしても灯里、あんたってほんと、不思議なところがあるよね」
「私って不思議なの?」
「まぁ、いろんな意味でなんだけどね」
「はぁ・・・」
「でも今回はつくずく思うの。人の縁て言うのかしらね、こういうの」
「それで藍華ちゃん、どういうことをやるの?」
「私も知りたいです、藍華先輩」
藍華は灯里とアリスの三人で久し振りにサン・マルコ広場で落ち合い、カフェ・フローリアン名物のカフェ・ラテを飲みながら、ひとときの時間を過ごしていた。
「実はね、やっぱりウンディーネに活躍してもらおうと思ってるの」
灯里とアリスは意外な表情でお互いの顔を見た。
「でも、プリマを集めての遊覧観光はむずかしいと言ってたと思いますが・・・」
「もちろんそれはわかってるわ。でも観光案内しかできないというわけではないと思うの」
「どういうことなの?」
「おそらく通常の営業のことも考えると、夕方ぐらいから始めることになると思うの。そうなると、そもそも観光案内は難しいでしょ?」
「確かにそうですね。ナイトクルーズという手もありますが、プリマの都合が難しいならなおさらですね」
「だけど、このネオ・ヴェネチアは水の都っていわれてるじゃない?せめてその雰囲気だけでも演出できないかなぁと思って」
藍華は、これからネオ・ヴェネチアで活躍するであろうシングルたちのよるおもてなしが、カンナレージョ支店には相応しいと考えていた。
そこで藍華が考えたアイデアが・・・
「トラゲット?」
灯里とアリスは、ふたり揃って声をあげた。
「ふたり驚くだろうなと思ったわ。でも、ほんとうにトラゲットをやろうと言ってるわけじゃないわよ」
「どういうこと?」
「トラゲットに使うゴンドラで、おもてなしをしようってことなの」
「つまり藍華先輩は、トラゲットのゴンドラをパーティーの会場に見立てて、おもてなしをしようと考えたわけですね?」
「後輩ちゃん、理解が早いわね。つまり、そういうことなの」
「そうか。藍華ちゃんはカンナレージョ支店には、これからのシングルが相応しいと思った。そして、このネオ・ヴェネチアでシングルと言えばトラゲット。だからトラゲットがいいと思ったんだ」
「なんか改めて他の人から聞くと、ちょっと照れ臭いけどね」
「ううん、素敵なアイデアだと思う」
「確かに今まで見たことも聞いたこともないアイデアですね。でも・・・」
「何?なんか変なことでもある、後輩ちゃん?」
「いえ、アイデアはいいと私も思うんですが、実際そのゴンドラはどこから調達するんですか?それに普段シングルだけで営業できてるからといって、そんなお仕事が可能なんでしょうか?」
「後輩ちゃん、あんたなかなか鋭いとこ突いてくるわねぇ」
「それに姫屋だけ特別扱いになるような気もしますし・・・」
「あ、あんた、それってオレンジぷらねっととしての発言なの?」
「ちょっと藍華ちゃん」
ふたりがまたもや言い合いになりそうになったところで、灯里が割って入った。
「そこんところは、一応考えてるわよ」
「どうするの、藍華ちゃん?」
「実は、今は使ってないトラゲット用のゴンドラが、姫屋の倉庫に予備として置いてあるの」
「そんなのがあるんですか?さすが老舗ですね」
「その辺はさすがに長くやってるからね」
「でも古そうですけど、大丈夫なんですか?」
「多分大丈夫だと思う。うちは、そういう管理に関してはしっかりしてるから」
「でも、なんかいいよねぇ。トラゲットのゴンドラでおもてなしができて、それがまたいつもとは違う風景となって、たくさんの人の笑顔が生まれてゆく。まるで、藍華ちゃんの新しい船出をお祝いしてるように、ネオ・ヴェネチアの女神が、これまで見たことない笑顔で微笑んでいるようだね」
「恥ずかしいセリフ禁止!」
「はひっ!」
「あんたねぇ、よくもまあそんな表現がみつかるものねぇ。感心するわ」
「でもまだ問題があります」
「アリスちゃん、どういうこと?」
「そもそも、トラゲット以外でそんなことが可能なんですか?許可って出るもんなんでしょうか?」
「そこも一応は、話を進めてるところなんだけど・・・」
「けど?」
「まだ本決まりではないのよねぇ」
「やっぱり心配ですね」
「藍華ちゃん」
「大丈夫。これだけはちゃんと実現したいの」
藍華は真剣なまなざしで、サン・マルコ広場を行き交う人々を見ていた。
「これまでいろいろなことがあったからこそ、なんとしてもやり遂げたい。それにこんないい機会、次あるかわからないでしょ?カンナレージョ支店の新たなる船出のためにもね」
「藍華ちゃん」
「藍華先輩」