ARIA The PIACERE 1 その輝かしい船出を祝して   作:neo venetiatti

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第16話

「おい、藍華!」

電話の向こうから晃の厳しい声が聞こえてきた。

カンナレージョ支店の事務所で、藍華は本店にいる晃からの電話を受けていた。

藍華が電話に出るや、第一声がそれだった。

その声を聞いた瞬間、とっさによくないことが起こったと心の隅で感じていた。

「どうしたんですか、晃さん」

「お前、ちゃんと確かめたのか?」

「何をですか?」

「ゴンドラのことだ!」

藍華はすぐには晃が言っていることの意味がわからなかった。だが、すぐに頭をフル回転させ、何を聞かれているのかの見当をつけることができた。

「もしかして、おもてなしパーティーの件でしょうか?」

「そうだ、そのことだ!」

「えっと、いつお知りになったんでしょうか?」

「お前なぁ、この前も言ったと思うけど、なんで私より先にアリシアの方が知ってるんだ?」

「アリシアさんがですか?」

「そうだ!」

藍華の脳裏にはすぐに灯里の顔が浮かんだ。

「なんですぐに喋っちゃうのかなぁ・・・」

「何?何が喋るって?」

「いえ、なんでもありません」

晃はいつもにもまして怒りが高まっているようだった。

でも藍華は、トラゲットのアイデアに対して、晃がそんなに怒ることでもないように感じていた。

「あの~、そんなに良くないアイデアだったでしょうか?」

「そういうことを言ってるんじゃない!藍華!確かめたのかって聞いてるんだ、ゴンドラを!」

「ゴンドラ・・・」

そこまで言われて、ハッとした藍華は表情を失っていった。

「ちゃんと管理課の倉庫までいって確かめたのかを聞いてるんだ!」

「いえ、そこまでは・・・」

藍華は、姫屋が保管しているトラゲット用のゴンドラを、以前聞いた記憶のままで、そのままあるもんだと考えていた。

「だって、貴重なものだから大事に保管してるって・・・」

「お前も知ってるだろう?支店を新設するにあたって、改めて全ての備品の見直しをするってこと。忘れたのか?」

確かにそうだった。

藍華自信は、支店に掛かりっきりだったため、実際には倉庫の整理には携わっていなかった。

だが、その時確かに大々的に見直しを図るという話だった。

「その時、古くなったゴンドラについても、よほど貴重なものでない限り処分したはずだ」

「そんなぁ・・・」

藍華は電話を切ると、すぐに支店を飛び出した。

姫屋の備品を保管している倉庫は、本店と同じ建物の中ともうひとつ、古くからの資料やゴンドラなどのスペースを必要とするものなどを保管する大型の倉庫があった。そこには今となっては水先案内業界全体にとっても貴重な資料などが納められていた。

藍華は激しく呼吸を繰り返しながら、倉庫の前に立っていた。

そこには晃と管理課の社員がすでに到着して、中に入っていた。

藍華は恐る恐る倉庫の中へと入っていった。

そこには、輝かしいウンディーネの歴史といえるゴンドラやオールが並んでいた。

今となっては、その優美な姿を実際に見た人も少なくなったであろう、グランマが使っていたゴンドラとオールも大事に保管されていた。

藍華は必死な表情で目的のゴンドラを探した。

だがそこには、トラゲット用のゴンドラの姿はなかった。

「なんで?なんでなんですか?」

「実は、備品の見直しを図るとき、展示練の改装も計画として上がってきまして。そのため多くの貴重なゴンドラなどを一旦こちらの大型の倉庫に移すことになったわけです」

「それで?それでここにあったトラゲット用のゴンドラはどこなの?」

「それについては、歴史的に貴重と思われたものはゴンドラ協会に寄贈され、古くなって修理が必要と判断されたものは、すべて処分となりました」

「処分・・・」

藍華は愕然となって、その場に膝まずいた。

「藍華、何も聞いてなかったのか?」

晃は、藍華の姿に、電話の時のような強い口調では声をかけられなかった。

「子供の頃からこの倉庫はよく来ていたから。いつも見慣れた風景だったから。だから、無くなるなんて思わなかった」

藍華は膝間付いたままうつむき、その場から動けないでいた。

「どうするつもりだ、藍華」

「今からゴンドラ協会に行って相談してみます」

「それより、今から変更はできないのか?どうしても必要なのか?」

「晃さんに事前に相談しなくて申し訳ありません。でもこれだけは、どうしても実現したかったんです」

「だがなあ、藍華。ゴンドラ協会へ行っても今からでは変わらないと思う」

「どうしてですか?行ってみないとわからないじゃないですか!」

「藍華、考えてみろ。トラゲットはネオ・ヴェネチアで暮らす人たちの生活の足だ。それは今日も明日もこれから先も変わらない。毎日必要とするものだ。それだけに決して余裕がある中でやっているわけじゃない」

「じゃあどうすればいいんですか!」

「藍華、落ち着け。少し冷静になってみろ。支店の新しい船出をカンナレージョの人たちと祝いたいというお前の気持ちは、尊いと思う。私だって上手く行けばいいと思っている」

「じゃあどうして・・・」

「いつもいつも上手くいくわけじゃないだろ?そんなときは、やれることをやるしかない。そのときに出来ることでベストを尽くす。お前自身も言ってたじゃないか」

「それって諦めろってことですか?」

「そこまで言ってるわけじゃないが・・・」

一時は中止も考えていたカンナレージョ支店一周年イベントだったが、おもてなしパーティーとして出来そうなところまで来ていた。それだけに、そのための一番の見せ場と考えていたトラゲットとシングルによるおもてなしだったのだが・・・

「とにかく私の不注意です」

「そう深刻になるな。イベント自体がやれなくなるわけじゃないだろ?」

「それはそうですが・・・」

藍華はまた振り出しに戻ったような気分だった。

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