ARIA The PIACERE 1 その輝かしい船出を祝して 作:neo venetiatti
ゴンドラ協会からの帰り道、藍華はぼんやりと運河の様子をながめていた。
たくさんの観光客や行き交うボート、そしてゴンドラたち。
観光客を乗せたゴンドラの上でオールをこぐウンディーネ達の姿が、藍華にはとても眩しかった。
憧れていたプリマ・ウンディーネとしての日々は、描いていたものからは、どんどん離れてゆくようだった。
プリマに昇格し、そしてカンナレージョ支店の若き支店長として就任。すんなり辿ってきた道のりとは言えなくとも、順風満帆といえる船出だった。
しかし、実際にゴンドラに乗る機会は減ってゆき、観光案内をする現場からは遠ざかり、雑用に追われる日々が続き、それでもやっと一年という記念すべき時を迎えようとしていた。
藍華は、ゴンドラ協会でこれまでの事情を説明した。
対応に当たった職員たちは、藍華の話に真剣に耳を傾け、何度も頷きながら聞いてくれた。
その上、マンホーム一行の中から、支店のパーティー開催に協力する申し出があったこともあり、ゴンドラ協会としてもできることがあれば、協力するとまで言ってくれていた。
だが、トラゲットのゴンドラの使用については難色を示した。
晃からの指摘があったように、実際に使用しているゴンドラは日々の営業に使用するものだけに、これについては藍華も十分に理解していた。
あとは、ゴンドラ協会が保有しているものを、特別に借りれるかどうかだった。
だが、少し冷静になってみたら、自分が何を言っているのか、藍華自身も気付き始めていた。
実際のところ、トラゲットのゴンドラが用意できていたとしても、シングルのウンディーネを使っておもてなしをするというアイデア自体に、許可が下りていたかどうかは不明だった。
なのにゴンドラまで貸してくれというのは、なんて図々しい話をしているのか。
時間が経つにつれ、藍華は自分でも呆れるくらいの話をしていると思った。
〈私って、何してんだろう・・・〉
「お嬢、どうしたんですか?」
聞きなれた、ざっくばらんな物言いで藍華の背中に声がかけられた。
振り返った藍華の前には、いつもの見慣れた顔が、ちょっと不思議そうな表情で立っていた。
「あゆみ、お疲れ様」
「はい、お疲れ様・・・って、元気ないですねぇ。なんかあったんすか?」
「うん、まぁ、そうね。あるようなないような・・・」
「なんすか、それ?」
「あゆみ、あんたは今日もトラゲットなの?」
「よくわかりますねぇ」
「だってあんた、こないだ自分で言ってたじゃない?」
「そうでした?ウチからトラゲットを取ったらなんにも残らないすからね」
「それでどうなの?トラゲットは」
「そりゃあ忙しいですよ。みんな早く来ないかと待ってくれてる状態です。今はちょっと落ち着いたところなんで、昼休憩をとってるところです」
「そうなんだ。トラゲットって楽しい?」
「ウチは楽しいですよ。地元密着でやってますから。他のシングルたちは知らないすけども」
「どういうこと?」
「プリマの手前で足踏みしてるシングルが多いっしょ?そういうウンディーネたちにとっては複雑な部分もあるみたいすよ」
「みたいすよって。あんた、ほんとにプリマになる気はないの?」
「ウチはこのままでいいです。というか、性に合ってると言った方がいいかもしれません」
「そうなんだぁ」
「ところで、お嬢の方は大丈夫なんですか?なんか運河なんか見ちゃって黄昏てましたけど」
「そうね。黄昏ることもあるわよね」
「藍華お嬢!」
「な、なに?いきなりでっかい声だして」
「ウチはお嬢のためなら協力は惜しみません。なんでも言ってください!ウチとお嬢の仲じゃないですか!」
「どんな仲なの?あんたと私って」
「水臭いこと言わないでくださいよ。お嬢がウチを拾ってくれたから、まだこの姫屋の制服を着れてるんですから。そうじゃなかったら、ウチは今頃どうなってるかわからなかったっすから」
「なんか話が、だんだん大袈裟になってるような・・・」
でも今の藍華にとっては、あゆみの気持ちがとてもうれしかった。
「わかったわ。それじゃあ早速お願いしてもいいかしら?」
「どうぞ、なんでも言ってください」
「それじゃあ、トラゲットに使うゴンドラを10隻ほど貸してくれる?」
「えっ?なんすか、それ!」