ARIA The PIACERE 1 その輝かしい船出を祝して   作:neo venetiatti

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第24話

藍華はカンナレージョ支店のホールで、支店を支えている従業員たちを目の前にしていた。

「そういうことだから」

「そういうことって、大丈夫なんすか?」

「あゆみ、親しき仲にも礼儀ありって言うでしょ?」

「言いますね」

「今さらだけど、その言葉遣い、なんとかんらないの?せめて、こういう場所くらいはさぁ」

「急に言われても無理っす」

「急じゃないわよ!結構言ってる筈よ!」

「そんなことより、お嬢、これからはそういう感じなんすね」

「もう、まったく。そういうことよ」

藍華は皆の前でこれからの方針を伝えた。プリマとして積極的に営業に出る、と。

「それじゃあ、会社の方はどうなるんですか?」

別の従業員が不安そうな顔で藍華にたずねた。

「もちろん、それもできるだけのことはやるわ。だけど、これだけはわかっていてほしいの。このカンナレージョ支店は、これからのお店でしょ?とにもかくにも頑張って、このカンナレージョ支店をひいきにしてもらわないと、どうしようもない。そのためには、できる限りのことをやっていこうと思うの」

「そのためにお嬢は、外に出て営業をやろうということっすね」

「そういうことね。だから、これからみんなには負担をかけることも増えてくると思う。でも、このお店はみんなで作ってゆくものなんだと私は考えてる。私ひとりでは、大したことはできない。みんなの力を貸して欲しいの」

藍華は真剣な眼差しで、みんなを見回した。

「何を言ってるんすか?」

あゆみが呆れたような顔で言った。

「えっ?どういうこと?」

「いまさら何を言ってるんですかって、言ってるんですよ、お嬢」

あゆみの返答に藍華は不安気な表情になっていた。

「お嬢がどんな性格なのかは、ここにいるみんなが、すでにわかっていることっすよ」

「じゃあみんな・・・」

「当たり前っしょ?お嬢は自信を持ってうちらに指示を出してくれたら、それでいいんですよ。船長みたいなもんです」

藍華の前に並んだ従業員全員が笑顔で藍華を見ていた。

「あゆみさんの言う通りです。確かに大変にはなるかもしれないけど、藍華さんが言ったように、みんなでこのお店をもり立てていけばいいだけです」

「そうです。なんとかなりますよ」

「この一年で見えてきたことも結構ありますし」

「そうなの?」

「藍華さん、言い出したら聞かない、とか」

「勢いでなんとかしようとする、とか」

「実は結構涙もろい、とか?」

みんな顔を見合わせて笑った。

藍華は、みんなからそんな反応が帰ってくるとは思ってなかった。

だから、以外であり、うれしかった。

「みんな、お嬢を信じてついていくだけです。だからお嬢は、前を向いてバシってやってくれたらそれでいいんすよ」

藍華は顔を少し歪めて、目に涙を浮かべていた。

「みんな、ありがとう。その気持ち、しっかり受け止めたわ。でも、そのバシってゆうのだけは正直わからないけど」

「お嬢、なんでそこだけなんすか?」

あゆみの残念な表情を尻目に、一同は笑いに包まれた。

 

藍華はサン・マルコ広場近くの船着き場にゴンドラを止めると、客を下ろした。

「本日はありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

頭を深々と下げ、その客たちを見送った。

頭を上げ、その後ろ姿が雑踏の中に消えるまで見送ると、「よし!」と気合いを入れ直した。

「これで一丁あがり!」

そう言ってゴンドラのところに戻りかけた時だった。

「あの~、ウンディーネさん」

「はい!」

藍華は反射的に応えていた。

振り替えるとそこには、老夫婦が立っていた。

「どうかされましたか?」

「すまないが、乗せて頂くことはできますかな?」

旦那さんの方が、申し訳なさそうにたずねてきた。

「あの、一応お聞きしますが、ご予約はされてますでしょうか?」

「予約?そうじゃなあ、予約はしたような、してないような・・・」

「ああ、なるほど、そうですか・・・」

藍華はどうしたもんかと考えていた。

「ちなみに、どこへ行かれるご予定ですか?」

「そりゃあんた、ネオ・ヴェネツィアに決まっとるがな」

「ね、ネオ・ヴェネツィア・・・そうですよね」

藍華はその返答に苦笑いするしかなかった。

「つまり、ネオ・ヴェネツィアに観光に来られた、ということですよね?」

「そりゃそうじゃ。他になにがあると言うんじゃ?」

藍華は、その旦那さんの返答に観念したように答えた。

「わかりました。それでは、これからネオ・ヴェネツィアをご案内させていただきます」

藍華の言葉に、その老夫婦は、二人してうれしそうに笑ってみせた。

「そうか。やっぱり言ってみるもんじゃのう」

「はぁ?」

藍華は呆れつつも、仕方ないといった表情でその夫婦をゴンドラに乗せた。

そして、並んで座った老夫婦の膝の上に毛布をかけた。

「ご親切にありがとうね」

奥さんは藍華に感謝のことばをかけた。

藍華はいつもの定位置に立って夫婦にたずねた。

「どこか行きたいところはございますか?」

「そうじゃなあ、わしはネオ・ヴェネツィアならどこでもいいが、あんた、どうする?」

旦那さんは隣の奥さんに顔を向けた。

「そうですねぇ、私もそのネオ・ヴェネツィアというんですか、そこならどこでもいいですよ」

「ということじゃ、ウンディーネさん」

「わかりました。それではネオ・ヴェネツィアの代表的な名所をご案内しようと思いますが、それでよろしいでしょうか?」

「ああ、それで結構じゃ」

「かしこまりました。それでは出発します」

藍華は桟橋をゆっくりと足で蹴って、ゴンドラを押し出した。

「ところで、少しお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「なんじゃろかな?」

「どういったきっかけで、このネオ・ヴェネツィアに来ようと思われたんでしょうか?」

「そりゃぁあんた、ここが素晴らしいところだと聞いとったからな」

「お知り合いから、ですか?」

「そうじゃ。古くからの付き合いのある人でな。アクアへ行くんだったら、是非行った方がいいと言っておったわけじゃ」

「じゃあお客様はマンホームから来られたんですか?」

「そうじゃ。マンホームじゃ」

宇宙空間を移動する技術が進歩したとは言え、老夫婦にとっては大変な旅だったのではないか。藍華は二人の背中をみて心配した。

「いつ到着されたんですか?」

「今朝じゃよ」

「えっ、今朝なんですか?それじゃあ、お疲れではないですか?」

「そうじゃなあ。でもあんたが乗っけてくれたから、大分と楽になったがな」

そう言って旦那さんは楽しそうに笑い声を上げた。

「それは良かったです」

「でもあなた、本来行くところがあったわよね?」

奥さんが旦那さんに話かけた。

「余計なことを言わんでいい」

旦那さんは、ちょっと怒ったように応えていた。

「あのぉ、聞こえてますけども・・・」

「しょうがないのう」

「何かあるんですか?」

「実はな、正直にいうと、道に迷ったんじゃ」

「ま、迷った・・・」

「そうじゃ。本当は予約はしとったんじゃ、他の店にな。でも初めてのネオ・ヴェネツィアじゃったから、道がわからなくなってしもうてな」

「そうだったんですか」

「別にだますつもりはなかったんじゃ。その店の人にも言ったんじゃ。少し道に不安があるんじゃとな。そしたらその人が、何かあったら誰でもいいからウンディーネに声を掛けたらいいと言ったんじゃ。なんとかしてくれるからとな」

「なんとかしてくれるって。いい加減なことを言う店ね」

「確か、あり、あり、なんじゃったかなぁ」

「あり、ありって・・・」

藍華は、ギクッとした。

「年を取ると忘れっぽくなるからいかんなあ」

「あのぉ、もしかしてそのお店、アリア」

「そう、アリア・・・なんとかいったな」

「カンパニー」

「そうじゃ!アリアカンパニーじゃ!」

藍華は思わずため息を漏らした。

「なるほどね」

「なんじゃ、あんた知っとるのか?」

「はい、よく知っております。嫌なくらい」

「なんじゃそうか!やっぱりなんじゃろうか、縁があったんじゃなあ、あんたとは」

「そうとも言えますでしょうか・・・」

「きっとそうに違いない!だって、考えてみれ。あんたみたいな人と出会ってなければ、今頃わしらどうなっていたかわからん」

「まあ、確かにそう考えればご縁があったと言えますね」

藍華はうれしそうに話す老夫婦の背中を見て、思わず笑顔になっていた。

「それでは、目的地がはっきりしたことでもありますし、今からARIAカンパニーへ向かいたいと思います。そこで本来、お客様に観光案内をするはずだったウンディーネに引き継ぎます」

藍華はそう言って、オールを動かし方向転換しようとした。

「ちょっと待ってくれんか、ウンディーネさん」

「どうかされましたでしょうか?」

「もし、あんたさえ良ければ、このまま観光案内を頼めないか?」

旦那さんはそう言うと、チラッと奥さんのほうに目を向けた。

奥さんは笑顔でコクっと頷いた。

「わしら夫婦は、あんたに案内をしてほしいんじゃ。駄目じゃろうか?」

藍華は後ろを見上げる夫婦の眼差しが心に響いて来るのがわかった。

「追加料金はどれくらいかのう?」

「い、いや、あの、そもそも料金はいただいてませんけど」

「そうじゃったか?」

旦那さんは豪快に笑い声をあげた。

その横で奥さんが、旦那さんを見て微笑んでいた。

「それではお客様、改めて姫屋のプリマ・ウンディーネであります、藍華・S・グランチェスタが観光案内を務めさせていただきます。お客様にとって思い出に残る旅になるよう、心を込めてご案内させていただきます。どうぞよろしくお願い致します」

藍華は、どこまでも澄んだ青空と、心地よく吹く風に、心が喜びで満たされてゆくような思いだった。

それは、このネオ・ヴェネツィアが起こした奇跡の出会いとしか言い様のないものだった・・・

「ん?どうかしたかのう、ウンディーネさん?」

「あ、いえ、わたし、今、変なことを考えてしまったもので・・・」

「変なこと?まあ、人生いろいろあるはな。ハハハハ」

「確かに、そうですね」

いつもよりゴンドラが滑るように水面をゆくようだった。

それはまさに、このネオ・ヴェネツィアの・・・

「ああ~」

奇跡のような、でもそれは、藍華がもたらした出会いに他ならなかった。

 

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